圧倒的な暴威が、卑猥なる衝撃が、哀れな少女に襲い来る。
見るがいい、これがバイドと呼ばれるモノだ!
客船モジュールを牽引し、ステーションへと向かう一隻の輸送艦。
宇宙の闇に映える白色に覆われて、桃色のラインや黄色のリボン状の彩色がどこか少女趣味的な印象を与えている。
その船の名は、ヨルムンガンド級M型装備試験運用艦“ティー・パーティー”
M型とは、魔法少女に関わる装備であることを示す符号であった。
そしてそれは魔法少女の駆るR戦闘機の試験運用を行うと同時に、彼女たちの生活空間ともなっていた。
そんな船の中で。
「いらっしゃい。私たちの船。ティー・パーティーへ。色々あって疲れたでしょうし、まずは一息ついて、それから色々とお話しましょうか」
まるで軍艦の中とは思えないような、とはいえ艦の外装に通じる感じも受けるような、可愛らしい彩りの部屋の中。先ほどまでバイドとの戦闘を繰り広げていた少女――巴マミが座っている。
「えっと…その、貴女はさっき戦ってた人……ですよね」
「確か、巴さん……って」
戸惑う二人。無理もない。
先ほどまでR戦闘機を駆ってバイドを殲滅していたその姿と、ティーポットを片手に微笑む今の姿は、まだ二人の中では繋がっていない。まるで、非現実的な何かを見るような表情で。
唯一人、ほむらだけは緊張でも理解し得ない様子でもなく、静かにマミへと視線を向けていた。
「そんなに緊張しないで、三人とも。巴マミよ。遠慮なくマミって呼んで欲しいわ。何せ、あなた達は私の仲間になるかもしれないんだから」
「そのことです!一体何がどうなってるんですか。魔法少女とか、R戦闘機のパイロットとか。いきなり過ぎて訳わからないですよ」
途端にさやかが食いついた。けれどもその言葉は遮られた。
「それについてはボクのほうから説明するよ」
三人をティー・パーティーへと導いたキュゥべえが、再びその半透明の姿を現し言葉を告げた。
相変わらず、この生き物についてもよくわからないことばかりである。
「長い話になると思うわ。お茶とケーキを用意したから、食べながらでも聞いて欲しいの」
紅茶とケーキを勧めながらマミが言う。部屋の中にふんわりと漂う、リンゴのようないい香りと甘くて美味しそうなケーキの誘惑も、心と身体を解すにはまだ、足りない。
これは長期戦になるかもしれない、とマミが考え始めたその矢先に。
「折角用意してもらったのだから……頂きます」
率先してほむらが動いた。立ちすくんでいた二人の間をすり抜けてお茶会のテーブルへついて、まだ不安そうに見つめる二人に振り向くと。
「……大丈夫よ、ちゃんと事情は説明してくれると言っているし。まずは、一度話を聞いてみましょう?」
戸惑う二人を安心させるように、小さく笑みかけた。
「ほむらちゃんが言うなら……うん、わかったよ」
「それに、いつまでもこうしてたって仕方ない……よね」
二人も続いてお茶会の席へつく。ひとまず始まってしまえばもう
楽しげなお茶会の雰囲気は三人を巻き込み飲み込んで、いつしか緊張の色も消えていた。
「~っ♪このケーキ、メチャうまっすよー!まさか修学旅行がこんなことになるとは思わなかったけど、これはこれでもしかしたらすっごい経験かもね」
「ほんとだね。最初はちょっとどころじゃなく驚いちゃったけど、それでもこんな経験普通じゃできないだろうし。紅茶も美味しいし」
甘くて美味しいケーキの誘惑。女の子にはなかなか抗いがたいもので、すっかりさやかはリラックスしてしまっているようで。まどかもかなり緊張は解れたようで、紅茶を片手に表情をほころばせている。
「とてもじゃないけど、ここが船の中だなんて思えないもの……ね」
ほむらもまた、少し釈然としない風はあるが大分寛いでいるようで。
「お茶もケーキもまだあるから、どんどん食べちゃっていいわよ」
「はーいっ。あ、それじゃケーキもう一つもらっちゃおうかなー」
「もう、さやかちゃんったら食べすぎだよー」
部屋の中に、明るい少女達の笑い声が響いた。
「……なんだか楽しそうだね、マミ」
そんな姦しい騒ぎの最中、キュゥべえがそっとマミに話しかける。
「ええ、実際楽しいんだもの。折角用意したお茶会の道具を無駄にせずに済んだし
もしかしたら仲間ができるかもしれない、って考えたらね」
「そうなることを望んでいるよ、ボクも」
そう言うとキュゥべえはその耳を軽く揺らして、マミの傍らにちょんと座った。
「えーっ!?マミさんも、あたしたちと同じ中学生なんですか!?」
「ええ、歳はあなた達よりも上だから、三年生になるのかしら?もっとも今は通えてもいないけれど。ああ、でもちゃんと出席扱いにはなってるのよ。授業の内容だって、ちゃんとこっちで見られるようにしてあるし」
明かされた衝撃の事実に、思わずさやかはすっ飛んだ。何しろとても一つ上とは思えないのである。落ち着いた態度といい、どう見ても中学生とは思えないそのボディラインといい、である。
「むむむ……魔法少女ってのは、皆マミさんみたいに大人っぽくて素敵なのかな」
なにやら思い悩むさやか。
