魔法少女隊R-TYPEs   作:SanDMooN

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蘇る英雄、立ち向かうは孤軍。
力尽き、魂さえも擦り切れるほどの激戦と絶望の末。少女達は、最後の希望に手を伸ばす。

今一度、少女達に立ち上がるための力を。


第14話 ―沈む夕日―③

「敵旗艦が復活しただと!?」

その報告を受け、ニヴルヘイム級のブリッジは混乱に包まれた。

「信じられません!バイド反応が出現後、急速に増大。新たな艦の形状を取りました。該当データなし、新型ですっ!!」

オペレーターの声にも、純粋な驚愕が混じる。

「うろたえるなっ!数の上での有利は我々にある。それにいくら復活したとて、あそこまで破壊されたのだ。無事であるはずがない。全艦砲撃用意!本艦も降下を開始しろ。全艦による艦砲射撃で、敵艦を破壊せよ!」

内心の驚愕を抑えて、男は攻撃の指令を出した。

どちらにせよ、ここまで距離を詰めてしまえば最早小細工は通用しない。戦闘機による白兵戦と、艦砲射撃の打ち合い。純粋な戦闘力をもって勝負をつけるより、他に術はないのだ。

そうなれば、戦力で勝るものが勝つのが道理。その男も、その道理を信じた。唯一誤算があるとすれば、その道理を曲げ得るものがいることを知らなかっただけで。

道理を曲げ得るに足る者を、人は“英雄”と呼ぶことを知らなかっただけで。

 

 

「っはは。……ははは。どういうことだよ、こりゃあ」

思わず、杏子の口から乾いた笑みが漏れた。

ティー・パーティーのブリッジで、そのモニターに写された映像は。

「なんで、まだあいつが生きてやがるんだ」

その艦首砲であるフラガラッハ砲Ⅱでニヴルヘイム級を撃沈させた、コンバイラベーラの禍々しい姿だった。

敵の残存部隊を掃討するはずだった艦隊はすでに壊滅し、最後まで抵抗を続けていたニヴルヘイム級も、ついに爆炎と光の中へ没していった。

そして、敵の全滅を確認したコンバイラベーラの禍々しい異貌が、確かにこちらを捉えていた。

 

敵旗艦の撃沈を確認した。

策を弄する余裕もないほどの、真正面からの潰しあい。非常に苦しい戦いではあったが、この新たな艦の力は予想以上だった。

こちらの受けた被害も大きい。致命傷とまではいかないが、今しばらくは艦を動かすことは出来ないだろう。

後方に敵の部隊が確認できる。恐らくは負傷した艦や機体を後方で待機させていたのだろう。放置しても、戦局に影響はないとは思うのだが……。

 

いや、やはりここは奴らを追討しよう。とにかくこちらは戦力も資材も残り少ない。ひとまず迫る脅威を打ち払い、敵の増援が来る前に再度部隊を編成しなおすべきだろう。

とはいえ、今はこの艦は動けない。私は、残存する部隊に後方の敵艦隊を攻撃するよう命じた。ああして後方に待機しているといいうことは、恐らく戦力にはなり得ないほどに損傷は大きいはず。

残された戦力でも、十分に打倒しうるはずなのだ。

 

 

「……敵部隊が動き出しました。こちらへ向かってきます」

ついに推進部にまで損傷は拡大し、そのまま地表に身を寄せていた戦艦が、その索敵範囲に新たな敵影を感知したことを伝えた。

それこそ後方の艦隊は、どれもが皆損傷が激しく、戦闘には耐え得ないものばかり。たとえ敵は少数とは言え、戦況は絶望的と言えた。

 

「もう一働き、しないと……ね」

それを見て、オペレーターシートに座っていたさやかがゆっくりと立ち上がった。その動きはひどく気だるげで、よろよろとふらついていた。

「……そうだな、行こうぜ。さやか」

その肩を支えて、杏子も共に立ち上がる。敵が迫っている。恐らくこの艦隊で、まともに戦えるのは自分たちだけだ。

そんな杏子を、さやかはまるで全てを諦めてしまったような、とても虚ろな目で見つめて。

「あたし一人でいい。……それに、あんたの機体も、もうボロボロじゃない。……一人で、全部やれるよ。大丈夫」

そう言って、さやかは虚ろに、儚げに笑った。そしてその掌を広げ、小さな光と共にソウルジェムが現れた。

 

