魔法少女隊R-TYPEs   作:SanDMooN

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彼女は過去の残滓に出会う。今一度、それに向かい合う。
輝ける白銀、それに等しき輝く心を携えて、彼女は言葉を放った。


宣誓の儀

R戦闘機。それは人類に残された最後の希望。

それはバイドに抗う唯一の力。

その設計思想、運用方法は多岐に渡り、それに伴い不可解なほどに多様な進化を遂げてきた。しかしその中にはまるで進化の袋小路、もしくは吹き溜まりに流れ着いてしまったようなよく分からないものも数多く存在する。

 

 

これは、そんな機体ととある一人の少女の物語である。

 

 

 

 

 

「で、なんであたしにこんな仕事が回ってくるんだっての」

杏子は一人、機体を空に走らせながら愚痴った。

その機体は、小型移動コンテナであるTP-2――パウ・アーマーを元にした機体で、全身に追加装甲が施され、まるでぶくぶくと膨れ上がったような印象すら受けるものだった。

それ故に、TP-2FA――パッチワークと名づけられたその機体は歪な外見から“ファットボーイ”などという不名誉な愛称さえも受けていた。

 

「仕方ないさ。キミに是非、っていうことだったからね。ボクとしても、余り向こうの要望を突っぱねることはしたくないからね」

その愚痴を聞き届け、キュゥべえが通信を返す。

「それがわからねぇんだっての。仕事ってのはこいつを届けるだけなんだろ?進路に敵が出そうな様子もないし。……何か裏でもあんのか?」

「それはボクにも分からない。とはいえ危険なことはないと思うよ。それについては確認済みさ」

「……ま、そーゆーことならいいけどさ」

そうとだけ言い残して、再び海上をパッチワークが往く。日差しが波に反射して、きらきらと美しく輝いている。

激戦に次ぐ激戦を経ても尚、地球は美しかった。

 

時間まではまだ随分と余裕がある。少し速度を落として、ゆっくりと景色を眺めながら飛ぶ。海鳥達の編隊をそっと横切って飛ぶ。驚いたのだろうか、一瞬その編隊がふわりと膨らんで、すぐにまた元の形に戻った。

外部音声の回線を開くとまるで警戒しているか、それとも歓迎してくれているのか、けたたましく海鳥達の声が飛び込んでくる。

「まだまだ寒い時期だってのにな、無茶すんなよー」

コクピットの中から手を振って、海鳥達に別れを告げた。応えるように響く鳴き声をその背に受けて、速度を上げる。

目的の場所までは、もうすぐだ。

 

 

「――我々は、多くの犠牲を払いながらバイドとの戦いを続けてきた」

壮齢の男が、壇上から声を高らかに響かせた。それを聞いているのは、たくさんの人々。男の背には、大きな一つのモニュメント。布を被され、その正体は伺えない。

「中でもエバーグリーンの墜落は、我々から多くのものを奪い去って行った。それは、今尚忘れもしないことであろう」

先の戦いによって、エバーグリーン内部のバイドが殲滅された。そのことを受け、犠牲者を弔う慰霊碑が作られることとなった。

エバーグリーンの惨劇から6年の時を経て、慰霊碑はここに完成することとなったのである。その落成式典が、今日この日、この場所で行われていた。

 

「平和を、家族を、恋人を、仲間を。我々が奪われたものは、余りにも大きい」

軍の基地の一般公開エリアを使い企画されたその落成式は、遺族やあの惨劇を生き残ったもののみならず、多くの人々に対してその門戸が開かれていた。

皆静かに口を閉ざし、響くその声と、未だ姿の見えない慰霊碑に視線を送っていた。

「我々はこの痛みを忘れない。この痛みを、犠牲を決して忘れてはならない」

モニュメントを覆った布が、ゆっくりと取り払われていく。

「この慰霊碑はその象徴であり、無念の内に無くなった数多くの市民への追悼の意を示すものである。そして我々はこの慰霊碑に誓う。この痛みを、怒りを力に変えて、必ずやバイドを打ち倒すと!」

