幻想の空を仰いで   作:トビウオ

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オリ主はまだ出てきません。


第1話 予感

森に静かに降り注ぐ雨は、どことなく幻想的である。霧のように曇って奥まで見通せないが、雨の風景もまた風情がある。木々から無数に滴る雫は、地面に着くとたちまち弾けて消えてゆく。所々に出来た水溜まりは細かく波紋を作り、まるでアメンボが騒がしく泳いでいるようである。

 

雨とは即ち水であり、生命の源といってもいいだろう。雨が降らなければ川は枯れ、生き物は皆命を失う。

人間も同じだ。雨が長くにわたって降らなければ、死に関わる。だから、古くから人間は雨が降ると恵みの雨と讃え、神に感謝した。

 

しかし今はどうだろう。雨が降り喜ぶ人間は少なくなった。寧ろ毛嫌いするような者もいる。きっと、人間が自然と関わらなくなってしまったからだろう。雨の街の雰囲気は暗い。そこに感謝の心があるとは思えない。

 

 

雨に生かされている事を忘れた人間を、私は許せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは幻想郷。現代から忘れ去られてしまった者達が集う。人間や妖怪、そして神など種族は様々である。美しい自然が残っており、今は生憎の雨空で見えないが、晴れた日の空はとても美しく澄んでいる。特に今、秋には紅葉が見事だ。

そんな中に博麗神社はあった。見た目は至って普通の神社だが、人の気配はあまり感じられない。人間が寄り付こうとしていないということが伝わってくる。

 

「幻想郷は全てを受け入れる」

 

そこにいた彼女が唐突に呟いたそれは、まるで幻想を否定し、現実しか見ることができなくなってしまった現代世界への皮肉に聞こえた。

 

彼女の名は八雲紫。随分と胡散臭さを漂わせているが、幻想郷の賢者である最強の妖怪である。永い時を生きる彼女の「最強」の称号を支えるのは、その圧倒的な妖力と霊力、そして自身の力「境界を操る程度の能力」である。彼女は様々な物質や事象の境界に直接的に干渉し、捻じ曲げる。更には頭脳明晰、まさに死角なしといったところである。

しかし、どこまでいっても彼女は妖怪である。今居る場所は神社、妖怪の彼女には少々似合わない。そんな妖怪、八雲紫に一人の少女が声をかけた。

 

「独り言?根暗な雰囲気醸し出してるわよ」

「酷いこと言うわね、せっかく霊夢に会いに来たのに」

「だったら茶菓子の一つでも持って来なさいよ」

 

そんな事を言いながら八雲紫の隣に座りお茶を飲む。頭には大きな紅いリボン、服は紅白で独特なデザインである。八雲紫に霊夢と呼ばれた少女の名は 博麗霊夢 。ここ、博麗神社の巫女である。博麗霊夢は人間だが、彼女もまた、膨大な霊力を持つ幻想郷の実力者である。彼女は博麗の巫女として、幻想郷の要、博麗大結界を管理していた。

 

「霊夢」

「わかってるわよ。雨のことでしょ」

「流石は博麗の巫女、よくわかったわね」

「こんだけ降れば誰でもわかるわよ。で、誰?探しても見つかんないし、、、さっさと退治しちゃいたいんだけど」

「あら、やっぱり、、、」

 

ここで八雲紫が口ごもった。さっきとは打って変わって真剣な雰囲気だ。

ここのところ梅雨でもないのに雨が降り続いている。それも数日程度ではなく何週間もだ。更には嵐の様な豪雨になる事もあった。大きな被害が出るのも時間の問題だろう。

 

「何よ、珍しく真剣ね」

「、、、、」

 

八雲紫の珍しい姿に少々驚きながら博麗霊夢が話しかけるが、返事が返ってこない。不思議そうに首を傾げてからもう一度お茶を飲む。

 

「、、、私達でも分からなかったわ」

 

八雲紫が唐突に口を開いた。この雨が意図的なのは明らかなのにもかかわらず、誰が何処で、何が狙いかは掴めないらしい。それを聞いた博麗霊夢が怪訝そうな顔をする。空気がだんだんと張り詰めていく。さっきまでとは比べ物にならないほど雰囲気が変わった。

 

幻想郷を丸ごと監視下に置ける程の能力を持っている彼女が、敵を全く補足出来ないというのは非常にマズイ。いつもならばふざけていることの方が多いが、どうやら今回は本気であるようだった。

 

「、、、面倒くさそうね」

 