そんな素敵になれるなら、なんて考え始めているのかもしれない。
「それじゃあマミさんは、ずっとこの船で過ごしているんですか?」
そんなさやかをさておいて、まどかが疑問を口にする。
「ええ、そうね。今はまだ何かと予定が詰まっているから。次に地球に戻れるのは、ひょっとしたら卒業式の頃かもしれないわね」
そう話すマミの表情には、隠し切れない寂しそうな翳りも見えた。
慌ててそれをかき消したけれど、まどかにもほむらにも、それは確かに映っていた。
「寂しくはないの……その、ずっと一人で、巴さんは」
ほむらの言葉に、マミは寂しげな笑みを浮かべる。
「……寂しくない。って言ったら、きっと嘘になるわ。友達とも会えないし、恋とか青春とか、全部地球に置き去りにしてきてしまった。キュゥべえもいるし、この船には娯楽施設や図書室なんかもあるから、退屈はしないのだけど」
広い宇宙の只中で、一人戦い一人生きる。それがとても辛くて、やはり寂しいことだった。だからこそ仲間が欲しい。そのために、彼女達を誘い入れようとしている。
そんな自分の思考が、マミはあまり快くは思えなかった。それでもやはり、仲間ができるかも知れないという嬉しさが勝る。そんなマミの葛藤を想像することさえかなわずに、まどかもさやかも、静かに語るマミを見つめて。
「でも、誰かが戦わなければいけない。だから私はこのキュゥべえと契約して魔法少女、ひいてはR戦闘機のパイロットになったというわけ。…そろそろ、そっちの説明もしましょうか」
その言葉に、マミの膝の上で丸まっていたキュゥべえが身を起こす。
そのままぴょん、とテーブルの上に飛び乗って。
「少し長い話になるけど、まずは聞いて欲しい。魔法少女というのは、全ての生命体の敵バイドと戦うことができる唯一の希望、R戦闘機のパイロットのことを言うんだ」
「今までの話を聞いてると、それはなんとなくわかる。でも、何で魔法少女、なんて可愛らしいネーミングなわけ?それに、あたしたちはそのバイドのことも、R戦闘機っていうもののことも何も知らない。それなのに、いきなり戦って欲しいなんていわれても……無理だと思う」
浮かれながらも、なんだかんだでしっかりと考えていたのだろう。まずは当然の疑問をさやかが口にした。
「そう思うのももっともだ。それについては一つ一つ説明していくよ。魔法少女、というネーミングについてだけど、これはボクたちの昔からの慣習みたいなものかな」
「昔からの、って……。じゃあそんな昔から、魔法少女になって戦ってる人がいたの?」
そんな事は聞いたこともなくて、驚いたようにまどかが言う。
「ああそうさ、ずっと昔からボクたちは素質のある少女と契約して、彼女たちを魔法少女にしてきたんだ。とは言え、その頃はまだ彼女たちの敵はバイドじゃなかった。人の呪いが生み出す魔女と呼ばれる敵と、魔法少女たちは戦っていたんだ」
「ってことは、昔は魔女と戦っていた魔法少女が、今はバイドと戦ってる。それじゃあ、その魔女ってのは今は放置されてるってこと?」
「そうとも言えるし、そうでないとも言える。少なくともボクらが魔法少女をバイドと戦うためのものとしてから、魔女は出現していない。恐らくこれからも出現することはないだろう」
なぜか妙に確信めいた言葉でキュゥべえが言う。
そこまで自信を持っていうのだから、恐らくそういうことなのだろう。ただ、ほむらだけがなにやら怪訝そうな、考えこむような表情で。その表情に浮んでいるのは、半ば驚愕。半ば猜疑。
「話が逸れたね、本題に戻ろう。魔法少女の素質を持っている者は皆、R戦闘機のパイロットとしての素質も持ち合わせているんだ。その理由が……マミ、見せてあげてくれるかい?」
「ええ、三人とも、これを見てちょうだい」
言葉と同時に、マミがつけていた指輪が光る。
次の瞬間掌の上に、卵より二周りほども大きい、黄色く煌く宝石が乗せられていた。
「これ、何なんですか。……すごく、綺麗」
その輝きに見せられるように、ふらふらと吸い寄せられるさやか。慌ててまどかがそれを掴まえて。
「これはソウルジェムというの。キュゥべえと契約すると生み出される魔法少女の証、みたいなものかしらね」
「そう、そしてこのソウルジェムこそがあのR戦闘機を動かすのに必要なものなんだ。このソウルジェムを機体に接続することで、まるで自分の手足を動かすようにR戦闘機を操ることができるんだ」
キュゥべえの声は得意げだった。ひらりと軽く尻尾を跳ねさせて。テーブルの上で薄く笑む。
「なんとなくだけど、わかった……かな?ちょっと自信ないけど」
どうにも自信なさげに、曖昧に言うまどか。
「今はそれでいいと思うわ、その気があるならこれからいくらでも理解できるから。本当にすぐよ。私だって随分慣れているように見えるけど、初めてR戦闘機に触れてからまだ3ヶ月も経っていないくらいなんだから」
「3ヶ月……ですって?」
思わずほむらが身を乗り出した。その表情には、今度こそ驚愕が色濃く映し出されている。
「ほむらちゃん?どうかしたの?」