現れたのは、黒く大きな立方体。黒く大きな立方体には、無数の文字のようなものが刻まれていた。それは、把握しうる限り全てのエバーグリーンの墜落時の犠牲者の名前だった。

 

ざわめきが、人々の間で広がった。

「この惨劇の犠牲者達に、一同、黙祷を」

そのざわめきが、静かに収まっていく。

静かに、静かに。無数の人が集まった会場が、完全に沈黙に沈んだ。

 

「しかし、こいつはどうも妙な機体なんだよなぁ」

大海原をかっ飛ばし、杏子は一人呟いた。

正直敵も脅威も無い、海は綺麗だがさすがに飽きる。どうにも退屈が過ぎて、考え事でもしてなければやってられないのだ。

「補給用の自走コンテナだろうに、装甲を増設する意味なんてあんのか?」

一応、戦闘用に装備を増設されたパウ・アーマー系列の機体も存在はしている。しかし外見から見るに、このパッチワークはどう見ても装甲を増しただけであり、武装の類はほとんど見当たらない。

有人機として運用するなら武装は必要のはずで、無人機として運用するのなら耐久性の向上などは意味の無いことである。おまけに追加装甲のおかげで自重や体積は大幅に増加、機動性、機体バランスにも難がある代物へと仕上がってしまっているのである。

 

「……しかも、そんなもんがなんだってあたしのとこに回ってくるかね」

どう考えても不可解で、そう思えば思うほど思考は廻る。まともに考えれば、こんなものを開発する理由は無い。なら何故こんなものにわざわざ人を乗せて、何処かへ向かわせようとしているのか。

運ぶだけならティー・パーティーにそのまま積んで行ってもよさそうなのだが、あえて人を乗せて移動させている。それに、わざわざ杏子を指名して、である。

「なんか、嫌な予感がするね」

危惧するのも、勘繰りたくなるのも無理はない。一瞬たりとも油断ならない相手というのは、敵にも身内にも居るのだから。

もちろん前者はバイド、そして後者は忌まわしきTEAM R-TYPEである。

 

「考えててもしょうがないか、さっさと済ませっちまおう」

速度を上げて機体を走らせる。

目的地まではあと少し、さっさとこのお荷物を置いて帰ることにしよう。

「こちらヒューライム基地、佐倉少尉、応答せよ」

どうやら、迎えも来たようだ。

 

 

「そして、我らが作り上げたのはこれだけではない!もう一つ、諸君らにお見せしたいものがある」

黙祷が終わり、俄かにざわめき始めた人々の間に、再び声が響く。

「これはバイドの脅威を根絶せんとする、我々の決意の象徴である。それが……これだ」

男は大きく手を振り上げ、そして振り下ろした。

 

 

「では、佐倉少尉。後は指示の通りに」

「……りょーかい」

基地との通信が切れた。基地のオペレーター曰く、このまま基地へ向け直進し、指定された地点に着陸されたし。ただし、周囲に十分に注意すること、と。

ますます持って不可解。とはいえ最早気にしている場合でもない。杏子はそのままパッチワークを駆り、基地上空へと侵入した。

 

 

人々は頭上を走る影に驚き、頭上を見上げた。

頭上を飛んでいくのはパッチワーク。通常のパウ・アーマーよりも二周りは大きいかというその巨躯に、異貌に人々は戸惑いの声をあげ、好奇と不安の目でそれを眺めていた。

そしてパッチワークは、慎重に、丁寧に指定された場所に着陸。それは丁度、慰霊碑であるモニュメントの隣であった。

「式典の賑やかし、ってとこか。……ったく、結局下らない用事なんじゃねーか。で、着陸したらこのレバーを引くんだっけか?」

呆れ半分に、杏子はそのレバーを強く引っ張った。

ぱしゅ、と何か空気が抜けるような音。それに続いて、何かが剥がれていくような、音。

見れば、パッチワークの全面を覆っていた追加装甲の継ぎ目が広がって、剥がれていく。

そして剥がれた装甲が、次々に落ちていく。当然振動は伝わるはずだ。僅かながらに振動と轟音が響き、人々の混乱は更に高まった。

しかしそれも、すぐさま歓声へと変わる。

 

