魔法少女隊R-TYPEs   作:SanDMooN

23 / 53
空で、地の底で、残された者たちは死力を尽くして戦い続ける。
希望をその手に硬く強く握り締め、少女達は呼び続ける。

その声は、想いは“彼”に届くのだろうか。


第14話 ―沈む夕日―④

「こちらさやか、ポイントJ-102を通過。敵影なし、進んでもおっけーだよ」

「了解だ、このまま前進する」

やけにノイズ交じりで音質の悪い通信が、さやかと杏子の機体の間で交わされていた。

それは、この時代ではほとんど使われることのない極超短波による通信だった。交信を行える距離も短く、その質もあまりよくはない。それでも、あえてそれを使っているのには理由があった。

「まどか、次はどっちだ?」

「えっと……うん、次はそのまま直進、突き当たりを右に曲がって」

タンデム仕様のコクピットの中、後ろに座るまどかに杏子は尋ねた。まどかは画面に表示されているマップを頼りに、何とか杏子とさやかに指示を送った。

 

そこは、都市部の地下に広がる広大な地下空間。

その中を、二機のR戦闘機がゆっくりと進んでいた。

 

さやか達が九条提督に協力を求めたその時に、既に彼は半ば今後の方針を決めていた。

現在の戦力では、敵戦闘機群はともかく敵戦艦の撃墜は困難だった。なにせ、真正面からの撃ち合いで6対1のハンデをひっくり返した相手である。いかなテュール級戦艦と言えど、単機での撃破は難しい。

とはいえ、敵の戦力は最早ほとんど残っていないのも事実。だからこそ、彼は待とうとしていたのだ。今はともかく、もうじき地球の各方面から援軍が到着するはずだった。

今無理に攻めるよりも、援軍を待った方が勝利は確実なものとなる。それまでの間、敵が逃走しないように適度にプレッシャーをかけていけばいい。そう、彼は考えていたのだ。

そこにもたらされた衝撃的な事実。驚くべき事に、敵はかつての英雄ジェイド・ロスの成れの果てだと言うのである。成れの果て、なんて言い方には杏子は渋い顔をしていたが、それは今は問題ではない。

俄かには信じがたいが、敵の手並みを見るとそれも納得はできる。少なくとも、その突拍子もない言葉に説得力を持たせる程に、敵の指揮能力はずば抜けていた。

 

だとすれば、待ちなどという生ぬるい手を使うわけにはいかなかった。

英雄と称され、望むがままに戦局を塗り替えたとまで言われ、ついには戦慄の魔術師などという大仰な呼び名まで付いてしまった男が立ちはだかっているのだ。時間を与えれば、間違いなくこちらに不利になる。

すぐさま何らかの手を打つ必要があると、九条提督がその知能を廻らせるよりも一瞬早く、さやかがやけに大仰な様子で言い出した。曰く――我に策有り、と。

まんまその調子で言ったものだから、辺り一同脱力したのは言うまでもない。

当初、九条提督はバイドに意思疎通を図るなどという自殺行為を、決して認めようとはしなかった。それでもさやか達は食い下がり、ついには魔法少女のことも、まどかの能力のことまでもを明かしてしまった。

それこそ信じられない話だと、取り付く島もない九条提督。助け舟を出したのは、傍らに立つガザロフ中尉だった。

一体どういう情報網によるものか、彼女は魔法少女というものが存在することを知っていた。噂の範疇を出ず、随分と誇張された風もある魔法少女の能力を述べた上で、改めて彼女は提案した。

その提案こそが、今行われている作戦であった。

 

九条提督の部隊が真正面から敵の注意をひきつけている間に、さやかと杏子が秘密裏に敵艦に肉薄しこれを撃破する。その際に何かしらの出来事があったとしても、その対処は現場に一任する。

縦しんば説得できればよし、例え無理でも、十分にそれは奇襲足りえる。それは双方にとって、最善の落とし所と言えた。

問題はいかにして彼の元へと接近するか。その方法は、彼自身が示してくれていた。都市部の地下に広がる広大な空間。これは郊外から都市中心部までにかけてありとあらゆる場所に、迷路のように広がっていた。

先の戦闘で彼がそうしたように、今度はこちらがそれを利用してやろうと言うのだ。

 

かくして、今に至るというわけである。

至急工作機を総動員し、杏子の機体の修復を済ませ。さらにはまどかが同乗できるように、パイロットユニットをタンデム仕様に換装した。

かくして三人は地下に潜り、敵から察知されるのを防ぐため極超短波による短距離通信に頼り、広大な地下空間を突き進んでいたのであった。

 

「敵、戦闘機部隊、来ます!」

ガザロフ中尉の声に、九条提督は意識を思考から戦闘へとシフトさせた。ビル街に迫るR戦闘機部隊を迎撃するかのように、敵の戦闘機部隊が現れたのだった。

「まずは敵の出鼻を挫く、射線上のR戦闘機部隊を退避させろ!退避確認後、主砲及びグレイプニル砲発射!」

撃ち放たれた陽電子砲が、開戦を告げる合図となった。

 

「上じゃどうやら始まったようだな」

艦砲射撃の轟音が、地響きとなって地下に伝わってくる。

「そうだね、あたしらも急がないとまずいね」

敵が一度使った経路である。何処にバイドの残党が居てもおかしくない。慎重に、かつ可能な限り迅速に、さやか達三人は地下を突き進んでいた。

自由に動けるさやかが偵察を行い、まどかがタンデムシートからナビゲートを行った。地下空間のマップは入手しているが、バイド軍の侵攻の際に破壊されたり、R戦闘機では通れないような区画もある。