「あ……いえ、なんでもないの。ただ、3ヶ月であんなにすごく戦えるようになるなんて、ちょっと信じられなくて」
車の免許などとは訳が違うのだから。ありえない、何かの間違いではないのかとすら思ってしまう。
「その…魔法少女のこととかはわかったんですけど、これからあたしたち、どうなるんでしょうか?」
話がひと段落したところを見計らって、さやかが切り出した。
これからの自分たちの処遇について。非常に気になるところである。
「私たち、修学旅行の途中だし。ずっと戻らなかったら先生たちも心配するよね」
まどかも頷いて、そんなさやかの言葉に続く。
「少なくとも今すぐ戻ることはできない。それに心配することはないよ、君たちの船には事情は説明してある。キミたちは負傷していたため、こちらの船で保護してある、とね」
「そんな、勝手にそんなこと!」
随分と横暴だ、とさやかがキュゥべえに詰め寄った。
「ごめんなさい、美樹さん。でもこれは必要なことなの。貴女たちが魔法少女になるならないに関わらず、ね。新型のR戦闘機を目撃してしまった。それだけでも、私たちとしてはそのまま帰すことはできないのよ」
申し訳なさそうにマミが言う。
「何か……されるんですか。尋問とか軟禁とか、拷問とか」
流石に最後のは言いすぎな感が否めない。
それでも、ほむらの言葉は随分さやかとまどかにとっては衝撃的だったようで。
「ごっ、拷問!?う、うううウソですよね!ウソだと言ってよ、マミさん!」
「拷問なんて……そんな、そんなの絶対おかしいよ!」
「あー……ええと、ね。二人とも。ちょっと落ち着いて。それから暁美さんも、あんまり物騒なこと言わないでちょうだい」
あまりの剣幕にたじたじといった様子でマミが答えた。
「そうともさ、キミたちは魔法少女としてとても魅力的な人材だからね。ボクとしても出来る限りの優遇はする。今はただもうしばらくここに留まってもらって、魔法少女やバイドのことをもっとよく知ってもらいたいんだ。その上で判断して欲しい」
「うぅ、そこまで言うなら……仕方ないとは思うけど。っていうか、そもそも戻りようがないんでしょ、今のままだと」
この様子では、帰りの足を出してくれそうにもない。しかたないか、といった様子でさやかは覚悟を決めたようである。
「本当にごめんなさい。お詫びというわけではないけど、後で船の中を案内するわ。色々なものがあるから、一日二日くらいじゃ飽きることはないと思うから」
「ほんとですかっ!?うわ、これはこれでちょっと得がたい経験って奴じゃない?宇宙船の中、こんなあちこち見て回れるなんて滅多にあることじゃないでしょ!」
むしろ、逆に楽しみ始めてしまった。なんというか、流石の適応力である。
「さやかちゃん……切り替え早すぎ」
「でも、きっとこれくらいの方が長生きできると思うわ。……私もちょっと、船の中は気になるし」
ひとまず休憩、お茶とケーキも用意しなおして。お茶会は再開された。
話題はもっぱら、魔法少女のマミのことであったり、修学旅行の行き先の話であったり
特にマミは地球を離れて久しいからか、地球の流行のことなんかに随分と執心していたようだ。
「さて、じゃあそろそろ次の話に移ろうか。今度はボクたちの敵。バイドについての説明をするよ」
そうして再びキュゥべえがテーブルの上へと飛び乗った。
今度は一緒に、モニターも空中に浮んでいて。
「バイド……それって、あの時船を襲ったあの機械みたいなもののことですよね」
「それは正しいけれど、正確にバイドのことを表しているとは言えない。マミ、詳しい話をする前に紅茶とケーキは、片付けておいたほうがいいと思うな」
「………そうね。少し待っていて」
マミの表情は固い。実際問題、バイドのこと話す時、あまり周りに食べ物を置いておきたくはない。食欲が失せてしまうから。
「流石に敵のことを話す、となるとやっぱり緊張しちゃうね」
「うん、マミさんもやっぱり表情が固いし……ほむらちゃん?」
一気に張り詰めていく空気の中、ほむらだけがどこか違って見えた。
恐れているようでも、緊張しているようでもない。まるでそれが聞きなれたことであるかのように。
自然と耳を傾ける、そんな姿勢が出来ていた。
「なんだか……すごく落ち着いてるんだね、ほむらちゃんは。私なんか、これから敵の話をするって聞いただけで、こんなにドキドキしてるのに」
「ぁ……いいえ、そんなこと、ないわ。ただちょっと、人により顔に出づらいだけだと思う」
少し困ったようにほむらが答えた。そこへ、マミが片づけを済ませて戻ってきた。
「さあ、それじゃあ始めましょう。キュゥべえ、お願いね」
「ああ、わかったよ。じゃあ始めるよ。バイド、それは――」
キュゥべえ先生によるバイド講義、一時間目が開講した。
中空に映し出されたモニターは、バイドのその性質を、異形を、脅威を包み隠すことなく説明していく。
曰く、ありとあらゆるものに伝播し汚染する。
曰く、非常に強力な攻撃本能を持つ。
曰く、ヒトと同様の遺伝子構造を持つ。
曰く、その殲滅は容易ではない。
そして、そのバイドの姿を目の当たりにする。
