魔法少女隊R-TYPEs   作:SanDMooN

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跳躍空間の果ての果て、捩れた時空の中枢に、鋼の妖花が舞っている。
共に立ち向かうは英雄と、死すべき定めを超えた少女達。

織り成す魔法と破壊が交わる果てに、一つの戦いが決着する。


第17話 ―オペレーション・ラストダンス(前編)―④

「反応が近い、もうすぐ着くはずね」

再び立ちはだかる敵艦やゲインズを、そして宇宙の闇に混ざって迫り来る、ブラックカラーのキャンサー達を次々に打ち砕いて、ラストダンサーは戦場を駆け抜ける。

その眼前に存在するのは敵のみで、その後ろにあるのもただ敵だけだった。唯一違うこととすれば、彼女の背後に存在する全ての敵は、無残にも打ち砕かれているというだけで。

時空の歪みの原因だと思われる、一際大きなバイド反応。その存在する場所へと、もうすぐ到着するだろう。このまま潰して、それで終わりだ。

だが、それを阻むように立ちはだかる敵艦。上下から挟み込むように迫り、その全身に設置された砲台から、濃密な弾幕を展開しようとしていた。

 

「その程度……」

ラストダンサーの前には恐るるに足らず。すぐさま対処しようとし、フォースを変化させた。

丁度、その時に。

『頑張っているようだね、スゥ』

頭の中に響いたその声。それは、彼女にとっては忌まわしい声。だからこそ何故、と。戸惑いは一瞬、彼女の動きを遅らせた。

機体を掠める敵弾。衝撃と損傷報告を受け、すぐさまスゥは意識を戻す。

 

『どうやら、取り込み中だったようだね』

「煩い、黙れぇッ!!」

自分の声が届くのかどうかも分からない、けれど今は話している場合でもない。一声鋭く叫んでそして、スゥは機首を翻す。次々に放たれる弾幕。そのもっとも濃密な地点へと、フォースを掲げて突っ込んでいく。

そのフォースは、TL-1B――アスクレピオスに装着されていたもので、他のフォースにはない、唯一無二の性能を持っていた。

次々に放たれ続ける敵弾が、そのフォースによって受け止められる。通常ならばそのままフォースに吸収され、ドースとしてフォースのエネルギーと化すはずだった。

だが、違う。

そのフォースの名はミラーシールド・フォース。施された鏡面処理により、敵弾を跳ね返すことのできる能力を持った、非常に稀有なフォースである。

だからこそ放たれた敵弾はそのままフォースに跳ね返され、次々に敵艦へと突き刺さっていく。まずは艦表面に無数に設置された砲台が蜂の巣となり、更には艦の装甲までもがボロボロにされていく。

砲台の多くがそれで沈黙し、ラストダンサーを囲っていた弾幕にも隙間ができる。その隙に、ラストダンサーは一気に後退。上下から挟み込む艦の後方へと回り込む。

そして。

 

「沈めっ!」

フルチャージの波動砲が放たれる。解き放たれた波動エネルギーの塊は、僅かに直進した後に弾けた。そして無数の光へと分裂し、敵艦へと食らい突いた。

拡散波動砲。波動砲の中では極めて初期に開発されたものであるが、デルタやウォー・ヘッドという、過去に対バイドミッションに投入された機体に採用されている、非常に信頼性の高い波動砲である。

そしてその拡散波動砲は、期待された通りに上下を塞ぐ敵艦に食らいつき、それを破壊した。

 

「……なんだったの、今のは」

あの時の声は、本来こんなところで聞こえるはずのないもの。ついに幻聴でも聞こえてきたのだろうか、と。一つため息を吐こうとしてその為の肺も、喉も口も、自分にはないことを思い出した。

こんなことが続くようでは、とてもではないが戦ってはいられない。気をしっかり持たなければ、うっかりとこんなことで死んでしまっては笑えない。

『どうやら落ち着いたようだね、スゥ』

「っ!?……何故、お前が。インキュベーターっ!!」

そう、その声の主はキュゥべえだった。スゥにとっては、まどかと自分を引き離した憎い相手。いうなれば、最早敵である。

そんな奴が、何故。

『まどかの力を借りて、キミにボク達の意思を伝えているんだよ』

答えは、すぐに与えられた。ただその答えはスゥを激昂させた。

「まどかに……まどかに、何をした、貴ッ様ァァァっ!!」

『きゃっ……お、落ち着いて。スゥちゃん。私は大丈夫だからっ』

「ま、まどかっ!?でも、どうして……」

続けて聞こえてきたのはまどかの声。ずっと聞きたいと思っていた声。その声が直接頭の中に響いてきた。それだけで、激しい怒りはスゥの中から消え去っていた。

そして残ったのは、純粋な疑問。

 

