魔法少女隊R-TYPEs   作:SanDMooN

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かつての英雄と、英雄になってしまった少女がついに対峙する。
彼は、彼女は、何を想い何を願い、死線の向こうへ飛び逝くのだろうか。

緋と火に染まる世界で、その魂は散華する。


第14話 ―沈む夕日―②

「敵の抵抗が思ったよりも少ない。……それだけ、攻め手に軍を裂いているということね」

立ちふさがる敵軍を薙ぎ倒し、時にやり過ごしてからまた薙ぎ倒し。目の前に現れる敵には一切の容赦をすることもなく、ほむらはひたすら機体を進めていた。

敵を先に進ませない為の戦いはもう必要ない。今必要なのは、ただ進み、全ての敵を殲滅することだけだった。それは、ほむらがもっとも得意とする戦闘で。

「……このまま、敵旗艦を墜とす」

崩れかけのビル街を駆けていくラグナロックⅡ。崩落したビルの上を通過した時、その中からバイド軍の自走砲台、ピスタフが現れた。

立て続けに誘導ミサイルが放たれる。数をそろえて待ち伏せしていたのだろう。弾幕はそこそこに厚く。各自に誘導性を持ちこちらに迫る。

「無駄よ」

ぎりぎりまで迫るミサイルを引き付け、そのまま機体をビルの陰に隠す。誘導しきれずに次々にミサイルがビルを直撃、小規模の爆発が巻き起こる。

その爆炎を貫いて迸る、低チャージのギガ波動砲。高い貫通力を持つそれは、ビルを貫き、ピスタフ達を焼き払った。

 

「……やはり、これは」

敵性反応の消失を確認し、ラグナロックⅡは再び都市部を駆ける。その中で、ほむらは半ば確信を抱きつつあった。

今回の敵バイドは、非常に高度な戦術を持っている。けれど、それにしても不自然だったのだ。

このバイドが駆使する戦術は、あまりにも人のそれに近い。部隊としての思考を、行動を熟知して、巧みにその裏をかいてくる。

敵の配置にも、バイドらしい数を持っての力押しではなく、人の油断やミスを誘い、一瞬の隙すらも見逃さないという明確な意志が見て取れた。

これは、単なるバイドではないと確信する。あまりにもそれは、人間らしさに溢れていたのだから。

「人がバイドを操るなんて、考えたくはないけれど」

恐らく今立ちふさがっているであろう敵の指揮官は、たまたま戦術を持ったバイドなどではない。明確な意思と、それを行使する力と知識を持った、人間に違いない。

ほむらの脳裏を、そんな思考が占めていった。

 

「だとしたら、何故」

何故、人がその意志を保ったまま、バイドを操るようなことが出来るのだろうか。バイドを操る新兵器が完成したのかもしれない。だとしても、この部隊は太陽系外からやってきたのだ。

そもそも、それが何かしらの技術の産物であると言うのなら、それをもってここまで地球を侵攻する理由がない。これが外宇宙からの侵略者だとでも言うのなら、それにしてはあまりに人間を熟知しすぎている。

あまりにも、その事実は不可解だった。どうしても人がその意思や知識を保ったまま、バイドを率いて人類に立ち向かっている。そういう風にしか考えられなかった。けれど、何をどうすればそうなるのかがほむらには想像もできずにいた。

 

「……考えるのは、あれを片付けてからで十分ね」

都市中心部が近づいてきた。恐らく、近くに敵の旗艦がいるはずだ。

けれど、唐突に機体が警報を鳴らす。

「熱源……真下から!?」

直下より熱源が急速に接近していることを告げられる。反射的に機体を旋回させ、地下から突き出したその光の柱を回避する。地表を貫き、薙ぎ払うようにして光の柱はほむらへ迫る。それを十分に引き付けて回避、反撃とばかりに波動砲のチャージを開始する。

地下から湧き出た破壊の光が、倒壊し、ビルとビルの間にもたれたビルを打ち砕く。無数の破片が、さらに頭上より降り注ぎ、ほむらへと襲い掛かった。

ほむらは即座に機首を地表に向けて急降下。光の柱を、錐揉みするように回転しながらすりぬけて。地下に潜む敵をめがけてギガ波動砲を叩き込んだ。光の柱を飲み込んで、さらに強い光が地表を灼いた。

