その大鎌を振り上げ、希望を、未来を断ち切るために振り下ろす。
立ち向かうは人の意思、意地、そして覚悟。
遍く狂気と叡智を乗せて、白亜の戦船が往く。
「まさか、艦内部にあんなデカブツが眠っていたとはな」
ビリビリと、おぞましい産声が跳躍空間を揺らし、その振動が艦にすらも伝わる。震えているかのように微かに揺れる艦内で、それでも動じず九条は呟いた。
「だが、出てきた場所が悪かったな。艦砲射撃で蜂の巣にしてくれるっ!艦首砲の使用を許可する。敵に反撃の余裕を与えるなっ!!」
おぞましい産声が止み、オージザブトムは眼前に存在する敵の姿を知覚した。それとほぼ同時に、数十門の陽電子砲が火を噴いた。
それはあまりに眩く、あまりに力強く、オージザブトムの巨体を飲み込んだ。あらゆる物体を消滅させる、圧倒的な破壊の波。それは間違いなく、オージザブトムの鋼の巨体を押し潰した。
「十隻以上の艦による、陽電子砲の一斉射撃だ。敵が何であれ、耐えられるはが……」
だが、ああ。なんということだろうか。
「バイド反応は健在です!これは……何か、反応が」
オペレーターがバイドの生存を報せる。だが、その言葉が最後まで告げられるよりも前に、艦隊の一角に無数の光の刃が突き刺さった。その光の刃は艦の装甲をものともせずに打ち砕き、多くの艦に深刻な損傷を与えていた。
艦隊に驚愕が走る。その一撃の主は、それは。
陽電子砲の雨を物ともせずに受け止め、まるで無傷でそこにいる、オージザブトムの姿だった。
「な……っ。あれほどの陽電子砲を受けて、無傷……だと」
さしもの九条も、バイドの恐るべき堅牢さには驚愕を隠すことができなかった。
「今の攻撃は……恐らく超振動波です。ザブトムは、その体内で超振動波を発生させそれを放出することで攻撃を行うことができるようです」
第二次バイドミッションのデータを参照し、アスガルド級のオペレーターが九条に告げた。
「なるほどな。それで、ウォー・ヘッドはあの化け物をどのように撃破していたんだ?」
そう、ザブトム自体は人類にとっては既知の敵。第二次バイドミッションの際に、既に交戦データは得られており、更にその後の残骸を回収、解析することによってその行動や弱点についてのデータも既に得られていた。
「はい、敵の超振動波は敵中枢部より発生していることが確認されています。さらに、その発射の直前にのみ開かれる発射口を攻撃することで、敵中枢部を撃破することができる……とのことです」
「ふむ。ではR戦闘機部隊をいくつか戻らせろ。敵をこちらに近づけさせるな!艦隊は艦首砲のチャージを続行しつつ待機だ。発射口が開いた瞬間に、一斉射撃を行う!」
「了解、各員に通達します」
「見えたぜ。あれがザブトムか。……資料で見たものよりも随分デケェな」
前線を離脱し、艦隊に迫るザブトムの元に辿りついたR戦闘機。先の模擬戦でラストダンサーと激しく競り合った機体である、ウェーブマスターとアーヴァンクがいち早く後方へと戻り、オージザブトムの前に立ちはだかった。
「かつて英雄が戦ったという相手。相手にとって不足は……ないっ!」
二機はそのまま絡み合うように軌道を描き、オージザブトムへと肉迫する。オージザブトムもまた、迫り来る敵の姿を察して、迎撃体制へと移る。
背部のハッチが開き、そこから無数の球体が吐き出された。吐き出されたその球体は、R戦闘機に匹敵するほどのサイズを持ち、ふわふわと漂うように二機へと迫る。
超高速の戦闘の最中では、追尾性能をもつ兵器を掻い潜るのはさほど難しくはない。むしろこの球体のように、ふわふわと低速で漂う弾幕の方が、回避は困難であった。
それでも彼らはエースである。不規則に浮動する敵弾を掻い潜り、距離を詰めていく。できる限りこちらに敵の意識を向けさせて、艦隊への攻撃を阻止するために。まさしくそれは、死と隣り合わせの、命がけの舞だった。
「くっ……回避しきれねぇか。……だが、なめるんじゃぁ、ねェッ!!」
不規則な敵弾の動きに知らずの内に追い詰められて、周囲を敵弾に囲まれたアーヴァンク。あわや被弾するかと思われたその直前に、アーヴァンクの放ったスケイル波動砲が敵弾を打ち砕いた。
着弾後、分離する性質を持つスケイル波動砲は、敵弾を打ち砕くと共に四散。周囲に浮遊している敵弾を、まとめて打ち砕いた。
「さァて……そろそろかますぜ。デカブツさんよォ……」
どうやら、スケイル波動砲は都合よく、オージザブトムの元へいたる道さえも切り開いていた。これが好機とばかりに、一気に出力を上げ、敵へと向かうアーヴァンク。機体の調子は万全。アーヴァンクはその全身に力を漲らせ、オージザブトムへと迫る。