『キュゥべえの力を借りて、スゥちゃんとこうしてお話できるようにして貰ったんだ』

まどかの声は、どこか嬉しそうに弾んでいた。

『その通りさ、まどかの持つ能力と、それを増幅するためのハード。これを用意するのはなかなかの手間だったけど、おかげでこうしてキミのサポートができる。そういうわけだから、これからはボク達もキミのサポートに回らせてもらうよ』

『私も、何もできないかもしれないけど……一杯応援するからね、スゥちゃんっ!』

キュゥべえのサポートは、正直言って疑わしい。けれど、頼りにならないわけではないだろう。そして何より、まどかの声が聞こえるのが嬉しい。あの日病室で別れて以来、一度としてまどかの声を聞くことができなかったのだから。

「うん。……すごく嬉しいよ。これで百人力だ。ありがとう、まどか」

けれど、唯一つだけ引っかかる。

「でも、大丈夫なの?まどか……詳しいことは分からないけど、凄く大変なんじゃないかな。こんなところまで……声を届けるっていうのは」

能力を増幅するためのハード。それが一体なんなのかは分からないが、それがまどかの負担になっているのではないか。だとしたら、すぐにでも止めさせなければならない。

それでなくとも、スゥはまどかほどキュゥべえの事を信じてはいないのだから。

 

『問題はないよ。このハードの有用性とまどかの安全は保障されている。キミがラストダンサーとのマッチングをしていた間、ボク達もこれの調整と実験を進めていたんだからね』

まどかは柔らかなクッションの敷かれた椅子に座り、その頭に奇妙な装置をつけている。そしてそんなまどかの隣には、生身の身体のキュゥべえが座っている。

木星の衛星であるカリスト。その公転周期に寄り添うように存在する、巨大な人口天体。その中で、まどかとキュゥべえはスゥに言葉を伝えていた。

それは対バイド戦が敗色濃厚となったとき、人類という種を守るため外宇宙への逃亡を行うための箱舟。まさしくその名の通りにアークと呼ばれ、秘密裏に建造されていたものだった。

まどかとキュゥべえは病院を退院した後、すぐにこのアークへと移動していた。そして、オペレーション・ラストダンスを遂行するスゥを助けるため、直接彼女と通信を取る術を、その為にまどかの能力を増幅する装置を、ずっと開発し続けていたのだ。

アークには、既に全世界から選別された10万人の人間が収容されている。生殖可能な年齢の男女を同比率で。そして箱舟を維持するためのできる技能を持った者達が、アーク中枢部のコールドスリープ装置の中で、目覚めの時を待ち続けていた。

バイドが討伐されればそう遠からず目覚めるだろう。だがもしそうならなければ、目覚めの時は遠い。

 

まどかの能力を増幅するためのハード。それは、このアークに眠る10万人の脳そのもの。仮死状態にある脳の領域の一部を使用し、電脳として連結している。もちろん負担はあるだろうが、10万という数を集めることでそれは飛躍的に軽減されていた。

まどかもその事実を知り、心を痛めているようではあったが、それでもスゥを救うためとその事実を受け入れていた。

「それで、サポートと言うけれど……何をするつもり?もちろん、私はまどかの声だけでも十分すぎるほどに十分なのだけど」

まどかの名前がこぼれ出る度、スゥの口調は優しくなった。

『キミの機体とのリンクも完了してあるからね。キミの機体が入手した敵データは、自動でこちらにも送信される。それを解析して、キミを助けることくらいはできるだろう』

「そう、それはありがたいかもしれないわね」

そしてキュゥべえに話しかける時には、すぐにその口調は固く冷たいものとなる。自分の心を包み隠して生きられるほど、スゥの心は大人ではない。幼い、まさしく生まれたばかりの心が宿るのは、史上最強のR戦闘機という身体。

あまりにもちぐはぐな最終兵器。それがスゥで、偽りの英雄で、ラストダンサーだった。

 

