魔法少女隊R-TYPEs   作:SanDMooN

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それは勝利と言えるのだろうか。戦いの空の果て、少女達は失ったものの重さを噛み締める。
それは追憶。災厄の翼舞う戦場で、彼女が放った最後の一撃の記憶。


第14話 ―沈む夕日―①

「あたし達……勝ったんだよね」

ティー・パーティー内、格納庫。戦いに傷つき、そして収容された機体を眺めながら。

「……知るかよ」

呆然と呟いたさやかの言葉に、どこか投げやりに杏子は答えた。

「なんにせよ、これで終わりだよ。……こんな馬鹿げたことはもう終わりだ」

下手に口を開けば、そのまま嗚咽になってしまいそうで。ぎゅっと口許を引き締めたまま、漏らすようにそう言った。

ティー・パーティーの格納庫に並んでいるのは、レオⅡにキングス・マインド。その二機だけで、他には何も存在していない。

激しい戦場となっていた都市は既に遠く、ティー・パーティーは損傷の激しい艦と共に後方で待機することを余儀なくされていた。

ニヴルヘイム級を筆頭に、損傷の少ない艦を率いて、艦隊は都市中枢部へと向かっている。最早、敵部隊に脅威はない。そう判断して、一気に掃討を始めたのだ。

 

そう。敵部隊は既に組織的な抵抗力を失っている。

戦いは、既に終わっていたのだ。

 

ティー・パーティーの格納庫に、もう一つ新たな機影が現れた。

そこに居た二人は、一瞬だけ何かを期待するような目で見つめて、それがただのシャトルだと分かると、途端にその表情を落胆の色に染めた。

けれど、そのシャトルから降りてきたのは、二人にとって予想外の人物だった。

 

「……まど、か?」

さやかが、まるで信じられないものを見ているかのように、掠れた声を漏らす。

「お前、どうして……」

杏子もまた、その姿そこにあることが信じられない。いくら戦局は決したといえ、ここはまだ戦場なのだ。

「さやかちゃん、杏子ちゃんっ!!」

二人の姿を見るや否や、まどかは駆け寄り抱きついた。その手を大きく広げて、二人纏めて抱きかかえるように飛びついたのだ。

「よかった!二人とも……無事だったんだ。よかった……よかったよ……」

そのまま今にも泣き崩れそうになってしまうまどか。それを制して、身体を引き離して。杏子は問いかける。

「お前、何でこんなとこに来たんだ。ここはまだ戦場なんだぞ」

どちらかといえば、咎めるような色も強いその杏子の言葉を、まどかは真っ直ぐ受け止めて。決意を固めた、ともすれば気負いすぎているような表情で答える。

「分かってる。でも、私にもできることがあったから、ここに来たんだ」

「出来ること、って。……まどか、何するつもり?それに……それに」

戦いは、もう終わったのだと。その事実を告げることは、その事実を受け入れてしまうことは、さやかにはどうしてもできず、結局言葉を濁してしまうのだった。

 

「……戦いはもう、終わったんだ。敵の旗艦が墜ちた。これでもう敵はまともに抵抗できない。後はそれを掃討して終わりさ」

そんなさやかの苦悩を継いで、杏子がその事実を告げた。

「え……終わり、って?……嘘、そんな……っ」

「……一応、あたし達の勝ちってことだよ。まどか。正直、ちっともそんな気はしないんだけどさ」

力無く笑みを零して、さやかがまどかに声をかけた。けれどまどかは、そんな声すら耳に入っていないようで、目を見開いてその身を震わせて。

「まどか。どうしたのさ。……何か、やることがあるんでしょ。言ってごらんよ。……何か、力になれるかも知れないしさ」

さやかがまどかの手を取ると、まどかはその手に手を重ねて縋るように握る。震える視線でさやかを捉え、どうにかこうにか、掠れた声を口にした。

「私……止めに来たんだ。戦うのを、ロスさんを止めに来たんだよ。なのに、なのに……間に合わなかった、なんて…っ」

そのまま、声は嗚咽に変わっていった。けれど、それよりもそのまどかの言葉が引っかかった。ロスという名前は、当然気にならないわけが無い。

 