博麗霊夢は小さくため息を吐いた。台詞とは裏腹にその目は鋭く、少女のするそれでは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして、とある場所に移る。そこにある大きな湖は、青く美しかった。雨で揺れる水面からは魚の群れが伺える。太陽が強く照りつける夏の日にでも泳げば、さぞ気持ちがいいだろう。湖の周りには何も無かった。草木が生い茂っているばかりである。

しかしその中に、余りにも目立つ紅い館が見えた。紅魔館と呼ばれるそれは目が眩む程の紅であり、どこか西洋の雰囲気を感じさせる。

そしてそこには大きな欠伸を溢した門番らしき人影が一つ。彼女もまた妖怪である。服装は中華風で、背後にそびえる巨大な館とは似合わない。

 

名を 紅美鈴 。「気を操る程度の能力」を持っているが、その能力自体はさほど脅威ではない。しかし中国武術に長けている上に「気を纏う」こともできるため戦闘能力はかなり高い。

ただ残念な事に、彼女は暇を持て余すと自身の鍛錬か睡眠に当てるため「門番として優秀か」と聞かれると、はいとは言えない。

ただ、最近は雨続き。流石の彼女もそんな中では眠れない。冷たい水から体温が奪われない様に気を纏っているが、完全に眠りに落ちてしまうと維持は難しい。門番なのに風邪引いて門番出来ない、なんて舐めた態度をとったら従者失格だ。主からどんなお叱りを受けるか、考えるだけでも恐ろしい。

深く長いため息を吐く。ただそれは別に眠いからという訳ではない。

 

「今日も無理そうですね、、、」

「そうね」

 

どういう理屈か、突如として現れたのはメイド、十六夜咲夜である。紅美鈴と同じくこの館の主の従者である。

十六夜咲夜は人間だが、人間としては圧倒的な運動神経と仕事の徹底ぶり、そして彼女の持つ「時を操る程度の能力」を買われて妖怪達とも同等かそれ以上の立場を与えられている。そんな彼女も、あまり浮かない顔をしている。

 

「はい昼食」

「ありがとうございます」

「、、、お嬢様と妹様、残念そうだったわ」

「いくら何でも降り過ぎですよ、、、もう二週間は止んでませんよね」

「ええ」

 

こんな話しをしているのには理由がある。

この館の主の名はレミリア・スカーレット。幼い吸血鬼である。吸血鬼は流水、十字架、太陽の光などの様々な弱点を持つ代わりに強大な力を持つ西洋の妖怪。純粋な力のみを見るだけならば、幼いながら既に八雲紫にも手が届きつつある程だ。そして、彼女にはたった一人の妹がいるのだが、少々気がふれていた為、長い間部屋に閉じ込められていた。そんな彼女の妹だったが、幻想郷へやって来てからは様々な者と触れ合い、今ではほぼ普通に生活するまでになった。

もし二週間前が晴れていれば、本当は紅魔館の者でピクニックに行く予定だった。しかしその日は大雨、とてもピクニックなんて出来ない。

そのピクニックを彼女の妹、フランドール・スカーレットはとても楽しみにしていたのだ。永い時を部屋で過ごした彼女にとって、ピクニックはとてもワクワクした物だった。しかし予定だった日から二週間後の今日まで雨続き。流水の苦手な吸血鬼が雨の中でピクニックなど出来るはず無かった。

先程の従者達の会話はこの事であった。要はレミリアとフランドールが外で遊べず不機嫌なのである。

 

「どうせ霊夢達が動くと思うけれど、私達もやりましょう」

「私もですか!?も、もしかしてお嬢様が?」

「ええ、二人で行けとの事よ。紅魔館はパチュリー様と小悪魔が結界を張るから門の心配はいらないわ」

「、、、門番要ります?」

「一回一回発動に時間がかかるのよ。それに必要魔力も膨大だから、結局門番は必要なのよ」

「ならいいんですけど、、、」

 

ふたり並んで歩き出す。そこに先の和やかな雰囲気は感じられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄色く染まった一枚イチョウの葉が、雨に打たれて散ってゆく。ひらりと揺れながら、その葉は川に落ちる。

その傍らには傘を持って黒い翼を震わす少女と、白い尻尾を忙しなく動かす少女が歩いている。翼と尻尾が、二人とも傘に収まり切っていない。

 

「翼が濡れると飛びづらくなるんですよ」

 

