魔法少女隊R-TYPEs   作:SanDMooN

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少女達は、その命を燃やして戦い続ける。
ある者は再び戦う力を望み、またある者は彼女の願った仲間と共に、その魂に火を灯す。

そして遂に、終結の時は訪れる。



第15話 ―魔法少女とは……―③

「戦ってる。……杏子ちゃんが、戦ってるよ」

真紅の結界。それは戦う力を持つ者だけを受け入れそれに能わざる者を、そして杏子が戦わせたくないと思ったものを排斥した。

故にその結界の外側で、その中で始まった壮絶な戦いを感じながらまどかは、手で目を覆って蹲った。

その杏子の戦いが、まさしく命を燃やしたものであると、それが彼女の最後の戦いになるだろうということが、まどかには痛いほどよく分ってしまうのだった。

「驚いたな。結界が張れるほどに魔女に引き寄せられながら、それでもまだ自我を保つか。……佐倉杏子。キミは本当に優秀な魔法少女だったね」

そんなまどかの様子に、杏子の現状を何となく察したのかキュゥべえが、感心したように呟いた。そのキュゥべえを睨みつけ、さやかが言う。

「――違う。杏子はまだ戦ってる。まだ生きてる。必死に生き抜いてるはずなんだ。だから……“だった”なんて。まるでもう終わっちゃったような言い方、しないでよ」

「いずれそうなるのは明らかじゃないか。やっぱり、そういう人間の感情は理解できないよ。それともさやか。キミはもしかして、何か不思議な奇跡が起こって杏子が帰ってくる――なんて、思ってるわけじゃないだろうね?」

 

「っ……」

返す言葉がない。さやかはぎゅっと拳を握り締め、俯いて何かを堪えるように震えていた。それでも、すぐにその顔を上げて。

「……思ってるよ。思って何が悪いのさっ!思ってるに決まってるでしょっ!!」

その表情には、激しい怒りを漲らせてさやかは叫んだ。けれど、その怒りのやり場を見つけることができなくて、それをただ振りかざしているだけだった。

 

「今だって思ってるよっ!何かもの凄く最高に都合のいい奇跡が起こって、杏子もほむらもマミさんも、みんな無事に帰ってきて!朝目が覚めたらバイドなんか全部いなくなってて、まどかと仁美と一緒に学校に行って、マミさんやほむらとも一緒にお昼ご飯を食べて、学校が終わったらみんなで一緒に遊びに行って。沢山遊んで家に帰ったら、家で家族が待っててくれる!今日も、明日も明後日も、ずっとずっと平和で楽しい日が続いてくれるようなそんな世界っ!それを全部叶えてくれるくらい、最ッ高にご都合主義な奇跡が、起こって欲しいって思ってるよ、ずっと!!」

 

ただただ、ひたすらに言葉を思いを、そして願いをぶつけて叫ぶ。長い言葉を告げて、荒げた息もそのままにさやかは更に続ける。

「わかってるんだよ。世界はそんなに優しくないってことくらい。でも、あたしはどうしたらいいのよ。みんなを助けられるって、こんな不条理な世界を変えられるってそう信じて戦ってたのに、みんなあたしを置いていくんだ。どうして、どうしてあたしだけが助かるの。どうして、あたしだけが戦えないの?ねえ、どうしてよっ!!」

ぽたぽたと、大粒の涙が落ちていく。頬を伝い、二筋の流れが顎の先で混じって落ちる。ぽたりと垂れた涙は、ブリッジの床に零れて広がっていく。

「戦えるなら、今すぐにでも杏子のところに行くのに……あいつを、一人ぼっちになんてさせないのに」

ただただ憎かった。無力な自分が、戦うことを許さない状況を。そんなことを願った杏子にまで、その憎しみが向いてしまいそうになって。

そんな自分の心を、さやかはまるで抑えることができなかった。

 

「もう一度言うよ、さやか。今のキミは無力だ。キミは、今の自分にも何かができると思っているのかもしれないね。事実、ついさっきまでキミは特別な存在だった。でも、今は違う。今のキミが行ったところで無駄死にするだけだ。分かるだろう、さやか」