「おい、さやか……なんだよ、それはっ!?」

驚くのも無理はない。

その手に乗せられていたソウルジェムは、本来の澄んだ青い色ではなく、ともすれば黒とも見えてしまうような、深く澱んだ紺色だったのだから。

「……さやか、キミはまた魔法の力を使ってしまったんだね」

いつしかそこにいたキュゥべえが、どこか咎めるような口調でさやかに告げた。

「やっぱり、そういうことかよ……おかしいと思ったんだ。あれだけ激しく戦ったのに傷一つない機体。いつのまにか復活してたサイビット。さやか、お前これ以上こんなこと続けたら、どうなるか分かってるんだろ!?」

さやかが知らないはずもない、さやかは全てを告げられていたのだ。そして杏子もそれを知っている。ソウルジェムが濁ることの、その先にある死という末路を。

「ボクからも止めさせてもらうよ。今のキミの状態では、とてもじゃないが戦わせることはできない。これ以上力を使えば、ソウルジェムの穢れは取り返しのつかないことになってしまう」

「なら、さっさとそんな穢れは取っちゃってよ。……できるんでしょ、キュゥべえ」

もうこんな話は沢山だ、とばかりにさやかがキュゥべえに言い捨てる。これだけの犠牲を生んで、尚足りないと言わんばかりに迫る敵。

倒さなければ、この犠牲は広がるばかり。ここで止められなければ、誰も守れない。さやかは、既に半ば覚悟を決めているようだった。

 

「……できるのなら、とっくにやっているよ。艦の設備が損傷を受けている。その影響で、ソウルジェムの浄化が進まない」

そんな答えすらも、半ば予想していたのかもしれない。いつも機体を降りて目覚めた時には、ソウルジェムは綺麗な輝きを放っていた。それが今は違う。それがどういうことかを推測するのは、そう難しくなかった。

「だから、今出撃するのは自殺行為だ。さやか」

「……じゃあ、どうしろって言うのよ。この艦が落とされたら、どっちみちあたしら死ぬんだよ?」

さやかが告げた厳然たる事実には、誰一人、キュゥべえでさえも反論を述べることができなかった。

「……大丈夫、さやかちゃんにまっかせなさい!必ず、無事に戻ってくるから」

どう見ても空元気。それでもにっ、と顔に笑みを張り付かせてさやかは駆け出した。けれど駆け出したその一歩目を、杏子はさやかの腕を掴んで止めていた。

 

「……行くな、さやか」

腕を掴む手は小さく震えていて。軽く払えば、それで離れてしまいそうなほどに弱弱しかった。

「大丈夫だって。あたしを信じなさいよ、杏子」

その手に自分の手を重ねて、杏子を見つめてさやかが言う。その姿があまりに痛々しくて、杏子はぎり、と小さく歯噛みして。

「マミも、ほむらも……そう言って死んだんだぞ。あたしは、これ以上仲間に死なれるのは……嫌なんだ」

腕を掴んだまま、杏子は俯いた。その表情は分からない。けれど頬には、涙の雫がつぅと伝っていた。

杏子の気持ちは痛いほどよくわかった。それが分かるからこそ、そんな思いをする人をこれ以上増やさないために、それを願ってさやかは。

「杏子、ちょっと顔上げてよ」

「ん……っ、なんだ、よ。さやか――ぬぁっ!?」

顔を上げた杏子が見たのは、突き出された手。折り曲げた中指の爪先に引っかかった親指。そして、それが杏子の額目掛けて撃ち放たれた。

 

――要するに、デコピンという奴だった。

 

「な……何、すんだよっ」

思いがけず痛い。額を押さえて、杏子は半歩後ろに下がった。

「泣き言言ってる暇があったら、どうにかこうにか生き残る方法を探しなさいっての!あたしは諦めたりしない。最後の最後まで、絶対に足掻いて足掻いて生き延びて見せる!!」

