魔法少女隊R-TYPEs   作:SanDMooN

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二人の少女に突きつけられた、残酷な裁きと姦計の尾。
死地に臨みし少女達に、運命は再度問いかける。

その答えは既に決まっていた。


―Epilogue of Kirika Kure & Oriko Mikuni―

「静粛に。美国織莉子及び呉キリカへの判決を言い渡す。――両名は求刑通り、懲役300年の刑に処す」

 

それは、バイド戦役終結の三ヵ月後。

無事に異層次元より帰還した第二次バイド討伐艦隊から、保存されていた身体を取り戻した美国織莉子と呉キリカの両名は、かつての罪に問われ軍事裁判にかけられていた。

二人の罪。それはかつてのTEAM R-TYPEの研究所にて行われた虐殺。その罪は余りにも重く、されどその事情を鑑みれば、十分に情状酌量の余地はあるものだと思われた。

けれど、その罪を裁く者達はそのような事情を考えもしなかったのである。

彼らが属する新政府は、先の軍事政府の最大級の汚点とも言える魔法少女に対して、徹底的な隠蔽工作を行っていた。全ての研究データの破棄や、現存している魔法少女の処分も検討されており、そう言った事情が織莉子とキリカの二人に、重過ぎる罪を言い渡していたのだった。

 

かくして裁きは下され、二人の身柄は火星にある収容施設へと護送されることとなった。

 

 

「どうにも解せないね」

護送船の中、特殊合金の檻の中。枷をはめられたキリカが呟いた。どうやら新政府は、魔法少女の存在自体は否定的だが、その力を制御することには精力的らしく。その枷は、魔法少女の力を抑制する機能も備えていた。

そうなってしまえばいかなキリカもただの少女、逃げる術など何もない。例えこの檻を抜け出したとして、自動操縦の護送船は収容施設まで一直線に飛ぶことしかできない。

結局のところ、できることは何もなかった。

 

「……何か気になることでもあるの、キリカ?」

同様に檻に囚われた織莉子も、それは同様だった。

「どうにもね。連中が私達のことを始末したいってのはよく分かるんだ。でも、それにしては随分悠長なことをするじゃないか、連中はさ。さっさと極刑にしておけばよかったのに」

自分の事であるはずなのに、どこか他人事のようにキリカが毒づく。

そう、確かに始末するだけならばそのまま極刑に処してしまえばよかったのだ。事実として、既に幾度かの暗殺をくぐりぬけて生き延びていたキリカには、その手ぬるさがどうにも解せなかったのだ。

 

「そういうわけにもいかなかったのでしょうね。極刑にするのならばそれ相応の手続きが必要になる。そうなれば、自然と多くの人の目に触れる。人の数が増えるほど、秘密を守るのは困難になるわ。だから、裁判自体は正当に行うことにしたんじゃないかしら。……あくまで、その判決自体は」

最後の一言だけ、織莉子の声のトーンが下がる。そう、あくまで行われたのは正当なる裁き。織莉子自身は、自分のやったことに罪の意識は欠片もない。恐らくキリカも同様だろうと思っている。少なくともあの時あの場所に居た連中は、殺されても文句の言えないようなことをしていたのだから。

それでもその行為は、社会通念上では間違いなく重罪だった。

 

「……なるほど、ね。なんだかちょっとだけ織莉子の気分が分かったような感じだよ。つまり、こういうことだろう?これからこの船にある不幸な事故が起こる。それは隕石との衝突かもしれないし、テロリストによる犯行かもしれない。そして護送船は撃沈。護送中の凶悪犯二名も、その爆発の中に消えた。きっとそんなところだろう?」

「ええ、きっと視えていればそんな光景だと思うわ。……いいものじゃないわよね、自分が死ぬところが見えるなんて」

軽くウインクして見せて、そんな事を言うキリカに、織莉子は苦笑混じりに答えた。そう、あくまで対外的には正当な裁きを下したように見せているのだろう。そうして送り出してしまえば、後はいくらでも好きなようにできるのだから。

 

「そう考えると、いろいろと不自然だったのにも納得がいくね。凶悪犯の護送にR戦闘機の一機もつけない理由。そしてついさっき、この船の乗組員が全員シャトルで出て行った理由。全部納得がいくよ」

乾いた笑いが、その口元から零れた。低く、掠れたような笑い声が。

「まったく、滑稽な話だよね。織莉子。あれだけ織莉子がみんなの為に頑張ってたのにさ。何度も何度も死にそうになって、それでも頑張って戦い抜いて、生き延びたって言うのにさぁ」

