魔法少女隊R-TYPEs   作:SanDMooN

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すべての始まり。修学旅行の日、突然の転校生。そして、最悪の災厄の襲来。
戦火の中の、出会い。


第1章 蘇る黄昏
第1話 ―ESCORT TIME―


電界25次元。作戦目標であるセントラルボディが機能を停止し

すべてが終わったと思われた。その先で蠢く"歪み"

ワームホールの奥に潜む、ヒトを模した醜悪なる異形、すべてのバイドの親たる存在。

真に倒すべき敵――マザーバイド。

 

その顎から湧き出るイノチを躱し、屠り。

投げ掛けられる光弾を、その中でぎろりと目を剥く視線をすり抜け、撃ち続ける。

頭が砕け、身体が滅びても尚。高速で軌道を描く腕だけが執拗に迫る。

極彩色の世界の中で、ひたすらに無へと誘う腕を躱し、波動の光を撃ち込んでいく。

 

限界は唐突に訪れた。ワームホールが崩壊を始める。

極彩色に彩られた世界は崩れ、おぞましき異形を飲み込みすべてが消えていく。

終わったのか、と。ほんの僅かな安堵を抱いたその刹那。

空間を切り裂き突き出る腕、そしてその隙間から沸いて出た、砕いたはずの醜悪な頭部。

私を喰らおうと、その凶悪なる顎が迫る。

――その大きく開かれた顎に、私は容赦なくフォースを叩き込んだ。

 

今にも破裂せんほどにエネルギーを蓄えたフォースをその口に喰らい。飲み込み

内側から焼き尽くされていくマザーバイド。そしてついに、今度こそ。

その異形の体躯が、崩れ去っていく空間の中へと消えていった。

 

 

戦いは終わった。私は傷ついた機体を巡らせ、地球圏への岐路を辿る。

光を追い越し、時空を翔んで。どこまでも、果てなく長い道を……。

 

 

 

以上を以って、第3次バイドミッション-THE THIRD LIGHTNING-の全行程を終了する。

本作戦においてバイドの中枢を打ち払い、そしてついに戻ることは無かった我等が英雄の冥福を祈る。

――Operation THE THIRD LIGHTNING経過報告書より引用

 

 

2170年。

度重なるバイドとの戦闘を経て尚、地球は人類の故郷として健在である。

エバーグリーンの落下による傷跡は今尚痛々しく残っているが、それでも人類の大部分は平和を享受していた。

その裏で蠢く、敵の影を感じながら。

その敵に抗する手立てを、着々と整えながら。

 

これはそんな時代を駆け抜けた、少女たちの物語である。

 

 

 

「おっはよーう、まどかー、仁美ーっ」

と、先を歩く二人目掛けて元気な挨拶を投げかけた水色の髪の少女。

彼女の名前は美樹さやか。

「あ、さやかちゃん。おはよう」

それに答えて振り向いた、桃色の髪の少女。

名前は鹿目まどか。

「おはようございます、さやかさん」

そして丁寧に頭を下げて、さやかに挨拶をした緑色の髪の少女。

名前は志筑仁美。

 

彼女達三人は、いずれも見滝原中学の二年生。仲良しこよしなクラスメートである。

朝の通学路、彼女たちの交わす挨拶は何時もよりどこか弾んでいる。

「いやー、いよいよ今日は修学旅行だねー。あたしは昨日はもう楽しみで楽しみでさ」

そう、今日は修学旅行。一般的な学生諸君にとってはとても楽しいイベントだろう。

さやかの声が、気分が弾みだすのも無理はない。

「さやかちゃんってば、楽しみすぎて眠れなかったりしてたりして」

そんな様子に、まどかも仁美もおかしそうに笑って。

「あ、それはないからだいじょ~ぶ!むしろ気が急いちゃって、起きたの5時だったくらいだもん」

どん、と一つ胸を叩いてさやかが答えた。

「まあ、さやかさんったら。でしたら今日の準備は万全なのですわね」

「もちろんですとも!初めての宇宙!初めての無重力体験!人類最後のフロンティア、宇宙があたしを呼んでいる~ってね」

「さやかちゃん、ちょっとはしゃぎすぎなんじゃあ……あはは」

 