その攻撃の成果を確認することもなく、機首を地表に水平に向け無理やり機体に制動をかける。そして一直線に駆け抜けていったラグナロックⅡの背後に、無数のビルの破片が降り注いでいった。

 

並み居る敵を捻じ伏せて、幾重にも仕掛けられた罠をかいくぐり。もはや、それを阻むものはない。

 

 

敵がこちらに接近している。単機とは言え油断をしたつもりはなかった。出来うる限りの兵員を割いて、迎撃は十分可能なはずだった。

だが、突破された。認めるしかないのだろう。今こちらに迫ってきている敵は、間違いなく一騎当千の技量の持ち主だと。

そんなものがいるのかと疑わしく思う気持ちもないこともないが、こちらの軍にも同様にアーサーという切り札がいるのだ。敵にそれがいない道理はないだろう。

これほどの力は恐らく、過去の対バイドミッションを遂行した英雄たちにも引けを取らないほどのもの。そんなものが、こうして我々を倒すために向けられているという事実がとても悲しかった。バイドの脅威が去ったというのに、尚も人類はこうして同士討ちを続けるしかないのだろうか、と。

 

そもそも、何故彼らは我々をこうも目の仇にしてくるのだろう。それこそ最初は、地球軍内での権力争いの末、英雄として帰還する我々が邪魔なのではないかとも考えた。

けれど、それでも我々は戦い抜き、勝利し。こうして地球までやってきたというのに。それでも彼らはこちらを攻撃するのをやめようとはしない。あまつさえ、都市ごと我々に砲撃を仕掛けてきたのだ。もはや、市街や市民への被害すらも構わずに我々を撃破しようとしているのだ。

何故なのだろう。思考は巡る。

戦いの最中だというのに、そんな思考が頭の中に纏わりついて離れない。

我々は確かにバイドの中枢を討った。だから、もうバイドはいないはずなのだ。だとしたら、今の地球軍にとっての敵とはなんなのだろう。

 

もしかすると、人類は非常に重大な決断をしてしまったのではないだろうか。

バイドという、外宇宙からの恐るべき脅威。それを恐れ、そしてまたバイドに変わる脅威の出現を恐れ。ついに人類は、完全に太陽系の中に篭る事を決めてしまったのではないだろうか。外より来る物を、全て敵と認識してしまうようになってしまったのではないだろうか。

馬鹿げた考えだとは思う。けれど、逆にそれでいいのではないかとも思う。かつて、ワープ空間を行く最中、人類について考えていたことを思い出す。

非常に好戦的でありながら、被害者意識を持つ人類。戦いの歴史の中でその文明を発展させ、そして今、バイドという未知なる敵を、侵食されることを恐れながらも利用し兵器へと変えている。

その恐ろしい所業を、かつて私は身勝手と断じたことを思い出す。もしもその考えが、人類の中で共通のものとなったのだとしたら。そしてそれ故に、人類はその版図を星の海の向こうへ広げることなく太陽系に閉じこもり、外から来るもの全てを拒むことを決めたのだとしたら。

鎖国という、昔の歴史書か何かで見たような言葉が私の脳裏に去来した。そして、それは案外悪い考えではないようにも思えた。人類がその好戦的な本能を制御することが出来ない生き物なのだとしたら、それを太陽系という十分な広さの箱庭に納めることは、理に適っているのではないだろうかと。

我ながら行き過ぎた考えだと思う。けれど、そう考えれば様々なことに合点が行くのだ。一度太陽系を出てしまった我々も、もはや彼らにとっては敵なのだ。理不尽さを感じないでもないが、それが人類の答えだと言うのなら、受け入れるべきなのだろうか。

 

 

 

 

だからこそ、ふざけるなと言ってやろう。我々もまた、好戦的で傲慢な人類の一員なのだ。

 

我々は、バイド中枢の討伐などという無理難題をいきなり押し付けられたのだ。そしてそのまま、半ば追い立てられるようにして太陽系を旅立つことを余儀なくされた。そして長い戦いの果てに、ようやくバイドの中枢を討ったのだ。

