それは人の宿命なのか。
最終話 ―そして、繰り返す―
流れ行く日々は、その速さを緩めることも早めることもなく流れていった。けれど、それを実感する人々にとっては、それは恐らく相当に早く流れていったことだろう。
“バイド戦役”と後に呼ばれることになる、人類史上最大の決戦から、既に半年もの時が流れていた。バイドとの戦いが太陽系に与えた傷跡は深く、半年を経た今も尚その復興は十全とは言えなかった。
もっとも、それは単純にその被害が甚大であったというだけの理由ではなかった。バイドとの戦いに勝利した人類は、尚も歴史を繰り返していたのである。
曰く、戦いの歴史と呼ばれるそれを。
これは、戦い続ける人類の歴史。その一瞬を駆け抜けた、少女達の記録である。
半年。わずか半年である。時間としては長いかもしれない。だが、歴史が動くにはそれはあまりに短すぎる時間だった。たったその半年という時間の間に、地球を、そして太陽系を取り巻く情勢は、急速に悪化の一途を辿っていた。
誰がそれを言い出したのかは未だ持って不明であるが、バイド戦役終結直後からそれは人々の間で囁かれていた。地球至上主義。そう呼ばれたそれは、熾烈を極めたバイド戦役において地球のみが被害を免れたという事実にまず起因した。
地球こそが人類の永遠の繁栄の象徴、不滅にして神聖なる母星である、と。そんな思想を持った者達が、俄かに現れ始めたのである。
彼らは世界を救った奇跡すら、それを引き起こした少女の願いすら、地球が生んだ偉業などだと言い放ち、彼らの言葉は急速に世界中に広まっていった。いっそ不可思議なほどにその広まりは急速だった。
それだけならば、まだ一種の流行り病のようなものとして捉えられていただろう。動乱する時代の狭間の、一種の仇花として見られることもあったのだろう。だが、軍事政権の解体と共に発足した新政権により、この思想が世界を新たな狂気へと駆り立てていくこととなる。
地球至上主義者がそのほとんどを占める新政権は、まず先だっての軍事政権の行いを徹底的に批判した。かつては地球連合軍の司令として、存分に采配を振るっていたあの男も、戦時中の数々の非道な行いの責を問われ、後に処刑された。
軍の要職についていた多くの者達も同様に、あるものは処刑され、あるものは僻地へと左遷されていた。そして、その後釜には続々と地球至上主義者達があてがわれていったのである。
不満を抱く者も少なくはなかった。旧体制を支持する者達は、こぞってその動きに反発した。けれど多くのシンパを抱え、地球至上主義というイデオロギーの元に結託していた彼らの前に、その動きは敢え無く潰えることとなる。
それらは全て粛々と、秘密裏に行われ。人々が知らぬうちに、時の権力は地球至上主義を掲げる者達の手に渡ってしまっていたのである。
そして、ついに彼らの狂気は顕現する。
人類の生活圏は、既に太陽系のいたるところに広まっている。火星には既にいくつもの都市が成立しており、コロニーの建設は尚も盛んに行われている。地球を見ることなく育った人というのも、最早今では珍しくもない。
そんな彼らに、地球至上主義者達は容赦なく牙を剥くのだった。
事の起こりは、バイド戦役によって甚大なる被害を受けた火星や、その他のコロニーへの地球連合軍からの通達であった。
戦災復興という名目での地球軍の受け入れ及び既存の軍の解体。そして現政権の解体と地球軍による臨時政権の受け入れ。
それは言うなれば、地球の植民地になれとでもいうかのようなもので。当然そんな事を受け入れられるはずも無く。地球と各都市との間の緊張は高まっていた。
そして、事件は起こる。
火星や各コロニー内において、竜巻や落雷、隕石といった無数の災害が発生するようになっていた。それにより、そこに住まう人々の暮らしは困窮していく。民衆の間でも、地球連合軍の受け入れを望む声は日増しに強くなっていた。
だが、とある部隊が人為的に災害を発生させるR戦闘機の存在を突き止め、それを鹵獲し公表した。これを火星及びコロニー群は、地球軍による侵略行為であると判断。彼らは反地球至上主義の元に結託し、太陽系同盟軍を結成。地球軍に対する対決姿勢を露わにした。
そしてバイド戦役終結から僅か四ヶ月の後、人類は再び戦乱の災禍へと突入することとなる。フォボス周辺宙域において、地球連合軍と太陽系同盟軍の一大開戦が行われたのである。
その結果は、太陽系同盟軍の惨敗であった。
ほとんどの部隊がバイドとの交戦で疲弊しきっており、十分に戦力を集めることができなかったことや、地球連合軍はバイド戦役終結直後から、既に無人兵器の量産を始めていたことが大きな要因であったのだろう。
バイドに対してはコントロール奪われる危険が高く、軽視されていた無人兵器も、今では死を恐れぬ機動とその量産性を持って、恐るべき兵器として同じく人類である太陽系同盟軍に牙を剥いたのだった。
戦いは始終地球連合軍の優勢で進み、太陽系同盟軍の壊滅は間近かと思われた。
しかし、それまで沈黙を保っていたグランゼーラ革命軍が突如として火星を脱出。両軍の注意が火星宙域に集中している隙を突き、外惑星に点在する鉱物資源採掘所をことごく接収。更にはバイドによって陥落していた軍事要塞ゲイルロズを改修し、地球連合軍に対して対決の姿勢を示したのである。
瓦解し、壊走する太陽系同盟軍もグランゼーラ革命軍に吸収される形となり、途端に戦力は拮抗した。地球連合軍もまた、木星圏まで広げた領土の統治を安定させる必要に駆られており、更なる戦闘の継続は困難であった。
かくして地球連合軍とグランゼーラ革命軍との間に休戦協定が結ばれ、戦乱はひとまずの終結を迎えるのだった。
これが、後に第一次太陽系戦争と呼ばれる戦乱の顛末である。尚、この大決戦によりフォボスの質量の58%が失われたことは特筆すべき事実であろう。
そして、誰しもが遠からず起こるであろう新たな戦乱を予測していた。それが間違いなく、先の戦乱よりも遥かに大きな規模のものとなるであろうことを。
そして、更に二ヶ月の時が流れる。
少女達の軌跡も、再びここから動き出すのである。