魔法少女隊R-TYPEs   作:SanDMooN

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英雄は、ついにバイドとの最後の決戦の地に降り立つ。
そこで待ち受けていたのは、圧倒的な異貌。そして人を模す最小たる異形。
それを捻じ伏せ、蹴散らし。英雄はその命を燃やす。

一方、太陽系で戦う少女達の元にも最大の危機が訪れようとしていた。


第18話 ―オペレーション・ラストダンス(後編)―①

赤く染まる異貌の宇宙。寄り集まった岩塊、や機械の残骸が作り出す複雑な地形。ここはバイドの巣窟。バイド中枢の前に立ちはだかる最後の壁、宇宙墓標群。

その只中を、ラストダンサーは駆け抜ける。

岩場の影や機械の隙間から次々に現れる小型バイド、アステロイドタランやバイドに汚染された歩行戦車、アレンをその弾幕を掻い潜りながら焼き払い、時にやり過ごす。

前部に堅牢な装甲を持ちつナスルエルを、ギガ波動砲の貫通力で打ち抜いて、数を頼りに押し寄せるキャンサーやリボーを片っ端から叩き落して。ラストダンサーの歩みは、未だ止まらない。

多くの犠牲と願いを背負い、少女は戦う。その犠牲が生んだ痛みを、憎しみを。そして平和への願いを、人類の種としての生存という根源的な欲求を。

その全てを糧に、力に変えて。それが生み出す歪んだ狂気の産物を、抵抗と復讐の産物たるR戦闘機を駆って、人類はバイドとの戦いを続けてきた。

それは人類の歴史の中から見ればほんの一時の、けれど、あまりに激しく苛烈な戦い。

 

その終止符を、討つために。

26次元の彼方で、少女は、偽りの英雄は、スゥは死と閃光の舞を踊り続けていた。彼女はまさしく最後の舞い手。その体たるラストダンサーもまた、遍くバイドの撃滅という断固たる意志を持って生み出され、正確にそれを為し続けていた。

 

敵の猛攻をやり過ごし、更に奥へと突き進む。この先にも巨大なバイド反応がある。ここでこれを潰して後方からの追撃を断ち、さらに討伐艦隊の進軍を助ける。

未だ討伐艦隊は跳躍空間の中にあり、通信は届かない。それでも、必ず来ているはずだと信じて、スゥは往く。

そんなスゥの眼前に、新たな敵が現れた。直接見るのは初めてだが、スゥはそれをよく知っていた。忘れようも無い異貌。けれどそれは、資料で見たものよりもずっと大きい。

「これは、アウトスルー……よね?」

そう、大きかったのだ。アウトスルーはインスルー同様全身に無数の節を持ち、そこから弾幕を展開する。けれどその節の一つ一つが、R戦闘機の倍はあろうかという大きさであったのだ。

ちなみに、インスルーとアウトスルーは名前も姿もよく似ている。実際、どちらも果たす役割は同様。わざわざ区別する必要があったのだろうかと思うほどである。

けれど、バイドに詳しい者からすれば、インスルーとアウトスルーにはバイド生物学上大きな差があるのだという。バイドについての講習を受ける中で、そのようなことを聞いたことを覚えていた。

もっとも、どこがどう違うのかなど、スゥには何も関係のないことだったのだが。

 

重要なのは、アウトスルーは常にゴマンダーと共にあるということなのだ。生命要塞ゴマンダー。この期に及んでその卑猥さをもって、その異貌と脅威をもってスゥの前に立ちはだかろうとしていた。

「……けれど、ゴマンダー程度、負けはしない」

もちろんゴマンダーはA級バイド。恐ろしい相手ではある。だが、それはあくまで通常戦力での打倒を目指した場合の話。対処法さえ覚えておけば、そしてラストダンサーの性能を持ってすれば、恐れるに足らない相手なのだ。

宇宙墓標群の中枢たるバイド。それがゴマンダーだというのならば、打倒は恐らく容易であろう。油断も慢心もしない。ただ、それでも倒すべき敵が明確になり、スゥは更なる闘志を燃やした。

節から放たれる弾幕を掻い潜り、フォースで受け止め。カウンターと言わんばかりに放つレーザーが、次々にその節を破壊していく。すぐさまアウトスルーは戦闘力を失って、逃げるように奥へと消えていく。

その後を追えば、間違いなくゴマンダーの元へとたどり着けるだろう。だが、敵もそうやすやすと追わせてはくれない。

スゥの行く手を塞ぐように、前後から大量のリボーが。そして地上には無数のアレンが展開し、一際激しい弾幕を展開した。

 

「わざわざ広いところに追い込んだのは、このためだったのね」

前後左右、そして上下も見える全てが、敵と弾幕に埋め尽くされる。地形を活かしただまし討ちの後は、ひたすらに物量による力押し。

確かにそれは脅威ではある、けれどそれは、受け手が並であればこそ。

 

「今更こんなもので、私が止められるかっ!!」

一瞬で、その場に展開する敵と放たれた弾幕を頭に叩き込む。レーザーで敵を薙ぎ払いながら急降下。追いすがる敵弾をぎりぎりまで引き寄せて急上昇。急に座標を変えた敵に、放たれる弾幕に隙間が生まれる。その隙間を縫って突き進み、対地レーザーが地上のアレンを一掃する。