だが……。
「何だ、こりゃア……出力が、どんどん上がっていきやがる……ッ!?」
そう、漲る力は天井知らずに膨れ上がっていく。本来機体に想定されていた限界さえも超え、更に。
「どうなってやがるってんだよ……こいつはヨォ!?」
更に、機体はコントロールを失ってしまう。驚愕を抱えながらも、必死にコントロールを取り戻すための操作を続ける最中、唐突に鳴り響く警報。
「今度はなんだァ!?んなっ……バイド汚染が、ゾーンBだと」
アーヴァンクがバイド機である以上、少なからずバイド係数が検出されるのは当然だった。しかし今、アーヴァンクが示しているバイド汚染は、安全圏であるゾーンS(SAFETY)を、そして戦闘を中止し、除染が必要なレベルであるゾーンC(CAUTION)さえも超えていた。
現在のアーヴァンクのバイド汚染は、即座に機体を破棄する必要がある、ゾーンB(BYDIC)にまで到達していた。
その直後、アーヴァンクは全ての機能を停止した。
モニターは一切の映像を映すこともなく、外部の様子を知る術は何一つとしてなくなってしまった。あれほどやかましく鳴っていた警報さえも、ぷつりと途切れてしまっていた。
「クソッ!何が一体どうなってやがるんだ!誰か、誰か応答しろオッ!!」
必死に呼びかけるものの、通信すらも死んでいるのだろうか。一切応答は得られなかった。
「ハッ……ハァッ……何だよ。何だっテンダヨォォォォッ!!」
何も見えない。何も聞こえない。誰もいない。絶対の静寂と孤独。そしてここは戦場。その最前線なのだ。何一つ分からないまま、次の瞬間には自分が死んでいるのかも知れないという恐怖。
それは、確実に彼の精神を蝕み、破壊していった。
傍から見ると、それは不可解な光景だった。
オージザブトムに肉迫したアーヴァンクは、一切の攻撃を放つ事もなくその横を通り過ぎ。失速しながら、そのまま漂うように流れていったのである。
そしてアーヴァンクは、オージザブトムに攻撃を仕掛けるために後方へと戻ったR戦闘機部隊の元へと流れ着いたのだった。
「アーヴァンク。一体どうしたんだ。応答しろ、アーヴァンクっ!」
呼びかけても返事は何も帰ってこない。何かが起こったということは確実だろう。だが、その原因に誰一人として思い至るものはいなかったのだ。
「ステイヤーはアーヴァンクを牽引し、一旦帰投しろ。我々はザブトムへの攻撃を続行する」
それでもアーヴァンクを捨て置くこともできずに、部隊の隊長はそう命令を残し、R戦闘機部隊は再び、オージザブトムの元へと向かうのだった。
だが、その時。沈黙を守り続けてきたアーヴァンクが目を覚ました。
「っ!?アーヴァンク?無事なのか、応答しろ、アーヴァンクっ!」
再起動したアーヴァンクに、随行していたステイヤーが通信を送った。
だが、それを駆る彼は。
「敵だ、敵ハドコから来ルっ!敵は、敵はブッ殺サナクッチャナァァァッ!!」
バイドの精神汚染か、それとも死の恐怖に晒され続けていたが故か。彼の精神は既に崩壊してしまっていた。それ故に。
彼の目に映るものは全て……敵だった。
スケイル・フォースより放たれた、鱗状のレーザー、スケイルブラスターがすぐ側に居たステイヤーを貫き、炎の中へと消し去った。更に彼は視線を向ける。オージザブトムの元へと向かう、R戦闘機の部隊へと。
「アソコニモ、敵ガアンナニタクサァァン!皆殺シダァァァッ!!」
最早その狂気は収まることを知らず、全てを飲み込もうと膨れ上がる。膨れ上がった狂気につられ、その機体までもが膨れ上がっていく。鱗が内側から弾け飛び、赤黒い肉が沸きだした。
更にその上を這うように、波打つ鱗が広がっていく。ついにはスケイル・フォースによく似た巨大な球状となり、アーヴァンクであったモノは、今やただのバイドと成り果ててしまったモノは、R戦闘機部隊へと攻撃を開始するのだった。
「……これだから、バイド機は信用できないんだ」
変貌、そして奇襲。そして甚大な被害を出した上の撃破。その報告を受けて、九条は忌々しげに呟いた。
「いえいえ、あの機体は完璧ですとも。不備なんてあるはずがないでしょう」
そんな九条に、横合いからの女性の声。その通信の主は、解析班の一員で、バイド機の開発と保守にも携わる研究者。言わずもがな、TEAM R-TYPEの人間であった。
「信用できるか!現に、ああして暴走しているじゃないか」
「あれは機体に原因があるのではありませんよ。恐らく敵の攻撃によるものです」
