連載中のクロス小説程ガチガチな設定やプロットは無いので、軽い気持ちで呼んでくれればいいですよ。
最初に感じたのは全身を包む倦怠感だった。
次に身体の自由が効かないことを自覚した。
それもそうだろう。何せ、もう俺の身体は壊れてしまったのだから。
しかし不思議と痛みは感じなかった。それ程神経が麻痺していたのかもしれない。
それに身体は動かなくとも、五感の一部は僅かながら機能している。
でも視覚は……ダメだ……真っ暗闇だ。何にも見えない。
目を開ける程の力さえ……もう残っていない。
だけど音なら聞こえる。聴覚は僅かに残っているようだ。
相当騒がしい喧噪が聞こえてくる。
人のざわめきと……悲鳴と……そして──
──誰かの泣きじゃくる声が……。
「──くん!! キョウくん! 起きてよっ!! ねぇ! ねぇってばぁ!!」
俺の耳元で泣き叫び、必死に呼びかけてくる幼馴染の声。
すぐそばにいるのが声だけで分かる。
──ああ、そうか……あの子は……無事だったんだな……。
彼女の声を聞いたことで安心してしまったからだろうか。意識が更に遠のいてしまうのを感じる。
「──やだよぉ! ねぇ──ョウく──っ! こんな──だよ──っ──くん──っ!!」
彼女の声がどんどんと小さくなっていってしまう。
いや、俺の耳が遠くなっていってるんだろう。
そろそろ限界……なんだろうな……。
いや、なに、頑張った方じゃんか、俺。
よく最期の最期にあの子の命を守ってやれたよ。
それだけでも万々歳じゃないか、俺。
でも……。
でも……っ。
もう少し……あの子と……穂乃果と一緒にいたかったなぁ……。
「……ほ……の……」
「っ!? キョ──」
しかし最期の声が彼女の名を言い終える前に……俺の意識は深い闇の中へと沈んでいってしまった。
享年16歳。
非常に短い人生でありながらも、幼馴染をトラックから庇うという、何とも在り来たりでカッコいい最期を迎えたわけだ。
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「……んん……」
カーテンから僅かに漏れる太陽の光に当てられ、私は重い瞼を擦りながらゆっくりとベッドから起き上がる。
でも、新しい朝を迎えたというのに、私の心は酷く沈んでいた。
「(嫌な夢見ちゃったなぁ……)」
ほんの二週間ちょっと前に起こった壮絶な経験、それを今再び夢で体験してしまった。
私の大切な幼馴染が……私を庇って……そのまま……そのまま死んで……っ。
……そんな悪夢を再び味わって何とも思わないほど、私はふてぶてしくない。あんな夢を見なくたって、私は彼を──キョウくんを忘れたことは一度だってないから……っ。
「……キョウくん」
ベッドの上で膝を抱え込み、顔を伏せながら彼の名を弱々しく呼んでしまう。
「どうしていなくなっちゃうの……」
高校二年への進級を目前にした三月の中頃、私は幼馴染のことりちゃんと海未ちゃんと、それと子どもの頃から中学までずっと一緒だった幼馴染のキョウくんと共に街へ遊びに出かけていたの。
あ、キョウくんっていうのは
そのくらいに、私と彼の共にいた時間は強く、そして重い。
だけど私たちは音ノ木坂学院という女子校へ進学したから、キョウくんとは離れ離れになってしまい、会う機会もめっきり減ってしまった。だから、そんな風にまた四人で一緒に遊びに出かけられたのがとても嬉しかったの。
──ホント……とても嬉しかった……のに……っ。
ことりちゃんと海未ちゃんが別行動で分かれていた時の事だった。私とキョウくんは、二人が戻ってくるまで近くの広場で待ってようと、すぐ目の前の公園を目指したはずなの。
でもその時だった。突如として私たちの横から、トラックが滅茶苦茶な走行をしながら迫ってきたの。これは後になって知ったことだけど、どうやらトラックは走行中に棘みたいなものを踏んで、タイヤがパンクしてしまったらしい。それで制御を失って、あんな滅茶苦茶な動きで私たちに迫っていたみたい。
そんなトラックを見て道路から離れる歩行者たち。もちろん私たちも急いで離れたよ。だって、あんな危ないところにいられるはずないもんっ。だけど、急なパンクと暴走でパニックを起こした運転手は、あろうことかハンドルをきりながら急ブレーキをかけてしまった。
その瞬間、まるで映画のワンシーン宛らの回転を起こしてトラックは転倒し、そのまま猛烈な勢いで歩道に──私の方に迫ってきた。
──ダメっ、間に合わない……っ。
トラックの迫ってくるあまりのスピードに、私は本能でそう感じてしまった。巨大な物体が自分を踏み潰さんとする瞬間は、今思い出すだけでも冷汗が止まらない。そのあまりの恐怖で、私は身動きがとることが出来なかった。
だけど……彼は……キョウくんは違った。もう完全にダメだと思った私を、彼は全身全霊をもって突き飛ばしてくれた。
結果として私は助かった。見ての通り、後遺症一つ残らない綺麗な身体のままだ。
でもその代償は……とてつもなく大きなものだった。
私を突き飛ばした瞬間、私の目の前でトラックに巻き込まれるキョウくん。
その瞬間、頭の中が真っ白になった。
──ぇ……嘘……何? 何が起こったの……?