けれど中には、耐久性の高いミサイル砲台、レリックも混ざっていたようで。レリックは対地レーザーの波を受け止め、そのまま対空ミサイルをばら撒いた。

スゥは波動砲をチャージしながら、対空ミサイルをフォースで防いでレリックに肉薄。猛攻を受けきる中で再度ドースを蓄えたフォースで、レリックを押し潰して焼き払う。

けれどすぐ後方に、もう一つレリックの反応がある。頭上には一瞬で大量のリボーが展開し、制空権を確保するため弾幕を放ち、頭上を押さえている。更に、天井の裂け目からはアステロイドタランにキャンサーが湧き出し、押し寄せる。

逃げ場の無いほどの濃密な弾幕。けれどもう、逃げる必要もない。

 

「ハイパー……ドライブっ!」

放たれる無数の波動の光。そしてそれと同時に、光の軌道を描いて廻るビット。

ハイパードライブは、それと同時に機体を守るためにビットによる防御を行う攻防一体の攻撃であり、機体の周囲を回転するビットは、次々に迫り来る敵弾をかき消していった。

 

ハイパードライブ発射と同時に浮上、敵弾を強引に掻き分けながら、連続して放たれる波動の光が、頭上に展開していたリボーやキャンサーを薙ぎ払う。

続けて即座にフォースを変更。R-9Sk――プリンシパリティーズの持つファイヤー・フォースへと変更され、そこから放たれた青い炎の塊、接触と同時に炸裂し、持続して炎によるダメージを与えるファイヤーボムが、天井を這うアステロイドタランを次々に焼き払っていく。

二重の表皮構造を持ち、耐久性に優れるアステロイドタランだが、その堅牢な表皮もまた生体組織。生体系バイドに対して絶大な威力を誇る火炎兵器の前には、抵抗することも許されず、超高温のプラズマ炎の中へと消えていった。

敵の猛攻を退け、道は開けた。

 

次に見えたその空間は、巨大な円筒のようだった。遥かに深く、底さえ見えないその空間。その暗い闇の底から、ラストダンサーを目指して再びアウトスルーが這い出してきた。

一度ゴマンダーの中へと戻ったのだろう。既に破壊された節は再生を遂げている。ゆっくりとその身をうねらせながら、節々から弾幕を放って迫る。更には暗い円筒の中で、保護色めいた漆黒を纏ってキャンサーが攻撃を仕掛けてくる。

けれど、そう。それさえもラストダンサーの前には無力。すり抜け、かわし、打ち砕き。ついにその円筒の底が見えてきた。

 

そこに見えたそれは、まさしく醜悪なる肉塊だった。

 

 

ゴマンダーは、あらゆるものをエネルギーとして吸収しどこまでも成長する。けれど、そのままでは無限に成長する自らを制御しきれず自壊してしまう。それを防ぐため、インスルーやアウトスルーに自らのエネルギーを消費させ、成長を抑制している。

そんな性質があればこそ、人類がかつて遭遇してきたゴマンダーは、どれも同じような大きさであった。

けれど、今この円筒の底を埋め尽くしたゴマンダーは違う。従来のそれの数倍にも値する巨躯。そして変わらず蠢く醜悪さ。これほどの大きさの物と遭遇したのは、人類史上初めてのことであった。

もっとも、ゴマンダーほどの大型バイドと遭遇したものなど、そうはいないのであるが。

 

『っ、あれは……』

脳裏に響くまどかの声は、どこか怯えの色を含んでいた。

「……心配ないよ、まどか。どれだけ敵が大きくたって、私は負けない」

その醜悪さに、異形に、巨躯に、もちろん怯えている所はあるのだろう。けれど、まどかの知るゴマンダーとの記憶。それは初めてバイドとの邂逅を果たした後のこと。頼もしい戦士であり、頼れる先輩であったマミが、小惑星帯の中で戦った相手。

勝利こそしたものの、その正体は擬態能力を持ったファントム・セル。その能力が次に生み出したドプケラドプスは、マミの命を一度は奪っていたのだ。

その時の記憶が、まどかの中で蘇る。

思えばあれが、彼女がバイドによって受けた初めての犠牲だった。

 

バイドとの戦いは、多くの命を奪っていった。まどかにとっても、その喪失の記憶は思い出せば胸がずきりと痛む傷だった。だからこそ、これ以上奪わせないために。これ以上失わないために、スゥはここにいるのだ。

その願いを託して、送り出したのだ。

『……頑張って。スゥちゃん。お願いだから勝って。……そして帰ってきて』

恐れに震え、記憶に傷つき。震えるようなまどかの声が伝わってきた。

まどかを悲しませるバイド。それは倒さなければならない。人の未来を閉ざすバイド。全て倒さなければならない。その為の力を手に、ラストダンサーは円筒を急降下していく。

ゴマンダーの弱点は、本体頭頂部に存在するコア。呼吸でもしているのだろうか、戦闘の最中であっても時折そのコアは露出される。その瞬間を狙って狙い打つことができれば、撃破はそう難しいことではない。

ギガ波動砲のチャージはまだ半分程度だが、それでも十分なダメージを与えるだけの威力はある。コアが開く瞬間を狙って、ギガ波動砲は放たれた。

コアの直上から、一直線に放たれた閃光がゴマンダーに突き刺さる。激しい光が、暗い円筒の中を一瞬明るく染め上げた。

 

その閃光が過ぎ去った後――ゴマンダーは、尚も健在であった。

 

「な……っ」

ギガ波動砲は、確実にゴマンダーのコアを貫いた。その閃光は敵を飲み込み、焼き尽くしたはずだった。だが、焼かれた表面には即座に新しい肉がぶくぶくと膨れ上がり、焼け爛れた痕を塞ぐ。