尚も疑わしいといった態度を崩さない九条。それを気に留めることもなく、女は言葉を続けるのだった。
「あのザブトムが放った巨大な弾は、恐らくバイド粒子の塊なんでしょうね。アーヴァンクがあれを破壊したことでその粒子が飛散し、機体を汚染したのでしょう」
「だが、R戦闘機には耐バイドコーティングが施されている。飛散した粒子程度でそこまで汚染されるものなのか?」
「……それだけ高濃度のバイド粒子なのでしょう。もしかしたら、バイドを利用した生体機なので、干渉されやすかったのかも知れませんが」
「やっぱり機体が原因じゃないか」
どうにも、疑わしさが拭いきれない九条であった。
「と、とにかく、あの敵弾はなるべく破壊しないようにさせたほうがいいでしょう。通常の機体でも、もしかすると影響が出ないとも限りませんし」
「……わかった。それで、解析のほうはどうなっている?」
敵の事は気がかりだったが、それ以上に今艦隊の足を止めているこの空間汚染もまた気がかりで、深刻なことだった。
「ええ、そうですね。その件で連絡しようと思っていたのです。やはりこの時空の歪みの原因は、バイドによる空間汚染で間違いはないようです」
「そうか。それで対処法は見つかったのか?」
「この手のものは、汚染の原因となるバイドを倒せば収まるはずです。それと、速度に比例して歪みが大きくなるというのも間違いはないようです」
それはそれでありがたい情報ではあるのだが、結局状況を確認できただけなのか、と。九条は、わずかに落胆したような様子を見せた。
だが、どうやら解析にて判明したことは、それだけではないようだった。
「通常の航行速度では、進路に影響が出るほどに歪みは大きくなるでしょうが、艦が戦闘行動を取る程度の速度ならば、歪みはほとんど影響は出ないでしょう」
「それを先に言えっ!よし、それならばこちらからも打って出ることができるぞ」
思いがけない収穫に、九条の表情が明るくなった。どうやらこれで、いつまでも後方で縮こまっているような羽目にはならずに済みそうだ、と。
「では早速打って出よう。まずは負傷した艦を後方に下げるぞ、それから……」
矢継ぎ早に指示を飛ばす九条に、女は最後に一言を告げた。
「九条提督。あの暴走したアーヴァンクですが、どうにか残骸を回収できませんか?いい研究サンプルになりそうなんですが……」
「無茶を言うなっ!」
鋭く一言だけ返し、九条は通信を切った。
「何を言い出すかと思えば、こんなときにまであんな事を。……これだから科学者共は」
忌々しげに呟いて、そして。
「まあ、この戦いが終わればもうバイドの研究も必要なくなるんだ。早いとこ、そうしてしまわなくては」
小さく嘆息し、そして再び、九条は意識を戦場へと向けた。
「超振動波発生の予兆を確認!発射口が露出した瞬間、艦首砲による一斉射撃を行います!」
アスガルド級より、随行する艦隊へと指示が伝えられた。先ほどの超振動波は、陽電子砲の余波にまぎれて発射の瞬間を捉えられなかった。だからこそ今度は確実に、超振動波の発射に先んじて陽電子砲を叩き込む。
そうでなければ、間違いなく更に被害は広がることは容易に予想できた。これ以上の被害を出さないためにも、一瞬の隙間に勝負をかけるしかなかったのだ。
そして何より、R戦闘機の攻撃を受け続けて尚、オージザブトムに目立った損傷は見られない。無数のレーザーやミサイル、波動砲が叩き込まれたというのに、その動きは一切止まらなかったのだ。
やはりこれは、弱点を狙い打たなければ撃破することはできない。そう誰しもに直感させるほどに、オージザブトムはその堅牢さを誇っていた。
「第二次バイドミッションの時のザブトムは、確か腹部に超振動波の発生器官があったのだったな」
確認するように、九条が呟いた。今回も同じであるとは限らないが、その可能性も低くはない。アスガルド級は未だ自陣の奥にあり、直接オージザブトムを狙うことはできないが、それでも敵の動きを見逃さぬよう、じっと目を凝らして待っていた。
「超振動波検出!……来ますっ!」
「艦首砲の発射準備はいいか?あいつが超振動波を撃つ前に、ケリをつけるぞ!」
後はただ、その時を待つだけだった。敵の攻撃に先んじて、最大の一撃を叩き込む。
その瞬間を、ただ待つだけだったのだ。
次の瞬間。オージザブトムの巨体から光が放たれた。けれどそれは腹部からではなく、その後頭部より伸びたいくつかの節に分かれた器官、そこから突き出た突起の先端から、超振動波は放たれようとしていたのだ。
「撃てぇーっ!!」