キュゥべえの声は、どこか呆れたような様子であった。その言葉はまさしく事実で、それが分かっているからこそ、それは酷くさやかの心を傷つけた。そして、ぶつりと何かが切れてしまった。

「……そこまで言うなら、見せてやろうじゃない。本当にあたしにはもう何も出来ないのか、見せてあげようじゃないのっ!!」

涙をぐい、と袖で拭ってさやかはブリッジを飛び出した。まどかにも、キュゥべえにも振り向くことなく、真っ直ぐに。

 

「さやかちゃん……っ」

「放っておくといい。どうせ、彼女には何もできはしないんだ」

去っていくさやかの後姿を見つめ、キュゥべえが事も無げにそう言った。まどかは、そんなキュウべえを僅かに睨むようにして。

「放っておけないよ。さやかちゃんは、私の……仲間だもん」

そう一言だけ言い放って、まどかはさやかを追いかけ駆け出した。そんなまどかに、キュゥべえは黙して何も答えなかった。

 

さやかは走る、走る。息が切れる、足が、身体が重くなる。

「どうして、こんなに……疲れるってのよ」

壁に身を預けて、どうにか息を整えようとした。果たしてここまで身体が衰えていたのだろうか。以前ならば、どれだけ艦内を走り回っても疲れもしなかったというのに。

「……魔法少女じゃ、なくなったからってこと?」

肺が酸素を求めてズキズキと痛む。口の中が粘つく。何度も何度も荒く息を吐き出して、それでもよろよろと進もうとした。

認めたくなかった。魔法少女ではなくなってしまったことが自分から、ありとあらゆる戦う力を奪ってしまったのだということを。

けれど、それは事実。魔法少女であれば、コールドスリープによる身体への負担も即座に修復される。肉体も、ある程度には強化される。それがなくなり、それでもその時の感覚のまま、コールドスリープ直後の身体を走らせたのだから、これは当然の結果と言えた。

「負けるか……あたしは、あたしはっ!!」

それでもさやかは足を進める。歯を食いしばり、荒い呼吸を繰り返し、その目をギラギラと血走らせながら、一歩ずつ着実にさやかの足は格納庫へと向かっていた。

 

「さやか、ちゃん。……何してるの?」

それから幾許かの時が過ぎ、ようやく格納庫についたまどかが見たものは。

「何、って。出撃の準備だよ。こいつはまだ動くからさ」

パイロットスーツを身に付け、工作機の起動を行っているさやかの姿だった。キングス・マインドの修理に使われ、そのまま格納庫内に放置されて工作機を、動かそうとしていたのだった。

「無茶だよ、だってそれ。R戦闘機ですらないんだよ」

それはあくまで工作機。その仕事は補給や修理、施設の占領などで、戦力といえるものは大凡戦闘には役に立つとは思えない機銃が一つ。

「無茶かどうかなんて、やってみないとわからないでしょ」

まどかの方を振り向くことなく、さやかは工作機を起動させた。その機体が僅かに振動し、後は乗り込み動かすだけの待機状態となる。

 

「……駄目だよ、今のさやかちゃん、見ていられないよ。行っちゃ駄目だよ、死んじゃうよ、さやかちゃんっ!」

それは明らかに自殺行為だと、まどかは理解していた。一心不乱にそれに乗り込もうとするさやかは、まるで死に急いでいるかのようで。止めなければならないと、まどかは直感していた。

だからこそまどかはさやかの側に駆け寄って、その手を強く握り締めた。

 

「離してよ、まどか」

まどかの顔を見ようともせず、乱暴に言い放つさやか。

「離さないよ。絶対に」

そんな言葉に、心の奥が冷たく震えるのを感じながら。それでも絶対に離さないとばかりに、まどかはその手に力を篭めた。

「どうして、どうして行かせてくれないの。杏子が、一人で戦ってるのに」

振り向いて、まどかを見つめるさやかの手は震えていて。その手の震えは、確かにまどかにも伝わっていた。

「さやかちゃんの手、震えてるよ。……怖いんだよね、私も一緒だよ。でも今行ったって、さやかちゃんは死んじゃうだけだよ。私は、さやかちゃんに死んで欲しくないんだよ。何よりも、さやかちゃんが死んじゃうのが怖いよ」