「まどか……あんた、何言ってんだ……?」

聞いてはいけない。胸の奥に、何かとても嫌なものがよぎった。それでもその疑問を押さえきれずに、杏子は尋ねた。

尋ねてしまった。

「あのバイドは、あの艦は……敵なんかじゃなかったんだよ。あれに乗っていたのは……」

喉元まで出かかって、それでもそこから先へが出てこない。言葉にしようとするだけで、胸の奥が締め付けられるように痛くなる。喉がからからにかれているみたいで、声が声になってくれない。

頭の奥が冷たくなって、踏みしめているはずの地面が、急に頼りなく歪んでいるようにも感じた。それでもありったけの力を振り絞って、まどかは、その名前を口にした。

 

 

 

――ジェイド・ロス。

 

 

 

「っ……ッざ、けんなァァッ!!」

その言葉が聞こえた瞬間に、杏子の頭の中は真っ赤に染まった。認めない、信じない。ありえない、ありえるわけが無い。朱一面の頭の中を、思いつく限りの否定の言葉が駆け巡っていく。

「くぁ……っ、ぁ、ぎ……ぎぁ……っ」

半ば反射的に杏子をまどかの首下を掴んだ。そして、そのままぎりぎりと片手でその身体を持ち上げる。激しすぎる怒りが、肉体の限界をも超えさせているのか、その手は揺るがず、ひたすらにまどかの首を締め上げている。

気道を塞がれ、苦しげに声をあげるまどか。全ては一瞬の出来事で。

「……っ!?な、何やってんのさ!杏子っ!!」

呆気に取られ、一瞬だけ反応が遅れたさやか。すぐさま杏子に呼びかけて、その手を無理やり引き剥がす。

「げほっ……う、っぐ。ごほ……ぅぅ」

解放されて、そのまま床に横たわるまどか。その首筋には、赤々と手の跡が残っていた。そんなまどかと杏子の間に、立ち塞がるようにさやかが割り込んで。

 

「まどかを殺す気?」

「……そいつが、イカれた事を言うからだろ。それも、こんな時にッ!」

それでも尚収まることを知らない怒りと、少なからぬ悲しみの色でその瞳を心を染め上げて。今にも再び掴みかかりそうな形相で、杏子はまどかを睨み続けている。

「お前は、わざわざそんな事を言うためにここに来たのか?どこまであたしらを追い詰めりゃ気が済むんだ、お前はっ!!」

「杏子っ!……気持ちは分かるけど、落ち着きなさいって」

そんな杏子を制して、さやかはまどかに向き直り。

「でもさ、まどか。何で?何でまどかがそんなことを言うわけ?」

そんなさやかの言葉にも、深い悲しみと共にどこかまどかを責めるような声色が混ざっていた。

「……例えそれが事実だとしても、そんなの聞きたくないよ。それじゃ杏子は、仲間と一緒に家族まで失ったことになっちゃうじゃない」

込み上げるものを堪えることが出来なくて、さやかがその場に崩れ落ちる。ぽろぽろと、とめどなく涙を零しながら、床に手を付き嗚咽を漏らす。

 

「え……仲間、って」

その言葉に、血が上っていたまどかの顔から一気に血の気が引いていく。そして気付く。格納庫にある機体は二機のみ。本来そこにあるはずの機体はない。そして、共に戦っているはずの仲間の姿もまた、なかった。

 

「さやかちゃん。杏子ちゃん」

きっと、二人はまだ戦っているだけなんだ。もうすぐ戻ってくるに決まってる。そんなこと、あるわけがない。

「……何処に、行ったの」

けれどどうして、どうしてこんなに涙が零れるのだろう。こんなに、胸が痛くなるのだろう。目の奥が熱くなるのだろう。

 

