抗う全てを打ち砕き、彼らはついに帰還する。
立ち向かうは遍く力。少女達もまた、最大の戦いへと挑む。
残された少女もまた決意を胸に宿し、その身を戦場へと投じる。
そんな少女の願いとは裏腹に、戦いは激化の一途を辿る。
哀しき戦いの幕が、開く。
ノーザリー及びデコイ機をフル動員し、デコイ群を目標宙域へと侵攻させた。恐らく敵の偵察機も、その動きに気付いたことだろう。
この宙域には、かつて太陽系を旅立つ前に使用した脅威の太陽兵器、ウートガルザ・ロキがある。まともに喰らえば助かる余地はないだろう、とはいえそれ以外のコースは敵軍や氷塊によって封鎖されている。
ウートガルザ・ロキの射線から離れるように高度を下げた我々の前に、地球軍の艦隊が迫っている。それを適度に牽制しつつ、じりじりと後退する。敵は完全に形勢はこちらにありと踏んだのだろう。後方の部隊も引き連れ一気呵成に追いかけてくる。
機は熟した。
予め氷塊群を破壊して作っておいたルートへと、一気に艦隊を走らせた。それと同時に、デコイ部隊をウートガルザ・ロキへ向けて発進させる。以前のデータと変わらなければ、恐らくもうチャージは完了しているだろう。
道を塞ぐ氷塊を、無理やり艦体でこじ開けながら突き進む。追討しようと迫る地球軍の部隊が、氷塊の無数に散らばる地帯へと踏み込もうとしたその瞬間に。
まさしく太陽の如く眩い閃光が、その空間にある全てを薙ぎ払っていった。
発生する熱だけでも、周囲の氷塊が一瞬で蒸発していく。直撃は避けたとは言え、膨大な熱量の余波は我々の機体にまで少なからずダメージを与えていた。
しかし、それでも今の一撃で我々の進路を塞ぐ敵は全て消滅した。後はウートガルザ・ロキが再度チャージを完了させる前に、砲身もしくは集光ミラーを破壊すればいい。
全機に号令をかけ、私も同じく艦を急がせるよう指示を出した。
どうやら、先行していたアーサーの部隊がウートガルザ・ロキの破壊に成功したようだ。戦力の大半を失った敵軍はそのまま後退を始めた。どうやらひとまず戦闘は終わりのようだ。
撤退した地球軍が更なる増援を引き連れてやってくる前に、ここを離れたほうがいいだろう。
戦闘機を回収し、我々はカイパーベルトを抜けるために艦を走らせた。
『……また、戦ってたんですか?』
意識が戦闘から戻ってくると、またあの少女の声が聞こえてきた。逆流空間を抜けた頃から、この妙な少女の声は私に付きまとっている。幻聴なのだろうかと思うが、それにしてはやけにこの少女は女の子らしい言動をしている。
そんな言葉を生み出せるような思考回路が、私に備わっているとは思えない。もしかしたら本当に、その少女――カナメマドカの言うように、テレパシーという奴なのかもしれない。
我ながらおかしなことを考えると思う。
だが、私は嬉しかったのだ。こうして敵意と戦意ばかりを向けられる日々の中。唯一マドカだけが、戸惑いながらも親しげに言葉をかけてくれる。ただそれだけで、もっとマドカと話をしたいと思ってしまう。
――ああ、だが大丈夫だ。戦いは今終わったところだからね。
『そう……ですか。よかった。怪我とかしてませんか?』
――心配はいらない。我々は今、海王星の近くを航行している。早く地球に戻りたいものだが、なかなか敵が多くてね。まだしばらくかかりそうだ。
『バイドは……倒したんですよね?なのに、まだ敵がいるなんて』
マドカには、我々の戦っている相手が地球軍であるということは伏せてある。どういう理由で彼らが攻撃を仕掛けてくるのかはわからないが、それをマドカに知らせる必要は無いだろう。
無意味に不安にさせることはない、折角の話し相手なのだから、仲良くしたいものだ。
いつか地球に戻れたら、マドカに会いに行くのもいいかも知れない。土産話を聞かせる相手位は欲しいものだ。それにマドカは、キョーコのことを知っていると言う。キョーコも交えて、三人で話が出来たらいいだろうと思う。
――中枢を倒したといっても、まだ太陽系内にはバイドが残っているようだ。その後始末をしながら、地球へ戻ることにするさ。
『わかりました。じゃあ、地球で待ってますね。ロスさん』
――ああ、地球で会える日を楽しみにしているよ。できれば、キョーコにもまた会いたいからね。
『きっと、杏子ちゃんも喜ぶと思います。杏子ちゃんのお話の続き、しますね』
――頼むよ、マドカ。
どうやら私と話をしている間、マドカの身体は眠っているのだという。だから、目が覚めてしまえば唐突にこの対話は打ち切られてしまう。せめてそれまでは、こうしてゆっくりと誰かと話していられる時間を大切にしたかった。
マドカは、キョーコのことを色々と話してくれた。
我々と別れてからの数年間、一体何があったのかということまではマドカも知らないようだったが、それでも杏子は尚R戦闘機に乗って戦っているということを聞いた。
何よりも嬉しかったのは、キョーコが既に仲間を得ていたということだ。それも、R戦闘機のパイロットである同年代の少女達なのだという。
俄かには信じられない事実ではあるが、マドカの言葉ではキョーコは今も力強く生きているようだ。嬉しくもあるが、親代わりとしては少し複雑な気分もあったのかもしれない。
だが、間違いなく概ねそれは喜ぶべきことだ。きっとアーサーや他のクルー達もそれを聞けば喜ぶことだろう。
そして、しばらく話をしていると唐突にマドカの返事が途切れた。恐らく地球でマドカが目覚めたのだろう。またしばらくは、孤独の旅路が続くようだ。
そうと決まれば、早く地球へ還ろう。
カイパーベルトの出口はすぐそこに迫っていた。恐らく、次に地球軍が仕掛けてくるとすればこの位置だろう。
私はゆっくりと意識を戦闘に沈めてゆく、ここで負けるわけには行かない。
さあ、とにかく行こうか。
「ロスさん……もうすぐ、地球にやってくるんだ」
夢の中の会話の余韻を確かめながら、まどかは静かに目を開けた。どこか胸が躍るような、そんな気分だった。
「早く会いたいな。そうしたら、杏子ちゃんにも教えてあげなくちゃ」
指にはまった指輪を眺めて、にっこりとまどかは微笑んだ。その指輪には、淡い桃色の宝石のようなものが埋め込まれている。朝の日差しを受けて小さく煌くそれを見て、まどかはそれを宝物のように大事に握りこんだ。
キュゥべえは、できるだけ肌身離さず持っているようにと言っていた。流石に学校に持っていくことは出来ないけれど、それ以外の時は常にこうして身に着けているのだ。
そんな指輪をゆるく握り締めながら、まどかは伏せた瞼の裏に、夢で見た最後の光景を思い浮かべていた。無数の氷塊が散らばる宇宙空間の中を、青い光をたなびかせて走る戦艦の姿。赤い巨躯から無数の突起を生やし、ぼんやりと緑の光が機体前方に浮んでいた。
素人目に見ても、格好いい艦なんじゃないかとまどかは思う。けれど何故だろう。その姿はどこか、物悲しげにも見えてしまっていた。
「グリトニルに続き、ウートガルザ・ロキまでも……」
中空に浮ぶ無数のモニター、そこに描かれたさまざまな映像を眺めながら、円卓を囲む者達の一人が静かに呟いた。言葉は静かでも、その表情にはありありと驚愕の色が見て取れる。
そこでは地球連合軍の高官達による緊急会議が行われていた。
その議題は、逆流空間を抜け太陽系に進入。グリトニル及びウートガルザ・ロキを破壊し尚も地球に迫る、正体不明のバイドの艦隊のことであった。
「まさか、バイドにここまでしてやられるとは……オペレーション・ラストダンスへの影響は大きいですな」
オペレーション・ラストダンス。
今まで行われてきた数多くの対バイド作戦。第二次バイド討伐艦隊及び究極互換機を投入してのバイドとの最終決戦。その間、地球を守るための盾であり矛である重要拠点が、既に二つも破壊されているのだ。
尚もバイドの艦隊は地球へ向けて侵攻を続けている。これ以上の被害を出す前に、どうにかこれを掃討しなければならない。
「しかし、グリトニルとウートガルザ・ロキを陥落せしむるとは……。敵艦隊の勢力はそれほどまでに大きいということか。そうなると対応も難しくなるが」
「いえ、偵察機が持ち帰ったデータによると、敵艦隊の規模はそれほど大きくはないとのことです。今までの交戦データと比べてみても、恐らく一個艦隊程度の戦力かと」
そう、数は決して多くはない。その事実がまた、会議を紛糾させる原因となっていた。
「では何故ここまでの侵攻を許しているというのだ!いつの間に太陽系外周部防衛部隊は、質ですらもバイドに劣るようになっていたんだ?」
嫌味っぽい口調で噛み付く男。
「太陽系外周部防衛部隊は、各地から選別された精鋭揃いであることは貴方も知っているはずでしょう?」
不快さを隠そうともせず、返す言葉を投げかける女。
「だとして、それこそ納得のいかないことばかりだ。何故数で遅れを取っているわけでもない敵を相手にあの太陽系外周防衛部隊が破れたのか、何故ここまでの侵攻を許しているのか」
皆、薄々は感じづいているのだ。ただ、その事実を認めたくないというだけで。きっと何か、不幸な事故が重なったのだと信じたいのだ。
「……先のカイパーベルト宙域での戦闘データを見させてもらった」
一同の中で、一際豪華な椅子に座った男が静かに言葉を放つ。地球連合軍総司令官の言葉に、皆が一様に静まり返る。
「データを見る限り、敵部隊を追い詰めていた我が軍は敵を深追いする余りウートガルザ・ロキの射線へと進入してしまい、纏めて消滅の憂き目を見ることとなった」
味方機の戦闘記録を見る限り、恐らくそうであったのだろうと推測はできる。
「だが、我が軍が敵の追撃を開始したのと時を同じくして敵軍がウートガルザ・ロキの射線内に部隊を移動させている。……偶然にしては、余りにも出来すぎているな」
重い沈黙が、その場を支配した。次に放たれるであろう言葉を、誰もが固唾を飲んで待っていた。
「認めようじゃないか。今回のバイドは、今までのものとは違う。生態としての擬態や侵食、単純な奇襲を行ってくるような敵とは違う。確たる意思と戦術を持ち、部隊の運用を行っている。我々と同様、いや、それ以上に巧みにだ」
それは誰にとっても信じられない言葉で。特に今尚バイドとの戦いにおいて指揮を執る者にとっては、最早屈辱的とすらもいえるような言葉だった。
攻撃本能のままに、全てを侵食するだけのはずのバイドが戦術を習得している。それも、自分たちよりも上手なのだという。そんなことがあっていいはずがない。
「それが事実であるならば、我々は戦い方を変えなければならない。それぞれ独自の裁量で運用されてきた各方面軍の指令系統を一新し、全部隊が身軽に動けるようにする必要もある。優れた戦術を持つ敵に対抗するためには、こちらも優れた指揮官を用意する必要がある」
暗に現在の指揮官達が無能であるかのような言い草に、主に若い将校からは不満げな視線も向けられていた。それを意にも介さず受け流しながら、総司令官は言葉を続ける。
「いずれにせよ、これ以上奴らに太陽系を荒らされる訳にも行かん。敵は海王星方面から地球へと向かっている。第三から第五までの全方面軍の力をもって、これを撃滅する!」
それはすなわち、各方面軍が常時行っている多方面からのバイドの侵入に対する警戒。それを緩めてまで、今迫りつつある敵への対処に充てるということで。それほどまでに、地球連合軍はそのバイドの艦隊を脅威であると捉えているということだった。