その言葉に、さやかの手の震えは止まった。そんなさやかの様子に、ほんの僅かに表情を緩めて、まどかはさやかの顔を見た。

その表情は、まるで凍りついたかのように冷たくて、碧く澄んでいたはずの、希望と力に満ちたその瞳は、深い闇色に染まっていた。

それが何処までも恐ろしくて、ぞくりと背筋に怖気が走るのをまどかは感じた。握っていた手すらも、氷のように冷たく感じてしまった。手の力が緩んだ隙に、さやかはその手を振り切った。

 

「……あたしは、人を殺したんだ」

「っ!?」

そんな闇色で虚ろな目をまどかに向けて、さやかは静かに話し始めた。

「ロスと一緒に戦ってたあの人達は、皆ロスの仲間達だったんだ。中には人が乗ってたんだ……あたしは、それを沢山殺した」

「でも、それは……」

バイドになってしまったのだから、仕方がなかった。そうしなければ、自分が殺されていた。それは間違いなく、納得するには十分な理由。

けれど、さやかの芯の一番大切な部分に残った高潔さが、それを許さなかった。

「無理なんだ。耐えられないんだ。そんな事実を背負って、普通の人間として生きていくなんてさ。魔法少女なら、戦うことが出来ればそれを償うことだってできるかもしれないのに、もうそれもできない。この先一生、あたしはそれを背負って生きていかなくちゃいけないんだ。……耐えられないよ、そんなの」

 

――だから、戦って死にたいんだ。

――自分がまだ、戦場にいられるうちに。

 

さやかの言葉は、暗にそんな心情を示唆していた。確かにそれは、余りにも重過ぎる事実。敵はバイドである、それは苛烈な生存戦争である、誰もさやかを責めはしないだろう。

だからこそさやかは、それを抱えてこの先を生き続けなければならない。誰かに打ち明けることも出来ず、一人で、誰にも責められる事も、理解されることもなく。

かつて抱えた秘密の重さに押しつぶされそうになったまどかには、そんなさやかの気持ちが痛いほどによくわかった。それでも、止めなければならない。行かせるわけにはいかない。死なせるわけにはいかない。

まどかは半ば衝動的に、再びさやかの手を掴んでいた。

「駄目、駄目だよ、さやかちゃんっ!!」

今止めなければ、今行かせてしまえば、大切な仲間を、友達を失うことになる。それが分かりきっていたからまどかは止めた。

きっとそこには、さやかが行ってしまえば、またしてもまどかは一人取り残される。それが耐えられないというのも、偽らざるまどかの気持ちではあったのだろう。

 

「離してよ、まどかっ!!」

さやかは、その手を力いっぱい振り払う。その拍子に、振り払われた手は工作機の外部操作用コンソールを強く叩いてしまった。待機状態だった工作機は、強制的に叩き込まれた命令に飛び起き、そして従った。

全くの不本意に叩き込まれたその命令“右アーム急速旋回”を命じられるままに。

 

「さやかちゃん、危ないっ!?」

「え……っ」

背後で響く駆動音。それに気付いて振り向いたさやかの眼前には、工作機のアームが唸りを上げて迫ってくるのが映っていた。

 

 

衝撃が、さやかの身体を貫いた。

 

 

「ぅ……っ、痛っつ……」

背中を強く打ちつけた痛みに、さやかは一瞬息が詰まった。目の前が暗い。視界がぶれる。それでも自分の身体のことだけはすぐにわかる。思ったほどには、怪我は酷くはないようだった。というよりも、打ち付けた背中のほうがよほど痛い。

恐らく壁にでも吹き飛ばされたのだろう。けれどそこでふと違和感に気付く。

工作機のアームはかなりの速度で迫っていた。それと衝突して、なぜこれだけの怪我で済んでいるのだろうか。パイロットスーツはそれほどまでに優秀だっただろうか。

 