声が、震えた。それを押し隠すように強気な言葉を紡ごうとして。けれど、できなくて。震える声だけが、次々に押し出されていった。

「なのに……それなのに、さぁ。何でこんなことになっちゃうんだよ。私達が守り抜いた相手に、こんな風に舌を突き出されてさ。……はは、はははっ。これじゃあ一体何のために戦ってたのかわかりもしないよ。ねぇ……織莉子」

震える声を隠し切れずに、キリカは縋るように織莉子を見つめた。

その時、激しい衝撃が船を揺らした。

 

「うぁっ?!」

「きゃっ……!」

その衝撃に二人の身体は投げ出され、壁に繋がれた枷によって引き止められた。恐らく推進部に何らかの攻撃を受けたのだろう。衝撃に揺さぶられ、そのまま護送船は一切の動きを止めていた。

「とうとう……来たか。ああ、来てしまった。本当に……こんなものが私達の最後なのかいっ!?」

胸の内で芽生えた絶望が、じくじくと心に侵食していた。何か手はないのか、生き延びる術はないのかと必死に辺りを見回した。けれどそこにあるのは檻と枷。そして織莉子の姿だけで。一切脱出の役に立ちそうなものはない。

まして外は宇宙空間。宇宙服の一つもない今では、投げ出されれば即、死が待っている。

 

「死線を幾度も乗り越えて。……けれど、その最後は思っていたよりもずっと呆気ないものだったわね。ごめんなさい、キリカ。元々これは私だけの問題のはずだったのに、貴女まで巻き込んでしまったわ」

今こうしている自分。その全ての発端は、織莉子が魔法少女となったことからだろう。そしてそれを追い、キリカもまた魔法少女となり。そして闇へと転げ落ちた。逃げ出す場所などどこにもない、深い絶望の袋小路へと、転げ落ちていったのだ。

織莉子の頬を、暖かな雫が伝った。それは涙と呼ばれたもので、全てが絶望に沈んだあの日から、ずっと忘れていたものだった。

「でもね、キリカ。これは私の我侭よ。それに貴女を巻き込んで、こんなことになってしまったのも事実なの。……でも、それでも私は。貴女に出会えてよかった。貴女と一緒に生きられて、貴女と一緒に戦えて。幸せだったわ。本当に……愛してるわ、キリカ」

感極まって伏した目から、とめどなく涙が溢れた。

闇に堕ちた織莉子にとって、キリカの存在は光だったのだ。それは闇よりも黒く、織莉子の側で彼女の進むべき道を照らす漆黒の光。それがたまらなく愛おしくて、一緒に居られる時間は甘美で。それが失われることが、ただただ悲しかった。

 

「私だって!織莉子のことは大好きだ、愛してる。愛してるんだっ!……嫌だ!嫌だ嫌だイヤだっ!こんなところで終わりたくない。まだ死にたくないっ!もっと織莉子と一緒に居たい、もっと一緒に話がしたい。もっと、もっと織莉子に触れたい。嫌だ、嫌だよ……死にたく、ない……よぉ」

例えどれほどの絶望を乗り越えたとて、幾度もの死線を乗り越えたとて、彼女達はまだ少女なのだ。呆れるほどの苦境の末に手にした平和。その平和からさえも舌を突き出されて、気丈で居られるはずがなかった。

止め処ない嗚咽が、キリカの口から漏れた。

「キリカ……あぁ、キリカ。私も同じよ。貴女と一緒に居たい。貴女と生きていたい。なのに、どうして……こんなっ」

ぽろぽろと、零れるのは涙ばかりではなくて。零れるのは嗚咽。それはやがて慟哭。二つの泣き声が、死を待つばかりの箱舟の中に響いた。

 

けれど、その死は一向に訪れなかった。

 

泣きはらし、すっかり目元も腫れてしまった二人。溢れる激情は、涙になって流れてしまった。

されど訪れぬ最後の時。

「……これは、もしかすると」

それは、二人の脳裏に何かを予感させた。

「ええ、もしかしたら……」

それはあまりにかすかな希望。状況は変わったのではないか。最後をもたらすその一撃は、未だ持って放たれていないのだ。もしやすると、死の定めは覆されるのかもしれない。

それはもちろんかすかな希望。けれど今まで希望のきの字も見えなかったのだ。そしてほんの僅かでも希望があれば、それはきっと現実足りえることを二人は知っていた。

 

