魔法少女隊R-TYPEs   作:SanDMooN

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巨大戦艦襲来。大切な家族を、友を、そして見知らぬ人々の平和を背負い、少女達は新たな翼を身に纏う。
強大な敵を前に、戦士達は力を合わせて立ち向かう。

戦いの最中、一条の閃光が闇を引き裂き駆け抜けた。
引き裂かれた闇の向こうに、彼女は何を見るのだろうか。


第10話 ―DISASTER REPORT―

「それで、キュゥべえ。状況は?」

ブリーフィングルームには、三人の魔法少女と二人の少女の姿。今更まどかを除け者にするわけにも行かず、こうして今もまどかはそこに居た。緊迫した空気に、半ば飲まれてしまいながら。

そしてさやかはコンサートホールから戻った姿のままで、ブリーフィングルームに立っている。正直、どうにも違和感は拭いきれない。けれども気にはしない、どうせ戦う時には体なんてここに置いていくのだから。

「かなりまずいことになっているよ。あの巨大戦艦は、もともとは土星周辺の基地で開発されていたものらしい。それがバイドに乗っ取られて、そのまま地球を目指して侵攻を進めている」

何故そんなことになったのか、事情はわからないが状況はやはりよくないようだ。皆の顔にも緊張の色が濃い。

 

「とにかく土星というのがまずかった。あの位置じゃあ太陽系外周の防衛艦隊からも距離がある。火星あたりで食い止められればよかったんだけどね。向こうもバイドの研究施設がバイドに乗っ取られて、かなりの混乱に陥っているようだ。正直救援は期待できない」

「ってことは、地球周辺の戦力だけでそいつを迎え撃たないと行けない、ってことかい」

いつの間に調達していたのか、ハンバーガー片手に杏子が尋ねる

「けれど、地球周辺にだって相当数の防衛戦力はあるはずだわ。突破されてしまったのかしら」

ほむらの表情も硬い、真正面から防衛艦隊を蹴散らすような相手ならかなりの激戦が予想される、街への被害も大きくなることだろう。

「どうやらその巨大戦艦は、異層次元潜行が可能なようでね。それを使って地球周辺の防衛艦隊を素通りしたんだろう。今は成層圏を抜けて、追い縋る部隊を迎撃しながら降下中だ。直に近くのエリアに降下してくるだろう。地球上の戦力の多くはセントラルアイランドへ向かっているから、迎撃も難しいのだろうね」

セントラルアイランド。海洋に浮ぶ巨大な人工都市である。

しかしその構造には欠陥があり、先の大地震によってその大部分が崩壊、海中に没していた。水没し、打ち捨てられたその人工都市に、どうやらバイドが潜んでいたらしい。

湾岸ユニットを占拠したそのバイドは、周辺地域の気候を操作する能力を持っていた。“ネスグオシーム”と呼ばれたそれを掃討するため、秘密裏に多くの戦力がセントラルアイランドへと投入されていたのだった。

しかしそれが仇となり、ここまでの巨大戦艦の接近を許してしまったのである。

 

「つまり、今その巨大戦艦と戦えるのはあたし達だけ、ってこと?」

状況はますますもって悪い。その事実を噛み締めるかのように、さやかが尋ねた。

「今のところはね、一応直近の部隊も少なからず向かってきてはいるようだけど。それもあまり期待は出来そうにない。当面の間は、ボク達で巨大戦艦の相手をするしかないみたいだね」

「まさか復帰第一戦がこんなハードな状況だなんてね。本当にバイドは容赦がないわ」

こんなときでも紅茶は欠かさず、全員分を用意してマミが言う。とは言えマミはまだ病み上がりのようなもので、ブランクもある。戦場に出るのは恐らく無理だろう。そもそもにして、彼女が乗るべき機体も無いのである。

 

「それならセオリー通りに行きましょう。まずは私達で巨大戦艦の足を止める。その上で、できる限り奴の武装を剥がしていくわ。そして、増援が来たら一気に勝負をつける」

この戦力で正面からぶつかるのは無謀の一言。ブースターが設置されており、武装の少ないと思われる背面から接近し、距離を保ちつつブースターを破壊。その後は各武装の破壊に移る。

火力に勝る敵戦艦との戦闘におけるセオリーを、淡々とほむらが述べた。

「……だな、流石に三人でアレを落とそうってのは無謀だ。あたしもそれに賛成」

杏子がそれに賛同する。

「あたしも賛成。とにかくあいつが街に入る前に何とかしないとね」

さやかも、顔を引き締めて頷いた。

「ボクからは以上だ。何もなければ出撃準備に入ってくれ。それと、全員機体が新しくなっているからそれの確認も頼むよ。極端に操作性が違うことはないから、問題はないと思うけどね」

その言葉に、それぞれ頷く三人。揃って大破した三人の機体も、既に新調されているようだ。

 

「じゃあ行ってくるよ、まどか、マミさん」

「気をつけてね。……頑張って、さやかちゃん」

友達を、あんな戦火の中へと送り出すのはやはりまどかにとっては気が気ではない。それでもさやかの決断を、戦う意志をまどかは知った。だからこそ止められない。

なら今は、自分にできることをしよう。戦場に出ることだけが全てじゃない。まどかも、前向きに自分の置かれた状況を受け入れ始めていた。

 

「ちゃちゃっと片付けて戻ってくるから、旨い飯でも用意しといてくれよ」

「あら、もしかして私、ご飯係になっちゃうのかしら?……まあいいわ。私の分まで、あいつらに思い知らせてきて、佐倉さん」

軽く肩を竦めて笑って、マミが杏子を送り出す。

戦えないのは歯がゆいけれど、仲間がいるというのはこんなにも嬉しい。だからこそ、早く戦えるようになりたい。仲間と背中を預けて、一緒に戦いたい。マミもまた、次なる戦いへの意気込みを強めていた。

 

「鹿目さん。この戦いが終わったら聞かせてもらえるかしら。あなたがこの先どうするのか、どう生きていくのか。……もしも答えが出たのなら、ね」

ほむらがまどかに声をかける。

迷いが吹っ切れたかのように、まどかの様子は一変している。今なら聞けるかもしれない、まどかがどう自分の道を選ぶのか。それはさやかのためでもあるし、自分自身のためでもあるのだとほむらは思う。

もし戦うことを願うなら、仲間としてまどかを守り、育て上げていこうと。

「わかったよ、ほむらちゃん。……そうだ、じゃあさ、私も聞かせて欲しいな。ほむらちゃんが本当は誰なのかって、話せなかったら無理には聞かないけど、教えてくれたら嬉しいな」

答えてまどかも小さく笑う。なんだかんだで気になっていたのだ。

まるでまどかとさやかを戦いの運命に導く使者のように、突然現れた暁美ほむらという少女のことを。だからもっと知りたいと思う。そしてもっと仲良くなれたら。

そんなことを考えて、まどかは笑ったのである。

 

格納庫には、確かに新造品を思わせる機体が二機、そしてどこか見覚えのある機体が一機並んでいた。

「何か、フォルセティに似てるね。でもちょっと形は格好良くなったかな」

さやかが青い機体を眺めて言う。

確かにその姿はフォルセティのそれに似てるが、幾分かシャープになった印象を受ける。少なくとも以前のフォルセティのように、無理やりブースターやスラスターを増設したような感じは見て取れない。

その機体の名はR-11M4――フォルセティⅡ。

機体性能を重視するあまり、外観のバランスが崩れていたフォルセティを改修。空力学的にも優れた形状を取り戻すことに成功した機体である。

これにより、大気圏内での操作性も大幅に向上。更に針状の貫通能力に優れたレーザーを放つ新型フォース、フレシェット・フォースを搭載することで、火力の更なる増加も図られていた。