そうして長い時間をかけて帰ってきた太陽系に、地球に、帰還を拒まれる謂れなどはない。

我々には帰るべき場所があるのだ。そして今、万難を排してここに帰ってきたのだ。それを、たとえそれが全人類の意思だとしても否定などさせてたまるものか。

改めて今、私は覚悟を決めた。たとえこの先、どれほど多くの犠牲と被害を生むとしても我々は、必ず帰還を果たして見せようと。

 

そして、会いに行くのだ。キョーコとマドカに。

 

長い長い戦いに疲れ果て、萎えかけた闘志が再び蘇る。思考が再び戦闘へと没入していく。敵は一機。たとえどれだけ強力とは言え、一機なのだ。持ちうる限りの力を持って、これを撃滅しよう。

 

ビルの陰に隠れて、都市の概略図を開く。都市中心部はビルに囲まれ、そこには公園が広がっている。敵旗艦はそこそこに大きい。恐らくビル街に陣取ることは難しいだろう。

そうなれば、この公園に敵旗艦がいると推測できる。そして、残る敵艦も全てそこにいるのだろうということも。

間違いなく激戦が予想される。だが、スウ=スラスターは間違いなくこれ以上の数の敵を相手に戦っていたはずなのだ。だとしたら、その名を受け継ぐ自分がこの程度の敵に遅れを取るはずがない。遅れをとっていいはずがない。

敵旗艦の発見、及び撃破を最優先。目的を新たに再確認し、ほむらのラグナロックⅡは都市中心部への侵攻を開始した。

 

敵の反応が近づいている。恐らく敵はまだこちらの位置には気がついていないはずだ。どれだけ性能が強化されたとはいえ、戦艦ほどの索敵能力があるとも思えない。

こちらで戦力になるのは、私自身の旗艦とその艦載機、そして随行している戦艦が一機のみ。あの恐るべき敵を相手取るにはやはり不十分。とにかく一瞬でも、相手の虚を突き隙を作ることが出来ればいいのだが。

一つ、危険な賭けではあるが策がある。あれほどの相手にどれだけ通用するかは分からないが、今はそれに懸けるより他ないだろう。

 

ラグナロックⅡは、破壊されたビル街を抜け、空の広く見える公園区画へと突入した。公園区画に突入したほむらが最初に見たものは、視界一面を埋めるレーザーとミサイルの群れだった。

完全な待ち伏せ。けれどそれは、ほむらにとっても予想通りのものでしかなかった。公園区画は空が広い。空間を制限されたビル街と比べ、遥かに自由に戦うことが出来る。わざわざそんなところを主戦場には、自分ならしない。

「やはり、貴方は優秀ね」

逃げ場などないほどの飽和射撃。後方のビル街に戻ろうにも、間違いなくその前に撃墜されるだろう。

恐らく敵は、こちらの動きを早々に察していたのだろう。目の良さでは、R戦闘機といえど戦艦には敵わない。

侵攻ルートを察知して、その姿が現れた瞬間に持ちうる全ての火力を叩き込む。実に優秀な作戦で、いかなほむらと言えど、それが放たれてしまえば抗し得る手立ては持ち得なかった。

 

「……けれど、貴方には一つだけ誤算がある」

ほむらの機体が、淡い光に包まれた。それは、さやかの機体と同じように。

「私が……魔法少女だということよっ!」

 

そして、再び世界は静止した。

 

「……自分で使って何だけれど、冗談のような力よね。これって」

レーザーもミサイルも、奥でそれを放っている敵機も敵艦も。その全てが静止していた。それどころか背後で崩れるビル郡も、街を流れる熱気混じりの風さえも、ありとあらゆる全てのものが停止していた。

「時間停止。……これが、魔法少女の本当の力、なのかしら」

使いこなせるかどうかは不安もあった。けれど、現にこうしてその力は発現していた。それどころか、体に更なる力が沸いてくるような気までしてくる。どんなことでも出来てしまいそうな全能感が、体中を駆け巡っている。

 

それは、ほむらの願いが生み出した魔法。

その願いは全人類の守護。その身を賭して、全てを護ろうとする覚悟。与えられた力は、時を操ることの出来る力。たとえそれがほんの数秒であったとしても、超高速の戦闘の中ではそれは絶対的なアドバンテージと言えた。