黒い翼を隣の少女に軽く広げて見せている少女の名は 射命丸文 。永い時を生きている鴉天狗である。その少女の姿とは裏腹に凄まじいまでの妖力を持っている他、「風を操る程度の能力」を持った強力な妖怪だ。

もともと鴉天狗は種族特有の武器である「扇」を使い風を操ることができるが、射命丸文は生まれ持った自身の能力と膨大な妖力を組み合わせ、「扇」だけで操るのは不可能な程の暴風を巻き起こしたり、一部の空間の風圧や風向を細かく変化させたりする事が出来る。

一言で言うならば、まさに自在に風を操る「風神」の様なものである。

しかし、良いのか悪いのか彼女は自由奔放な性格で、良く友人や部下を困らせる。

 

「あやや、、、困りましたねぇ、紅葉はこの季節一番のネタだというのに」

「いいじゃないですか別に。いつもみたいに盗撮写真使えば」

「何を言うんですか椛!この清く正しい射命丸、そんな破廉恥なマネは、、、」

「じゃあこの前の記事は何ですか!休暇中に私が寝てるところ盗撮して『白狼天狗の実態』って、、、」

「あ、え、いやその、、、」

 

一方、そんな風神少女、射命丸文と共に歩いている白い尻尾を持った少女の名は 犬走椛、鴉天狗と共に妖怪の山に棲む白狼天狗の少女である。鴉天狗と白狼天狗は互いの利害が一致しているため、住処を共にし共同で仕事をこなしている。

彼女の仕事は、主に斥候や見張りといった仕事。というのも、白狼天狗は聴覚や嗅覚、視覚などを司る器官が非常に優秀である上に、彼女、犬走椛は「千里眼」までも持ち合わせているためである。相手を捕捉する力において彼女より優秀な白狼天狗はまずいない。性格も超が付く程真面目で射命丸文とは対照的だ。

 

「あれじゃまるで白狼天狗がいつもぐーたらしてるみたいじゃないですか、もう!」

「わ、悪かったですよ椛、、、」

 

天狗には独特の社会性があり、人間とは違えどもやはり上下関係が存在する。空中を凄まじい勢いで飛べる鴉天狗と、地面を駆ける白狼天狗には明らかに溝があり、どうしても鴉天狗は白狼天狗を見下している面がある。

しかしこのふたりからそんな黒ずんだ雰囲気は感じられない。

射命丸文は決して他者を見下さなかった。それが自分の部下であっても、能力の劣った白狼天狗であっても。

だからこそふたりには、他の天狗からしたら不思議とも言える友情があった。ふたりに「隣の少女は友人か」と問えば、きっと素直に首を縦には振らない。しかしふたりの間には絶対的な信頼があった。

 

「それはさておき椛、一つ頼みがあるのですが」

「、、、被写体以外ならなんなりと」

「この紙を上の者に届けて欲しいのです。とても重要なものです。お願いできますか」

「構わないですけど、、、珍しいですね?」

「わ、私だって仕事はしますよ!?」

「わかりました、すぐに届けに行ってきます」

「ありがとう」

 

どこか違和感を覚えながら、犬走椛は紙を懐に納めて走り出す。射命丸文はどこか切なそうに彼女を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻想郷にここまで雨が降り続けた事など一度としてなかった。だから、力ある者達がこれを「異変」だと気付くのに時間はかからなかった。しかし動かなかった、否、動けなかったのだ。

なぜなら、今起きているこの状況が「異変」だという事以外、何一つわからなかったからだ。「誰が何処で何の為に」これらが一つもわからない状態で「異変解決」は出来ない。

 

彼女の能力を最大限に生かしているこの「異変」に死角は無い。しかし死角は無くとも、油断すればこの異変は直ぐに阻止されてしまう。

完璧だと彼女は思ったが、決して表情を変えることは無い。

彼女の姿が雨空に浮かぶ。

その目に光は無い。しかしそれは狂気や哀しみを宿しているわけでもないし、残酷にも感じられない。

それは、ただひたすらに相手を見透かそうとする目だった。彼女は下を見ているように見えるが、何も捉えていない。目に何も映っていないのである。

 

「、、、とても悲しかった、苦しかった、どれだけ自分が頑張っても意味がなかった、だからもう必要ない」

 

彼女の目から頬へ雫がつたう。それが雨なのか涙なのか、彼女自身でさえわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。

今後の投稿ペースは週に1つ程度を目標にしていますが、大きく上下すると思います。大目に見てやって下さい(´・_・`)
事務連絡はあとがきにて今後とも記していきます。

それではまた次回!
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