欠陥を修正して再執筆したものです。
御見苦しい点もあるかとは思いますが、
生暖かい眼で見守っていただけると幸いです。
それでは魔本使いと歌姫の第一話をご覧ください。
出会いと始まり I
「魔法学院アーテナム」
各大陸から等距離にあるため世界の中心と言われる学術島メティアスにあり、国籍を問わず学ぶ意思を持った者すべてに門戸を開いている教育機関でメティアスが学術島と呼ばれる由縁の場所だ。
もともとは、学術島にある遺跡について調査するために建てられた研究所だったが、研究所の周りに町が造られ、人が増えていったことが理由で教育機関が必要となり、研究所がその性質を帯びていったことで今の名称となった。
その魔法学院アーテナムの教室で講義を聞かず、窓から見える空を眺めている黒髪を肩あたりまで伸ばした男子学生が一人いる。
彼の名前はクリフ・ヴァイズマン。
魔法学院アーテナム内で最も優れた座学の成績を残している学生で学院の講師陣に匹敵する知識を既に有しているのではないかと噂される青年だ。彼の空に向けた目には退屈や興味のような色は無く、ただ静かに流れる雲だけが映っていた。
そんな彼の様子を教師である女性ミスト・エーリュズは注意をせずに、いつも通りのクリフの様子を整った顔に微笑みを浮かべながら一度見ると、黒板へと体を向け、魔力を含んだ魔石が持つ様々な性質について書き、講義を進めていった。
それから数十分後、教室に講義の終了を告げる鐘の音が響いた。
「それでは、今日の講義はここまでにしますね。皆さん、残りの三つの講義もしっかり受けてください。
それからヴァイズマン君は頼みたいことがあるので、今日の講義が全て終了したら教務員室に来てください。」
鐘の音を聞いたミストは学生たちに講義の終了を告げた後に、クリフへ言葉をかけた。それを聞いたクリフは講義中の姿勢から動くことなく返事かも怪しいような声を出して答えた。
「おい、先生が声をかけているのにその態度はどうなんだよ。」
クリフの姿が気に入らなかったのだろう。一人の生徒がクリフへ近づき胸倉を掴み持ち上げながら声を荒げる。
クリフは、自分の胸倉を掴んだ手にほんの少し目を向けた後、自分を持ち上げている生徒の目を見つめると一つの溜息をつき言葉を発した。
「考え事をしているときに声をかけられたものだから返事が適当になってしまっただけだが。しかし、何故君が僕に怒りを向けているんだい?ミスト先生に注意されるのならわかるが・・・。」
「お前のその態度が気に入らねえからだよ。今すぐ先生に謝れ。」
「ふむ、そうかい。先生に謝れば君の気が済むというならそうするとしよう。ミスト先生、先ほどの非礼、申し訳なかった。それと、全講義の終了後の件、承知しました。後ほど教務員室へお伺いします。」
クリフは自分の胸倉を掴む学生に言われた通りミスト教諭に謝罪をする。それに合わせて頼まれたことへの返事をしっかりとしなおした。
「ええ、お願いね。それと、ガグラティ君。私は気にしてないからヴァイズマン君を離してあげて。あと、もう少ししたら次の講義が始まるから席に戻りなさい。」
「先生も言っているのでそろそろ離してくれないか。セルべ・ガグラティ君」
クリフとミストのやり取りを聞き、クリフを掴んでいた手を舌打ちとともにセルべは離し、自分の席へと戻っていった。
それから時間がたち、放課後となった。クリフが一人教務員室へと廊下を歩いていると不意に声がかけられた。
「クリフ。また、セルベのやつに絡まれたらしいな。怪我とかしてないか。」
声をかけてきた青年の名前はウェルデ・アヴェレイズ。クリフの従兄弟で年齢は二つ上の十九歳だ。
「胸倉を掴まれただけでは怪我なんてしませんよ。ウェルデ兄さん。」
「お前は運動音痴のせいで、昔からちょっとしたことで怪我しているだろ。
それと、学院内でその呼び方はよせ。少し恥ずかしい。」
「気を付けます。ミスト先生に呼ばれているので、また後ほど。」
「ああ、気を付けろよ。また家でな。」
自分を心配し声をかけてくれたウェルデと言葉を交わしクリフは再び教務員室へと歩を進めた。
ウェルデと別れてから少ししてクリフは教務員室の前についた。クリフはノックをした後、静かに扉を開ける。そして、自分の机で仕事をしているミストのもとへと向かう。