「そろそろ敵の中枢が近いわ。……必ず勝つ。だから、見守っていて。まどか」

『うん、信じてるから。スゥちゃんが勝って帰ってくるって。見てるから、全部!』

どれだけ距離は離れても、異なる次元に別たれても。心は常に共にある。それを、実感することができる。身体が軽い。こんな気持ちで戦うのは初めてだ。

「……もう、何も怖くない」

そしてついに、時空の歪みの元凶。巨大なバイド反応が、スゥの眼前へと現れた。

 

それは、機械仕掛けの種のよう。もしくはカプセル、あるいはラグビーボールのような。くるくると錐揉みしながら、それはスゥの元へと迫る。

その動き自体は非常に緩やか。何一つとして、攻撃を仕掛けてくるような様子はない。それはあくまでただの外皮。それが弾けたとき、ついに本領が発揮されるのだ。

まるで蕾が開くように、その種は四つの花弁に分かれて開く。その中枢には、コアと思しき二つの物体。

『ファインモーション、防衛用の無人攻撃兵器だね』

「データがあるの?……でも、必要ないわ」

問答無用、とばかりに開いた花弁の内部へと突入。4枚の花弁の内2枚が、ちぎれてラストダンサーの上下に展開された。

何のために。そんなことを考える必要も無い。ギガ波動砲は、既にフルチャージで完了済みなのだ。どれほど敵が強力だろうと、これを防ぎうるものなど存在しない。

 

「消し飛べっ!!」

ギガ波動砲のフルチャージが、花弁に包まれた空間内部で炸裂した。だが、その閃光は不可思議に捩れ、歪む。そして花弁やその中央のコアを一切傷つけることなく、花の隙間をすり抜けていった。

後には、無傷のファインモーションだけが残されている。

「な……っ」

思わず我が目を疑う光景。だが、奇襲が失敗したというのは事実。

ならばどうする、敵の能力が分からない上に、敵はギガ波動砲すらも無力化する。このまま正面切って戦い続けるのは些か不利だと考えた。

 

『どうやらファインモーションは、時空を歪めて攻撃が届かないようにしたんだろうね。 恐るべき空間干渉能力だ、これは一筋縄ではいかないだろうね』

「っ……データがあるなら教えなさい。どうすれば、あれを倒すことができる」

結局頼らざるを得ない。

その事実をかみ締めながら、苦々しくスゥはキュゥべえに言葉を投げつけた。

『……わからない。ファインモーションの武器は、内壁部に搭載された大出力のレーザー砲だ。それを内壁に反射させて攻撃するのが主な攻撃方法のはずなんだ。恐らく、空間干渉自体はバイド汚染を受けた事で備わった能力なのだろうね』

「……役立たず。っ、来るわね」

展開した花弁から、赤いレーザーが放たれた。角度を変え、回転しながら連続して放たれるレーザー。数はかなり多い。だが、ラストダンサーの機動性の前ではほぼ無意味。

しかし、後方へと抜けたレーザーはそのまま展開された花弁の内壁に反射し、更にラストダンサーに牙を剥く。

 

だが、それ自体は予想の範疇。

キュゥべえから与えられた情報だけで、十分に対処できるものだった。だが、ファインモーションにはバイドの侵食によって与えられた空間干渉能力があった。

それが効果を発揮し、空間が歪む。そして。

 

「な……くぅっ?!」

その歪みによって、レーザーの軌道さえもが歪んでいく。一面を埋め尽くすほどに放たれ、さらに不規則に歪んだレーザーにはラストダンサーですら回避はかなわず、その背部ブースターに赤い光が食らいついていた。

小規模な爆発が起こり、ラストダンサーの機体が弾き飛ばされる。損傷は軽微。抜群の生存能力を持つラストダンサーならば、まだ十分に戦いを続けることは可能だった。

だが、状況は極めて悪い。攻撃は通用しない。そして敵の攻撃は、プログラムに則ったレーザーの反射による攻撃ならば、ラストダンサーにとっては脅威とはならない。

だが不規則に生じる空間の歪みは、その攻撃を回避困難なものへと変えていた。

『このままでは勝ち目はないよ。一旦距離を取って、解析が完了するまで時間を稼ぐんだ』

「悔しいけれど、そうするしかないようね。一旦撤退するわ」

続けてレーザーが放たれる前に、ラストダンサーは離脱する。花弁の間をすりぬけて、外へ。

 

 