本来綺麗な青色をしているはずのそのコアは、どこかくすんだ色をしていた。

「インキュベーター。どうやら奴の弱点は露出しているコアではないらしいわ。解析はできているの?他の弱点があるなら教えなさい」

『どうやらあの固体は、通常のゴマンダーよりも遥かに進化した固体のようだね。体が大きいだけではなく、外部にコアを露出しないようにしたようだ。外側に見えているあのコアからは、ほとんどバイド反応は出ていないんだ』

ラストダンサーの情報を逐次受け取りながら、解析を進めていたキュゥべえが答えた。その言が正しいのなら、やはりあのコアは弱点ではないということなのだろう。

「そんなことはどうでもいいのよ。いいから早く、奴の弱点を教えなさい」

そう、そんな事実はどうでもいいのだ。必要なのは、敵を倒すための術ただ一つ。それさえ分かれば、それを実行するだけでいいのだから。

 

『あの固体のバイド反応は、内部からのものが強い。もしかすると、弱点のコアを体の中に隠したのかもしれないね』

「……試してみるわ。駄目ならその時よ」

 

 

すぐさまアウトスルーやキャンサーが、迎撃のために迫り来る。それ自体の回避は難しいことではなく、スゥは再びギガ波動砲のチャージを再開しながら回避を続けた。

狙うはアウトスルーの出入りする開口部。そこが開いた瞬間に、ギガ波動砲を叩き込む。それで駄目なら、流石に後がない。

 

チャージ中のR戦闘機は、その武装のほとんどを封印されてしまう。ほとんど唯一の攻撃手段であるフォースも、それで敵を攻撃するには接近せざるを得ない。アウトスルーの節は無数の弾幕を放ってくる厄介な相手だが、近づいて潰すのは危険すぎる。

だんだんと放たれる弾幕の密度が濃くなっていき、キャンサーもじりじりと追いすがる。少しずつ逃げ道を塞がれていく。神経を研ぎ澄ませ、臨死の舞を踊り続ける。

ギガ波動砲のフルチャージまでの、一分にも満たないその時間がやけに長く感じた。研ぎ澄まされた神経が、感覚を引き伸ばしているのだろうか。まるで周囲を飛び交う弾幕さえも、ゆっくりと流れているような気がする。

 

「っ、しまった!?」

かわし続けて追い詰められて、気がつくととぐろを巻くアウトスルーの身の内に、ラストダンサーは囚われていた。アウトスルーの節が発光する。それは、敵弾の放たれる予兆。取り囲まれた状況での一斉射撃。もはや、逃げ場はない。

完全に退路が閉ざされる前の一瞬。ほんの僅かに開いた活路。この空間を敵弾が埋め尽くす前に、駆け抜けることができれば。

だが、間に合わない。敵弾が放たれる……。

 

死に臨し、その死までの一秒が引き伸ばされていく。どこまでも引き伸ばされていく一秒がその時、不意に停止した。

 

世界が、全てが静止していた。

それに気付いたのは、見出した活路を駆け抜け、アウトスルーの囲みを抜け出した後。

 

「……敵が、止まっている?」

それは、かつて暁美ほむらが手にした力。僅かな時間ではあるが、時の流れを遮る力。一秒の時間が命運を分ける超高速の戦闘においては、それは圧倒的なアドバンテージ。その力が今この時、ラストダンサーに宿っていた。

呆気に取られる間もなく、即座に世界は動き始めた。再び動き出す弾幕を、スゥは慌てて回避した。

『魔力反応検知。……このパターンは、兵装の変更とは違うね』

「っ。どういうこと、インキュベーター」

キュゥべえが、何かを察したように言葉を放つ。

『ラストダンサーに搭載された切り札のが発動したようだ。ラストダンサーには、兵装の変更以外にもいくつかの魔法を使えるソウルジェムが搭載されているからね。結局、兵装の変更以外のソウルジェムは機体に馴染ませることができずに発動しなかったんだが』

「それが、今発動した……ということ?」

『そうだね、特に問題はないからそのまま搭載されていたようだけど。何かのきっかけで、それが発動したんだろうね。驚いたよ。ラストダンサーは今も進化を続けているようだ』

 

その力自体は悪いことではない。けれど、結局借り物の力なのかと嘆息したい気持ちもあった。この期に及んで、まだスゥ自身の持つ魔法は発現していなかったのだから。

「何だっていいわ。奴を倒すチャンスね」

そんな暗い気持ちを、言葉と同時に吐き捨てて。ギガ波動砲のチャージを完了させ、スゥは機首をゴマンダーの開口部へと向けた。口が開き、中からアウトスルーが出てくるより前に。

再び、ギガ波動砲の閃光がゴマンダーを貫いた。

 

「……冗談でしょう」

その閃光の中から突き出たアウトスルー。そして開口部の周囲は同じく焼け爛れてはいるものの、すぐさま噴き出した肉がその傷を塞ぐ。恐らく内部の損傷は軽微、もしくは皆無。

これですら駄目となると、最早打つ手はないのだろうか。

『これは想像以上だね。一旦撤退したほうが良いんじゃないかな。討伐艦隊の到着を待って、飽和攻撃で破壊するべきだと思うな』

確かに、敵がラストダンサーの力をもってしても破壊しえないというのなら、それ以上の火力を用意するためには、やはり討伐艦隊を集めての飽和攻撃しかないだろう。

だが、討伐艦隊は未だ跳躍空間の中にある。先の戦いで被った被害も大きい。すぐに到着してはくれないだろう。それまでの間、奴が大人しくしているのだろうか。

そしてなにより、こんなところで負けていいのか、逃げていいのか。ラストダンサーが討つべき本当の敵は、間違いなく更に強大な敵なのだ。こんな相手に、いつまでも手間取っていられるものか。