機械を浸蝕し操るもの、バイドそのものが作り出した新たな生命体。
――そして、生命を蝕み異貌を象るモノ。
「……何、何なのよ“コレ”はっ!」
バイドに汚染された兵器が、人の営む街並みを焼き払っていく姿。
さやかはその不条理に怒り、叫ぶ。
「ぅあ、ぁ……ぃゃ、やぁ……っ、ぅぐっ」
ドプケラドプスと呼ばれるA級バイドの、その異形と凶暴性。
ついにまどかは正視に堪えず、床に蹲ってえずきはじめる。
マミがその身体を支えて背中を擦る。震えも嗚咽も収まらない。
「――バイド……っ」
そしてバイドによって引き起こされた、人類史上最悪の事件。
コロニー、エバーグリーンの地球への墜落。
それが引き起こした圧倒的な災厄に、ほむらは密かに歯噛みする。
「わかっただろう。これがバイドだ。これを放置しておけば人類は必ず滅亡する。それを防ぐために造られたのがR戦闘機で、それと戦うものが魔法少女なんだ」
「わかったよ。……よくわかった。あれが、バイド」
さやかの瞳に移る色は、怒り。圧倒的な暴虐と理不尽への、その象徴たるバイドへの、憎悪。
「ぅ……もう、大丈夫。ありがと、マミさん。でも、マミさんはあんなものと戦い続けてるんだね。……すごいや。私には、とてもできないよ」
まどかの記憶に焼きついているのはのは、恐怖。人知を超える醜悪なる異形、バイドそのものへの、拒絶。
「……戦う力があるのなら、戦わなくてはいけないのかしら」
ほむらの心で揺れていたのは、迷い。バイドを斃す力。それを持ち、振るうことへの逡巡。
三者が三様に心を揺さぶられていた。バイドという、終わらない悪夢を目の当たりにして。
「どうやらステーションについたようだ、客船はここで切り離していくとしよう」
「それで、この後はどうするのかしら、キュゥべえ?」
窓の外には宇宙ステーション。恐らく今頃、他の生徒達は無事に保護されたことだろう。
とんだ修学旅行になってしまったが、後は予定通りに進んでくれるはずだ。
「そうだね、さっきのバイドとの交戦で概ね今日の試験項目は終了したと言ってもいい。それに、今日はこれ以上彼女たちに事情を説明するのは難しそうだ。今日のところはここまでにしておこうか」
キュゥべえの言葉に、マミは嬉しそうに笑って。
「そう、それじゃあ私は彼女たちに船の中を案内することにするわ。禁止区画以外のロックを解除しておいてね」
「わかった。じゃあ後のことは任せるよ、マミ」
そして、小さな光の粒子と化してキュゥべえの姿が掻き消えた。
「さあ、それじゃあ行きましょうか。ティー・パーティーの中を案内するわ」
「待ってました!難しい話ばっかりでもううんざりだったけど、いよいよ船の中を探索できるってわけですね!くぅー、楽しみだなーっ!」
「一応機密ってことになっている区画もあるけれど、それ以外ならどこだって案内してあげるわ。まずは見取り図を出すわね」
浮かび上がるモニター、映し出される船内図。
「さっき話した通り、娯楽施設や図書室、他には食料プラントを兼ねた庭園やプールなんてのもあるわね」
「何それ!?ちょっと豪華すぎじゃない?家なんかよりずっとすごいよ」
「とても軍艦の中とは思えないわ」
驚いた表情のさやかとほむら。実際、この艦の設備はそこいらの住宅よりもはるかに充実している。
「そうね。でも一つだけ困ったことがあるのよ。地球の電波が届かないから、テレビが見られないの」
小さく肩を竦めて、苦笑しながらマミが言う。
「あー、確かにそれは辛いかも。テレ東とかも見られないんですよね」
テレ東。正式名称テレビ極東。主に日本を中心としたアジア各地を放送圏に持つ、アジア圏最大のテレビ局である。
色んな意味でジャパンライク溢れるその番組は、この22世紀も終盤を迎えた今でも高い人気を誇っている。
「でも、それ以外概ね快適よ。この船だけで5人くらいは生活できるようになっているわ」
船内図を眺めてはしゃぐさやか、半ばあっけに取られているようなほむら。
……唯一人俯いて、まだ立ち直れていない様子のまどか。
「……鹿目さん?まだ具合が悪いの?」
それに気付いて、ほむらが声をかけた。
「あ……ほむら、ちゃん。……うん、ちょっとさっきの、辛くて」
「無理もないわ。あんなもの、女の子が見て耐えられるものじゃないもの。ごめんなさいね、鹿目さん。部屋に案内するから、そこで少し横になっていたほうがいいわね」
「ごめん……なさい、そうするね」
ふらつくまどかを、マミが肩を支えて何とか立たせて。
「美樹さん、暁美さん。悪いけれど、二人で船の中を見てきてくれるかしら。私は、鹿目さんを介抱しているから」
「わかりました。……ごめんね、まどか」
ばつが悪そうな表情のさやかに、青ざめた顔に何とか笑みを浮かべてまどかが答えた。
そうして、そのまま部屋を出て行った。残された二人、さやかは少し苦い顔をして。
「また……やっちゃったな。一人で勝手に浮かれすぎて、まどかのこと全然見てなかった。友達なのに。……気をつけなきゃ」
迷いと後悔を振り払うように、一度大きく頭を振って、それから。
「まどかのことはマミさんに任せることにして、行こうよ、ほむら」