「マミさんと、ほむらちゃんは」

言ってしまった。びくり、と小さく嗚咽を漏らしていたさやかの身体が震えた。いつの間にやら、杏子の顔からも怒りの色が消えていて。

沈黙が、余りにも重く痛々しい沈黙が、その場を支配した。口を開くものは誰もいない。

 

それでも、たっぷり秒針の一回りの半分ほどの時間をかけて、杏子がその口を開いた。

「……死んじまったよ。ほむらも、マミも」

そして杏子もまた、全ての力を使い果たしたかのようにその場に崩れ落ちてしまった。

 

 

 

 

その時さやかと杏子が見たものは、異形の機体から伸びた蔦に貫かれたマミの機体だった。ほむらに殿を任せ、都市部から脱出し、まっすぐに後方の艦隊へと戻るその道の途中のことだった。

 

「な……マミっ!?」

「マミさんっ!?」

二人が驚愕の声を上げる間にも、貫かれた機体は火花を散らす。そしてそのまま、撃ち捨てられて地上へと落ちていく。新たな敵を認識したのだろう。異形の機体が、その機首を二人に向けていた。

「おい、さやか。……あいつは、あたしらで仕留めるぞ」

怒りに満ち、微かに震える低い声で杏子が言う。さやかは即応し、すぐさま機体を巡らせ突っ込んでいく。波動の光とサイビットの軌道が交差していく。

 

「あいつはあたしらで引き受ける。そっちは艦隊の援護を頼むっ!!」

後続のR戦闘機部隊にそういい残し、杏子もまたデコイを駆って敵機に挑む。墜落したマミの機体を一瞥。コクピットブロックへの直撃は避けている。今すぐ機体が爆発するような様子もない、ソウルジェムさえ回収できれば、きっと大丈夫だ。

自分に言い聞かせるように願い、デコイを全機散開させる。デコイ及び自機による包囲網で敵の動きを塞ぎ、レオⅡの広域攻撃で殲滅する。

二人のコンビネーション攻撃。かわせるはずなどない。そう思っていた。

 

その敵機の中に潜む意志は、新たに迫る敵の姿を捉えていた。数はそこそこに多い。どうにかこの敵を仕留めるのが間に合ってよかった。恐らく砲手と思われるこの敵は、なかなかに強敵だったのだ。

新たに迫る敵軍の中から、抜きん出て迫る赤と青の二機。新型だ。どうやら自分の相手をしようというのだろう。他の機体が、敵の艦隊の元へと戻っていく。

艦隊を攻撃中の機動兵器部隊が攻撃を受ける恐れがある。さっさとそちらも止めなければならないと、そう思うのだが。

 

――手強い、な。

 

無数に放たれる光。執拗に追い縋る新型ビット。そしてこちらの進路を塞ぐようにじりじりと包囲を狭めてくる敵のデコイ群。これは他の事を気にして立ち向かえる相手ではない。

だからこそ、まずはその二機を叩き落すことを優先させることにした。

 

「何なのよ、こいつはっ!」

背後から迫るサイビットを、敵機はわずかに機体をずらして回避する。それと同時にその蔦でサイビットを絡め取り、そのまま破壊してしまった。

フォースもビットも、どちらも基本的には堅牢を誇る無敵の盾である。だがしかし、それも物質である以上、破壊できないものではなかった。

特に強力なバイドならば、単体でもフォースに干渉し、それを破壊し得る。そうでなくとも、フォースやビットをコントロールするデバイス部分は、破壊することは不可能ではないのだ。

ただ、超高速で展開する戦闘の中、それを狙えるようなものなどほとんど存在し得ないというだけで。

自動で敵を追尾するサイビット。それは兵器としては優秀だが、動きが読まれやすいという欠点も存在した。

それを的確に突いて、さらにサイビットを破壊し得るようなものなどほとんど存在せず、今まで欠点としては認識されていなかっただけなのだ。

かくして、レオⅡはその最大の武器であるサイビットを早々に失ってしまっていた。

 