通れる場所を探すだけでも、随分と手間のかかる仕事だった。

「次は左かな。その先は道が狭くなってるから、一旦もう一つ下のエリアに降りてから進んでね、さやかちゃん」

「おっけー、まどか。杏子、先に行ってるけど、遅れないように付いてきなさいよっ」

「任せとけ。さやかこそ、うっかりぶつけて機体をダメにするんじゃねぇぞ」

救いを求めて、少女達が地の底を行く。その行軍は、どこか楽しげにさえ見えた。そんな風に振舞わなければ、この場に立ってもいられない。ただそれだけのことなのだけれど。

 

「っ……ストップ!杏子……やっぱりいたよ、しかも、ゲインズだ」

レオⅡのセンサーが、前方のバイド反応を捉えていた。その反応はゲインズの存在を示している。動いている様子はない、既に戦闘不能ならばいいが、そうでないとすれば拙い。

「どうする、仕留めるか?」

「いや、下手に暴れられたらあたしら生き埋めになっちゃうっての。……なんとかやり過ごすなり、上手く撒いてやるなりしたいところだけど」

こんなところに居ることを知られては、折角の奇襲が台無しになってしまう。接近するチャンスも失われるだろう。

「まどか、この先のルートってどうなってる?」

「この先は……十字路を右に、それから上のエリアに出れば、あとはしばらく真っ直ぐかな」

マップの扱いにも大分慣れたようで、まどかの声にももう迷いは見られない。その声を受けて、杏子とさやかは考え込んだ。

「十字路ってことは、別の場所から道が繋がってる、ってことだよね」

「……だろうな。上手いこと迂回路を見つければ、あいつに引っかからずに進める、か」

「そうだね、道がないかどうか探してみるよ」

その間は、前方の敵を刺激しないよう待機。緊迫した時間。張り詰めた空気と沈黙の中に、R戦闘機の駆動音とモニターを操作する音だけが響いていた。

 

「……見つけたよっ!一旦戻って、さっきの通路を左!」

「よっしゃあ!それじゃあ急いで行っちゃうよぉーっ!!」

「わっ、バカ、さやか、急に動くんじゃ……っ」

一気に通路へ向けて駆け出そうとしたさやか。まずは一度機体の向きを変えようとした杏子。なんとも運の悪いことに、その二機の軌道は交差してしまった。

「きゃぁっ!?」

「うっわわわっ!」

「くっ……こんの、バカさやかっ!!」

機体同士が軽く接触。キングス・マインドはそのまま弾かれ、あわや壁に衝突するかというところで辛うじて機体に制動をかけることに成功した。したの、だが。

「……げげ、やばいよ。今のでゲインズが動き出した!」

「んな……ったく、何やってんだこんな時に。とにかく、見つかったら終わりだ。さっさとその迂回路を抜けるぞ。まどか、ナビを続けろっ!」

「う、うんっ!」

先ほどまでの、張り詰めていながらもどこか余裕のある雰囲気が一変。死と隣合わせの戦場が、ついにこの地下空間にまでも押し寄せてきた。

後方より迫る敵の反応を感じつつ、二人はできる限りの速度で地下空間を駆け抜けていくのだった。

 

「戦況はほぼ硬直状態……いや、こちらがやや不利か」

前線の戦況を眺めて、重々しく九条提督は呟いた。R戦闘機部隊には、敵の撃破よりも戦線の維持と撃墜されないことを優先して命じてある。そのお陰か、今のところ多少の被弾はあれど撃墜されたものは居ない。

だがそれは敵も同じことで、戦況は一進一退であった。しかし向こうには、まだ切り札たる戦艦がある。戦況はやはり不利と言わざるを得なかった。

ただ、時間が稼げればいい。その方面から考えれば、この結果はまずまずと言えた。

「敵艦の動きは?」

「今のところ静観しているようです。彼女達も、まだ到着してはいないようです」

即座に帰ってきた報告に、九条提督は帽子を目深に被りなおして。

「……急いでくれよ。持たせるのにも限度がある」

再び戦場へと意識を向ける。散発的に巻き起こる閃光と爆発。傷つけられていく都市。避難は済んでいるとは言うが、これでは被害は出ないはずも無い。

ましてや、これが実は人類同士の争いなのだと言う。そう考えると、えもいわれぬような空しさを、九条提督は感じていた。

何処までも孤独に戦い抜き、そして今尚ああして立っている彼がどうしようもなく、憐れに思えてしかたがなかった。

 

「敵艦に動きあり!こちらへ向かってきますっ!!」

そして、ついに彼は動き始めた。もしや彼女達が気取られたかと、不安を抱いた九条提督だったが敵が直接こちらを目指していると知り、まずは一つ安堵した。

「R戦闘機部隊を後退させろ、敵の艦砲射撃の範囲に入れさせるなっ!間に合ってくれよ……」

敵が動き出した以上、こちらも動かなければならない。恐らくこのタイミングで仕掛けることが出来なければ、最早彼女達は地下で立ち往生するしかない。

「敵、艦首砲に高エネルギー反応。撃ってきます!」

後退が遅れた部隊が、敵艦の攻撃範囲内から逃れることに失敗したようだ。それに狙いを定め、コンバイラベーラの艦首砲、フラガラッハ砲Ⅱが放たれようとしていた。

「く……敵艦首砲の発射と同時に前進!グレイプニル砲で敵艦を直接叩くっ!」

こうなれば、後は艦砲射撃の撃ち合いに任せるしかないと九条提督は判断した。少なくとも一度撃ってしまえば、艦首砲の再度発射まではチャージが必要となる。先手は取れるはずだと、九条提督は前進を命じながら考えていた。