それはまさしく一点突破の強襲機であった。

「また、一緒に戦えるね。フォルセティ」

嬉しげに、さやかはその青い装甲をそっと撫でた。

 

「で、こりゃなんだよ。……嫌な予感しかしねぇ」

杏子は半ば呆然と、目の前に並ぶ一回り大き目の機体を眺めた。

赤いカラーリングを黒くラインが縁取って、キャノピーの色は黒。機体下部にはでかでかと、アサノガワのそれを思わせる突起のようなものがくっついている。

R-9DP3。パイルバンカー搭載型としては最終形となる機体。まさに男の浪漫、最強最終の決戦兵器――ケンロクエンの姿であった。

「なんであたしだけこんなイロモノなんだよ、オイ」

「キミの交戦データを見た開発者がね、えらくキミを気に入ったんだよ」

呆然と呟く杏子に、キュゥべえが答えた。

「パイルバンカーでこれだけの戦果を上げたのなら、もっとすごいパイルバンカーならきっともっとすごい戦果を上げてくれるはずだ、ってね」

「……いや、普通の機体をよこせよ。まあ、しょうがないか。しっかり頼むよ」

呆れたように一つ息を吐き出して、その赤い機体を軽く小突いた。

 

「これは……ラグナロック?」

ほむらの目の前に鎮座していたのは、まさしく見覚えのある機体。ラグナロックとほぼ同じ姿の機体がそこにあった。

その機体はR-9OX―ラグナロック・ダッシュ。

かつてほむらが乗っていたオリジナルのラグナロックをベースに、更なる波動砲の開発の為に生み出された試作機であった。

チャージ容量を増加したメガ波動砲Ⅱが搭載された以外は、ベースとなったラグナロックと性能は変わらず、三種類のフォースに対応したコンダクター・ユニットを持ち、その他の全ての性能が高水準にまとめられた機体である。

「……まさか、また乗ることになんて。どういう偶然かしら」

偶然と思いたい。そういう思いを胸に、ほむらはそっと機体に触れた。

 

そして出撃準備は完了し、三機のR戦闘機が迫り来る巨大戦艦を迎撃するため、ティー・パーティーを飛び出したのだった。

 

「こうして近くで見ると、すごいね……これは」

三機のR戦闘機が、編隊を組んで空を往く。さやかの声は、がちがちに強張ってしまっていた。

「ああ……やっぱり、ゲームとは段違いだな」

杏子の声にも焦りの色が混じる。

眼下に望むはすでにビル街。避難は遅れに遅れているようで。いまだに車や人の姿が見て取れる。こんなところを戦場とするなんて。どうしようもなく心が痛む。

だがここで止めなければ、次は市街地や住宅地へと被害はさらに拡大していくことだろう多少の犠牲は目を瞑るしかない。

それこそ相手がいかに巨大とは言え、R戦闘機は単機でそれに立ち向かいうる性能はある。ただそれは、それに要する時間や周囲への被害を度外視した場合である。ここまで侵入を許した時点で、半ば負けているようなものなのだ。

「……これ以上進ませる訳には行かない。ここで食い止める、さやか、杏子!」

ほむらもまた、すでに思考を戦士のそれへと変えている。

後はいかに効率的に敵を殲滅するか。これ以上の侵攻を食い止めるか。それだけである。その機体に火を灯し、一気に巨大戦艦の後方へと接近しようとしたところで、通信が割り込んできた。

 

「三人とも、良い報せと悪い報せがある」

「……何かしら?」

キュゥべえからの通信。答える声も緊張の度合いが強まる。

「まずは良い報せからだ。直近のR部隊と、見滝原を訪れていた他の試験小隊がもうすぐこちらに到着するらしい。少なくとも三人で戦うことにはならなさそうだよ」

「……他の、って。まさかあいつらか?」

杏子とほむらが同時に思い浮かべた姿。

美国織莉子と、呉キリカの二人。特にほむらには、狂機を駆って襲い来るあの時の姿と、その末路がありありと思い浮かんでいた。

「恐らくは、ね。……それでも増援があるというのはいいことよ。それでキュゥべえ、悪い報せというのは?」

良い報せですらこれなのだ、悪い知らせというのはきっと相当に悪いことなのだろう。心構えだけは済ませて、ほむらが問いかける。それに答えた、声は。

 

「……土星基地から、巨大戦艦のデータが送られてきた。あの巨大戦艦の艦首には、超巨大な波動砲が搭載されているらしい」

告げるキュゥべえの声も重い。

「最大出力で発射すれば、惑星破壊級の威力を持つとも言われる強力な波動砲だ。ハードの都合上、最大出力での発射は不可能なようだけどね、通常発射でも街一つを消滅させるくらいは容易いだろう」

後方から接近しているだけに、敵艦前方の様子は伺い知れない。ただ、今もその惑星破壊波動砲のチャージは進められているのだとしたら。

時間的猶予は一気に無くなってくる。

「なんてもん積んでやがる、あの野郎……ッ」

あまりにも悪い知らせに、杏子の声も戦慄に震える。

「いくらなんでも、ここまで状況が悪いとは思っていなかった。……波動砲を撃たれても、市街地への侵攻を許しても。どちらにしても見滝原は壊滅よ」

あまりに状況は絶望的。

悠々とビル街の頭上を覆う敵の影。どう立ち向かえばいいと言うのか。苦々しくほむらが言い放つ。たとえ状況が絶望的でも、戦わねばならないのだ。

当然、避難は間に合いそうも無い。かなり大きな犠牲を余儀なくされることだろう。見滝原、まどかやさやかの家族や、学友達が今も避難を続けているはずなのだ。

それを犠牲にしろと言うのか。

 

「あたしは、そんなの認めない」

さやかの力強い声が、ほむらの暗く沈み込んでいく思考を掬い上げた。

「あいつの足は止めてやる。波動砲だって撃たせない。両方やって見せる。そして見滝原を守るんだ。あたし達の手でね!」

「でもさやか、それは……」

あまりにも無謀。足止めのためのブースターの破壊だけでも大仕事だというのに。更に敵の砲火を掻い潜って艦首へと辿り着き、波動砲の破壊も行わなければならない。

「やるって言ったらやってやるのよ!そのくらいできなくて、何がR戦闘機だっ!」

実際、さやかの胸中を埋めているのはほぼ虚勢。それでも、その虚勢を頼りに声を張り上げ戦意を保つ。そうしなければ押しつぶされてしまいそうだから。

「やるっきゃねーだろ。こうなったらさ。あたしはどこまでも付き合ってやるさ」

さやかの強がりは相変わらずだ、と杏子も笑ってそれに答えた。実際どれだけ無謀と言われようと、それに挑む以外に術はないのだから。

 

「……それもそうね。じゃあこうしましょう。私とさやかで波動砲を叩きに行く。杏子はその間に、ブースターの破壊をお願い。同時並行で一気に叩くわ」

「ははっ、冗談抜きで一人で立ち向かえってーのかよ。ま、上等じゃねーか。そっちこそミスんなよ?」

非情で、それでいて絶望的な提案だとは思う。他に方法がない以上、そうするより他に術は無い。仲間を信じて、任せるより他に無いのだ。

「あんたこそ、また死にたがりをぶり返したりしたら承知しないんだからね?