 

「……あいつの弱点は、内部にあるのよね?」

不意に、スゥはそう問いかけた。

『100%確実というわけじゃないけどね、大型バイドには須らく全体を統制するコアが存在している。それが外部にないというのなら、まず内部にあるだろうとは推測できるよ』

「……試してみるわ。次の一撃で仕掛ける」

 

三度、ギガ波動砲のチャージを開始する。他の波動砲を選ぶこともできたが、やはり威力という面ではこれに並ぶものは無い。長時間のチャージが必要だが、その程度の時間を稼ぐことは、無理なわけではない。

先ほどは巧みに退路を誘導され、アウトスルーの包囲を受けてしまったが、それすらも二度目は通用しない。

時間停止という強力な魔法は、どうやら自らの意志では発動できないらしい。きっと必要な時になれば、勝手に発動してくれるのだろうと割り切った。もとより、そんなものに頼りすぎるつもりは無い。

バイドは、この手で叩き潰して見せるのだ、と。

 

ラストダンサーのフォースが、更にその姿を変える。円錐状の先端部に無数の突起を構えたその姿。一言で言えばドリルである。まさしくその名もドリル・フォース。

ドリルは浪漫と言うには言うが、その浪漫を本当に形にしてしまった、困ったフォースである。とはいえ、その形状からなる突破力の高さは折り紙つきであった。

スゥは、そんなドリルフォースを閉ざされたままのゴマンダーの開口部に撃ち込んだ。閉ざされた肉の割れ目に分け入って、高速で回転するドリル・フォースが開口部をこじ開ける。更にフォースが周囲の肉を焼き払い、再生が始まる僅かな間にラストダンサーが飛び込んだ。

外からの攻撃では埒が明かない。ならば、直接内部から叩くのみ。勝負は一撃。そこでしとめ損なえば、ラストダンサーといえど汚染は免れない。

 

ラストダンサーが飛び込んだ直後、再生した肉が開口部をぴっちりと閉ざした。

最早、内部の様子は伺えない。

 

 

『そんな……スゥちゃんっ!』

傍から見れば、それは無謀な突攻にしか見えない。少なくともまどかにはそうとしか見えず、思わず心が悲鳴を上げた。

『それがキミの選択なんだね、スゥ。キミはもう少し賢いかと思っていたよ。……残念だ』

そしてそれは、キュゥべえにとっても同じだったようだ。あれではまず助かるまい、押し潰されるか汚染されて、それで終わりだ。

『キミなら、バイド中枢までたどり着いてくれるかと思ったんだけどな』

多分にその声に落胆を交えて、キュゥべえが言葉を放り投げた。

確かに苦境の連続ではあった。けれど、かつての英雄達と同様に、きっとやり遂げてくれると、そう期待していたのだがそれも裏切られてしまった。

『無念の内に、非業の死を遂げた英雄、か。……少し、弱いね』

なにやら意味深な呟きが、答えるものの無い虚空を揺るがした。

けれど、その声は届いた。そして言葉を返すものがいた。

 

「………勝手に、人を殺さないでもらいたいものね」

スゥの声が、それに答えた。

 

『スゥちゃんっ!?』

『驚いたな、まだ生きているのかい?』

ゴマンダーの体内に突入し、それで尚生きているというのか。まどかにとってもキュゥべえにとっても、それは驚愕に値することだった。

「ええ、そしてこれで……終わりよ」

直後、ゴマンダーの巨体が、その各所から激しい光が噴出した。ギガ波動砲が、ゴマンダー内部という逃げ場の無い閉鎖空間で、存分にその暴威を発揮しているのである。

コアを、そしてその体内を徹底的に焼き払われ、その巨体が崩れていく。更に本来コアのあるべき頭頂部から、一際強く光が噴き出して。その光に続いて、ラストダンサーが飛び出した。

 

この三度のギガ波動砲の衝撃に、円筒状の空間そのものが耐え切れなかったのだろう。崩れ落ちていくゴマンダーと同じく、その円筒も崩壊を始める。

この空間自体が、宇宙墓標群の中枢である。中枢を失い、岩塊と機械の残骸が複雑に絡み合った宇宙墓標群は、急速に崩壊を始めていた。

「……巻き込まれてはかなわないわ。このまま前進する。ここを抜ければ、バイド中枢にたどり着けるはずよ」

機体への損傷も、バイド汚染もまだ許容範囲内。ラストダンサーがその性能を十分に発揮するには、何一つ問題は無い。そしてラストダンサーはその身を翻す。崩れゆくバイドの巣窟を後にし、更に奥へと突き進む。

後続の艦隊も、この状況を見れば何があったのかを知ることができるはず。後詰めは彼らに任せることにした。

 

そしてスゥは、ラストダンサーはついに、作戦目標であるバイド中枢の存在する人智を超えた空間へと、その歩みを進めるのだった。

 

 

時を同じくして、太陽系でも最大の決戦が始まっていた。

今までの襲撃を遥かに上回る規模のバイド群が、太陽系内へと侵入を目論んでいる。だが例えどれほど敵の数が増えようと、迎え撃つ者の行動は変わらない。グリトニルを擁する太陽系絶対防衛部隊、そして魔法少女隊はそれを迎え撃った。

小惑星帯を舞台に、魔女兵器と正規軍をもって中央を抑え。さらにその両翼を、魔法少女隊と非正規部隊との混成部隊をもって抑えつける。それさえ崩れなければ、どれほど敵が現れようと問題は無いはずだった。