そして、ビル街を薙ぎ払って放たれるフラガラッハ砲Ⅱ。二股に分かれたその閃光は、広い範囲を焼き払っていった。回避をし損ねた味方機が、光に飲み込まれて潰えていく。

その、激しい光の炸裂と同時に。

 

「行くぞ、さやか、まどかぁっ!!」

「おっけー!任せなさいっ!!」

「うん、行こうっ!!」

地表を吹き飛ばし、放たれた波動砲の一撃。そしてそれが穿った穴の奥底から、赤と青の機体が飛び出した。

 

「来たかっ!!」

その反応を察知して、スキタリスのブリッジで九条提督が声を上げる。

「確かにレオⅡとキングス・マインドの反応です。二機は健在ですっ!敵艦に向けて接近中っ!」

奇襲は成功した。ついにあの英雄に、一矢報いることが出来たのだ。後は彼女達が上手くやってくれるのを祈るだけだと、九条提督は湧き上がる笑みを隠そうともせずに叫ぶのだった。

 

ちょうど彼女達が地下を駆け抜けていた頃。それはコンバイラベーラが移動を開始したその時で。頭上を移動するコンバイラベーラの反応を、二人の機体は確かに捉えていた。

すぐさま波動砲をチャージし直上へ向けて放つと共に、降り注ぐ破片や土砂を振り切って、赤と青の光が地表へと駆け上がっていった。

場所はほぼコンバイラベーラの直下。呼びかけるにも、接触通信を図るにも絶好のポジションだった。

「行くぞ、外部通信チャンネル解放。届けるぞ、あたしらの声をっ!まどかっ!!」

「うんっ!全力で、思いっきり呼ぶよ、ロスさんをっ!!」

二人が息を吸い込んだ。目前に迫るは禍々しくも美しい、紅。その紅に触れようとして、声を放とうとして。その、直前に。

 

激しい光を巻き上げながら、それは割り込んできた。

 

「ロス……っぐあぁぁっ!」

「ロスさ……きゃぁぁっ」

呼びかけようとした声は、途中で悲鳴に変わっていた。割り込んだのは、禍々しい異形の機体。マッド・フォレストⅢ。

先の戦闘でさやかと杏子を苦しめ、マミが命がけで撃退したその姿をどうしても連想させる、禍々しい姿だった。

割り込んだ光と交差して、弾き飛ばされ進路がずれる。さらには火花と爆発を巻き起こすキングス・マインド。あの一瞬の間に、敵はしっかりと攻撃を入れていたらしい。

「間違いない、こいつは……」

その恐ろしいまでの技量を、容赦ない攻撃を目の当たりにして、理解する。

さやかはその敵機へと機体を走らせながら。

「やっぱりそうかよ、あんたならここに居ると思ったよ」

杏子は、錐揉みする機体に制動をかけ、更に迫る敵機に迎撃の意思を向けながら。

 

「マミさんの、仇ぃぃィっ!!」

「アーサァァァァっッ!!!」

二人の怒号が、戦いの空に交差した。

 

「さやか、こっちにゃまどかが居る、あんまり無茶はできねえ。あいつの……アーサーの相手を頼むっ!」

「任されたっ!やっつけちゃっても、恨むんじゃないわよっ!!」

奇襲は防がれた。けれど、まだ終わりと決まったわけではない。

再び機首をこちらに向けて、突撃してくるアーサー機。それを真正面から迎え撃ち、立ち向かうさやか。

「今度こそ、行くぞ。まどかっ!!」

「今度こそ、伝えるよ。杏子ちゃんっ!!」

そして、杏子とまどかは再びコンバイラベーラへと接近する。しかしもはやそれは奇襲ではない。その進路を、無数の追尾レーザーとファットミサイルが塞いでいる。

「ったく、下にも死角なしかよ。……掻い潜って接近する。舌ァ噛むんじゃねーぞっ!!」

「うんっ!お願い……気づいて、ロスさんっ!!」

迫る追尾レーザーを、十分に引き寄せてから回避。そこへ殺到するファットミサイルを、レーザーで打ち砕き、フォースで受け止め接近する。再び外部通信をオンに、そして叫ぶ。

「ロス、私だ。杏子だっ!気づけよっ!ここまで、会いに来たんだぞッ!!」

「ロスさん、私だよ、まどかだよっ。お願い、話を聞いて……ロスさんっ!!」

外部スピーカーで拡大された声が、戦場に響く。降り注ぐ攻撃の雨と、巻き起こる爆発の嵐の中でも、それは確かに響いた。そして、僅かな間をおいて。

コンバイラベーラは再び、追尾レーザーによる攻撃を開始した。

 

「駄目かっ!こうなりゃ仕方ねぇ。あいつに接触して、直接伝えに行く。……お前はそのまま呼び続けろ、まどかっ!!」

「分かってる。お願い、答えて!もう一度私の話を聞いて!ロスさんっ!!」

帰ってくるのは、無慈悲な破壊の光だけだった。

 