「な……っ?!」

その直後。ラストダンサーの動きが止まる。外へと飛び出そうとしていた機体は、まるで見えない壁に遮られるかのようにその動きを止めていた。

「どういうことなの、これは」

理解が追いつかない。わかるのはただ、ここから逃れることすらできないということだけで。

『まずいよ、空間を封鎖された。このままじゃあ逃げることもできない』

「どうすればいい?」

流石のスゥにも、言葉の端に焦りが混じる。

『とにかく解析を急ぐよ、それまで何とか耐えてくれ』

「……やっぱり役立たず。もういいわ」

結局、どうにか耐えるしかないということか。

 

『大丈夫、スゥちゃんっ!』

それでも何故だろう。この声を聞くだけで、まったく負ける気がしないのだ。きっと表情があったなら、スゥはニヤリと不敵に笑っていただろう。

「大丈夫よ、私は負けない。まどかが見守っていてくれるなら……絶対に!」

再びレーザーが放たれようとしていた。だが、その直前に。外から飛び込んできたミサイルが、レーザーの発射口を破壊した。

その一撃に敵はたじろいだのだろうか、次なる攻撃は放たれることは無く。一瞬の隙を突き、この閉鎖空間に飛び込んできた機影が、二つ。

 

「手こずっているようだね、手を貸そう」

「助けにきたわよ、英雄さん」

黒と白の機体。

ダンシング・エッジとヒュロスが。呉キリカと、美国織莉子の姿がそこにあった。

「ここまで追いかけてくるのは、随分と大変だったよ。おまけにこんなデカブツがいたなんてね」

「それに、随分苦戦しているようだもの。やっぱり、助けに来て正解だったわ」

互いに言葉を交わしながら、二機は閉鎖空間内に舞う。

 

「……何をしたの、どうやってここに入ってきた。どうやって奴に攻撃を当てたの?」

けれどそんなことよりも、スゥにはそれが疑問だった。この空間は、ファインモーションによって閉鎖されているはずなのである。そこに、この二人は事も無く進入を果たした。更にはギガ波動砲でさえ受け流した敵に攻撃を当てて見せたのである。

前者については、出るのは困難だが入るのは容易い、そういう空間なのかもしれないと推測はできる。だが、後者についてだけはどうしても説明がつかなかったのだ。

「織莉子が示してくれるんだ。いつ撃てばいいか、どう撃てばいいか!全部織莉子が教えてくれる、だから私達は負けないんだっ!」

「詳しい説明をしている時間はありませんが、敵を攻撃するべきタイミングは分かるわ。そして、敵の攻撃のタイミングも。……来るわ。キリカ、お願いね」

言葉を交わすも、事情はさっぱり分からない。だが、確かにファインモーションも先ほどの攻撃から立ち直り、すぐさま次のレーザーを放とうとしている。

またしても、反射と時空の歪みが合わさり、回避困難なレーザー攻撃となる。今度こそ回避を、と意識を絞り込んでいくスゥに、再び通信が届いた。

 

「座標を指定するわ。そこに移動して。……大丈夫よ、そこなら攻撃を受ける心配はないわ」

「……了解よ」

あまりに不可解。けれど、キュゥべえも頼りにならない今、それに縋るしかない。指定された通りの座標に機体を移動させた。

「そのままそこを動かないでいて。そうすれば、無事にやり過ごせるわ」

言葉と同時に、ファインモーションからの攻撃が放たれる。キリカの機体が先頭に、そしてその後方に織莉子とスゥの機体が並ぶ。前方の花弁より放たれたレーザーは、後方に開いた花弁に反射して

さらに時空の歪みでその進路を歪め、恐るべき攻撃と化して迫り来る。動くなといわれても、動かなければかわせるような攻撃ではない。今度こそ見切ると、そう意気込んだ。

だが、放たれたレーザーは後方の花弁に当たることなく、そのまま遥か後方へと消えていく。僅かに一本、花弁の端を掠めて反射したレーザーも、空間内を跳ね回るだけで、結局、誰の機体をも掠めることなく消えていった。

「ね、言ったでしょう?じっとしてれば当たりはしない、と」

少しだけ得意げな声で、織莉子がスゥにそう告げた。

「何をしたの、一体?」

あれほどの恐ろしい攻撃を、微動だにせず回避してしまう。一体何をしたのだろうか、スゥには全く理解することができなかった。

 