その力強い瞳に見据えられ、射止められ。杏子は息が詰まったように、返す言葉も紡げなくなってしまった。

「だから、一緒に足掻こう。こんなふざけた運命なんて、思いっきりぶん殴ってぶっ壊してやろうよ」

相変わらずの調子の言葉。その言葉は共に戦う仲間達を、そして何より自分自身を鼓舞し続けてきた。そしてその言葉は、また。萎えかけた杏子の闘志を蘇らせるのだった。

まるで、その言葉自体が魔法のようだった。

「……ったくよ。何も考えないでぽんぽんと軽口叩きやがって。危なっかしくて、おちおち落ち込んでも居られないっての」

額を押さえていた手で、そのままぐい、と目元を拭う。額も、そして目の周りも少し赤くなっていた。そんな事は気にもせず、意にも介さず杏子は笑う。不敵に、力強く。

 

「とにかく、あたしはなんとか機体を動かす方法を探してみるさ。あいつが動いてくれなきゃ、どうしようもないからな」

「じゃあ、その間はあたしに任せて。でも、早く来ないとあんたの分の敵までやっつけちゃうからね」

 

「無茶だけは…・・・するんじゃねーぞ」

「……行ってくる」

その手にソウルジェムを握り締め、今度こそさやかは駆け出した。

濁った光は変わらない。けれど、放たれる光の明るさだけは、少し明るくなっていたような気がした。

 

 

やはりこの艦隊には、もう戦力といえるものは何も残されていないようだった。故にレオⅡは、たった一機で迫る敵を迎え撃たなければならない。

青い空の向こうから、ほんの数分の後に敵の戦闘機部隊がやってくるだろう。新たな戦いの予感に俄かにざわめき始めた空に、さやかは唯一人立ちはだかった。

ゆっくりと、一つ大きく深呼吸。機械の身体のその肺に、澄んだ空の空気が染み渡ってきた。

「さあ……かかってきなさいっ!!」

地平線の彼方に、敵機の姿が見えた。それを見据えてさやかが叫ぶ。その声と同時に。

 

遥か頭上から、地平線の彼方へと幾筋もの閃光が走った。直後、地平線に重なるように巻き起こる爆発。

「えっ!?艦砲射撃?でも、どこから……っ」

「どうやら、ささやかな援軍は間に合ったようだね」

さやかの機体に繋がる通信。聞き覚えのある声、その主は。

 

「九条提督っ!?でも、一体どうして」

「やあ、久しぶりだね、美樹くん。月面での戦闘の後、部隊を再編成して駆けつけたんだ。戦いは終わったのかと思ったが、状況を見るに……そうでもないようだね」

アテナイエにおける決戦に敗れ、月面上での戦闘にも敗れ。それでも九条は、敗残兵をかき集めどうにか部隊を再編し、乗艦であるスキタリスを旗艦に地球へと部隊を降下させていたのだった。

はるか上空より降下を始めるスキタリス。そのドックから、R戦闘機が出撃した。

「まだ敵は残っている。こちらもR戦闘機部隊を出して敵を迎撃する。美樹くん、君も手を貸してくれるかな?」

その声に、さやかは力強く答えた。

「もちろんっ!美樹さやか、先行するよっ!!」

どうやら無事に帰れそうだ、そう胸中で呟いて。さやかは迫る敵機へと、レオⅡを突入させた。

 

ティー・パーティー内、さやかの自室のベッドの上で、まどかは目覚めた。

「……ん、ぅ。あ…れ?私、どうしてこんなところに」

寝ぼけた頭が自分の置かれた状況を理解するまでに、かかった時間は十数秒程度。その位の時間を置いて、衝撃的な事実は再びまどかを打ちのめした。

マミの、ほむらの、そしてロスの死。夢であってくれたらどれだけよかっただろうか。けれどまどかが今こうしてティー・パーティー内にいるというその事実が、何よりも鮮明にそれが夢などではないことを物語っていた。

「どうしたらいいんだろう、私……」

その事実が、改めて心を打ちのめす。自分がしようとしていたことが、守ろうとしていたものが根こそぎ失われてしまった。ここにいる理由も、目的も何も存在しなくなってしまった。

「このまま、帰ったほうがいいのかな。ここに居たって、邪魔になっちゃうだけだよね」

ここに来た時の決意も、覚悟も。大切な人の死が。その衝撃が全て奪い去っていった。できることがあるはずだと、そう思い込んでここへ来た。

もしかしたらそれは、自分の勝手な思い込みに過ぎなかったのではないだろうか。

 