この修学旅行の行き先は、宇宙。

国際宇宙ステーション、ISPV-5が目的地となっている。

2170年の現在においては、宇宙旅行というのは海外旅行という意味合いとほとんど変わらない。

それほどまでに宇宙は近い場所である。そこに恐ろしい危険があると、あったということを除いては。

 

「あんまりはしゃぎすぎると危ないですわよ、さやかさん。地球と比べて、宇宙はまだまだ危ないところなのですから」

「そんなこと言って、いいよねー仁美は、いっぱい宇宙に行けてさ。なんだっけ、あの火星のぐ、ぐー…グランゾンだっけ?」

「グランゼーラ、ですわ。さやかさん。決して『造作もないことです』とか言い出したり、火星かと思ったら金沢だった、何てこともありませんわ」

「そっかそっか、グランゼーラね。あたしも行ってみたいな、グランゼーラ。っと、そろそろ急がないと遅刻しちゃうね。急ごうか!」

色々と危ない話はさておいて、さやかが道を走り出す。

 

「あ、待ってよさやかちゃん」

「もう、お一人で行ってしまうのですから。待ってください、さやかさん」

それを追いかけ二人が駆けて行く通学路、22世紀も半ばを過ぎた現在でも

その営みは、21世紀のそれから劇的に変わったとはいえない。

 

 

「ええと、急なことではありますが、修学旅行の前に転校生を紹介します」

朝のホームルーム、これから楽しい旅行ということもあって

完全に空気は浮ついている。そんな空気を更にざわめかせる一言が、担任の早乙女先生の口から飛び出した。

「……あ、暁美、ほむら……です。よろしく、お願いします」

現れたのは、黒い長髪を三つ編みにして、めがねをかけた気弱そうな少女。

ほむら、と名乗ったその少女は、クラス中から注がれる視線に耐えかね俯いてしまう。

「ほむらさんは、家の事情で急な転校ということになってしまったの。修学旅行の直前で、いきなり溶け込むのは少し難しいかもしれないけど、いい機会だとも思うわ。皆さん、仲良くしてあげてくださいね」

 

「うーむ、素材はなかなか。でもあの様子だといきなり溶け込むってのは大変そうだな」

なんて、値踏みするようなことを言い出すさやか。

「そうだね。なんだかすっごく緊張しちゃってるみたいだし。じゃあさ、さやかちゃん」

まどかがさやかに呼びかける。なにやら目配せ一つして。

「おっと、それ以上は言いっこなし。まどかの言いたいことはわかってるんだからはーいせんせーいっ!暁美さん、私たちと一緒の班にしてもいいですかー?」

相分かったと、そんなまどかの口元に人差し指を押し付けて。さやかが元気に手を挙げ立ち上がり、そして大きく声を出した。

「美樹さん?えーと、確か貴女の班はまだ三人だったわね。じゃあお願いしようかしら。じゃあ美樹さん、暁美さんのこと、よろしくね」

「まっかされました、よろしくねっ。暁美さん」

「え……あ、は、はいっ!」

上ずった声、たちまちクラスに笑いが溢れて。またしてもほむらが俯いた。

 

ホームルームの終了後、皆が移動を開始した。

その中に、まどか達四人の姿もあった。ほむらを囲うように三人が寄り添って。

「まさかの転校生さん、おまけにその転校生さんと一緒の班だなんて、これはちょっとしたサプライズですわね。なんだか楽しくなってきましたわ」

「でしょでしょ、それにあの子、なんかほっとけない感じだったし」

「本当、さやかちゃんは面倒見がいいっていうか、優しいんだね」

やいのやいのと賑やかにしている三人に、半ば面食らったような様子のほむら。

「……あの」

やっとのことで出したその声は、小さくか細い声だった。

「あ、暁美さん!これからよろしくね。あたし、美樹さやか」

「私は、志筑仁美と申します。よろしくお願いしますね」

「私、鹿目まどか。よろしくね、暁美さん」

三者三様に挨拶を重ねて、ほむらも応えて小さく頭を下げて。

「は、はい。あの、私学校のこととか何も知らなくて、だから色々教えてください。お願いしますね」

 