「魔法……なんてものがあるとしたら、キミは信じるかい?」

同じく得意げな声のキリカが、スゥに話しかける。

「魔法……まさか、お前達は」

その言葉と、戦う声は少女の声。思い当たることなど、たった一つしかなかった。

「どうやら、心当たりはあるようね」

「察しの通り!私達は、本物の魔法の使える魔法少女だっ!」

得意げなキリカの声。それが、スゥには面白くない。

彼女達が魔法少女なら、スゥもまた魔法少女である。歪んだ実験の成果として魔法を得た彼女達よりも、願いと引き換えに魔法少女と化したスゥの方がよほど真っ当な魔法少女であるとも言えた。

けれど、スゥは未だその魔法の力を使えずにいた。TEAM R-TYPEの元でさまざまな処置を受けもしたが、それでも尚、スゥの魔法の力が目覚めることは無かったのである。

もっとも、魔法が使えるということはそのまま魔女化の危険があるということで、優れたパイロットユニットとしてのソウルジェムだけを求めていた彼らにとって、それは好都合なことだった。

それでも、目の前にこうして魔法を駆使する本物の魔法少女が現れてその力が、あれほど苦戦していた敵をこうも容易く御しえている。

やはり、その力が欲しいと感じてしまう。強力無比な魔法の力さえあれば、こんな敵に遅れを取る事もないのではないかと、どんなバイドでも負けはしないのではないかと思う。

だからこそ、その二人が魔法を駆使して戦う姿は不愉快で、そして羨ましくもあった。

 

「あのバイドの攻撃は、発射されるレーザーとその反射。そして空間の歪みからなるわ。恐らく、それは寸分の誤差も無いほど精密に計算されて放たれているのでしょうね」

次なる攻撃と、更なる反撃に備えて、波動砲のチャージを進めながら織莉子が言う。

「だからこそ、私の魔法で敵のレーザーの速度を少しでも落としてやれば、もうまともな攻撃なんてできない。多少は跳ね返ってくるかも知れないけど、それは当たらない場所を織莉子が教えてくれるっ!」

同じく波動砲のチャージを進め、敵を狙いつつキリカが言葉を継いだ。

織莉子の持つ未来予知、そしてキリカの持つ速度低下。その二つの力が、ファインモーションの攻撃を完全に封じ込めていた。

「……それなら、敵に撃たれる心配はなくなりそうね」

面白くは無いが、それでもこの状況は実にありがたい。

「それで、攻撃のタイミングまで教えてくれるのかしら?」

同じく波動砲のチャージを進めながら、スゥが問う。守りはひとまずよし、となれば次は攻め手が必要となる。先ほどのミサイルの一撃は十分に効果を与えたようだが、それ以降一切攻撃を行っていない。

攻撃のタイミングが分かると言うのなら、こちらもそれにあわせて攻撃を行うしかないのだ。

 

「……今のところはまだ、ね。しばらくはこのままやり過ごすしかないわ」

「そう、任せるわ」

今のところ、ファインモーションからはレーザー以外の攻撃は見られない。それだけならば、十分にやり過ごすことは可能なのだ。後はどうにか攻撃できるタイミングを見極めるか、キュゥべえの解析が終了するまで耐えるだけだ。

 

『どうやら、状況は大分改善したようだね』

「ええ、後はそっちが頑張ってくれると助かるのだけど」

『一応解析は進んでいるよ。どうやらファインモーションは、時空の歪みを攻守に利用しているようだ。その威力はさっき見た通りだね。フルチャージのギガ波動砲すらも無効にする防御力は、恐ろしいものがある』

どこか感心している風もあるキュゥべえの口調、それがまたスゥの苛立ちを煽る。

「こっちは命がけで戦っているのよ。あいつを倒す術があるなら、さっさと話しなさいっ!」

どうにも募る苛立ちは、その口調の棘をより鋭くさせた。こんなところで、止まってなどいられないと言うのに。思うようにならない状況が、スゥには非常に苛立たしかった。

『そう言えばそうだったね。それじゃあ話すよ。ファインモーションを撃破する方法を』

言葉の途中で、再びレーザーが放たれた。再度、織莉子とキリカの魔法がその攻撃力を奪う。

 

「……結構、きついな」

「ええ、確かにこれはちょっと、辛いわね」

実際なところ、この二人にもあまり余裕は無かった。

織莉子は常時予知を続けなければならない。キリカは、広域に魔法を展開させなければならない。そのどちらも、二人にかかる負担は大きい。

ソウルジェムの穢れも、直に深刻なレベルに到達することだろう。だからこそ、早く攻め手に移らなければならないというのに。

 