「杏子とまどかがうまくやってくれれば、それで戦いは終る。……でも、その前に。お前だけは、お前だけはあたしが倒してやるっ!!」

青い光を纏ったまま、アーサー機へと突撃を仕掛けるさやかのレオⅡ。レオⅡの放つリフレクトレーザー改を掻い潜り、そのままマッド・フォレストⅢが接近。そして交錯。

すれ違いざまに一撃を叩き込まれ、レオⅡの機体から火花が散った。

「まだだっ!負けるもんか、負ける……もんかぁぁぁっ!!!」

それを即座に、さやかの魔法が修復していく。即座に機体を旋回。再びアーサー機へと向かっていく。

アウトレンジからの撃ち合いでは決着はつかない。どれだけ攻撃を受けてもいい、白兵戦で確実に一撃を叩き込む。アーサー機もそれに応じ、再び二機が交錯する。

自らの被弾を度外視したさやかの攻勢は、あまりの気迫は、アーサーですらもその全てを受け流すことは困難で。次の瞬間には、互いの機体が同時に火花を散らしていた。

空に輝くは電流火花、激しくぶつかり合う度にどちらの機体からも、それが何度も散りばめられた。

 

「もう少し……もう少しだけ頑張れ、あたしの体……ッ」

ソウルジェムの穢れは恐らくもう限界に近い。体の奥に、じくじくとした疼きが芽生えていた。そしてそれが、じわじわと全体に広がっていくような嫌な感触。

それが全身に広まったときどうなるか、それは考えるまでもないことだった。

そんな恐れも全て飲み込んで、さやかはさらに戦いへと没入していく。壊されたサイビットを即座に再構成、機体をそのままぶつけるような勢いで接近し、サイビット・サイファとレーザーによる波状攻撃を展開する。

サイビットが、マッド・フォレストⅢの前方より生える蔦状組織をへし折った。回転しながら後方へ吹き飛ばされるも、すぐさま機体を制御し迫り来る。その先端から生じた蔦状のエネルギーが、さやかの機体を掠めた。

「いい加減それも見飽きたっての、そうそういつまでも、当たってなんか……っ!?」

その発射の瞬間を見切り、回避に成功したさやかであったが、伸ばされた蔦からさらに生じたその花がレオⅡの装甲を食い破っていた。

進化を遂げたマッド・フォレストⅢは、その波動兵器もまた更なる進化を遂げていた。異形の花を咲かせた刃が、レオⅡに深刻な損傷を与えたのだった。

 

「こんな……ことで…やられて、たまるもんですかぁぁーっ!!!」

直後、まるで吹き上げるかのようにレオⅡから奔流する青い光。その光は、装甲を食い破る花弁を吹き飛ばし、さらにその機体を修復させる。

バイドすらも超える異様な再生能力、そしてその恐ろしいまでの気迫。それに圧されて、ついにアーサー機が背を向けた。

敵の正体が分からない以上、単独で立ち向かうのは危険だと考えたのかもしれない。だが、とにかく彼は背を向けたのだ。急速に離れ、距離をとる。

そのアーサー機に、直下から現れたサイビットが強烈な一撃を叩き込んだ。

「かかった!今度こそ、今度こそ……これで、終わりだぁぁぁっ!!」

それは先に破壊され、そのまま破棄されたはずのサイビット。さやかはなんとそれを遠隔で再生させ、三つ目のサイビットとして起動させたのだ。本来想定されていない運用方法に、機体がエラーを吐き出した。それすらも魔法で強制的に黙らせる。

 

そして今、ついに最高のチャンスが訪れた。

明確な撃墜の意思を持って、最後の一撃が放たれようとしていた。

 

「ったく、厄介な弾幕だ。ちったぁ休めっての!」

敵の砲台は実に勤勉で有能だった。

休む暇も与えずに迫り来る追尾レーザーとファットミサイル。それを回避するのが精一杯。これ以上距離を詰めれば、それすらも敵わなくなる。とはいえこれ以上時間をかけ続ければ、前線の部隊もさやかのことも心配だ。

「覚悟決めるか……まどか、とにかく体を固定しとけ。相当暴れるぜ」

「っ……うんっ!」

既に今までの機動ですらも、激しく機体は揺さぶられ続けて。慣れないまどかにとっては、もはや酔うどころの話ではなかった。それでも今だけは、と必死にシートにしがみついた。

(ロスさん、ロスさん……ロスさんっ!!)

言葉を放つ余裕がなくなっても、それでも必死に心の中で呼びかけながら。

 

敵機の地中からの奇襲。それを予想していないわけではなかった。こちらが取った手を、敵が取れない訳はないからだ。とは言え、敵には先ほど我々がそうしたように、地下からの奇襲部隊に多くの戦力を割く余裕はないだろう。

だからこそ、恐らく少数精鋭で向かってくるであろう敵の奇襲に備えて、アーサーを艦の護衛につかせていた。

その読みは当たり、敵機の地中からの奇襲を見事にアーサーは阻んでくれた。だが、状況はまだ決していない。

どうやら突入してきた敵は相当の手練のようだった。一機はアーサーと激しい空戦に突入し、未だにそれを続けている。そして艦に迫ったもう一機。接近は阻んでいるが、撃破には至らない。

前方の戦線も気にはなるが、どうやらこちらを先にどうにかしなければそちらを気にしている余裕もなさそうだ。まずは艦に接近しようとする敵機を叩き落すため、私は艦を旋回させた。

既にフラガラッハ砲Ⅱのチャージは完了している。全砲座による一斉射撃で、敵を叩き落してやろう。

 

いよいよ突撃しようと意思を固めた杏子の前に、コンバイラベーラはその艦首を向けた。既にチャージを完了させた艦首砲が、その照準をキングス・マインドに合わせていた。

進化し、より広域を攻撃可能となったフラガラッハ砲Ⅱ。そして今尚降り注ぐ砲撃と合わせて、もはや杏子に逃げ場と言えるものは何一つ存在していなかった。

 

――これで、終わりだ。

フラガラッハ砲Ⅱの照準が敵を捉え、後は発射の命を出すだけだった。この位置ならば外しはしない。十分な確信を持って、私はその命令を出した。

――フラガラッハ砲Ⅱ、発『やめて、ロスさんっ!!』

――っ!?緊急回頭っ!!