「あー、もうっ!いじらしいなぁ。大丈夫、あたしらがしっかり面倒みちゃうからね」

「そうだよ、暁美さん。何かあったらすぐ私たちに教えてね」

優しい言葉。新しい友達。

そしてこれから待っているのは楽しい楽しい修学旅行。

(美樹さん、志筑さん、鹿目さん。……皆優しそうな人だな。お友達になれたら、いいな。こんな私でも)

ほむらの心の中に、暖かいものが込み上げていた。

 

 

 

新しい仲間を加えて始まった修学旅行。

いつの時代も女三人寄れば姦しいのは変わらないらしく。さらにもう一人ともなれば、話は随分と盛り上がり、いつしかほむらも自分のことを話し始めるようになっていた。

心臓の病気でずっと入院していたこと、この街で一人暮らしを始めること。修学旅行のこと、沢山のことを話して。

軌道エレベーターに乗り込み宇宙港へ。

 

「うわーっ、すごいよ見て見てっ!地球青いなーっ!!」

眼下に地球の青を見据えてさやかが叫ぶ。

感動したように、窓に顔を張り付かせるかのごとく。

「本当……宇宙から見た地球って、こんなに青かったんだ。ほら、ほむらちゃんもみてごらんよ」

「………大丈夫、ちゃんと見てるから。……よかった。まだ、こんなにも地球は青かったのね」

その声に宿るのは、郷愁。はたまた安堵か。

「ほむらさん?……何か、とても懐かしいものを見るような目で地球を見つめてらしたけれど」

「懐かしい?……そうかも、知れない、な」

そう言うと、ほむらは嬉しそうとも寂しそうとも取れるような笑みを浮かべた。

そんな様子にまどかもさやかも不思議そうに首を傾げた。

 

そこからステーションへは小型の客船で向かう。

衛星軌道上を少し往復するだけの、何の危険もない旅路のはずだった。

……はずだった。

 

 

 

 

「進路上に何かが、そんな話は聞いてないが……っ!?これは、バイド反応!」

 

――悪意は、どこにでも潜んでいる。

 

「回避をっ!」

「間に合いません……っ!被弾しました!」

 

――悪意が形を成した様な、その異形の生命体を

 

「みなさん、落ち着いてください!班毎に分かれて、救命ポッドに避難してください」

 

――すべてを侵蝕し、取り込み、 進化するそれを

 

「何があったのかな…さやかちゃん」

「わからないよ……でも、何かすごくまずい感じはする」

 

――物質でありながら波動としての性質を持ち、あらゆる存在に伝播するそれを

 

「まさか……これは」

「奴らに攻撃を受けているの……まさか、また奴らが。……バイドが、現れたと言うの」

 

 

 

――――“バイド”と、人は呼ぶ。

 

 

 

 

 

宇宙のどこかで、交差する声。

 

「――、バイド反応だ!やっぱりさっきの撃ち漏らしがまだ隠れていたみたいだね」

「そう、それじゃあすぐに向かうわ。場所と数は?」

「数はそう多くない。場所は……まずいよ、――。旅客機の航路のすぐそばだ!」

「なんてこと!それじゃあ急がなくちゃいけないわね。全速力で行くわよ!」

「ああ、すぐに出られる準備をしておいて。……マミ!」

 

 

 

 

「船長!バイドを振り切れません!このままでは私たちだけではなく、乗客までも……」

「SOSは出しているんだろう?応答は!」

「直近のR部隊の到着まで、少なくとも5分は……と」

「状況は絶望的か。……しかたない、客船部分を切り離し、本船はバイドに突攻を仕掛ける!無駄かも知れんが、少しでもバイドの注意を乗客から逸らすぞ!」

「船長……わかりましたっ!私もお供します」

「いいや、君は残れ。乗員の避難を助けるんだ。これは命令だ」

「……っ。わかりました。船長、どうかご無事で」

 