「この力で……決着を付けてやる!」

ラグナロックⅡは、止まった時の中を駆け抜ける。視界を埋め尽くす死と破壊の光の中、落ち着いて道を見つけてすり抜けた。次の瞬間、時が再び動き出す。

直前までラグナロックⅡがいたはずの空間を、無数の光と爆発が薙いで行く。巻き起こる熱と、エネルギーの余波を背中に感じながら、ほむらは敵軍の中へと突入していった。たちまち無数の光と炸裂が湧き上がり、都市中央部を舞台に乱戦が巻き起こる。

立ち向かうはラグナロックⅡ。迎え撃つは、ボルド級の大型艦、ボルドガング。そして周囲に展開している旗艦直属の護衛部隊。数の上での差は圧倒的。

けれども、英雄を止めるには明らかに不十分。更なる力を手に入れた英雄が相手とあれば尚の事である。既に艦載機部隊はその半数を叩き落され、ボルドガングもレーザー砲台を破壊されている。

艦首砲を受けるような位置取りをするはずもなく、フォースを備えたラグナロックⅡの前に、小型機であるファットを無数に発射するファットミサイル砲は、ほとんど意味を成す事もなく。

 

もはやラグナロックⅡにとっての脅威はほとんど存在していない。戦線をそのまま突破し、敵軍旗艦、コンバイラの姿を探す。追い縋ろうとする敵を、秒針の一つも動かすことなく叩き落して高度を取った。

哀れにもボルドガングはその巨体が仇となり、満足に艦体を動かすことも出来ないようで。

もはや、邪魔をするものは何もない。ギガ波動砲のチャージを開始。高空より公園区画の索敵を続行した。

コンバイラの姿は見つからない。敵の方が広い索敵範囲を持つ以上、こちらの動きは常に筒抜けと思うべきだろう。とはいえ、機動性と攻撃力でならば間違いなくこちらが上なのだ。最初の一撃さえ防ぐことが出来たのならば、負けはしない。

 

「見つけた」

ビルの陰に、日の光を受けて赤く輝く色が見えた。それは、公園の花々の色ともビル街の装飾とも似つかない。派手やかで、どこか美しさすらも感じる赤だった。

間違いなく、コンバイラの装甲だ。

さらに高度を取り、上空からの雷撃で仕留める。ギガ波動砲、フルチャージ。

R戦闘機が誇る、まさしく最強の威力を持つ波動砲。その照準を、コンバイラが潜むビルへと合わせて、そして。

 

「消し……飛べぇぇぇッ!!」

撃ち放つ。視界一面を青い光が染め上げ、コンバイラが潜むビルのみならず周囲の空間に存在するもの全てを削り取り、分解し、無へと還していく。

射程距離を加味すれば、ババ・ヤガーのそれと並び立つであろうが純粋な威力と攻撃範囲で言えば、並ぶもののない最強最後の波動砲。

その膨大な威力の奔流が、一瞬ほむらの視界を奪う。

 

その、瞬間に。二股に分かれた巨大な光線が、ラグナロックⅡへと向けて放たれた。

 

――かかった!

私は思わず叫びだしていた。敵がこちらの仕掛けた罠にかかったのだ。それはすなわち、攻撃の最大の好機というわけだ。

あの敵機の持つ波動砲は、その威力も攻撃範囲も恐ろしいものがあった。あれとまともに打ち合えば、この艦といえど消滅は免れない。何らかの策を考える必要があったのだ。

どれほど強力とは言え敵は単機。狙うとすれば、敵の旗艦となるはずだ。その障害となっている、鈍重だが堅牢なこの戦艦。それを、わざわざ破壊していくとは思えない。

その目論見が、見事に当たったのだ。

 

艦を分離させ、艦下部のみをビルの陰に隠した。そして武装の集中している艦上部は、戦艦内部に無理やりに押し込めたのだ。そして敵は、その分離した艦下部へと向けて波動砲を放とうとしている。

あれだけの威力と攻撃範囲をもつ波動砲、そう易々と連射はできまい。それにあの広大な攻撃範囲はそのまま、敵の視界を塞ぐことにも繋がる。

発射の瞬間は、こちらにとってまさしく最高の好機だった。

 

――緊急発進!各機関最大出力っ!