「人員の選別は現場に一任する。とにかく戦力をかき集めることだ。……他に、何か意見はあるかね」
語勢も強く放たれた言葉に、異を唱える声など表れるはずもなく。会議は終わり、人類はついにその恐るべき敵と直面する。幾重にも張り巡らされた地球軍の防衛網を突き破り、地球へ迫るその敵と。
ティー・パーティーへと、新たな機体が搬入されてきた。
オペレーション・ラストダンスのパイロット候補を抱え、それ以外にも優秀な乗り手を擁するこの艦を、軍上層部や研究者達も優秀な部隊であると認識したのだろう。今回搬入された機体達は、そんな期待を裏付けるようなものだった。
「……どうにも、私とこの機体は切っても切れない関係のようね」
ほむらの眼前で、格納庫に眠るその機体。外観はラグナロックと変わらない。
仕様書によれば、ラグナロック・ダッシュの運用データを元に、更なる波動砲の威力の追求及び機体の安定性の向上を図って開発された機体なのだという。
現存するすべての波動砲の中でも最大の威力と攻撃範囲、そしてチャージ容量を備え持つギガ波動砲が搭載され、機体の安定性を向上させるためハイパードライブはオミット、フォースもサイクロン・フォースのみとなっている。
そう言うと波動砲以外さして変わっていないようだが、この機体は正真正銘のエース仕様であり、安定性を可能な限り高めた上で機体性能も従来の機体とは一線を画すものとなっていた。
その機体に与えられた名前はR-9Ø2――ラグナロックⅡ。
アローヘッドより連なるR-9直系機の、まさしく最終最後、そして最強の機体であった。
「やっと、あたしにもまともな機体が回ってきたって感じだな」
にっ、と満足そうな笑みを浮かべて杏子はその機体を眺めた。
もともとは青かったはずの機体は、彼女のパーソナルカラーである赤に塗りなおされている。それがまたちょっと嬉しくて、まだぴかぴかの機体の表面に軽く触れて。
それはR-9AD3――キングス・マインド。
デコイユニット装備型機体の最終機であり、最大6機ものデコイ生成を可能とするデコイ波動砲による高い制圧力を持つ機体である。もちろん最新鋭の機体ということもあり、基本性能も決して低くはない。
その性能から、牙持つ影を操る狂王、ドンマイ(笑)などと揶揄……ではなく一応呼び名は高いらしい。
今まで癖の強い期待ばかりが回ってきた杏子からすれば、それは相当にマシな機体であるように思えた。
「さっさと慣らしてやりたいもんだね。楽しみだ」
期待を胸に、杏子はそう呟いた。
「あたしはあの子のままでいいんだけどなー」
ちょぴり憮然とした表情で、搬送されてきた機体を見つめるさやか。鮮やかな青に染め上げられた機体に濃紺のキャノピー。機体の形状自体はラグナロックに似通っている。
「……まあ、でもこの子も強かったから、いいかな」
手元の仕様書に書かれた名前に目を通して、自分を納得させるように笑った。その機体は、かつてエバーグリーンを攻略する際にさやかが使用した機体。R-9Leoことレオの発展進化機。R-9Leo2――レオⅡであった。
レオの特徴であるサイビットの強化による、サイビット・サイファの持続時間の増加。さらに専用フォースであるLeo・フォースもLeo・フォース改となり、各種レーザーの威力も飛躍的に上昇している。
唯一の弱点であった波動砲の容量不足についても解決しており、標準的なスタンダード波動砲を搭載可能となっていた。まさしく攻防の双方において最強クラスの能力を持つ、光学兵器を主とするタイプのR戦闘機としては一つの完成系と言ってもよいほどの名機であった。
「ふふ……ついに、ついにやってきたわね」
ひときわ大きく物々しい、そして見覚えのある機体を、マミは溢れんばかりの喜びを持って迎え入れた。その機体は二つの部位からなり、R戦闘機としての機能を集約した部位と、巨大な砲身とに分かれて搬入された。
R-9DX――ガンナーズブルームのコンセプトである単機による戦略級砲撃と、戦闘機としての戦闘能力の両立を図り開発されたその機体は、長大な砲身から放たれる超絶圧縮波動砲によるの戦略級攻撃と、それをパージしての通常戦闘の両方を可能としていた。
その通常戦闘においても通常の圧縮波動砲を発射可能であり、超絶圧縮波動砲の反動を支えるブースター出力を持って、高い突破力を誇っていた。
その機体の名はR-9DX2――ババ・ヤガー。
古い伝承の魔女の名を持つ機体が、マミに授けられたのだった。
「流石に、随分と場所を食ってしまうわね」
苦笑交じりにマミが言う。
その言葉の通り、その長大な砲身はそれだけで優に二機分の搭載スペースを必要としていた。それに加えてR戦闘機が4機である。
ティー・パーティーの格納庫は、今や完全にバイドを滅ぼすための力で埋め尽くされていた。
「受領の手続きが終わったら、早速試運転と行こう。太陽系内に侵攻してきたバイドのこともある、もしかしたら、ボク達の出番が来るかもしれないからね」
新しい機体、恐らくティー・パーティーで運用される最後の機体になるであろうそれらを眺めて、なんだかんでで少しはしゃいでいる様子の少女達。そんな彼女達の様子を一通り眺めて、キュゥべえが口を開いた。
「やっぱり、大分攻め込まれてるの?」
キュゥべえの言葉に、皆の表情が一様に固くなる。さやかが、確認するように尋ねた。
「第三方面軍は壊滅、ゲイルロズも陥落したようだ。現在第四及び第五方面軍が、アテナイエを擁して木星軌道上での決戦に備えているようだね」
敵の勢いは止まらず、尚も地球を目指して侵攻を続けている。堅牢を誇っていたはずの要塞ゲイルロズは既に陥落。事実上、アテナイエが地球を守る最終防衛ラインとなっていた。
万が一ここを抜けられたのならば、最早地球へ迫る敵を阻むものは何もなくなってしまう。
「しかし、信じられないよな。戦術を駆使するバイドだなんて」
認めたくはない。けれど認めるしかない事実を苦々しげに杏子が語る。
もしもこれから遭遇する全てのバイドがこれだけの戦術を持ちうるというのならば、それは人類がバイドに対して持ちうる、数少ない優位が失われてしまうことになる。そうなれば量で劣る人類に、バイドに抗し得る手段はなくなってしまう。
「……木星宙域には、優秀なパイロットも集められているわ。それに、第四、第五方面部隊も含めれば彼我の戦力比は5倍相当と推定されているはず。たとえ敵がどれほどの優秀だとしても、ここで終わるはず」
努めて冷静にほむらが言う。けれどそれだけ性格に事態を把握しているということは、それだけ情報を入手しているということで。それはすなわち、それだけ敵を警戒しているということでもある。
「……大丈夫よ。それに、もしここまで近づいてくるようなことがあったら。
そうなる前に、私が残らず撃ち落としてあげるわ」
自信げに、それでもどこか余裕を持って、冗談まで交えてマミが言う。確かにあのババ・ヤガーの異貌とマミの能力があれば、本当にそれが出来てしまいそうだから恐ろしい。
R戦闘機同士のドックファイトでは遅れを取るマミではあるが、その狙撃の素質は群を抜いていた。本来は監視衛星などのバックアップを受けなければ、とても運用することが出来ないはずの最大射程での狙撃を、純粋に機体に搭載された光学望遠のみでやってのける。
それは最早、魔弾の射手としか言いようのないほどで。
「ええ、頼りにしてるわ。マミ」
そんな様子に、内心張り詰めていたものが少し薄れたように、くす、と小さくほむらは笑った。
どれくらい眠っていたのだろう。目を覚ますと、そこには激しい戦闘によって傷ついた機体と、同様に激しく傷ついた宇宙が広がっていた。視線を巡らせれば、巨大な木星の姿がすぐそこに見える。
そうだ、思い出した。
要塞ゲイルロズを攻略した後、木星へ向けて出発した我々の前に見たことのない巨大な人工天体が現れたのだ。無数の攻撃衛星と大量の艦隊を率いるその人工天体に、我々はかつてないほどの苦戦を強いられた。
周囲に展開されていた攻撃衛星のコントロールを奪うことに成功していなければ、今頃我々は宇宙の藻屑となっていただろう。
攻撃衛星との挟撃により敵艦隊を撃破し、人工天体への攻撃を開始した。しかし、敵艦隊の戦力はこちらの予想をはるかに上回っていた。
艦隊を撃破して穴を開けた防衛ラインはすぐさま増援の艦隊によって塞がれて、我々は人工天体の攻略と同時に、敵増援の迎撃も行う必要に迫られた。
どちらか片方だけでも総力戦、間違いなくまともにぶつかれば全滅は必須だった。
苦しい選択を強いられることになった。最低限の部隊を足止めに残し、総力を挙げて人工天体の攻略へと乗り出したのだ。人工天体の中枢部さえ押さえることが出来れば、ここを拠点に敵の増援に立ち向かうこともできる。
足止めに残った部隊は、間違いなく全滅することだろう。彼らの死を無駄にしないためにも、こんなところで負けるわけにはいかなかった。
そして、足止めの部隊が全滅し、追撃する艦隊が我々のすぐ後方にまで迫ったその時に。我々はどうにか、人工天体の中枢を押さえることに成功した。すぐさま人工天体内部へ負傷した艦隊を収容し、その火力を持って地球軍を迎撃する。
当初は浮き足立っていた地球軍も、すぐに人工天体を攻撃目標と設定し熾烈な艦砲射撃を浴びせかけてきた。
このままでは長くは持ちはしないだろう。負傷した部隊の修理ももうしばらくかかる、しかし敵はそんな余裕すらも与えてはくれないようだった。
打って出るより他に、術はなかった。
人工天体を盾にするかのように前進、持ちうる全ての火力を持って、敵陣の中央へと突攻を仕掛けた。敵陣深くまで食い込み、宇宙を光の色に染めるほどの砲撃を叩き込まれ、ついに人工天体が沈黙する。
巨大な爆発。肉薄していた地球軍の部隊が煽りを受けて撃沈していく。その隙を突いて、私は全部隊に総攻撃の命令をかけた。
隊列を乱した地球軍の艦隊と、我々の艦隊がついに真正面から撃ち合うこととなったのだ。人工天体を犠牲にしたことで数の上での不利こそは解消されたものの、艦隊の損傷具合は激しく、次々に味方が墜とされていく。
まさしくそれは乱戦としか言いようのないもので、私も旗艦を手ずから前進させ、敵艦への砲撃を開始した。
どれほど戦っていたのか、分からないほどに長い時間が過ぎていた。ここまでとにかく戦い続けていたから、もう休みたかった。
気がつけば、遥か彼方に撤退していく敵の部隊の姿があった。敵の旗艦も、どうやら不利を悟って部隊を引き上げさせたようだ。
なかなかに見事な引き際だった。地球軍の中にも、まだまだ優秀な士官は居るということなのだろう。とはいえ、それはすなわち我々の前に強敵として現れるということなのだから、喜んでもいられないのだが。
そうだ、私は戦闘の終了を確認して、そのまま倒れるように眠ってしまっていたのだ。一体どれくらいそうしていたのか、最早時間の感覚すらも曖昧になってしまった。ようやく状況が飲み込めてきた、まずは部隊の被害を確認しなければ。
余りにも被害が大きいようなら、どこかで修理を済ませなければならない。
………どうやら、思いの外被害は少なかったようだ。まさか、勝手に機体が損傷を修復するはずもないのだから、きっとそれほど被害は多くなかったいうことなのだろう。
もうじき地球が見えてくるかもしれない。そう思うと、自然に胸の鼓動が早くなるのを感じた。
地球軍の防衛施設を破壊した。
次はいよいよ火星だ。
→帰還する
「ふぅ、まったく。なんてザマだ」