ゆっくりと壁から身体を起こそうとして、さやかはやけに身体が重いことに気付いた。それはまるで、重たい何かが身体の上に圧し掛かっているようで、それでも無理やりに身体を起こすと、その重さはどさりと横にずれて落ちた。

ようやく開けた視界は、やけに赤かった。手を付いた床は、何かでぬらぬらと濡れていた。

「ひっ!?」

さやかは、気付く。

さやかの上に圧し掛かっていたのは、まどかの身体だった。やけに重かった理由も、視界が赤い理由もすぐにわかった。

それは、まどかの頭から流れ出る赤いナニカ。ぴちゃぴちゃと床へと溢れて流れていく、ヘルメットも、パイロットスーツさえも赤く染め上げて。

 

「まどか、まどかっ!?どうして、なんで、なんでこんなことにっ!?」

震える手で、横たわるまどかを抱き起こした。その手も真っ赤に染まっていて、まどかの服を更に朱に染める。赤く染まったその顔で、まどかはうっすらと目を開けて。

「さや、か、ちゃん。……無事、だったんだ、ね。よ、かっ……た。頼まれ、て……たん、だ。きょ、こ…ちゃんに。さや…ちゃん、事。頼む、って」

搾り出すように、か細い声でそうとだけ言って。まどかの首が、がくりと垂れた。

さやかは理解した、あの時何が起こったのか。まどかは工作機のアームに打ち据えられようとしていたさやかを、その身を挺して庇ったのだ。そしてまどかはこれほどの重症を負ってしまったのだ。

「……あたしの、せいだ。あたしの、あたしの」

自責の念が、さやかの全てを埋め尽くす。

キュゥべえの言うことを聞いて、大人しく待っていれば。まどかに止められた時に、その言葉を聞き入れていれば。杏子を信じていれば、こんな衝動的な自殺願望に、身を委ねてしまわなければ。

そうすれば、まどかがこんなことにならずに済んだのに。

 

 

 

「あたしの、あたしの……あたし、の。ああぁぁぁぁぁぁぁ………っっ」

赤々と広がる血の池の中で、まどかの身体を抱きかかえて。さやかは叫ぶ。自責の念に、心の全てを押し潰されて。

 

報せを受け、九条提督率いる部隊の医療班が、即座にまどかを搬送した。壁の隅で、全身を血の赤に染め“あたしのせいだ”と壊れたように呟く少女、さやかもまた同様に搬送され、スキタリスへと収容された。

 

 

そんな悲劇も露知らず、真紅の結界内部の戦いは激化していた。

「敵左翼が崩れた。そのまま攻撃を続行しつつ中央に向け前進!。中央の敵がある程度薄くなったら、本艦を前面に押し出し一気に中央を突破する」

全身の武装から絶え間なく攻撃を続け、じりじりと前線を押し上げながらコンバイラベーラは、ロスは各隊にそう告げる。

「右翼部隊の抑えは完了よ。しっかりと頭を叩いておいたから、しばらくはあのまま留まらざるを得ないはずよ」

味方機の退避を確認し、フルチャージのギガ波動砲を敵右翼部隊に向けて叩き込む。激しい光の奔流。物質としての限界にまで分解されて、無数の死兵が消えていく。

そうしてできた巨大な穴を、埋めさせることなく立て続けに攻撃を仕掛けながら、ほむらがその声に応えた。

「こっちも了解だ。このまま左翼の連中を蹴散らしつつ、中央の敵を誘い出すぜっ!」

戦場を激しく飛び交う機体群。その中で一機、その軌道の先々で数珠上の爆発を巻き起こす機体、アーサーが駆るマッド・フォレストⅢが、まさに自由自在に戦場を駆け、迫る敵機を引き裂き続けていた。

激しい戦闘。けれどそれは、もはや一方的な蹂躙でしかなかった。

どれだけ数は多くとも、敵は一山幾らの使い魔部隊。対するこちらに揃うのは、皆が皆歴戦の勇士たち。この戦場においては、完全に質が物量を凌駕していた。

さらに、その大局を決定付けていたことは。

 