 

艦首砲が放たれる直前、突如としてコンバイラベーラの艦体が錐揉みするかのように旋回した。艦体の制動などまったく考えないその動きは、艦のコントロールを一時的に失わせた。

コンバイラベーラは、明後日の方向にその艦首砲を撃ち放ちながら並び立つビルの残骸に、その身を強く撃ちつけていた。

「な……っ」

放たれようとした艦首砲、それをどうにか回避しようとしていた杏子は、その突然の挙動に思わず驚愕の声を上げていた。

艦首砲は明後日の方角を貫き、敵の迎撃兵器もその一切の攻撃を止めている。ビルの残骸に身を預けたコンバイラベーラは、まるでこちらを見つめているようで。どこか、戸惑っているようにも見えた。

そんな様子に呆けたように動けずに居た杏子は。

「杏子ちゃんっ!今だよ、届いたんだよ!ロスさんに、私達の声がっ!!」

まどかの声に、我に返ったように目を見開いて。

「……そう、だな。何だっていい、ロスに接触するチャンスだっ!」

そして杏子はキングス・マインドを走らせ動きを止めたコンバイラベーラの艦首部分に、自らの機体を接触させた。

 

「終わりだぁぁぁぁぁ……あ、あれっ?」

気がついた時には、さやかは奇妙な空間に立っていた。

足元には奇妙な靄のようなものが垂れ込んでいて、見える空はどこまでも琥珀色に美しくて。どこまでもただ広いその場所は、靄の向こうの地平線の彼方まで、その視線を遮るものは何も無かった。

「え、ちょっと。どーなっちゃってるわけ?これは」

その荘厳ともいえる景色に半ば圧倒されながら、それでもさやかは自分が置かれている状況を思い出し、騒ぎ出した。

そう、つい先ほどまで自分は戦っていたはずなのだ。まさに捨て身の猛攻で、ついにあの敵機を追い詰めたはずだったのだ。なのに、なぜか今こんなところでこうしている。

さっぱり訳が分からなかった。

「いつのまにやら天国行き……なんてわけ、ないよねぇ?いくらなんでも天国にしちゃ殺風景過ぎるし」

「そうだな、そもそも本当に天国なら、そんなところに俺は居ないはずだ」

「え?」

そんなさやかの声に答えて、一つ、男の声がした。気がつくとさやかの隣には、長身の男性の姿があった。軍服姿で銀髪の、随分整った容姿の男性だった。

 

「だ、だだっ!?誰なのよあんたはーっ!?」

余りの動揺に口調を取り繕うことも忘れて叫ぶさやか。そんなさやかに、男はやかましいな、とでも言うかのように顔を顰めて。

「やかましいっ!」

と、まさにそのまま一喝した。それから、一つ小さな咳払いをして。

「状況が分からないのは俺も同じだ。まあ、まずはそこから確認していくことにしよう。俺は地球連合軍バイド討伐艦隊所属、第一機動部隊隊長の、アーサー・ライアット中佐だ。お前の所属と階級は?」

一気に、そう捲くし立てるのだった。

 

「ん……あ、れ。どうなってんだ、こりゃあ」

杏子も同じく、その不思議な空間で目を覚ました。

コンバイラベーラに接触した瞬間に、急に意識が途絶えてしまった。そして目が覚めるとこんな場所にいた。やはりその場所の荘厳さに半ば心を奪われつつも、杏子は辺りを見渡した。

まどかは、さやかは、そしてロスはどうなったのだろうか。

 

人影を見つけた。

とにかく何かが分かるかもしれないと、杏子はそれをめがけて駆け出した。だんだんと、その人影がはっきりと見えてくる。どうやら一人ではないようだ。

さらに駆け寄る、ついに見えたその姿は。

 

「…………お前ら、何やってんだ」

まどかをその両手で抱きしめる英雄、ジェイド・ロスの姿と。思いっきり困惑した表情で、抱きしめられているまどかの姿だった。色々な感情が一気に去来して、まず最初に口火を切って出たのはそんな言葉だった。

なんだか、途方も無く脱力感を感じて杏子はその場にへたり込んでしまった。

「っ、杏子ちゃんっ!違うんだよ、これは……ちょっと、離してくださいっ!」

途端に大慌てでそれを振りほどいて、まどかは杏子の元へと駆け寄った。

「ああっ!?待ってくれマドカ、もうちょっと話を……って、キョーコ?」

追い縋ろうとしたロスは、そこでようやく杏子のことに気づいたようで。何とか衝撃から立ち直った杏子は、ゆっくりと立ち上がる。

そして、完全に目の据わった様子でロスを睨み付けた。

 

「もしかして、本当にキョーコなのか?……まさかまた会えるなんて。随分背も伸び…っぎゃっ!?」

途端にその表情を輝かせて、杏子に歩み寄るロス。杏子は、その嬉しそうな笑みを湛える頬に、全体重を乗せた渾身の拳を打ち放った。

驚いて目を見開いたまどかの前で、ロスの体がぐるんと回る。そしてそのまま、ばたりと倒れた。

「な……いきなり、何をするんだキョー、げふぁっ!」

起き上がろうとしたロスに、杏子はさらに容赦の無い前蹴りを叩き込む。

「今のは……あたしを置き去りにしてくれやがった分だ」

燃え上がるような怒気を孕んだ声で杏子はそう言うと、そのまま再び倒れこんだロスの上に馬乗りになって、更なる殴打を続けた。

「これは散々あたしを子ども扱いしてくれた分っ!これは、こんなふざけた騒ぎを巻き起こしてくれた分っ!!」

思いがけなく思い拳がロスのレバーを捉えて、鈍い痛みにロスは顔を顰める。

「そしてこれは、まどかにセクハラしやがった分だぁぁぁっ!!」

「まて、それは誤か……ぎゃっはぁ!?」

問答無用の一撃で、またしてもロスは悶絶し。

「そしてこれは、これは……」

それでも尚止まらず、杏子は拳を撃ち付ける。けれど、だんだんとその力は弱くなっていき、だんだんと声も弱弱しくなっていき。

 