自分を責める思いがあった。

もっと早く駆けつけていれば、もしかしたらどうにかなっていたのかもしれないと。そうすれば、マミもほむらも死ななかったのではないかと。

仕方なかったんだという思いもあった。

できる限りのことはした。それで間に合わなかったのだ。きっと誰もそれを責めはしない。気に病む必要なんて、ないはずだと。

 

「……さやかちゃんと杏子ちゃんは、どうしてるかな」

ここに残るにせよ、ここを去るにせよちゃんと二人と話をしなければならないだろう。まどかはそう考えて、部屋を出た。

ブリッジに出たまどかを迎えたものは、真剣な表情でモニターを眺める杏子とキュゥべえの姿。そしてモニターには、尚も戦い続けるさやかのレオⅡの姿。

そしてもう一つ、恐らく撮影された映像なのだろう。遠く離れてぼやけているが以前よりも倍以上もの大きさに膨れ上がり、完全にビル街からその身を突き出した巨大な戦艦。

コンバイラベーラの姿が、映し出されていた。

 

「あれは……ロス、さん」

半ば直感的に、まどかはそれがそうなのだと気付いた。そんなまどかの姿を、呟きを捉えて杏子が振り向くと。

「まどか……目が覚めたのか。見ろよ、あの敵艦だ。ほむらが命がけで倒したってのにさ。……あんなに膨れ上がって、蘇りやがった。今はさやかがこっちに迫ってる敵と戦ってる」

未だまどかに対して抱いた複雑な感情は拭いきれない。僅かに顔を顰めたままで、杏子が低い声でそう言った。

「ロスさん……生きてたんだ」

まどかはそのモニターから目を離すことが出来なかった。それを見つめたまま、呆然と呟いた。

 

「なあ、まどか。……あれは、本当にロスなのか?」

そんなまどかを一度睨むように見つめて、それから大きく息を吐き出して。意を決したように、杏子はそう尋ねた。

「……うん。あれは、ロスさんなんだ」

その事実を告げた時の、怒り狂った杏子の姿。それがまだ忘れられなくて、僅かに怯えた様子でまどかは言った。

やはり、改めてそれを告げられると頭の中が赤く染まっていく。怒りが満ちる。それをぶつけてやりたくなる。そんな暴力的な衝動をどうにか押さえつけて、杏子は続く言葉を口ずさむ。

「なんで、お前にそんなことが分かるんだ」

「……話したから。見たからだよ。ロスさんと、ロスさんを」

「どういうことだよ、訳がわかんねぇよ!」

握った拳を壁に打ちつけ、杏子は叫ぶ。叫ばなければ、何かにその衝動をぶつけなければ、自分が内側から弾け飛んでしまいそうだったから。

 

「その説明で理解しろというのは、流石に無理があるんじゃないかな、まどか」

そこに助け舟を出したのはキュゥべえだった。ふわりと耳を揺らしながら、二人の前に歩み寄り。

「このままじゃ埒が明かない。仕方がないからね、ボクの方から説明してあげるよ」

そして、キュゥべえは語り始めた。

まどかの持つ能力のこと、それがロスとまどかを繋げたのだろうこと。そしてその能力が、かつて死に瀕したマミを救っていたのだということ。

余りに突拍子もない話で、最初は杏子もそれを信じられずにいた。それでも根気強く話すキュゥべえの言葉を、どうにか噛み砕きながら理解はしていったようで。

「……じゃあ、あれは本当にロスなのか」

その全てを聞き終えて、もう一度確かめるようにまどかに向けて言葉を放った。

 

まどかは、静かに頷いた。

 

 

「まったく、冗談じゃねぇよな。……じゃあ、何だよ。今まであたしらは、身内同士で殺し合いをやってたってのか」

手で目を覆って、杏子はそのまま壁に身を預けた。自嘲めいた笑みが、くつくつと零れていた。

 