「ミスト先生、朝に言われた件で伺いました。私に頼みたいこととは何でしょうか。」
「来てくれてありがとう、ヴァイズマン君。実は明日から北大陸唯一の国家であるルーラシアムから
一人、学生を受け入れることになりました。ただ、寮の空きがなくなってしまっているので
貴方の家にその生徒を下宿させてもらうことになりました。」
「そうですか。その言い方からするともう伯母に話が通っているのですよね。なぜ私にその話をしたのですか。」
「ええ、伯母様になら確認を既にとって許可をいただいているわ。貴方にこの話をしたのは、明日の朝にその子を校門からここ教務員室へと案内することと、放課後に下宿先である貴方の家に案内することよ。お願いできるかしら。」
「わかりました。その人の特徴を教えてもらっても良いですか。それがわからないと誰を案内すれば良いのか困っ
てしまいますから。」
「きれいな銀色の髪を伸ばしている子だからわかりやすいと思うわ。名前はソフィア・グレイシールさんよ。明日
の始業一時間前に校門で待ち合わせの予定だから遅れないでね。」
「承知しました。それでは失礼します。」
クリフはミストから頼みごと、とそれのために必要な情報を聞くと教務員室から出て家路についた。
学院から家までの道の途中、クリフは明日出会う人物の持つ知識、魔力量、得意な魔法系統がどのようなものかを考えていた。その横を一台の自動車が学院方向へ走っていく。おそらく、明日新たに加わる学生に関係するものなのだろうと自動車の側面に描かれたルーラシアムの国旗からクリフは推測した。彼は新たな出会いに考えをめぐらせながら一人、道を歩いて行った。
そうしながら歩いているうちにクリフが住む伯母の家に着いた。その家は一般的なものよりも大きい二階建てで一階部分は喫茶店となっており、二階部分が住居スペースになっていた。入り口は店用の木枠にすりガラスがはめられた両開き扉があるのみで、一度店に入らなければ自室に入ることはできない形になっている。
クリフがその扉を開くと扉の開閉を教えてくれるベルの音と店内によく響く明るい声に迎えられた。
「いらっしゃいませ。あら、クリフお帰りなさい。今日はいつもより遅かったわね。」
明るい声の主はセルティ・アヴェレイズ。クリフの伯母でウェルデの母親だが、非常に若々しい見た目をしていてウェルデのような年齢の子供がいるようには見えない年齢不詳の女性だ。
「ただいま、セルティ伯母さん。ミスト先生に呼ばれて少し教務員室の方によって来たんです。明日から学生を一
人受け入れるらしいですね。」
帰宅の言葉を言った後にクリフは遅くなった理由である新しい住人の話を伯母に投げかけた。
「その通りよ。話してなかったかしら。」
「教えてもらってないですよ。明日、その子の案内をするように頼まれました。」
伯母の言葉に小さな溜息をつきながらクリフは言葉を返した。
「クリフが頼まれたのね。ウェルデが頼まれるかと思ったわ。あなた、初対面の人はち
ょっと苦手そうだったから。案内をするってことは朝早いってことよね、
今日は夜遅くまで勉強しないように気を付けなさいね。気づいたら朝だったなんてこ
とは駄目よ。」
セルティはクリフが案内を頼まれたことに少し驚いた後に微笑みながら彼に注意を促した。
「気を付けますが保証はできません。いえ、すいません。今日は早くに休みますから怒
らないでください。」
クリフが徹夜をすると言っているかのような言葉を使った瞬間に伯母が笑顔に青筋を浮かべる怒りの表情に変わったのを見ると彼は早くに就寝することを約束した。
「よろしい。夕食が出来たら呼ぶから二階に上がってなさい。」
「はい。」
伯母の表情が元に戻るのを確認したクリフは安堵の溜息をつき二階の自室へと向かっていった。
その後クリフは食事、入浴を済ませるといつもは日付がかわり朝の近くまでやる勉強をせずに伯母との約束の通りに普段より早くベッドの中に体をもぐらせ、眠りについた。
読んでいただきありがとうございました。
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