テュール級5番艦、スキタリスのブリッジで、その男は静かに毒づいた。
「あれだけの大部隊に加え、アテナイエまでもが陥落するとは。……まったく、バイドにしておくには惜しいほどに優秀だな、敵の指揮官は」
万全は尽くした。それでもあの敗戦である。それはどういうことかといえば、敵の戦術がこちらのそれを上回っていたということに他ならない。
“攻撃衛星”アイギスに加え、方面軍の1/3を囮にして、敵を懐深くまで引き寄せた。そして残りの部隊で敵を包囲し、アテナイエとの挟撃で敵を撃破するという作戦自体は成功していた。
ただ予想外だったのは、敵があれほど早急にアテナイエを陥落せしめたことだけだろう。改めて実感する。敵は、かつてないほどに手強い。
敵の損害も少なくはないだろうが、かといってあの程度で止まってくれるほど容易い相手ではないだろう。今度こそ、負けるわけには行かない。
「提督、地球連合軍本部より通信が入っています」
副官の女性が、思索に耽る男に呼びかける。
「ああ、繋いでくれ。ガザロフ中尉」
深刻な表情でガザロフ中尉に言葉を告げたその男は、そう。かつてエバーグリーン攻略戦においてさやか、杏子の両名と協力し、バイドの掃討に尽力した九条提督であった。
地球圏は、いまだかつて無い未曾有の危機に直面していた。太陽系内部へのバイドの侵攻自体は今までに例が無かったわけではない。しかし、それはいずれも奇襲の類に分類されるものであった。
今回は、今までとはまるで状況が違う。
真正面から攻め込んできたバイドの艦隊は、十重二十重に張り巡らされた防衛ラインをすべてその力で捻じ伏せ、いまや火星基地をも突破しているのだ。
この状況に焦り、地球連合軍は全方面軍の投入を決定。しかし、太陽系内の各所に展開している各方面軍が地球に集結する前に、敵が地球に到達するであろうことは確実とされていた。
木星軌道上での決戦から逃げ延びた艦隊を再編成し、月軌道上において地球圏最終防衛ラインの配備が進められている。
もしこれで敵を止めることが出来なければ、そうなれば。後はもはや、地球上での本土決戦を余儀なくされていた。
そんな慌しい軍の動きは、自然と人々の知るところとなっていた。木星決戦での敗北以降、地球連合軍は民間人の地球外への渡航を制限した。さらに民間用星間ネットワークの一時凍結を宣言。
徹底的な情報封鎖により、地球住民のパニックの発生を防ごうとしていた。
けれど、その急な動きが逆に人々の不安を煽っていく。既に多くの人間は感じ取っていた。地球は、かつて無いほどの危機に直面しているのではないか、と。
一般放送されるようなニュースでは、軍の情報統制は行き届いているようだったが、アングラでは既にさまざまな憶測が飛び交っていた。何しろ、バイドの艦隊は既に火星を通過しているのだ。下手をすれば望遠鏡でも覗ける距離である。
事実、ちらほらとそういう話も出てきてはいた。
それでもまだ、幸か不幸かまどかはその事実を知ることなく、見滝原で夢と現を行き来する日々を過ごしていた。
「何であたしらは月に行っちゃだめなのよっ!!」
ティー・パーティーのブリッジで、さやかがキュゥべえに詰め寄った。
優秀なパイロットに、最強クラスの機体を抱え。間違いなくティー・パーティーは巨大な戦力である。それこそ戦局を左右しうるほどの。
だからこそ、その自分達がこれから月での決戦が始まろうとしている時に、地球で待機せよという命令しか与えられていない事実に、さやかは憤慨していたのだ。
「こうしている間にも、あのバイドのせいでたくさんの人が死んでるんだよ?なのに、何であたしらは戦いに行っちゃだめなのよ、キュゥべえっ!!」
「戦死者はそれほど多くは無いよ。さやか。今回のバイドはなぜか市街地や都市部への直接攻撃はしていない。立ちふさがる軍だけを蹴散らし、ひたすら地球へ向かっているんだ」
キュゥべえは、こんな時にでも表情の読めない顔で淡々と言葉を返す。その落ち着きぶりが、またしてもさやかを苛立たせた。
「たかだか10万人程度じゃないか、太陽系の全人口200億人と比べれば取るに足らない数字だよ」
「ふざけないでよ。……人が、人がこんなに沢山死んでるんだよ……なのに、どうしてよ」
今にも掴み掛からんばかりの勢いで、激しい怒りをその瞳に燃やしてさやかが迫る。
「……それは、ボクが決定した事じゃない。連合軍上層部の決定だ。ボクが何を言っても、いまさら覆るものじゃない事だけは確かだね」
キュゥべえの言葉に、さやかも怒りの矛先を間違えていたことに気づく。膨れ上がっていた怒気はひとまず静まったものの、それでも到底納得などはできるはずがない。
けれど、さやか一人が文句を言ったところでどうにもならないほどに、地球連合軍という組織は巨大だった。
「少し……頭冷やしてくる」
「それが賢明だね」
最後にそうとだけ言葉を交わして、さやかはブリッジを後にした。
向かった先は、ティー・パーティーの甲板部。
白い船体のカラーリング同様、その甲板も白く染め上げられていた。甲板といっても、旧来の船のようにマストが必要なわけでもなく、砲台なども設置されていない輸送船である。
ただただ、何も無いだだっ広い平面が広がっていて、申し訳程度に転落防止の柵が付いているくらいだった。
その、一面の白の中に一つだけ、鮮やかな赤を放つものがあった。
「……杏子」
「よう」
柵に身を預けてその先に見える無数の艦影を眺めていた杏子は、さやかの声に振り向いて軽くその手を上げた。
ここは、北米に存在するティアット基地。ティー・パーティーは現在、他の艦隊とともにこの基地にて待機するよう命令を受けていたのである。
いつでも艦を出せるように準備をしろとは言われているものの、ティー・パーティーがこの基地を出撃する予定時刻は、基地に停泊している艦隊の中でも一番最後。
まともに戦わせるつもりなどないことは、もはや明白と言わざるを得なかった。
「何、してんだ。わざわざこんなとこまで来て」
「……はは、そりゃこっちの台詞だっての」
いつものように交わす軽口も、どこか空回りしているようで。
「……少し、頭冷やそうと思ってさ。あのままじっとしてたら、おかしくなっちゃいそうで」
「ああ、わかるよ、その気持ち。……あたしもさ、似たような感じなんだ。バイドはもう地球のすぐそばにまで迫ってる。なのに、あたしらはこんなところでじっと待っていることしか出来ない。……正直、歯痒いよな」
隣、いい?と小さく尋ねたさやかに、杏子は静かに頷いた。
並びあって二人、杏子は、片手に持っていたボトルをさやかに投げ渡した。無言でそれを受けとって、蓋を開けて口をつけた。
甘さと、その後にわずかな酸味を感じる。飲みなれたスポーツドリンクの味だった。
「もうそろそろ、月では戦いが始まる頃だな」
そう言うと、杏子は視線を空に投げる。まだ昼の明るさに負けて、そこにあるはずの月の姿は見て取れない。
「……勝てるの、かな」
同じように空を眺めて、さやかが静かに呟いた。
わかっているのだ。木星宙域での決戦は、間違いなく人類にとって総力戦と言うべき戦いだった。その後の火星での戦いを経て、ついに敵は月へと迫っている。
人類は、各戦闘における敗残兵を集めて、かろうじて月軌道上に艦隊を展開しているに過ぎない。勝てるはずなど、ないのだ。
「勝ってもらわなくちゃ、困るだろ。……でも、もしあいつらが地球にまで近づいてきたら。その時は……いつまでもこんなとこで燻ってるつもりはねぇさ」
それは、暗に命令を無視してでも戦いに往こうという覚悟であったのだろう。いずれ戦いの色に染まるかもしれない、けれど今はただ青く平和な空を見上げて杏子はそう呟いた。
「……いいの?ばれたら営倉行きだよー?」
そんな杏子に、少しおどけた調子でさやかが答えた。けれどさやかも心の内は同じ。もしも地球が戦火に晒される日が来たのなら、それを黙っていて居られるはずなどなかった。
バイドの脅威を払うため、それに脅かされている人々を、一人でも多くの命を救うため。それがさやかの信じる正義で、彼女の絶対に揺るがない戦う理由だった。
「構うもんかよ。第一、勝手に出撃すんのはあたしの十八番だ」
うっすらと唇を歪めて、歯を見せて杏子が笑う。
「そういや、あたしらが最初に出会ったときもそうだったっけね」
答える声は、どこか懐かしげで。
エバーグリーン攻略戦の最中、二人は出会い、仲違いをしながらも共闘し。そして、今もこうして二人一緒に戦っている。つい最近のことなのに、さやかにも杏子にも今の関係が随分と長い付き合いであるかのように感じていた。
「……なら、あたしも行くよ。あんた一人を行かせたりしない」
「言うと思ったよ。……なら、一緒に行こうぜ。さやか」
その声はどこか嬉しげで。杏子はそのまま、さやかに手を差し出した。当然、さやかはその手を取った。そして気付く。その手が、微かに震えていることに。
「っ……はは、実はさ。……何か、震えが止まらないんだよな」
手を取り合ったまま、苦笑交じりに杏子が言う。けれど、その笑みも静かに消えて行き。後に残ったのはどこか辛そうな杏子の表情だけで。
「……実を言うとさ、怖いんだ。笑っちゃうよな。死ぬのも、正直言って怖い。けど……それだけじゃないんだ」
さやかは静かに耳を傾けて、その手をぎゅっと握った。杏子の何時もの強がりが、内心の恐れや弱さを隠すためのものであると、さやかも薄々は分かっていた。
けれど、それをこうして直に打ち明けられるのは初めてで。
「月の連中がやられたら、ついに敵の艦隊が地球にやってくる。あたしらがそれを倒せなかったら、地球は、人類はそれで終わりだ。……今まで、考えたこともなかったんだ。自分の戦いが、本当に人類の存亡なんてとんでもないことに関わってくるなんて」
その手の震えは止まらない。恐ろしいのだ。死ぬことよりも、その手に肩に圧し掛かる重圧が。背中に地球を抱えて戦う、そのことの重さが、意味が、常に自分と身近な誰かのために戦い続けた杏子にはとてつもなく重く、恐ろしいものに感じられてしまうのだった。
「でも、まあ……大丈夫さ。きっと戦う時になりゃあ、そんな怖さなんてどっかにい――っ!」
言葉の途中でその手が引き寄せられて、柵に預けたその身が揺れた。不意のことにバランスを崩して倒れこむ身体を、何かとても柔らかで、暖かなものが支えていた。
仄かに甘い、どこか心地よさを感じるような匂いに包まれて、その背を優しい手が撫でていた。驚く気持ちよりも先に、それを心地よいと感じてしまって吐息が漏れる。
震える手さえも、その恐怖さえも一緒に包み込まれてしまうような安らぎを感じながら。
隠し通すことの出来なくなった弱音を吐き出す杏子の表情は、とても儚いものに見えた。それこそ、今にも霞んで消えてしまいそうなほどに。
触れ合う手の感触は残っているのに、それだけでは足りなくて、頼りなくて。気がつけばさやかは、その手を強く引いていた。
倒れこむようにバランスを崩した杏子の身体を、しっかりと受け止めて抱きとめる。思っていたよりもずっとその身体は柔らかで、小さくて、そして暖かかった。
自然とその手は背中に回り、優しくその背を撫でていた。胸元に顔を埋めるように抱きしめてしまったから、その表情は見えない。けれど、嫌がるそぶりも跳ね除けるような様子もない。
身じろぎもせず、ただ抱きしめられて身を預けるままの杏子。さやかもまた何も言わずにその身体を抱きしめて、ただただ互いの熱を伝え合っていた。