多少の差異は想定の範囲内。放たれる場所が違おうと、それを放つ際には弱点が露出するだろう。そう踏んで、九条は艦首砲の一斉発射を支持した。
再び、無数の光が空間を焼き尽くす。たとえ狙いが定まっていなかろうと、これだけの威力と照射面積を誇る攻撃である。逃れる術など、何もないと思われた。
だが、彼らは見誤っていたのだ。バイドの持つ進化能力を、より効率よく敵を倒すという、より永く生存するという本能を。
あれだけの砲火にも関わらず、超振動波は放たれた。そしてその超振動波は、やはり無数の光の刃のように拡散し、艦首砲を放った艦隊へと次々に突き刺さっていった。
「な……にぃィっ!?」
撃沈1、大破2、中破4。被害は更に甚大だった。そして何よりもあれだけの陽電子砲の雨を、超振動波の発射にあわせて放たれた一撃を完全に無傷で凌ぎきった、オージザブトムの信じられないほどの堅牢さ。
それは今度こそ完璧に、第二次バイド討伐艦隊を驚愕と恐慌に陥れていた。
「む、無理だっ!あんなの、倒せっこねぇ!」
恐怖に駆られて。誰かが叫ぶ。
「戦艦を一撃で落とす攻撃力、陽電子砲を物ともしない防御力。流石にこれは、ちょっと不味いな」
九条もまた、その表情はどうにも渋い。今のところ、オージザブトムに有効なダメージを与える術は何もないのだ。敵が無敵だとは考えない。だが、有効打が何一つとしてないのもまた事実。
「とにかく攻撃を続けろ!どこか……どこかに必ず弱点はあるはずだ!」
今までどおりの戦い方が通用しない以上やはり、まずは敵の弱点を探るしかない。そしてその間、これ以上艦を敵の超振動波の脅威に晒し続ける訳には行かなかった。
さらに、状況は尚も悪化する。
「前方のR戦闘機部隊より入電!敵は対R戦闘機に特化した部隊でありR戦闘機部隊の被害は甚大。早急に艦砲射撃による援護を求む、とのことです!」
「なるほどな、これは一杯食わされたようだ」
報告を受け、九条の表情も青ざめる。あまりにも、あまりにも状況は悪かった。
空間の歪みによって、小回りの利かない艦の足を止める。その上で艦とR戦闘機を分断し、鈍重だが堅牢、そして対艦クラスの攻撃力を持つ機動兵器を後方の艦にあてる。
そして対R戦闘機用の装備を持つ艦や機動兵器を、前線に送られるR戦闘機へとぶつけさせる。
これは敵の意図するところなのかどうかはわからない。それでも、今第二次バイド討伐艦隊は、まさしく絶体絶命とも言うべき状況であった。
状況を切り開く術があるとすれば、何とか眼前のオージザブトムを撃破するか、もしくは英雄あたりが時空の歪みの原因を断ち切ってくれるか、であろう。
「そして、人任せにできるほど暢気な状況では、ない」
どうにか、活路を切り開かなければ、待っているのは全滅だ。それはそのまま、人類の黄昏をも意味する。
「第三から第六部隊までで、動ける艦はなんとかザブトムを回避して前方に向かってくれ。代わりに、前線からはR戦闘機を三部隊ほど戻らせろ。ザブトムの足止めに回させるんだ」
そう、たとえどんな状況であれ、あきらめるわけにはいかないのだ。それが、かつての英雄との誓い。人類を守るという誓いと共に、背負った重荷なのだ。
「アスガルド級も前に出すぞ。負傷艦の後退した穴を埋める」
「危険です、いくら本艦でも、あの超振動波を受けては……」
「分かっている。だが、負傷艦をそのまま留めておくわけにも行かん。どの道、死中に活を見出すような仕事さ、これは」
「……了解しました」
そしてついに、アスガルド級も動き出した。交代する艦を守りながら、敵のこれ以上の侵攻を押し留めるように艦砲射撃を繰り返す。
損傷は与えられなくとも、足止め程度にはなるようだった。
「好き放題にやってくれるな……だが、これ以上はやらせるものかっ!!」
オージザブトムに肉薄し、幾度かの交錯を経て尚健在であったウェーヴ・マスター。超振動波の発射口は確認できた。陽電子砲の広域斉射では損傷を与えることはできなかったが、波動砲による精密射撃でなら、発射口を狙い打つことができるかもしれない。
そう考え、再びウェーヴ・マスターは砲火渦巻く空間へと飛び込んでいった。
ともすれば誤射の危険もある中を、ウェーヴ・マスターは自由自在に飛んでいく。そして更に放たれるバイド粒子弾。巨大な弾が漂いながらウェーヴ・マスターの元へと迫る。
「これ以上は、これ以上は……っ」
ひたすらにかわし、掻い潜り。機体性能の限界を、あからさまに一歩超えた軌道を描いて、ウェーヴ・マスターがついにオージザブトムに迫る。ザイオング慣性制御装置ですらも軽減しきれない慣性が、機体内部のパイロットを揺さぶる。
