穂乃果の背後霊になっちゃった!?   作:春巻(生)

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遅くなりました。約二ヶ月ぶりの更新になります。
それではどうぞ。


第5話 世にもスピリチュアルな邂逅

「ようやく話すことができるね」

 

『仕方ないでしょ……』

 

 本来ならこのように俺に声をかけてくるのは、穂乃果以外にはありえない。何せ俺の姿が見えるのも、声が聞こえるのも、穂乃果以外にいないのだから。しかしその穂乃果本人は今、俺の横で、その“声の主”と向き合っている状態である。

 ではこの声の持ち主は誰か? その声は穂乃果とはまた違った、聖母のような柔らかいボイスだった。そしてその声の持ち主……それこそ、俺達が数日前に出会った、唯一の"例外"であった。

 

『まさかここにいるとは思わなかったんですよ……副会長さん』

 

 長い髪を後ろで二つに括り、可愛らしいたれ目で半月を作りながらほほ笑む一人の少女。健康的で官能的な唇がそそられるが、何より無駄に強調されている女子高生らしからぬその豊満な胸につい目が行ってしまう。全く、はしたないものである。

 

 この人は東條(とうじょう) (のぞみ)。この音ノ木坂学院の3年生で、副会長を務めている人である。

 そして何よりも、俺達が以前神田明神で出くわした、俺の姿を見た巫女さんその人なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そもそも、何故俺達が彼女の前に姿を現すことになったのか。

 それは今日の朝──音ノ木坂学院の入学式まで時間を遡らなくてはならない。

 

 桜の花びらが煌びやかに舞う透き通るような青空のもと、ここ国立音ノ木坂学院では新入生の入学式が行われていた。新たな学園生活への期待に満ち溢れた後輩たちを歓迎すべく、穂乃果を含めた全校生徒は音ノ木坂の講堂に集まり、彼らの入学式を見守っていた。

 もちろん俺も穂乃果の背後霊なわけで、つまり不本意ながら他校の入学式に出席せざるを得ないわけである。周りに座る席も立つスペースも無いため、手足を放り投げて退屈そうに彼女の上空でふわふわ浮いていたのだ。

 

 しかし進行が生徒会長の挨拶へと移行した時、俺は彼女と共に舞台へと上がった人の顔を見て、思わず声を上げてしまった。

 

『っ、穂乃果、アレっ!』

 

「っ!? (この間の巫女さん!?)」

 

 新入生への歓迎の挨拶を述べる生徒会長の横には、数日前に神田明神で出会ったあの巫女さんと、全く同じ顔を持つ少女が立っていたのだ。いや、間違いなくあれは件の巫女さんであった。あの時、穂乃果の横に浮く俺の姿を看破したその人なのだ。

 

「穂乃果?」

 

「どうかしたの? 穂乃果ちゃん」

 

「えっ? ぁ、い、いやぁ、何でもないよっ? あ、あははぁ……」

 

 声すら出さなかったものの、その挙動を奇妙に感じた二人に怪しまれる穂乃果。なんだか最近ずっとこんな感じで誤魔化しての毎日で、そろそろ頭の方を心配され無いかと危惧している俺である。

 取り敢えず巫女さん──いや、ここでは副会長か──副会長に気づいた俺はゆっくりと降下して穂乃果の背中に隠れるように貼りつく(流石に触れてはいないが)。恐らく照明に照らされた舞台の上からはこちらの姿は見えないだろうが、一応念のために……な。

 

『この学校の副会長だったのかあの人……つーかよ、穂乃果お前……』

 

「(ぁ、あははぁ……ごめん知らなくて)」

 

『はぁ……バカ……』

 

 そう穂乃果の耳元で呟きながら、俺は前の舞台で生徒会長に引き続きお祝いの言葉とこれからの行事などについて説明する副会長をじっと見やり、これからの事を考え始める。

 

 ──しかし幽霊の俺の姿が見える副会長……か。

 

『(……仕方無い)』

 

 その後無事入学式が終了し、短いホームルームも終え、皆が学校から帰ろうとした時、俺はことりと海未と共に帰ろうとする穂乃果を留まらせ、考慮の末出した決断を穂乃果に伝えた。