やがて、どちらからともなくその身を離し。
「……いきなり、何すんだよ」
俯いていた顔をゆっくりと上げて、震える声で杏子が呟く。
頬は朱に染まり、瞳の端には涙を湛えて、ほろりと零れてしまいそうに潤んでいた。その手はまだ互いに握り合ったままで、もう片方の手は所在なさげに長い髪を弄びながら。
「……いや、なんとなく」
まさか、今にも杏子が消えてしまいそうだったから、なんて言えようはずもなく。そして、もしかしたら照れているのかも知れないそんな杏子の姿が、どうにも可愛らしく見えて。
同じように頬に朱を差して、視線をどこかに泳がせながらさやかが答えた。
「なんだよ、そりゃあ」
呆れたように杏子が言う。
その手は、もう震えてはいなかった。
「正直、あたしだって怖いよ。誰だって怖いはずだよ。そんな重いものを背負わされたら」
もう一度身体を柵に預けて、再び空を見上げてさやかが言葉を紡いでいく。
「だから、それはきっと……みんなで背負うものなんだ。みんなで、一緒に。……でなきゃ、立ち向かえないよ。バイドにだって勝てやしない」
倣って、杏子も再び柵に身を預け。
「みんな同じ、か。……身も蓋もない言い方だけど、それもそうかもな。……なんか、気にしすぎてた自分がバカみたいだ」
「実際そうなんじゃない?さっきのあんた、まるで自分が世界を救う英雄みたいな言い方だったよ?」
ようやく少し調子が戻ってきたのか、さやかも冗談を飛ばし始めたけれど。
「……あー、くそ。らしくないこと言っちまった。ほむらじゃあるまし、な」
本当に英雄になってしまった仲間のことを想い、笑う。
彼女は自分が誰かもわからないような暗闇の中、彼女は英雄になることを選んだのだ。その背に圧し掛かる重圧は、きっと今感じてるものとは比較にならないほど重い。
それを受け止めて、立ち向かい。人類の希望の全てを背負って。やがていつかほむらは往くのだろう。だとしたら、その前に立ちはだかる最大の障害がこれだ。
負けるわけには行かない、負けられるはずがない。
杏子の瞳に、再び力強い光が宿る。
それを見て取って、満足そうにさやかが笑う。
「ふふ、どうやらさやかちゃんのハグは効果覿面だったみたいだね~♪」
おどけるように言うさやかに、いつもの軽口で返してやろうかと考えたけれど、それは止めにすることにした。きっと、さやかにはこっちの方が効果があるだろうから。
先ほどの余韻で朱の抜けない頬と、潤む瞳をさやかに向けて。
「ああ、すごく助かった。だから……全部終わったら、もう一回……してくれないか?」
「んなっ!?」
それこそ効果は覿面で、音が聞こえてくるような勢いで顔を紅潮させてうろたえるさやか。
「……くくっ、なんてな。たまにはこういうのも効くだろ?」
十分に効果を発揮してくれた冗談を、そしてちょっとだけ混ざった本心を労って。さもおかしそうに杏子が笑って言う。
さやかはいまだにその衝撃から立ち直れていないようで、らしくないところを見せてしまったことへの意趣返しとしては、これくらいで十分だろうと考えていた。
「あ、あんたねぇ……ったく、本当にいい性格してるんだから」
してやられた、と言った顔でさやかが返す。頬を軽く指先で掻きながら、つま先を甲板に押し付けながら。俯きがちに、囁くような微かな声で。
「……でも、いいよ。全部終わったら……もう一回、しよ」
押し寄せる戦いの気配を知ってか知らずか、蒼穹の空はどこまでも広く澄み渡っていた。
「何をしているの、マミ?」
機体の準備をやや丁寧すぎるほどに済ませると、いよいよ何もすることがなくなってしまった。新たな機体であるラグナロックⅡは、確かに常軌を逸した性能を持っている。そして、それを用いて立ち向かうべき相手はすぐそこにまで迫っていたはずなのに。
未だにティー・パーティーに出撃の許可は出されていない。それどころか、本当に出撃させるつもりがあるのかすらも怪しい状況である。
そんな中、手持ち無沙汰に艦内を歩き回っていたほむらは、電算室でコンソールと向き合うマミの姿を見つけた。真剣な面持ちでコンソールの画面を見つめて、何か呟いてはまたデータを打ち込んでいく。
そんな様子が気になって、ほむらは声をかけたのだった。
「ああ、暁美さん。いえ、大したことじゃないのよ。ただ、ババ・ヤガーの運用の仕方について色々と考えていたのよ」
確かに、そのコンソールの画面に映し出されていたのはババ・ヤガーの姿。そして無数の戦況のシミュレーションが同時に表示されていた。
「少し、見せてもらってもいい?」
「もちろん構わないわ。一緒に戦うことになるんだもの、知っておいても損はないはずよ」
マミの許可を得て、ほむらはそのデータに目を通していく。
監視衛星からのリンクなしでの最大狙撃可能距離、チャージ途中での発射時の容量と射程距離、威力の変動図。敵の予想侵攻ルートから推測される、この機体が陣取るべき待機地点。超絶圧縮波動砲が、どこまで連射に耐えうるか。
ガンナーズ・ブルームにおける運用実績と、ババ・ヤガーの性能を擦りあわせて作られたそのデータは、とてもではないが中学生の少女に作成し得るレベルのものではなかった。
「……いつの間に、これだけのデータを」
これには、ほむらも驚くより他になく。驚くほむらに、マミはこともなげに笑いながら言う。
「習慣だったのよ。どうしたらもっと効率よく戦えるか。どうしたら……いつか仲間が出来たとき、協力し合って戦っていけるか、って」
そう、マミはさやかとほむらが宇宙に上がるよりも前から一人で戦い続けていたのだ。一人で戦い抜いていくために、そしていつか仲間と一緒に戦える日のために。ずっと、その力と知識を磨いてきたのだ。
それは間違いなくマミの力になっていて、稀有な才能であるとも言えた。
「……でも、多分今回の戦いに、私達の出番は無いでしょうけどね」
苦笑めいて、半ば自嘲するような雰囲気さえも垣間見せて、マミが言う。
「確かに、私達の出撃は一番最後よ。でも、出番が無いとは思えないのだけど」
そんなマミの様子に、ほむらは不思議そうに尋ねる。
この艦の戦力は、恐らく一つの艦が持ちうる戦力としては最強クラスのものであろう。強大な敵が目の前に迫っている今、その力が使われない理由は無いと思うのだが。
「私達だけならそうでしょうけど、今は状況が違うのよ。暁美さん、貴女はきっともうすぐ英雄になる。きっと軍の上層部は思っているはずよ。こんなところで、うっかりその英雄に死なれでもしたら困る、とね」
座っていた椅子を回して、コンソールからほむらへと視線を移して。マミは静かにその考えを打ち明けた。間違いなくそうだと言える訳ではないが、これだけの戦力を保有した部隊を飼い殺しにしておく理由は他に見つからなかった。
「そんな……それじゃあ、私達はずっとここで待っているしかないっていうの!?」
考えもしなかったことを突きつけられて、ほむらは感情を顕にマミにに食って掛かる。英雄になるということは、単にバイドと戦い続ける事だと思っていたほむらには、それはとても意外な事実だった。
「……戦況が悪化すればその限りではないと思うけれどそれでも、私達が戦う事になるのは相当先のことになると思うわ」
「この期に及んで、戦力を出し惜しむなんて……どうかしてる」
間違いなく、今回の敵は人類が今まで遭遇してきたバイドの中でも最も手強い。それを打倒するのにはもはや、手段など選んでいられるはずもないのに。
ほむらの心はじりじりと焦燥に焦がされる。その手は硬く握り締められていて。
「……なら、勝手に出撃しちゃいましょうか」
「えっ……」
そんなほむらにマミが言う。冗談めいた声にも聞こえるが、その瞳は静かな光を湛えたままで。
「できると思うの?たとえ出来たとして、間違いなく軍法会議ものよ。下手をすればそのまま撃墜されてもおかしくない」
「それは恐らくないわ。やがて英雄になる貴女は、実際人質みたいなものだもの。キュゥべえがどう動くかはわからないけれど、私達全員が力を合わせれば、恐らくこの艦くらいは動かすことは出来ると思うわ」
あくまでマミの口調は軽い。重大な規律違反を勧めているようにはとても聞こえない。そんな腹芸までしてみせるマミが、心強くもあり恐ろしくもあった。
自分とはまた別の意味で、マミは歳不相応な才覚を持つ人間なのだと。ほむらはそれを悟った。
「マミ。……貴女の意見を聞かせて。それから判断したい」
ほむらの言葉に、マミは軽く口元に手を当てて、考えるような仕草を始める。本当に考えているのか、それとも既に心は決まっているのかはわからない。
それでも、マミは話し始めた。
「そうね、ここに留まるのも勝手に出撃してしまうのも、どちらもメリットとデメリットがあるわ。勝手に出撃してしまうメリットとしては、ティー・パーティーの戦力を加えることで、局地的な戦闘における有利はかなり確立できると思う。けれど、デメリットとしては他の地球軍の部隊との連携が取りづらいってことかしら。それに、間違いなく私たちの立場も悪くなる」
一頻り考えを述べてから、小さく一息ついて。時折頷きながら聞き入っているほむらを見つめて、再び口を開く。
「ここに留まるメリットとしては、地球軍にとっての最後の切り札になることができる。他の方面軍が来るまで耐えることが出来れば、それと連携して戦う事も出来るはずよ。デメリットとしては、初動が遅れて地球や軍に被害が出るであろうこと。そして――」
そこで一度言葉を切って、困ったように、半ば呆れたようにマミは笑って。その表情には、確かに呆れや困惑は浮かんでいたけれど、決して嫌悪の色はなく。
「間違いなく、美樹さんと佐倉さんは勝手に出撃してしまうってことかしら」
ちょっとお茶目に片目を閉ざして、冗談めかしてマミは言う。それを聞いてほむらは、鳩が豆鉄砲食らったような顔で、目を見開いて。
「……あの二人も困ったものね」
「ええ、本当に」
そして、二人は顔を見合わせ小さく笑う。先ほどまでの、どこか張り詰めた雰囲気は一気に消え去っていた。確かにあの二人ならそうするだろう。そんな奇妙な確信があった。
「……まったく、意外といい性格してるわね、マミは」
殺しきれない笑みを唇の端に浮かべたまま、ほむらは一つ言葉を投げかけ。
「そうよ、それくらい強かじゃないと、一人でなんか生きていけなかったもの」
ふんわりと髪を揺らして、マミが軽く首を傾げて笑む。
「……決まりね」
やがて、決意したような表情でほむらが言う。
「ええ、決まりよ」
マミもそれに応えた。互いの顔を見据えて、そして一瞬沈黙。
その後に。
「「――行きましょう」」
二つの声が、重なって。
時を同じくして、見滝原。時差の都合で時間は夜。まどかは夢の中。
呼びかける。何度も何度も呼びかける。けれどその声は、月軌道上を舞台に激しく戦うロスの元へは届かなかった。
なんとしても届けたかった、話したかったのに。意識の底で、声も枯れんばかりに呼びかけ続けて、それすら返事はないと悟って。そして、まどかは目を覚ました。
「やっぱり……繋がらないよ。ロスさん。どうしてロスさんは……こんな事を」
目を覚ましたまどかの掌には、携帯端末が握り締められていた。そこには、ついに軍が公表した地球へと迫るバイドの艦隊の姿があった。
異形の行進その只中で、一際目を引く赤い戦艦。コンバイラ、と呼ばれたそれは。
まどかが夢の中で見た、ロスの駆る艦と同じ形をしていたのだった。
