ダンガンロンパ ~命賭けのゲームと命賭けの殺人が起きる動機と理由~ 作:終焉大好き人間
プロローグ:超高校級の集合地
『うわ……流石、希望と言われるほどの学園だな……』
俺はこの巨大な学園を見て、圧倒されたような口調で独り言をつぶやく。
ここは希望ヶ峰学園と呼ばれる、『超高校級』と呼ばれる実力者たちを集め、そして更にその超高校級の実力を高めるための学園……つまり、素晴らしい人材しか入れない学園だ。
俺はその学園の目の前に突っ立っている。
本来俺はなんの実力も無く、ここにはまったくもって、縁の無い学校だとずっと思っていた。理由は簡単。俺は超高校級と呼ばれるほどの実力は持ち合わせていない。残念ながら。
おっと、俺としたことが自己紹介をするのを忘れていた。
俺の名前は『平田 凡之介(ひらた ぼんのすけ)』。
『超高校級の平凡』だ。
……響きが悪いが、確かに俺は超高校級の平凡だ。何をやっても平凡。
内申書はオール3。
テストの点数もせいぜい70点くらいで、特別敵視されたこともないし、軽蔑な目で見られたことすらない。飯だって普通に食べるし、好き嫌いとか特別無い。そう、本当に平凡だ。
きっと平凡過ぎたのがここに居る原因なのだが……ここ、希望ヶ峯学園の招待状がある時点でもはやここに居る事が間違いではないとの証明だろう。
とにかくだ!世の中には平凡も必須なのだろう!と言う親の発言に促されるまま、俺はここまで来てしまった。しかしもう後戻りはできない。俺はここで平凡の道を極めて、そして平凡のままで生きていくんだ。
……今思えば、この時点で俺の平凡は崩れ落ちていたのかもしれない。
希望ヶ峰学園の鉄格子を開け、足を踏み入れた瞬間にそれは起こった。
グラリ……
(あ、あれ?おかしいな、視界が、回っ……て……)
※※※※※
「…………………………………ウッ、……ン………………こ、こは……?」
目が覚めたのは薄暗い教室の中だった。明かりくらいつけろよなと思いながらも体を机から突っ伏していた状態から起きあがらせる。
「痛ててててててててて!」
きっと倒れてから長時間この体勢で寝ていたのだろう。背中が悲鳴を上げた。
せめて保健室に寝かせてくれよ……何で机……
そして起き上った途端、ある者が視界に入ってきた。
――時計だ――
その時計は短針が4時を指していた。
「えっと、俺がここに来たのが11時だから……5時間!?5時間もこの体勢で寝てたの!?俺!」
そりゃ背中痛くなるわと思いながら、次は俺が寝ていた机の下にあるものを発見した。
……手紙?
俺はすぐさまそれを拾い上げ、そして中身を開いた。
それはとても幼稚園児が書いたかのような字で、こう書かれていた。
『オマエラ、これから4時15分に入学式を始めます。今起きてしまった人は急いで体育館へ向かうよう、命令する!』
「マジかよ……てか字汚ッ!そしてこの字の汚さで命令口調なのが絶妙に腹立つ!」
そんな愚痴を言いながら手紙の後ろに書いてあった体育館への通路が示されている地図を見る。何故か無駄に綺麗だった。
(ピンポンパンポーン♪)
何とも人間の声みたいなお知らせの音楽が流れる。俺は反射的にビクッとしてしまったが、すぐに切り替えて放送に耳を傾ける事にした。
(オマエラ!今すぐに体育館へ集合しなさい!起きていない奴は今から叩き起こしにいっちゃうぞ!)
……ウゼェ……
と、とにかくだ。急いで体育館に向かわないと嫌な予感がするからさっさと行こう!