 

『こうなったら直接会いに行くぞ』

 

「ええっ!? いいの? また見つかっちゃうよっ?」

 

『どうせ学校にいる以上同じ事だろ。なんなら早いうちに会っておいた方がいいっしょ』

 

 というわけで善は急げだ。穂乃果は俺から支持を受けるがまま、どこか緊張した面立ちで生徒会室の前までやってきた。一度逃げてしまった手前(俺の指示の所為だが)、流石に会うのが戸惑われるのだろうか? 苦笑しながら「いなければいいんだけどなぁ」と呟く穂乃果。しかしホームルームも終わってから時間も経っているだろうし、流石に中に人はいるだろう。

 

「失礼します」

 

「? はい、どうぞ」

 

 そして穂乃果は意を決して扉をノックした。中から聞こえる声に若干の落胆の色を見せつつも、すぐに切り替えて扉を開ける。しかし中には意外にも人は少なく、机の上で作業をしていたであろう、細く綺麗な金髪をなびかせる生徒会長と、その隣に立つ件の副会長の二人だけであった。近くで見ると分かるけど、二人共たれ目なんだなぁ……ってそんな事はどうでもいいか。

 生徒会長は作業を進めていた手を止め、穂乃果にぴしゃりと締まった声で語り掛ける。隣の副会長はそんな穂乃果を非常に興味深そうに観察していた。やはり覚えているんだな、穂乃果の事を。

 

「何? 生徒会への要望なら──」

 

「あ、いえ、そうじゃなくて、副会長さんに用があって……」

 

「希に……?」

 

「ふぅ~ん……ウチに、かぁ……」

 

『(あ……分かってるなあの人)』

 

 ワザとらしく人差し指を口元につけて、頭に疑問符を浮かべるような素振りを見せる副会長。きっと何を言われるのか分かっているくせに、可愛らしくとぼける感じが宛ら狸のようにも見えてしまう。狸はそんなに色気無いし胸だってそんなに大きくねぇよチクショー……。

 だがこのまま彼女のペースに持っていかれるのは癪だ。そこで副会長から見えないよう廊下で待機していた俺も生徒会室へ入り、ようやく彼女の前に堂々と姿を現した。

 

 もちろん浮いた状態でな。

 

『やっほ』

 

「っ……」

 

 やはりというか、彼女は俺を認識できたようだ。流石にふわふわと浮遊する俺が姿を晒した時には、副会長も少なからず驚いた反応を見せてくれた。変に余裕を見せていた彼女を動揺させることが出来て、内心ちょっと満足しているところである。この時、僅かに見開かれたガラスのように透き通った瞳に、またもや吸い込まれそうになったのは内緒だ。

 そして俺は穂乃果の言葉に続くよう、副会長に告げる。

 

『今度は逃げないからさ』

 

「お願いします」

 

「……」

 

 じっと静かに俺と穂乃果を、その濁りの無い瞳で見つめる副会長。隣で穂乃果と副会長の様子を伺っている生徒会長には何が起こっているかまるで分かっていないだろう。

 

「……うん、分かった。ごめん絵里(えり)ち、少し抜けるね」

 

「……ええ、分かったわ」

 

 俺が見えるということの異常性を分かっているのか、無駄に事を荒げることなく静かに生徒会室を後にする副会長。そして大人しくそれについていく穂乃果と俺。

 うん、ちゃんと弁えてるよこの人。一々無駄な反応しないよこの人。こういう大人しいところは穂乃果にも是非見習ってほしいわ……って、超絶元気っ子な穂乃果には無理な話か。

 

「何か言った?」

 

『べっつに~』

 

「ふふっ、仲がいいんやね」

 

 っとと、思ってることが口に出てしまったか。そんな俺たちの様子にも聖母のような笑みを浮かべながらそう評してくれる副会長。以前は焦りでよく覚えていなかったが、俺はこの時ようやく彼女が関西弁を喋っているという事にはっきり気付いた。尤も、俺の知っている関西弁からは程遠い"似非"関西弁だったが。

 

「あ、あの……出来れば誰もいないところで……」

 

「なら屋上やね。じゃ、行こうか。お二人さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして今に至る、というわけだ。