「ちょこまかと……逃げるな、野郎ッ!!」

苦戦を強いられているのは杏子も同様だった。まるでこちらの動きが読まれているかのように、デコイ達の攻撃は掠りもしない。それどころか、僅かでも隙を見せれば敵機からの攻撃を撃ち込まれ撃墜される。

前方に構えたフォースから放たれる、鞭のようにしなるレーザー。その独特の動きに、AI操作のデコイはまったく対応できていなかった。

隙を突き、背後から迫るデコイさえ、青い光が貫いた。誘導性があるわけでもない、ただそのレーザーは、発射と同時に緩やかなカーブを描いて後方へと向かい、デコイを撃破していた。

機体性能もさることながら、まるで後ろにも目があるのかのように自由自在の攻撃を仕掛けてくる。恐ろしい強敵だった。それこそほむらに並ぶほどに。

散らば諸共、とばかりにデコイによる突攻を仕掛けさせる。とにかく近づいてさえしまえば、デコイ内部に蓄えられた波動エネルギーを開放することでダメージを与えることもできるのだ。

そのデコイを、敵機はその波動兵器であるスパイクアイビーを突き出し迎え撃つ。接触するかと思われたその直前に、敵機はその機首を大きく振った。

「何やろうってんだ……とにかく、一緒に弾け飛べっ!」

不可解な動作。けれどそんなものは関係ないとばかりに、杏子はデコイに自爆命令を送った。

デコイが波動エネルギーを開放しようとした、その瞬間に。大きく横に一回転した敵機が、その機首に据えた波動の蔦がまるで野球でもしているかのように、デコイを激しく打ち返したのだった。

 

「んなっ、馬鹿なっ!?」

驚く間もなく、デコイは打ち返された勢いのままこちらに迫る。自爆命令を取り消すこともかなわずに、そのままデコイは空中で激しい光を放って四散する。

その光の中から、再び波動の蔦を携え敵機が迫る。

「なめるなぁぁっ!!」

杏子もそれに立ち向かい、波動砲の狙いを定める。波動の光が放たれ、そして二機は交差した。

 

「……嘘だろ、おい」

交差して直後。機体を切り返して互いに向かい合おうとする二機。その瞬間、キングス・マインドの機体が火花を散らして火を吹いた。

「相打ちすら、取れないってのかよ」

まさしく相打ち覚悟の一撃は、敵機の表面を僅かに焦がしたに過ぎず。キングス・マインドは、ブースターの一つが完全にその機能を失っていた。機動性の低下。この状況下におけるそれは、まさしく致命的な損傷だった。

バランスを崩し、ふら付きながら高度を落とすキングス・マインド。追撃しようとした敵機の進路を、レオⅡが阻んでいた。

「杏子っ!……くっ。お前なんかにやられるもんか、やらせるもんかぁぁっ!!」

恐ろしい威力と攻撃範囲を持つその光学兵器を容赦なく放ちながら、杏子を守るかのように、さやかの機体が敵機に迫る。

それでもなお、敵は視界一面を埋め尽くす光を悠々と回避し、的確に攻撃を仕掛けてくる。下手に避ければ隙が出来る。隙が出来れば、あの敵は決して杏子を見逃さないだろう。

退くわけには行かない。どれだけ傷ついたとしても、どれだけの犠牲を伴うとしてもここで倒さなければならない。

覚悟を決めたさやか。その機体の輪郭を、青い光が覆い始めた。

「さやか、お前っ……駄目だ、やめろーッ!!」

必死に機体を建て直しながら、青く輝くレオⅡに向けて、杏子は叫んでいた。

 

 

 