 見滝原を守る。あたしらも生き残る。それで完全勝利なんだからさ」

まったく持って、無謀なことを実に容易く言ってくれる。上等だ、と今一度杏子の心身に気合が満ちる。

「……それじゃあ、作戦を開始するわ。各機散開、その後は打ち合わせ通りに!」

「「了解っ!」」

ほむらの声に、二つ続いて声が答えた。

 

 

「おっと、こんな楽しそうな舞台を独り占め……じゃないか。

 三人だけで楽しんでしまうつもりなのかい、恩人達は」

だが、そこに割り込んできた通信。その主は、やはり。

「昨日の敵は……などと言うつもりはありませんが、折角共通の敵が出てきてくれたのです。今だけでも、共同戦線を張るというのはどうかしら?」

現れたかつての敵。黒と白の狂機。

 

「あーっ!?あ、あんた達はあの時の……」

半ば予想していた二人とは違い、さやかは驚いて素っ頓狂な声を上げる。それでもすぐに立ち直り、回線を開いてこちらからの通信を繋げた。

「……ちゃんと助かっててくれたんだ。よかった。っていうか、随分ひどくやられてたみたいだけど、もう戦っても大丈夫なの、あんた達?」

あまつさえ、自分を殺そうとした相手のことを心配している始末である。危うい考えではあるが、やはりそういうところがさやからしくも好ましい。

いきなりこんなところで、R戦闘機同士が衝突する羽目にもならずに済みそうだ。

「貴女もいらしたのですね。その節は、本当にお世話になりました。恩返しというわけではありませんが、一緒に戦いませんか?」

「事情、後でしっかり聞かせてもらうからね」

少しだけ考えて、それからにっと笑ってさやかが応じた。

これで戦力はR戦闘機が5機、分が悪いのは相変わらずだが、それでも絶望的な状況とは言えなくなった。

「ええ、この戦いが終わったら存分に」

織莉子もそれに答えて、機体を一緒に横に並べる。

魔法の力は未だに使えないままだけれど、それでもパイロットとして戦えないわけではない。織莉子は己が白き機体奪取―スクルドを駆り、並び立って巨大戦艦へと立ち向かう。。

 

「私も織莉子と一緒に戦うぞ。二人きりの休暇を邪魔するバイドは実に罪深いからねっ!」

「……正直、あたしはあんたが一番不安なんだけどね」

意気込むキリカをジト目で見つめる杏子。

キリカもまた、黒の機体――クロックダウンを駆ってゆく。

ただ、ほむらだけがどうにも不安そうにその様子を見つめていた。

「そういうことなら、5人であの巨大戦艦をどうにかすることを考えるのだけれど一つだけ聞かせて。呉キリカ、あなたは美国織莉子と離れて戦うことができる?」

そう、懸念といえばそこである。

軌道戦闘機として高い機動性を持つ織莉子の機体とは異なり、索敵機ベースのキリカの機体では、砲火を掻い潜っていくための機動性にはいささか不安が残る。

織莉子は波動砲を攻撃するチームに加え、キリカには杏子と共に敵の足を潰してもらう。それが恐らく現時点で取りうる最善の策ではあるのだが、問題はやはり織莉子とキリカ。途中で勝手に行動をされては、こちらの行動にまで支障が出る可能性が高い。

「ああ、大丈夫だとも。離れていたって私と織莉子は繋がっているからね」

自信たっぷり、ついでに余裕も上乗せされたキリカの声。果たして本当に大丈夫なのか、と疑わしくもなるが、疑っている余裕もない。

最悪、勝手にふらふら飛んでいくようなら見捨てるだけだ。

「それじゃあ早速攻撃に移りましょう。織莉子は私とさやかと一緒に波動砲を潰す。キリカ、あなたは杏子と一緒に戦艦のブースターを潰して。これ以上の侵攻を食い止めて」

「了解だ、恩人」

「ええ、任されました」

 

殊の外こんなところで時間を食った。これ以上は時間は費やせない。後は各自突入するだけだ。もうじき、巨大戦艦の砲台の射程内に入る。そんな空域で。

「それじゃあ作戦開始よ。作戦名は……そうね、オペーレーション・ホースズストンプ。とでも言っておくわ」

ちょっとだけ冗談交じりの口調で、ほむらが作戦開始の宣言をした。

「馬の……踏みつけ?妙な名前を付けるのだね、恩人は」

訝しげに尋ねたキリカ。

そんなキリカの言葉になにやら思い当たるところがあったのか、したり顔で杏子が笑う。

「なーるほど、馬に蹴られろって訳だ。いいね、それ。それじゃ先に行くぜっ!!」

「何がなるほどだ、もう。じゃあ私も行くよっ!」

そのまま一気にケンロクエンを加速させ、砲火の中へと飛び込んでいく。なにやら納得のいかない口ぶりで、キリカもそれに続いた。

 

「馬に蹴られろ、って……まあ、確かにぴったりではあるんだけどさぁ」

「あらあら、何か恋路の邪魔でもされたのかしら?あのバイドに」

苦笑気味にさやかが言葉を次いで。くすりと笑って織莉子が続く。それぞれ機体を廻らせ戦艦の底部から突入を開始する。

「ええ、無粋なバイドは思い切り蹴飛ばして、退場してもらう!」

ほむらもそれに続く。頭上からは降り注ぐ砲弾と火線の雨。その火線を、砲弾をかわし、すり抜け、時にフォースで受け止めて。目指すは艦首、波動砲ユニット。

 

かくして、少女達の戦いの幕は上がった。

 

そして戦火は遠く離れて、ティー・パーティーの艦内。戦いの行方をモニターで見守りながら、まどかとマミが寄り添って。

「わかってはいたけれど、待っているだけというのはもどかしいわね」

「マミさん……でも、信じなくちゃね。さやかちゃんやほむらちゃん、杏子ちゃんを」

その手は祈るように握られて、視線はじっとモニターに注がれて。彼女達があの巨大戦艦を阻止できなければ、見滝原は壊滅してしまう。

まどかにとっては家族が、友達が、そして今まで過ごしてきた全てがあるあの街が。無慈悲な戦火によって潰えてしまうのだ。冷静でなんていられるわけがない。

それでも、ただ信じて待ち続ける。かならず何とかしてくれる、と。

「……待っているだけに耐えられないのなら、せめてキミも少しでも足掻いてみるかい?」

突然聞こえたキュゥべえの声。

そして現れるその姿。いつもどおりの半透明、白く透き通ったプログラム。

 

「足掻く、ってどういうことかしら、キュゥべえ?」

何かまだ奥の手があるのかと、期待を込めてキュゥべえを見つめるマミ。その視線に、揺らがない赤い瞳が応えて。

「状況があまりにも悪すぎる。このままだと、まず見滝原は壊滅するだろう。それを防ぐためにも、マミ。キミにも戦ってもらいたい。……やれるかい?」

キュゥべえの言葉を受けて、マミは考え込むように押し黙る。今の状態で戦えるのかという不安、そして何より、心の奥底で蠢く死の恐怖。まさに身をもって体感したそれに、囚われることなく戦えるのだろうか。

自然と手が震え、顔を伏せてしまう。それでもマミは、静かに呟いた。

「まどか……手を、握っていてくれないかしら」

改めて目覚めてみると、呼び捨てにするのは些か恥ずかしかったらしい。人前でこそ鹿目さんと呼ぶけれど、二人きりの時にはまどか、とそう呼んでいた。

「はい……マミさんっ」

その手にそっと手を寄せて、そのままぎゅっと両手で握る。震えている。マミの感じている恐怖が伝わってきて、まどかまで体が震えそうになる。

 