当初はその目論見どおり、次々と押し寄せる敵を中央へと誘い込み、撃破していくことに成功していた。だが、今回の敵はあまりにも多勢だったのだ。

開戦から30時間が経過した現在にあっても、敵の攻勢は一時として緩むことは無い。戦力的に余裕のある中央の部隊ならばともかく、両翼の部隊はろくに補給も受けられず、どんどんと消耗していった。

そして、ついに左翼が破られた。立て直そうにも、そちらへ差し向ける戦力もなく、仕方なく左翼への魔女兵器の投入が決定されたが、それすらも時既に遅く。左翼を破ったバイド群はそのまま、小惑星帯を迂回し、中央の部隊の背後を突いたのだった。

中央の部隊は必死の抵抗を行い、戦力の半数を失いながらもそれを撃退。しかし、戦力の半減した部隊では中央の戦線を保つことさえ困難だった。

尚もバイド群は続々と押し寄せる。そしてあまりに長く、そして激しく続いた戦闘は、小惑星帯にすらもおびただしい破壊を振りまき、そうしてできた間隙から敵の侵入を許してしまっていた。

 

 

 

「……何機、ついてきているかしら?」

ひしゃげて曲がった砲身を抱えたコンサートマスターが、ゲルヒルデが通信を送る。

「わかりませんが、最後の接触の中で、3機やられたのは確認しました」

隣に並んだガルーダが、マコトが通信に応えた。最早その機体にフォースはなく、軌道戦闘機の特徴たるポッドさえも片方が失われていた。

彼女達の部隊は、崩壊した左翼に展開していた。敵のあまりの多勢に、これ以上の防衛が不可能であり、このまま留まれば全滅は免れない。それを察し、ゲルヒルデは全部隊に撤退を指示した。

何とかこの死地を切り抜け、他の部隊と合流するようにとの命を下したのである。

 

だが、こうしてその戦場を切り抜け、ゲルヒルデと共にあるのはマコトの機影のみ。戦場の中で散り散りとなってしまい、他のメンバーの状況は杳として知れない。

もしやすると皆、敵に討たれて潰えてしまったのかもしれない。暗い不安が胸中によぎる。それでも戦わなければならない。まだ彼女達は生きているのだから。

「波動砲は……だめね。レールガンも弾切れとなると、フォースに頼むしかないわね」

少し余裕ができたところでようやく自機の状況を確認し、半ば嘆息するかのようにゲルヒルデが呟く。

「そっちはまだマシですよ、こっちはフォースもポッドもどこかに行ってしまいましたし」

同じく、溜息交じりに言葉を返すマコト。どちらの機体もいくつも被弾の痕があり、まさしく満身創痍といった状態だった。

 

「せめて、どこかで補給と修理を受けたいところだけど……前方の部隊はそんな余裕はなさそうね」

「一度、グリトニルに戻りませんか?補給を受けるなら、それが一番確実なはずです」

それも悪くない、と。マコトの言葉にゲルヒルデも心の中で頷いた。状況を見るに、他の場所もかなりの大混戦となっているはずである。あの死地を切り抜け、傷ついたままの機体で飛び込んでいくには分が悪すぎる。

となれば、一度補給を受けに戻る必要があるのは誰しも同じなのだ。それに、この状況をどうにかするには今展開している戦力だけでは足りない。グリトニルの防衛部隊にも出撃を要請するために、一度戻ったほうがいいのかもしれない。

「……そうしましょうか。でも、なるべく急いで戻ってきましょう」

もたもたしているとバイドの追撃を受けることにもなりかねない。即座に二機は機首を巡らせ、グリトニルへと進路をとった。

往復と補給でかかる時間は、決して短くはない。その間、皆が無事でいてくれることを祈りながら。

 

「どれだけ策を練って、入念に準備をして、腕を磨いても。全てを数と力で押し潰していくのね、奴らは」

無力さと悔しさをその言葉に滲ませて、ゲルヒルデは呟いた。通信にも乗ることのないその呟きには、応える者は誰もいなかった。

 

「グリトニル・コントロール。グリトニル・コントロール。こちらゲルヒルデ。補給のため一時帰投したわ。……グリトニル・コントロール?」

グリトニルとの通信可能圏内へと入ると同時に、グリトニルへと通信を飛ばす。だが、グリトニルからの返事はなかった。

代わりに飛び込んできたのは、全帯域通信で強制的に投げかけられた声だけだった。

 

「こちら、グリトニル駐留部隊。現在グリトニルは襲撃を受けている!バイドが基地内部に侵入している!誰でもいいっ!救援を……っ!!」

 

それは、助けを求める声だったのだろう。けれど同時に、断末魔の声でもあったのだ。

その声を最後に、全帯域に流され続けていたその声は、ぷつりと途切れてしまったのだから。

 

「……隊長。今の…は」

「認めたくはないけれど……どうやら、敵には別働隊がいたようね」

どちらも、声が震えていた。最悪の予想が正しければ、恐らくグリトニルは既に陥落したのだろう。太陽系外周を守る防衛ラインは、バイドに突破されてしまったということなのだ。

「そんな……そんなっ!?じゃあ……私達の、身体は」

魔法少女は、R戦闘機にソウルジェムのみを搭載している。戦闘中、その身体はグリトニルに安置されていた。そのグリトニルが、バイドによって陥落した。それはすなわち。

「……全滅、ね」

マコトのガルーダが、その動きを止めた。

今尚戦う魔法少女達、その数は尚も200を超える。その彼女達の帰るべき身体が、共に戦い、散ってきた仲間達の眠る墓標が、その全てが失われてしまったのだ。

あまりのショックに、言葉もなく立ち尽くすマコト。けれど、立ち尽くし、絶望に沈む余裕をバイドは与えてくれなかった。奴らがもたらすのは、常に死と破壊の中に激しく吹き荒れる、絶望の嵐だけだった。