 

「じゃあ、とりあえず自己紹介からやね。ウチは3年で生徒会副会長の東條希。よろしく」

 

「あ、えっと、2年の高坂穂乃果ですっ。よろしくお願いします」

 

『神茅響介です。えっと……享年16歳……でいいですかね? まぁ……お手柔らかにお願いしますね』

 

「ふふっ。うん、よろしくな」

 

 柔和な笑みで俺たちを包んでくれる副会長、もとい東條さん。話すのは今回が初めてだが、表立つ雰囲気に違わぬ穏やかそうな人でよかったと安心しているところだ。とりあえず仲良くなれそうなのはいい事だが、まずは彼女に訊ねておかねばならないことがある。

 

『それより……えっと、東條さん?』

 

「う~ん……別に名前で読んでくれてもええんよ? 響介君」

 

『え? そう、ですか……? じゃあ……希さん」

 

「うんっ、なぁに?」

 

 俺の名前呼びに対してあからさまに声のトーンを変え、可愛らしく返してくる東條さん──もとい希さん。嬉しそうに半月型に細める眼と、頬に浮かび上がるえくぼが可愛らしく、ついドキッと胸の奥が詰まるような感覚に襲われてしまう。

 

「キョウくん?」

 

『えっ? あ、いや。何でもないよ』

 

「?」

 

『それで、希さんは……その……見えるんですよね……? 俺とか……幽霊の類が』

 

「うんっ、見えるよ」

 

 何の躊躇いもなく彼女はそう返した。まず俺が彼女に聞いておきたかったこと、それは何故俺の姿が見えるかと言う事だ。霊感が強いという理由だろうが、聞くに越したことはないだろう。

 

「それって昔から見えていたんですか? 希先輩」

 

「まぁ、昔はもっとちゃんと見えてたかな?」

 

「え?」

 

『昔は、ってどういうことですか?』

 

 彼女の語る意味深なワードについ言葉を挟んでしまうが、希さんは可愛らしく首を傾げ、口元に人差し指を当てて苦笑いにも近い笑みを浮かべる。

 

「まあ、そう言う事はええやん。今こうしてはっきり見えてるわけやし」

 

「えっ、えぇっと……そうですねっ」

 

『……』

 

 そう告げる希さんの表情は、俺にはどこか寂しそうに見えた。あくまでも自分の過去について話そうとしない彼女が嫌に気になってしまうが、自分で語る気がない以上無理に聞き出すのも酷というものだろう。

 だからこそ、今回は言葉を飲む事にした。

 

「そうやっ。二人って確か、互いに触れることができるんよな?」

 

「うんっ、できるよ。キョウくん!」

 

『え? っうぉ!?』

 

 何の前振りもなく、穂乃果が俺に向かって右手のひらを突き出してきたのだ。このままでは彼女の熱いビンタを食らってしまうため、こちらも右手を開いて、穂乃果のそれと合わせるようにタッチする。

 

 その瞬間、パチンッと乾いた音が屋上に響いた。

 

『あっぶねぇな! せめて何か言えよっ!』

 

「ねっ? ちゃんと触れますよっ」

 

『聞けよ!』

 

 相変わらずマイペースな穂乃果は、俺と触れ合えることを誇らしげに、そして嬉しそうに希さんに話す。しかしそんな彼女のキラキラした笑顔を見てると、ちっぽけな怒りなんて吹っ飛んでいってしまう。何ていうか、やっぱズルいな。女の子って。

 

「音も聞こえるんやね。パチンッ、て」

 

『あ、音は他の人には聞こえないんです。やっぱり希さんみたいに見える人じゃないとダメみたいですね』

 

「ふ〜ん。そういうもんなんやなぁ……」

 

 音に関しては今回、穂乃果以外に俺が見える人──希さんがいて初めて実証できたんだけどな。とすると、他にも彼女によって何か分かることがあるかもしれない。俺がそこまで考えていた時、ちょうどタイミングよく希さんからこんな提案が届いた。

 

「じゃあやっぱり、ウチも触れるんかなぁ? 響介君を」

 

「触れますよっ。ねっ、キョウくん?」

 