「……ええ、行きましょう。美樹さん」
二人連れ立って、部屋を後にするのだった。
ティー・パーティー内、マミの自室にて。
まどかを部屋のベッドに寝かせて、その枕元にマミが身を屈めて顔を寄せていた。
「本当はちゃんと部屋を用意できたらいいのだけど。
急なことで、まだ整理とかが終わっていないの。ごめんなさい、鹿目さん」
「いいえ、気にしないでください。私のほうこそごめんなさい。……私、弱くて」
「それこそ気にすることないわ。あんなものを目にしたら当然よ。
キュゥべえももう少し、配慮ってものを覚えてくれるといいのだけど」
ベッドに横たわり、マミの冗談染みた口調に力なくも笑みを浮かべるまどか。
恐らく大丈夫だろうと考えて、マミも立ち上がった。
「あの……マミさん。一つだけ、聞いてもいいですか?」
そんなマミを、まどかが呼び止めた。
「ええ、構わないわ。鹿目さんは何が聞きたいのかしら?」
振り向いて、まどかの言葉を待つマミ。
「……マミさんは、どうして戦っているんですか。こんなに怖いのに、あんなに危なくて、もしかしたら死んじゃうかもしれないのに」
その言葉に、弾かれたように目を見開いて、言葉に詰まるマミ。
僅かな逡巡。その顔はやがて、どこか諦観染みた笑みへと変わって。
「宇宙の平和のため、って言ったら。鹿目さんは信じてくれるかしら?」
「信じたい……信じたいんです。でも、だけどっ。あんなに怖くて、それだけで命を賭けられるのかなって、思っちゃって。マミさんも死んじゃうんじゃないかって思ったら、怖くて、怖くて……っ、ぐすっ」
またしても涙が、嗚咽が込み上げてきてしまう。
そんな顔を見せるのが嫌で、枕に顔を埋めてしまおうとしたけれど。
「鹿目さん………」
「ぁ……マミ、さ」
そんなまどかを、マミが抱きしめていた。
「私も怖いわ。戦わなくて済むのなら、戦いたくないって思うもの。格好つけて余裕ぶって、自分を奮い立たせて戦ってる」
その腕は震えていた。恐れないはずもない。どれだけの力があろうと彼女はまだ年若い少女なのだから。
バイドと戦うためのモノとなることも、戦いの宿命を受け入れることも、容易である筈がない。
「それでも私は、自ら望んで戦っているの。バイドは、誰かが戦わなければいけない敵だから。それに私は身寄りがないから、もし何かあっても誰かを悲しませることもないもの」
そう言って、マミは少し寂しげに笑う。
広い宇宙のその只中で、孤独一つを友にして、これからも戦い続けるのだろう。
その昏く重い道の果てで、いつか……。そんな姿が、まどかの脳裏に浮んで消えた。
「だめだよマミさん。そんなの……そんなの、悲しすぎるよ。一人で戦って、一人で死んじゃうなんて。私、私……っ」
抱きしめられた身体から、マミの孤独が伝わってくるようで。居た堪れなくて、どうにかしてあげたくて、か細い声で言葉を紡ぐ。
それをどうにかする手段が、孤独を打ち消す力がその手にある事を知っていても、どうしてもその決意は言葉にできなくて、それが悔しくて、怖くて。
「鹿目さん……貴女は優しい子ね。それこそ貴女には、戦いなんて似合わないわ。でも貴女がそう思ってくれるなら、覚えていてくれるなら、私はまだ戦えるわ。貴女に会えて良かった、鹿目さ――いいえ、まどかって呼んでいいかしら」
顔を上げればそこに映ったマミの顔には、もう孤独を憂う色は消えていた。
力強く、そして優しい笑みだけがそこに湛えられていた。
「はい……マミさん」
たとえ仮初でも、ほんの僅かだったとしても。自分の言葉はマミを救い得たのだろうか。
それが嬉しくて、まどかの表情も和らいでいたのだった。
「ありがとう、まどか」
そして、マミは静かに微笑んだ。
一方その頃、さやかとほむらは艦のシミュレーションルームにいた。
「すごいなー、ここ。シミュレーションルームだっけ。R戦闘機に乗って戦闘を体験できるーって言う奴でしょー?」
無数に並ぶシミュレーション装置。
R-11系列の機体のシミュレーション装置である『GALLOP』
OF系列の機体のシミュレーション装置である『イメージファイト』
R-13系列の機体のシミュレーション装置である『X-∞』
などなどと、その筋の人が見れば泣いて羨むような品揃えである。
ほかにも水中戦闘のシミュレーション装置である『海底大戦争』なども用意されていた。
「ちょっとやってみたいけど、動かないんだよねー、これ。後でマミさんに聞いてみようかな」
そんなシミュレーション装置の一つ一つを丹念に眺めているさやか。
「ねえ、美樹さん」
ひとしきり室内を眺め終えたほむらが、静かな声で話しかけた。
「ん、どうかした?」
「美樹さんは、バイドと戦うつもりなの?」
その言葉に、楽しそうに笑っていたさやかの表情も曇り。
「あー……そのこと、か。うん、正直バイドは憎いよ。あんな酷いことをして、その上まだ皆を苦しめようとしてる。許せない」
拳を握って、その拳を壁に撃ち付けながら。