軋む体、喉の奥に広がる血の味。自分の体が壊れていくのを自覚しながら、それでも敵を討つために、彼は機体を突き進ませた。
「見えたぞ!こいつを、食らえぇっ!!」
そしてついに、オージザブトムの後頭部に備えられた超振動波の発射口に、ウェーヴ・マスターの波動砲が炸裂した。
全ての波動砲の、ひいてはバイドを討たんという人類の意思の、その祖となったスタンダード波動砲。その出力を極限にまで引き上げ、威力及び弾体サイズの向上しただけではなく、放射されたエネルギーが再収束することにより、より効率的な攻撃を可能としたもの。
ウェーヴ・マスター。波動をきわめた者との異名を持つ機体の放つ、スタンダード波動砲Ⅲであった。
「そんな……これでもまだ、無傷……なのか」
それでも、やはりオージザブトムの堅牢さの前ではそれも無力。叩きつけられた波動砲も、そして再収束する細かな波動の粒子でさえ、オージザブトムの表面を焼くばかりで、有効打とは成り得なかったのだ。
「まだだ、まだ、もう一発……っ!?」
それでも諦めず、再度波動砲のチャージを始めたウェーヴ・マスター。しかし、その頭上を覆う、影。それは、オージザブトムがその手に掲げた大鎌だった。
鎌自体がブースターを備え、それは恐るべき速度でウェーヴ・マスターへと振り下ろされた。最早、斬撃などと言う生易しいものではなかった。
振り下ろされたのは、圧倒的な破壊。それを為す異形の大鎌はあまりに大きく、あまりに無慈悲。その一撃は、線ではなく面を為して、ウェーヴ・マスターを寸断した。
必死に回避するもあたわず、大鎌の側面がウェーヴ・マスターを叩き切り、爆発が巻き起こる。
「そんな、そんな……っ。ならば、死なば諸共ぉぉぉっ!!」
機体の損傷は重大。だが、まだ推進部は生きている。ならばせめて、この身を弾丸と化して。
まさしくその一撃は、突攻としか言いようのない行動だった。そして陽電子砲ですら無傷である敵に対して、その行動はさしたる意味もない。
そう、思われた。
「く……まっすぐ、飛んでくれよ……ぉ」
辛うじて推進部が動くとは言え、最早機体のコントロールは完全に失われている。ウェーヴ・マスターはふらふらと漂い、超振動波の発射口へは向かわない。湧き上がるバイド粒子弾にぶち当たり、それを突き抜ける。
バイド粒子による汚染は脅威だが、直接的な破壊力には乏しいようで、ウェーヴ・マスターはそのまま、バイド粒子弾を吐き出すハッチへと吸い込まれていった。
そして、そのまま爆散する。
「……また一人、エースが逝ったか」
腕のいいパイロットといのは、非常に得がたいものなのだ。戦いで失われるのは仕方のないことだが、それでも心苦しくはある。九条は、苦々しい思いで未だに暴威を振るい続けるオージザブトムを睨んだ、だが。
「敵に変化あり。……これは、ウェーヴ・マスターが突入した箇所より、炎が噴き出しています!」
そう、今まで無敵の堅牢さを誇っていたオージザブトム。だがしかし、今。ウェーヴ・マスターの突攻が状況を変えた。
彼がその機体を突入させた、バイド粒子弾を吐き出すハッチ。そこから噴き出す炎は、ウェーヴ・マスターの爆発によるものだけではない。それを裏付けるように、オージザブトムが苦悶の声を上げた。
「効いてます!あのハッチです!バイド粒子弾を吐き出すあのハッチが、どうやら敵の弱点のようです!」
「……流石はエースだ。ただでは死なないということか。敵の弱点が分かった。そこに攻撃を集中させろ!なんとしても、奴を破壊するんだっ!」
彼の死を無駄にするわけには行かない。すぐさま九条は、各員に指示を飛ばした。
「しかし、厳しいな……これは」
敵の弱点を知り、攻撃を開始してより数分。既に無数のR戦闘機が、そして艦が敵弱点への攻撃を開始していた。だが、未だオージザブトムは健在。
というのも、弱点である場所に問題があった。バイド粒子弾を吐き出し続けるハッチは、そのバイド粒子弾そのものが防護幕となっている。
否応なくバイド粒子弾を破壊せざるを得なくもなり、バイド粒子の飛散も深刻であった。ハッチ自体はそれほど大きくもなく、艦砲射撃で狙うのも困難だった。
「汚染を覚悟で機体を突入させるか、汚染圏外から地道に攻撃するか……でしょうか」
傍らのガザロフもまた、困ったような表情で戦況を見つめていた。
「……いや、奴には超振動波がある。持久戦となれば、こちらが不利だ。一つ、博打を打つとしようか」
「何か策があるんですか、提督?」
信頼と、そして期待を込めてガザロフが問う。それに大して、九条はにぃ、とその笑みを深めた。