『そう考えるのが普通かな』

 

 俺の姿が見え、俺と穂乃果のタッチの音が聞こえる希さんなら、きっと俺との接触も可能だろう。ここにいる全員が、半ば確信にも似た思いを抱いていた。

 

「えっと……じゃあ、失礼して……響介君」

 

『えっ? ぁぁ、は、はい……どうぞ』

 

 俺に触れようとする希さんの、遠慮気味で若干羞恥の混じった声色にまたもやドキッと胸が高まってしまう。

 

 そして俺は動揺しながらも、こちらに恐る恐る差し伸べてくる希さんの手を……掴もうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スカッ

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

『は?』

 

「嘘……」

 

 場の空気が一瞬にして固まる。

 

 希さんの手を掴もうとした俺の手は、彼女の手に触れることなく、そのまま空を切ったのだ。

 

 予想外の展開に一瞬呆気に取られる俺たち。

 

『も、もう一度。今度は希さんから』

 

「えっ? う、うん……」

 

 もしかすると気持ちの問題で触れられなかっただけかもしれない。もともと触れるには互いの気持ちが重要になるのだ。だから俺は今度は希さんに頼み、再度接触を試みた。

 

 しかし……。

 

「っ。ふっ、ぬっ……んん、ダメやわ。何度やっても触ることできんよ」

 

『なんで……?』

 

 彼女がいくら俺の手に触れようと腕をバタバタさせても、その手が俺に触れることはなかった。あまりの想定外の出来事に唖然としてしまう俺と穂乃果。

 しかし、希さんは何かに気づいたようで……。

 

「ねぇ。多分なんやけど……」

 

『何か分かったんですか?』

 

「多分ね。響介君って、元々穂乃果ちゃんの背後霊として存在してるんやろ? だから……」

 

『穂乃果以外には触れない……ってことですか?』

 

「うん。多分な」

 

 最後に自信なさげにそう答える希さん。しかし、恐らくその予想で間違えてはいないだろう。背後霊として存在するだけでも異常なのに、それが全く霊感を持たない穂乃果に見えているのだ。きっと今の穂乃果には、ただ霊感が強い以上の何かが作用しているんだろう。それこそ、幽霊が触れる、という異常事態が起きるほどに。

 

 だから希さんが幽霊に触れないのは普通なことなんだ。俺は自分でそう結論付けることにした。

 

「う〜ん……ちょっと残念かなぁ。幽霊に触れるなんて滅多にある経験じゃないから」

 

 そうおちゃらけて言う希さんの顔は、言葉で述べている以上に寂しそうな表情を浮かべていた……ように俺は見えた。

 

「でもっ、幽霊とお話しできるだけでも充分珍しいですよ。ねぇキョウくん?」

 

『うん。幽霊と話すなんて、希さんも初めての経験じゃないんですか?』

 

「ふふっ、そうやね。確かに幽霊とお話しできるなんて初めてや。ありがとうな、二人とも」

 

 同じく希さんが寂しそうに思えた穂乃果が慰めるように言葉をかけ、俺もそれに続いて同意の意を述べる。そして察しのいい希さんは、そんな俺たちの気遣いにすぐ気づき、笑ってそう返してくれた。

 彼女にもちょっと気を遣わせちゃったかな、これは。

 

「なあ、そろそろ行かんで大丈夫? 友達待たせてるんやろ?」

 

 希さんが急にそんな心配をし出したのも、この微妙な空気を何とかしたいと思ったからだろうか。まあ、最低限交えたい会話も終えたところだし、今日のところは彼女のご厚意に甘えさせてもらおう。

 

『そうだな。そろそろ二人とも待ち惚けてる頃だしな。な? 穂乃果』

 

「えっ? う、うん、そうだね」

 

 これ以上会話を長引かせても仕方ない。俺は穂乃果を引導してこの場後にしようとした。

 

「それじゃあ、私たちは行きますね。今日は話せてよかったです、希先輩」

 

『俺も、なんだかスッキリしましたよ』

 

 そして最後に挨拶を交えて去ろうとした時、俺たちの耳に希さんの縋るような呼びかけが届いた。

 

「ねぇっ」

 