救命ポッドの中にいても、爆音と振動が何度も伝わってくる。その度に散発的な悲鳴があがる。

今のところはまだ、致命的な被害は出ていないもののそれもいつまで持つのだろうか。

「あはは……なんか、とんでもない修学旅行になっちゃったね」

いつも元気なさやかの声も、流石にトーンは落ち気味で。

それでも必死に気持ちを奮い立てて、いつもどおりに振舞おうとしている。

「ええ……私たち、これからどうなるのででしょう」

「……ここはまだ衛星軌道上で、軍の基地やステーションも近い。すぐに救援は来ると思うわ……だけど、それまでもつかどうか」

その言葉の主はほむら。気弱そうな表情はなりを潜めて

落ち着き払った、静かな表情で。

 

「ほむらちゃん……なんだか、すごく落ち着いてるよね。私、もう怖くて怖くてしかたないのに……すごいな、ほむらちゃんは」

「ほんとだよ、最初はあんなにおどおどしてたのにさ。実はすごい子だったんだね、ほむらは」

「ええ、本当に。早速ほむらさんの意外な一面を発見ですわ」

仁美の言葉に、ほむらは一瞬言葉に詰まって、気まずそうに俯いた。

 

 

 

そして鳴り響く警報、状況は更に悪いほうへと向かっているのか。

「何これ……何の音っ?」

怯えたようにあたりを見回しながら、まどかが言う。

(アラート!?本格的にまずいわ、こうなったらアレを呼ぶしか……)

「お客様にお知らせします。本船はただいまバイドによる攻撃を受け、ステーションへの避難軌道を取っています。指示があるまで、救命ポッド内にてお待ちください。繰り返します……」

繰り返されるアナウンス、いよいよ持って騒然となる船内。

不安げな声、恐怖に震える声、こんなときだからこそと空元気を見せる声。

ひたひたと迫りくる姿の見えない死の影を振り払うように、声はいくつも響き渡って。

 

「どうしよう……私たち、死んじゃうのかな」

「何バカなこと言ってるの、まどか!大丈夫……大丈夫だって」

「ええ、きっと大丈夫ですわ……これだけ地球の近くなのですから、すぐに助けは来るはずですわ」

三人揃って寄り合って、震える身体を抱きしめあって。

避けられない死の恐怖を乗り越えようと、繋がり、声を掛け合うその姿。

ほむらはそれを目に焼き付けて。

(――初めてできた友達、見捨てられるわけない)

そして、駆け出した。

 

けれども、その手をまどかが握って止めた。

 

「ほむらちゃん!?どこ行くの、今外に出たら危ないよっ!!」

「逃げ出したくなる気持ちは分かるけどさ、逃げる場所なんてほかにないんだから……じっとしてようよ」

さやかも、ほむらの肩に手を乗せて。こんなときだと言うのに気丈に笑う。

やはり、失いたくないと思う。だからほむらは小さく笑って。

「……行くわ。あなたたちは、私が守ってみせる」

引き止める手を振り払い、走り去っていく。

呆然と見送って、最初に我に帰ったのは、さやか。

「守る…って、ほむらーっ!待ちなさいよもう……あー、もうっ!……あたしも行く!追いかけて、連れ戻してくるから」

「あ……わ、私もっ……行くよっ!」

「私も……行きますわっ」

駆け出そうとするさやかに、まどかと仁美が続いて。

 

「まったくもー、二人とも…声、震えてるよ?」

「さやかちゃんだって……えへへ」

「ええ、みんなそろって震えてますわ……くすっ」

何故だろう、こんなに怖くて仕方ないというのに、なにやら笑えてくる。

「ふふ……あはははっ」

死と隣り合わせの状況下、震える声を抑えて笑う。

一人なら耐えられない、動けない。けれど友達が、仲間がいれば踏み出す勇気は沸いてくる。

 

