願望書と祈祷杖
………何が何だかさっぱり解らない。
今の私の頭にはそれしかない。
死んだはずの大魔導師は健在だし、異世界へと跳んだはずの構成体が居るし、7年前に撃破したマッドサイエンティストは自分がオリジナルで、あれはクローンとか言い出すし…
一応、場の進行役は件のスカリエッティのようなのでそれに自分が気になることを質問する。
「ねぇ…私のレイジングハートは?どうなったの?」
そう、自分の愛機が一番気がかりなのだ。曖昧な記憶だが正しければ確か銃弾をコアに受けて割れかかっていた筈だ。
「おや、ようやく質問してきたかと思えばまずはデバイスのことかね…いや、別に馬鹿にしている訳ではなく単にこの主にしてあのデバイスありなのだと思ってな」
私を撃った局員に似たことを言うので少しムッとしたがどうも違うらしい。
するとシュテルがスカリエッティの隣に来て
「勿体ぶってないで早く教えてあげましょう、私には解ります。ここでイラつかせると後で血を見ますよ。なんたって私のオリジナルですから」
「何その酷い評価!?」
「う、うむ…なのは君」
よほど砲撃をブチ込まれるのが(いや、撃たないけどね)嫌だったのか語り始めるスカリエッティ。
「コホン…単刀直入に言うが、君のデバイスが元通りになることはまず無い。そして絡めて君のこともだが…君は本来死んでいる」
「はい?」
あの夢の中でもジュエルシードを名乗る女性から同じようなことを言われたがなんのことやらさっぱり解らない。事実、今私はこうして生きているのだ(チューブ繋ぎの身であるとはいえ)
その事実が覆ることは無い筈だ。
「確かに今、君は“生きている”が、それが生物の本来の“生命活動”であるとは限らないんだよ、解らないかい?」
「解る訳ないじゃない。生きていることと生命活動は同義でしょう?」
「これはとある例だが……脳死、というのは知ってるね?」
「えぇ、私の生まれ故郷でも何かと問題の起こる症状の一種」
「そう、言ってみれば君はその逆だ」
「どういう…」
「脳…ここでは精神、或いは魂というものに置き換えよう。…それは問題なく活動を続けているが、体が活動を止めている場合だ」
「つまり…意識はあっても体が動かないってこと?それなら違うよ、現に私の体は動くし。ほら」
そう言って私がポッドの中で腕を動かすとスカリエッティが何やら驚いた顔をする。
「これはこれは…もうそこまで順応しているとは…」
「順応?」
「種明かしをすると…君は今、体を動かしているがそれはあくまで間接的に動かされているものなのだよ。君の体は一切君の脳からの信号が受け取れなくなってしまっていてね、今のところその原因は不明だが。…そして行き場のなくなった君の脳波はとある“デバイス”に目をつけた」
「それがレイジングハートなの?」
「そうでもあるし、そうでもないとも言える」
「一体どういうこと?」
「先に確認しておくが、君は何をしにあの場所へ?」
「それは……ロストロギアを回収しに」
「そのロストロギアは?」
「たまたま見覚えがあったけど普段はそんなの知らないよ」
「いいから、言ってごらん」
「…ジュエルシード」
「そう、そして君は局員に瀕死に追い込まれた。そこで何か声が聞こえたろう?」
言われて見ればそうだ。確かにあのとき、局員に瓦礫の方へと蹴飛ばされ、その時何処からか声が聞こえたのだ。
「でも…そうだとしてなんなの?」
「君は何を願った?…いや、これは少々不躾な質問だったか。では少し変えて…その声は君になんといった?」
「それは…“生きなければならない”って」
「ここまで言ってまだ解らないかい?」
瀕死、ジュエルシード、願い、脳波の遮断、レイジングハート、“デバイス”、“生きなければ…”
「まさか…」
「そう、そのまさかさ。君は今、ジュエルシードとレイジングハートに生かされているんだよ。比喩的ではなく、本当の意味で」
つまりはそういうことだったのだ。ジュエルシードの発言もスカリエッティの周りくどい説明も、皆、私が“生物学的に死んでいる”ということを示唆していたのだ。