俺は慌てて教室を出て、手紙の裏に記された地図通りに手順よく進んでいく。気がつけばもう、体育館の入り口と思われる扉へ辿りついていた。
「ここを通れば……良いんだよな……」
恐る恐る扉の取っ手に手を掛け……そのまま開いた。
「う、お……眩しい!」
今までの廊下や教室は電気がついていなかったため、久しぶりに光を見たような気がした。
「おい、遅い」
「遅いですね。もう1秒もオーバーしていますよ」
「やっと来たのかよー遅いなぁ」
などと連続で聞こえる不満の声が、一斉に俺の心を貫いた。
「し、仕方がないだろ!ずっと気絶してたんだからよ!」
「それは皆も一緒です」
な、なんだってー!?
「あ、オイラも急に目眩がした後、教室の掃除道具のロッカーに目覚めましたよ」
「「「「「どんな目覚め方だよ!」」」」」
「い、良いじゃないっすか!どんな目覚め方しても!あ、オイラの名前は『森 彫刻(もり ちょうこく)』っす!『超高校級の彫刻師』っす!」
そう言ってきたのは、前髪をこれでもかと伸ばして目が殆ど見えていない身長の低い作業服姿の生徒だった。
「あ、中国人じゃないっすよ!れっきとした日本人だすからね!」
「どうでもいい情報ありがとう」
「もう既にオイラの扱いが酷いっす!」
コイツはきっとドジなのだろう。その証拠に視線を下におろせば腕や足などに彫刻等の傷らしき痕がいっぱいだった。
そしてお次はなんとも厳格そうな女子生徒が近づいてきた。制服姿で髪もキッチリ前髪パッツン。まさに真面目オーラが避けたくなるほどでて来ていた。
「どうも。『市晩 真寺芽(いちばん まじめ)』と申します。『超高校級の生徒会長』と言われていました。何卒、『問・題・の・無・い・よ・う』よろしくお願いします」
「ハ、ハイ……」
何故か『問題の無いよう』を強調してきた。俺をそんなに睨まないでくれ!たった1秒の差だろ……
「たった1秒の差。しかしそれが一億人の一秒を合計したら、どのくらいになるでしょうか?」
「聞こえてたの!?」
「だってまじめんはエスパーなんだもん!」
そう言って快活そうな印象を受ける少女がいきなり目の前に現れた。スカートの下にスパッツを履いており、短く切られた黒色の髪の毛とその快活そうな印象はまさしく『運動系』をイメージさせるものだった。しかし……
「『日向 小春(ひなた こはる)』!『超高校級の漫画家』です!」
「運動系じゃないのかよ!」
印象と全く違う事を言い渡されたので思わず突っ込んでしまった。
急に真寺芽が話に入り込んでくる。
「小春は幼稚園からの幼馴染です。幼稚園生のころから漫画家になると決めていました。私が尊敬する人物の一人です」
「こんなの尊敬してるの!?ホントに真面目なのかどうか気になってきたよ!」
「ちょっとキミー。人のートモダチを悪く言うのワー良くないヨー?」
そう言いながら俺に注意を促してきたのは金髪でイケメンの部類に入る少年。身長も高くノリが良さそうな雰囲気を醸し出していた。
「『ロドロフ・カリオ』でース!『超高校級の心理学者』でース!仲ヨクしましょうネー?」
「あ、ああ宜しく頼むよ」
「やれやれ、いつまでそんな長い自己紹介をしてるんだ。」
どうやら俺達の自己紹介はさっきから長いと思われていたらしい。
「ゴ、ゴメン」
「それに……俺達をここに閉じ込めた犯人が、お出ましのようだな」
イライラを表に出した人は視線を校長台の方へと目をやった。
…………何も、出てこない。
「あの、すみませ……」
「いいから黙って見ていろ。時計は15分を指しているんだ。放送までしてあんなことを言っているんだ。必ず来るに違いない……」
…………………………………………………………来ない
そう思ったとたん、体育館に設置されていた時計が一針ぶん、カチッと動いた。
その途端、校長台の下から……
……………校長台の下から、モノクロのような物体がビョンと跳ね出てきた。
「「「「「「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」」」」」」
「あれ~?インパクトないなぁ?超高校級のムードメーカー、太陽 登君なら盛り上げてくれると思ったのになぁ?うぷぷぷぷぷ」
「クマが喋ったああ!?」
ある一人の生徒が声を張り上げ驚く。逆に俺にとっては、こんな場面に出くわしてよく騒げたなと思った。
「って、よく考えたら普通か」
いや、驚いて頭がおかしくなったのか?喋らないから普通。
「おやおや?どうしてこんなに静かなのかな?もしかして皆、クマが喋ったことに怖気付いちゃった?残念だなあ……」
クマが静まり返った体育館の中で喋る。周りを見てみると、殆どの人が唖然としていた。ある三名を除くが。
「クマが喋ったっす!オイラこんな見事な彫刻初めて見たっす!」
「いや、にしても最近のロボットは勉強になりますね……喋る域までに進化したのでしょうか?それに動きが不自然じゃない……」
「すごーい!漫画の材料になりそう!メモしなくちゃ!」
……上から順に、彫刻、真寺芽、小春がこの見た目が可愛らしくない、不気味な白黒したクマを見ながら目を輝かせたりメモをとったりとしていた。
「こら!そこのキミ!僕は彫刻じゃないよ!」
「え、彫刻じゃなかったら……もしかして人形っすか!?」
「人形でもなーい!学園長だぞ!学園長!」
……コイツが……学園長?