ようやくお互いの状況をそれなりに把握し、人影を見つけて駆けつけたさやかとアーサー。

その二人が見たものは。

声を限りに泣きながら、横たわったロスに抱きつく杏子の姿。そしてそんな杏子を受け止め、そっと髪を撫でるロスの姿。

そしてそんな二人を、優しい笑みを浮かべて見つめるまどかの姿だった。

 

「――で、結局そっちでも、ここがどこなのかはわからなかったわけだ」

座り込んで、さやかとまどか、そしてアーサーが顔を見合わせている。

口火を切ったのはアーサーだった。

未だにこの場所がどういう場所なのかは分からない。足元の靄をかきわけてみたが、どこまでもそれは広がっているようで。けれど足元はしっかりしていて、どうにもおかしな感じだった。

「あたしらは、ついさっきまで戦ってたはずなのにさ。なんでこうなってるんだろ」

その言葉を次いで、さやかが言う。

アーサーが先ほどまで戦っていた相手だと言うことはわかっていた。それが人類に多大な破壊をもたらしたことも、マミを殺したのだということも分かっていた。

けれど、どうしてもその責をアーサーに問うことはできなかった。このどこまでも綺麗な琥珀色の世界を見ていると、そんな怒りさえもが薄れていくような気がした。

「これも、もしかしたら誰かの魔法なのかもしれないね。話がしたいって、分かり合いたいって。そんな願いが叶ったのかも」

視線の向こうに、今尚何かを話し込んでる杏子とロスを見据えて。柔らかな笑みを浮かべてまどかはそう言った。

本当の所は何もわからない。けれど今は、今だけはこうして、戦いの狂気や脅威から逃れることができている。そして、ずっと会いたかった人とこうして言葉を交わすことが出来ているのだ。

 

「そもそも、俺はその魔法とかいうものがまず信じられん。……まあ、ここの所戦い詰めで、こんな穏やかな気分を感じたのは久々だけどな」

理解できない。そんな様子ではあるが、満更でもなさそうなアーサーが。

「あんたは、さ。自分が今まで何をしてたのか、わかってるの?」

そんなアーサーを横目で見ながら、複雑な心境を抱えてさやかが問いかけた。

彼らはまだ、自らがバイドであることを知らずに居る。だからこそ聞きたかった。何故彼らは、仲間であるはずの地球軍と戦いを続けていたのかを。

「ずっと戦っていたな。何せ地球軍の連中がどこまでも俺たちに立ちふさがってくるんだ。ただ、俺たちは地球に帰ろうとしただけなのにな。……正直、訳がわからなかった」

それでも不思議と、今は落ち着いているな、と付け加えて。

「本当に、何も思いつかないの?自分が攻撃される理由」

「……さて、ね。そこそこ恨みは買ってたはずだが。それでもここまでこっ酷く歓迎される謂れはないな」

お手上げだ、といった様子のアーサー。

 

「じゃあ、あたしが教えてあげるよ」

そんなアーサーに、さやかはどこか底冷えのする声で言い放つ。

「さやかちゃんっ!」

「……言わなきゃ、しょうがないでしょ。あたしらはそのために来たんだから」

 

「何の話をしているのかね。出来れば私にも聞かせてもらいたいな」

そんな話を遮ったのは、ロスの声だった。いつの間にやらこちらまで来ていたようで、隣には泣きはらして俯き顔の杏子の姿も。

「いいよ、まとめて聞かせてあげるよ。あんた達が追われていた理由をさ」

「さやかちゃん、お願いだから待ってよ!……今は、今だけは、ね?」

ロスの前に立つさやか、それを止めようとするまどか。その二人を制したのは、突き出された杏子の手だった。

「……あたしが、伝えるよ。これは、あたしが言わなきゃならねぇ事だ」

「杏子ちゃん……」

「できるの、杏子?」

気忙しげに杏子を見つめる二人。

杏子は顔を上げて、今にもまた泣いてしまいそうな顔をして。

「……ここで言えなきゃ、何のために来たんだかわからねぇだろ」

いつしか、琥珀色の世界に風が吹き込んでいた。

 

杏子は、ロスとアーサー、二人の前に立つ。

「ロス、アーサー。あんた達は、もう地球には居られない」

静かに、その言葉を紡いでいく。

「折角帰ってきたってのに、キョーコまでそれを言うのかよ。ったく、どうなってやがる」

アーサーは一つ悪態をつく。ロスは、黙して何も答えない。

「あたしだって、あんたらとずっと一緒に居たいよ。できることなら、ここでずっとこうしてたいって思う。っていうか、前のあたしなら間違いなくそうしてた。他の事なんか気にしないで、あんたらと居ることを選んだと思う」

声が震える。泣くな、ここは絶対に泣いちゃいけないんだと、杏子は自分に言い聞かせる。

「でも、今のあたしには仲間が居るんだ。一緒に戦いたい、生きていきたいって思える仲間がいる。あたしはもう、一人ぼっちの子供じゃない。だから、あんたらと一緒には居られない」