 

「これは……バイド反応!?どうやら先ほどの通信を嗅ぎ付けられたようね。数はそう多くないけれど……まずいわね」

そして、状況は更に悪化する。

接近する敵は戦闘機型バイドで構成された部隊なのだろう。かなり足も速い。そう遠からず接敵するのは確実である。

「……マコト。貴女は今すぐ戻って、そして向こうで戦っている部隊にグリトニルの陥落を報せて。グリトニルが陥落してしまった以上、彼らは孤立無援になるわ。できれば撤退するように伝えて」

「……隊長は、どうするつもりですか」

暗く、沈んだ声でマコトは言葉を返した。

「ここで奴らの相手をするわ。片付けたら合流するから……行ってちょうだい」

そう、二人の機体は先の戦闘で推進系にも多少のダメージを受けている。この状態では接近する敵機を振り切ることは難しいだろう。だからこそ、足止めは必要なのだとわかった。

「じゃあ、私が残ります……帰る場所、無くなっちゃいましたから」

言葉に深い絶望を込めて、迫る敵機にマコトは静かに機首を向けた。絶望に浸りきった心に、沸いてきたのは更なる怒り。奪われてしまったものへの、復讐。

 

「隊長は……帰れるじゃないですか。だから生きてくださいよ」

マコトは知っていた。ゲルヒルデが、この戦いの後に望んだ願いを。そしてそれと引き換えに背負った闇もまた、知ってしまっていた。

ゲルヒルデの願いは、自らの身体と人生を取り戻すこと。だから彼女には、まだ生きる望みはあるはずなのだ。そして、自分のそれは今失われた。

「生きる望みのある人間が、生き延びるべきでしょう?」

「……確かにそれは道理ね。だから、貴女が行きなさい」

けれどそれに応える声は、微笑み混じりの優しい声で。

「隊長。貴女が私達の事を大事に思ってくれているのは分かります。でも、私達はもう死人なんですよ。だから、死んだ人間にいつまでも構わないでください」

マコトは投げやりに言葉を放つ。けれど、その胸はずきずきと痛んだ。痛む身体は失ってしまったはずなのに、きっと心が痛いのだ。

「違うわ。貴女達はまだ生きている。そして、これからも生きられる」

「生きてはいけるでしょうね。一生をこんな機体や装置の中で過ごすつもりなら。私は……そんなのは嫌だ。そうまでして、生きていたくなんか……ない」

 

「よく聞いて、マコト。私がこの望みを叶えることができるということはね、そうする方法が必ずあるということなのよ。それを使えば、貴女達も救うことができるかもしれない」

絶望に沈み、今にもその身を投げ捨てようとしているマコトに、静かに落ち着いた声でゲルヒルデは告げた。

「でも、それができるのは隊長だけでしょう?私達には、もう……」

「方法があるなら、私はどんな手を使っても貴女達を助けてみせる」

不意に、とても力強い声でゲルヒルデが言う。そこには、強い決意が色濃く滲んでいた。自分の人生を、命を賭してでも仲間達を救ってみせるという、覚悟が。

「信用できないのなら、一つ賭けをしましょう」

「賭け……ですか?」

その言葉には、何か悪戯っぽい響きも混じった。

「貴女はこのまま戻って、グリトニル陥落を報せて。私はここで敵を食い止める。……そして、私は必ず生きて帰ってみせる。それができたら、私を信じてちょうだい。それを、向こうで戦っている私達の仲間にも伝えて」

「え……っ」

その言葉は、マコトにとっては意外なものだった。

ここで足止めに残るということは、間違いなく死と同義だと思っていた。

「ふふ、足止めとはいったけれど、刺し違えるとまで言ったつもりはないわよ、私は?」

その笑みと、力強い言葉に送り出されて。マコトのガルーダは、急速に宙域を離脱していった。「信じています」と、一言小さな願いを残して。

 

「……さて、と。これで簡単には死ねなくなっちゃったわね」

その背に背負う命の重さ、最初はそれが重かった。いつからだろう、その重さが心地よく感じられるようになったのは。誰かのために、守るために、その力を振るうことができるようになったのは。

それもきっと、素晴らしい仲間達のおかげだろう。生きて戻ってまた会いたいなと、そう思う。

「生きるために、生かすために戦いましょう。……行くわよ、コンサートマスター」

その声に答えるように、コンサートマスターは光を纏う。柔らかで力強い強い黄色の光を。そして、ついに太陽系への侵入を果たしたバイドへとその意識と力を向けた。

 

深淵へと続く洞窟。その只中をラストダンサーが行く。

宇宙墓標群を抜け、バイド中枢へと向かうこの道は、まるでどこまでも続いているかのように長かった。だが、そこにはバイドの姿は一切存在していなかった。

けれど、本当にこの先がバイドの中枢であることは、疑うべくもなかった。その空間そのものなのか、それともその奥にある何かなのか、それが非常に強大のバイド反応を放っていたのだから。

いつどこから敵が襲ってきてもおかしくはない。それでもその洞窟の中は静かで、ラストダンサーもまた静かにその空間を突き進んでいた。長らく静かで、少なからぬ退屈をスゥが覚え始めたその時に、前方に何かが見えてきた。

それは……。

 