俺は思わず声をあげる
「お、お前みたいな人形が学園長?」
「人形じゃなーい!モノクマ!モ・ノ・ク・マ!!やっと盛り上がってきて少し安心したよ」
「そ、そんなことはどうでもいいけど、ってかなんで学園長が人形なんだよ!信用できないじゃんそんなポンコツ!?」
そう言いながら俺は人形の腕をつかみ空中に振り回す。意外と重かった。
「ギャー!学園長に対する暴力は校則違反だよ!」
「うるさい!これ作った本人出せ本人!責任者呼んで来い!!」
しばらく振り回した後、そのクマロボットは急に静かになった。と、思うと次はウルト〇マンの様なピコン、ピコンという音が鳴りだした。
「……ん?もしかして壊れた?」
相変わらずピコン、ピコンとなったままのロボットは静まり返っている状態だ。
クソ、何なんだよコイツ……
「平田君!それ投げて!早く!!」
「え?あ、うん」
急に日向が投げてと言い、仕方が無く人形を投げる構えを取る。
更に壊れるんじゃないかなと思い、絶妙に重たい人形を体育館の天井に届くくらいまで投げた。
(ドッカーン!!)
「……は?」
一瞬、思考回路が停止する。しかしすぐに現実に引き戻された。
実感できない感覚が、非常識の感覚が、体を流れるようにして電流が走ったような感覚を覚えた。
「ば、爆発……した……」
俺はただ、そう話すことしかできなかった。
周りを見渡してみると、多分皆、俺と同じ顔をしているのだろう。
恐怖の顔を見合わせる者もいれば、唖然とした表情で停止している奴。俺を見た後、今はもう木っ端微塵に散りばめられた白と黒の破片を見る奴もいた。他にも目を輝かせている者などと、人様々な表情を作っているのが見られた。
しばらくの静寂の後、今度はスピーカーから爆発したアイツの声が聞こえてきた。
「うぷぷぷぷ……今回はこれくらいで許してあげるけど、今度同じようなことをやったらこれより酷いお仕置きをするからね……うぷぷぷぷ」
俺は恐怖と怒りに身を任せ、咄嗟に思いついたことを大声で放つ。
「オ、オマ、冗談じゃねえ!責任者出せよ!!訴えるぞホントに!!今から警察呼ぶからな!そこで待ってろ白黒人形!」
そう言って俺はポケットからスマホを取り出し、110と番号を撃つ。
トゥルルルル、トゥルルルル……ガチャ、
掛かった!
「も、もしもし警察……」
『……この電話番号は、現在使われておりません』
中から聞こえてきたのは、アイツ……モノクマの声だった。
「……一体……なんなんだよ…………」
そう言って俺はスピーカの方を向き、
『一体何なんだよ!お前は!!』
馬鹿デカイ体育館で、俺の声が反響した。
「うぷぷぷ……ボクは、この希望ヶ峰学園の学園長であり……」
『そして、この学園で起きた事件の、犯人だよ……うぷぷぷ……』
ひい……