「あれを使う。パターンDからP。総員に通達!3分以内に準備を済ませろっ!」
「パターンDからPって……提督。それは……」
その意図を理解すると、今まで九条と共に数多の作戦を共に潜り抜けてきた彼女も流石に顔色を変えて、信じられないものを見るような目で九条を見つめた。
「……ああ、無茶な博打だろう?」
「無茶苦茶です。……でも、アスガルド級の性能なら、いけますよ!」
数多の戦場を経て築き上げた信頼と、その手腕への期待。そして、まるで新しいおもちゃを使いまわす子供のような純粋な好奇。
そんな感情を込めて、その眼をきらきらと輝かせながら。ガザロフは、九条に一つ、力強く頷いた。
「っ、ちきしょう。どんだけぶち込めば止まるんだ、こいつはっ!」
オージザブトムに攻撃を仕掛けたR戦闘機部隊。その隊長である男は、どれほど攻撃を加えても全くひるむ様子のない敵に、忌々しげに呟いた。
拡散して放射されるようになった超振動波は、R戦闘機の機動性をもってしても脅威。そして次々に放たれ、波動砲やレーザーを受けてバイド粒子弾が破壊されることで広がるバイド汚染。
それはついに、耐バイドコーティングを施された機体でさえも無視できないレベルにまで高まっていた。
「隊長……こちらドイル4、汚染レベルがゾーンBに突入。これ以上は……戦闘不能です」
「くっ……機体を破棄して脱出しろ。こんなところで死ぬなっ!」
ゾーンB、それは最早機体がバイド化するか否かというレベル。最早除染など望めるべくもない。できることといえば、即座に機体を破棄して、自分が汚染されていないことを祈るばかりなのだが。
「いえ、隊長……どうやら、脱出は無理なようです。……先に行きます。御武運を!」
ボコボコと、汚染された機体の表面から赤黒い肉塊が噴き出した。恐らく機体のバイド化が始まりだしたのだろう。それに伴い通信さえも途切れてしまう、そして。
バイド化し始めた機体は、そのままオージザブトムの後部ハッチへ向けて突撃する。まだ機体が動いてくれる内に、せめて一矢報いてやろう、と。
しかし高濃度の汚染を受け、コントロールを失った機体は狙った通りに飛ぶことはなく。無残にもオージザブトムの装甲に衝突し、そのまま弾けて潰えるのだった。
「どこまで……どこまで奪えば気が済むんだ、お前らはッ!!」
これだけの犠牲を払っても尚、敵は健在。あまりに多くの仲間が、たった一度の戦いで失われてしまった。隊を預かるものとして、それがまず許せない。
そして共に戦ってきた仲間達がこうして、無残に散っていくことが悔しくてならない。そして何より、何もかもを無常に奪い去っていくバイドが、憎い。
「ふざけるな、バイドっ!貴様が、貴様らがぁぁッ!!」
波動砲は既にフルチャージ。怒りに駆られ、彼は半ば衝動的にオージザブトムの元へと突き進む。
彼の乗機であるR-9DV2――ノーザン・ライツが持つ波動兵器、光子バルカン弾Ⅱは対多数における戦闘においては一定の優位性を誇ってはいたが、大型バイドを相手にするには力不足だった。
だからこそ、その突撃は最早自殺行為に他ならない。それでも止まらないのは、止められないのは、彼もまた戦いの狂気に駆られてしまったからなのだろう。
そんな彼に待ち受けていたのは、無意味なる死。その運命を押し留めたのは、彼の機体へと伝えられた一つの通信だった。
「こちらアスガルド級。ドイル1、無駄に死ぬような真似はするな」
九条の声が、突撃しようとしていたノーザン・ライツの動きを止めた。最早オージザブトムと交戦中のR戦闘機部隊でまともに戦えるのは、彼の率いるドイル小隊ともう一つ、既に隊長機を失ったエドガー小隊しか残っていなかった。
これから行う大博打を成功させるには、どうしても彼らの強力が必要不可欠だったのだ。
「これからアスガルド級で直接敵を攻撃する。ドイル1、エドガー小隊と共に敵の足止めを頼む」
「旗艦自ら攻撃!?血迷ったんですか、提督?」
旗艦が自ら、それもあれほどの巨大バイドに攻撃を仕掛ける。あまりにも危険。もし撃墜されてしまえば、そこで第二次バイド討伐艦隊は総崩れになってしまう。
「あんな敵が相手ともなれば、こちらも多少は無茶をせざるを得ないさ。だが、必ず成功させる。その為にも君達の援護が必要なんだ」
沈黙はわずか一瞬。答えはすぐに出た。どうせ命を懸けるなら、無駄に死ぬよりもわずかでも可能性のある方に懸けたい。散っていった部下達の無念を、奪われた多くの命の重さを、奴に思い知らせてやらねばならない。
「……我々は、何をしたらいいのです、提督?」