「怖い……ですよね、マミさん」

それがよくわかるから、少しでもそれを和らげようと手を握る。声をかける。

「ええ、怖いわ。まどか。……でもね。私、負けたくないの。バイドに、自分に」

握った手を胸元に引き寄せて、大きく一つ息を吸い。そして吐き出す。恐怖も纏めて吐き出すように。ゆっくりと、その手の震えは引いていった。

「もう少しだけ、このままでいさせて。なんだか手を離したら、また震えちゃいそうだから。……格好悪いよね、私。でも、格好悪くたっていいの。お願い、私を支えていて」

人を包み込むように優しく、大きく見えていたマミの姿も今はとても小さく、か細く見えてしまう。そんなマミが今、必死に心を奮い立たせようとしている。

励ましてあげたくて、少しでも力になりたくて、まどかはマミに身を寄せて、囁く。

「マミさんは格好悪くなんかないです。さやかちゃんもそうだけど、マミさんは私にとっても憧れなんです。だから……いくらだって支えます。一緒に居ます」

気がついたときには、暖かなものに抱きしめられていた。それが、マミの体だというのに気付いたのは数秒過ぎてからのことで。

抱きしめてきたマミの身体は、柔らかくて暖かで、すごく女の子の匂いがして。同じ女の子だというのに、顔が紅潮してしまうのをまどかは止められなかった。

けれど、抱きしめたその腕がまだかすかに震えていたことに気付いてそっと手を回して抱きしめて、優しくマミの背を撫でた。

 

「もう一度、もう一度立ち向かってみるわ。だから見守っていて、まどか」

囁くように微かなマミの声。それに応えて、まどかは小さく頷いた。

 

 

「覚悟は決まったかい、マミ」

答えを求めて、キュゥべえが声をかける。抱きしめていた手を離して、その暖かさには一時の離別を告げて。伏した顔を上げて、マミが覚悟と言葉を告げた。

「ええ。戦ってみせるわ。もう一度、あの悪夢に立ち向かってみせる」

もう声は震えていない。恐れは、心の奥底に閉じ込めた。後は戦うだけだ。

「それはよかった。丁度迎えも来たようだ」

「迎え?」

不思議そうに尋ねる声に、キュゥべえは得意げな笑みを浮ばせて。

「ああ、届いたのさ。“魔法使いの箒”がね」

 

 

「くっそ……これはきつい、ねっ!!」

機体を掠めるようにして襲い来る砲弾をかわして、さやかが悪態をついた。

上空から無数に降り注ぐ砲弾。それを掻い潜り、フォースで受け止め。立ち塞がる砲台を叩き潰し、強引に道を切り開いて進む三機のR戦闘機。

「ゲームとは大違いですね。……今ですらぎりぎりだというのに、まだ半分以上」

頭上の砲台を対地レーザーで潰しながら、織莉子もまた焦りの混じった声を放つ。突入から10分弱。侵攻速度はあまりにも遅い。いつ波動砲のチャージが完了するかもわからない状況、このままではまずい。

とはいえ、降り注ぐ砲火はこれ以上の侵攻を許してはくれない。

「何より厄介なのは……来たっ!」

そう、所詮はいくら数が多いとはいえ固定砲台からの砲撃、R戦闘機の機動性をもってすればかいくぐるのは無理な話ではない。だが、問題は別にあった。巨大戦艦のハッチから現れた自走砲台である。

この自走砲台の放つ迫撃砲の弾幕は厚く、さらに機動性もそれなりに高く、多少の被弾ではびくともしないほどの耐久性も持っていた。

それを確実に、一撃で破壊しうる攻撃。それはほむらのラグナロック・ダッシュが持つメガ波動砲Ⅱだけであって。故に、ほむらはいつ出現するかわからない自走砲台に備え、常時波動砲のチャージを進めておく必要があった。

すなわち、通常兵器による敵弾の相殺や砲台の破壊の手が減る、ということで。

 

とにかく出現した自走砲台を、その奥の砲台ごと纏めてメガ波動砲Ⅱで打ち抜いた。射線上の敵弾も纏めて巻き込んで、一筋激しい閃光が走る。最強最終の波動砲を開発するためのテストヘッドではあるが、メガ波動砲ですら十分な威力を誇るのである。

チャージ容量を増加し威力を増したその一撃は、最早防ぐ術などありはしない。閃光が駆け抜けた後には、波動の粒子が煌く空間だけが残された。

道は、開かれた。

「さやか、織莉子。今の内に突入を」

「おっけー、じゃあダメ押しでもう一発っ!」

開けたその空間を埋めようと押し寄せる砲火、それを遮り打ち砕く閃光。低チャージで放たれた、フォルセティⅡのロックオン波動砲である。

敵を自動捕捉する波動砲が、機体に近い砲弾を的確にロックオンして撃墜していく。打ち落とされた砲台や砲弾は、爆散しながら眼下のビル街へと落ちていく。

ビルが砕け、押しつぶされた車が火を噴いた。間違いなくその一つ一つに、人の命が存在している。

 

「……ごめん」

けれど、心を痛めている余裕はない。心の痛みに歩みが止まれば、もっと多くの人が死ぬ。

今出来ることは、ただ進むことだけだった。

わずかにこじ開けた隙間に、無理やり機体を捻じ込んで。爆炎と焦熱に身を焦がしながら、R戦闘機が破壊と死の森を進んでいく。身を休める暇などありはしない。まだまだ先は長く、巨大戦艦はその真価のほとんどを見せていない。

戦いはまだ、始まったばかりだ。

 

「ったく、超ウゼェ!どんだけ落とせば気が済むんだっての!」

自走砲台からの攻撃をフォースで受け止め、そのまま肉薄。交差気味にパイルバンカーを叩き込む。

強固な装甲も、パイルバンカーの前ではほぼ無力。一撃で外装から内部にいたるまでをグシャグシャに破壊され、火だるまになって墜落していく。

しかしそれでもまだその向こうには、次の自走砲台の姿が見えていた。

「キリがないね、ったく。……キリカ、そっちはどうなってるっ!」

捕捉追尾波動砲が、巨大戦艦の後部に無数に設置されたブースターへ向けて放たれた。分岐し、誘導を受けて飛んでいく青白い閃光。衝突と同時に炸裂、衝撃が走る。

しかしそれでも、破壊できたのはわずかに二基、今尚無数のブースターが稼動している。

「こいつら、なかなか手間取らせてくれるよっ!いやはやまったく、無駄に丈夫で困ってしまうね」

その様子を見ても、どこか面白そうにキリカが言う。ブースターから放出される推進剤が、レーザーや波動砲ですらも遮蔽する壁として機能している。

貫通力の高いメガ波動砲でもないかぎり、一気にブースターを破壊するのは難しい。うまいこと推進剤の放出が収まったところを的確に狙ってはいるが、それでは到底手が足りない。

ケンロクエンのパイルバンカーは推進剤放出の間を縫って攻撃するには射程が足りず、仕方なく次々に迫る自走砲台の相手をしているのだが、それすらも絶え間なく襲い来る。

とてもではないが、ブースターの方に取り掛かる余裕は無い。

 

「困ってる場合かっ!何とかしろ、もう時間が無いんだぞ!」

一人では立ち向かうことすらできなかっただろう。とはいえ、キリカの手を借りたところで状況は絶望的。何より最大の破壊目標、巨大戦艦のメインブースターは未だ健在なのである。

あれを破壊しない限り、巨大戦艦は前進を続けるだろう。そしていずれ、市街地までも到達する。問題は、そのメインブースターもまた恐るべき勢いで推進剤を吐き出し続けているということで。

レーザーも波動砲も、真正面からではまず通らない。放出が弱まったわずかな隙を狙うしかないのだが、偵察機をベースとしたキリカのクロックダウンではそのための火力が欠けていた。

「私は私の為すべきことを為している。キミが勝手に焦りすぎてるだけじゃないのかい?」

あくまでキリカの声は涼やか。実際問題、キリカにとっては見滝原などどうでもいいのだ。命令だから、織莉子が戦えと言うから戦っているだけで。

そしてキリカは、織莉子が死ぬようなことは微塵も疑っていない。心の持ちようとしてはともかく、絶望的な状況を前にしてもキリカは平静を保っていた。

 

