魔法少女リリカルなのは~星を統べる少女~   作:sT油

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戦闘………?




キラリ、キラリ、キラリ

と星が瞬くかのように眼下に煌めく魔力弾。どうやらもう戦闘が始まったらしい。少しその状況の推移の早さに疑念を持つが、保留にしておこう。

「シュテルちゃん、戦況はどう?」

「…想定外なことに最前線にレヴィと王のオリジナルがもう出張っています。当然ながら過去の貴女方のコピーであるマテリアルはオリジナルとの戦闘に苦戦することになります」

「もうフェイトちゃんとはやてちゃんが…!?」

「それだけではありません。後続にヴォルケンリッター、ナンバーズ。そして……あぁ、困りました。特務6課の面子は恐らく全員います」

管理局への奇襲。それがこの戦いのネックだったのだが、どうやら局は迎撃準備をしていたようだ。これでは奇襲どころではない。数で劣る自分達が圧倒的に不利である。打破する方法は無い訳ではないが…

「不味いですね、これは」

口ではそう言いつつもいつも通りの涼しげなシュテルの横顔を見て、決心する。

「シュテルちゃん。これからぶっつけ本番の新技試すって言ったら怒る?」

「はい」

「即答!?」

するとシュテルはクルリと顔をこちらに向け、私を見つめる眼に幾分かの真剣さを込めて口を開く。

「どうせ貴女のことです。体に反動が来るタイプの技なんでしょう」

「うぐ」

「そして自分の身を捨ててでも私達を助けようとするのでしょう」

「うぐぐ」

「それはとてもとても貴女らしい。そして貴女は不屈だ、いい意味でも悪い意味でも。こうと決めたことは曲げない、とてつもない頑固者です」

「うぐぐぐ」

流石は私のコピー、私のことをよくわかってる。

とそこでふっ、と視線を和らげシュテルは更に言葉を紡ぐ。

「ですから、どうか約束して下さい。必ず帰って来ると。どんな目にあっても、死なない限りはドクターが直します。…このことを守ると言うなら私はナノハの意思を尊重します」

それだけ言うとすぐにぷいっと顔を戻してしまった。

私は微笑んでその少し紅潮した頬をつつく。

「わかったよ、シュテルちゃん。ありがとね、心配してくれて」

すると理のマテリアルは更に頬を紅潮させる。

「の、後の闘う相手が死んでしまっては話になりませんので」

そんなシュテルの表情の変化を見ているのは楽しいが、そうもしていられない。

「じゃあシュテルちゃんはちょっと離れて対地砲撃をお願い」

「いいですが、貴女は?」

自分がこれから行うことを思うと、少し可笑しくなる。

「そうだね、うーん。魔法少女っぽいこと、かな?」

 

 

横目にシュテルが対地攻撃を開始したのを確認し、自分も準備に取り掛かる。局員もシュテルの攻撃によって私達の存在に気付いた頃だろう。

<マスター、私かアステルどちらでいきますか>

「そうだなぁ、うん。接近戦になるだろうから…アステル、お願い」

[御意に]

すると足元に見慣れない魔法陣が展開される。形だけならばミッドチルダ式と言えるが、その真円には一切の文字がなく、その内側にはベルカ式特有の六芒星。

「つまりさ、魔法に違いなんて昔はなかったんだよ。全てはコレ、“儀式用降霊魔法”だけだったんだ」

[古代ベルカ式に残るユニゾンシステム。その原型]

「さぁいくよ。レイジングハート、モードリリース」

<All right>

途端それまで展開していた飛行魔法の術式が消え、自由落下を始める自分の身体。風を切る音を聞きながら手を上に伸ばす。

「我が身、我が心、全て捧げよう。其の力、我に宿らせたまえ。されどこの不屈の心、無くすことなかれ………」

「アストライア………セット・アップ」

最後の句を告げ終えると同時に急速に遠ざかる身体の感触。しかし視界と意識は明瞭で、身体に纏うバリアジャケット、そして身体が変化していく様子がこと細かに解る。

白と青を基調としたデザインは無数の小さな小さな光を内包した漆黒になり、ところどころに赤の装飾がつく。自分の茶髪はサイドポニーが解かれ肩甲骨あたりまで降り、色は少し暗い蒼になった。

全体の色を表現すると“黒”だが、それに“闇”のようなネガティブさはなかった。

もう少し落ちれば戦闘空域のど真ん中だ。

『アステル、この体しばらく貸すよ。その代わり貴女の実力、ここで見せて』

「了解」

私の口から出た声は私の声色だが、口調が異なる。これは『星天の書』の管制人格、アストライアの声である。

このユニゾンシステムはデバイスの人格を擬似的にその主人に宿らせ、個体能力を上昇させるものである。その代償として主人は意識が肉体と乖離することになる。いわば身体を管制されるということ。俗に言う“憑依現象”や“降霊術”に近い。