「アスガルド級を敵の背後に回らせる。 君達には、敵がこちらに向かないように敵をひきつけて貰う」
「いくらなんでも、あの大きさの艦が旋回するほどの時間を稼ぐのは無理です!それに背後に回ったところで、艦首砲ではハッチを狙うのは困難ですっ!」
隊長が述べたことは、まさしく道理である。アスガルド級ほどの大きさの艦である。普通に考えればその大きさに順ずるほどに、足回りは重いはず。
それも艦を動かしながらの旋回ともなれば、どう贔屓目に見ても数分は必要となるだろう。
それほどの時間を稼ぐというのは、やはり非常に難しい仕事だった。
「必ずやれる。せめて一分でいい、時間を稼いでくれ。……頼む」
「………本当に、やれるんですね」
無条件に九条を信用できるほど、彼は九条の手腕を知らない。グリトニルで共に戦い抜いてきたのならばともかく、彼の部隊は、第二次バイド討伐艦隊として地球で編成されたものであったから。
「君の部下達の命を、多くの者達の犠牲を、決して無駄にはしないさ」
「……分かりました。俺達の命、預けますよ。提督」
「任せて貰うっ!!」
これで必要な手は揃った。艦内の準備も全て整ったようだった。
「ではこれより、マニューバ・パターンDtoPへ移行する!アスガルド級を前進させるぞ、機関最大!進路上の艦は退避しろっ!!」
そしてついに、アスガルド級が動き出す。最新の、そして未だ未知の技術でさえも精力的に取り込んだ、まさしく人類最強の艦であるアスガルド級が、立ちはだかる脅威を、オージザブトムを破壊するため、一大作戦へと乗り込むのだった。
「ザブトムまで距離5000!交戦宙域突入まで60秒!」
順調にその艦体に速度を乗せ、アスガルド級はオージザブトム目指して突き進む。巨大な敵の接近を、オージザブトムもまた察知していた。そして、迎撃の為の力を放つ。
「超振動波の発生を検知!撃ってきますっ!」
ここからが大勝負だ、と。九条は一つ、ごくりと喉を鳴らした。超振動波発生のタイミングは、今までの交戦で既に把握している。後は、その機を逃さずやり通すのみ。
「タイミングを誤るなよ。第二艦橋、用意はいいかっ!!」
九条の傍らに常に付き従ってるガザロフの姿は、今は無い。だが、九条の声に答えて彼女の言葉が返ってきた。
「こちら第二艦橋、いつでもいけます、提督っ!」
オージザブトムの後頭部に光が宿る。超振動波が、直撃すればアスガルド級ですらもただではすまないその一撃が、放たれる。
改良され、広域に攻撃可能となったその超振動波はある程度の距離を直進した後分裂し、広域に破壊をもたらす攻撃として威力を発揮する。それは言い換えれば、発射直後はただ直進することしかできないということで。
「超振動波、来ますっ!!」
「よしっ!総員、ディバイドシーケンスへ移行っ!」
放たれる超振動波。既にアスガルド級は、オージザブトムのすぐ側にまで近づいている。放たれたその超振動波を、回避する術などないと思われた。
だが……。
アスガルド級が、その巨大な艦体が、上下に割れる。そしてその後、すぐさま別々の方向に急加速。放たれた超振動波は、その隙間をただ通り抜けていくだけだった。
アスガルド級が無数に抱える秘密兵器。その一つが、この分離、合体機能である。
両翼と武装の大半を備え、耐久性と攻撃力に優れる主翼部と、全五基の波動エンジンの内三基を持ち、機動性と加速力に優れる艦艇部。分離と合体を自在に使い分け、より効果的に敵を攻撃する。
それが、アスガルド級の本来の戦い方なのだ。
「超振動波、回避に成功!艦艇部、主翼部共に損傷なし!」
「引き続きピンサーシーケンスへ移行!主翼部部はこのまま敵を攻撃する!決して敵に背を向けさせるなっ!!」
「了解っ!!」
オージザブトムの周囲は、既に高濃度のバイド粒子で汚染されている。アスガルド級とて、長時間居座れば汚染の危険は否めない。すぐさま汚染圏外へと離れ、艦上部はそのままオージザブトムへの攻撃を開始した。
無数の追尾レーザーとミサイルがその巨大を灼く。しかし、それもダメージを与えているとは言えなかった。
本命は主翼部である。艦艇部とR戦闘機部隊が敵の注意を引き付けている間に、主翼部が後方から一撃を叩き込む。
グラムヘイズ砲、ヴィンゴルブ砲。それぞれが一撃必殺の威力を持つ陽電子砲であり、従来の艦首砲とはまた異なる性質を持つ兵器であった。
だが、それは本来合体状態でなければ放つことのできない代物で、予めチャージを済ませた状態であっても、双門の同時発射を行えば一時的にではあるが、主翼部はその機関を停止してしまう。