さやかが、まどかが。その言葉に小さくその身を震わせた。

「そして、この星を、太陽系を守ってやりたいって気もする。あんたらがそう願ったみたいに、あたしも守ってみせる。……だから、そのためにも、駄目なんだ。だって……だって」

 

嗚呼、とロスの口から小さな声が漏れた。

必死に言葉を紡ごうとする姿は、やはりまだ震える子供のそれで。今すぐにでも駆け寄って、その肩を抱いてあげたくなる。けれど、それは出来ないのだと知っていた。

自分と杏子との関係を、親子と言うことが許されるのならば。どんな子にも、どんな親にも、決別の時がなければならないのだ。

それを、ロスは知っていた。

 

 

「――あんたらは、もう……バイドになっちまったんだからさ」

風が、一際強く吹き荒れる。足元の靄が吹き消され、そして消えていく。

靄の下に、一面に広がっていたものは。まるで澄んだ鏡のような水面で。各々の足元からは、どこかの光に照らされて、その姿を映し出していた。

ロスとアーサーの足元から伸びるそれが映していた姿は。

 

 

――コンバイラベーラと、マッド・フォレストⅢのそれだった。

 

 

 

「な……んだ、これは。何だ、これはぁぁァッ!!?」

アーサーの絶叫が響く。それを、まるで身を切られるかの様な悲痛な表情で杏子は見つめていた。それ以上、声をかけることも出来なかった。

「そうか、もう。既に我々は……」

震える手を、じっと見つめてロスは呟く。足元に伸びる異形の戦艦は、まるでこちらを見ているようで。

「我々はもう、人間ではなくなっていたのか」

さほど取り乱すこともなく、ただ淡々と事実を受け止めていた。

「何を落ち着いてやがる、ロスっ!!」

アーサーが、そんなロスの胸倉を掴んで。

「俺達は人間じゃなくなっちまった、バイドになっちまったんだぞ!もう誰も俺達を迎えてくれない、どこにも俺達の帰る場所なんてない!なのに、なのになんだってお前はそんなに落ち着いやがるんだっ!!」

「落ち着いているわけじゃないさ。アーサー。……ただ、ようやく納得がいっただけさ。我々が拒まれ続けた理由。我々が攻撃を受け続けてきた理由。全て、全てに納得がいった。すっきりしたような気分だよ」

ぎりぎりと締め上げられて、その体が僅かに浮いた。それでもロスは構わずに、静かに言葉を続けるばかりで。

 

「……地球を発とう。アーサー。これが分かった以上、我々はもうこの星には居られない」

「っ……何を、言ってやがる。俺は御免だっ!行くならお前一人で行け!俺は、俺は帰るんだ!でなけりゃ、何のためにここまで来たんだか分からないだろうがっ!お前は、お前は本当にそれでいいのかよ、ロスっ!!」

いつしか締め上げるその手は、縋るように掴むだけになっていて。悲痛なアーサーの声は、涙すら混じるようになっていた。

大の大人が、こうして涙を流して叫ぶ姿。少女達にとって、それは生まれて初めて見る光景だった。

「……頼むよ、アーサー。私も一人で旅をするのは御免だ。お前が居てくれると、私もすごく助かるんだ」

そんなアーサーに、ロスはそう頼んだ。アーサーは、ゆっくりとロスの服から手を離す。体が震えて、それでもやがてゆっくりと、アーサーも顔を上げた。

「いまさらだけどな、士官学校を出る時の、お前の頼みなんて聞かなければいいと思ったよ。でもな、そいつを飲んじまったんだよな、俺は。……ったく、わかったよ。付き合ってやる。地獄の底だろうと、宇宙の果てだろうとな」

少年のように服の裾で目元を拭って。アーサーは、どこか不貞腐れたようにそう言った。

かつてのロスの言葉を、“この先も、私についてきてくれないか?”という、全ての始まりの言葉を思い出し、噛み締めながらアーサーは頷いて。

「すまない、アーサー」

そしてロスも、いつかのようにそう答えるのだった。

 

「行くのか、ロス」

おもむろに、杏子がロスに声をかけた。

「ああ、この星には我々の居場所はない。だから、どこかに探しに行くことにするよ。我々が、安心して暮らすことの出来る星をね」

ロスは、そう言って小さく笑った。

「……こいつ一人じゃ不安だからな、俺もついていってやることにするさ」

アーサーも、とうとう覚悟を決めたようで。どちらかといえば開き直ったような調子で、そう答えた。

 

「ロスさん……行っちゃうんですね」

まどかもまた、静かにロスに言う。

「ああ、正直君とはもうちょっとゆっくり話がしたかったのだけどね。まあ、もしまた前のように話すことが出来るのなら、落ち着いた頃にでもまた連絡をくれると助かるよ」

そんなまどかに、ロスは柔らかく笑みを向けて。

 

「あたしは、あんたらのしたことを許すつもりも忘れるつもりもない。……だから、あんたらが戦い抜いたことも、ここに帰ってきたこともそして、宇宙のどこかにあんたらがいることも、絶対に忘れないよ」

泣きたいような、怒り出したいような不思議な感情。それを押し殺して、なんとかさやかが口を開いた。

「まあ、誰にも見送られないまま行くよりはマシか。……ありがとな、それとすまない。さやか」

アーサーは一度、深く頭を下げた。

 

「じゃあ、そろそろ行こうか」

琥珀色の世界が崩れていく。

この世界が何故生まれたのか、誰が望んだのか、そんなことは誰にもわからなかった。そして、知る必要すらもないことだった。

崩れ往く世界の中で、二人は最後に少女達の方を向き。

 