「っ!危ない危ない、っていうかこの期に及んで炸裂弾?いくらなんでもトンデモすぎるでしょーっての、この弾幕の量!」

前方を飛ぶフォルセティⅡが、頭上から飛来する敵弾を回避した直後である。その敵弾が炸裂し、周囲に弾をばら撒いた。咄嗟に回避機動を取って直撃は避ける。

しかしその頭上には、続けざまに炸裂弾が投下されていた。

「かわしきれない、破壊するしか……っ!」

一筋走るメガ波動砲Ⅱの閃光。炸裂弾も敵弾も、一気にまとめて飲み込んだ。だが、その発射のタイミングを見計らっていたかのように自走砲台が現れる。さらに後方からも小型バイドの群れが迫る。一気に敵の攻勢は激化した。

「弾幕が濃すぎるわ。これ以上は進めない」

後方からのバイドの攻撃、さらに頭上から降り注ぐ砲撃、炸裂弾。前方からは自走砲台からの迫撃砲。切り開く一撃はすでに無く、次弾のチャージまではしばし時間がかかる。

進路はもはやなく、退路すらも失われつつあった。

 

「Δウェポンは?」

「さっき使ったっての。ドースはまだ全然だ!」

「こちらも、後一押しと言ったところだけど……まだ足りないわ」

焦っている余裕すらも与えないと言わんばかりに、空間を埋め尽くすように押し寄せる弾幕。ほむら自身も突入の際にΔウェポンは使用済み。この危機を回避するためには使えない。

客観的に見ればこれ以上の侵攻は不可能。脱出するより他に術はない。ほむらもそれを理解している、恐らく織莉子も、そしてさやかも。

「さやか。これ以上は……もう」

諦念交じりの声でほむらが告げる。今決断しなければ、もう脱出もままならない。さやかだってそれはわかっている。フォルセティⅡの機動性をもってしても、この物量差は埋めがたい。

 

「……嫌だ」

「美樹さん。無駄死にしたくなければ、ここは退くべきだと思うわ」

完全に足は止まった。もはや迫る敵に応戦する為だけにレーザーやポッドを放ちながら織莉子がさやかに告げる。

織莉子もまた、街にさほど未練があるわけではない。だからこそ、自分達を助けた恩人を無碍に死なせたくはないという気持ちはあったのだろう。

「嫌だね」

さやかも同じく足を止め、フレシェット・フォースから針状のレーザーを続けざまに放つ。そして尚強情に、退くことを拒む。

貫通力を高めた針状レーザーは、敵弾を貫き、その先に砲台までもを串刺しにして四散させる。咄嗟の隙間にほむらがフォースを後ろに付け替えて後退。迫るバイドの小型兵器群を攻撃した。

「お願いだから聞いて、さやかっ!このままじゃ……本当に無駄死にになる」

残る脅威は眼前の自走砲台、いつしか数も二つに増えて。その放つ迫撃砲自体はフォースでいくらでも受け止められるのだが。砲撃は効果が薄いと判断したのか、自走砲台はその強固な機体そのものを弾丸に変えてこちらに迫ってきた。

回避している余裕はない。三機分のレールガンとレーザーがそれを迎撃する。さすがに三機分の火線を集中すれば、いかに強固な自走砲台といえど耐えられはしない。

爆散、そして撃沈。しかしその後にはもう一機、迫撃砲を連射しながら迫る自走砲台の姿。

 

「嫌だっ!」

「さやかっ!!……お願いだから退いて。このままじゃ、本当に死んでしまう」

火線を自走砲台に集中させた分だけ、敵弾への対処が遅れてしまう。ついに、頭上から降り注ぐ砲弾がフォルセティⅡを掠めて火花を上げた。

「っ、きゃぁぁぁっ!?」

「さやかっ!今、助けに……っ!!」

直撃ではないものの、大質量の砲弾である。その衝撃は大きい。錐揉みするように機体は弾き飛ばされ、砲火の雨に晒される。

助けに向かおうにも、ほむらもまたろくに動ける状況ではなかった。

 

目まぐるしく急速回転する視界。目が回りはしないけれど、機体の制動が取れない。定まらない視界。その一面を染める敵弾。こんな状況でかわせるはずがない。

「あたし、死ぬの?……こんなところで、誰も守れないまま」

そんなことが許されるわけがない。なぜなら、ここで自分が死ねばどうなるか、それをよく知っているからだ。今ここで戦う自分の背中には見滝原がある。

そこには家族が、友達が、好きな人が居る。守ると誓ったはずなのだ。その誓いを、想いを。こんなところで諦められるものか。

 

 

「生きてやる、足掻いてやるッ!こんな奴に、やらせるもんかぁぁぁっっ!!」

 

 

吼える。吼えたところで状況は絶望的なまま変わらない。

それでも絶対に諦めない。たとえ死んでも、否、絶対に死んでなどやるものか。こんな悪夢に、これ以上何一つ奪わせていいはずがない。

 

 

 

――決して諦めるな。自分の感覚を信じろ!

 

ただそれだけを願い、望むさやかの鼓膜を、力強い声が揺るがした。

 

信じろ、そう声は言う。だが何を信じればいい。信じるべき感覚、それを感じる体はここにはない。今ここにあるのは、鋼の機体と魂一つ。ただそれだけだというのに。

 

――本当にそうなのか?

なら今感じているこの焦りは何だ。生きようともがく意志は何だ。生と死の狭間に感じる、この激しい感情は何だ。信じるべき感覚、それはこの機体を伝わるものではないのか。

だとすれば、血潮の代わりにオイルが流れ、神経の代わりに電気信号が這い回るこの機体。それすらも、自分の体そのもの足りえるのではないか――

 

 

 

「うぅぅぅああぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

ロックオン波動砲をチャージ、その間にも無数に飛来する敵弾。被弾。衝撃が走る。それでも致命傷にはまだ遠い。まだ飛べる。

発射可能ギリギリのレベルで波動砲を放つ。それでも放たれたロックオン波動砲は過たず、迫る敵弾を打ち砕く。ほんの僅か。コンマ数秒弾幕の雨に隙間ができた。

その隙間をすり抜ける。錐揉みする機体。散らばる力のベクトルを支配して駆け抜ける。この機体が自分の体なら、動くべき時、タイミングは自分の体が知っている。

後はただそれに身を任せるだけだった。気がついたときには、弾幕の雨は後方にあった。

 

「あははは、そうか、こうすればよかったんだ」

その声はまるで、機体そのものが話しているように感じる。機体の表面を激しく吹き荒れる、熱風混じりの夜風がどこか心地よい。

冷たい鋼の塊でしかないその機体が、今ならはっきりと言える。これが自分の姿だと、もう一つの自分の体なのだと。

後方から風を切る気配。炸裂弾が飛んでくる。わかる。機体を翻して避ける。後方で炸裂、拡散した敵弾がまた、迫る。

これもまたひらりと身をかわす。弾を見る必要なんてない。ただ、風が流れる通りに行けばいい。

「なんだ、やり方さえ分かっちゃえば簡単なもんだね」

この体に漲る力。どこまでも飛んでいけそうな万能感はなんだろう。とても幸せで、気分がいい。体の内側から笑みがこみ上げてくるような。

「……これなら、負ける気がしない」

さやかが辿り着いたのは、恐らくパイロットとしては一つの境地。

我は機、機は我。鋼の機体に魂を預け、その意志をもって突き動かす。まさにそれは人機一体。ソウルジェムとサイバー・コネクタの助けがあったとはいえこの境地に辿り着くものが、一体どれだけいるのだろうか。

 

