魔法少女隊R-TYPEs   作:SanDMooN

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運命に翻弄され続けた少女は、ついにその運命に牙を剥く。
新たなる戦いの幕が開き、宇宙は更なる混迷に沈む。

これは、常にその先陣を切り続けた少女が放つ、叛逆の号砲。


―Epilogue of Mami Tomoe―

「なるほど……よく生き延びていたものだ。半年の間も宇宙を彷徨い続けて。流石はM型……と言ったところか」

感心したように、けれどどこか嘲るような調子に言う男に、その少女――巴マミは、どこか憮然とした声で答えた。

「別に彷徨っていたわけじゃないわ。機体の推進部が壊れてしまったから軌道を計算して、慣性飛行でここまで飛んできただけよ。……確かに、こんなに時間がかかるとは思わなかったわね。その間生き延びることができたのも、こんな身体になったお陰ではあるのだけど」

 

そこは月面上に建設された軍事基地、ルナベース6。月の重力に引かれ、基地の近くへと墜落する物体が察知され、解析の結果それがR戦闘機であることがわかった。

回収されたR戦闘機は、魔法少女が乗るそれで。その中にはマミのソウルジェムが搭載されていた。そして、それはまだ生きていた。

彼女の言によればバイド戦役終結直後、帰投しようとしたところで機体の推進部が変調を来たし、機能を停止してしまった。仕方なく推進部へのエネルギー供給をカットし慣性飛行のみで近隣の施設へと向かうこととなった。

しかし、交差軌道に入ることのできる施設は民間のものしか存在せず、今の自分の身をそんなところに晒すわけには行かない。故にマミは、火星周辺宙域からこのルナベース6まで、半年もの長い旅路を越えてきたのであった。

 

「バイドとの戦いが終わった後、どんな願いでも叶えられる。それが、私が魔法少女隊を率いることになったときの契約だったはずよ。こうして無事に帰ってきたのだから、その契約を果たしてもらえないかしら」

そんな長すぎる孤独を感じさせないような力強い口調で、マミは自らの尋問を担当するルナベース6の司令官である男に向けて言い放った。

「確かに、そのような話であったことは聞いているよ。……それで君は一体何を願うというんだね、ゲルヒルデ。いいや、巴マミ」

そう促され、マミは答える。その口調はどこか楽しげで、けれど辛辣な調子すらも含んだものだった。

 

「そうね、あれだけ地獄を見せてくれたんだもの、色々要求させて貰うわ。まずは私を含む全ての魔法少女を日常に復帰させること。身体を失ったものはその復活もお願いするわ。 そしてもう一つ。沢山の少女達を犠牲にした上で生まれた魔法少女隊や魔女兵器。その存在を公表すること。私からの要求はそれだけよ。できればすぐにでもお願いしたいところね」

一通りの要求を叩きつけ、どこか満足げにマミは笑った。一瞬呆気に取られたような様子をしていた司令官も、すぐに乾いた笑みを漏らして。

「なるほど、なるほど。それは実に大それた望みだな。本当にそんな要求が通るとでも思っているのかね?」

「通して貰うわ、それが私達と貴方達との契約だもの」

マミは臆せず言葉を返す。

「通らんさ。君と契約を交わしたのは、戦時中の軍事政府だ。知らなかっただろうね。君が宇宙を漂流していた間に軍事政府は解体され、新たな統合政府が成立していたのだよ。故に我々には、君達と契約を交わした事実などは存在しない。それを履行する義務もまた、発生しないわけだ」

酷薄に、その口元に薄く笑みを浮かべて男は笑う。

 

バカな女だ。どれだけ兵士としては優秀でも、所詮は子供ということか。たとえ軍事政府がそのまま残っていたとして、そんな要求が受け入れられるはずが無いだろうに。こうして自分の命すら握られている状況で、よくもそんなことが吐けるものだ。