「でも、戦えないよ。死ぬのは怖いし、もしあたしが死んだらみんな悲しむと思うから。悔しいけど、そこまで覚悟して立ち向かうことなんて……あたしにはできない」
悔しさに拳は震える。けれどそれでも戦えない。未知の敵への、死への恐怖は尚強い。
「……それが当然だと思う。こんな歳の子供が戦いに出るなんて、そんなの間違ってる。許されるはずがないわ」
ほむらは、少し安堵したような表情で言葉を漏らした。
「なんか……さ、ほむら。最初見たときから随分印象変わったよね。そっちが素なのかな?まああたしは、そういうちょっとクールなところも嫌いじゃないけどね」
「っ!?そう、かしら。……っていうか、からかわないで欲しいわ、美樹さん」
目を見開いて、すっかり取り乱しているほむら。けれどもそんなほむらに、さやかは更に追撃を加える。
「そうそう、その言い方も気になってたんだよね。美樹さん、っての。あたしだってほむらって呼んでるんだからさ、ほむらも、さやかって呼んでよ」
にっ、と口元を歪めて笑う。人懐っこい笑みが、ほむらの視線を捉えて離さなかった。
「え……でも。いいのかしら」
「あたしがいいって言ってるの!他の誰に許可取るのさ?」
びし、っと突きつけられた指先。
それを呆気にとられたように見つめて、それからくすりと笑みを零して。
「それもそうね。……ええと、さやか」
「ん、よしっ!改めてよろしく、ほむらっ!」
少女たちは手を取り笑いあう。
ここで終われば全ては、雨降って地固まる的ないいお話で済んでいたのだろう。
――だが、悪意(バイド)はそれを許しはしない。
部屋の中に奇妙な音が鳴り響く。
「アラート?何かあったの、キュゥべえ?」
「ああ、またバイドだ。今度はこの先の小惑星帯に反応が出た。このまま現地へ向かうから、出撃の準備をしておいてくれ」
「やれやれ、休ませてもくれないのね。まったく、やんなっちゃうわ」
軽く肩を竦めて笑う。その表情や口ぶりからは、幾分か力が抜けているようにも見えた。
「……頑張ってください、マミさん」
ベッドから身を起こし、手を差し伸べるまどか。
「ええ、行ってくるわ。すぐ片付けて戻ってくるから、待っててね」
手と手を合わせて、乾いた音が一つ鳴る。
そしてマミは戦士の顔を纏って部屋を出る。いつも震えていたはずの手は、もう震えていなかった。
「一人じゃない、誰かのために戦える。それだけで、こんなにも力が沸いてくるのね……知らなかったな」
閉まった扉に背を向けて、呟く。
そして彼女を想う者は一人ではない。アラートを聞きつけたさやかとほむらも駆けつけてきた。
「マミさんっ!……行くんですよね」
「ええ、バイドなんて全部やっつけてくるわ。見ていてね、美樹さん」
「はい!あたし、何もできないけど……マミさんのこと、応援してますから!」
さやかがマミの手を取り両手で握る。
想いを託して強く熱く。そこに篭っていたのは願いと敬意。
そして、隠せざるバイドへの憎悪。
「巴さん、どうか気をつけて」
「大丈夫よ、今の私はバイドになんて、負ける気がしないわ」
マミの顔に浮ぶのは自信。けれどもそれは、慢心のようにも映って。
「本当に、本当によ。お願いだから気をつけて。必ず戻ってきて」
「心配性なのね、暁美さんは。……でも大丈夫。油断はしないわ」
そして、少女たちに見送られ彼女は再び宇宙へと飛び立った。
眼前に臨む小惑星帯、そこに潜むバイドを討たんがために。
「小惑星帯に突入したわ、キュゥべえ。通信状態はどうかしら?」
無数の岩塊が漂う小惑星帯を縫うように、マミの機体が駆け抜けていく。
ザイオング慣性制御装置によって得られた機動性は、小惑星帯での飛行さえも容易に成し遂げた。
「通信状態は良好だ。カメラ・ビットの調子も問題ない」
カメラ・ビット、それは本来索敵機に搭載されているビットである。
情報収集の役割を果たすそのビットは、入手した情報を逐次ティー・パーティーへと送信している。
それは作戦室のモニターに映し出され、さやかとほむらが息を呑んでその動向を見守っていた。
「確かにバイド反応自体はあるようだけど、小惑星なんかと反応と混ざってしまっているわね。どうにもわかりづらいわ。一番大きな反応があったのはどこかしら?」
「一番大きな反応は小惑星帯のほぼ中央、岩塊の密度が薄まっているあたりからだ。恐らく、ここに住み着いたバイドの中枢だと思うな」
「じゃあ、ひとまずそれを目指してみましょうか……っ!?」
突如、機体を掠める敵弾。咄嗟に機首を巡らせていなければ恐らく直撃していただろう。
飛来した敵弾は、機首に装着されたフォースによって防がれていた。
フォース。それは最強の矛にして不朽の楯。
それは、R戦闘機がバイドを斃し得るモノにしているもう一つの理由。
“バイドをもってバイドを制す”その理念が形を成した姿。
このフォースを装着することで、R戦闘機はその真価を発揮する。
フォースを介した各種光学兵装や、機体後部にフォースを装着することによる後方への攻撃。
そしてフォースに蓄積されたエネルギー解放することにより、広域殲滅を可能とするΔウェポン。