戦艦の内部から、その甲板を半ば食い破るように艦を発進させた。照準は既に合わせてある。艦首砲のチャージも完了している。

最早、躊躇うことなど何もない。

――艦首フラガラッハ砲、放てっ!!

指示と同時に閃光が走る。直進し、そのすぐ先で二股に分かれ、フラガラッハ砲の光は確実に敵機を捉えた。

そうしてようやく、私は勝利を確信した。

 

そして、再び世界は止まる。

「……っ。は、はぁっ。……危な、かった。一秒遅れていたら……消滅ね」

フラガラッハ砲は、ラグナロックⅡに触れるか否かというところで止まっていた。安堵の声が、小さく漏れた。

「まさか、こんな罠を仕掛けてくるなんて……本当に、恐ろしい相手だった」

機体を廻らせ、フラガラッハ砲の射線より離れる。そして同時に、波動砲のチャージを開始した。砲身が必要なものとは異なり、力場解放式の波動砲には冷却時間は必要ない。すぐさま内部機関が波動の粒子を震わせて、その身の内に圧倒的な力を蓄えていく。

「今度こそ、これで終わりよ」

確信を篭めて、ほむらはそう告げた。そして世界は動き出す。

 

――な、ん……だと。

確かに直撃したはずだった。だというのに、敵機は健在。敵機は一瞬で離れた場所へと移動し、フラガラッハ砲を回避していたのだ。何が起こったというのか、理解が出来ない。

ただ一つだけ分かること、それは。

 

戦いはまダ、終わっテはいなイというコとだけダ。

 

敵機は再ビ波動砲のチャージを開始シている。それガどれだけノ時間ヲ要すルのかはわかラなイ。だガ、それが放たレれば終ワりだ。その前ニ、奴ヲ倒サなけれバ。

艦ヲ前進さセる。全武装を解放シ、敵機を捕捉スル。撃つ、撃ツ、ウツ。当たラなイ。マダ遠いのダ。モット近くヘ。モット、モット。死ぬワケにはイカナイ。負ケるワケにハいカナイ。

帰ルのダ。帰る。カエ、る……ル。

 

 

――ヒーローは……遅れてやってくるってなぁっ!!

その声が、戦いの狂気に堕ちかけていた私の心を救い上げた。アーサーだ。だが様子がおかしい。明らかに機体限界を超える速度で、更にその全身に白い光を纏わせている。

R戦闘機としても異常で変則的なジグザク軌道を描きながら、敵機へと向かっていく。

――何をする気だ、アーサーっ!?

――生きて、そして帰るんだろ。まあ、任せろ。

その軽妙な声も、こうして聞いたのは随分と久しぶりな気がした。ちょっと買い物にでも出てくるとでも言うような、相変わらずの軽口で。

もはや光そのものとなったアーサーの機体が、敵機を貫いた。

 

ほむらは狂ったかのように敵艦からばら撒かれるレーザーとミサイルを、辛うじてかわし続ながら波動砲のチャージを続行していた。機体の損傷は無視できないレベルまで深刻化しており、これ以上の戦闘の継続は困難だった。

だからこそ、次の一撃で確実に決める必要があった。

そう思ったその瞬間に、横合いから白い光が駆け抜けてきた。それは余りにも疾く、こちらに対する攻撃の意図があると知り、時を止めようとした時にはもう遅かった。

一秒にも満たない一瞬の内に、その光はラグナロックⅡを貫き後方へと駆け抜けていく。

 

「なっ!?……これは、一体」

それは一体なんだったというのか、後方で小規模な爆発が巻き起こる。その直後に機体が警報を告げた。機体各部に、一気に無数の損傷が生じている。間違いなくそれは、先ほどの光の影響なのだろう。

「そん、な。何で……こんな」

波動砲ユニットへのエネルギー供給も途絶え、蓄積されたエネルギーが解放されていく。何が起こったというのか、理解が出来ない。ただ一つだけ分かること、それは。

 

まだ、戦いは終わっていないということだけだ。

 