「織莉子っ、まだかい、まだ撃てないのかいっ!」

「ええ、駄目よ。今撃っても、あいつには届かないわ」

二人の声にも焦りが混じる。どれだけの未来を見ても、今の二人にはファインモーションを撃破しうる未来は見えてこないのだ。

「まったく、英雄って言うのは名ばかりなのかいっ!?」

悪態交じりにキリカがスゥに言う。けれど、スゥは何も言葉を返すことなくただ、キュゥべえの言葉を聞いていた。

状況は動かない。そう思われた。けれど、更なる敵の攻め手が現れる。

「織莉子、次が来るっ!どうすればいい?」

「これは……機体を上昇させて、すぐに……っ!?」

言葉を遮り、機体が揺れる。上昇しようとする機体さえ、何かに阻まれている。その元凶は、後方に展開した花弁より放たれる謎の光。その光を浴びた瞬間、急速に機体が花弁へ向かって引き寄せられたのである。

「な、なんだいこれはっ!?機体が、引き寄せられる……っ」

「トラクタービームよ、こんなものまで持っていたなんて……。レーザーも来るわ、何とか離脱して回避を……っ!」

前方に展開していたキリカは、そのまま前方に引き寄せられていく。織莉子とスゥの機体は後方へ。いずれも必死に出力を上げて抗った。

 

「ラストダンサーの出力なら問題はないけれど……このままじゃ、まずい」

動きが乱れ、回避する動きも遅れてしまう。そしてそんな窮地にある三機を更に追い詰めるように、ファインモーションはレーザーを放った。赤い光が跳ね返り、そして複雑に歪む。動きを制限された状態で、どこまで回避しきれるか。

「このままじゃ皆仲良く撃墜だ。やるしか……ないッ!」

「キリカ、駄目よっ!」

ダンシング・エッジが、その機体表面が光を放つ。

宇宙の闇の中ではきっと見えなかっただろう。赤い閃光に埋め尽くされた空間でこそ初めて見えるその光は、黒く輝く光であった。

そして、時の針はその歩みを留めた。空間を埋め尽くしながら、ゆっくりと迫る赤い光。触れれば焼ける無数の死線が、閉鎖空間内を跳ね回り、そして外へと飛び出していった。

 

「……無事、乗り切ったようだね」

「また無茶をして……大丈夫なの、キリカ」

「今のが、魔法」

スゥも、織莉子も、キリカも。その死線を潜り抜け尚健在だった。だが、被害は0ではない。即座にトラクタービームを抜け出したスゥは無傷であったが、抜け出すことのできなかった織莉子とキリカは、交わしきれずにいくつも被弾していた。

損傷はかなり大きい。キリカの機体などは、キャノピーまでもが熱でひしゃげてしまっている。

「はは、普通の人間だったら死んでたね。大丈夫……まだ、“私”は保ってくれるようだ」

どこか面白がっているようなキリカの声。速度低下の魔法を最大限に引き出し、致命的な攻撃の速度を緩めた。その結果、どうにかまだ動ける程度の損傷で済ませることができたのだ。

もちろん代償は大きい。恐らく、ソウルジェムの限界は近い。

「よかった、キリカ……」

たとえそれがやせ我慢でも、元気そうな声が聞こえて織莉子も安堵した。けれど、これ以上は時間は無い。そんな二人にスゥは言葉を投げかけた。

 

「どうやら生き延びたようね。じゃあ、反撃よ」

ファインモーションは、自分に向けられた攻撃の全てを時空を歪めて防御している。その防御は非常に堅牢で、通常の方法で撃破することは難しい。

だが、それを貫く方法がないわけではない。空間そのものに干渉することができれば、ファインモーションの防護を破り、直接ダメージを与えることができるようになる。

その為の術は、確実にR戦闘機に存在していた。それが、キュゥべえから告げられたファインモーションの攻略法であった。

 

「Δウェポンを使って、それで敵の防御を破る。恐らく敵は再び空間を歪めようとするでしょうけど、あれだけのことを即座にできるとは思えない」

「でしたら、その瞬間に一斉に波動砲を浴びせれれば」

「奴を倒すことができるはずよ。必ず」

無数の敵を、そして敵弾を掻い潜ってきたことで、既にドースは最大限に溜まっている。すぐにでもΔウェポンは打ち込める。波動砲のチャージも、直にフルチャージとなるだろう。