ジェイド・ロスは、英雄は、確かに地球に帰ってきたのだ。バイドを討つため地球を旅立ち、長く苦しい旅路の末に、多くの犠牲を払った末についに、その中枢を破壊したのだ。けれど、その果てに何が起こったのだろう。
気が付くと、彼らはバイドになっていた。
それでも彼らは地球に帰ろうとした。
けれど、地球の人々は彼らに銃を向けるだけだった。
それでも彼らは宇宙をさまよい続けた。
いつの日にか、地球に戻れると信じて。
――そして、今。
「地球上の全部隊に通達。月軌道上の防衛艦隊が、敵バイド艦隊と交戦。
防衛艦隊は甚大な被害を受け撤退。バイド艦隊は、現在地球へ向け侵攻中。
総員直ちにこれを迎撃せよ。
繰り返す、バイド艦隊が地球へ向け侵攻中、地球上の全部隊は直ちにこれを迎撃せよ!」
――我々は、帰ってきたのだ。
「始まったね。まさか、ここまで侵攻されるとは予想外だったけど」
順々に動き出す艦隊の動きを眺めつつ、キュゥべえは呟いた。その口ぶりは、この期に及んでもどこか他人事のようで。
――否、事実他人事なのだ、この生き物にとってこの戦いは。
キュゥべえは、この戦いにティー・パーティーを駆りだすつもりはなかった。ラストダンサーたるほむらにここで戦ってもらっては困るはずだと、出撃を迫る上層部を説き伏せた。
だから、この戦いはキュゥべえにとってはどこまでも他人事。それに、たかだか輸送艦一つ程度の戦力があったところで、大局は決して変わりはしない。
「……上手くやってくれると良いけどね、地球軍は」
そう言って、耳をふわりと揺らす。その姿が小さく光り、消失しようとしたその瞬間に。
「これは……こんな時に、どうしたんだろうね」
常に一つ確保しておいた緊急用の回線にその本来の用途で通信が入った。独立した回線とはいえ、大量の通信がやり取りされている中で、ノイズ交じりの声だった。
「一体どうしたんだい、まどか?」
その声の主は、見滝原にいるはずの鹿目まどかの声だった。
「よかった、キュゥべえ。繋がってくれたみたいだね」
既に見滝原にも避難警報が出されていた。とはいえ、どこに襲ってくるかも分からないバイドが相手である。いつでも避難を開始できる準備だけは済ませておいて、各自指示があるまで待機せよというもので。
それ故に、部屋の中からまどかはキュゥべえに呼びかけていた。その通信を繋いでいたのは、その指に輝く小さな指輪。
そう、キュゥべえから与えられたその指輪はソウルジェムではなかったのだ。
まどかはあの時、魔法少女となることを望まなかった。とはいえ、能力の暴走の危険性はやはりある。そこで、いつでもキュゥべえに連絡が取れるように、専用の通信装置を搭載したその指輪が与えられていたのだ。
「まさか、こんな時に連絡をしてくるなんて思わなかったよ、どうしたんだ、まどか?」
キュゥべえの声が返ってくる。やはりノイズ交じりで、音質はかなり悪い。それでも辛うじて聞き取れるその声に、まどかは意を決して答える。
「迎えに来て欲しいんだ。できればすぐに」
「……理由を聞かせてもらってもいいかい?」
わずかな沈黙の後に返ってきた声は、どこか不思議そうな感じを受ける声で。まどかは一つ深呼吸をして、自分の決意を改めて確かめた。
そして、一際強くはっきりとした声で伝えた。
「今地球に攻めて来てるバイドを、止められるかもしれないんだ」
「本気で言っているのかい?まどか。だとして、一体どうやって……」
「私は聞いたの。あのバイドの声を。あの人は……私達の敵じゃないんだよ」
そう、まどかももう悟っていた。ジェイド・ロスはバイドと化した。そして恐るべき敵として地球に迫っている。
けれど、ロスの意識はまだ残っている。説得する余地は、必ずあるはずなのだ。
「まさか、あのバイド相手に能力が発動したのかい?」
「うん。最初は分からなかったけど、今なら分かる。あの人は、ジェイド・ロスは……地球に、帰りたかっただけなんだ」
「ジェイド・ロス……だって?」
キュゥべえの声に、純粋な驚愕の色が混ざる。その名前は知っている。知らないはずがない。地球を旅立ち、未だ帰らざる英雄である。
まさか、本当にその英雄がバイドと化していたとしたら。その意思、指揮能力を保ったまま戦闘を続けているのだとしたら。
「確かに、そう考えれば納得もできる」
「私は、ロスさんを止めたいんだ。きっとわかってくれる。こんな戦いなんて、する必要はないはずだよっ!」
決意の言葉を言い切って、まどかが大きく息を吐き出した。
僅かな沈黙、そして。
「わかった、すぐに迎えを寄越す。家で待っていてくれるかい?」
根負けしたかのように、半ば諦め気味にキュゥべえは答えるのだった。
「ありがとう、キュゥべえ」
「まどかっ、そろそろシェルターに避難するよ。準備はできてるかっ!」
通信を終えて、静かに目を伏せたまどか。その部屋の中に、詢子が声と同時に飛び込んできた。その背には、一通りの貴重品や着替えを納めたバッグを背負って。
どうやら本格的に避難が開始となったらしい。こういう時の詢子の行動の速さを、まどかはよく知っていた。
だからこそ、今言うしかない。まどかは、詢子の顔を真っ直ぐに見つめると。
「ごめん、ママ。私……行けないよ。ここに居なくちゃいけないんだ」
「何バカなこと言ってんだっ!!」
避難の用意を済ませて、バッグとまだ幼い息子のタツヤを抱えてまどかの父、知久は二人を待っていた。
けれども聞こえてきたのは詢子の怒声で、何かあったのだろうかと慌てて部屋に駆け込んだ。
「何か、あったのかい?まどか、ママ?」
知久が見たものは、まどかの両肩を掴んだ詢子の姿。
「……まどかが、ここに残るって言ったのさ」
二人をちらと一瞥して、詢子は再びまどかに視線を移して。
「ママ、ちょっと落ち着こう。まどかも、どうしてここに残りたいんだい?」
「ねーちゃ、ママー、けんかしてるー?」
問い詰めるような雰囲気ではなくて、詢子はまどかの肩から手を離して。それから、一度顔に手を当てて、髪をがしっとかきあげて。
「向こうで話そう、まどか。今回ばかりは、ちゃんと聞かせてもらうぞ」
まどかも、小さくそれに頷いた。
物も大分整理され、少し殺風景なリビングで。テーブルを囲んで座る四人。落ち着いて話せるようにと、知久が紅茶を淹れていた。
青リンゴのような匂いがリビングを満たして、どこか気分が落ち着くような気がした。タツヤだけは、甘めに仕立てたホットミルクを嬉しそうに飲んでいた。
「さあ、聞かせてもらうぞ。まどか。……もしかして、魔法少女とかって奴の関係なのか?」
そう、詢子だけはまどかからその存在を、まどかがそれに関わってしまったことを知らされていた。恐らくそれが理由なのだろうとは思っていたが、それでもまどかが残ることには納得が出来なかった。
「ゆっくりで良いから、話してごらんよ。まどか」
聞きなれない、そしてどうにもこの場にはそぐわないその単語に、少し不思議そうな顔の知久。そして、真っ直ぐまどかを見つめる詢子。そしてタツヤ。
三人の顔をかわるがわる見つめて、まどかはついに口を開いた。
「……確かに、その関係のことなんだ。私、行かなきゃいけないところがあるんだ。そこに行くために、もうすぐここに迎えが来るんだ」
「それは、絶対にお前じゃなくちゃ駄目なのか?危険な事なんだろ?」
「……うん、私でないと駄目なんだ。今、私が行かなきゃ駄目なんだよ」
ぎり、と歯噛みする音が聞こえたような気がした。だん、と強くテーブルを叩いて、詢子は身を乗り出した。
「っざけんなっ!!そんな勝手やらかして、周りがどれだけ心配すると思ってんだ!」
「ママ、落ち着いて。……だけどね、まどか。今回はパパもママと同じ意見だよ。危険だと分かってるところに、大事な大事なまどかを送り出すことなんてできない。まどか一人の命じゃないんだ。……それでも、どうしても行かなくちゃいけないのかい?」
そんな詢子を制して、知久が言う。その瞳には、何時もの優しげな光とともに、厳しげな視線も混じっていた。
「わかってるよ、みんながどれだけ心配するかってことも、私一人の命じゃないってことも。でも、やっぱり行かなくちゃいけないんだ。もっと沢山の命を、大切な人を、守るために。 これは……私にしか出来ないことなんだ」
二人の視線を真っ直ぐに受け止めて、それでもまどかの視線と決意は揺るがない。そこにはもう、自分に自身を持てない、弱気な少女の顔はない。
一人の人間として、自分のできることを、やらなければならないことをしっかりと自覚して。まどかは、言葉と同時に強い意志の光をもつ瞳で、二人をじっと見つめていた。
「今行かなかったら、行けなかったら。きっと私は一生後悔する。今じゃなくちゃ駄目なの。ママ、パパ。お願い……信じて」
「……なんで、そんな顔してそんなこと言うんだよ。子供の言う事じゃないだろ……そんなのっ」
詢子の声は震えていた。
「ママ、泣いてるー……?」
タツヤの声で、詢子は自分が泣いている事に気がついた。親として、止めなければいけないのに。行かせてはいけないのに。
止められないことを悟ってしまったから、もう逢えなくなる気がして、悲しくて。
「ママ……」
まどかも、詢子のこんな姿を見るのは初めてだった。どこまでも、どこまでも強い人だと思っていたから。どんなことでも受け止めて、前向きに突き進んでいける人だと思っていたから。
その詢子が、自分のために泣いてくれている。愛されているんだと、その愛の大きさを、深さを知った。
「ママ。……僕達の知らない内に、まどかは随分と大人になっていたんだね」
そんな詢子の肩に手を置いて、知久はまどかに優しく問いかける。
「誰かに、騙されたりはしていないんだね?」
まどかは、静かに頷いた。
「本当に危なくなったら、すぐに逃げるんだよ」
もう一度、小さく頷いて。
「……必ず、帰ってくるんだよ」
それは、知久もまどかの言葉を認めた瞬間で。
「うん。ありがとう。パパ、ママ、タツヤ」
まどかは、零れ出しそうになる涙を堪えて笑った。
「じゃあ、パパ達はシェルターに避難しているから。本当に危なくなったら、絶対にまどかも避難するんだよ」
タツヤと荷物を抱えて、知久が家の扉を開いた。外にはもう、避難を始める人々の列が出来ていた。
「ねーちゃ、ねーちゃっ!」
縋るように呼びかけるタツヤの側に近づいて。
「大丈夫。必ずまた逢えるから」
まどかは、その小さな手をぎゅっと握った。それがとても尊くて、守らなければいけないものだと感じた。
「待ってるからな、まどか」
言葉と同時に、詢子は手を上げた。まどかもそれに応じて手を上げて、手と手を軽く合わせて打ち鳴らす。ハイタッチ。出かけるときの、朝のしばしの別れの時の、何時もの家族の習慣だった。
知久も、なんとか塞がった両手を上げて、まどかのその手とあわせて打った。
そして人ごみの雑踏の中に消えていく家族の姿を、まどかは静かに見送っていた。
「キュゥべえ、ちょっといいかしら」
誰もいないブリッジへ、マミが訪れ声をかける。その声に応えて、キュゥべえの姿がブリッジに現れた。
「どうしたんだい、マミ」
相変わらずの無表情。それに向かって、マミはにっこりと笑うと。
「艦を出してちょうだい。今すぐによ」
「そんなこと、できるわけないじゃないか。ボク達の出撃する順番はまだまだずっと先だよ」
内心では、そんな順番は来ることはないだろうけど、と呟きながらキュゥべえは。
「無理でもなんでも、今すぐ出してもらうわよ。この状況、黙って見ているなんてできないもの」
