「なの、は……?」
綺麗な金色の髪をしたあなたは、その端正な顔立ちを動揺に歪めながらわたしの名を口にする。辺りはもう随分と暗いけれど、あなたのことははっきりと見える。とても眩しい。あまりに眩しくて思わず目を背けてしまいそうになる。
「……本当に、なのはなの?」
あぁ――この質問にだけは、何があっても必ず答えなければいけない。
「うん。私の名前は高町なのは、なのはだよ。フェイトちゃん」
「どうして、ここに?」
「ちょっと里帰りをしようと思って。荷物を取りに来たの」
嘘は嫌いだ。けれど吐くことに慣れたわたしの口はすらすらと言葉を紡ぐ。けれどきっと
「それは……嘘だよ。なのは。手ぶらで行くつもりなの?」
あなたには見抜かれてしまう。それは嬉しいけれど、悲しくもある。優しいあなたに全てを委ねることが出来れば、どんなに楽だろう。
黙ったわたしにあなたはゆっくりと歩み寄ってくる。
「なのは、中に入って話そう? もう外は暗いし、風が冷たいよ」
丁度その時、風が吹いた。肌を撫でるだけの風に吹かれて私は口を開く。
「――大丈夫。心配しないで、私は私だから」
「なのは……?」
なにを、と言おうとする彼女に私は懐から取り出したモノを突きつける。――質量兵器『ピースメーカー』。その撃鉄を左手の親指で起こす。
「ッ――!?」
同時に背後のヴィヴィオにバインドを施す。
「なのはママ!?」
私が今からすることをヴィヴィオはきっと止める。そうなったら私はヴィヴィオと戦うことになる。できることならそんなことはしたくない。
勿論、そんな隙を彼女が逃す筈はなかった。
ピースメーカーを狙って振り下ろされるバルディッシュの刃を、腕を曲げて間一髪で避ける。バリアジャケットを纏ったフェイトちゃんは、険しい顔で私に戦斧を突きつける。
「……危険物所持容疑で身柄を拘束します。おとなしく投降してください」
「流石だね。でも、投降はできないかな」
「…っ! 強制連行、します」
後方に大きく跳躍してフェイトちゃんから距離をとり、私もバリアジャケットを纏う。
『Exceed Drive』
黙って手伝ってくれるレイジングハートとアステルに心の中で感謝する。ただ今回はアステルに代わってもらうつもりはない。
「なのはは話し合うこともせずに武器を向けたりしない。する筈がない…。だからあなたはきっと、なのはじゃないんだ」
『Harken Mode』
彼女の揺れる瞳を見ればその言葉が彼女自身への言い聞かせだとすぐに解る。けれどその間違いは正さなければならない。
「私の名前は高町なのは。他の誰でもない、私だよ」
「じゃあ理由を教えてよ! こんなことする理由を!」
「…いいよ」
そう答えると、彼女は少しだけほっとしたような顔をする。彼女を自分がそこまで追いつめているという事実による激しい罪悪感を押し殺しながら、再び彼女に銃を向ける。
「私に勝てたらね」
言い終わると同時に引き金を引く。小さな弾丸は彼女の胴に向かって凄まじい速度で飛んでいく。だが
『Flash Move』
「っ!」
一瞬前まで私が立っていたところに黄色の魔力刃が突き立っている。
「勝てば、いいんだよね」
本気になった閃光には、あの程度の弾丸では遅すぎる。このままではまずいと、ピースメーカーを仕舞いレイジングハートの待機状態を解除する。
私が杖を握る頃には彼女はもう目の前まで迫っていた。防御はおそらく間に合わない。
「はぁっ!」
槍状の杖をフェイトちゃんに向かって突き出す。しかしその一撃も難なく回避され、上へと逃げられる。
「とった!…っ!?」
私の背中へ振り下ろされた刃が唐突に止まる。彼女の腕には桜色のバインドがかかっていた。
「一度奇襲された方向は警戒してるものだよ、フェイトちゃん」
「くっ…」