「……これは、液面?」

得体の知れない液体が、洞窟内部をひたひたと満たしていた。洞窟の岩肌の色とも違う、それは琥珀色の液体だった。

『無重力の宇宙空間だというのに、バイドのやることはわからないね』

同じく状況を確認したキュゥべえが、不思議そうに呟いた。

「なんだっていいわ、そんなこと。この先にバイドの中枢があるのなら、突入して破壊するだけよ」

その液体自体からは、バイド反応はほとんど検知されない。突入したからといって、それで汚染される心配は無いだろう。それを確認した後、ラストダンサーは謎の液体の内部へと侵入を開始した。

 

「特に、何も無いようだけど」

液体内部に突入するも、やはりバイドの反応はない。多少機体にかかる抵抗は増すが、その程度で動きを阻まれるほどR戦闘機は柔ではない。

辺りを警戒しつつ、ラストダンサーは奥へ奥へと進んでいく。

『解析のほうは問題なく進んでいる。驚いたよ』

「何か分かったのなら、勿体つけずに言いなさい」

やはり、スゥのキュゥべえに対する反応にはどこか棘がある。今までのことを考えれば、当然と言えば当然なのだろうが。

『不思議なことにね、この液体の構成物質はキミ達にとっても馴染み深いものだ。構造自体は多少異なるが、それはアミノ酸と塩基に近い』

『それって……普通に人にもある物質、だよね』

こんな異層次元の深淵で、バイドの巣窟を抜けた先で。まさか、こんなものに出くわすことになろうとは。まどかの声も、少なからず驚きを含んだものだった。

『ああ、まさしく人の身体を構成する主要物質だろうね。……バイドは人とよく似た遺伝子構造を持っている。別に不思議じゃないさ』

バイドも人も、同じようなものだと言うのだろうか。学術的に言えばその通りであるという。

人類とバイド。決して相容れないはずの存在なのに、とても近しいというパラドックス。もしかするとそれは、似ているからこそお互いを排斥しあう、近親憎悪にも近しいものなのだろうか、とも思ってしまう。

 

 

 

『でも、この塩基構造は……』

何かをキュゥべえが言いかけたその時、突然に洞窟が消え去った。洞窟の壁面が消失し、後にはひたすらに琥珀色の空間が残されている。いつしか、液体さえも消えていた。

眼下に、背後に、頭上に。全方位に琥珀色の液体が広がっている。それは周囲を液体に囲まれた円筒。恐らくそれが、ラストダンサーの進むべき道。

「どうやら、連中は私を招待してくれているようね」

スゥは、それを察していた。

洞窟が消え、液体が道を開ける。その瞬間、今まで感じていたバイド反応が、より強く大きくなったのだ。その存在する場所は、この道の先。恐らく最奥。

「後は、このまま突き進んで破壊するだけよ」

『スゥちゃん……これで、最後なんだよね』

そこにいるのがバイドの中枢だというのなら、それを破壊すれば全てが終わる。けれど、本当にこんなにあっけなくていいのだろうか。まどかの声は、どこかそんな不安を感じ取っているようだった。

「……終わりにするのよ、私が、この手で!」

そんなまどかの不安を払拭するように、スゥは力強く応えた。そしてラストダンサーは駆ける。人とバイドの戦いの歴史。それに終止符を打つために。大切な人のため、共に戦ってきた仲間のため。そして全ての未来のために。

 

そしてついに、バイドもその脅威を認識した。自らを滅ぼしうる脅威。幾度と無く戦いを続けてきた、恐ろしい敵。

そう、人類にとってバイドがそうであるように、バイドにとっても人類は恐ろしい敵だったのだ。だからこそバイドもまた全力をもって、その脅威を排除するための行動を開始した。

 

ラストダンサーのセンサーが、バイド反応の出現を捉えた。だが、それとほぼ同時に何かがラストダンサーの眼前に飛び出してきた。

「これは……一体っ」

それは無数の棘を持つ球体。そして、その前面には大きな眼のような器官を持っていた。赤が一つに肌色が六つ。凸状の編隊を組んでいる。七匹のバイドの、七つの眼がラストダンサーを見つめていた。

それはまるで、背後の液面から湧き出るようにして現れた。それこそまさしく、今この瞬間に生み出されたかのように。

「……でも、動きは遅い。この程度ならっ」

サイクロン・フォースから放たれたスルーレーザーが、球状バイドを切り裂いていく。耐久性は低い。動きも遅い。攻撃らしい攻撃もない。ラストダンサーにとって、それは恐れるに足らない相手だった。

さらに続けて現れた敵の編隊を、スルーレーザーで引き裂いて、そこでスゥは気付く。恐らく敵は、赤い個体を中心に構成されているのだろう。赤い個体が撃破されると、他の個体も共に潰えてしまっている。

「戦う分には、これだけ分かれば十分ね」

進路を塞ぐように上下から迫る敵を破壊して、更にラストダンサーは突き進んでいく。

 

『これはデータにない、新種のバイドだね。 恐らくこの液体から生まれたものだろう。塩基構造を元に構成され、バイドによって変質した生命体。これは、生命体と呼んでいいのかすらも危ういところだ』

キュゥべえの声は、どこか面白がっているような声だった。

『わかるかい?このバイドの構造は、バイドによって変質はしているが、人の遺伝子を構成するそれに非常に酷似しているんだよ。そうだね、あの赤い個体はチムス。あの肌色の個体はシュトムと名づけようか』