「見るがいいっ!これが我らの力と意志の象徴、プラチナ・ハートだっ!!」

男は大きく手を広げ、機体の方へと振り向いた。その表情に、満面の喜色を浮かべて、半ば狂喜ともとれるソレを振りかざしながら。

「うおっ、まぶしっ」

照り返す光に、思いっきり目をやられた。

 

 

それもそのはずである。その機体は、太陽の日差しを受けて眩く輝いていた。それはまさしく、研ぎ澄まされた硬質の金属の輝きだった。

パッチワークは文字通りただの継ぎ接ぎ、真の姿はその内にあった。

B-5C――プラチナ・ハート。回収されたメルトクラフトのデータを元にして開発が開始された、特殊な金属をフレームに用いた機体である。

この機体に用いられた金属はまさしくその名の通り、原子番号78番、元素記号Pt、白金ことプラチナである。

貴金属としても知られるプラチナを全身の装甲にコーティングしたその機体は、よく晴れた空の下その輝きで人々の目を眩ませ、一部の人間を魅了した。

 

「………どうしてこうなった」

がつん、とコクピットの壁に頭をぶつけて遠くに聞こえる人々の喧騒を聞き流しながら、呆然と杏子は呟いた。

「やっぱり面倒事じゃねーか。ったく、長引きそうだな、こいつは」

この分だと、しばらくは戻れそうにない。勝手に出て行くわけにも行かないだろうし、随分と退屈しそうだ。そう考えていた矢先、通信が入る。

 

「やあ佐倉少尉。届け物ご苦労」

通信で届いた声は、そしてその男の顔は、先ほどまで壇上で話していた男のものだった。そしてそれは、杏子にとっても見覚えのある男だった。

「……大佐」

「いいや、今は准将だ」

「……ああ、昇進したのか、准将」

モニター越しの視線に、僅かに表情を固くして杏子は答えた。准将、とそう呼ばれた男性はその返事に唇の端を吊り上げて笑うと。

「その口の利き方も相変わらず。元気そうでなによりだな、佐倉少尉」

ロスの元を離れた杏子の身柄を引き受け、そしてしばらくその面倒を見ていたのがこの男だった。杏子からすれば、そのころはまさしく全てに絶望していたころ。

別段待遇が悪かった気もしないが、いい思い出もない。正直なところ、どんな顔をして会えばいいのかわからない相手だった。

「あんたが居るってことは、わざわざあたしを呼んだのはあんたの差し金か、准将?」

「勿論、久々に顔を見てやりたくなったんだ。あの死んだような目をした子供が、どう育ったかをな」

モニター越しにでも、まるで覗き込んでくるような視線を向けられる。思わず、コクピットの中でじり、と僅かに身を退いてしまった。

 

「で、これで満足かよ。用が済んだならあたしは帰るぞ」

昔の知り合いに会うのは、正直言って気が進まない。あの頃の自分はあまりにも子供で、未熟で、死にたがりだったから。正直なところ、恥ずかしさが先に来てしまった。

「それはないだろう?お前はこの式典が何のためのものかを知らないのか?」

「知るわけねーだろ、何も聞かされずに飛んできたんだからな」

その返事に男は、少し意外そうな顔をして、ふむと小さく頷いて。

「ならば教えてやる。佐倉少尉。この式典はな……エバーグリーンの墜落によって失われた人命を追悼するための記念式典なのだよ。だから、お前を呼んだんだ」

「……っ」

思わず目を見開いて、息が詰まったような声を上げる杏子。

そんな話は確かに聞いていた気がする。気にはなっていたが、参加できるはずもないと思っていたのに。

「お前も祈っていけ。お前を残して逝ってしまった奴らに、そしてお前を助けたロス達にな」

その男は、かつて士官学校において、ロス達相手に教鞭を取っていた男だった。それゆえに、ロスとの交流も深く、こうして杏子の後見人を任されていたのである。

もっともそれは、ある日突然杏子が飛び出していってしまうまでのことではあったのだが。

 