そう内心で嘲笑いながら、言葉に愉悦をたっぷりと滲ませて続く言葉を投げかけた。

「そして我々は、前政権の行っていた非人道的行為の全てを否定する。当然、君を含め全ての魔法少女の存在を我々は認めない。……君もつくづく運がない。このルナベース6には、君の他にも無数のソウルジェムが保管されている。それが何故だか分かるかね?……もうじき、彼女達は処分されることになるからだ。そして君もそうなるのだよ」

 

その衝撃的な事実、さらに続けざまに投げかけられる残酷な言葉。そんな言葉に心砕け、気力は萎え。そして屈してしまうのだろうか。そんなはずがない。この程度の絶望など、バイドに比べれば余りにも矮小なのだから。

むしろその男の言葉は、マミの懸念に明確な答えを与える結果となっていたのだから。

「貴方達はそう言って、グランゼーラ革命軍との盟約も反故にしたのね。……なんにせよ、その事実がわかっただけで十分よ。これで、私達も目的を果たすことができる」

「何を、言っている?」

くす、と小さな笑みが零れた。

恐らく人としての身体があったのなら、その規格外な胸を十全と張っていたことだろう。それほどに自信に満ち溢れた様子で、マミはさらに言葉を続けた。

 

「直に分かるわ。さあ皆、初めて頂戴っ!」

その言葉と同時に、基地内に無数の衝撃が走った。激しい衝撃に揺さぶられ、どうにか壁に手をついて男は、焦燥交じりの言葉を発した。

「何だ!何が起こっている!?状況を報告しろっ!」

「わ、わかりませんっ!突如として、基地の周りに無数のR戦闘機が出現、基地に攻撃を仕掛けていますっ!」

「なんだとっ!?く……っ、とにかく無人兵器を出撃させろっ!付近の基地に救援を要請しろっ!」

口早にオペレーターに指示を伝え、ようやく男はマミを睨みつけた。その片手には銃を。その銃口をマミのソウルジェムを突きつけて。

 

「これも貴様の差し金か。だとしたら、今すぐ止めさせろ」

「お断りよ。貴方達も思い知りなさい。私達の痛みと怒りを」

一閃。放たれたレーザーがマミのすぐ隣を掠めた。

「下らないお喋りに付き合うつもりはない。今すぐ奴らを下がらせろ。でなければ殺す」

「どうぞ、ご自由に」

けれどマミの言葉は、一切揺るがない。どこまでも静かで冷静で、けれどその奥底には深い怒りを秘めて。ぎり、と男は歯噛みした。状況が掴めない以上、マミの存在は人質になりえる。

そんなものを、まさかここで殺すわけには行かない。

 

「司令、敵機より通信がありました」

苛立ちと戸惑いを抱えた男に、オペレーターからの通信が届く。

「奴らはなんと言っている!さっさと知らせろっ!!」

「ただ一言、魔法少女隊と。……そう、名乗っています」

「な………っ」

魔法少女隊。魔女兵器の製作に際してできた副産物。バイド戦役の最中に全滅し、一機として帰投したものはない。そうされていたはずの部隊だった。

それが今、巴マミと共に帰還した。かつては人類の守り手として。今は地球連合軍の敵として。

 

「奴らに伝えろっ!巴マミの身柄はこちらにある、攻撃を続ければこいつを殺すと伝えろっ!!」

信じられない事態の連続。完全に平静を失った男は、怒鳴り散らすようにしてそう言った。それをそのままオペレーターが伝えた。けれど、帰ってきたのは更なる攻撃で、衝撃が基地を貫いた。

ようやく出撃を始めた無人兵器群も、次々に魔法少女隊の前に撃ち落されていく。無人兵器は確かに恐ろしい兵器であった。けれどそれは、十分な数を揃えて始めてそう言えるのである。