「?」

 

「また……話せる……かなぁ?」

 

 遠慮しがちに、それでいてどこか怖がるようにそう訊ねてくる希さん。この時の俺には、彼女が何を恐れているのかは分からなかった。もしかして、また逃げられるとでも思ったりしたのだろうか。

 ま、そんな必要はもうないけどさ。

 

『もちろん。こちらこそお願いします、ってね。それではまたっ』

 

「また明日っ。希先輩っ」

 

「っ、うん。また明日……な」

 

 彼女の言葉を聞き届けてから、待たせていることりと海未の元へと急ぐため屋上を後にする俺たち。

 最後に見た希さんの顔は……安心しきったように穏やかなものであった。

 

 

 

 こうして希さんとの邂逅を無事終えた俺たち。

 

 とりあえず、彼女のおかげで一つの分かったことがある。

 

 それは、俺は穂乃果以外には触れることができない、ということ。

 

 ことりや海未、そしてきららにすら。

 

 この先ずっと……。

 

 そう思うと、胸の奥がツンとして、ふと泣きたくなってしまった。

 

「キョウくん」

 

『っ?』

 

 そんな時ふと右手に感じる、優しく、暖かく、心地良い感触。振り返れば、慈しみにも似た笑みを浮かべた穂乃果が俺の手を握っていた。

 

「大丈夫だよ。穂乃果がいるから」

 

 そんな彼女の言葉が暖かく、嬉しく、思わず笑みがこぼれてしまう。

 

『ありがとよ』

 

 照れを隠すように、そっぽを向きながら穂乃果に返す。それ以上、俺たちに言葉なんていらなかったから……。

 

 

 

 ────────────

 

 

 

 屋上から去っていく二人を、私は最後まで目で追い続けていた。

 

 ──まさか、自分から話しかけてくるなんて思わなかったなぁ……。

 

 最初に会った時が逃げられた時なので、その分余計に驚いてしまった。でも、それ以上に嬉しくもあった。

 

 私は小さい頃から霊感が強く、幽霊や霊獣などの類をよく目にしていた。だけどそんな私を周りの人間が理解してくれるはずもなく、みんなが私を見る目は冷たいものに変わっていった。だから私は、自分を守るためにも、そういうものを見ないようにした。人が自分から離れていくのが嫌で、だから必死に「幽霊なんて見えない」と自分に言い聞かせていた。

 そして結果として、今では幽霊の類はほとんど見えなくなっていた。だけど本当のところは、薄っすらとボヤけて見える程度には弱まっただけ、と言った方がいいかも。ともかく、それ故私は今後幽霊をはっきり見ることもないし、意識することもないと思っていた。

 

 だけど、そんな時だった。

 

 

 二人を……響介君と穂乃果ちゃんを見かけたのは。

 

 

 最初はただの背後霊が取り憑いているだけかと思った。背後霊が取り憑いた人間に語りかける、なんて光景は昔から何度も見ていたし、特に珍しいとも思わなかった。

 

 だけど彼女は……穂乃果ちゃんは、その背後霊と会話をしていたの。

 

 自分以外に幽霊が見える人がいたのも驚きだけど、それ以上に幽霊とお話しできるなんて、あまりにも規格外で、激しいショックを受けたのを昨日の事のように覚えている。

 

 だから、つい彼女たちに話しかけてしまった。結局逃げられちゃったんだけどね。

 

 でも、あの時ふと思ったの。

 

 あの二人とお話ししてみたい。

 

 あの子たちと……友達になってみたいって。

 

「でも、今はちょっと望みすぎかな?」

 

 一人零し、自分にそう言い聞かせる。今日は彼らに話しかけられただけでも充分に嬉しかった。だからそれ以上踏み込んで先に行こうとするのは、ちょっと贅沢に思えてしまった。

 

 私の過去も、今は知ってもらう必要はない。まだそこまでの関係じゃないし、あの二人には余計な心配をかけたくなかったから。

 

 でも……。

 

 

 

「また……明日」

 

 

 

 既に彼らには聞こえないであろうその言葉は、自分の中に深く溶け込んでいくようであった。




次回、例外は希だけに非ず……?

ご期待ください。
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