魔法少女隊R-TYPEs   作:SanDMooN

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バイドの悪夢は終わりを告げた。人類は、新たな歴史を歩み始める。
生き残った全ての者達が、その一歩を踏み出した。

これはそう、終わる一つの物語。そして、始まる新たな物語。


第19話 ―終わる、一つの物語―⑥

太陽系のいたるところで、人類の必死の抵抗は続いていた。逝ってしまったはずの者達が、願いによって帰還したとは言え、それでも本格的に太陽系内へと侵入し、既に増殖を開始していたバイドとの戦力差は、既に覆しがたいほどに広がっていた。人類の敗北は、そう遠くない未来として誰しもの脳裏に浮かんでいた。

それでも、人類は決して諦めはしない。最後まで戦いぬくと願ったのだから、その願いと引き換えに、再び戦う力を得たのだから。

 

それは、あるいは呪いにも似て。

 

けれどそうして戦い続けていたからこそ、人類はその瞬間を迎えることができた。長きに渡って人類を苦しめ続けたバイドとの、決着の瞬間を。

 

 

それに最初に気付いたのは、きっと名もなき兵士だったのだろう。群れを成し、全てを押し潰さんとばかりに迫るバイドの群れ。必死に戦い、多くの仲間達が散っていった。

最早残るは彼一人。それでも彼は立ち向かった。けれど現実はかくも過酷、ついには彼の機体はバイドの凶刃によって貫かれ、その動きを停止した。後は蹂躙され、喰らい尽くされるのみ。

すぐに訪れる死を、固く目を伏せて迎えようとした。けれど、その死が訪れることはなく。恐る恐る目を開くと、その視界に広がる全てのバイドが、動きを止めていた。

 

「何が、どうなってるんだ……これは」

恐る恐る呟くも、バイドは一切の活動を停止したままだった。信じられないといった顔で、それでも震える手で機体の各部に再起動をかけた。損傷した回路をバイパスし、どうにか機体のコントロールを取り戻す。

おっかなびっくりとバイドから離れ、ようやく少し落ち着いて。

 

「まさか、これは……」

 

 

それと同じ光景が、太陽系のいたるところで見られていた。

あるものは戸惑い、あるものはそれを好機とばかりにバイドを打ち砕いていった。

 

「これはつまり、そういうことなのだろうな」

あちこちでばらばらに展開されていた戦線をどうにか取りまとめ、反撃の用意を進めていた地球連合軍の司令は、その光景が意味することをいち早く察し。

 

「英雄はやられたようにも見えたが、そうではなかったのか?」

「バイドの動きが止まったのなら、今のうちに部隊を再集結させるべきなのではないか」

「だが、一体何故……」

高官達の間にも、戸惑いと希望がない交ぜになったような表情が浮かぶ。

「なんにせよ、バイドの動きが止まったのは事実だ!今こそ最大の好機だ!全部隊に、周辺バイドの掃討及び再集結の指示を伝えろ!ここで終わりにするんだ、長々と続けてきたバイドとの戦いをなっ!」

そんな戸惑いをかき消し、司令は力強く叫んだ。

 

「今まで散々やってくれたじゃないか、バイド共。今度はこっちが蹂躙する番だ。……我々の苦痛と絶望が生み出した力、その身をもって知るがいい」

その瞳には、ぎらぎらとした強い光が灯されていた。

自ら敵を討つ事ができないことが悔しいとすら思えるほどに、激しい怒りと喜びに満ち満ちた表情であった。

 

その言葉と意志を受け、各地で人類の反撃が開始された。反撃とは言うものの、バイドはその攻撃本能を司る器官を失っている。攻撃本能のみに衝き動かされて活動を行っていたバイドにとって、それは最早死も同義。

それゆえに人類は、最早死骸にも等しいバイドをひたすらに、ただひたすらに蹂躙し始めたのだった。バイドに対する激しい怒りがそのまま形になったかのような、あまりにも苛烈な蹂躙であった。

そんな蹂躙の最中、無数のバイドの死骸の中に佇む一機のR戦闘機があった。そこに築かれていた死骸の山は、バイドが活動を停止するより前に築かれていたもので。それを築き上げたたった一機のR戦闘機、それは蘇りしかつての英雄、スゥ=スラスターの駆るラグナロックだった。

 

「バイドの動きが止まった。……やり遂げたのね、あの子達は」

彼女は自身の経験から、そして半ば直感的にもそれを悟った。

それはすなわち、最早バイドは脅威ではなくなったということで。

「だとすれば、先にこっちを片付けることにしよう」

ラグナロックがその眼前に捉えていた巨大な物体へと近づいていく。それはバイドの猛攻に晒され、かなりの損傷を受けていた。最早元の姿を推測することすら困難だが、その残骸からそれが巨大な人口天体であることは伺える。

 

それはかつてアークと呼ばれた人類の箱舟であり、無数の死と絶望を内包する世界新生のための種子。

そして今は、無残にも打ち砕かれた異星人の夢の亡骸。

スゥ=スラスターはバイドの群れを千切っては投げ、追い回しているうちにいつしかこんなところへ辿りついていたのだった。

 