「この場所じゃあ、これ以上復活は出来ないらしいねっ。なら構う事なんてないさ。このまま、一気にぶっ潰してやるよっ!!」

赤い光の尾はもはや、たなびく炎そのもので。燃え盛る火炎もそのままに、杏子の機体が宙を駆ける。それを阻めるものなど何もなく、近づく端からその炎に焼かれ、打ち落とされていく。

ここは真紅の結界の中。もはや杏子の世界であるからか、落とされた機体は再び蘇ることなく、そのまま朽ち果てていく。

状況の全てが、杏子達の勝利を確たるものとさせていた。事実彼女達の力の前に、敵は抵抗らしい抵抗を見せることもできず、ただただ蹂躙されるのみであった。

そして、ついに中央を守る分厚い壁が破られようとしていた。

 

「敵部隊が左右の守りを固め始めた。今がチャンスだ。敵中央を突破するぞっ!」

とにかく敵は数を頼りに守りにかかっていた。真正面からぶつかれば、負けはしないにせよその守りを貫くのは至難の業だろう。だからこそ、またしてもロスは一計を案じた。

正面には少数の部隊のみを配し防戦に徹するよう仕向け、その分両翼への攻めを重視、敵が両翼の守りに戦力を割くのを待ったのだ。相手が単純な思考しか持ち得ない使い魔であれば、それを気取られるわけもなく。

まんまと敵は策に嵌り、中央を守る死兵の数は極端に減じた。

「マミ!頼むっ!」

機体を転進。炎を纏って中央に迫る杏子が、マミに通信を送る。

「待ってたわよ。こっちのチャージはとっくに完了。……さあ、派手に叩き込んであげるわ」

マミのババ・ヤガーが敵陣の中央、敵が薄れたことで姿が望む中央を守る艦隊の姿を捕捉していた。超絶圧縮波動砲のチャージは、既に完了している。

 

「……どうしようかしら。ティロ・フィナーレは、あれで最後って言っちゃったのよね」

発射シークエンスを迅速に済ませながら、冗談混じりにそう言ってマミは笑った。

「ならいいのがあるぞ。使ってみるか?」

その呟きに、アーサーが答えた。なにやら二言三言言葉を交わして、それから。

「なるほど、それじゃあ今回はそれでやってみましょうか」

「ああ、ばっちりやれよ」

 

 

――デモリッション・モードへ移行――

 

 

――エネルギーライン、全段直結――

 

 

――波動エネルギー、圧縮率最大にて保持中――

 

 

――誤差修正、ピッチダウン0.2度――

 

 

――ライフリング回転開始――

 

 

 

 

「デッドエンド……シュートっ!!」

 

 

 

超絶圧縮波動砲が放たれた。死兵の壁をそのまま飲み込み、消滅させて更に奥の艦を貫いた。

「更に、このまま……斬……り、裂くっ!!」

ババ・ヤガーが機首を大きく振る。尚も放たれ続ける超絶圧縮波動砲。その軌道が大きく撓み、歪む。けれどそれは途切れずに、ひたすらに圧倒的な破壊の力を打ち放ち続けた。

それはまさしく巨大な波動の刃となって、横薙ぎに一閃し貫く。そして駆け抜けた波動の刃が、敵陣の奥深くに並び立つ艦隊を、纏めて両断した。

まさしく超巨大な刃で一刀両断されたように、死兵の群れも二つに割れる。圧倒的な力によって、無理やり隙間はこじ開けられた。

「機は熟した。ここで決めるぞ。キョーコっ!」

ロスが叫ぶ。同時にコンバイラベーラが動き出し、その隙間に無理やり艦体を突入させる。全武装一斉開放、レーザー、ミサイル、艦首砲。渦巻く破壊の嵐が、閉じようとする隙間を維持させる。

 

「任せろっ!ほむら、アーサー。一緒に来いっ!」

「了解よ」

「了解だ」

一つの炎と二つの機体。三つの力が、その隙間を抜けて飛ぶ。

押し留めようと追いすがる敵を押しのけ、打ち砕き。閉じようとする壁は、コンバイラベーラの艦砲射撃が蹴散らした。

 