「……じゃあレイジングハートとジュエルシードは今どこに?」
「おや、ショックじゃないのかね?自分が“死んでいる”と知って」
「それはショックに決まってる。けどだからって私がここに居ない理由にはならないから」
「流石は不屈の魔導師、エースオブエース高町なのはだ。つくづく君という人間は、科学者を飽かせない…………さて。君の愛機とジュエルシードだが、どこも何も君の隣にあるじゃないか」
「え?」
言われて隣を見れば、そこに浮かぶ一冊の魔導書。
「夜天の書……?」
「確かに魔導書だが夜天の書ではない。古代ベルカよりもさらに昔…人がまだ魔法を確立させていなかった時代に編まれた魔導書『星天の書』」
「『星天の書』………」
「君のよく知る魔導書と違い、魔法を記録する媒体ではない。そこにはひとつの感情のみが込められている」
「感情…?」
「“願い”だ」
『星天の書』は大きさこそはやての夜天の書にそっくりだがデザインがまるで違う。きらびやかな装飾もなければ刺繍もない。ただ小さな小さな光点が煌めく漆黒の中央に紅い宝玉が埋め込まれている。
「レイジングハート……?」
<イエスマスター>
「わっ!ね、念話?なんか違う…」
「どうやら愛機と会話したようだが、おそらくその声は念話ではないよ」
「じゃあ一体?」
「言ったろう?君の脳は体の神経には既にリンクしてないと。つまり今君が直接リンクしているのは『星天の書』だけなのだよ」
「要するにレイジングハートと私は魔力を介さず会話できるってこと?」
「脳に直接情報を伝えているのだからな、そうでなければおかしい」
<マスター……あの時はお力になれず、申し訳ありませんでした>
「ううん、いいよそんなの。こうして無事にいれるんだから…」
<マスター…ありがとうございます。私もこうして会話できることが嬉しいです>
「うん…!うん……!………って、え?嬉しい?」
<あれ?そう言えば…?>
[私も混ぜてもらって構わんかな?そしてあそこにいるアルハザード製の科学者も]
«うん?念話回線を繋げたのか、誰かね君は»
[私はジュエルシードの管制人格…それ以上でもそれ以下でもない]
「そんなことないよ、ありがと私とレイジングハートを助けてくれて」
<感謝しています>
«おや、デバイスに感情かね»
<えぇ私もそれが疑問で…>
[元々レイジングハートはデバイスではない]
「どういうこと?」
[不思議に思わなかったのか?私、ジュエルシードとレイジングハートがあっさりと融合しているのを見て]
「うん、全く思わなかった」
<いいえ、全く思いませんでした>
«日本語とは実に面白い…今度の研究対象はこれか…»
[………]
「あ、あの?」
[…本来、私とレイジングハートは一体型なのだ。私が願望書、レイジングハートが祈祷杖。2つ合わさっての『星天の書』だ]
«それは歴史書にもなかったな…»
「いや、第一、局に居て古代ベルカよりも前にそんなものがあったなんて聞きませんでしたが」
«それはそうだろう。なんといっても無限書庫にすら記録なんてないだろうからな»
<では歴史書とは?>
«アルハザードの歴史書だよ、もっとも今となっては確認のしようがないがね»
「そもそもアルハザードなんてあるんですか?」
«(敬語になったな…)今はないが実在はしていたよ»
「へ~…じゃあやっぱりプレシアさんは辿り着けない旅を計画していたんだ…」
[いつの時代もいるものなのだな、無謀を勇敢と置き換え挑戦する馬鹿は…]
<ある意味尊い存在でもあります>
~“ヘルメス”別室~
「はぁくしょん!はぁくしょん!はぁくしょん!」
「どうした~?プレシア~」
「なんでもないわ、気にしないでレヴィ」
「そうか~?ならいいけどっ」
「雷刃、あれが世に言う“噂でくしゃみ”だ。覚えておれ」
「そっか王様、あれがよく見る…」
「はぁくしょん!はぁくしょん!」
「あはははは!おーもしろーい!」
「(…?よくわからない罪悪感が…)」
<どうかしましたか、マスター>
「ううん、なんでもない」
«これで最後の説明だが、いいかね?»