「……通信に応答はなし。生命反応は……これだけ巨大だとどうにもわからないな。生き残りがいるとは思えないけど、一応調べておくとしよう」

ほんの少し考えて、ラグナロックはアーク内部へと侵入を開始した。それを阻むものは誰もいない。そしてそのことを知るものもまた、誰もいなかったのである。

 

 

夢を見ていた。

夢など見るはずもないのに、それはまるで夢のように彼の脳裏に浮かんでいた。

 

それは、果たして作り変えられた世界なのだろうか。

それとも、この世界とは別の可能性の世界なのだろうか。

いずれにしても、彼が夢見たその世界は、今この世界とは近しくも遠い姿をした世界であった。

 

契約と願いが魔法少女を生み、それが魔女を生む。

そうして生み出されたエネルギーが、宇宙を存続させるための糧となる。

非常に効率的で、それでいて完成されたシステムだった。

そのシステムを維持させることこそが、彼の、否彼らの存在意義であったのだ。

夢の中の世界では、非常にそのシステムは上手くいっているように見えた。

それはまるで、バイドという脅威に晒される以前のこの世界のように。

 

その時彼の胸中に浮かんだ感情は何だったのだろう。

憧憬じみたものだったのだろうか、それともそれは後悔、あるいは悔恨のようなものだったのか。

とにかくそこには、悲しみじみた感情が薄暗く広がっていた。

 

その世界にも同じように、彼らが生み出した無数の魔法少女と魔女がいた。

そしてこの世界にも、彼にとっては忘れることのできない魔法少女達がいた。

彼女達は魔法少女の運命に抗うことなく、次々にその身を散らせていく。

けれど、全てが終わろうとしていたその最後の最後で、またしても彼女が、鹿目まどかが全ての条理を覆すのだった。

 

それは最早、宇宙の再生にも等しい行為。

彼がどこまでも望み、そして決して果たすことのできなかった夢。

その夢を、彼の夢を阻んだ当の鹿目まどかが実現させていた。それが、余りにも悔しくて、悲しくて。

彼は、思わず叫んだ。

 

 

「どうしてキミはこうもボクの邪魔ばかりするんだ、鹿目まどかっ!!」

その叫びが声として発せられたことに気付いて、彼――キュゥべえは、自分がまだ生きているということを知った。

「ボクは……まだ生きているのか?でも、何故……?」

呆然と声を放ち、辺りを静かに見渡した。明晰な頭脳も高度な知性も、今は空しく空回りをするだけで。視覚から取り込まれる無数の情報も、その一切が形になることはなかった。

故にそれを補うように、聴覚はその情報を伝えるのだった。

 

「人の言葉を話せるとは、驚いたわね」

その声は、とても聞き覚えのある声。けれど、どこか調子の違う声。彼の知っているはずのそれよりも、随分と人間味のある声だった。

そこでようやくキュゥべえは気付く。自分のいる場所が、R戦闘機のコクピット内であるということに。そしてその声の主は、暁美ほむらやスゥと同じ顔をしているということに。

 

「キミは……一体何者なんだい。まさか、暁美ほむらがこんなところにいるはずがない」

キュゥべえの声に、スゥ=スラスターはあからさまに怪訝そうな表情を浮かべて、ぐい、とキュゥべえに顔を近づけた。不思議そうに歪んだ表情が、困惑に揺れる赤い瞳をじっと見据えて。

「それはこっちの質問だ。お前こそ一体何者なの?妙なナリをしているくせに人の言葉を喋る。それどころか、随分と色々と知っているようじゃない。……私達は、もう少しお近づきになる必要があるとは思わない?」

不思議そうに歪んだ表情が、どこか好奇の色を帯びる。その唇は不敵に歪められ、僅かに犬歯が覗いて見えた。そのままずい、と更に彼女は顔を近づけた。

 

どうにもその口ぶりは暁美ほむらのそれではない、かといってスゥのそれでもない。だとすれば、残る可能性はなんだ。その事実に思い当たると、それは随分と馬鹿げた話に思えた。

けれど、それはありえないとは言い切れないことであった。

「まさかキミは……スゥ=スラスター?」

「……勝手にあれこれと話を進められるのは、あんまり気分がいいものじゃないんだけど。具体的な説明を要求するわ。お前は何者?何故私や暁美ほむらのことを知ってるわけ?」

ますます訝しげな表情になって、スゥ=スラスターはぎろりとキュゥべえを睨んだ。

 

「……答える必要は無い、と言いたいところだけどね。別にいいさ、もうどうだっていい。ちょっと長い話になるけど、それでもいいかい?」

恐らく自分は、復活した英雄ことスゥ=スラスターによって助けられたのだろう。その事実にはすぐに思い至った。けれどそれは、最早彼の計画は完全に失敗してしまったということを示していて。

失敗した。全ては無為に終わってしまった。今更に大きな虚無感が胸を満たして。諦め混じりに、キュゥべえはスゥ=スラスターにそう答えるのだった。

 