「艦隊の残りか、あいつを抜ければ……魔女はすぐ、そこだっ!!」

死兵の壁を貫いて、空白の空域を飛ぶ三機。その行く手にはまだ、生き残りの艦隊が立ちふさがっている。先ほど杏子の行く手を阻んだ、巨大な壁。

だが、それすらも。

 

「ここは、俺達に……」

「任せて、先に行きなさい、杏子っ!」

波動の光が艦を灼く。波動の蔦が艦を貫く。

ラグナロックⅡとマッド・フォレストⅢが、立ちふさがる艦隊へと立ち向かっていく。

「頼むぜ、二人とも」

そうしてできた隙を縫い、杏子は一人魔女を目指す。

その、最中。

 

「っ……ったく、あたしも、大分向こう側に引っ張られてるってのかな」

炎を纏う機体、その内側から装甲を食い破り、何かが生えてきた。それは、炎で出来た翼。あたかも不死鳥のそれのように雄雄しく、その翼は広げられた。

それはまさしく、杏子が魔女そのものに近づいている証に他ならなかった。

「まあ、そうなる前にケリをつければいいだけのことだよな。……行くぜ」

機体が炎を巻き上げる。その翼もまた大きく開かれて、激しく空を打った。その羽ばたきに、更に機体は速度を上げる。

幾重にも及ぶ死兵の壁。身の内に宿した英雄の、仲間達の力を借りて、ついに杏子はその全てを突破した。そして今、再び。魔女と対面する。

 

そこはまさしく深淵の海。

波動砲を浴び、全身に負った傷から噴出し続ける青い体液。それは止め処なく流れ続け、まるで海のように眼下を染めていた。赤い空間に淀み、溜まり続ける青。そしてその中心で、一人、その身を休めている魔女の姿。見間違えるはずもない。

杏子の接近を悟り、魔女が剣を振り上げた。だが、もう遅い。

「ぶッ……潰れろォォォっ!!」

一切速度を落とすことなく魔女へと迫る杏子の機体。その機体が、内側から膨れ上がるようにして爆ぜていく。その装甲の下には、膨れ上がって赤熱する熱の塊が眠っていた。

開放されたそれは、更にその熱量を増し、荒れ狂い、全てを消し去る灼熱をばら撒いた。

そして、そのまま。

 

――二人の魔女が、激しく衝突した。

 

世界を消滅させんほどに、激しく、強い光が沸き上がった。

 

 

杏子は見た。激しい光の中、魔女がその存在を失っていく様を。そして知る。自らも、やがてそうなると言う事を。

このまま生きていればすぐに本物の魔女へと変わってしまう。それを避けるためにはそうするしかなかったのだ、と。

 

(今度こそ、本当に終いだな。……あたし、頑張ったよな)

 

熱さも、苦しさもない。不思議な安らぎと、達成感を感じながら。

 

(皆を、守れたんだよな。だから、今度こそ会いにいけるよな)

 

ソウルジェムは、もう完全に砕けてしまっていた。後に残っていたのは、それと良く似た意匠の施された、黒い宝石を携えた飾りが一つ。

それが一体何なのか、そんな事は考えもしなかった。

 

(ほむら、マミ、ゆま、アーサー。……ロス)

 

自分と言う存在が消えていく。四肢の端から、ゆっくりと。

恐怖はない。少しずつ消失していく自分を、やけに冷静に杏子は眺めていた。

 

 

 

――ああ、そうだね。

 

(っ!?あ……ぁ、あんたは…っ)

 

――よく、頑張ったね。キョーコ。

 

(……っ。認めて、くれるのか?一緒に、行ってもいいのか?)

 

――行こう。これからは、もうずっと一緒だ。

 

 

 

杏子の意識が、存在が消失する。その、直前に。

 

 

――お帰り、キョーコ。

 

――ただいま、ロス。

 

 

 

 

光が、溢れた。

黒の死兵を、杏子の騎士達を、光は全てを消し去っていく。そして結界もまた、弾けて消えた。

 

「正体不明の異層次元、崩壊を始めました。内部より閃光が……っきゃぁぁっ!?」

「中尉っ!?ぐ……っ!?」

崩壊した真紅の結界より漏れ出たその光は、スキタリスのブリッジを埋め尽くしていった。

 

