あと新年明けましておめでとうございます
ファースト・フォリオ
もうずいぶん前のこと。胸に複雑な想いを抱えた青年が呟いた言葉を思い出す。
『世界はこんな筈じゃなかったことばかりだ』
あれから何年も経った今。
今更のようにその言葉を痛感させられる状況。
それでも足を止める理由にはならない。また、足を止める余裕もない。
自分の思惑が多くの人を哀しませようと。
そんな自分の前に、己の大切な人が、立ち塞がろうとも。
この足を、止める必要は、ない。
次元跳躍艦ヘルメス。
通常の航行船としての機能をほぼ失っている老朽艦。
その責務を解かれ海の底で朽ちるはずだったそのフネは今、古巣であるミッドチルダの洋上に浮かんでいる。
そしてそのフネの甲板には1つの人影があった。
その人…もとい高町なのはは甲板に座り空を見上げていた。
「蒼いね。ホント、ミッドチルダの空は青空が多いよね」
その言葉が返答を求めたものではないことが解っているのか彼女のデバイスと魔導書は黙したままだ。
「ねぇ、二人とも。…私はさ、悪い子かな?」
その質問に二人の従者は応える。
<善悪を問えば限りなく悪でしょう>
[どんな意図があってもこれから貴女が行うことは悪以外の何物でもないです]
「そっか………。じゃあさ、私は、間違ってるかな?」
<いいえ。正誤を問えば限りなく正しいでしょう>
[間違いかどうかなど結果を他者が見て導き出すものです。貴女が正しいと考える限り、それは間違ってはいない]
「そっか………。じゃあ最後に1つ。私はこれでいいと思うけど、貴方達は?」
<現実を見ればマスターの行為は結果が伴う確率がかなり低い愚かなものです。ですが私は貴方の為のデバイス。不利な主を支援する義務があります>
[レイジングハートの言う通り、貴女の行いはハイリスク・ローリターン。ですが貴女の願いを聞き届けるのが願望機の使命。この魔力尽きるまで我々は貴女と共にあります]
「ありがとう…。あぁ、貴方達みたいに私もしっかりしなきゃ」
「まぁお前が悩んで動けなくなった時は俺が責任をもってここまで連れて帰ってやるよ」
そう言いつつ後ろから来たのはリペル。未だよくわからない人柄ではあるが命の恩人でもあるので信頼している。
「まー、ボクが全部ちゃちゃっと片付けちゃって終わりだろけどねー!」
「忘れてはいけません、レヴィ。向こうには貴方のオリジナルがいるんですよ」
「まぁ雷刃と我のオリジナルは我らに任せるがよい。星光はお主の護衛よの」
いつの間にかマテリアルズも来ていた。これから戦いだというのにずいぶんと呑気なものだ。…もっとも、その陽気に心が和んだことは間違いないが。
「あらあら。勢揃いかしらね。これではパーティと間違われるわね」
「少なくともこれから管理局を襲撃する集団には見えないでしょ」
「このフネがアンノウン航行船舶と発覚するまでまだ時間はあるからね」
結局、ラネルとプレシア、ジェイルもやって来たために全員が甲板に揃った。
しばらく誰も何も言わずに凪いだ海を見ていた。そしてふと、思ったのが何故ここにいる人は管理局に歯向かおうとしているのかということ。この機会に訊いてみるのもいいかもしれない。
「あのさ…みんなはどうして今こうしているの?」
その問いにジェイルが答える。
「何も全員が共通の意識で動いているわけではないよ。各々理由があるさ。そうだね…私の場合は、単なる好奇心だね」
「好奇心?」
「そう、好奇心。裏切りを受けたかつての英雄がどうするのか、とかね」
「私は別に英雄なんかじゃ…。はぁ、じゃあリペル君は?」
「俺か。俺は元々管理局のモルモットだったからな。言い様によっては“復讐”だな」
「モルモットって…まさか実験動物ってこと…!?」
「まぁそれ以外無いだろうな」
「人体実験なんてとっくの昔に…」
「やめられなかったからここに俺が居るんだろうな。さっ、俺からは以上だ」
その、これ以上訊くなという姿勢に追及できなくなったので次に姉のラネルに訊くことにした。
「闘う理由なんて無いわよ。面白そうだから。以上!」
……マテリアルズに訊くことにした。
ディアーチェ曰く
「我のオリジナルと白黒つけたいから」
レヴィ曰く
「ボクのオリジナルと戦いたいから♪」
シュテル曰く
「私は貴女と一戦交えたかったのですがこんな状況ですからね。ここは1つ貴女を補佐して勝利してから改めて勝負を挑もうかと」
…………………………プレシアさんに訊いてみた。
「アリシアの件で少しね」
そう言えばプレシアさんが虚数空間に落ちた後どうなったのかまだ訊いてない。が
「おや、そろそろ作戦開始時刻だね。じゃあ君達、武運を」
そういって船内に戻るジェイルを筆頭にほとんどが持ち場に散っていった。これではプレシアの事も訊けない。なんだか色々とここの面子は抱えているようだ。(例外はあるが)
甲板には自分とシュテルしかいない。
「ナノハ、1ついいですか」
「うん。なにかな?」
「ナノハは自分の友達を撃てますか?」
「っ!」
知らず腰に提げた“モノ”をきつく握りしめる。
今の高町なのはは一般人とさして変わらない。体力的な面はともかく、リンカーコアの回復が間に合わなかったのだ。その為、今度の戦闘ではこの腰のモノに頼らなければならない。前のように戦闘が起こらない、なんてことはまずない。かつ高確率で知り合いに出くわす。そのときに相手を撃てるのか、とシュテルは尋ねているのだ。
「撃たなきゃ、いけないよね」
「はい。撃たなければあなたに勝利は訪れないでしょう」
今回の戦いの大きな目的は管理局に対する宣戦布告、ある人物の抹殺の2つだ。後者に関してはリペルが独自に動くらしく、その間敵に出来るだけ被害を与えることが自分の役割。何の因果か自分のよく知る人のほとんどがここにいる。果たしてそれが偶然なのか、敵の謀り事なのかは不明である。ただ先の人物が本部から出ることが今回くらいなので、ここを叩こうということらしい。
「……では。ナノハ」
「うん。いこうか。攻撃はお願いね」
<AMWの調整、終了。いつでもいけます>
レイジングハートの報告が終わると同時に進行方向にラインが現れる。
その先は慣れ親しんだ場所……そう、旧六課のあったあの海沿いの施設。この世に運命なんてモノはないと思っているが、どうしても何かの因果を感じずにはいられない。
「星光の殲滅者、出ます」
「高町なのは、行きます!」
飛びたち向かうは海の向こう………
ちょうどなのは達が空に舞い上がった頃、六課のオフィスの最上階に“彼”がいた。
「来るか……さぁ局員諸君!開演の刻は来たれり、此処に万雷の喝采を!ハッハッハッハッハッ!」
“彼”を見たことのある人間からすれば異常なことに、“彼”は陶酔した表情で高笑いしながら窓を見詰めていた………
型月ネタが混じったことはご愛嬌。