そしてキュゥべえは静かに、まるで自分自身が思い出すかのようにゆっくりと話し始めた。

インキュベーターという種のこと、魔法少女とR戦闘機のこと、暁美ほむらやスゥ、鹿目まどかのことを。思い返して話してみれば、魔法少女達と過ごした日々は思いがけず悪くないと、そう思わせるような思い出だった。

いつしかその口調が、何かを懐かしむようなものになるのをキュゥべえは感じていた。

 

そしてようやく、キュゥべえは全てを話し終えた。

 

 

「俄かには信じがたい話ね。というか、その話を聞く限り思いっきりお前は私達の敵じゃない。まあ、失敗したようで何よりだけれど」

些か信じがたい。けれど、こうして自分が生きていること自体が不可思議。だとすれば、このくらいの不可思議が起こったとしても不思議はないのかもしれない。

とりあえずは、そう納得しておくことにした。

「そうさ、ボクは負けたんだ。バイドに、そしてキミ達人類に。……全く、笑えない話さ。ボクがしたことが結局鹿目まどかを、ひいては人類を助けることになってしまったのだからね」

自嘲気味にキュゥべえは笑って、仰ぎ見るようにスゥ=スラスターを見た。

「キミはどうするんだい、スゥ=スラスター。ボクをここで始末しておくかい。多分そうするべきだと思うよ、ボクは人類に敵対したんだからね」

 

「それでもいいけど、どうせならもっとはっきりと報いを受けてもらうわ」

にたりと、スゥ=スラスターはキュゥべえに笑みを向けた。

なにやら、とても楽しそうな顔だった。

「お前の身柄は軍に引き渡す。ついでにお前の悪事も纏めて暴露してあげる。さて、どうなるかしらね。……とりあえずTEAM R-TYPE送りからかな?」

「………大人しく死なせてくれないかな」

「だが断る」

非常に冷たい空気が、ラグナロックのコクピット内に漂った。確たる感情を得て改めて彼らの所業を省みると、それはもはや筆舌に尽くしがたい所業であるという事を、この期に及んで、キュゥべえでさえも理解していた。理解してしまっていた。

なんと不幸なことか。

 

「そんなことより、キミはこんなところで油を売っていていいのかい?バイドの相手をしなくていいのかい、まだまだバイドの脅威は消えていないはずだ」

「多分、それはもう終わったわ。……あの子達のおかげでね」

その言葉に、キュゥべえは絶句した。まさかそんなことが起こりうるとは、信じられなかった。信じることができなかった。

彼らの優れた技術でさえ及ばなかった絶大なる強敵、バイド。それを、遥かに劣る種として見下していた人類が打倒するなどということは、絶対に認めることができなかった。

けれど、この状況は彼にその事実をまざまざと示していた。

「はは……ははは、ますます滑稽じゃないか。とんだお笑いだ。ボクのやろうとしたことが、結局巡り巡ってどこまでも人類に利することしかできないなんてさ」

どこまでも暗い感情が、胸の奥底から込み上げてきた。それはかつて彼らの道具でもあった感情。絶望と呼ばれるそれだった。

全身の力が抜けた、そのまま、倒れこむように地に身を伏して。

 

「お蔭様で、人類は救われるわ。おまけに私も救われて、随分とご都合主義な結果に終わるみたいね。さあ、それじゃあ残りのバイドを蹴散らして……っ?」

そう、人類は救われ、バイドは消える。失われた命は蘇り、かつての英雄さえもその翼を取り返す。それは、余りにもご都合主義な展開だった。

確かに奇跡は世界を救った。だが救われたその世界は今、ついに奇跡の対価を求めた。それは当然の帰結であり、必然として起こってしまうことだった。

 

それは降り注いだ奇跡に等しく、太陽系のあらゆる場所で起こり始めた。

奇跡の対価。修復された機体や、新たに再構成された物質達が消え去るわけではなかった。それらは既に、この世界に存在している物質なのだから。

けれど、呼び戻された命は違う。彼らは今も、在る者と在らざる者との狭間にいた。その狭間に彼らを繋ぎとめていた力が、奇跡の対価として奪い去られていった。

 

蘇り、太陽系のいたるところで戦いを繰り広げていた戦士達。彼らの命が、あるべき姿へと戻る。在るべき者は在るべきままに、在らざる者は、再び在らざる姿へと。

彼らに悔いがないはずはない。それでも、彼らは笑って往くだろう。ついに悲願が叶ったのだから。バイドを倒す、平和を取り戻すという、人類最大の願いがついに、叶う時がきたのだから。

 

「あばよ、戦友」

だから彼らは、どこか寂しく笑って逝った。

満面の笑みと、どうしようもない涙でくしゃくしゃになった顔で、泣いて、笑って。消えていった。

 

そしてそれは、かつての英雄にとっても同じことだったのだ。なぜなら彼女もまた、在る者と在らざる者との中間に生きていたのだから。死すべき定めを負いながら、無理やりに生かされているだけの存在だったのだから。

 

「何……これは、身体が……」

スゥ=スラスターの操縦桿を握った手が、不意に動きを失った。それだけではない。全身の感覚が急速に失われていく。奇跡が消失し、その代わりに本来あるべき死が彼女の全身を蝕んでいた。