何でも、『星天の書』が編まれた頃は古代ベルカ式の基本骨子が出始めた時期らしく、アストライア自身には近接戦闘の心得があるらしい。『夜天の書』なら書に記録されている魔法を行使するだけだが“願いを叶える”という行為に特化した『星天の書』にそんな機能はない。

落ちながら局員を殴り、蹴り、そして最後に“アレ”を局員の身体に叩き込む。

と、そこでアステルが突然目を閉じる。

『どうしたの?』

「……主よ、このまま戦うと貴女の身体を深刻な“反動”が襲いますが……」

『ううん、大丈夫だから気にしないでいいよ。あと私のこと、なのはって名前でいいよ?』

「ではナノハの言う通りに」

そして目を見開いた私/アステルの視界に映ったのは

「なのは………さん………?」

愛しい教え子の一人である、スバル・ナカジマの狼狽した顔だった。

 

 

 

私………スバル・ナカジマは頭があまり良くない。

それは学力的なことではない。私は、本質的に頭が悪い。つまりバカだ。

“バカスバル”と親友であるティアに言われるのもそのせいだ。

だから私は、さっき八神司令から命ぜられた命令を未だに理解していないし、今起こっていることも理解していない。

ティアなら何か解るのかも知れない。

けれど敵の襲撃から数分後、突然始まった予想外の方向からの砲撃への援護のために持ち場を離れた私の隣に、彼女がいるはずがない。

だから、私にはただ思ったことを口から溢すことしかできなかった。

「なのは………さん………?」

するとその“ついさっきまで高町なのはだった”人はなのはさんと同じ声で、けれどなのはさんらしさを全く感じさせない口調で言葉を返す。

「ナノハの…弟子、か」

まるで自分の内側で結論を出したような言い方、そして何より“ナノハ”と他人のように自分のことをいう言い様。

途端、さっきの八神司令の言葉が真実味を帯びる。

 

【うちらもよく知ってる高町なのは教導官のことやけどな、…問答無用で無力化して欲しいねん。事情は追って話すけど、もしかしたらここで会うなのはちゃんは…………うちらの知ってるなのはちゃんとは違うかも、知れん】

 

もし…八神司令の言っていたことが“こういうこと”なのだとしたら……

「………くっ!すいませんっ!なのはさん!!」

バカはバカらしく、バカ正直に行動に移そう。

私のとった行動は至極単純明快。つまり

「あとで…お話、聞かせてくださいっ!」

“指令通りに無力化してから事情を聞く”……という、奇しくもなのはの行動理念と同じことをしたのだった。

 

 

 

私/アステルにスバルが突っ込んで来るのを避けながら私は驚きつつも嬉しく思い、悲しかった。

“今、自分に出来ることは何か”

それをしっかり実践している教え子の姿を見ることは、教える側にとって何よりの喜びだった。

その教え子を、大きく傷付けることは、とても、悲しかった。

 

 

 

「えっ」

言えたのはそこまでだった。

気づけば私は宙を舞い、自分の象徴といえるウィングロードに叩きつけられていた。

(今……何が、起こって……)

漠然と解ることは、あの「なのはさんらしき人」がその外見からは考えられないほどの膂力で自分を“投げた”ということ。

すると自分の身体に更に衝撃が加わる。

目を開くとそこには自分の身体に馬乗りになっている「なのはさん」がいた。

(え?)

そう、それはさっきまでの暗い蒼の髪の毛の女性ではなく…正真正銘の「高町なのは」がいた。

「……!ぐっ、ごほっ」

何か言おうにも喉が詰まって上手く口に出せない。

「……大丈夫。できるから。私が、やらなきゃダメなんだ」

誰かと喋るように呟いたなのはさんは私の眼を見る。

「ごめんね…って謝って済むことじゃないことを今からするね…。赦してとは、言わない」

カチャリ、という音、そしてほんのりと温度を感じる硬い感触がお腹から感じる。

そしてなのはさんは…今にも泣きそうな顔で……

「だけどやっぱり、ごめんね」

瞬間、腹部に重い衝撃を感じ、そこを起点に激痛が広がり………

私の意識は呆気なく星空のような暗闇に墜ちていった。

 

 

 

赤い。

  紅い。

    灼い。

私は……アステルから一時的に身体を返してもらった正真正銘の高町なのはは……『ピースメーカー』と呼ばれる回転式拳銃をその手に、白くなったばかりのバリアジャケットを返り血に染めていた。

『ナノハ…まだ戦わなければなりません。代わりましょう』

「うん……あとはお願い、アステル」

そうしてまた私が深層意識に移行しようとした、その時

「あまり関わりのない局員は管制人格に料理させて愛する愛弟子だけ自分が止めを刺す……とは、なんとも短い間に悪党らしくなったものじゃないか。エースオブエース」

「!?」

振り向くとそこには、ごく普通の初老の男が立っていた。

「いや、『星天の書』の主、と呼んだ方がいいかね?高町なのは君?」

 

 

 




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