「じゃあ、あたしとまどかでほむらを探す。仁美は、ほむらとあたしらのこと、先生とか船の人に伝えといてよ」

「わかりましたわ。二人とも、どうかお気をつけて」

「任せなさい、って。すぐほむらを見つけて、戻ってくるから。さあ、行こうまどか!」

「……うん、さやかちゃん!」

震える膝に、指を噛み締め力を入れて

立ち上がる。走り出す。揺れる船内を走り抜ける。

だが、しかし。その足は通路の窓から見えた光景によって止められた。

 

星の海の向こうに、いくつも浮かんでは消える光。

その光の源には、この客船モジュールを牽引していたはずの輸送船と

それを執拗に攻撃する、バイドのものであろう無数の光点。

窓越しに、輪郭すらも捉えられない程に遠いというのに。

その禍々しさと恐ろしさ。そしてどうしようもないほどに捻じ曲がった悪意が、容易に彼女たちの足を止めた。

「……どうして、ねぇ。さやかちゃん。どうして、あんなところに船があるの?おかしいよね、こんなの」

「うん……これじゃ逃げられないじゃない。もしかしてあたしたち……見捨てられた……?」

 

「それは違うね。あの船は、バイドを引きつけようとしているんだよ」

突然の声。その正体を探ると、そこにいたのは白い小さな生き物。

半透明に透き通ったそれは、くりくりとした赤いクリスタルのような瞳で二人を見つめて。

「え……って、何この生き物、さっきまでこんなのいなかったよね」

「うん……もしかして、これが…バイド?」

驚いて声を上げる二人。

そんな二人を尻目に、その生き物はやれやれといった様子で首を振って。

 

「違うよ、ボクがどうしたらバイドに見えるっていうのかな。ボクの名前はキュゥべぇ。君たちを助けに来たんだ!」

そう言って、キュゥべぇと名乗った生き物は笑った。

「助ける……って、あんた。あの化け物をやっつけられるの?」

状況は未だに理解できない。それでももしかしたら助かるのかもしれない。

僅かな希望を篭めて、さやかが尋ねる。

「ボクには直接バイドをどうにかすることはできない。何せ、ボクには実体がない、ただのプログラムだからね。でも大丈夫。すぐに味方が来るよ。……ほら、来たよ」

 

 

キュゥべぇの言葉に振り向き、窓を覗き込んだ二人の目の前、一陣の黄色い流星が駆け抜けていった。

その流星は光の軌跡を散りばめながら、バイドの元へと飛んでいく。

 

 

それは、バイドを討つためのモノ。

 

人類の英知と希望、そして憎悪すらもが形を成したモノ。

 

放たれし矢、Rの系譜を紡ぐモノ。

 

――そして時として、酔狂な遊び心も混ざるモノ。

 

 

“R戦闘機”と呼ばれる、異層次元戦闘機の姿であった。

 

 

 

「キュゥべぇ、そっちの様子はどうかしら?」

突如空中に現れたモニター。

そこに映されていたのは、黄色い髪の少女。

まどか達よりは幾分か、いや随分と大人びているようにも見える。

「女の人……?私たちよりも、ちょっと年上くらいだけど」

「問題ないよ、特に損傷は見られないそれよりマミ、敵は少ないとは言え急だったからね。

 フォースなしでの戦闘になる十分に注意してくれ」

キュゥべえが、そのマミなる少女へ呼びかける。

「わかってるわ、キュゥべぇ。それじゃあ、船の人達をお願いねっ!」

声に応えて、そしてモニターも掻き消えた。

 

「あの、キュゥべぇ?今のは……?」

状況がどうにも把握できない。恐る恐るまどかが尋ねる。

「彼女は巴マミ、ボクと契約してR戦闘機のパイロットになった魔法少女だよ」

 

閃光煌く宇宙空間、その真っ只中をR戦闘機が往く。

巴マミが駆るその機体は、謎の技術提供者から持ち寄られた技術、ソウルジェムを搭載した試作機。

特殊な二種類の波動砲を備え持つ、バイドを縛り砕く浄化の光……とは彼女の言である。

――R-9MX“ROMANTIC SYNDROME”――

バイドを討つ意志と、そのための力を携えて。エーテルの波を受けてRが往く。

 