「どうやら、キミも限界のようだね。……助かりたいかい、スゥ=スラスター。ボクと契約すれば、その願いでキミは助かるかもしれないよ」

そんな彼女を、まるでかつての姿のように、感情の無い瞳で見つめながらキュゥべえは問いかけた。

「……何を、企んでいるのかしらね」

「今更何を企めるって言うんだ。キミには、一応助けられた借りがある。それくらいは返しておこうと思っただけさ。……信じるも信じないもキミの好きにすればいいさ」

その瞳が無表情に見えたのは、本当に感情が無いからというわけではなく。ただ単に、全てを諦めてしまったからというだけで。どこまでも、虚ろになってしまったというだけで。

それでもそんなことを持ちかけたのは、一体どういう気まぐれなのだろうか。もしやすると、本当に恩返しのつもりなのかもしれない。

 

「そう、ね。じゃあ……私の願いは」

急速に死に近づく身体をどうにか動かして笑い、スゥ=スラスターは願った。

 

 

「契約は成立だ。……本当に、キミ達人間はわけが分からないよ」

その願いを聞き届け、呆れたように笑ってキュゥべえは静かに言葉を吐き出すのだった。そして閃光とともに、澄んだ金属音が一つ。コクピットの中に転がった。

 

 

バイドの能力によって生み出されていた、遥かなる異層次元―26次元は、その核を為していたバイドの消失と最終波動砲の威力によって崩壊した。崩壊した空間はそのまま通常空間へと回帰したが、そこは太陽系からは遥かに遠い場所だった。

それは恐らく距離という意味でも、時間という意味でも、遥かな隔たりの果てにある場所だった。

26次元を破壊しつくし荒れ狂い、ついには通常空間にまで放たれた最終波動砲の光。それは尚も荒れ狂い。星より輝く光と化して広がって。それはあたかも宇宙に広がる花火のようで。けれど、それが飲み干した星々の数はまさしく天文学的な数であった。

それだけの破壊を、光を超える速度でばら撒き続け、ようやくそれは内包するエネルギーを放出しつくし、最終波動砲はその猛威たる牙を収めるのだった。

 

そして生まれた星一つ無い、ちり一つ残らない完全なる虚空。その只中に、突如としてそれは現れた。

それは壊れかけた機械の残骸。宇宙の風に静かに揺れているそれは。辛うじて原型を留めている、グランドフィナーレの姿だった。

 

「……生きて……る?」

全てのエネルギーを放出したグランドフィナーレ。その機関は完全にその役目を終え、最早動くことは無い。動かそうとしても動かない身体、ただ流されるだけのそれに戸惑いながら、スゥは呟いた。

「うん、私達……生きてるんだよ、スゥちゃん」

そしてそんなスゥの戸惑いを、言葉を。まどかが次いだ。

「まどかが……助けてくれたの?」

「ちょっと頑張っちゃった。……でもよかった、助かって」

戦闘の気配どころか、何一つ存在しない宇宙。寂しさすら感じるほどの虚空でも、こうしてゆっくりと、まどかと言葉を交わしているだけで。スゥの胸には安堵と喜びが込み上げてきた。

 

「じゃあ……勝ったんだ、私達」

「そうだよ、バイドはもういないんだ。スゥちゃん」

嗚呼。掠れた声が漏れるのを、スゥは堪えられなかった。

バイドを倒す。ただそのために、一体どれほどの犠牲を、苦痛を人類は強いられてきたのだろうか。自分自身の存在こそがその象徴たるもので。そして今、その悲願が果たされた。全ての人類が、スゥ=スラスターが、暁美ほむらが望んだことが、ついに果たされたのだ。

余りにもその事実は、強く強くスゥの心を揺さぶった。

 

(私は……きっと、報われたんだ。よかった、本当によかった……っ)

グランドフィナーレは完全に停止している。故にに視界は暗い。けれどもしその視界が光を取り戻していたのなら、きっとそれはぼろぼろと零れ落ちる涙で歪んでいただろう。

「ぅ……っく、えぐ……っ、あぁ。よかった、よかったよぉ……」

いつしかそれは嗚咽に変わる。胸の中にははち切れそうな達成感。そしてこれからも続いていく世界への、はち切れそうな喜びがあった。

「うん……そうだよ。全部終わったんだよ、スゥちゃん。……大変だったね、本当に」

ここに来るまで、どれほどの苦痛の朝を、嘆きの夜を越えてきたのだろう。その多くを知らず、大部分をただ巻き込まれる形で関わり続けていたまどかの胸中にも、言い知れぬほどの感情が溢れ、それは静かな雫になってまどかの頬を零れ落ちていた。

 

「まどかがいてくれたからだよ。貴女がいてくれたから、私は頑張れた。戦えた。勝つことができた。ああ、ああ……まどか、まどか……っ!」

在らざるその手はまどかの身体を抱きしめる。一つに混ざりあうほどに、二人の心は近づいた。その心地よさが、今は手放すのが惜しくて。二人はずっとそうして、静かに宇宙に揺られていた。

宇宙もまた、完全なる静寂でもって戦いを終えた少女達を見守っていた。

 