「ここからが本当の勝負、負けないよ。バイド……って、うわわっ!?」

頭上、いきなり開いたハッチから飛び出してきた自走砲台。流石にこれには驚いて、急遽回避機動を取ろうとした。その瞬間に。

横合いから飛び込んできた大型ミサイルが、自走砲台を直撃し爆散させた。

後方を見やれば、炸裂弾を放ち続ける砲台にもミサイルが直撃、その活動を停止させる。更にその爆風の余波で、周囲の砲台もまた破壊されていく。

弾幕の雨に僅かな隙間が出来た。そこに割り込む二つの影が。

 

「どうやら、援軍には間に合ったようだ」

「急いできて正解だったぞ。パーティーには遅れずに済んだようだからな」

そして聞こえる、いずれも男の声。その片方は、先ほど聞こえた声に似ていた。

二機のデザインはいずれも同じく、白と青を基調に緑のキャノピー。そして翼の生えた赤いキツネのシンボルマークが映える。

それはR-9B3――スレイプニル。

爆撃機として運用されるストライダーの系譜を継いだ、最後の機体である。

「こちらフォックスファイア小隊、ジェームズ・マクラウドだ。キミ達を援護するっ!」

「同じく、ペッピー・ヘアだ。よく頑張ったなお嬢さん方。援護するぞっ!」

そして二機の機体はそれぞれ散開。降り注ぐ砲弾を苦もなくすり抜けながら、的確に砲台を打ち抜き、道を切り開いていく。

 

「あの二人。かなりの凄腕ね。なんにせよ助かったわ。このまま一気に突破する」

この機を逃す手はない。ほむらは一気に機体を走らせる。

「まさかこんな時に増援だなんて、なかなか人生捨てたものじゃありませんね」

織莉子もまた、それに続いて砲火の中をすり抜けていく。

「ありがと、ジェームズさん、ペッピーさんっ!……今度こそやっつけてる。覚悟しなさいよ、バイドっ!!」

さやかも、傷ついた機体に鞭を入れ、砲火の中を走り出す。機体は既に万全とは言えない。それでも今は、まるで敵の攻撃が当たる気がしない。今なら、勝てる。

 

絶望を払う。その兆しが見え始めていた。

 

「杏子、そっちの状況はどうだい?」

今尚巨大戦艦の侵攻は止まらない。未だメインブースターの破壊には至らない。焦燥が募る中、キュゥべえからの通信が入る。

「どうもこうもあるかっ!正直かなり悪い、ぶっ壊そうにも手が足りねぇ!」

「それは参ったな。こっちの方でも切り札は用意したんだけどね。どうにも敵の足を止めてもらわないと使えそうに無いんだ。何とか破壊してくれないかい?」

「お前なぁ、今の話聞いてたのか?」

実際問題、キュゥべえが言うのだからそれは事実なのだろう。

ここで敵の足を止めることができれば、恐らくその切り札とやらが使えるのだろう。とはいえ、この絶望的な状況を少しは考慮してほしいものである。

「確かに、キミ達二人だけでは難しいだろうね」

「……まあ、やらなきゃまずいってなら、無理を通してみるけどさ」

とはいえ、こんな時に都合よく手が増えるようなこともない。ならば、今あるものでどうにかするより他にない。

幸い、一撃必殺の力はこの手の中にある。問題はそれがえらく短いということと、今尚自走砲台による迎撃が終わらないということくらいか。

 

可能性があるとすれば、何とか自走砲台を振り切ってメインブースターに接近、パイルバンカーで破壊する。これだけだろう。

言うのは易いが、問題は山盛りだ。自走砲台は存外機動性がある。それに、メインブースターは未だに多量の推進剤を吐き出し続けている。

掻い潜るとすれば、直下からの急上昇。もしくは上空からの急降下しか術はない。

一歩間違えば衝突。いつもの機体に比べてやや鈍重なこのケンロクエンで、それだけの精密機動が行えるだろうか。

「そう一人で抱える必要はないさ、杏子」

覚悟を決めた杏子に向けて、続けて告げられた言葉。

「どうやら、増援が間に合ったようだ」

その言葉と同時に、ケンロクエンに響く警告音。高エネルギー体の接近を告げる警報に、半ば反射的に回避機動をとった。

その回避を確認し、後方より接近していたその機体は、蓄えられたエネルギーを解き放った。機体前方より稲妻が迸り、ブースターの噴射の間に吸い込まれていく。

そして巨大戦艦の表面を這い回り、一気に三つのブースターを叩き落した。

ライトニング波動砲。波動エネルギーを稲妻状に変換し、追尾性を持たせることに成功した兵器である。その一撃が、戦場の中を駆け抜けたのだった。

 

「警告鳴らせて、無理やり射線を空けさせた。……随分無茶する奴じゃないか。どこのどいつだっ!!」

確かに熟練のパイロット同士なら、いちいち連絡で伝えるよりも早くはあるが。それにしても随分乱暴なやり方である。悪態交じりに杏子が吼えた。

 

「トゥルーグレイヴ小隊、ブランドン・ヒートだ。……援護する」

漆黒の機体を縁取る紅。前方に構えた凶悪な牙たるアンカーフォース。そして機体側面には、髑髏を描かれた棺桶のようなエンブレム。

R-13A――ケルベロス。比較的初期に開発された機体ではあるが、改修を加えられ現在でも十分使用に足る機体となっている。

それを駆っていたのは、青年といえるような歳の男の声だった。

「援軍、というのはありがたいが、たった一機というのは少々心許ないね」

同じく波動砲を回避したキリカが言う。一機増えたくらいでは、状況はそう簡単には覆らない。特に早急にブースターを破壊する必要がある今は、とにかく多くの攻め手が必要だった。

愚痴っていても仕方はないと、再びブースターの破壊に取り掛かる。如何せん巨大戦艦相手である。巨大なメインブースター以外にも、補助ブースターの数はかなり多い。

 

「いや、一機だけじゃないようだぜ。なるほど、これは希望が見えてきたかもな」

後方を眺めて、杏子が薄く笑む。そこに映っていたのは、さらに接近する3機のケルベロス。恐らくは同じ小隊の一員、といったところだろう。

 

「あんた一人を行かせやしませんぜ、アニキ」

「ハッ、図体だけは立派だなァ。逝きさらせっ!」

「こりゃあ熱い夜になりそうだ。いいぜ、痺れるくらい熱いギグを聞かせてやるっ!」

 

言葉と同時に、続く三機はメインブースターへとライトニング波動砲を発射した。正面からの攻撃に対しては推進剤の噴射が防ぐ。しかしライトニング波動砲は違うのだ。

側面から回り込むようにしてメインブースターを捉え、一つ大きな爆発が起こる。その煙さえ吹き飛ばして、推進剤の噴射は止まらない。しかし、その勢いは目に見えて弱った。

 

「……ったく、なんだか濃そうな連中ばっかり連れてきやがって。でも、今がチャンスだな。おい、誰か砲台の相手を頼む!あたしはブースターを潰すっ!」

パイルバンカーのチャージは継続、迫る自走砲台から逃れるように進路を逸らす。当然追い縋る自走砲台。しかしそれを真紅のカラーのケルベロスが阻む。

「レディの頼みとあっちゃあ断るわけには行かないな。ここは任せなっ!」

「ありがとよ、優男っ!」

通信を交し合い、そして杏子はケンロクエンを走らせる。垂直上昇。重力に逆らって空に舞う、少なからず機体が揺れる。追い縋る敵弾を振り切り、雲海の中にその身を預け。

そして、舞い降りる。

狙うは一撃、最強のパイルバンかーの力をとくと見よ。まるでそれは曲芸飛行。成功すれば、拍手喝采雨あられ、である。

 