「ん……っ。どうやら、まだ生きているみたいね」

墜落した機体の中、マミは途切れた意識が目覚めたのを感じた。

結局、あの敵機にはまるで歯が立たなかった。それでもどうにか追い縋り、喰らい付いて。きっと来るであろうはずの援軍を待ち続けた。

それがどうだろう。やっとその援軍が来たと思ったその瞬間に、一瞬の気の緩みに付け入られた結果がこれだ。自分の未熟さを見せ付けられて、気が沈む。

どうやら機体の損傷は特に駆動部にひどいようだ。機体はほとんど動かせないが、それでもその他の各機関は生きている。今すぐ機体が爆発するような危険もない。

ならば、このまま待っていればいつかは回収してもらえるだろう。

「これは……さやかと杏子ね。まだ、二人が戦っている」

ババ・ヤガーのセンサーには未だ激しくぶつかり合う二機と、それを少し離れた場所から見ている機体の姿が捉えられていた。

「苦戦しているわね。………きっと、このままじゃ勝てない」

直接ぶつかり合ったからこそ分かる。恐らく、あの二人が同時にかかって行ったとしても勝てはしない。既に恐らく杏子は戦闘力を奪われたのだろう、機体の動きは鈍い。

「なんとか、しないと……っ」

このままでは間違いなく、二人とも自分と同じ末路を辿ってしまう。何か出来ることはないだろうかと、機体にまだ残された機能を片っ端から漁っていく。

程なくして、それは見つかった。

 

「波動砲ユニットが、まだ生きてる……でも、これは」

通常の圧縮波動砲は放てる状態ではなかった。けれど、まだ超絶圧縮波動砲用の波動砲ユニットは残されている。二つの波動砲を運用するために造られたシステムが、思いがけないところで役に立っていた。

「……こんなものを撃ったら、砲身どころか機体まで一緒に潰れてしまうわ」

そう、それはあくまで超絶圧縮波動砲を撃つためのもので。それを通常の砲身から放つということは、拳銃から大砲の弾を放つような行為だった。

間違いなく、砲身も機体ももたないだろう。

「奴の不意をつけるとしたら、これしかない。でも、これを撃ったら……私は」

ずしりと、体が重くなったような気がした。何か、とても重たい嫌なものが体に絡み付いてくるような。それはまさしく、純粋な死への恐怖というものだった。

 

「……嫌。嫌よ。もう、死ぬのは嫌」

怖くないはずがない。死を乗り越えたということは、即ち一度死に瀕しているということ。その恐怖を、誰よりもよく知っていることに他ならないのだ。

「無理よ、こんなの……できっこない。死にたくない。死にたくないのよ、私はっ!……当然じゃない、仕方ないじゃない!死にたく……ない、っ」

機体の中で、さらに狭いコクピットの中で。そこに収まるソウルジェムの中に、マミの叫びがこだまする。それは間違いなく、彼女の偽らざる感情だった。

思い出されるのは、自分が死んでいくあの感触。そこに存在していないはずの体さえ、ばらばらに引き千切られて消えていく。自己が散逸し、自我が虚空に溶けていく。

ただそこにあるのは純粋な恐怖だけで、それは物理的な死よりも先に完全にマミの心の全てを殺しきっていたのだ。

「このままこうしていれば、私は死ななくて済む。生きていられる。きっと、誰かが助けてくれるわ。ごめんなさい、さやか、杏子。でも、でも私は……もう、嫌なのよ。生きたい。生きていたい……ぁぁ」

恐怖と罪悪感が鬩ぎ合う。けれど、そんなものは勝負にもならない。圧倒的な死の恐怖、そして生きたいと願う意志が、マミの思考の全てを埋め尽くした。

 

 

 

そして、ババ・ヤガーは再びその身に破壊の力を蓄え始めた。

 

「……ふふ、なんだか凄く、不思議な気持ちね」

なんとか通信を繋ごうとした。回線が完全に断線している。ならばそれを繋ごう。途切れた回線に、鮮やかな黄色のリボンが巻きつくイメージ。

回線が復旧。不安定ながらも、通信が回復した。

「さや――、杏――。聞――える?」

「マミ!?」

「マミさんっ!?」

たちまち、驚愕と安堵に満ちた二人の声が聞こえてくる。

 