「……終わったのね」

戦いの終結。それを実感し、マミは一つ大きく吐息を漏らした。

つい先ほどまでバイドとの激しい戦いを繰り広げていたのだろう、マミの駆るババ・ヤガーの全身には無数の弾痕が刻まれ、その巨大な砲身は中ほどでひしゃげて折れていた。

けれど、それでも生き延びた。生きて、戦いの終わりを迎えることができたのだ。

「やったね、お姉ちゃん」

同じようにボロボロになりながら、ゆまの駆るカロンがババ・ヤガーに近づいてきた。その後方からも、いくつも無数の光が近づいている。魔法少女隊の仲間たちは、誰一人欠けることなく生存していた。

誰もが皆例外なくボロボロで、今にも朽ち果ててしまいそうであったけど。それでも最後まで諦めず、抗い続けた少女達はついに、未来を勝ち取ったのである。

 

「本当に、随分と長い戦いだったわね、ゆまちゃん。……流石に疲れちゃったわ。帰ってケーキでも食べたい気分」

「ゆまはイチゴのショートケーキがいいなっ!中にもイチゴが入ってる奴!」

明るく声を掛け合って、静かにくすりと笑いあう。

戦いは終わった。それでも忘れてはいけないことがある。魔法少女となってしまった少女達。自分達も含めた少女達が辿るであろう未来は、決して明るくは無いということを。

「いつか皆で、またお茶会がしたいわね。……その時は、私達も一緒に」

だからマミの言葉が少し遠いところを見ているようなものになってしまうのも、仕方ないといえば仕方のないことだった。

けれどそれも一瞬。バイドという余りにも大きすぎる脅威を。魔法少女の宿命を、魔女という末路を乗り越えここまでやってきたのだから。だからこそマミは、こんなところで諦めるつもりも嘆くつもりも、足踏みをするつもりもなかった。

 

見据えていたのは、魔法少女が生きるべき、未来。

 

随分と時間をかけて集結を果たした魔法少女隊の面々へ向けて、再びマミが語りかけた。

「どうやら私達の知らないところで、バイドとの戦いは既に終わっていたようね。それ自体はいいことよ。散っていった仲間たちも喜んでくれると思う。……でも、私達の戦いはまだ終わりじゃない」

その言葉を予期していたもの、そうでないもの。魔法少女達の反応はまるっきり違う二色の色に分かれた。

「ここで降りるというのならそれでも構わないわ。……でも、言いたくはないけれどその場合の未来はあまり明るいものじゃないと思うの。きっと軍は、私達の存在を秘匿、もしくは抹消しようと思っているはずだから」

それは推測。けれどやはり容易に予想できてしまう未来。重苦しい沈黙が垂れ込めるなか、マミは更に言葉を続けた。

「これ以上奪わせないための戦いは今日でお終い。これからは、私達が奪われたものを取り戻すために戦うのよ。もしかしたらそれはバイドと戦うよりも辛い戦いかもしれない。だから、選択は委ねるわ。このまま私と一緒に、とことん運命っていう奴に喧嘩を売ってやるか、それともここで降りるか、どちらかを選んで欲しいの」

沈黙は、やはり続いた。マミの言葉は、最悪軍に対して敵対するという意味すらも孕んでいる。それはすなわち、人間同士で殺し合いをやらなければならないかもしれないということで。

その事実を認識すれば、それは少女達には余りにも重すぎた。

 

最初に口火を切ったのは、一人の少女。

「私は……取り戻したいです。だって許せないじゃないですか!いきなり何もかも奪われて、魔法少女にさせられて。嫌になるほど戦わされて……友達だって仲間だって沢山死んでしまって。それなのに、戦いが終われば用済みだなんて。そんなこと、私は絶対に許せませんっ!」

怒りを露わにした、震える声。その少女は大人しい少女だった。ここまで生き延びた以上、十分したたかな戦士ではあったが、それでもその性格としては、やはり大人しく優しい少女だったのだ。

そんな彼女が、こうも怒りを露わにしていることは、魔法少女達にとっては大きな衝撃だった。そして同時に、少女達の胸中にも沸々と怒りが湧き上がってきた。

そもそもにして、こんなところに自ら望んで来ているものなどほとんどいない。誰もがその素質を見出され、強制的に徴兵されたような少女達ばかりなのだ。その横暴に、その事実すら認めようとしない傲慢さに、黙っていられるはずなどが無い。

最早この場には、運命に翻弄されて膝を抱える少女などは一人もいない。誰しもがもう、熟練の戦士達なのだから。

 

「確かに、このまま引き下がるってのはちょっと舐められすぎだよね、私達」

「折角こうして素敵な牙を頂いたのですから、思い知らせてあげませんとね。私達は狗ではない、ということを」

膨れ上がっていく怒気、敵意。それは激しく燃え上がり、少女達に新たな気力を与えていった。

けれどそう、この先の敵はバイドではない。絶対なる敵性種ではなく、血の通った人間かもしれないのだ。その事実をどうしても受け入れることのできない者も、当然存在していた。

 