「敵影確認。小型……キャンサーが3に中型……なんてこと、ゲインズまで来ているなんて、他所の部隊は何をしてたのかしら。……愚痴っててもしかたないわね。一気に片付けるわよ!」

機体を一気に加速させる。瞬く間に機体は速度を上げてバイドへと肉薄していく。

おぞましいまでの加速。ザイオング慣性制御システムがなければ、人体など一瞬で挽肉へと変わってしまうだろう。

宿敵の接近に気付いたバイドが、客船の追撃を止め、迎撃に移るまでの僅かな時間。

その停滞をレールガンが引き裂いた。回避さえも追いつかず、キャンサー二機が蜂の巣となり爆炎を巻き上げる。

残ったバイドもすぐさま応戦を開始する。ゲインズが搭載された凝縮波動砲を放ち、キャンサーが体当たりを敢行。

後者はともかく、前者は直撃すればR戦闘機と言えどただではすまない。それだけの威力と速射性を持つゲインズは熟練のR戦闘機乗りにとっても恐ろしい相手なのである。

……少なくとも戦場が、何もない宇宙空間でなければ、だが。

 

「どんなに威力があったって、当たらなければ意味はないのよ。R戦闘機の機動性、甘く見ないで!」

縦横無尽に宙を駆けるマミに対して、ゲインズの波動砲はまったく意味を成さなかった。

むしろ、気がつけば巻き添えを食ったキャンサーが直撃を受けて爆沈している。

実に報われないキャンサーである。南無。

「とはいえあの重装甲、レールガンだけじゃ貫くのはかなり骨ね。そういうときは、こいつで勝負よ」

独特のチャージ音と共に、R戦闘機の最大の武器、波動砲がチャージされていく。

戦闘機に戦艦主砲並の火力を持たせることを念頭に開発された波動砲。

元は機体前方に形成された力場から、ベクトルを付与したエネルギーを開放するというものだった。

それが何をトチ狂ったか、なぜかバイドの形状をしていたり、パイルバンカーまで存在する始末である。

そんな英知と狂気と遊び心の詰まった波動砲、それも試作機とあらば何が出てきてもおかしくない。

 

「食らいなさい!リボン波動砲α……発射!!」

放たれたのは黄色の光弾、二対のそれは違わずゲインズへと向かっていく。

更にその光弾は、回避行動を取ろうとしたゲインズの目前でリボン状へと変化し、揺らめき

ゲインズの四肢に絡みついた。リボン状とはいえそれは超高エネルギーの塊である。

すぐさまゲインズの四肢は千切れて爆散し、もはやゲインズには戦闘能力は残されていない。

「私の意志で自由自在に形状を、動きを変える波動砲。それがこのロマンチック・シンドロームのリボン波動砲αよ……覚悟はいいかしら」

 

四肢をもがれ、最大の武器を失ったゲインズ。もはや撃墜されるのを待つだけなのか。

否。否である。バイドの恐ろしい攻撃本能は、どのような場合でもそれが衰えることはない。

四肢を失ったその機体そのものを武器へと変えて、恐ろしい突攻をしかけてきた。

――だが、遅い。次弾のチャージは既に完了していた。

「そしてこれがもう一つ、4本のリボン波動砲を一本に束ね。破壊力と持続性を増したリボン波動砲βよ」

機体の先端に再び波動の火が灯る、バイドを焼き尽くさんとする人類の意志を、憎悪を載せて。

 

「ティロ・フィナーレ!!」

 

4本のリボン波動砲を束ねたその一撃は、違わずゲインズを貫いた。

爆発、沈黙。バイド反応も一気に収束していく。

「ふぅ、ざっとこんなものかしらね」

 

 

 

「……どうやら、私の出番は無かったようね」

(助かった、というべきかしら。もし戦うことになっていたら……面倒なことになっていたでしょうし)