マミの笑みは消えない。一体どこにそんな余裕があるというのか。訝しがりながらも、半ば呆れ気味にキュゥべえは言う。
「気持ちは分かるけど、無理な話だ。マミ、キミはもっと落ち着きのある人間だと思っていたんだけどな」
「この状況で落ち着けって言うほうが、よっぽど無理な話よ?」
その笑みをより深めて、キュゥべえに顔を近づけて。
「……特に、佐倉さんにとってはね。今すぐ艦を出さないと、大変なことになるわよ」
「そーゆこった、こっちはもうすぐにでも出撃したくてうずうずしてるんだ」
ブリッジへ、杏子からの通信が入ってくる。その発信源は、格納庫内のキングス・マインド。既に杏子は機体へ搭乗を済ませていたのだ。
杏子が魔法少女ではないが故に、キュゥべえにもその行動を抑えることはできなかった。
「あんたがこのままあたしらを閉じ込めておくつもりなら、こっちにも考えがあるぜ。格納庫ブチ破って、あたし一人だけでも出撃してやる」
そう、その機体はもう既に発進の準備を済ませている。後は波動砲でも一発撃てば、格納庫の壁を食い破ることくらいは容易にできてしまうのだ。
「正気かい?杏子、そんなことをして、ただで済むわけがないじゃないか」
驚愕の表情を浮かべてキュゥべえが問う。けれど、帰ってくる声はどこか楽しげで。
「知ってるさ。だがこのままだとあんたもただじゃ済まないぜ?……お互い痛い目見たくなかったら、さっさと艦を出しな」
「バカげてるよ。たかだか輸送船一隻程度の戦力で、一体何が変わるって言うんだい」
「変えるんだよ、あたし達みんなでさ」
気付けばブリッジには更に人の姿。
「それだけの力を、私達は持っている」
さやかとほむらが立っていて。
「さやかにほむらまで……なんといわれても、これだけは駄目だ。キミ達を今行かせる訳には行かない。杏子も、今は抑えるんだ」
存外に、キュゥべえのその意志は固い。そんな様子に、マミは一つ諦めたように息を吐き出し、そして。
「仕方ないわね。……じゃあ、勝手にやらせてもらうわ」
言うや否や、三人はブリッジの各所へと歩いていく。ほむらは操舵、さやかがその補助を、そしてマミが手早く遠隔操作で艦のエンジンに火を入れ、離陸シークエンスを開始し始める。
「本当に三人だけで動かすつもりかい?そもそもそんなこと、ボクが黙ってみていると――。なんだ――干渉、いや――妨害……っ」
途中でその声が途切れる、そしてその姿にもノイズが混じり、やがて掻き消える。そして、それと同時に通信が入ってきた。
「指示された回線とのリンクのカットを行いました。……これでよろしいですか?」
それは、基地のオペレーターの声で。
「ええ、十分よ。すぐに発進するから。出来れば進路を空けてもらいたいのだけど」
全ては予め計画されていたことだった。秘密裏に基地と接触を図り、出撃させて欲しいという意図は伝えておいた。
どうやら基地側でも、有数の戦力を持つこの艦がこの期に及んで動かないことを不信に思っていたらしく、割とあっさりとその要望は聞き届けられることとなった。
当然キュゥべえはそれを止めるだろうから、一時的にでもその干渉を退ける必要があった。その為、基地の設備を使って強制的に、キュゥべえがこの艦へと干渉するための回線をカットしたのだ。
恐らくすぐに別の回線から戻っては来るだろうが、それでも出撃するまでの時間は十分に稼ぐことはできるだろう。
「了解。こちらで指示を出します。それに従い発進してください」
「……だ、そうよ。いけるかしら……さやか、ほむら」
この時、マミは初めて二人を名前で呼んだ。マミだけが、どこかしら皆と距離を感じていたから。一人だけ、違うと考えてしまっていたから。
他の三人があれだけ仲良くしていれば、それも仕方ないのかもしれないけれど。そんな思いすら振り切って、ようやくそう呼ぶことが出来たのだ。
「マミさん……ええ、勿論行けますよっ!」
「ええ、なんとか動かすくらいはできそうよ。マミ」
それを知って、二人も力強く答えた。
「おっと、あたしも忘れんなよ?」
一人だけ仲間外れか、と冗談めかして不服そうな杏子の声。
「ふふ、そうだったわね。……ばっちり決めるわよ、杏子っ!」
「当ったり前だっ!!」
「敵の予測降下位置のデータを送信しました。それに従って進んでください。進路クリア。ティー・パーティー、発進どうぞ!」
オペレーターの声。三人が一度顔を見合わせて。
「座標軸固定、エンジン出力上昇、航行補助システム、正常稼働中」
ほむらが艦の発進準備が整ったことを淡々と知らせる。
「うわ、なんか今の本格的に軍人っぽい。格好いい。……こっちも、色々もろもろスタンバイ完了!いつでも行けるよ。艦長っ!」
そんな姿を羨みながら、自分にはそれは出来ないと理解。あくまで自分らしく、ちょっぴり冗談を混ぜてさやかが言う。
「艦長、って。……ふふ。それもいいかもしれないわね。それじゃあ……ティー・パーティー、イグニッション!!」
ティー・パーティーの艦体が浮上する。ゆっくりとその身を空に浮べ、高度を取り。そして本格的にその機関に火が入る。波動エンジンから湧き上がる膨大な波動の粒子が、背部のブースターへと熱を伝える。
光が吐き出され、絡みつく重力を食い破るための力と変わる。
そしてティー・パーティーは動き出す。
少女達の運命を乗せて、今。
南半球、オーストラリア大陸。
この大陸の南端部分へと降下したバイド艦隊は、大陸北部に位置する南半球第一基地を目指し、進軍を開始した。
地球上の各部隊は連携を取り合い、彼らに激しい攻撃を繰り返した。戦いの度に傷つき、その戦力を損ないながら。それでもついに彼らは辿りついたのだ。
南半球における、地球軍の拠点とも言うべき南半球第一基地。その基地を擁する、高層ビル群が立ち並ぶ湾岸都市へと。
都市を守る部隊を蹴散らし、さほどの抵抗もなく彼らは都市部へと侵攻したのであった。人々は皆シェルターに避難を済ませている。誰もいない街並み、そしてその営みの残骸を眺めようとする間もなく、更なる敵が襲来した。
地球軍の部隊は、都市部を囲むように展開を進めていた。地球上に残存する戦力の約半数をそこに配置し、待機している。都市部を占拠され、大量の市民がそこに居る以上。攻撃をするのは躊躇われるはずだったのだが。
「全部隊に通達。現時点を持って、敵バイド艦隊を最優先破壊対象と認定。……都市部を占拠するバイド艦隊への、艦砲射撃を許可する。どんな犠牲を払っても構わない。奴らを、破壊せよ」
非常な命令が、下された。
一体これはどういうことなのだろう。我々は、ついにこの地球へと帰ってきた。どこまでも追い縋る地球軍の艦隊を打ち倒し、ついにこの基地のある都市へと戻って来たのだ
だというのに、我々を出迎えてくれる人は誰もいない。都市は不気味に静まり返り、人々の営みの跡だけが残されている。
なんにせよ、地球軍も都市に砲撃を仕掛けるようなことはないだろう。今しばらくはここで身を休め、基地の設備を使って何とか知らせることにしよう。
――我々の、帰還を。
っ!?艦が激しく揺れる。
なんということだろう。地球軍の戦艦が、こちらへ向けて砲撃を開始したのだ。我々を、都市ごと焼き払おうというつもりなのだろうか。許されることではない。止めなければならない。
撃って出よう。これ以上ここに留まれば、都市部への被害は広がるだけだ。
「……まさか、キミたちがここまで用意周到だったとはね」
三人だけのブリッジで、慌しく艦を操作している中へ。予備の回線を使って、ようやくキュゥべえが現れた。
「あら、お帰り。キュゥべえ」
しれっとした顔で、事も無げに言うマミ。さやかとほむらも、それを一瞥して。
「私達もそろそろ出撃の準備をしたいの。キュゥべえ。艦の操縦、代わって貰える?」
「………キミのその行動力にはびっくりだよ。本当に。もう何があっても知らないよ。仕方ない……後は任せるといい」
どことなく疲れたような表情で、諦め混じりの声で言う。その言葉を聞くや否や、三人揃って艦を支える手を放り出し。
「じゃ、後よろしくっ!」
さやかは急ぎ足でブリッジを出て行く。ほむらも無言で、けれどどこか面白そうに笑って後に続く。
「……大丈夫よ、必ず皆で戻ってくるから」
優しく笑って、マミもブリッジを後にした。残されたキュゥべえは、再び艦にその手を巡らせた。このままこっそりと戻るという選択もできなくはない。
けれど、向こうにはまだ杏子もいる。
「仕方ないな。まったく……頼んだよ」
そして再び、先ほどよりかは幾分か安定した調子でティー・パーティーは動き出した。
戦闘は激化していた。
全方位から浴びせかけられる艦砲射撃。闇雲に前進すれば蜂の巣だ。高層ビルを盾にして、少しずつ敵の数を減らしていく。
業を煮やして前進してきた敵の部隊に、亜空間機で奇襲をかけた。敵に手痛い打撃を与え、撤退する敵を追討。その勢いを持って敵の包囲網の突破を図る。
巨大な生物兵器を全面に押し出し、その後ろから戦闘機群を前進させる。ある程度まで接近してしまえば、誤射を恐れて艦砲射撃の脅威は減じる。
とにかく一点を突破し敵を分断、その後各個撃破を図った。
たちまち前方で乱戦が始まる。だが問題はない。地球軍は統率の取れた動きは得意なのだろう。だが、R戦闘機同士の乱戦の経験は余りないようだった。
それに引き換え、こちらはバイドとの乱戦を山ほど経験してきたのだ。負けるはずがない。
各自の判断で戦闘を行うよう指示し、私も艦を前進させた。
「っ……随分酷いね、街がめちゃくちゃだ」
機体のコクピットに、現在の都市部の状況が映し出される。そのほとんどが地球軍の砲撃によるものであるとは知らず、さやかが歯噛みする。
「戦闘はまだ続いてる。相当押されているみたいね」
既に都市部の包囲網は破られ、各所で乱戦が始まっていた。更に敵の中央突破を許してしまっており、後方で待機する部隊までもが攻撃に晒されている。
最早一刻の猶予もない。ほむらはそう判断した。
「戦闘経過の略歴を見たけど、それだけでも相手の手強さが分かるわ。……油断せず行きましょう」
砲台を搭載し、戦闘形態をとったババ・ヤガー。そのコクピットの中で、マミは各機に通信を送る。
「待ちくたびれたぜ。……ああ、これ以上やらせるもんかよ」
赤い機体に力を漲らせ、杏子もまた戦場を見据えて言う。
「各機発進、そのまま後方の部隊に攻撃を仕掛けるバイドを一掃するわ。ティー・パーティーはそのままその部隊と合流。中央の敵部隊を押し返すわよっ!」
最早すっかり部隊のリーダーが板についたマミの声が飛ぶ。
「「「了解っ!!」」」
声が三つ、重なって返る。
「キュゥべえ、進路は?」
「問題ないよ、発進してくれ」
僅かな間が空いて、そして。
「各機出撃!」
その号令と共に、四つの光がティー・パーティーより飛び出した。
ラグナロックⅡ、レオⅡ、キングス・マインド。その三機が、前方に広がる戦場。その光の渦の中へと飛び込んでいく。
敵も味方もあちこちに散らばって、迂闊な攻撃は誤射にも繋がる。後方の艦隊に群がる敵を早々に排除した三人は、更に奥。乱戦の広がる前線までも到達した。
「こっちは前線に到着した、後は手はず通り頼むぜ、マミっ!」
杏子が言葉と共に編隊を離脱。同時にデコイ波動砲のチャージを開始する。
「任せておいて。杏子、そっちも頼むわよっ!」
その通信を受け取ったマミのババ・ヤガーは遥か後方。水平線の上に辛うじて戦場を捉えるような位置で待機していた。