「なんとなく、そんな気はしてたんだ」

やがて、それは静かに呟きに変わっていって。

「なんだか知らないけど、あいつらと戦ってる間中、ずっと胸がざわめいてたんだ。そっか。きっと……そういうことなんだろうな」

胸元に手を当てて、そのままぐっと手を握りこんで。ぎゅっと目を伏せ、何かを堪えるようにして。たっぷりと十秒ほどそうしてから、杏子は静かに目を開いた。

「それで、まどかはどうするんだ?あれがロスだって分かって、あんたは何をしに来たんだ?」

吹き荒れていた怒りは、どこかに消え去っていた。ただ静かに、まどかを見つめて杏子は問いかけた。

「……止めようと思ったんだ、説得して、何とか分かってもらおうと思ったんだ。そうすれば、もしかしたら戦わなくて済むんじゃないかって思ったから。直接呼びかけたら、伝わるんじゃないかなって……思ってたんだ」

その言葉に、杏子ははっとしたように目を見開いた。それから、少しだけ何かを考え込むような顔をして、やがて。

 

「なあ、まどか。……今からでも、伝えてみる気はあるか?」

もう一度、まどかに問いかけた。杏子は知っていたのだ。

たとえバイドであれど、人の意志をもったものがいることを。どうにか意志を伝える方法さえあれば、それを交わすこともできるのだということを。千歳ゆまとの出会いが、杏子にそれを教えてくれたのだ。

だからこそ伝わると、止められると杏子は信じた。今度こそ、助けてみせると杏子は決意した。

まどかは一度杏子の顔を見て、それからモニターへと視線を移す。そこにおぼろげに写るコンバイラベーラの姿を見つめて、それからもう一度杏子へと視線を移して。

「私は、行くよ」

まだ、できることがある。まだ、助けられる人がいる。

それは、まどかにとって十分な理由だった。

 

「わかった。じゃあまどか、力を貸してくれ。あたしは……ロスに会いに行く」

言葉と共に、杏子はその手を差し出して。

「うんっ!」

まどかもまた、力強く答えてその手を取るのだった。

 

 

「敵部隊の撤退を確認。提督、我々の勝利です」

「よし、負傷したR戦闘機部隊を収容し、後方の艦隊と合流する」

敵の部隊を何とか撃退し、九条提督はようやく安堵の吐息を漏らした。敵の数はそれほど多くはなかったとは言え、こちらも連れてくることが出来た戦力は九条提督の乗艦であるテュール級が一隻、そしてそれに搭載できる限りのR戦闘機部隊のみだった。

元々が月面戦の生き残りを集めた部隊、戦力的には敵とほぼ差は無い。ほとんど被害を出さずに撃退することが出来たのは、やはり。

「美樹くん、ご苦労だった。機体を収容するかい?」

そう、さやかの活躍の占めるところは少なくなかった。

 

「なんとかなったー、かな。大丈夫ですよ、このまま自分の艦に戻っちゃいますからっ」

戦闘の終了を確認し、さやかは機体を巡らせた。思わぬ援軍もあって、魔法の力に頼ることなく勝利することが出来た。それには素直に安堵を覚える、けれどまだ終わりではない。

コンバイラベーラは未だ健在。敵戦闘機部隊も全滅させた訳ではない。

「でも、あいつは来なかった。……よかった、ちゃんと倒せてたんだ」

何より気がかりだったのが、先の戦闘でさやかと杏子を追い詰め、マミが犠牲になることでようやく破る事のできたあの敵機のことだった。この戦場に姿を見せなかったということは、あの時の攻撃で撃破することが出来たということなのだろう。

となれば、残る敵はあと僅か。決着の時は近い。さやかはそれを確信し、ティー・パーティーへと機体を走らせた。

「美樹くん、我々もすぐそちらに合流する。その後今後の行動を協議する予定だ。直接敵と戦った君たちの意見も聞きたい、出来れば考えておいてくれ」

「了解です、あたしはまだまだいくらでも戦えちゃいますから。手が必要なら言ってください」

ティー・パーティーへと向かう途中。通信で交わす声は、出来るだけ力強く元気に。

「わかった、期待しているよ、美樹くん」

 

