高校教師になったらToLoveるな毎日を過ごすことになりました。   作:くるぶし戦線

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0話 初めまして

「うわぁっ!?」

 

 朝の教室に、男子生徒の悲鳴が響く。ホームルームの連絡を聞いていたクラス中の視線が悲鳴をあげた彼、結城梨斗くんに集まる。

 「いてて……」

 結城くんが頭に手を当てながら地面に倒れている。どうやらバランスを崩して椅子から転げ落ちてしまったらしい。……ただ、椅子に座っていただけでバランスを崩すなんてことあるんだろうか。俺はこの教室に物理法則が通用しないという可能性に身を震わせる。

 

 「ゆ、結城くん……貴方……」

 1人の女子生徒がわなわなと震えながら、結城くんを指さす。黒髪の真面目そうな印象を受ける子だ。たしか風紀委員会に在籍していた気がする。

 

「……?うわっ!!?」

 そんな古手川さんの声に不思議そうに首をかしげていた結城くんだったが、何かに気付きすぐに体を起こす。

 

「ごごごごごめんっララ!!そ、そんなつもりじゃ…」

 ……そう、彼は前の席に座るピンクの髪の美少女、ララさんを巻き込んでこけていたのだ。ちょうど結城くんがララさんを押し倒すような形で……。そして彼の両手はしっかりとララさんの胸を鷲掴みにしている。俺は再び、物理ってなんだっけと言いたくなるような現象に恐怖し、この光景を朝のホームルームでやらかしてもいいのかと心配になる。

 

 慌てて起き上がり、手をぶんぶんと振りながら、おぼつかない口調で謝る結城くんを見つめるララさんが口を開き、息を吸い込むのが見えた。俺は続いて起こるであろう、悲鳴や罵声に身構えた。

 

 

 「あははっ!リトは相変わらずおっちょこちょいだねぇっ!!」

 

 だが俺の予想を裏切り、体を起こしたララさんはそう言って笑いながら結城くんに抱き付いた。

 

 「ちょっ、ララ!?」

 「ララさんっ!?」

 驚いて結城くんと風紀委員の…えっと古手川さんが声を上げるが、驚いているのは彼ら2人だけではない。クラス中の生徒たちが驚きの表情で抱きつくララさんと抱きつかれる結城くんを見ている。そして男子生徒達は驚きに加え、うらやましそうな目線を結城くんに送っている。

 

 「ゆ、結城くん!!朝からなんてハレンチな!!」

 なかなか結城くんから離れようとしないララさんに業を煮やしたのか、古手川さんは顔を真っ赤にしながら、結城くんを睨みつける。その眼にはただ非難するだけでなくやきもちも入っている……ような気がする。

 

 「ち、違うって!!これはララが……おいっララ!離れろって!!」

 慌てて半ば無理矢理にララさんを引きはがそうとする結城くん。だが、なかなかララさんは離れない。嬉しそうな表情で結城くんに抱き付いたままだ。その眼には結城くんしか映っていないかのようだ。それをみた男子生徒達からは怒りの野次が飛び、女子生徒達からはこの状況を楽しむかのような笑い声が起こる。

 

 なんだこのカオスな空間は……。俺は軽い眩暈を覚え、教卓に手をつき寄りかかる。駄目だ、このクラスを仕切れる気がしない。個性豊かすぎるだろ、この子達。新学期初日なのに全然緊張感がないよ……。親戚の集まりでももうちょっと神妙な空気が流れるよ……。

 

 「そろそろホームルーム再開したいんだけど……」 

 俺は胃の痛みを感じながらなんとか口を開く。

 

 「結城くん、ララさん、2人とも大丈夫?」

 そして教室の真ん中で愛を叫んでいるような感じの二人に声をかける。

 

 「だ、大丈夫です!すみませんっ」

 「ごめんなさい……先生」

 ララさんがやっとこっちの世界に戻ってきたのか、少し恥ずかしそうに頬を染めながら結城くんから離れる。クラスも少しづつ落ち着きを取り戻してきた。

 

 「まったく……もう」

 古手川さんも気が済んだのか腰を下ろす。……いや、君も結構騒いでたくない?

 

 「ふぅ……それじゃ改めて、ホームルームを再開します……えっと、どこまで話したっけ?」

 「えっと、先生の自己紹介まで…」

 目の前に座っていたおとなしそうな女子生徒に尋ねると可愛い声で返事が返ってきた。

 

 「そっか、ありがとね。それじゃあ、次の連絡を…」

 「先生、も一回自己紹介からやってほしいんだけど」

 目の前の女子生徒にお礼を言って、連絡を続けようとすると、後ろのほうに座る茶髪のギャルっぽい生徒、籾岡さんが声を上げた。

 「えと、別にかまわないけど…なんで?」

 「いや、さっきのことで先生の名前忘れちゃってさぁ」

 そう言って、きゃははと笑う籾岡さん。嘘……泣きそうなんだけど。

 

 「……み、みんなは覚えてくれたよね?先生の名前」

 籾岡さんの一言にショックを受けながら、ほかの生徒に恐る恐る尋ねる。

 

 「覚えてませーん」

 「俺も忘れましたー」

 「おひつじ座ってとこしか覚えてませーん」

 それ、一番どうでもいいとこぉ!!!俺は膝から崩れ落ちそうになる。嘘だろ……そんな印象が薄かったなんて……。

 「えっと……西連寺さんは先生の名前覚えてくれたよね……?」

 目の前に座る彼女ならばと最後の望みを託す。

 

 「……」

 

 「……嘘でしょ?西連寺さん?」

 西連寺さんは申し訳なさそうに俯いて俺と目を合わせようとしない。

 

 「……ちゃんと聞いてたんですけど…そのさっきの…結城くんとララさんの見たら…頭真っ白になっちゃって……ごめんなさい…」

 プルプルと震えながら、西連寺さんは俺に謝ってきた。その構図はまるで俺が西連寺さんをいじめているようにも見える。

 「ちょっと先生ぇ!うちの春菜いじめないでもらえます!?」

籾岡さんがそういって唇を尖らせる。いや、逆に俺がクラスからイジメられてるといっても過言じゃなくね?

 

 「ご、ごめん。そ、それじゃもう一回自己紹介するから……よく聞いてね」

 あれ、なんか俺の声も震えてない?

 

 「先生の名前は……後藤大輔です。えっとぉ……今年から」

 「あれ、先生もしかして泣いてる?」

 「い、いや泣いてな」

 「ちょっとぉ!男子やめたげなよぉ!先生困ってんじゃん!!」

 「いや…君がやめてもらえるかな。先生ほんとにイジメられてるみたいじゃん」

 「ごめん、先生…」

 「いや、お前もやめろやぁ!そのいじめっ子が先生に言われてイヤイヤ謝るみたいなの!ていうか先生俺だから!」

 「さ、ほら、ちゃんと聞いてるから…続けて?」

 

 「もういやぁ!!」

 

 こうして俺の教師生活初日はクラスのみんなのことがちょっとずつ嫌いになるという形で始まった。うん、なかなかいないねそんな先生。

 

 そもそもなぜ俺がこうして教師としてこの彩南高校に来ることになったのか。そもそもの始まりは俺が父と母の間に生まれたところから……すいません真面目にやります。

 

 話は二か月前にさかのぼることになる。


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