私の、大切な大好きな仲間達。

お願いだから、最期まで見守っていてね。

最期まで、格好をつけさせてね。

 

回線が不安定だ。ノイズがひどい。安定させるにはどうしたらいいだろう。

直接伝えるのが、きっと一番いいはずだ。解いたリボンを二人の機体へと伸ばす。届いた。これできっと、声は伝わってくれるはず。

 

――二人とも、よく聞いて。私が何とかして、奴の隙を作るわ。

「何だ、マミの声が……頭の中」

「なんでこんな……マミ、さん?」

 

――だから、その隙に必ず奴を倒して。お願い、さやか、杏子。

声を繋げるイメージ。結んだリボンは早くも解けてしまいそうで。特に、激しく動き回るさやかの機体に声を届け続けるのは、思いがけなく力を使ってしまう。

「なんだかわかんないけど……とにかくわかった!マミさん、期待してますよっ!」

「……あんまり、無茶すんなよ。でも、頼むっ!」

 

――ええ、任せ――っ。

限界が来たらしい。結んだリボンは解けてしまった。でも、もういい。伝えなければならないことは伝えられたから。

 

機体が異常を伝えてくる。それをなんとかなだめて、超絶圧縮波動砲の発射シークエンスを遂行していく。

砲身がなければ撃てないと、機体のコンピューターがひどく文句をつけてきて仕方がないので、見せ掛けだけでもそこに立派な砲身を拵えた。

不機嫌な機体のご機嫌を取ることはできた。発射手順も完了。後は、狙いをつけて放つだけ。

「……これを撃てば、全てがお終い。本当に、震えてしまうわ。怖くて仕方がない。私は生きたい。……けれど、何も持たずに生きるのは空しいだけよね。だから」

敵を狙うには角度が足りない。これ以上は、どうにか機体を動かす必要がある。潰れかけた駆動系が悲鳴を上げた。がんばってと声をかけて、何とか機体の向きを変えた。

「さやか、杏子、ほむら。……まどか。貴女達を、私に護らせてね」

どうやら、敵もその動きに気づいたらしい。この機体に蓄えられたエネルギーにも気づいたようだ。けれど、もう遅い。どれだけ逃げ回ろうとこの一撃だけは、決して外さない。

 

「恐怖も、怒りも、憎しみも全て。私が一緒に持っていくから。……あなたたちはどうか……生きて」

心の中の引き金を引き絞るイメージ。

私の孤独、私の不安、私の後悔、私の苦痛。

そして、幸せだった思い出も全て、その引き金の上に乗せて。

 

「これが、本当に最期の――」

 

 

 

 

 

 

 

“ティロ・フィナーレ”

 

 

 

 

 

 

 

ババ・ヤガーの砲身が内側から弾け飛ぶ。機体すらも一瞬で消滅させるほどの、膨大なエネルギーがその内側から漏れ出した。

それは途方もない規模の波動粒子の本流で、砲撃としての用を為してはいなかった。

 

「マミ……さん。そんなっ!?」

「暴発……か。ちきしょうっ!!」

それは、無駄死にだったのだろうか。決して、そうではない。

迸る光が、一瞬で黄色く染め上げられる。無秩序にばら撒かれていた光の渦が、一つの形を取り始める。

まるで、その光そのものが意志を持っているかのように。そしてその光は、敵機へ向けて撃ち放たれた。

光の尾を引き突き進み、無数に枝分かれしながらなお迫る。それは通常の光学兵器のような無機質な分岐ではなくまるで木々が芽吹き、枝分かれしていく様を早送りで見ているような、とても有機的で、それゆえに予測困難な軌道を描いて敵へと迫った。

 