「あ、はい。お願いします」
«どうでもいいことなんだが、敬語でなくても構わんよ?»
「そうですか…じゃあ“ジェイル”、話してくれる?」
«その方が話しやすいな………で、だ。今の君の魔法についてだが、飛行魔法や単純な射撃魔法、探査魔法や防御魔法など基本的なものだったら使用は可能だ。しかし超加速魔法…フラッシュムーヴや砲撃魔法はもちろん、エクシードモードやカートリッジシステムの使用は厳禁だ。ブラスターシステムなどもっての外だよ」
「ず、随分私の魔法を知ってるね…」
<マスターの性格も理解していただけているようで手間が省けます>
「ちょっ!?」
«そうだな、もし彼女が無理をしそうだったら、君ともう一人»
[あぁ私が止めよう]
「まさか…止めるって文字通り?」
<えぇ>
[無論]
「そんなぁ…そんなのじゃあ、いざって時に戦えないよ」
<そのための代替策は我々の方で考えています>
[そう……“質量兵器の使用”等な]
「それは…ダメだよ。間違ったら人を殺しかねないんだよ?」
[殺されかけたのにまだそんな甘いことをいうのですか、あなたは]
「でも、傷付けられたからって傷付けていい理由にはならないよ。レイジングハートもそう思うでしょう?」
<…個人的には管制人格の意見に賛成です>
「そんなっ!<ですが>え?」
<あなたはそういう人です…おそらくその理想は長くはもたないでしょうが、あなた自身がその覚悟を決めるまで、私はあなたと共に理想を歩みます>
「レイジングハート…!」
[…やれやれ、まぁこのくらい純真でなくば幾数個のロストロギアでできている私があなたのことを取り込んで今頃暴れまわっているであろうことも、また事実]
«私…いや、ヘルメス一同も協力させてもらうよ。この騒動なかなかに興味深い»
と、そこでいままで蚊帳の外だったシュテルが
「話は聞きました。我々マテリアルもタカマチナノハに協力します。王には無断ですが、きっとレヴィ含めプレシアやあなたをここに連れてきたリペル・クロイツも賛同してくれるでしょう」
«我々ヘルメスは協力は惜しまないよ»
「じゃあ…私達、ヘルメスに参加します」
«いいのかい?一応我々は裏で活動していて管理局にも指名手配されてる…つまり君がこの組織に入るということは局からの離反ということになるよ?»
「構いません。元々私達を襲ったのは局員ですし、フェイトちゃんやはやてちゃんと戦うことになるかも知れないのは少し心苦しいけど…私はもう、局に戻るつもりはありません」
«そうか、賢明な判断ではあるがね»
<何故です?>
«凄まじい魔力を宿した魔導書を携えたSランクオーバーの魔導師とくればもう、遅かれ早かれ暗殺されるのは目に見えているからね。まぁ局の上層部では既に君は抹殺対象だろうがね»
[この沈没船は動くのか?アシがなければ話にならんからな]
«水上航行と次元ジャンプに限定されるが、一応ね»
[それだけあれば充分だろう]
「しかしドクター」
«うん?なんだいシュテル?»
「今現在ヘルメスは洋上の仮設プラントとコネクトしていますので…すぐさまのジャンプは不可能かと」
«そうか、もしジャンプすることになったらどれくらいかかる?»
「大体…25分程度でしょうか」
«…もしもの時は気を付けないとね»
<マスター>
「どうかした?レイジングハート」
<質量兵器の非殺傷…どう思います?>
「そんなことできるの?」
[この魔導書には何個ものジュエルシードの魔力がためられている。それこそほぼ無尽蔵に]
«何故無尽蔵なのかね?»
こうして組織“ヘルメス”は動き出す…
か、かつてない文字数……やっぱりま、前書きなのか…?前書きで書ける量が変わるのか…?
…よし、これからは前書きにマジメなこと書こう、絶対。