一発勝負である。外せば最後、最早主翼部は動くこともままならない。
「主翼部180度旋回!旋回と同時に主砲の照準を合わせて。M式慣性制御装置、稼動開始してくださいっ!」
主翼部に備えられた第二艦橋。九条の指揮する第一艦橋と比べて、やや砲手の数は多い。その第二艦橋にて、ガザロフは九条の命の通りに指揮を執る。
最大船速における急旋回。
R戦闘機ならばいざ知らず、サイズの大きい戦艦である。それによって発生する慣性の衝撃は、最早艦船用のザイオング慣性制御装置でさえも制御しきれない。急旋回に伴い発生するGに、人体も艦自体も、耐えることはできない。
だからこそ、更なる慣性制御を可能とする術が必要だった。
そしてそれは、魔法の力によって成し遂げられた。
慣性制御、あるいは重力制御を可能とする魔法を持つ魔法少女、そのソウルジェムを艦中枢部に搭載し、艦の設備でその魔力を増幅すると同時に、処理された魔女が残した物質によって発生する穢れを除去する。
それにより、アスガルド級は一時的にではあるが、R戦闘機に匹敵する機動性を持つことが可能であった。
M式慣性制御装置の力により、ついに主翼部はその巨大な艦体を旋回させた。照準は既に、オージザブトムの背部、上下に二つ設置されたハッチを捉えていた。
だが、収束する膨大なエネルギー。それがもたらす脅威に気づいたのだろう。オージザブトムは、前方より迫る敵に構うことなく姿勢制御用のバーニアに火を入れた。
「まずいな、後ろに気づかれたか」
必死に艦艇部の武装でオージザブトムを攻撃しながら、九条が苦々しく呟く。このまま振り向かれてしまえば、ハッチを狙うことはできなくなる。
「なんとか奴の足を止めろっ!振り向かせるなっ!!」
既に艦艇部の他にもドイル小隊、エドガー小隊がオージザブトムへの攻撃を続けている。だが、それを意にも介さずオージザブトムは背後の主翼部へと攻撃を仕掛けようとしている。
止められない。九条の胸中にも絶望が宿った。
「……提督」
それは、ドイル小隊の隊長からの通信だった。
「どうした、何かあったのか!」
焦燥を隠し切れない九条の言葉、それを受け止めて、彼は覚悟を決めた。
「奴の足を止めます。だから、必ず奴を倒してください。俺達の無念を、どうか晴らしてください」
「っ!?何をする気だ!」
その言葉に、何か尋常ならざるものを感じて九条が叫ぶ。だが、そのときにはもう通信は打ち切られてしまっていた。
「我らの死は無駄ではない!必ずや、人類の未来の為にっ!!」
ノーザン・ライツが、オージザブトムへ向けて突撃する。だが、その胸に宿るのは最早怒りと衝動ではない。人類の未来の為に、自らの為すべき事を為すのだという、誇り高き意志だった。
それに続いて、ドイル小隊とエドガー小隊の機体もオージザブトムへと向かう。そして彼らは、放たれるバイド粒子弾を次々に打ち砕き、その身をバイド粒子に汚染されながらもオージザブトムの機体各所に設置された、姿勢制御用のバーニア内部に突っ込んでいった。
「そうか……奴を、止めるためにっ」
その姿を、彼らの覚悟に思わず九条の声が揺れた。零れそうになる涙と嗚咽を堪えて、九条は戦況を見据える。
姿勢制御用のバーニアは、R戦闘機の突撃でさえ壊れることはない。だが、吐き出される推進剤がその機体を焼き尽くすまでの僅かな時間、その身の動きを留める事に成功していた。
その一瞬の時間が、全ての命運を分けたのだった。
「照準よし!グラムヘイズ砲、ヴィンゴルブ砲、放てぇぇぇーっ!!」
主翼部、その双翼に先端に備え付けられた双門の砲台。そこから、眩い光を放って二筋の閃光が放たれた。
それは、従来の艦首砲のように一撃で放たれるものではなく、あたかもシューティング・スターの圧縮波動砲のように、長時間の照射を可能とするもので、さらに砲台自体が可動性を持ち、照射後に続けて照準を変更することが可能であった。
だからこそ放たれた二筋の閃光は、オージザブトムの装甲を焼き、更にそのまま弱点である背部のハッチを、貫いた。
オージザブトムは、かつてないほどに大きな苦悶の声を上げる。その堅牢な装甲の隙間から、激しい光が噴き出している。やがて、一度その身体が膨らんだかと思うと、次の瞬間。
鋼の巨体が、異貌なる魔人が、眩い光を放って消滅した。
艦内が歓声に沸き立った。
「……こっちはどうにかなったか。後は、時空の歪みの原因だな」
機関を停止した主翼部とのドッキングを命じ、ようやく九条は一つ息をついた。後は英雄に任せるしかない。こちらにできることはもう、残りの敵の掃討だけだ。