「さやかちゃんっ!」

「さやかっ!……よかった、無事に戻ってきたか」

ティー・パーティーに戻ったさやかを、まどかと杏子が出迎えた。

「まどか、起きてたんだね。よかったよかった。……それと、ただいま、杏子」

そんな二人に嬉しそうに笑みかけ、さやかは軽く手を上げた。

「とりあえずこっちに近づいてきた敵は撃退することが出来たよ。でも、まだあのデカブツが残ってる。これから九条提督が作戦会議をするんだってさ」

「九条って、あの時の九条か?」

同じくエバーグリーンの戦いを超えた杏子が、驚いたように答えた。まさかこんなところで再会することになるとは、思ってもいなかっただろう。

「月での戦闘に参加してたんだってさ。それで、残った部隊を引き連れて援軍に駆けつけてくれたんだ。」

「そうか。……おかげで助かったな」

「ほんとだよ、さすがのあたしもあの数相手じゃ危なかったかも知れないからね」

実際のところ、一人でも負ける気はしなかった。けれど、魔法に頼らず戦える気もまたしていなかったのは事実で。冗談めかして言いながらも、その表情は確かに安堵を感じていた。

 

「で、九条の奴は何か言ってたのか?これからどうする、とか」

「いや、特にそういうことは言ってないね。まずは作戦会議からなんじゃないかな」

それを聞いて、なにやら杏子とまどかは考え込むような仕草をして。

「そういうことなら、今のうちに話しちまうのが得策かもな。本格的に攻撃が始まったら、こんなことしてる場合じゃなくなっちまう」

「そうだね、どっちにしろ協力してもらわないと、難しそうだし」

互いに顔を見合わせて、小さく頷く杏子とまどか。その意図が読めずに、さやかは思わず首を傾げて。

「ちょっとちょっとー、二人とも、あたしそっちのけで何話してるのさー?」

なんて突っ込むのだった。

 

「もちろんさやかちゃんにも説明するよ。……でも、ちょっと大変な話になっちゃうかな」

「この状況以上に大変な話なんて、ありゃしないでしょーよ。ほらほら、さやかちゃんに話してみなさいなー」

「……いや、これはあたしから話す。さやか、信じられないかも知れないけど、よく聞け」

「なによ、そんな急に改まった顔しちゃってさ」

そうして、杏子は静かに口火を切った。

ジェイド・ロスの帰還を。口に出すだけで、それこそ身を切られるほどに痛む。古傷を改めて抉りなおすようなその行為を、ただただ切々と杏子は遂行していったのだ。

「信じられる訳ないとは、自分でも思うさ。でも、あたしは信じる。ロスは、どんな風になっても地球へ帰ろうとしたはずだ。そして、こうして帰ってきたんだ」

手の色が白く見えるほど硬く拳を握り締めて、杏子はさやかに言葉を告げた。隣では、まどかも同じように深刻な眼差しでさやかを見つめていた。

 

「もし、もしだよ。仮にあれがジェイド・ロスだったとして、一体どうしろってのさ。あれは、もうバイドなんだよ。それに、ほむらとマミが死んだのはあれのせいだっ!……倒さないわけには、行かないでしょうが」

たとえかつての英雄と言えど、今はただの人類の敵なのだ。杏子には悪いが、倒すより他に術はない。これほど多くの犠牲を生み出した敵を、いまさら見逃すことなんて出来るはずが無かった。

さやかの掲げた正義は、それを決して許そうとはしなかった。

 

「それでも、あたしはあいつを、ロスを止めに行く。……まだ意識は残ってる。呼びかければ、届くかもしれない」

「届いたからって、一体どうするってのさ!止まるわけないじゃない。だって、だってバイドなんだよ!?」

さやかにとって、バイドはどこまでも敵だった。けれど、杏子にとってはそうではない。バイドに侵されたとしても、意思が通じ合えないわけじゃない。止められないと、完全に決まったわけじゃない。

「……教えてやるんだ、ロスに。もう、あんたはバイドなんだってさ」

それは、恐らく引導を渡すにも等しい行為だった。

耐えられるわけが無い、耐えられるはずが無い。自分がバイドであるなどと、そんな事実を受け入れられるとはさやかにはとても思えなかった。

「いくらなんでも無茶ってもんでしょ。そんなの……残酷すぎるじゃない」

もし仮に、彼が自分がバイドであると知らずにここまで来たのだとしたら。それを教えるということは、今までの戦いが、地球へと戻るための戦い全てがバイドの本能のままに行われたことに他ならないということで。

例え彼がどのような人物であろうと、その事実に耐えることなどできるわけがない。

そう、さやかは考えた。

 