もはや目の前の現実から目を背けるので精一杯だった。キョウくんがトラックに巻き込まれた……私を庇って……私のせいで……キョウくんが死んでしまう……? そんな恐怖心で心が潰されそうになるけど、それでも私は彼を見つけるべく、震える身体に鞭を打って彼を探しにいった。
だけどそこに待っていたのは…………親友の死という最悪の結末だった。
その後のことはよく覚えていない。警察とかから色々聞かれたけど、何を言ったかさえ覚えていない。ことりちゃんと海未ちゃんも、普段からは想像もつかないほど取り乱して泣いていたような気がするけど、その記憶も定かではない。それ程までに、私の心は疲弊していたんだと思う。周りの風景をまともに捉えることが出来ないほど、心が病んでしまっていたんだと思う。
だけどただ一つ言えるのは、私のせいで心から大切に思っていた幼馴染を……失ってしまったという事。
それだけ分かれば十分だった。
「……そうだ……今日から新学期だった……」
軽く息を吐きながら、私はベッドからゆっくり立ちあがる。そうだよ、私たちは今日から二年生だもん。これから新しい学園生活が始まるのだから、いつまでもくよくよなんてしてられないっ……なんて内心意気込んでみたけど……やっぱ無理だよぉ……。
結局あの事故の後、彼の死をまともに受け入れることが出来たのは彼の葬式の後になってからだった。棺の中で辛うじて五体が残った彼の遺体を再度目の当たりにし、彼の両親が火葬場から遺骨を持ってきたのを見て、ようやく彼が死んだことを受け入れた……受け入れるしかなかった。あんなにしつこく……周囲から「死」を強調されたら……そう思わないといけないよ……っ! それに……私と同じかそれ以上に悲しんでいる彼の家族、そして海未ちゃんを見て、自分がこのままではいけないと自覚したのも原因かな?
とにかく、今の私はもうキョウくんの死に振り回されることは無くなっていた……はずだった。だけど、またあんな夢を見てしまって、彼を想うな、だなんて……そんなの無理決まってるよぉ……。
「……」
私は無言のまま、自分の部屋を眺め渡す。机や壁には、みんなで撮った写真があちこちに飾られている。その中にはもちろん、キョウくんの写真もいっぱいある。彼の笑顔を見てると、また胸が押しつぶされそうになり、苦しくなる。
きっと彼が今も生きていたら、こんな変わらない笑顔を私に見せてくれてたのかな?
今でも偶にだけど、ふとした拍子で彼が現れてしまうような錯覚がしてしまう。
「よーっす、穂乃果。元気かー?」
なんて言ってね。
……なんか今、すごく鮮明に彼の声が聞こえたけど、きっと気のせいだよね。
でも、何だかんだ言ってキョウくんだもん。本当に現れたって不思議じゃない。
ほら、今みたいに私のベッドの上で浮いて……いた……り──
「……………………え?」
「……………………ぇ、え~っと…………」
「……」
「…………よっ、ほの……か……?」
人の形を保った
「……」
「……」
一瞬の沈黙。そして──
「「ええええええええええぇぇぇぇぇぇえっ!!?」」
遂におかしくなってしまったのかな……?
私の目の前には、死んだはずのキョウくんが……キョウくんが……っ。
「……えっと……俺のコレってもしかして……幽霊……ってやつ?」
軽く笑みを浮かべながら私の部屋の中で浮いていたのだっ!
「うっ、嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!?」
それは突如として訪れた非日常。だけどこれは神様がくれた一つの奇跡。そして最後のチャンスでもあった。
神様がくれたこの奇跡を、私たちは精一杯、力の限り走り抜けていくことになる。
これは私と彼が駆け抜けていく、たった一年間の青春の物語。
私たちのキセキは、今まさに始まったばかりだった。
何気にクロスオーバーしない初めてのラブライブ!小説だったりします。
次回もすぐに投稿しますので、少々お待ちください。