「わかった、じゃあ……ちゃんと祈っていくことにするよ。……その、ありがと。わざわざ、呼んでくれて」

照れくささもある、恥ずかしさもある。申し訳なさもきっとある。勝手に出て行ってしまった自分に、ここまでしてくれるだなんて。

果たしてこの男は、こんなに優しい奴だったろうか。かつての記憶ではそれほどでもなかった気はするのだが。年月がこの男を変えたのか、それとも、自分自身がその優しさに気付けなかっただけなのか。

そんな自分を恥じて、躊躇いがちに感謝の言葉を口にした。

それを聞き届けて、男は。

「ああ、気にするな。代わりにもう一仕事やってもらうぞ」

「……まあ、それくらいならいいけどさ。こいつをまた動かせばいいのか?」

「いいや、違う。お前にはエバーグリーンの生き残りとして、皆の前で演説をしてもらう」

にたり、と意地が悪そうに男は笑って、そう告げた。

 

「はぁぁぁっ!!?」

困惑である。そんな話は端からまるで聞いていない。

「ちょっと待てオイっ!?どういうこった、ふざけんじゃねぇっ!!」

「ふざけてなどいない。お前はエバーグリーンの生き残りで、おまけにバイドと戦うパイロットだ。演説台に立つには十分すぎる資格はあると思うのだがね」

「……まさか、このためにわざわざ呼びつけたってのか」

「もちろん、でなければ勝手に出て行った子供をわざわざ呼び寄せたりするものか」

「……ッの野郎、ふざけやがって。滅茶苦茶出鱈目言ってやろうか!」

思わずコクピットを殴りつける。わざわざこんな偽装までして、全てはこの場に呼び寄せるためだったのだ。きっと、困った顔を見てやろうとかそういう策略なのだろう。

前言撤回。こいつは、間違いなく性格が悪い。

 

「そりゃ困る。一応台本も用意してある……のだが」

途中で男は一度言葉を切って、それからまたその顔に喜色を浮かべて。

「……今日この場所には、あの事故で死んだ人達の遺族も来ている。もしお前が、本当に彼らに何かを伝えたいのなら、自分の言葉で彼らに話してやっても構わん。どうする?」

再び、杏子は押し黙る。

そう、この式典はあの忌まわしき事故で亡くなった人達を追悼するためのものなのだ。あの事故で全てを失ってしまった杏子が、それを台無しにできるはずもない。

そして確かに、話してやりたい気持ちもあった。あの事故があって、それでも自分は生きていると、戦っていると。今ならそんな自分を、自信を持って示せるような、そんな気がした。

 

「………いいのか、本当に」

確認するように、静かに杏子が問いかけた。

「あの時の死んだような目をしたままだったら、すぐさま台本を渡していただろうがね。……どうやら、少しはマシになったようだ。任せてもよさそうだな」

その答えに満足そうに男は笑う、そして。

「行ってこい。そして、聞かせてやれ。お前の今まで生きてきた証をな」

 

「――ああ」

杏子は、静かに頷いた。

 

 

 

 

ざわめきもひとしきり収まってから、男は再び呼びかける。

「そしてもう一つ、諸君らに紹介するべき者がいる。あの大災害の中を生き残り、そして尚バイドと戦うことを選んだ我らが敬愛なる戦友、佐倉杏子少尉を諸君らに紹介しよう」

声と同時に、プラチナ・ハートのコクピットが開く。せり出してきたタラップを降りて、杏子は壇上へと歩く。ヘルメットを脱ぎ去ると、束ねられていた髪が溢れて流れ出した。

その赤い髪が流れていくのと同時に、人々のどよめきが更に強くなった。人々の前に立ったのは、まだ子供といえるような歳の少女であったから。

そして杏子は壇上に上がり、自分に注がれる何万という視線を、きっちりと受け止めた。それから一つ、大きく息を吐き出して。

 

「あたしは、エバーグリーンの墜落で全てを失った。家族を、生活を、友人を。それまでの全てを失った。ここにいる人の中にも、きっと同じような人がいるんじゃないかと思う」