奇襲を受け、発進口自体が幾つか塞がれてしまった上、発進した側から的確に叩き落されているこの状況では、無人兵器はなんら脅威たりえなかったのである。

魔法少女は一人の例外もなく、あの地獄のような戦場で半年近くの時を戦い抜いた、まさしく、歴戦の勇者達だったのだから。故にその戦力差は圧倒的で、繰り広げられるのは一方的な蹂躙だった。

 

「……敵機より返答、ありません」

「……最初から、捨て石だったということか」

その事実は、少なからず男を愕然とさせた。それほどの覚悟を持って迫っているということは、恐らく完全にこの基地を陥落せしめんとしているのだろう。

「まさか、そんなわけないじゃない」

どういうことなのだろうか、何か恐ろしいものを見るかのように男はマミを見た。間違いなく殺されることが分かっているであろうに。その声はどこまでも平然としていた。

 

「ガキが……我々地球連合軍を、舐めてくれるなよ」

「侮るつもりはないわ。ただ、私達の全力を持って叩き潰す。それだけよ」

どこまでも平然と、それどころか余裕すら滲ませるマミの言動がついに男を激昂させた。撃ち放たれた閃光。銃口から放たれた光は、マミのソウルジェムを貫いていた。

「……とにかく、他の基地からの救援が来るまで持ちこたえるぞ。無理やりにでも無人兵器を発進させろ。基地を破壊しても構わん」

撃ち抜かれ、砕けていくマミのソウルジェム。だが、その姿が突如として掻き消えた。まるで、最初からそこには何も無かったかのように。

 

 

「一体、何がどうなっているというんだ」

するりとその手から力が抜ける。からん、と。乾いた音を立てて銃身が床に転がった。

 

 

「……ふぅ、ここまで上手くいくと、気分がいいわね」

後方にて待機していたババ・ヤガー。その機体の中で、マミは意識を取り戻した。

先ほどまでルナベース6において、軍の虜囚となっていたマミのソウルジェム。それは、とある魔法少女の魔法によって複製されたものだった。意志を宿した複製を造り出し、それが砕かれれば元となった場所へと意識が戻る。いわば、自分自身の予備を作り出すようなものなのだろうか。

そのような魔法を生み出しえたこと自体が、一つの奇跡のようなものだった。

「長かったわね、ここまで来るのに」

たっぷりと感慨を込めて、マミは静かに呟いた。

 

バイド戦役の終結直後、魔法少女隊はグランゼーラ革命軍にその身柄を委ねていた。地球連合軍にいたままでは、恐らく少女達の未来を勝ち取ることはできない。

グランゼーラ革命軍とて、正直得体の知れない相手ではあった。けれど彼らは非人道的なバイド兵器、フォースに対する排斥感情を強く抱いている。同じく非人道的な技術の産物である魔法少女の境遇にも、一定の理解を示してくれるのではないかと考えた。

その目論見どおり、グランゼーラ革命軍は魔法少女達を快く受け入れた。それはやはり非人道的な技術の犠牲者である魔法少女達への同情もあったのだろうが、兵士としても非常に優秀であった魔法少女達を、自らの戦力にしたいという思いもあったのだろう。

ことこの一点においては、常日頃から意見の対立の見られていたグランゼーラ革命軍上層部の意見も一致していた。

 

かくして魔法少女隊はその所属をグランゼーラ革命軍へと移すこととなる。その後、新政府によって盟約を反故にされたグランゼーラ革命軍は、反抗の時までじっと牙を潜めて待ち続けていた。

魔法少女隊はその間も、災害発生兵器たるR-9WZ――ディザスターレポートの捕獲や、外惑星における採掘拠点の確保において目覚しい働きを見せ、革命軍内での地位を確たるものとしていた。

そして、今。グランゼーラ革命軍の力を借りて、本格的な反抗作戦が行われる。その初戦たる、地球連合軍に囚われた魔法少女達の救出が敢行されたのだった。

 