窓の外に幾筋も走る閃光をじっと見つめて。

それが全て消え去って、唯一残った黄色の光を眺めて呟く。

その表情には安堵と僅かな後悔が滲んでいた。

「ほむらちゃん!こんなところに居たんだ……よかった、無事で」

そんなところに駆け寄ってきたまどか、驚いてほむらはまどかの方を見て。

「っ!?……鹿目さん、美樹さん?どうしてここに」

「どーしてじゃないっての!ほむらが急に居なくなっちゃうから、探しに来たのよ。一体どこに行ってたのさ……まあ、でも無事でよかった」

更に続いてさやかも現れた。ようやくほむらも事態を悟ったようで。

「それは……ごめんなさい。気が動転してたみたいで」

 

 

 

「どうやら、お友達は見つかったみたいだね」

合流と再会を喜んでいるところに、キュゥべえが現れる。

「え?……これは、何?」

流石のほむらも、その異貌には驚きを隠せない。

「これ、呼ばわりは酷いな。ボクはキュゥべえ。R戦闘機に乗って戦う魔法少女を助けるために造られたプログラムさ」

ほむらの表情が、驚愕に歪む。

(おかしい。こんな話は聞いたことがない。魔法少女?キュゥべえ?何がどうなっていると言うの)

しかし、思考を廻らせる間もなく再びモニターが開き、マミの声が聞こえてきた。

「こっちは片付いたわ。キュゥべえ」

それもまた、ほむらにとっては驚愕に値するもので。

(それに何でこんな子供がR戦闘機を?まさか、幼体固定……?)

 

「お疲れ様、マミ。相変わらずいい腕だ」

「ありがとう。だけど、あの客船は損傷が激しいからこのまま航行を続けるのは無理ね。

 船をこちらに寄越して、そのまま客船モジュールごと牽引しちゃいましょう」

「わかった。すぐに船を向かわせるよ。それと一緒に、何人か回収していきたい人員も居るんだ」

「人員、って……もしかして、魔法少女の?」

「ああ、それも素質を持った子が三人もだ。思わぬ収穫だよ」

なにやら、話の雲行きが怪しくなってきた。

「何の話をしているの……あなた達?」

ほむらが、訝しげな表情で尋ねた。

何か嫌な予感がする。なにか、大変なことに巻き込まれてしまったような。

 

「大したことじゃない。このモジュールをボク達の母艦で牽引するそれと、キミ達にもボク達の母艦に一緒に来てもらうよ」

「来てもらう……って、どういうこと?あたし達、修学旅行の途中なんだけど」

「それに、皆に黙って出てきちゃったから。戻らないと怒られちゃうよ」

流石にこれには反感も多い。まどかもさやかも食って掛かるが。

「そんなことはどうでもいいんだ。重要なことじゃない。キミ達にはボクと一緒に来てもらう。そして……」

キュゥべえの言葉に、にべもなく一蹴されてしまう。

(機密保持のため拘束…かしら。どうやら修学旅行を楽しむどころじゃなくなりそう……少し、残念ね)

 

ほむらはそう見通しを立てて、少しだけ残念そうに肩を落とした。

けれどもキュゥべえから告げられたその言葉は、ほむらにとっても予想外のものだった。

「ボクと契約して、R戦闘機のパイロットになってほしいんだ!」

 

 

宇宙の闇は尚深く、人々は何も知らずにいる。

倒すべき敵も、抗う力もその闇も。

だが、少女達は知ってしまった。巻き込まれてしまった。

最後の舞踏の繰り手を求めて、彼女達の運命は廻りだす。

――もう、戻れない。




【次回予告】

「マミさんは、どうして戦ってるんですか」

「宇宙の平和のため、って言ったら。鹿目さんは信じてくれるかしら?」

「私は……信じるわ」

「小惑星帯に、正体不明のバイド反応が検出されたよ」

「な、なな、なななっ!なんじゃありゃぁ~っ!?」

「……改めてみると、卑猥」


「――見せてあげるわ、R戦闘機の、本当の戦いをね!」


魔法少女隊R-TYPEs 第2話 ―SEXY DYNAMITE―
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