「見えたっ!あれが波動砲だな。……チャージが始まってる、早く止めないとっ!」

砲火の雨を抜け、フォルセティⅡがいよいよ砲台に肉薄する。その機動性は群を抜き、それを余すことなく発揮することに成功したさやかの前では、隙間すらないはずの砲火の海ですら、すり抜けることを可能とさせていた。

そして、ついに惑星破壊波動砲の存在する艦首へと肉薄したのである。

「ええ、後は手はずどおりに。行くわ、さやか」

そしてそれに続くほむらのラグナロック・ダッシュ。ほむらもまた優れた操縦技術で砲火の雨を潜り抜け、さやかに並んでいた。

フォックスファイア隊と織莉子は今も一丸となって、巨大戦艦の底部を進んでいる。その歩みは先ほどまでと比べて非常に速い、恐らくそう間もなく到達するだろう。スレイプニルが搭載する波動兵器、バリア弾がその力を惜しみなく発揮していたのである。

光学兵器が相手ならばいざ知らず、波動エネルギーによって生み出されたその防壁は質量兵器に対する圧倒的な防御性能を誇っていた。それが図らずも、今回の対巨大戦艦には非常に効果的だったのである。

それを見るに、三機でも十分進行は可能であると判断し、単独で突出できるさやかとほむらの機体が先行したのである。

 

 

「おっけー、じゃあまずはレーザー砲台からっ!」

艦首砲の周りを埋め尽くすように配置された、大量の迎撃用のレーザー砲台。その攻撃を掻い潜り、背部につけたフォースからのレーザーで、次々と砲台を落としていく。

敵の攻撃は単調。数は多くとも、それでは相手にもならない。すぐに砲台は沈黙するだろう。

直接艦首砲を攻撃できないのには理由があった。

データによると、艦首砲はそのチャージの間、強力な引力を発生させるのだという。それには、いかなR戦闘機であろうと抗うのは難しい。

波動砲を撃つために機首を敵艦首へ向けてしまえば間違いなく、その引力に囚われ引き寄せられてしまうだろう。実に利に適った防衛設計と言える。

ならばどうするか。その引力を逆に利用してやればいい。幸いこちらにはフォックスファイア隊が持参した大型ミサイル、バルムンクがある。二発纏めて叩き込み、それで波動砲を破壊する。その為にも、道を開いておく必要があった。

可能な限り速やかにレーザー砲台を沈黙させた。そこへ通信が入る。

 

「こちらジェームズ。敵艦底部を突破した、これから艦首砲ユニットの攻撃に移る!」

「同じくペッピーだ。ちゃんと道は開けておいてくれただろうな?」

接近する二機のスレイプニル。爆撃機としての能力は申し分ないが武装はそれなりである。故にそれを護衛するような形で織莉子のスクルドが付き添っていた。

「相変わらず自走砲台が追いかけてくるわ。私はこちらの相手をするから、後はよろしく頼むわ」

だが、それももう不要。織莉子は追撃する自走砲台へと向き直る。

「残念。あなたはここで行き止まりよ」

 

「道は開けたよっ!後はばっちり決めちゃってちょーだいなっ!」

ロックオン波動砲でレーザー砲台と同時に艦首波動砲を攻撃。しかし、やはりその装甲は堅固。ダメージがあるとは思えない。やはり破壊するのならば内部から。バルムンクに任せるより他にない。

「よし、行くぞペッピー!」

「ああ、しくじるんじゃないぞ、ジェームズ!」

そして二機のスレイプニルが走る。

その身を絡め取ろうとする引力に逆らって、最大出力で艦首砲から離脱するような機動を取る。そして、バルムンクを投下。わざわざ発射する必要もない。引力に任せれば、後は勝手に波動砲の中へと吸い込まれていく。

一番奥まで飲み込まれてしまえば、波動エネルギーに焼き払われて効果は発揮しない、だが。

「いまだ。バルムンク、爆破っ!!」

吸い込まれたのを見計らって、リモートでバルムンクを爆破する。艦首砲の中で、膨大な熱とエネルギーが吹き荒れる。激しい閃光が溢れ、艦首砲ユニットが赤熱する。

 

「やった……のかな?」

ああ、だがしかしその言葉は。

「いや、まだよ。艦首波動砲はまだ生きてるっ!」

やはりフラグだったようだ。

 

「な……バルムンク二発でも潰れないっての!?どんだけ丈夫なのよ、その波動砲」

「でもダメージはあるはずよ。なんとか追撃を……」

「ああもう!こうなりゃフォースでもレーザーでもミサイルでも、全部くれてやろうじゃあないのっ!」

こうなれば、自分たちが果てるか敵が沈黙するかの二つに一つ。死力を尽くして戦うのみだ。と覚悟を決めたその時に。

「さやか、ほむら。二人とも無事かい?」

キュゥべえからの通信が入るのだった。

「キュゥべえ?悪い、ちょっと今忙しいんだ。波動砲を破壊しないとっ!」

答える声は余裕の欠片もない。そんな様子に、大体の事情を察したようにでキュゥべえが答えた。

「なるほどね。でもまずはいい報せだ。杏子達がメインブースターの破壊に成功した。これで市街地への侵入は防げるだろう。それと、ボクも切り札を切ることができる」

「切り札?何をするつもり?」

「というより、もう準備は済んでいる。そこは危ない、すぐに離れてくれ」

有無を言わさぬキュゥべえの声。向こうは向こうで余裕はないのかもしれない。

「……信じるわよ。各機離脱してっ!何か……来るわ」

 

 

 

 

――デモリッション・モードへ移行――

 

 

――エネルギーライン、全段直結――

 

 

――波動エネルギー、チャージ完了――

 

 

――誤差修正、ピッチアップ0.003度――

 

 

――ライフリング回転開始――

 

 

「撃てるよ、マミっ!」

「ええ、決めるわよ。――ティロ・フィナーレッ!」

 

 

 

 

 

遥か彼方、地平線の向こうから、極大の閃光が飛来した。雲を切り裂き、夜空を明るく染め上げて。その閃光は艦首波動砲を飲み込んだ。

ロックオン波動砲ではロクに損傷すら与えられないほどに堅固な装甲。それを容易く飲み込み、融解させ。貫いて。

 

――艦首波動砲が、巨大な火柱を上げて爆発、墜落した。

 

その一撃は遥かな彼方、太平洋上空より放たれた。その力を宿した機体。機体の倍はあろうかという巨大な砲台を、機体上部に携えて。さらに姿勢制御や発射の反動に抗するため、直接砲台に巨大なブースターが搭載されている。

それは、R-9D――シューティング・スターの系譜を継ぐ機体。

最大の特徴たる、異常とも言えるほどの射程距離。すなわち地球から優に月まで届くかというそれを再現し、さらに戦略兵器クラスの破壊力と攻撃範囲さえも併せ持つことに成功した、まさに最強の射手たる機体であった。

それでもやはり冷却機構の不十分により、最大出力での射撃は機体の異常加熱を招き、それに耐えうるのはソウルジェムのみだった。故にそれは、魔法少女専用機として運用される。

そして、その砲身とブースターの形状があたかも箒のように見えることから、この機体はこう名付けられた。

R-9DX――ガンナーズ・ブルーム――と。

 

そしてそのコクピットから、その一撃が齎した成果を眺めて。

「……フフ、最高の気分ね。まるで神の雷だわ」

抱えた恐怖はどこへやら、実に上機嫌でマミが呟いた。

 

 

 

「……ったく、あんなとんでもないものがあるなら先に言っとけっての。キュゥべえの奴、いい性格してるぜ」

戦場を離れて低空で飛ぶケンロクエン。特徴的なシールドは歪んでへこみ、片方はちぎれて飛んでいる。

パイルバンカーは違わず巨大戦艦のメインブースターを破壊した。しかし、ケンロクエンが負った損傷も大きかった。砕けたブースターから溢れた推進剤に身を焼かれ、更に巨大戦艦に強かにその身を打ちつけてしまった。