「どう、なってるの……これ」

呆気に取られて呆然と、それを見守るさやかと杏子。けれど、いち早くその衝撃から立ち直り、杏子が吼える。

「マミだ!マミが……命を懸けてまで、あいつを倒そうとしてるんだ!さやか、行けっ!!マミを無駄死にさせるなっ!!」

その檄を受けて、さやかははっと我に返る。見れば、無数の光に取り囲まれながらも、敵は執拗に回避軌道を取り続けている。あの光がマミそのものだというのなら、その意志を、この力を無駄にすることなんてできない。

全身に纏う青い光をさらに強めて、さやかはその光の渦の中へとレオⅡを走らせた。逃げるように軌道を取り続ける敵機を、同じく光の渦の中で追いかける。

レオⅡの通る先全て、光の枝は道を開けていた。

「……やっぱり、これはマミさんなんだ。……マミさん、マミさんっ!!」

涙がこぼれそうになる。涙をこぼす体なんてないはずなのに、視界がぼやけそうになる。それを必死に堪えて、ついに敵機がレオⅡの射程に入った。

ゆっくりと照準を合わせ、そして。

 

「行っ……けぇぇぇぇッ!!!」

リフレクトレーザー改をばら撒きながら、レオⅡがついに敵機へと迫る。けれど、敵はそれを待っていたのだろう。光の枝がレオⅡを避けている事を悟っていた。そしてそれが接近するこの時こそが、反撃にも脱出にも最大の好機である、と。

突如として敵機が反転。レオⅡへと突撃を仕掛けた。閉所でこそ最大の力を発揮するリフレクトレーザー改が、迫り来る敵機を迎え撃ち貫いていく。

どれほどの神がかった技量でも、この閉塞空間内での斉射に耐えられるはずもない。それを分かっているからこそ、敵もその一撃に懸けたのだ。

降り注ぐレーザーの雨を受けながらも敵はレオⅡを真正面に捉え、その機首からスパイクアイビーを突き出した。その一撃は、深々とレオⅡの機体を貫いていた。

「さやかっ!!」

激しい光の彼方に透けるその姿に、杏子が悲鳴交じりの声を上げた。これでもまだ届かないというのか。マミに加え、さやかを犠牲にしてもなお、勝てないというのか。絶望と、それを超えるほどの怒りが心の中に満ちた。

 

「……まだだ、まだ。終っちゃいない」

けれど、さやかの声は尚強く響き渡る。レオⅡが纏う青い光が、さらにその強さを増して。機体全てを包み込む。

 

彼女が望んだ願い。それは不朽の正義。

ソウルジェムはその願いに反応し、彼女に不朽の力を授けた。即ちそれは、バイドの持つそれを遥かに超える自己修復能力。波動の蔦が虚空に消えると。その下にはもう、真新しい装甲が再生されていた。

理解不能な出来事に、敵の動きが一瞬止まる。それを、さやかは見逃さなかった。

「い・ま・だぁぁぁぁっ!!!」

フォースのデバイスを切り替え、レオⅡの武装の中でも最大の威力を誇るクロスレーザー改が放たれた。それは、確実に敵機を捉え。打ち抜き、その身の全てを焼き尽くしていく。

爆炎を上げて弾き飛ばされ。そのまま光の渦に巻き込まれていく敵機。

 

 

 

そして、全ての光が弾けた。

 

 

「……それで、気が付いたときには敵の姿はどこにもなかった。

 多分、やっつけたんだと思いたいな」

さやかは、隣に座ったまどかにそう呟いた。結局、敵機がどうなったのかは分からずじまい。マミの機体も完全に消滅しており、その残骸すらも見つけることは出来なかった。

そんな悲しみを胸の内に押し込めて、二人が後方の艦隊の援護に向かおうとしたその時に、敵機動兵器部隊の撤退と敵旗艦の撃沈の報せが届けられたのだった。

 

 

――暁美ほむらが死亡したという、事実と共に。

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