「それはなかなかよさそうだ。波動砲のチャージは完了してるし、いつでもいけるさ」

「私もよ、準備はできているわ」

準備は万全。後はギガ波動砲のチャージの完了を待つばかり。

「タイミングはこちらに合わせて。ギガ波動砲のチャージ完了と同時に仕掛けるわ」

「了解だ、任せるよっ」

「了解よ、こちらでもできる限り支援するわ」

まだ二人が戦える内に、敵が更なる手を打つ前に。一気にケリをつける。ギガ波動砲のチャージを進めながら、スゥはファインモーションへとその機首を向けた。

 

「仕掛けるわ。歪みが消えたら、一斉に波動砲を叩き込む!」

フォースシュート。時空の壁に衝突し、動きを止めたフォース。そしてスゥは、フォースに蓄えられたエネルギーを開放した。

広がるエネルギーのフィールド。フォースに蓄えられたエネルギーが、この捻じ曲げられた空間に更なる時空歪曲を発生させた。ネガティブコリドーと呼ばれたそのΔウェポンは、跳躍空間を限界を超えて捻じ曲げ、そして破壊した。

まるでガラスが砕けるように、湾曲した時空がひび割れて砕ける。後に残されたのは、その身を守る盾を失った、哀れな妖花ただ一つ。

 

「砕けろ、バケモノっ!」

クロー波動砲が。

 

「退きなさいっ!」

バウンドライトニング波動砲が。

 

「い・ま・だぁぁぁっ!!」

そしてその二つの光を飲み込んで、圧倒的な破壊をばら撒くギガ波動砲が。

ファインモーションの中心に存在するコアを、貫いた。

 

光が止むと、その後には。コアを失い、爆発の中へと没していく妖花の姿があった。

「バイド反応急速低下……これで終わりね」

『やったね、スゥちゃん!』

「ええ、貴女のおかげよ、まどか」

戦いの高揚が静かに収まっていき、その後に柔らかで、暖かなものが満ちてくるのを

スゥは感じていた。

 

だが、そんなスゥの機体に。同じく並ぶ織莉子とキリカの機体にも、警報が走った。

「何だい何だい、今度は何なんだい!?」

「これは……まずいわね。さっきのΔウェポンのせいで、周囲の跳躍空間そのものが破壊されてしまったわ」

敵は倒したはずなのに、まだ窮地は終わっていない。

「それは……どうまずいんだい、織莉子っ」

「このままだと、跳躍空間が崩壊して、どことも知れない異層次元に放り出されてしまう。即座にこの宙域から脱出しないと……っ!?」

その時織莉子の意識に飛び込んできた、一つのビジョン。それはすぐさま現実に変わる。

爆発しながら潰えていくだけのはずだったファインモーション。その花弁が、まるで少女達を逃さないとでもいうかのように、狭まり始めたのだ。

このまま包まれてしまえば、共に爆発するか、それとも異層次元に放り出されるかだ。

 

「脱出を!……く、機体がっ」

やはりファインモーションは、少女達を道連れに潰えるつもりなのだろう。最後の最後に一際強力なトラクタービームが放たれ、三人の機体を捕らえた。そうする内にも、少女達を閉じ込めようと花弁は迫る。

 

それはまさしく、絶対絶命の危機。

 

 

「……英雄一人と兵士二人、比べるまでもないわね」

織莉子が、どこか諦めたような声を放つ。

「キリカ。いいわね?」

「織莉子が決めたのなら、私はいいとも」

キリカも何かを察したようで、同じくどこか諦めたように言う。

 

「何をするつもり、二人とも」

何か、その二人の言葉に危ういものを感じて、スゥが問う。

 

「貴女を助けるのよ。英雄さん」

「織莉子が助けると言ったなら助けるさ。……それに、私もキミにバイドを倒して欲しいと思っている」

少し笑って、二人は答えた。そして、二人の機体が同時に動く。キリカの機体が一際強く輝いて、狭まる花弁の動きが遅くなる。

「もう少しだけ、もう少しだけ頑張れ、私……っ」

そして織莉子は、人型に変形させた機体を、トラクタービームを発射する花弁に張り付かせた。そのままその手で、妖花の外壁をしっかりと掴まえて。

「これで動けるはずよ。……だから、行って」

確かにヒュロスの機体に遮られ、ラストダンサーを拘束するトラクタービームは弱くなる。

今なら、脱出できる筈だ。

 