フォースに加えて、人工的にフォースを生み出そうとした結果の副産物であるビットを装着した姿。
それこそがR戦闘機のフル装備であり、あらゆるバイドを殲滅する、究極の力の象徴なのだ。
「敵の攻撃ね。……なるほど、岩塊に偽装してたのね。道理で気付かないわけだわ」
岩塊が変貌し、リング状の機体に変わる。その中心から突き出した砲台。
岩塊に偽装したバイドの要撃生命体、リボーである。
武装も装甲も貧弱、所謂雑魚という奴である。偽装による不意打ちも敢え無く妨げられた。
そんな雑魚の辿る末路など、最早たかが知れている。
「狭いところに誘き寄せての騙まし討ち。それで勝ったつもりかしら?――見せてあげるわ、R戦闘機の、本当の戦い方をね!」
言葉と同時に放たれた、三筋の青い光線。
それはリボーを打ち砕き、焼き払う。それだけでは留まらない。
敵機や岩塊に接触、それを砕きながらも反射していく。そういう性質を持つ反射レーザーなのだ。
幾何学的な軌道を描いて放たれ続ける反射レーザーは、次々にリボーの群れを打ち砕いていく。
「負ける気はしないけど、これじゃ埒が明かないわね。このまま中心部へ突入するわ。キュゥべえ、ナビをお願いね」
「任せてよ、マミ。そのまま10時の方向だ」
「OK!それじゃあ一気に行くわよっ!!」
そしてまた、R戦闘機に火が灯る。
無数の光線をばら撒いて、無数の破壊を散りばめて。小惑星帯を駆け抜ける。
そもそも障害物の多い小惑星帯には、バイドも小型のものしか存在できなかったようで。
リボーやキャンサー程度の妨害しかなく。それは須らくR戦闘機に敵し得るものでもなかった。
「もうじき指定座標に到達するわ。……確かに比較的強いバイド反応だけど。本当に中枢かしら、中型程度の反応しか見られないわ」
小惑星帯中心部、比較的障害物の少ないその場所に“ソレ”はいた。
ソレは禍々しくも艶やかな色彩を持って漂っている。そしてソレは光を放ち……姿を変えた。
「っ!?どういうこと、バイド反応が急速に増大してる。これじゃまるでA級並みの反応よ。どうなっているの!?」
「こちらでも確認した、少なくともこの先に何かがいることは間違いないようだ。ただA級ともなると、マミでも手に余るかもしれない。敵の情報を可能な限り入手して、撃破が困難なら離脱してくれ。離脱ルートを検索するよ」
「いいえ、その必要はないわ。たかがA級バイドの一匹や二匹。R戦闘機ならやれるはずよ。……かつての英雄たちも、そうだったんでしょう」
マミの声は強く、自信に満ち溢れていた。
今だって苦戦することなく戦ってこれたのだ、例え相手がA級バイドであったとしてもきっと通用する。通してみせる。
「……それは否定しない、そしてマミの腕が確かなのも認める。それでも、無理だと思ったらすぐに引き返すんだ、いいね」
「わかったわ。……小惑星帯中心部へ、突入するわ」
そして機体は、小惑星帯の中心部へと向かって走り出す。
異貌の悪夢が蠢く、その坩堝と。
「マミさん……頑張って。お願い……勝って、帰ってきて」
モニターの前、さやかは両手を合わせて固唾を呑んで見守っている。
ほむらもまた、食い入るような視線でマミが描く戦闘の軌跡を追っている。
時折何かを呟いているが、その声は誰にも届かない。
「もうすぐ敵が視界に入るわ。……って、な、何なのよ…これはっ!!」
焦ったようなマミの声。そこに映し出されたものは。
「な、なな、なななっ!なんじゃありゃぁ~っ!?」
生理的嫌悪感を感じさせる醜悪に蠢く肉塊。
その肉体のところどころにくぱぁ、と開いた唇のような孔。
びくんびくんと脈動するたび、その孔からは体液が流れ出し
体液でぬらぬらと濡れそぼったそこから現れる、無数の節で構成された棒状の肉の塊。
もう正直やめたいがまだ続く。
その肉塊の名は、生命要塞ゴマンダー。間違えのないようにもう一度言っておく。
ゴマンダーである。決して濁点を取ったり順番を入れ替えたりしてはならない。
そして棒状の肉の塊の名は、防衛生命体インスルー。文字通り、くぱぁと開かれたゴマンダーの孔に
ずるずると蠢きながらインしていく。そしてまたぬるりと現れる。
蠢く肉の節からは、まさしく肉そのものといった弾が全方位へと放たれている。
その膨らんだ先端は超硬質の金属で形成され、黒光りさえ感じるような恐ろしい異形を備えている。
……まだ終わらない。
そして何より目を引くのは、ゴマンダーの頭頂部に聳える瞼のような器官。
瞬きの用に開かれては閉じるその奥には、綺麗にすらも見える青色が覗いている。
そしてそれを覆い隠すように、肉厚の瞼が包み込んでいるのだ。
状況説明をこれに終わる。
「え、何、これ?へ、えええっ!?」
マミは素っ頓狂な声を上げる。完全に気が動転している。
無理もない、いきなり目の前にこんな卑猥な物体が突きつけられたのだ。
熟練のRパイロットでさえ、正気を失い飛び込んでいく事例さえあるほどの代物である。
マミが受けた精神的ショックは、計り知れないものだろう。
「何よ、何なのこれ、こんな、こんな……ものがっ!!?」
それは恐らく、最悪に卑猥なファースト・コンタクトであっただろう。