「……達者でな」

「いつか……星の海で」

 

――世界は、消失した。

 

気がつけば、さやかはレオⅡを駆って空を飛んでいた。隣には、併走するマッド・フォレストⅢ。

どれだけの時間が過ぎていたのだろうと思ったが、時計の上ではほんの一分に満たないような時間だったらしい。その事実が、さやかにとってはまた不可解だった。

アーサーにもさやかにも、もはや戦意は欠片もなく。アーサーは、そのままコンバイラベーラへと戻っていった。

 

キングス・マインドの中で、杏子とまどかは目を覚ました。眼前には、巨大なコンバイラベーラの姿があって。

それはまるで眠っているかのように佇んでいたが、急に光を放ち、飛び起きるかのように浮かび上がった。

そんな姿が妙におかしくて、二人は笑う。

そこへアーサーが戻ってきた。そしてまたしばらくすると、残りの戦闘機部隊もまた、コンバイラベーラの中へと収容されていった。

 

「……やった、のか」

突如として抵抗をやめ、まるで逃げるように撤退していく敵部隊。R戦闘機部隊に、それ以上の追討はしないよう命じ、九条提督はその姿を見つめていた。

戦闘機部隊を収容し、都市部を離脱。都市上空でゆっくりと機体を巡らせて、まるでその姿を目に焼き付けるようにするコンバイラベーラの、英雄の姿を。九条提督は目に焼き付けるようにして見つめていた。

 

その、悲しくも美しい姿に、自然と彼は敬礼をしていた。

 

無残に破壊された都市。これも全て、我々がここに来てしまったからなのだ。

それを考えると、胸が痛くなる。それでも、この地球の、人々の営みをしっかりと私は目に焼き付けた。これが最後となるであろう、美しい地球の光景を。

視線を空へ移す。そこにはもう夜の帳が迫っていた。夕日がゆっくりと沈んで行き、その背を追うように夜が来る。

――さあ、行こうか。

自分に言い聞かせるようにしてそう言うと、私は自らの機関に火を入れた。

 

沈む夕日を見ながら思う。よかった、と。

かつて私が考えたような、人類が星の海への扉を自ら閉ざしてしまうようなことが、それが杞憂に終ったことに、私はとにかく安堵を感じていた。

いつか人がその版図を星の海の向こうにまで広げていけば。もしかしたら、どこか安住の地を見つけることに成功した我々と、また出会うことが出来るかもしれない。そう思ったからだ。

その時にはきっと、我々は彼らの同胞としてではなく、星の海を越えた友人としてまた触れ合うことが出来るのかもしれない。そう思ったからだ。

 

遥かな未来への、一欠けらの期待。

それがあるだけでも、私達はどこまでも、この星の海を渡っていける。

エーテルの海を越えて、どこまでも、いつまでも……。

 

 

 

「全艦、一斉射撃!!」

浮上する敵艦を眺めて、ニヴルヘイム級二番艦、アルキオネスのブリッジで、第一方面軍を率いる提督は指示を出した。

20を超える軍艦が、その艦首砲の照準を一点に定め、そして撃ち放った。

暗がりに沈む空を、真昼より明るく染め上げる閃光。

 

それは、遥かな旅への第一歩を踏み出そうとした彼の体に突き刺さり。圧倒的な光が、その場にある全てのものを蒸発させ、焼き尽くしていった。

 

そこにはもう何も、本当に、何も。

残されては、いなかった。

 

 

「……なんだ。結局、こうなっちゃうんだ」

人類の為に戦い、バイドと化し。それでも尚、地球へと還ろうとした。ただ還ろうとしただけの英雄。

その末路を、誰からも受け入れられず、最後の希望を手にした瞬間の終末を見届けて。

 

さやかは、そう呟いた。

 

人類の為に戦ったものの結末。

その存在を受け入れようともせずに、ただ滅ぼすことしかできない人間達。

誰のための正義、何のための正義。不朽のはずの正義は、潰えて消えた。

 

「あはは……みんなの為に戦って、誰にも理解されずに死んで。……バカみたい。あたしって、ほんとバカ」

レオⅡが、内側から膨れ上がるように弾け飛んだ。

それを間近で見ていた杏子とまどかは、そこに現れた異形を見た。

 

それは、まるで甲冑を着込んだ騎士のようで。

異形の頭部と、無数の手を携えて。その手には剣、そして盾。バイドとも違う、それは、明らかに異質な存在だった。

 

 

 

Oktavia von Seckendorff

 

その性質は正義。

決して尽きぬ不朽の正義を求め、それを折られ、尽きる。

それでも尚彼女は正義を求め、それに至らぬ全てを断罪する。

力なき正義を、正義なき力を、戦うことしか知らぬ者を、戦うことを知らぬ者を。

怯懦を、怠慢を、不正を、不義を。

ありとあらゆるものを断罪し、彼女は、常に一人。

 

 

――それは、実に百余年ぶりに人類が直面した“魔女”という名の、魔法少女の本当の敵だった。

 

「さやかぁぁぁァッ!!!」

杏子は叫ぶ。それは、新たな戦いの開始を告げるだけだった。




【次回予告】

魔法少女とは、

「なんなんだよ、あれは一体!!」

彼らが生み出した悪夢

「もう、何もかもお終いだね」

やがて魔女に至る悪夢

「全て、彼女の責任さ」

……魔法少女とは……


「――私を、魔法少女にしてっ!」


次回、魔法少女隊R-TYPEs 第15話
             『魔法少女とは……』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。