どよめきは、杏子が放つ凛然とした声に飲み込まれていく。

「全てに絶望して、死んでしまいたいと思ったことが何度もある。そしてその時も普通に生きている人達を、何度羨ましく思ったか」

自分でも思いがけないほどに強く、言葉は次から次へと溢れてきた。

「そんなあたしが、ここまで生きてこられたのは――バイドがいたからだ。皮肉なことにね。バイドが憎かったから、戦う術を、理由を教えてくれる人がいたから、あたしは戦って、生き延びてこれた」

静まり返る中、声が響く。

「一緒に戦うことの頼もしさを知ることができたけど、それは同時に別れの辛さもあたしに叩き付けてくれたよ。戦いの分だけ、沢山の出会いと別れがあった。助けたくても、助けられなかった人もいたさ」

ロスの顔が、ゆまの声が脳裏に蘇る。涙が零れそうになって。それを堪えて、言葉を続けた。

 

「でもあたしは、今まで戦い抜いてきてよかったと思ってる。仲間に出会えたからね」

視線は真っ直ぐ前を向いて。潤んで歪む目を、しっかりと見開いて。

「そしてあたし達は、これからもバイドと戦っていく。確かに、バイドと戦うことは誰にでもできることじゃないさ。でも、例え戦うことじゃなくても、誰にだって出来ることはあるはずだ」

それは、この地球に残してきた友人の言葉。

戦うことだけが全てじゃない。ここにいる1人1人にだって、できることはきっとある。

「世界を救うのは、たった1人の英雄だけじゃない。あたし達1人1人の思いが積み重なって世界を守るんだ。皆で一緒に守っていくんだ!」

脳裏によぎる、かつての英雄の姿。

戦うことに疲れ果て、それでもまだ仲間のために戦うことを選んだ。そんな少女に、いつまでも英雄という枷を負わせ続けていいはずがない。

「だから生き抜こうぜ!生きてさえいれば、あたしたちにはできることがきっとある。無くすな!世界を!諦めるな!自分をっ!!」

大きく、一際大きく息を吸い込んで。

 

「――勝利は、あたし達の手にっ!!」

言葉と共に、大きな。とてもとても大きな歓声が上がった。そして、鳴り響く拍手も共に。

 

汗の浮んだ顔で、髪を頬に張り付かせたまま。すっかり紅潮した表情で、杏子はその光景を眺めていた。なんだか、気分は悪くない。

そして、静かに頭を垂れて。杏子は壇上を後にした。拍手は、歓声は止まない。

もしかしたらすごいことをしたのかもしれない、そんな実感が込み上げてくる。

自然と、笑みが零れた。

 

 

「軍の仕事が終わったら、演説家で食って行けるかもな、お前は」

舞台を去った杏子の肩を叩いて、男――准将がそう言った。

「――肝が震えたよ。二度とゴメンだ」

紅潮した面持ちで、どこかはにかんだような表情で杏子は答えた。

「あれだけ言えれば大したものだよ。式典の後には人を招いて食事会もあるんだがどうだ、そっちにも参加してみるか?上に行こうって考えるなら、出てみるのも悪くないぞ?」

意外な申し出に目を丸くして、それから小さく苦笑して。

「いいや、今日はもう帰ることにする。仲間が待ってるんでね」

「見つかったんだな、今度こそ、仲間が」

ロス達と杏子との関係はやはり、詰まるところは保護者と子供に近かった。その殻を脱ぎ捨てて、共に背中を預けあえる仲間を得られたのだということは、杏子のことを見守ってきたこの男にとっても、やはり嬉しいことだったのだろう。

「ああ、おかしな奴らだけど、最高の仲間さ」

だから、杏子が仲間の事を話して、その表情をほころばせる姿に知れず、男も笑みを零してしまっていた。

 

「それは何よりだ、小型機を用立てよう、それに乗って戻るといい」

目と目が合う。お互いに、相手を認め合ったその視線が交差する。

「……色々世話になったね。ありがとう、准将」

「気にすることはない。だが、今度は行き場所が無くなっても拾ってやりはしないからな?」

「へっ、言ってろーッ!」

最後まで、まるで友人のように軽口を叩き合って。そして二人は分かれた。まだ式典は終わらない。しかしそれでも、杏子の役目は終わった。仲間の下へと帰ろう。

やけに晴れ晴れとした気分で、杏子は帰路を辿るのであった。

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