それぞれが気炎を上げ、怒りの声を高らかに響かせる中。それでも沈黙を保つ少女の姿も、多少であるが存在した。

「……貴女達は、どうするのかしら?」

それに気付いて問いかけたマミに、少しだけ躊躇ってやがて、一人の少女が答えた。

「私は……行けません。確かにこんな境遇は嫌だけど、ムカついてますけど。……それでも、私の力はバイドと戦うためのもので、人を守るための力だと思うから」

戸惑い、躊躇い。けれど最後には迷いを捨てて力強く。その声は、少女の声で発せられた。

「だから、私は行きません。……ごめんなさい」

「謝る必要なんか無いわ。……貴女達のその選択は間違ってない。きっと、それも勇気ある決断だと思うから」

どうしようもない不条理を、やるせない憤りを、吐き出しぶつけるのではなく、ぐっと堪えて飲み込んだ。それはある意味、戦いを選ぶ少女達よりもずっと大人な選択であるかもしれない。

少女達には運命に抗う権利も、それを堪える権利も等しく与えられていたのだから。

 

「もう会えないかもしれないけど、貴女達のことは忘れないわ。できれば、敵としてだけは会いたくないわね」

寂しさも辛さもぐっと飲み込んで、マミは少女達に笑って言った。同じように戦いを選んだ少女達もまた、思い思いの別れの言葉を告げていた。

死別ではなく交わされた別れなど、少女達にとっては随分と久方ぶりのことで。ここが運命の分岐路なのだと、改めて少女達に思い知らせるのだった。

「さよなら、私の戦友たち。……幸運を祈るわ」

ふらふらと頼りなく、けれど確かに動き始め、魔法少女隊を離れていく少女達の機体を見送って。マミは静かに別れの言葉を告げた。

 

 

「さあ、行きましょう。……私達の戦いを始めるわよ」

見送りを終えて、少女達にそう告げる。新たな気合を纏わせて、少女達はそれに続いた。

誰のためでもない、ただ自分を取り戻すための戦いが、一つの戦いの終結と共に静かに始まろうとしていた。

 

 

 

「……あのね、スゥちゃん」

虚空を漂う二人。二人きりの時間はに無限にあった。だからこそ、まどかにはスゥに話さなければならないことがあった。とても大切なこと、けれどどうにもならない事実を。

「分かってるよ、まどか。……帰れないんだよね」

スゥは穏やかな口調でまどかに答えた。その言葉に、思わず息を飲むまどか。

「あはは……お見通しだったのかな。凄いや、スゥちゃんは」

「多分ここは、太陽系から遠く離れた宇宙のどこか。そもそも同じ次元なのかどうかもわからない。普通に考えたら、とてもじゃないけど帰れない。……それにまどかは、最終波動砲から逃れるために沢山力を使ってしまったから。多分、太陽系に戻るだけの力はないと思ったんだ」

驚いたように、けれどすぐに笑ってまどかは答えた。

「凄いや、本当に何でもお見通しなんだね、スゥちゃんは」

「まどかのことだもん、分かるよ」

そう、もはやグランドフィナーレは動かない。そしてまどかも、最終波動砲の余波から逃れるためにその能力を酷使してしまい、太陽系に帰還するための余力は残されていない。

最早二人に帰還する術は何一つ残されていない。二人に残された運命は、このままただただ虚空を漂い続けることだけだった。

 

「ごめんね、スゥちゃんだけでもどうにか返してあげたかったんだけど……無理みたいなんだ」

「いいよ。まどかとずっと一緒に居られるんだから。それに人類はもう救われた。だったらもう、私はまどかが居てくれればそれだけでいいから」

全エネルギーを放出したグランドフィナーレは、最早暴走する心配すらもない。後はただ物質としてのグランドフィナーレが、二人の魂が朽ち果てるまで、それこそ永遠にも近い時間を、ただただ二人きりで過ごし続けるしかないのだ。

この宙域の半径数光年にも渡る距離が、最終波動砲によってちりも残さず破壊されている。グランドフィナーレに衝突するような宙間物質など、向こう数千年は訪れないだろう。

「……まどかはよかったの?私はまどかが居ればいい、でもまどかはきっと、会いたい人がいるんだよね。家族とか、友達とか。……もう、会えなくなっちゃったんだよね」

それがスゥには少し悲しい。まどかまで、この永遠の二人ぼっちに巻き込んでしまったことが悲しくも嬉しい。

 

「ぁ……うん。やっぱり、寂しいし辛いんだろうな。もう誰にも会えないって。……だから辛くないように、ずっと……側にいてくれないかな、スゥちゃん?」

きゅ、と。柔らかな手がスゥの手に触れた。その手を握って、掌の中の柔らかさを感じながら。

「絶対に離さない。まどかを一人になんて絶対にしないよ」

「ありがとう……スゥちゃん」

それは、二人で永遠を生きるという誓い。あるいはそれは婚礼にも似て、その手は柔らかに強く結ばれていた。

 

けれど、その手は無情にも断ち切られる。願いという名の刃が、その手を断ち切ったのだ。

 

 