「私達も、このまま前線を押し返すわ。各機、誤射には気をつけて」
新たに迫る敵機に反応し、その機首をこちらに向けた異形の戦闘機。ジギタリウスと呼ばれたそれを迷うことなくスルーレーザーで引き千切り、ほむらは戦場の最中へと飛び込んで行った。
「レオⅡは攻撃範囲が広いから、誤射には気をつけないとねっ」
レオⅡの持つ光学兵器は圧倒的な制圧力を誇る。それはすなわち誤射の危険性も高いということで。元より、敵味方が入り混じっての乱戦向きの機体ではないのかもしれない。
だが、レオの武装はそれだけではない。
「行けっ!サイビットっ!!」
前方に迫る敵機に向けて、すれ違いざまに波動砲を叩き込む。それと同時に打ち出されたサイ・ビットが、友軍機を追い回していた敵機を叩き落した。
サイビット・サイファには、敵を識別する能力がある。それ故に、乱戦においてもレオⅡはその威力を損ねることはなかったのだ。
「何だ…今のは。誰が撃った!?」
背後に付かれた敵を振り切れず、このまま撃墜を待つばかりであったそのR戦闘機のパイロットは、突然撃墜された敵機と、それを撃ち落した謎の攻撃に対する疑問を回線上にぶちまけた。
「――援軍、よ」
「何……たった三機で、か?」
「ええ、奴らを倒すには……十分すぎる数よ――それに、三機だけじゃない」
通信を交わしながら、ほむらは接近する敵機に意識を向ける。三機。こちらを取り囲むように接近してくる。
やはりこの乱戦の最中にあっても、敵は組織だった、そして明確な戦術を持って攻撃を仕掛けてくる。もちろん厄介ではあるが、所詮はそれだけだ。
三機の敵が同時に放ったレーザーの隙間をすり抜けながら、フォースを背後に付け替える。そして敵機とすれ違うと同時に、スプラッシュレーザーを叩き込んだ。
光と同時に炸裂が巻き起こり、三機の内二機を撃墜する。もう一機も被弾し、高度が落ちる。それを打ち出されたサイクロン・フォースが叩き落した。
僅か一瞬の間に三機撃墜である。さやかもサイビットを駆使し、広域の敵に同時に打撃を与えていく。
そんな最中、杏子は六機のデコイ全てを散開させ、敵陣の奥へと侵攻させる。デコイはっ所詮オートパイロット、敵に敵うはずもなく次々に撃ち落されていく。
しかし、その散り際の炸裂が敵を巻き込み消滅させる。それでも六機の内の一機は、後方に位置する前線部隊の旗艦。無数の肉塊で構成された生物兵器である、ベルメイトの姿を捉えたていた。
「見つけた、敵のデカブツだっ!……座標を送る、後頼むっ、マミっ!」
ベルメイトが打ち出す衝撃波が、デコイの最後の一機を破壊する。その直前に、ベルメイトの位置座標が後方で待機するババ・ヤガーへと送信された。
「データリンク完了。光学望遠起動。――ターゲット、ロックオン」
すぐさま指定座標を光学望遠で捉え、その敵の姿を確認する。位置を知られたとあって、すぐさま場所を変えるつもりなのだろう。移動を始めるベルメイトだったが。既にその姿はババ・ヤガーのサイトの中であった。
すでに、超絶圧縮波動砲には限界までエネルギーがチャージされている。
ババ・ヤガーがガンナーズ・ブルームと比して改良された点。それは従来の機体同様、波動エネルギーの最大チャージでの保持が可能となったことである。
煩雑な発射シークエンスを必要としていたガンナーズ・ブルームと異なり、ババ・ヤガーは予めチャージを済ませておけば、後は即座に発射することができる。浪漫的要素と引き換えに、兵器としての有効性は更に高められていた。
「射線上の全友軍機の退避を確認。さあ、切り開かせて貰うわよ。――ティロ・フィナーレっ!」
そして、閃光が放たれる。
空を切り裂き海を灼き、破壊が散らばる戦場を、更に圧倒的な破壊と光で食い破り。避難する間もなく射線上の敵機が蒸発。避難したはずの友軍機ですら、光に煽られ吹き飛ばされた。
それほどの威力を持った超絶圧縮波動砲の光が、後方で待機したベルメイトを貫いた。全身を盾の様に覆う肉塊を一瞬で炭化させ、その奥にある本体さえも貫き、焼き払う。
駆け抜ける閃光と、それに一瞬遅れて巻き起こる数珠状の炸裂。ベルメイトもまた消失し、前線の拠点たる旗艦を失い、敵軍の動きに乱れが生じた。
「……敵艦の撃墜を確認。砲身を冷却しつつ、次の狙撃ポイントへ移るわ。後始末を、お願いね」
随伴する戦艦にそう告げて、蒸気を吐き出す砲身を抱えてマミは移動を開始する。今の一撃で、恐らくこちらの位置は知られたことだろう。だからこそ、後始末はしっかりとすませなければならないのだ。
両翼の部隊は敵の艦隊を適度に相手にしつつ、じりじりと後退していく。その隙に敵陣の中央を突破し、敵両翼部隊を挟撃。更に後方の艦隊も同時に攻撃する。
予想したとおりに戦況は進み、後方の艦隊への攻撃も開始され、敵陣の中央もほぼ総崩れとなった。
このまま押し切れるかと思っていた、だが、唐突に戦況は一変する。後方の艦隊を攻撃していた部隊が、一瞬で全滅させられたのだ。何が起こったというのか。更にこちらが優勢であったはずの前線までもが押し返されようかとしている。
仕方なく、こちらも攻撃を支援させるため、前線部隊の旗艦を前進させようとした。その時だ。眩い光が空を貫き、こちらの艦を一撃で撃沈させたのだ。
一体何が起こったのか。敵の新兵器だろうか。完全に索敵範囲外からの、更に戦艦を一撃で撃沈しうるほどの威力の兵器。周囲に波動粒子が残留していることから、恐らく波動砲の類であろうことは予測できた。
こんなものを撃ち続けられれば、戦線を維持することなどできようはずもない。
まずは敵の正体を確かめなければならない。私は艦を護衛していた一部隊を亜空間へと突入させ、敵波動兵器の索敵及び破壊を命じた。
「……再度発射可能になるまで3分。そろそろ、敵も来る頃かしら」
次の狙撃ポイントへと移動を済ませ、後始末を任せた戦艦が待機しているであろう空域へと視線を廻らせる。上手く行くはずだ。と自分に言い聞かせて、マミは次の攻撃目標の報告を待ち続けた。
亜空間に突入した敵機は、高度を取り戦場を迂回した。そうして敵に気取られることなく、敵波動兵器があるであろう空域へと接近していた。だが、突如としてその空間が炸裂する。
通常空間での攻撃は、亜空間に影響を及ぼすことは一切ない。けれどその一撃は、通常空間に一切影響を及ぼすことなく、亜空間に存在するもののみを打ち砕いた。
マミが後始末のために残した戦艦、フレースヴェルグ級と呼ばれるその戦艦は、亜空間バスターが的確に効果を発揮し、迫る敵が全滅したことを確認した。
亜空間バスター。それは通常兵器、波動兵器すらも一切影響を及ぼすことの出来ない亜空間に対して、唯一影響を及ぼすことのできる兵器であった。
ただそれも、亜空間に存在する敵を認識することが出来ない以上、ある程度当たりをつけて放つか、数を集めて薙ぎ払う用途でしか使用出来ないものだった。
それを変えたのが、この艦に随伴する機体。早期警戒機の発展系である、R-9E2――アウル・ライトだった。常時展開できるものではないが、広域に亜空間潜行している機体を索敵可能な亜空間ソナーをこの機体は備えていた。
亜空間ソナー、そして亜空間バスターの二つを用いることで、亜空間から攻め寄る敵に対して十分に有効な対抗手段を既に人類は持ちえていたのである
前線を掻い潜りこちらの動きを探るには、亜空間機を使うより他に術はない。亜空間機といえど、場所と座標さえ分かってしまえば、最早その迎撃は不可能ではなくなっていたのだ。
ババ・ヤガー、そして亜空間バスター及び亜空間ソナー。この三つの兵器の連携によって、前線が崩壊しない限りは超絶圧縮波動砲による狙撃を続けることができる。
マミはこの連携に、ピットアンブッシュという作戦名をつけていた。
「さあ、この調子で一気に押し返すわよっ!」
超絶圧縮波動砲のチャージを再開し、マミは尚続く戦場に意識を集中させた。
亜空間に突入させた機体からの信号が途絶えた。亜空間より出ることなくそれが消失したところを見るに、亜空間バスターによる攻撃だろう。
厄介なことになった。
遥か後方から攻撃可能な波動兵器に、それを守る亜空間バスター。亜空間を経由しなければ前線を通過することは出来ないが、亜空間に留まっていては狙い撃ちにされる。
途中で亜空間を脱出したところで、敵の制空権下でどれだけこちらの機体が動けるだろうか。状況は最悪に近いといえるだろう。
こちらも切り札を切ることにしよう。
後方で待機させていたアーサーの部隊を出撃させ、同じく亜空間を経由して、敵後方の兵器の索敵と攻撃を任せた。きっと、アーサーならば上手くやってくれることだろう。
前線における乱戦は、ほぼ決着が着きつつあった。旗艦を失い、浮き足立った敵の部隊を数で勝る地球軍がじりじりと追い詰めていく。中でもやはり、さやか達三人の活躍は目覚しかった。
無数の機体と攻撃が行き交う戦場で、まるで何の制約もないかのように自由に飛び交い、すれ違う敵を叩き落していくほむら。
デコイの編隊で敵を翻弄し、ある程度まとまったところで一斉射撃。そして撃破、ある程度前線の敵の密度が低下したことを確認し、杏子は前線を離れる。後方で待機する敵艦を索敵するため、再びデコイ波動砲のチャージを開始した。
レオⅡが一気に前線を突き抜ける。降り来る大量のレーザーを掻い潜り、追い縋るのは敵ばかり。宙返りするかのように機体を廻らせ、背後の敵へと機首を向け。ついにレオⅡが誇る光学兵器、リフレクトレーザー改がその本領を発揮した。
一筋放たれる大型レーザーに加え、同時に放たれる反射レーザー。陸に敵に、そして建築物にも反射して、その軌道上に数珠状に爆発を巻き起こしていく。
その性質自体は通常の反射レーザーと大差ないものの、圧倒的出力を持つリフレクトレーザー改はまさしく圧倒的な破壊を、その空間へとばら撒いていた。
「このままなら、いける……勝てるよ、あたし達っ!」
もうじき敵の前線は崩壊するだろう。そうすればこの戦いの大勢はほぼ決する。
勝利は目前、そう思われた。
「マミ、敵のボルド級を見つけた。やけにでかい。撃てるか?……マミ、おい、マミっ!?」
敵の戦艦であるボルド、それもやけに巨大なそれを発見し、杏子がマミへと通信を送る。しかし、その返事はなかった。
「……っ、何なの、あれは」
狙撃ポイント付近の建築物の陰に身を隠し、マミはそれを見ていた。それは、亜空間から現れた。亜空間バスターが放たれる直前に現れたその機体は、一瞬でアウル・ライトを撃破。
フレースヴェルグ級から放たれた迎撃用のミサイルをこともなく掻い潜り、そのブリッジを機体から生えた植物の蔦の様なもので串刺しにした。
主要部を潰され、艦としての戦闘力を失ったフレースヴェルグ級には目もくれずその機体は周囲を探るかの様に飛び交い、やがて再び亜空間へと消えていった。
恐らく、杏子との通信を繋いでいればそれを察知されて居ただろう。余りに迅速で、余りに的確な一撃。まさしく亜空間からの強襲とでも言うべき一撃だった。
「あんなのをまともに相手にしていたら……とてもじゃないけど太刀打ちできないわね」
声が震えた。あの一瞬だけでも、勝てないと悟る。この鈍重な機体では無理だ。否、たとえ砲身をパージしたとしても無理だろう。そんな敵が、これからもこちらに追い縋ってくるというのか。
そう考えると、恐怖で身が震えるのをマミは感じた。
「……なんて、何を恐れていたのかしらね。一度死んだ身よ。恐れる必要なんて、ない。私は……やるべきことをやるだけだもの」