この卑猥な物体のインパクトは、それまで考えていたことなど全て忘れさせてしまった。
あまりの異貌、あまりに卑猥。こんなものに欲情するようなものがいるとすればそれは異常である。
早急に入院の必要がある。病んでいるのは脳か精神だろう。
「……改めて見ると、また随分と卑猥ね」
だがしかし、暁美ほむらはうろたえない。
「巴さん、しっかりして。気を取り直して。敵が来るわ。その棒状の方、インスルーは胴体さえ破壊してしまえば脅威ではないわ。胴体部分を破壊すれば、そいつはゴ……げほその大型バイドの中に戻るはずよ。そこを狙って、あの露出している青い部分、コアに可能な限り接近して」
それどころか、これ以上なく適切な指示まで出し始めたのである。
「え?あ、暁美さんっ!?どうしてそんなことを、いきなり……?」
「いいから!死にたくなければ撃ちなさい、巴マミ!!」
語調も荒く、今まで感じたこともないような何か、覇気のようなものすら感じさせて。
「っ、は、はいっ!!」
それに気圧されてか、マミも正気を取り戻す。
インスルーが放つ肉弾をかいくぐり、反射レーザーでその胴体を焼き払う。
肉塊が焼けて崩れていくその光景は、やはり精神衛生上あまりにも悪いが、それは思考の端へと追いやって。
苛烈な攻撃に耐えかねたインスルーは、たまらずゴマンダーの中へと逃げていく。
すぐに再生されるはずだが、その隙を逃さずマミの機体がコアの直上に肉薄する。
「で、できたわっ!」
「上出来よ、もう大丈夫。ゴマ……その大型バイドの弱点は、その瞼の下のコアよ。そしてその周囲は、インスルーが攻撃できない絶対安全圏。そこにいる限り攻撃を受ける心配はない」
「それじゃあ、後はコアを破壊すれば……」
あまりの卑猥さ、そしてほむらの剣幕に圧倒されていたマミにも、やっと思考能力が戻ってくる。
ここは絶対安全圏。そして敵の弱点はすぐそこにある。なすべきことはただ一つ。
「そう、それで終わりよ。反射レーザーならそのままでも十分。だけど、その機体の波動砲ならもっと手っ取り早いと思うわ」
「……どういうことなの?」
「わけがわからないよ」
そして、置いてけぼりの一人と一匹であった。
「コアが開いたところを狙って……リボン波動砲、発射!」
くぱぁ、と開かれたその瞼に波動のリボンが突き刺さる。
閉ざすことを許されず、ぱっくりと開かれコアが曝け出されてしまう。青々と脈打ち、明滅するコア目掛けて。
「これで……終わりよっ!!」
ありったけの青い閃光が、放たれた。
声にならない断末魔を響かせながら、崩れ、爆散していくゴマンダー。
「やった…やったわ!A級バイドを倒したのよ!」
けれどそれは、ほとんどほむらの助け合ってのことである。
一体彼女は何者なのか、戻ったら尋ねてみようと考えていた。
時を同じくして、作戦室にまどかが入ってくる。
どうやらしばらく眠っていたらしい、髪に寝癖がついている。
「ごめん、さやかちゃん、ほむらちゃん。私寝ちゃってて……マミさんは?」
「マミさんなら、今丁度バイドの親玉をやっつけたところだよ!凄かったんだから、マミさんは勿論だけど、ほむらもさ」
興奮冷めやらぬ、といった様子のさやかである。
「ほむらちゃん?……何か、したの?」
「……それは、ええと」
やってしまったという顔で、言葉を濁すほむら。
驚きながらも、無事に終わったことを喜ぶさやか。
状況が飲み込めず、首を傾げて困惑顔のまどか。
そして一人、いや一匹、意味深げな視線をほむらに向けるキュゥべえ。
誰も気付けなかった。
マミの機体が機首を翻し、帰路を辿ろうとしたその背後。
崩れ去るゴマンダーの肉体が変貌し、禍々しくも艶やかな紫色の球体へと、姿を変えるのを。
勝利に浮かれるマミもまた、それに気付くことができなかった。
「あれは、ファントム・セル……だめよ、マミ、逃げてっ!!!」
ほむらが気付き、叫ぶ。全ては遅かった。
他のバイドに擬態する能力を持つバイド、ファントム・セル。
その肉体が発光し、姿を変えていく。
絶望の象徴たるその姿、まさに異形、まさにバイドたるその姿は。
先ほどまどかを打ちのめした、ドプケラドプスのそれだった。
そして、バイド反応の強烈な増大に気付いて機首を巡らせたマミの機体を
その胸部から生えたもう一つの頭が、その巨大な顎が。
――――飲み込んだ。
魔法少女隊R-TYPEs 第2話
―SEXY DYNAMITE―
―終―
【次回予告】
「私が……戦う!」
立ちふさがるは絶望。それを払わんがため。黄昏を齎すモノが再び宇宙を駆ける。
「ELIMINATE DEVICE……Wake Up!」
しかし、全ては遅すぎた。
躊躇いは犠牲を、犠牲は不和を生む。
「あんたのせいだ。あんたのせいでマミさんはっ!」
絶望は払われる。だがそれは救いではない。
絶望の向こうには、永く昏い灰色の道が広がっているだけで。
「………戦う。もう逃げないって決めたから」
――そして少女は、己が運命を選択する。
次回、魔法少女隊R-TYPEs 第3話
―RAGNAROK―