まだこの機体には、今まで蓄積された波動エネルギーが詰まっている。それを蓄えた機体ごと弾丸に変えて、敵へぶつけてやろう。

「そうよ。このまま死んでたまるものか。それじゃ、ただの犬死じゃない?……負けない、私は、絶対に」

再び機体が光を放つ。機体各所に、魔法の力が浸透していく。それは解放され、拡散していく波動粒子の活動を停止させ、機体各部で今も広がり続ける損傷の全てを停止させた。

各機関部の働きを一切損ねることなく成し遂げられたそれは、ほんの一瞬だけほむらとその機体に時間を与えた。

「さやか、杏子。マミ……後を、頼むわね」

祈るように、機械仕掛けの唇は静かに言葉を紡いだ。そして、激しく機体を輝かせ。その光を纏ったまま。ラグナロックⅡは、コンバイラにその存在の全てを叩き付けた。

 

その直前、電脳に直結されたほむらの脳裏によぎったもの、それは。

 

 

――――F-W-C mode Activate―――

 

 

激しい光が吹き荒れ、湧き上がり。

そして、そして――彼も、彼女も。何も分からなくなった。

 

ただ、その後には砕け散り、焼け焦げ、溶けてひしゃげた赤い装甲が無数に散らばっているだけだった。

 

 

 

「実際のとこ、何があったのかはわからねぇ。でも、ほむらの機体と敵艦の反応が一緒に消失した。それと同時に、敵部隊は撤退を始めた。それだけは、事実だ」

苦々しげな表情を隠すこともなく、杏子はそう告げた。

「あの馬鹿野郎っ!……言ったじゃねぇかよ。死んだら恨む、ってよ」

戦友の死と、そしてまどかが告げた衝撃的な言葉。それは酷く杏子を打ちのめし、込み上げる涙と嗚咽を隠すように杏子はそのまま、壁に身を預けて蹲ってしまった。

 

「そん、な。……じゃあ、どうなっちゃうの、これから」

力なく、茫然自失とした表情のまどかが呟いた。その声に応えたのは、そこに唐突に現れたキュゥべえだった。

「……残念ながら、遅かったようだね、まどか。これから残存部隊の掃討のため、防衛艦隊を再編成して市街地へ侵攻するとのことだよ。ボクらは艦も機体も損傷が激しいからね、他の負傷した艦隊と一緒に後方で待機だ」

「ぁ……ぁぁ」

そのキュゥべえの、いつもとまるで変わらぬ調子の声が、ついにまどかを追い落とした。目の前が真っ暗になるような感覚。足元の地面がなくなるような感覚。ぐらりとその視線が、そして体が傾いて。

そして、ぷつりとまどかの意識は途絶えてしまった。

 

 

ニヴルヘイム級は、高空より都市を見下ろしていた。敵機動兵器部隊による奇襲を受けた折、その艦底部にはぽっかりと大きな空洞が出来ていた。今も艦内部では、クルー達がダメージコントロールに追われている。

本来であれば、とても前線に出られるような状態ではなかった。

それでも、この艦は地球軍の旗艦にして最新鋭の艦。いわば、地球軍が掲げる力と正義の象徴だった。だからこそ、敵を掃討するこの戦いの場に、それは存在していなければならなかったのだ。

「実に大変な戦いだった。まさか、ここまでの苦戦を強いられるとは」

ニヴルヘイム級の艦長は静かにそう言った。その表情には、拭いきれない安堵の表情。けれど、油断と言えるようなものは一切見て取れなかった。

彼はよく知っている。敵の手並みは、完全にこちらを上回っていたことを。多くの人員と装備、そして一人の英雄の命をもってようやく、それを討つ事ができたのだということを。その重大な犠牲を、自分の下らない慢心でふいになどしてはいけない。

そのことを、彼は身をもって実感していた。

 

「状況を報告せよ」

眼下にいるであろう敵軍を見つめて、艦長はクルーに命じる。オペレーターの一人が、コンソールに手を這わせ。すぐに報告を返す。

「敵部隊は、残されたボルド級の大型戦艦を中心に集結しているようです。数は戦闘機が10機前後、それ以外にも機動兵器が多少存在しているようですが、詳細は不明です」

「……ふむ。それで、こちらの残存戦力は?」

その言葉に、またすぐに別のオペレーターが答えた。

「ほとんどの艦船及び戦闘機に負傷は見られますが、それでも巡航艦3、駆逐艦2、戦艦1、R戦闘機は52機が既に臨戦態勢で待機中です」

この艦が動けないことを差し引いても、純粋な戦力比は5倍。敵もまた手負いで、指揮官は既にない。……負けはすまい。

それでも十分な警戒を保ち、思考を廻らせ艦長はついに指示を出す。

「本艦は上空にて待機、艦砲射撃で敵ボルド級を狙う。それ以外の艦は降下を開始。一斉射撃の後、艦載機を発進させろ」

 