少なくとも今は、先ほどの敵の気配ない。それを確認して、マミは杏子の通信に答えた。
「ごめんなさい、杏子。遅れたわね」
「っ、マミ……無事なのか?」
「随行していた艦はやられたけど、私はまだ大丈夫よ。ボルド級……は多分もう移動してるでしょうね。次の目標を教えて」
ひとまず、マミが無事だったことに安堵した。そして再び、杏子は敵艦の索敵へと動き出すのだった。
アーサーが敵艦の破壊に成功したようだ。しかし、敵の波動兵器らしきものは確認できなかったという。どういうことなのだろうか。
引き続きアーサーには亜空間から周辺空域の索敵を命じた。
いよいよ敵軍は前線を突破し、都市内部へと迫っていた。都市内部は無数の高層ビルやその残骸で入り組んでおり、どちらの部隊も大型艦を自由に動かすことは困難だった。
自然と、都市内部での戦いはR戦闘機同士の空戦となる。そうなれば、こちらにもまだ分はあると思っていたのだが。
敵戦闘機部隊の中に、どうやらかなり腕のいいパイロットが混ざっているようだ。こちらの部隊は押されに押されている。気がつけば、敵部隊は都市部中央、我々の本隊のある位置にまで迫っていた。
……窮地ではあるが、いい頃合だろう。私は、もう一つの部隊へと攻撃開始の指示を出した。
都市部を大きく離れて後方、地球軍の艦隊が待機している。ティー・パーティーもその隊列に加わり、その白い艦隊を晒していた。そしてその只中に、もっとも大きく見える戦艦。地球軍の旗艦にして最強の新造艦、ニブルヘイム級の姿があった。
「多少てこずった様だが、これで終わりだろうな。流石に奴らもこれ以上の抵抗は出来まい」
戦局は完全に地球軍側へと傾いている。局地的には苦戦を強いられているところもあるが、それも直に数で押し切ることができるだろう。ようやく、この苦しい戦いにも終止符が打てる、と。
わずかばかりの安堵と、その先の事を思うと感じる暗澹たる不安。その二つが混ぜ合わさったような思いを抱きながら、ニブルヘイム級の艦長はそう言葉を放った。
だが、その直後。
「高エネルギー反応、急速接近っ!方角は……なっ!?」
オペレーターからの報告が、驚愕によって打ち切られる。勿論それはすぐさま告げられる。絶望を持って。
「真下ですっ!!」
「何ぃっ!?」
直後、艦隊の真下から無数の閃光が迸る。地中より放たれたそれは、地表を食い破り、待機していた艦隊を襲った。
艦が激しく揺れる。どうやら撃沈の憂き目は避けたようだが。一体何が起こったというのだ。各部に通達し、ダメージコントロールと状況確認を急がせる。
並び立っていた艦もまた大きなダメージを受け、その内一機は完全に機関部をやられて轟沈。爆炎を巻き上げながら沈んでいった。
ゲインズ隊による敵部隊への奇襲は成功したようだ。この湾岸都市には、広大な地下空間が広がっている。都市の一部として活用されるのみならず、軍事施設として使われていた区画もあるのだという。
都市部を占拠した最中、その構造図を入手できたのは僥倖だった。敵艦隊が待機している地点まで、地下道を通って機動兵器部隊を侵攻させたのだ。まともに戦えば勝ち目は薄い。こういう奇襲に頼らざるを得ないのは心苦しいが、仕方のないことだろう。
現にゲインズ隊の一斉射撃で、敵の艦隊は甚大な被害を受けたようだ。この機を逃す手はない。引き続き機動兵器部隊に敵艦隊を攻撃するよう指示を出した。
都市部を駆けるR戦闘機部隊。敵の抵抗は最早ほとんど存在しない。このまま、敵の旗艦が居ると思われる都市中心部へと侵攻し、敵旗艦を撃墜する。そうすれば恐らくこの戦いは終わる。
敵に優秀な指揮官がいるというのであれば、それさえ討てば終わるはずなのだ。
――だが、しかし。
「さやか、杏子、ほむら。聞こえるかい」
ノイズ交じりに、焦りを孕んだキュゥべえの声が聞こえてくる。
「こんな時になんだってんだ、キュゥべえっ!」
こんな時になんだ、と半ば叫ぶように杏子が答えた。
「今すぐ戻ってくれ。大変なんだ」
続けて伝えられた言葉は、やはり驚愕するに値する言葉で。今まで見たこともないほど焦りを浮かべたキュゥべえの声も、またその焦燥を煽るものだった。
「後方の艦隊が奇襲を受けた。このままじゃ全滅するかもしれない。そうなったら、艦と一緒にキミたちの身体まで消滅してしまう。マミにも知らせてある。キミ達もすぐに戻って。でないと……」
声は途中で雑音にかき消された。まさか、と嫌な想像が三人の胸に去来する。
「戻らないと、やばいな。こりゃあ」
すぐさま機体を翻す杏子。
「一体何だって後ろの艦隊が奇襲されてんのよ!ったく、あたしの身体に何かあったら、承知しないからねっ!!」
それに続き、機体を走らせるさやか。共に続いた機体達も、自軍の旗艦に迫る危機を悟ったのだろう。すぐさま踵を返して救援に向かう。
だが、その退路を断つかのように敵の部隊は迫っていた。
「くそ……こんな時にっ!!」
「邪魔、するなぁぁぁっ!!」
杏子とさやかが同時に吼える。そして敵に向かおうとしたその時に。
「各機、高度を限界まで下げてっ!」
ほむらの声が飛ぶ。半ば反射的に、続く全機が高度を下げた。そうして開けた空間を。ギガ波動砲がなぎ払っていった。
フルチャージには程遠い。それでも未だかつてないほどの威力を伴って放たれた一撃は、立ち塞がる敵軍を薙ぎ払い、障害物として立ちはだかるビル群さえもぶち抜いていた。
「道は出来た。敵も払った。……駆け抜けるなら今、ね」
その威力に、驚くように動きを止めていた機体が動き出す。先を急ぎ、争うように駆け出していった。
「ほむら、あんたも早くっ!」
「……いいえ、私は残る」
脱出を急かすさやかに、ほむらは静かに答えた。
「な、何言ってんのほむらっ!急がないと……」
「急いでいるからこそよ。……殿は必要だもの」
そう、脱出途中での敵の追撃を防ぐために、ほむらは一人ここに踏みとどまろうというのだ。そして、追い縋る敵を討とうというのだ。
「いくらなんでも無茶だ。まだどれだけ敵が残ってるかわからないんだぞ!」
続けて杏子も叫ぶが、ほむらの意思は変わらない。
「……後は任せて。大丈夫、必ず戻るから」
「分かってんだろうな。……こんなとこで死にやがったら、全人類から恨まれるんだぜ」
「上等よ。これくらいできなくて、何が英雄かしら」
「ちゃっちゃと後ろの敵を片付けて、すぐ迎えに行くから。待ってなさいよ」
「それまで、敵が残っていてくれればいいけれどね」
後方に敵の反応。これ以上、悠長に話している余裕はない。
「……行こう」
「ああ」
そして、二つの光が去っていく。
それを追おうと、無数の気配が忍び寄る。追わせる訳にはいかない。ここを通させる訳にはいかない。
機体を廻らせ、立ちはだかるようにそこに立ち。
「通さない。この先へは……誰もっ!」
叫びと共に、ラグナロックⅡは波動の光を唸らせた。
そして空で、マミはついにそれと対峙していた。
後方の艦隊が地中からの攻撃を受けている。その報せを受けて、マミはババ・ヤガーの砲身を地中へと向けた。艦隊に被害を与えることなく、地中の敵を超絶圧縮波動砲で焼き払う。難しい仕事だが、出来ないはずはない。
波動兵器に加えて、タブロックによるミサイル攻撃までもが地中より始まっていた。艦隊には可能な限り高度を取るように伝え、超絶圧縮波動砲の照準を合わせた。
そこに、それは現れたのだった。亜空間から現れたその異形の機体は、先ほどアウル・ライトとフレースヴェルグ級を撃沈させたもの。超絶圧縮波動砲のトリガーを引くよりも僅かに早く、その機体から放たれた蔦がババ・ヤガーの砲身を貫いた。
砲身に溜め込まれた膨大なエネルギーが奔流となって溢れ出す。エネルギーが逆流し、ババ・ヤガーの機体そのものが弾け飛びそうになっていた。
「っ……砲身解放っ!!」
その敵機へ向けて撃ち放つように、砲身をパージし全力で離脱。その直後、内部で膨れ上がるエネルギーの圧力に耐え切れず、砲身が炸裂する。膨大な熱を辺りにばら撒き、大気さえも歪める熱気の中から再び、その敵機は襲い掛かってきた。
明確な死のイメージが、マミの脳裏に纏わり付く。乗り越えたはずの恐れが、堰を切った様にあふれ出てくる。それを振り払うように、機体を突き動かして敵を撃つ。
けれど、何一つとして届かない。まるで自分がどこに撃つのかが分かっているのかのように、ことごとく敵はこちらの攻撃を回避してくるのだ。
そして、回避と同時に痛烈な反撃を叩き込んでくる。撃てば撃つほど自分の機体が傷ついていく。それが何よりマミには恐ろしかった。
「このままじゃ、あいつには勝てない……わね」
こうしている間にも、今にもティー・パーティーが撃墜されるかもしれないのだ。そうなってしまえば、自分の身体を失ってしまうことになる。死ぬのも同じだ。なによりも、あの場所を失いたくない。そんな思いが強かった。
けれど、それだけに焦燥が身を焦がす。意識がぶれる。それでもマミは、迫る敵機へ照準を合わせた。
「……そろそろ、足止めも十分かしらね」
高層ビルの陰に身を寄せて、ほむらは呟いた。たった一機でどれだけの敵を相手にしてきたのだろうか。守るために、敵を一匹残らず掃討するという戦いは、ほむらにとって思いがけず大きな負担となっていた。
それを証明するかのように、ほむらのラグナロックⅡには無数の損傷が刻まれている。まだ致命的なものではないが、それでも決して軽くはないダメージが。
恐らく敵も、脱出した部隊の追討よりもほむらの方を脅威として認識したのだろう。やはり組織立った動きで包囲し攻撃を仕掛けてきた。それでもその包囲を破り、数十機以上の敵を打ち倒し。ようやく敵の攻撃を退けたのだった。
「普通に考えれば、ここで退くべきだけれど」
逆に考えれば、これは好機なのだ。これだけの部隊を送ってきたということは、敵本陣の守りは手薄になっているはず。今このまま進み、敵旗艦を打ち倒す。敵の司令部さえ落とせば、これほど苦戦するはずもないのだ。
「今が好機、と見るべきね。これは」
元来、単機で敵の中枢に突入しそれを討つ。これが、R戦闘機の本来の戦い方なのだ。そして、それができるだけの性能をラグナロックⅡは、暁美ほむらは持っている。
切り札はこの手の中にある。やれる。いや、やらなければならない。ほむらは傷だらけの機体を駆って、都市中枢部へと向かった。
英雄は帰還した。
けれど、誰もそれを迎えてはくれない。
向けられたのは敵意、そして無慈悲な波動の光。
戦い、戦い。そして戦い。
その果てに、今、英雄たちは出会った。
魔法少女隊R-TYPEs 第13話
『英雄は再び』
―終―
【次回予告】
命を賭して、大切なものを守り抜こうとした少女達がいた。
「あたし達……勝ったんだよね?」
「……知るかよ」
そして、守られ、遺された少女達がいた。
それは勝利と言えるのだろうか。
「なんだ、これは。……どういうことだっ!?」
失ったものは、余りにも大きすぎた。
「なんとなく、そんな気はしてたんだ」
真実を知った者。
「私は、行くよ」
為すべきことを為す者。
「大丈夫、何があっても、絶対に送り届けるから」
そして、覚悟を決めた者。
生きるため、守るため、戦うために、遺された者達は再びその命を燃やす。
「……なんだ。結局、こうなっちゃうんだ」
そして――審判の時が来る。
次回、魔法少女隊R-TYPEs 第14話
『沈む夕日』
全人類の悪夢は、まだ終わらない。