お陰でこのザマ、よく撃墜されずにもっているものだと思ってしまう。

「とはいえ、これ以上こいつで戦うのは無理だな。どっかで機体を調達しないと」

低空を飛ぶケンロクエン。その機動はふらふらと頼りない。

「お、丁度よく輸送艦があるな。通信がまだ生きてるといいけど」

レーダーの反応を頼りに進んでいく。ようやく見えてきたその艦は、トゥルーグレイヴ小隊の母艦、センターヘッド。その姿を確認して、杏子は通信のチャンネルを開いた。

 

波動砲およびブースターを破壊され、巨大戦艦の脅威はほぼ失われたと見てもよい。ただ、いまだに巨大戦艦内部からは無数の機動兵器が出現している。それらを市街地へと逃さないようにする必要もある。いまだビル街を焼き続ける砲台も健在。これらを確実に破壊する必要がある、だがそれほど急ぐ必要はない、

敵の足が止まった以上、後は確実に破壊するだけなのだから。

「んじゃ、ここからは別行動だね。助かったよ、ジェームズさん、ペッピーさん」

さやかとほむらはそのままコアを目指す。

「ああ、お嬢さん方も無茶はするなよ、生きてたらまた会おうっ!」

ファイアフォックス隊は砲台の破壊に向かう。砲台だけならフォースとバリア弾で事足りる。

「では、私は戻ります。そろそろキリカが心配ですからね」

これ以上行動を共にする必要はない。織莉子はキリカの元へと向かう。その後のことはそれから考えればいい。

それぞれが三方に分かれて飛ぶ。目標はそれぞれ同じ。後はただ、互いの無事を祈って戦うのみだ。

「よっしゃぁっ!それじゃみんな、ぬかるんじゃないわよーっ!!」

高らかに、さやかが一つ号令をかける。各々がその速度を上げて、なすべきことをなす為に、走る。

 

巨大戦艦攻略戦は、ついに最大の山場を越え、終盤戦へと突入しようとしていた。

そこに集うは、いずれ劣らぬエース達。そして、同じく劣らぬ魔法少女達。巨大戦艦も必死の応戦空しく、その戦力を次々に奪われていった。

さらには、天から降り注ぐガンナーズ・ブルームの波動砲が巨大戦艦を焼いていく。

戦況は一気に覆った。最早、巨大戦艦の撃沈は時間の問題かと思われた。

だが、しかし。

 

「この反応……まさか、異層次元に逃げるつもりね」

恐るべきはバイドの修復能力。浮上用のブースターを修復し、高度をとる。さらにはその姿が揺らぎ始める。それは異層次元への突入の予兆であった。異層次元に逃げられれば、こちらからの干渉はできない。

もちろん、向こうからの干渉もまた不可能にはなるが、敵はそれを利用して戦場から離脱するつもりなのだろう。

「やらせるもんか、逃がすもんかっ!!」

さやかがそれに追い縋る、青い光の尾を引いて駆けるフォルセティⅡの姿も揺らぎ始める。

「追いかけるつもり?さやか」

それに続くほむらのラグナロック・ダッシュ。確かにR戦闘機には異層次元での航行機能は搭載されている。だが、異層次元での戦闘は通常空間とは勝手が違う。

バイドによって空間そのものが汚染されている可能性もある、危険はかなり大きい。

「そりゃ勿論、ここで追いかけて叩き潰さないと、またやってくるかもしれないじゃない!……それにさ、向こうで叩き落せば、こいつを街に落とさずに済むじゃない?」

「……それもそうね。きっと他の部隊も一緒に追いかけるはずだわ。けれど、異層次元での戦闘は勝手が違う。無理はしないで、さやか」

「おっけー、ここまでやったんだ。お互い無事に帰ろうじゃない、ほむら」

そして二機は、同時に機首を廻らせ敵を追う。途中でその機影が揺らぎ、そして完全に消失する。フォックスファイア隊、トゥルーグレイヴ隊、そして織莉子とキリカもまたそれに続き、異層次元へと突入していく。

もはや人知では捉えることもかなわない異層次元の真っ只中で、巨大戦艦との最後の戦いが始まった。

 

「大分遅れちまったな。まだあたしの獲物が残ってるといいけど」

センターヘッド内に、予備機として残されていた機体。RX-12――クロス・ザ・ルビコンを駆って杏子が一人空を往く。

機体の調整に随分手間取っていたお陰で、最早敵の姿はどこにも見えない。眼下には、戦いの傷痕が色濃く残るビル街の残骸が散らばっているだけである。

それを苦々しく眺めながら、クロス・ザ・ルビコンは上昇しはじめる。異層次元に突入した巨大戦艦は、どうやらそのまま地球から離れる心積もりなようで、すでにかなりの高度へと到達していた。今尚異層次元では激しい戦闘が繰り広げられているのだろう。

追いかけなくては、と杏子は機体を走らせた。

だが、その眼前にそれは現れた。

 

「……これは、バイド反応か?にしちゃあやけに弱いけど」

機体が伝えるその警告は、周囲にバイド反応があることを示していた。しかし、その反応はどうにも弱い。おまけに周囲にそれらしき存在は見当たらない。

「ってことは異層次元か。撃ち漏らした奴が隠れてるのかね。まあいいや、あたしに見つかったのが運の尽きだね。このまま殲滅してやるよっ!」

恐らく今行ったところで、上でやっているパーティーには間に合いそうもない。ならば今は、こんなところに隠れたバイドを潰すだけだ。

クロス・ザ・ルビコンの機体が揺らぎ、そして異層次元へと突入して行った。

 

「ここは、一体……」

そこは、酷く暗い場所。奥には、まるで木のような何か。その中で、ぼんやりとコアのようなものが輝いている。

異層次元に突入し、そこに潜む敵を討った。しかしバイド反応は消えなかった。それをそのまま追いかけて、突き進み。辿り着いたのが、この暗黒の森だった。

「辺り一面バイドだらけだ。……まさか、こんなとこにこんな隠れ家があるとはな」

辺りを這い回る蔦のようなものも、奥でぼんやりと光る木も、全てがバイド反応を見せている。全て潰して、後顧の憂いを断つべきだろう。

 

「……こちら、………ス。………聞こえ………誰、か」

掠れながら、途切れながらも機体に入った通信。通信のチャンネルが合っていない。ノイズが酷い。一体誰の通信だろうか。

「何だ、先に侵入してる奴がいたのか?」

チャンネルを切り替え、通信を繋ぐ。

随分古い回線を使っているものだ、今時こんなものを使っているのは珍しい。そして通信は確かに繋がれて、幾分かは鮮明になった声が飛び込んできた。

 

 

 

 

「こちら、ケルベロス。千歳ゆま。聞こえますか……誰か」

 

ひび割れて、ノイズ交じりの。けれどもそれは、幼い少女の声だった。

 

 

 

 

魔法少女隊R-TYPEs 第10話

       『DISASTER REPORT』

          ―終―




【次回予告】

ゆまは、ずっとたたかってたんだ。
たたかって、たたかって。わるいてきはぜんぶやっつけた。
でも、つかれちゃったんだ。きっとだれかがむかえにきてくれるはずだから
それまで、すこしねむってまってることにしたんだ。

「今すぐそっちに行く。少しだけ待ってろよっ!」

キョーコは、わたしをむかえにきてくれたんだ。
キョーコは、いっしょにいてくれるっていったんだ。
だから……もうすこしだけ、がんばってみるね。キョーコ。


「あたしは……お前だったんだな」



次回、魔法少女隊R-TYPEs 第11話
           『CERBERUS』
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