魔法少女隊は、マミの突入と同時に密かにルナベース6の周囲に展開していた。それを可能にしたのが、グランゼーラ革命軍が生み出した新技術、ジャミングであった。

既存のレーダーに対して完全なる隠蔽を可能にした、その最新技術を惜しみなく投入し得るほどに、魔法少女隊は革命軍内においての信頼を勝ち得ていたのである。

 

「隊長、管制塔を押さえました。無人兵器もほとんどが沈黙したようです」

隊長の帰還を察知し、随行していた機体から状況の報告が行われた。

「さすがは私の仲間たち、手際がいいわね。それじゃあ上陸班は、魔法少女達の救出に向かって頂戴。それが済み次第、後始末を済ませて撤退するわ」

そう、月面には無数の基地が設置されている。完全にこの基地を押さえようと思えば、他の基地からやってくる増援も全て叩き落さなければならない。不可能ではないかもしれないが、やはり分は悪い。

もとよりそんなつもりもない、目的はあくまで魔法少女の救出なのだから。

 

「上陸班がソウルジェムを押さえたようです。内部の抵抗もほぼ収まっています」

「さすがはあの二人ね。みんなは引き続き周囲の警戒をお願い。こちらも準備を始めるわ」

言葉を交わし、ついにババ・ヤガーが動き出す。超絶圧縮波動砲が、それを撃ち放つためのエネルギーを蓄え始める。既に入手していた基地内部の構造から、照準をルナベース6内部、兵器格納庫へと定めた。

 

「おいおい、始めるのは勝手だが、ちゃんと私達の脱出まで待っておくれよ」

唐突に舞い込んできた通信。それは上陸班からのもので。

「大丈夫よ、彼女の腕は私達が一番良く知っているでしょう?巴さん、ソウルジェムは全て確保したわ。後はこのまま脱出するから、それまで待っていてね」

上陸したのは二人。敵地へ乗り込むには心許ない数ではあったが。

「了解よ。ごめんなさい、キリカさん、織莉子さん。貴女達にだけ危険な任務を押し付けてしまって」

そう、その二人は呉キリカに美国織莉子。いずれも魔法を扱う魔法少女。その魔法は白兵戦においても効果を発揮する。

「気にすることはないさ。これは、私達にしかできないことだからね」

「そういうことです。それに、道なら全て私が示すから。問題なんて何もありません」

何せ少女達の中で、生身の身体を持っていたのはこの二人だけなのだから

それを良く分かっているからこそ、二人は静かに笑って答えた。そして、脱出を急いだ。

 

「全機脱出したわね?射線上からの退避も済んでいるかしら?」

マミの問いかけに全機が答える。発射準備は完了していた。後はただ、撃ち放つのみ。

「じゃあ、始めるわよ。私達の戦いを……未来を手に入れるための、戦いをね」

マミはその意識を、超絶圧縮波動砲の引き金へと向ける。この一撃は、恐らく歴史を変える一撃となるだろう。身震いすらする心を抑えて、静かに狙いを定めた。

 

「――ティロ・フィナーレ!」

そして、引き金は引かれた――。

 

その日、ルナベース6は設備の大半と搭載した無人兵器の全てを失い、基地としての機能を完全に失った。しかし、その人的被害は基地が被った被害と比べれば非常に少ないものだったと言われている。

そしてその事件と同時に、地球と月の全域に向けて一つの映像が放送された。浮き足立った地球連合軍の隙間を縫って放送されたそれは、多くの人々の目に止まることとなった。

それはマミの言葉による、魔法少女の存在とその現状の訴え。そして、魔法少女の存在を隠蔽しようとする地球連合軍に対する宣戦布告であった。

 

その日から、巴マミ率いる魔法少女隊の新たな戦いが始まるのだった。

そして、彼女はそれからも戦い続けた。第二次太陽系戦争、グッバイ・マイ・アース作戦等、多くの戦いにおいて常に彼女はその先頭に立ち戦い続けた。それ故にその名は高く、そして長らく人々に語られることとなる。

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