「それでも、ほんの僅かでも望みがあるかもしれない。だからさ、さやか。あんたも協力してくれないか?」

「お願い、さやかちゃん。私たちをロスさんの所へ行かせて」

二人に詰め寄られ、さやかは言葉に詰まる。助けられるものなら助けたいとも思う。けれど、それはどう見ても自殺行為に他ならない。

「今度こそ助けたいんだ。もう一度会いたい。話が出来るならしてみたいんだ。ロスは、ロスはあたしの……家族なんだよ」

ずっと、押し殺してきた思いを。杏子は打ち明け、そして静かに俯いた。

らしくないと思うけれど、一度吐き出してしまえばもう止められなかった。ただただ、胸の中には会いたいと、助けたいという気持ちだけが渦巻いていた。

「誰がなんと言おうと、あたしはロスを助けに行く。今行かないと、あたしは一生後悔する。たとえ無駄でも、死んじまうとしてもだ」

歯を食いしばって顔を上げる。少しでも気が緩んでしまえば、泣き出してしまいそうだったから。

 

杏子の意思は、もはやどうあっても揺るがないほどに硬い。

きっといつもの自分は、杏子にとってこんな風に見えていたんだろうな、と。さやかはそんな杏子の姿を見て、思う。

そしてまどかの方へと向き直ると。

「まどかはいいの?ジェイド・ロスの所に行くってことは、あの戦艦に突っ込むってことだよ。凄く危険だし。死んじゃうかもしれないんだよ?」

そう問いかけた。まどかは、その言葉に小さく身を振るわせた。

死という言葉がひどく身近にあるこの戦場で、その真っ只中へと飛び込もうというのだ。恐怖を抱かないはずがなかった。

それでもまどかは、まっすぐにさやかを見つめて、そして言う。

「さやかちゃん。……私ね、思うんだ。どんなに危なくたって、怖くたって。人にはどうしてもやらなくちゃいけない事と、それをどうしてもやらなくちゃいけない時があるんだって」

「まどか……」

途切れてしまいそうになる声を必死に繋いで。胸に手を当て、必死に声を絞り出して。

「やらなくちゃいけないことが、ロスさんを助けることなんだ。そして、その時が今なんだ。だから……私は、行くよ」

 

「まったく、杏子だけじゃなくまどかにまでそんな顔をさせちゃうなんてさ。ジェイド・ロスって人は、随分モテモテみたいだね~」

不意に、その重苦しい雰囲気を吹き飛ばすようにさやかは笑って言う。けれどその瞳には、どこか落ち着き払った光が宿っていて。

「わかったよ。その話、あたしも乗った!っていうか、あたしも会ってみたくなっちゃったし、ジェイド・ロスにさ」

にっこりと笑って親指を立てた。まどかも、杏子も、その仕草を見て嬉しそうに笑ったのだ。

 

「九条提督にも、協力してもらえないかどうか聞いてみるよ。さすがにこんな突拍子もない話、そうそう信じてもらえないとは思うけどさ」

作戦会議が、もうじき始まろうとしていた。その前に、さやかは九条提督の下を尋ねるつもりだった。最後の攻撃へと移る前に、ジェイド・ロスへの接触を図るためにどうにか、九条提督の力を借りようとしたのだ。

「あたしも行くぞ。ついでに工作機の無心でもしてみるさ」

十分な設備を持たないティー・パーティーでは、キングス・マインドの負った損傷を修復することは困難だった。せめてそれが修理できれば、杏子とさやかの二人で乗り込んでいくことが出来る。

少しでも成功の可能性を高めるためには、どうしてもそれが必要だった。そのための工作機を、どうにか調達しようとしていたのだ。

「私も、一緒に行くよ。……何の役にも立てないかも知れないけどもう待ってるだけなのは嫌だから。お願い、一緒に行かせて、さやかちゃん」

「まったく、しっかたないな二人とも。いいよ、みんなで行こう。三人分の力で、どうにか九条提督を説き伏せてやるのだーっ!」

ぐっと握り拳を高く掲げるさやか。続いてまどかも、杏子も。

 

かくして英雄の帰還を巡る戦いがが生み出す大きなうねりは、多くの命を飲み込みながら少女たちの運命さえも飲み込んで、ついに最終局面へと突入していくのであった。

 

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