スゥは、ラストダンサーを走らせる。けれどその胸中には戸惑う気持ちもあった。

ほんの一瞬とは言えど、彼女達は共に戦った仲間なのだ。その仲間が、命を賭して自分を救おうとしている。バイドを討つという願いを、託そうとしているのだ。

それがなんだか悲しくて、身を切られるように辛くて。そしてそれ以上に、更なる闘志が身を焦がして。

「必ず、必ずバイドを倒すわ。……貴女達の思いを、無駄にはしない」

それは、スゥにとっては初めての戦友ともいえる存在だったのだ。それを失ってしまうことが、悲しかったのだ。

今の今まで、スゥにとって大切なのはまどかだけだった。けれど今、スゥの中には確かに、仲間の事を思う気持ちが存在していた。

 

「……ええ、人類を。お願いするわ、ね」

「頼むよ。私達の分まで……思い知らせて、やって……くれ」

そして、ラストダンサーは狭まる花弁をすり抜けた。直後、完全に花弁は狭まり、ファインモーションは元の種の形を取り戻した。更に爆発。炎を噴き出しながらその姿が薄れて消えていく。

空間が完全に崩壊し、異層次元の彼方へと消え去っていくのだ。そして恐らく、何処とも知れない時空の彼方で潰えて消えるのだろう。

 

二人の、少女の命と共に。

 

 

「バイド……よくも、よくもっ!!」

スゥの胸に宿ったのは、新たなる闘志。今まではただ、まどかと共にあるために。まどかを守るために戦っていた。けれど仲間の、戦友の死が、そしてその思いを託されたことで、新たに戦う理由を得た。

バイドへの憎しみ。そして、その遺志を継ぐ。バイドを倒し、平和を取り戻す。その願いを、ついにスゥもまた背負うこととなったのだ。

 

 

 

「あーあ、ついに私達もここまでか」

崩れ行く妖花。その種の只中で。二人はついに最後の時を迎えていた。

 

「そうね、残念だけど……きっと、彼女なら大丈夫よ」

「そうだよね。私と織莉子が身をなげうって助けたんだ。やり遂げてくれなくちゃ恨むよ」

こんなときだからこそ、交わされる会話は軽やかで。

 

「……続き、できなくなってしまったね」

「そうね。本当に……もっと、貴女と触れ合いたかったわ。貴女と一緒に居たかった、貴女を感じたかった。……キリカ」

「織莉子……私も、私もっ。……好きだよ、愛してるんだ。だから、よかった。最後まで織莉子と一緒で、一緒に……最後を迎えられて」

爆発に煽られ、機体が激しく揺さぶられる。もう、幾許も持たないだろう。

 

「……私達はずっと一緒よ、キリカ」

「うん、一緒だ。ずっと……ずっと」

異層次元の遥か彼方で。妖花の種が。弾けて消えた。

 

 

「こちらラストダンサー。敵バイド中枢を撃破。跳躍空間の出口を発見。このまま先行し、敵バイドを殲滅する」

空間の歪みが消失し、艦隊との通信が回復すると、即座にスゥは通信を送った。そして、前方に広がる空間へと飛び込んでいく。そこは跳躍空間を越えた先。26次元の彼方。宇宙墓標群と呼ばれる、宇宙の墓場にしてバイドの巣窟。

ここを抜ければ、敵バイドの中枢はそこにある。

 

 

 

――オペレーション・ラストダンスが最期の行程に入った。

 

――まだ宇宙酔いも醒めないまま、私は、最初のターゲットに狙いを定めた。

 

 

魔法少女隊R-TYPEs 第17話

   『オペレーション・ラストダンス(前編)』

          ―終―

 




【次回予告】

多くの犠牲を払いながら、ついに人類はここまで辿りついた。

「ここが……バイドの中枢」

黄昏に沈む人類が、バイドに放った最後の一矢。

「ここまでかしら、私達も」

それが今、バイドを狙い、食い破る。

「ここで終わらせる!お前を倒して、私は帰るんだっ!!」

少女の祈りは、願いは、そしてその刃は今。
人類を救うために、振り下ろされる。

『今だよ、スゥちゃんっ!』

そして人類は、勝利を………。


次回、魔法少女隊R-TYPEs 第18話
     『オペレーション・ラストダンス(後編)』





――これでお別れだ、人類。
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