「なんだ……一体、何がっ!?」

閃光に眩んだ目をどうにか開く。まだじんじんと痛む目を眇めて、九条提督は辺りの様子を確かめた。そこは不思議な空間だった。

魔女の結界内を埋め尽くしていた、容赦なく目に付き刺さる夕暮れ色。それとは違う、どこか優しく哀愁を誘うような、夜へと変わり行く沈む夕日の色だった。

「ここは、一体…・・・」

見れば、そこにはついさっきまで一緒だったガザロフ中尉の姿も見当たらない。バイドによる精神攻撃の類か、と。そう考え始めた瞬間に。

「やあ、まずははじめましてと言っておこうか」

そこには、軍服を纏った男の姿があった。九条提督にとっては、見覚えのある男の顔だった。

 

「貴方は……まさか、ジェイド・ロス?……だとすれば、やはりこれはバイドの精神干渉か?」

そこに立っていたのはジェイド・ロスの姿。九条提督にとっては、先ほどまで激しく戦っていた敵である。すぐさま警戒し、懐の銃へと手を伸ばした。

「そう警戒しなくてもいいさ。私は君には何もできやしない。ただ、少しだけ話がしたかったんだ。……名前を、聞いてもいいかな?」

その口ぶりからは、確かに敵意があるようには見られない。まどか達から、和解したのだということも聞いていた。信じられるかもしれないと、九条提督は考えた。

「第三方面軍を預かっていた九条だ。木星で、そして月で、二度も貴方に敗れた男だよ」

状況がさっぱり飲み込めない。恐らく、何が起こっているのかなんて理解も出来ないだろう。あまりにもこの戦いは、理解の範疇を超えることが起こりすぎている。

今更何が起こったところで驚くものかと、九条提督は既に腹を据えていた。だからこそそうして、どちらかといえば自嘲気味に言葉を放つのだった。

 

「……なるほど、そうか。やはり君があの時の」

そんな言葉に、ロスはなにやらしきりに頷いて。やがて顔を上げると、その表情をまさしく軍人のそれへと切り替えて。

「九条提督。君に頼みたいことがある」

「いきなり改まって、一体何を?」

 

「……地球を、いや太陽系を、バイドの手から守ってくれ」

何を言い出すのかと、九条提督は顔を歪めた。この目の前にいる英雄も、もはや今はバイドではないか。だというのにそのバイドから、太陽系を守れと言われるとは、どういうことだろう。

「人類が必死に作り上げた防衛ラインを、全て粉々に破壊してくれた貴方が今更そんな事を言うとは、憤慨も通り過ぎて最早滑稽だ」

不快感を隠そうともせず、半ば怒りの混じった声で九条提督は答えた。

そもそもこの英雄が地球に帰ろうとさえしなければ、まだ人類は安泰だったはずなのだ。バイドとの最終決戦も近かったと言うのにである。

「……それについては否定しない。私も、まさか自分がバイドだとは気付きもしなかった。だが、それでも託さなければならない。この戦いを生き残った者に、真実を知り得た者に」

「それに、貴方に言われなくとも必死で守るさ。これ以上負ければ、人類に後はない」

「だからこそだ。恐らく、この戦いを生き残った君は、これから大変な任に就くことだろう。だからこそ今言っておく。人類の希望を背負って、絶望的な敵に立ち向かった先達としてね」

 

一つ、ロスは大きく息を吸い込んだ。

 

「負けるな。何があっても、君はもう負けてはならない。勝ち続けるんだ。君の命は最早君一人の者じゃない。この太陽系の、全人類の存亡を背負った物だと自覚しろ。私達は駄目だった。だから、君は必ずやり遂げてくれ」

勝手な事を。無責任な事を。そう内心で毒づく気持ちもあった。

けれど、彼はジェイド・ロスなのだ。彼もまた、絶望的な任を負い、遥か宇宙の彼方で戦い続けたのだ。それがどれだけの苦悩だっただろうかを考えると、どこか胸が熱くなるのを感じた。