そしてついに、敵軍の掃討を開始するよう支持を出した。

 

「敵は乱戦に慣れている。必ず五機編成を保ち、一機ずつ確実に仕留めていけ」

「了解だ。隊長。さあ、敗残兵どものお出ましだぜっ!」

艦砲射撃が降り注ぎ、街に破壊の雨を降らせた。そしてその雨が上がると、虹の代わりに戦闘機部隊が降下を開始した。

パイロット達の間では、既に戦勝ムードは流れているようだ。それでもこれだけの苦戦を強いられてきた相手、油断だけはしてはならないと気を引き締めて、最初の敵に照準を合わせるのだった。

 

 

『ロスさん。返事をしてください、ロスさん』

気がつけば、というのはおかしいのかもしれません。気を失って、目が覚めたのはこの夢の中だったから。何もない、何も見えない、何も聞こえない。どこまでも広がる真っ暗闇で私は、ロスさんの名前を呼んでいました。

『本当に、死んじゃったんですか。ロスさん』

地球のみんなを守るために戦って、遠い遠い宇宙の果てで、バイドの中枢を倒したはずなのに。なのに、帰ってきたロスさんはバイドになってしまっていて、けれどロスさんはそれに気付いていなくて。

 

ただ、地球に帰りたかっただけなのに。

ただ、故郷に帰りたかっただけなのに。

 

バイドになってしまったロスさんを迎えたのは、地球軍の容赦のない攻撃だけで。

『ひどいよね、こんなのって、あんまりだよね……』

自分がバイドになってしまったことに気付けないまま、仲間だったはずの人達と戦い続けていたなんて。ようやく地球に戻ってきても、誰に迎えられることもなく、戦うしかなっただなんて。

そして、その戦いの果てに大切な友達が、マミさんが、ほむらが死んでしまっただなんて。その事実の全てが、私の心に重たくのしかかってきたのでした。

 

悲しくて、辛くて、苦しくて。心の中がとにかくぐしゃぐしゃになってしまったみたいで、頭の中は真っ白でした。

私は、夢の中でずっと泣いていました。もうロスさんはいないから、この声を聞いている人なんて誰もいないはずだから。だから、声を押さえようともせずにわんわんと、子供のように泣きじゃくっていました。

『うくっ……えく、ひぐっ……ぅ。ごめ…っ、なさい。ロスさん、マミさん、ほむらちゃん。私、誰も助けられなくって……こんなとこまで来たのに、何も、何もできないよっ』

私の瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ続けていました。

涙が枯れてしまうんじゃないかと思ったけれど、夢の中だからなのかそれとも、あまりにも悲しすぎて、涙の蛇口が壊れてしまったんでしょうか。涙は、ずっとずっと収まりませんでした。

 

泣いて泣いて、泣き疲れてしまって。

いつしか私は、夢の中だというのに、疲れて眠ってしまっていたのでした。

 

 

 

泣いている。カナメマドカが、泣いている。

私の死を悼んで、泣いていてくれているのだろうか。私の事を悼んでくれる人がまだこの世界にいたのだと思うと、何か安らぐような気持ちを感じる。戦いの日々の中では、感じることのなかった幸せな感情だった。

 

私は、とにかく寂しかったのだ。とにかく、寂しくて仕方がなかった。それを埋めてくれる彼女が、私と言葉を交わしてくれる彼女が、尊く思えて仕方がなかった。

何処に行っても敵意を向けられ、宇宙を追われ彷徨う日々。ただ彼女だけが、私の言葉を聞いてくれた。私に言葉をかけてくれた。

彼女は、もしかしたらこの宇宙でただ一人の、私の味方になってくれる人だったのかもしれない。

会いたい。会って、心行くまで話がしたい。誰かに思いを伝えたい。誰かの言葉を聞きたい。

誤解を恐れずに正直に言おう。私は、カナメマドカに狂おしい程の慕情を抱いている。

彼女の声を聞くと、長旅の疲れも癒されるような気がしていたのだ。

 