繋いだ手と手が分かたれる。そして急速に、スゥの存在と身体が消失していく。

「何なの……まどか。まどかなの?」

それはまどかの魔法にも似ていた。けれど二人の間を引き裂いて、一体スゥをどこへ導こうというのか。困惑と驚愕を滲ませた声で、スゥは疑問を投げかけた。

まどかはほんの少しだけ考えて、やがて何かを悟ったかのように話し始めた。

「……ううん、私じゃないみたい。でも、誰かがスゥちゃんを呼んでるんだと思う」

どこか嬉しそうな声。けれど隠し切れない寂しさも滲んだ声だった。どうにか必死にそれを隠そうとしても、どうしてもまどかの声は震えてしまっている。

「多分、私も似たような力を持ってるからなのかな。なんとなく分かるんだ。誰かが、スゥちゃんを呼んでるって。そしてその行き先は、太陽系みたいだよ。……帰れるんだよ、スゥちゃんは」

それが悪いことであるはずが無い。喜んで送り出してあげなければならない。

まどかは、その力が自分も一緒に連れて行ってはくれないことを知っていた。それでもきっと、ここで永遠の二人ぼっちを過ごすよりずっといいはずだ。スゥにはもう、自分の人生を生きる権利があるはずなのだ。

だから、笑って送り出してあげなければならなかったのだ。

 

「そんなっ!嫌!嫌だっ!行きたくなんかない、私はまどかと一緒に居るんだっ!やめろ、私を連れて行くなーっ!離せ、離せぇぇっ!!」

必死に叫び、もがき足掻く。けれど抵抗などできよう筈もない。それは無情なる願い。そこに意志の介在する余地は無く。それに抗うには、余りにも今のスゥは無防備だった。

「どうして!どうして……折角一緒になれたのに、またお別れなんて嫌だよ!お願い、神様でも何でもいいから……私をまどかの側に居させてよ、お願いだからっ!」

その叫びは、まどかの胸をきりきりと締め付けた。離別の苦痛。永遠の孤独。待ち受けるそれがまどかを苛んだ。引き止めたい。一人は嫌だ。もう一度手を伸ばしてスゥを掴まえたい。側にいてほしい。思いはどんどん募っていった。

けれどそれはできない。それは間違いなく、スゥの人間としての未来を奪ってしまうことだから。漏れそうになる嗚咽を、呼び止めたくなる心を必死に押さえつけて。それでも隠し切れない涙を、ぽろぽろとその瞳から零しながら、まどかは。

 

「……スゥちゃん。帰ったら、伝えてくれないかな。私の家族に、友達に。私、世界を守ったんだよって。頑張ったんだよ、って」

「そんな……嫌だよ、お別れみたいなこと言わないでよっ!」

「お別れ、だよ。これでお別れ。……ごめんね、スゥちゃん。デートの約束守れなくて」

だんだんと、スゥの存在が消えていく。グランドフィナーレも、その輪郭がぼやけていった。互いの声が遠くなる。もう、ほとんど聞こえない。

 

「でも……もし、スゥちゃんが…………そうしたら、いつか……えに、来て」

「何……聞こえない、聞こえないよ……まどか、まどかぁ…………」

 

そしてついに、グランドフィナーレの姿が消滅した。小さく煌くまどかのソウルジェムだけが、置き去りにされて残っていた。

 

「まどかぁぁぁぁぁぁ!!……ああ、あ……ぁぁ」

慟哭の声も、もう届かない。

 

 

 

目が覚めると、そこには宇宙が広がっていた。

そよぐ風が頬を撫でる。よく見れはそれは宇宙ではなく、星空だった。虚ろに伸ばしたその手は、確かに星空に向かって伸ばされていた。

呆然と辺りを見渡すと、そこは静かな草原だった。沈黙したグランドフィナーレがそこに佇み、その傍らにスゥは寝転んでいた。その身体が人のそれであることに気付くのに、少なからぬ時を要した。

 

「………どうして、私だけが」

再び草原に身を伏した。ちくちくと刺さる草がどうにもくすぐったい。けれど今は、そんなことも気にならないほどにスゥの心は虚ろだった。

何故、どうして。疑問ばかりが脳裏を駆け巡る。

「まどか。貴女は最後に……なんて言おうとしたの」

星空に手を伸ばし、問いかける。当然、星空は何も答えてはくれなかった。

風がそよぐ音。それがただ虚ろにスゥの耳に響き渡る。そんな中、たった一つだけそうではない声が聞こえてきたのだった。

 

「……随分と腑抜けたものね。一体何があったというの」

それは、聞き覚えのある声だった。ぼんやりと目を開くと、そこには自分と同じ顔があった。

「暁美、ほむら」

最早今となっては、その存在にも何の疑問も感情も抱けない。空っぽのスゥは、虚ろにその名を口にするだけだった。

 

 

「私の存在が生み出した少女達を助けたい、か。……本当におかしなことを願ったのだね、キミは。スゥ=スラスター」

死を迎えた肉体から離れ、弱弱しく輝くスゥ=スラスターのソウルジェム。その輝きを見つめながら、キュゥべえは呟いていた。

「本当に、キミ達人類はわけがわからないよ。あそこまで生に執着し、恐るべき力を見せたかと思えば、今度は逆に作られた命の為に、わざわざその生を投げ打とうとする。何故そんな価値観が生まれたのか。……今のボクにも、それを理解することはできないな」