「もし今すぐ戻って、地球の皆と共に戦えるのなら私はそうもしよう。だが、駄目なんだ。私達はもう行かなければならない。だから、誰かに託していくしかないんだ。頼む……誓ってくれ。勝ち続けると、人類の未来を……守ると」

そして、ロスはその手を差し伸べた。それはあまりにも重く苦しい苦悩が刻み込まれた、ひどく疲れた手であった。

死して尚、人類を守りたかったのだろう。そのために、何かを残したかったのだろう。その苦悩を、精神を、自分は受け継ぐに足りうるのだろうか。九条提督は逡巡する。

そこまで自分に自信が持てるわけでもない、けれど。

 

「……私も、守りたいから戦っていたのだったな、そういえば」

思い出したのは戦う理由。危機に瀕するこの世界を、自分を信じてくれる仲間を、家族を守りたかったのだ。もっと多くのものを守れると、そう信じてこの道を歩んできたのだ。

忘れかけていたその想いを、自分の芯たる戦う理由を、九条は強く想起した。だからもう、迷う事はない。

「誓おう。貴方に代わって。……いや、貴方以上に、全ての人類を守ってみせる」

九条提督は、その手を取った。

交わした手から、何かが伝わってくるような感覚。それは冷たく重い何かで、心の芯の外側に、枷のようにしっかりとはめ込まれた。

 

それはきっと、英雄たる資格。

 

「迷うな。躊躇うな。間違えるな。君のそれは、君が守りたい物全てを傷つけると思え。―――人類を、頼む」

そして、再び視界が歪む。意識が途切れ、そしてまたどこかへ繋げられていくような。

それは、不思議な感覚だった。

 

 

「――提督っ!九条提督っ」

「ん……ああ、すまない。ガザロフ中尉」

呼びかけられる声に、九条提督は意識を取り戻した。どれだけ時間が過ぎていたのだろうかと思ったが、どうやらそれは一分の半分にも満たない時間だったようだ。

九条提督は、まだ僅かに眩む視界をどうにか前方へと向かわせる。そこには、砕けて消えていく結界という名の異層次元の姿。それを見て、改めて九条提督は実感した。

今度こそ、確実に。――戦いは、終わったのだと。そしてそれが、次なるバイドとの激戦の前触れに過ぎないことも理解して、それでも。

「提督、周囲に敵の反応はありません。指示を」

「負傷者を後方の艦に預け、本艦は前進。内部の状況を確認する。反応がないとは言え、何が出てくるかわからん。敵の接近には十分警戒しろ」

そう指示を出し、もう一度深く椅子に腰掛け背を預け。それから、隣に並ぶガザロフ中尉に視線を向けて。

「ガザロフ中尉。……これから、恐らく激しい戦いが始まるだろう。決して負ける事を許されない、激しく長い戦いだ。……それでも、私についてきてくれるか?」

突然の言葉に、呆気に取られたような表情を向けるガザロフ中尉。けれど、すぐにその顔には明るい笑顔が浮かんだ。

「もちろんです、提督っ!私はどこまでもお供します!」

「……そうか、じゃあ頼む」

その答えに、九条提督は満足げに小さく頷いた。

 

 

 

 

かくして、かつての英雄、ジェイド・ロスの帰還に端を発する一連の事件は終わりを告げた。

地球軍に、そして多くの人々に、魔法少女達に、その事件はあまりにも大きな傷跡を残していった。

 

だがそれすらもまだ、ラストダンスの序曲に過ぎない。

いくつもの悲劇と悪夢を超えて、人類とバイドの戦いは、ついに最終局面を迎えようとしていた。

 

 

魔法少女隊R-TYPEs 第15話

       『魔法少女とは……』

          ―終―




【次回予告】

人類は、あまりに多くのものを失ってしまった。
喪失は、人類を更なる狂気へと駆り立てる。
全てそれは、人類が生き延びるため。
全てそれは、バイドを撃滅するため。
だが、それほどの狂気を帯びながら、尚。
人類は今だ取り戻せざるものがあった。


――その者の名は“英雄”。


――光を失った少女と、心を持たない少女が出会う時
――最後の希望が、目を覚ます。


次回、魔法少女隊R-TYPEs 第16話
             『わたしの、初めての友達』
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