「名前なんてどうでもいいのよ。他に何か分かったことはあるの?」

散発的に襲い来るチムスとシュトムの群れを薙ぎ払いながら、スゥが問う。

『そうだね、特に言うことはないよ。あのバイドは攻撃手段に乏しく、耐久性も低い。ラストダンサーの戦闘力の前では、恐れるに足らない相手のはずさ』

「……それだけ聞ければ十分よ、このまま殲滅する!」

再び破壊の力を宿して、ラストダンサーが――

 

 

――それは、男の姿をしていた。

 

――距離を置いて向かい合う、女がいた。

 

――二人はゆっくりと距離を詰めていく。やがてそのシルエットが、抱き合うように一つになった。

 

 

「っ!?」

突き進もうとした刹那、スゥの頭の中に飛び込んできたそのビジョン。バイドの精神汚染だろうかと、気を引き締める間すらもなく、スゥとラストダンサーの前に、新たなる敵が現れた。

それはまさしく壁。藍色と、そして黒色の球状バイドが壁のように立ちはだかっている。その壁はそのまま、ラストダンサーを押し潰そうと迫っていた。

すぐさまスルーレーザーが、壁の前面を覆う藍色のバイドを引き裂いた。だが、その背後に立ち並ぶ黒色のバイドは一切の損傷を負ってはいない。

敵はかなり堅い。ならばこちらも手を変えるまでだと、フォースをギャロップ・フォースに変更し、最大収束のレーザービームが黒色バイドを撃つ。しかし、それでさえ敵は無傷。

ならばと次の手を考えている最中、藍色のバイドの眼に光が宿った。内部に熱源。そして次の瞬間、無数に並んだ藍色バイドの眼から光弾が放たれた。

ラストダンサーを狙って放たれる光弾。敵は統率の取れた動きでもって、一斉に同じタイミングで光弾を放った。

狙いは悪くない。けれど、所詮はそれだけだった。タイミングをずらすことも、こちらの動きを予測して射撃することもしない。ラストダンサーはゆっくりと機体を後退させ、敵弾を全てフォースで受け止めた。

敵の攻撃は恐れるに足らない。だが、こちらの攻撃も十分に効果を及ぼしているとは考えづらい。

どうするか、と考える。

 

『あの藍色バイドはアデン、黒色バイドはグアニムと言った所かな。やはり同じく、人の遺伝子を構成する塩基とよく似た構造を持っているよ』

「名前なんてどうでもいい。そう言ったでしょう。……グアニムと言ったかしら?奴には攻撃が効かない。何か奴を倒す方法はあるの?」

名前など知らぬとは言うものの、それでもやはり個体を識別する名称の存在はありがたい。グアニムの堅牢さをいかに破るか、その術をスゥは求めていた。

『どうやらこれら四種のバイドは、一つの群れを作って生息することが多いようだ。そして、その中枢には必ずチムスがいる。チムスはどうやらその群れを統率する役割を持っているようだから、それを破壊してしまえば』

「そうすれば、奴らを倒すことができる。そういうわけね」

『可能性は高いと思うな。チムス、シュトム、アデン、グアニム。これらのバイドの寄り集まる様は、まるでまさしく人の遺伝子構造のようだ。そうだ、この群れをゲノンとでも名付けることにしよう』

TEAM R-TYPEに毒されて、キュゥべえにも研究者気質が感染してしまったのだろうか。未知のバイドを前に、半ば感心したように解説や命名を行うその様子は、どこかあの狂気の科学者集団のそれを彷彿とさせていた。

 

「もう、勝手にしなさい。とにかく、チムスを探して破壊するわ」

アデン。どうやら内部にエネルギーを生成する器官を持ち、そのエネルギーを光弾として発射するバイド。そのアデンが打ち出す光弾を、こともなくかわし、時にフォースで受け止め。スゥはチムスを探して飛ぶ。そしてそれはすぐに見つかった。

アデンの群れの只中、一匹だけ赤いチムスの姿があった。

「……これで崩れてくれればいいのだけど」

近距離まで近づいて、ショットガンレーザーを一発。チムスの脆弱な身体を破壊するには十分な破壊力が炸裂し、そのままチムスは砕け散る。

次の瞬間。その崩壊をトリガーとして、アデンが、グアニムが続けざまに崩壊を始め、数秒もかけることなく、恨みがましい視線だけを残して全てのバイドが消え去っていった。

だが、それで終わりというわけではないようだ。アデンとチムスで構成されたゲノンが、前後から次々に湧き出してくる。そして周囲を取り囲むように展開し、光弾による攻撃を開始したのだ。

 

「……これは、長くなりそうね」

その攻撃をかわし、更に反撃で敵を焼き払う。正確にラストダンサーを狙い来る弾幕は、スゥに足をとどめる余裕を与えてはくれなかった。

そして更に、チムスとシュトムで構成されたゲノンが四方から迫る。チムスを中心に、棒状に構成されたゲノンは回転しながらラストダンサーへと迫っている。降り注ぐ弾幕、そして自らを武器として迫り来るゲノンの群れ。

ついにバイドも、その威力の全てをもってラストダンサーを排そうとしていた。最早、疑いようも無い。

『バイド反応多数出現!すごい数だ、そっちに向かっているよ!』

これだ、この戦いこそが。バイドと人類の命運を分ける戦いなのだ。

『スゥちゃんっ!負けないでっ!』

空間を埋め尽くさんばかりに、数を頼りに攻め立てるシュトムの群れ。

 

――ここまで来て、躊躇うことは何も無い。

 

――ただ目の前のバイドを破壊し、この先へと突き進むだけだ。

 

――バイドを倒して、地球へ帰ろう。

 

「――さあ、行くわよ。ラストダンサー」

 

そして光を放ち、纏い。

ラストダンサーは、シュトムの群れへと食らいついていった。

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