レストリクトロック――私の中で、最も練度の高い魔法だ。いくらフェイトちゃんでも、すぐには抜け出せない。杖を右手に持ち、再びピースメーカーを左手に握り撃鉄を起こす。
「今度は避けれな――」
視界が反転する。アスファルトを転がる時、ようやく自分が何かに吹っ飛ばされたのだと気付く。膝を立てて顔を上げると、フェイトちゃんにかけられたバインドを砕いているオッドアイの女の子が見えた。
「ヴィヴィオ…」
「ごめんなさい、なのはママ。…でもこんなの見てられない」
大人モードになったヴィヴィオは私に向かって拳を構える。自由になったフェイトちゃんもその隣でバルディッシュを構える。ヴィヴィオとの戦闘は避けられそうにない。
「さっきから積極的に撃ってくるその銃…スバルたちを昏睡させたものだよね」
立ち上がりながら頷く。体が問題なく動くことを確認した後、ピースメーカーの無事を確かめる。
「この弾丸は被弾者に幸せな夢を見せることができるんだ。フェイトちゃんは経験あるよね?」
「……じゃあスバルたちが目覚めたいと思わない限り目覚めることは無いってこと?」
「これはあの時の魔法の真似事だからそこまでの効果は無いよ。摘出した弾丸を破壊すれば目覚めるよ」
もともと、非殺傷設定が使えないから効率的に意識を長時間奪う方法として編み出したものだ。覚醒方法を教えても問題は無い。
「行ける? ヴィヴィオ」
「うん。なのはママをノックアウトすればいいんだよね」
私の戦い方をよく知っている二人を相手にするのはかなり厳しい。だが迷ってまた奇襲されてはいけないと、右手に握るレイジングハートを構え、突撃する。
「はあぁぁっ!」
魔法の撃ち合いになったら非殺傷で使えない自分の勝ち目は薄い。それならば多少無茶でもクロスレンジの戦いに持ち込むしかない。普段の私の戦闘スタイルと異なる動きに驚いたようだが、二人はすぐに間隔を空けて迎撃態勢に入る。的を二つにして突撃してくる相手を攪乱する戦術だ。
カウンターヒッターのヴィヴィオへ突っ込むのは危険と考え、フェイトちゃんの方へと突進していく。
「プラズマランサー、ファイア!」
黄色の魔力弾が横を掠めていく。何発かの直撃コースは体を捻じって躱す。しかしその機動で突進速度が落ちてしまう。
「アクセルスマッシュ!」
『Protection』
「速いっ…!」
一瞬の減速に合わせてヴィヴィオが一撃を入れてくる。なんとかガードには成功したが、遂に足が止まってしまう。
「そこだ!」
そこへ間髪入れず、フェイトちゃんがバルディッシュを横から振ってくる。回避は不能。両手は塞がっていて防御もできない。
[マスター!]
アステルの声と同時に私の身体をかなりの衝撃が襲った。
「手応えはあった…直撃なら気絶は避けられないは――ぐぅっ!?」
「フェイトママ!? あぐっ!?」
乾いた音が二度鳴り響く。地に倒れた二人はそれぞれ被弾した箇所を押さえながらこちらを見上げる。
「なにが…どうなって…」
…確かに二人の攻撃は私に直撃した。けれど痛覚を遮断し、一時的にダメージを“感じない”ようにしたことですぐさま私は反撃できた。生命活動をデバイスを介して管理できる身だから出来る技。
「私の勝ち…だから。まだフェイトちゃんには教えられない」
「う……ぁ…なの……」
すでに意識を失ったヴィヴィオの隣にフェイトちゃんも倒れる。
「バルディッシュ、救急車呼んでもらえる? 私が呼ぶわけにもいかないから」
待機状態の彼は黙って点滅する。それを了承と捉えて、私は横たわる二人に背を向ける。
「ごめんね、付き合わせて。帰ろうか」
[不器用な人だ]
〈えぇ、本当に〉
「はは…そうかもしれないね」
宝石が砕かれ、転移魔法が発動する。そうして再び私はミッドから姿を消した。
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