会いたい、会いたい、会いたい。

その思いはどんどんと膨らんでいく。膨らんでいく。何処までも膨らんでいく。その思いはついに私の身体よりも大きく膨れ上がり、私の身体もそれに応じて膨れ上がっていった。

 

 

身体が――動く。

 

 

それに最初に気付いたのは、逃げるようにビル街へと飛び込んでいった敵機を撃破した、R戦闘機の部隊だった。

「なあ、あれは……敵旗艦の破片、だよな」

「だろうな。色彩や組成データからも、コンバイラのもので間違いないだろう」

「……今、動かなかったか、あれ」

「何バカなことを言ってる。あそこまでバラバラに破壊されて、今更動くわけがないだろう。……敵の掃討に移るぞ」

「了解。……気のせい、だったのか?」

再度編隊を組みなおし、R戦闘機が再び戦場へと舞い戻る。その背後で、眼下で。確かにそれは蠢いていた。

砕け散ったはずのコンバイラ、その破片が、まるで意志をもつかのように集まり始めた。

そして、一つの大きな塊へと変わる。そのままゆっくりと、空へと浮んでいった。

 

次に気付いたのは、ガルム級巡航艦のオペレーターだった。

「艦長、戦闘エリア後方に、新たなバイド反応が出現しました」

「敵の伏兵か。向こうの戦線も大分落ち着いてきた頃だろう。R戦闘機部隊を回せ、バイド共を根絶やしにしろ」

「了解。プロコ、リーガの両隊は指定座標へ前進、出現したバイド体を撃破してください」

命令を受け、R戦闘機部隊が指定されたエリアへと向かう。そこにあるのは、集結し融合したコンバイラの破片。

それは球状を取り、静かに宙に浮んでいた。

 

 

それは、進化というには余りにもいびつすぎた。

R戦闘機ほどの大きさの塊でしかなかったそれは、内側から弾け飛ぶように膨れ上がった。

 

それは、人類の希望を打ち砕くように。

 

それは、質量保存と呼ばれた法則を否定するように。

 

何処までも大きく膨れ上がり、新たな形を取ったのだった。

 

まるで、人の上半身のような形状。顔に相当するであろう部位には、牙状の突起物が無数に連なり、その胸部には更に進化した破壊の力を備えた砲台が鎮座している。両肩からは鋭い棘が突き出し、腕のような巨大な両翼を備えていた。

 

 

 

コンバイラベーラ。

 

 

彼の悲しみが、彼の妄執が、そして彼の願いが。

その身体に、異形の進化をもたらしたのだった。

 

 

その機体の頭部に近づく機影。それは、まるで影のようなおぼろげな姿をしていたが、彼に近づくにつれ一つの形を取り始めた。最早、人の言葉では形容もし難い異形。植物を模したその姿は、かつてそうであった姿よりも更に禍々しく変貌を遂げていた。

B-1B――マッド・フォレスト。そう呼ばれた機体が、ついに究極的な進化を遂げたその姿。形式通りに名づけるのならば、B-1B3――マッド・フォレストⅢとでも言うべきか。

 

――よう、随分早いお目覚めだな、ロス。

――お前こそ、もうとっくに眠ったのかと思ったよ、アーサー。

 

見た目がどれだけ変わっても、二人の関係は変わらない。稀代の指揮官、そして稀代のパイロット。

もっと簡単に言ってしまえば、こんなときでも二人は仲間で、親友で、悪友だった。

 

――仲間達が攻撃されている。アーサー。ちょっと行って蹴散らしてきてくれ。

――あの数をか?相変わらず、無茶を言うのは変わらないな。

――はは、流石に数が多すぎるか。

 

そんなロスの言葉に、アーサーは少しだけ笑って答えた。

 

――お前がやれと言うことなら、俺はなんだってやってみせるよ。

 

いつものアーサーだった。それが、ロスには頼もしい。

 

――味方の援護を、そして道を開いてくれ。

――後ろの艦隊はどうする?

――私が相手をする。……頼む、アーサー。

――了解だ、提督。

 

そして、新たな力を宿した悪夢が――動き出す。

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