それは呆れたようで、それでいてどこか感心したような口ぶりで。

「結局、キミの肉体は死を免れることはできなかった。だが、その魂はまだ生きている。……結局その願いは、キミ自身を永らえることにも繋がったようだね」

当然、その声はスゥ=スラスターに届きはしない。それを知ってなお、キュゥべえは言葉を続けたのだった。

 

「バイドが倒れてしまった。けれど、ボクの計画も失敗に終わった。……一体、これからどうすればいいのだろうね、ボクは」

ラグナロックのプログラムに介入し、その機体を操作し飛び始める。行き先のあてもない。それはまるで逃避行のようで。

「それでも、ボクもまたこうして生に執着してしまっているんだ。何故と聞かれればきっと、生きるために生きる。そんな風にしか答えられないだろうね」

静かな光の尾を引いて、ラグナロックは飛び去っていった。

 

 

「……そう、そんなことが」

グランドフィナーレに身を預けて、スゥとほむらが並んで座る。

もはやそのどちらにもかつての確執などは存在していない。ただほむらは静かに、スゥの独白に耳を傾けていた。

「もう、私はまどかに会えない。……まどかのいない世界になんて、意味が無い。笑えるよね。必死に守った世界なのに、守り通した途端に無意味なものになるだなんて」

込み上げる笑みは力なく、零れ落ちる涙はとめどなく。壊れたように笑いながら、スゥはほむらに話し続けた。

「でも、頼まれたことは果たさないとな。まどかの家族や仲間に会わないと。丁度いいや。ねえ、暁美ほむら。頼んでいいかな。まどかの家族と仲間に、まどかの最後を伝えてあげて」

ほむらは黙して答えない。

その表情は、ぎゅっと痛みを堪えるように顰められていたのだから。

 

「……でも、まどかは最後になんて言ったのかな。気になるなぁ……ねえ、まどか」

ほむらにとっても、まどかは大切な仲間だった。自分が死して後、まどかがどれほどの苦境を乗り越えあの場所へと至ったのか。それを知る術はほむらには無い、だがそれが並ならぬ苦痛であることは容易に想像できた。

その末路が、永遠の孤独を一人で漂うだけなのか。余りにも、それでは救いがないではないか。

救えるとしたら、誰だ。救いを与えられるものは。

 

「なら、確かめに行きましょう」

いつしかほむらは、スゥの眼前に立っていた。その表情にはもう、苦痛に歪んだ色はない。

「確かめる……何を、どう確かめろって言うんだ」

「直接まどかを迎えにいって、そして確かめて。連れ戻す」

「そんなこと、できるわけない。……第一、まどかがどこにいるのかすらわからないのに」

虚ろに投げやりに首を振るスゥ。その胸倉を掴んで、ほむらは。

「探すのよ、何が何でも見つけるの。あの機体を解析すれば、何か分かるかもしれない。そうすればそれを辿ってまどかのいる場所へとたどり着けるかもしれない。私達にはまだできることがある。こんなところで諦めるつもり?それほど、貴女のまどかへの想いは軽くない。そうでしょうっ!」

その剣幕に弾かれたように、スゥは視線を上げてほむらを見つめた。久方ぶりにその顔に浮かんだ表情は、驚愕の色をしていた。

 

「……何故、お前がそんなに私とまどかを助けようとするんだ」

「決まってるじゃない。まどかは私の大事な仲間だから」

それから僅かに躊躇って、ほむらは続く言葉を口にした。

「……それに、もう一人の私がやっと手にできたかもしれない幸せだもの。応援してあげたいなって、そう思っただけよ」

そして、照れくさそうにふい、と顔を逸らした。

 

「協力、してくれる?」

「私にできることなら、なんだって」

そして差し伸べられた手。それを掴んだ手。

どちらも同じ姿の手、違ってしまった心を宿したその手とその手が今、結ばれた。

 

 

 

バイドの沈黙から48時間後、地球圏及び火星圏のバイドの掃討が確認される。

引き続き太陽系内のバイドの掃討を継続すると共に、地球連合軍はオペレーション・ラストダンスの終了を宣言。

人類とバイドの長きに渡る死闘がついにその日、終わりを告げるのだった。

 

そして人類は、新たな時代を歩み始めた。

 

 

 

 

魔法少女隊R-TYPEs 第19話

      『終わる、一つの物語』

          ―終―

 




【次回予告】

バイドとの戦いは終わった。
最大の敵を退けた人類は、ついに輝かしい繁栄を手にする。
その戦いを生き延びた者達は、平和を手にした世界で何を見、何をなすのだろうか。

これは、そんな時代の過渡期を駆け抜けた少女達の記録。
誰が遺したのかも知れぬ、事実かどうかも分からぬ記録達。

その一端を紐解いて、終わる物語への手向けとしよう。
願わくば、少女達の未来が輝かしいものであらんことを。


次回、魔法少女隊R-TYPEs 最終回
         『そして、繰り返す』
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