「……ええと、その。そういうこと、なんです。ハイ」

艦の通信をジャックして流れ込んできたその声は、やけに気まずそうな少女の声だった。

「え……貴女、は?」

「な……っ、君はっ!?」

その声は、二人にとっては聞き覚えのある声だった。その声に織莉子は疑問を、キリカは驚愕をその表情に浮かべた。

「まあ……要するに、っスね。刺客かと思った?残念、魔法少女隊でしたっ!!……ってなわけで」

もう一つ、別の少女の声。なんだかもう開き直っているような声。それもまた、二人にとっては聞き覚えのある声で。

とうとう二人は互いに同じく、驚愕の表情を浮かべるのみとなり。

「助けに来たんです。……隊長、織莉子さん」

そしてもう一人の声。それもまた同じく聞き覚えのある、忘れようもない声。

少女達は、かつてのキリカの戦友達。バイド戦役を生き延びた、魔法少女隊の戦士達だったのだ。

 

「生きて……いたのかい、君達は」

愕然と、そして呆然とキリカは呟いた。安堵、驚愕、そして今更になって込み上げてきた、たまらないほどの嬉しさと。

「あー、ひっどいなぁ隊長ってば、会っていきなり生きてたのかーって。死ぬわけないじゃないスか。私らは隊長の部下で、魔法少女隊なんでスよ?」

「先ほどはごめんなさい、どうしても船を止めるためには推進部を破壊するしかなかったので。お怪我とかなされてませんか?とにかくすぐに助けに行きますから」

「……まあ、本当は結構前から通信は繋がってたんだけどね。あんなわんわん泣かれてたら、話すことも話せないってわけでねぇ」

そして最後の一言が、たまらなく二人の羞恥を煽るのだった。当然、途端にその顔は朱に染まった。

 

「き~み~た~ち~は~~っ!何をやってるんだぁぁぁっ!!」

キリカは絶叫した。恐らくそれは照れ隠しと言ってもいい。けれどその声はとてもとても嬉しそうに、少女達へと怒りを発散していた。

「うわわ、隊長が怒ったっスー」

「ですからそれについてもごめんなさいということで……その、正直驚いてました隊長があんなにわんわん泣いてるなんて……くくっ」

「いや、状況が状況だから笑っていいのかわからなかったんだけどね、やっぱり笑うってこれ」

詫びているのだか煽っているのだか、なんだか暢気なやり取りで。そんなやり取りを遮って、響く一つの笑い声。

 

「くくっ……ふふ、あはは。あははははっ!」

「……お、織莉、子?」

それは織莉子の放った声で。今までの様子が嘘のように笑い出す。それには少女達も絶句。キリカすら、どこか心配そうに顔を覗き込むばかりで。

「あはは……はは、はぁ。っ、もう」

目じりに浮かんだ涙を払おうとして、枷に遮られそれも叶わずに。さりとて気にすることなく、織莉子はそのまま言葉を次いだ。

「本当にもう、一体どれだけ波乱万丈なのかしらね、私達の人生は。多分もう、一生どころじゃすまないほどの生き死にを越えてきたんじゃないかと思うくらい。思わず笑ってしまったわ。……そろそろ隠居でも考えようかしら。ねぇ、キリカ」

「え、いや。織莉子がそうしたいなら……私もいい、けど」

キリカですら見たことのない織莉子の姿。目を見開いて戸惑うキリカ。まさか極度の緊張で何かがぷっつりといってしまったのではと、そんなことすら考え始めてしまったところに、更なる声が飛び込んだ。

「輸送艦が来たんで、船ごと積み込んじゃいますよ。……それと、織莉子さん。隠居は……まだできそうにないかもしれないスよ」

少し申し訳なさそうにその少女は告げた。それは予想されいたことかのように、織莉子の答えはすぐさま返ってくるのだった。

 

「分かっているわ。バイド戦役が終わった今、存在しないはずの魔法少女隊を名乗る理由。そして重罪人である私達を助ける理由。それを考えれば、新たな魔法少女隊の目的も分かるわ」

「……相変わらず、驚くほど察しがいいですね」

その答えが、自分の推測を肯定しているのだと理解して、織莉子は更に笑みを深めた。

「戦うつもりなのね、地球連合軍と」

「……ああ、ここまで好き勝手にやられっぱなしで、泣き寝入りじゃあ気がすまないからね。だから二人にも付き合って欲しい。そのためにわざわざ革命軍に救出作戦への協力をさせたんだからさ」

そう、今回の救出作戦にはグランゼーラ革命軍も一枚噛んでいたのだ。政治犯収容施設が火星にあることから、そこへの護送の日時や航路を革命軍を通じて手に入れていたのである。

 

「織莉子、私は戦う。私や織莉子をここまでコケにしたんだ。あいつらはその報いを受けるべきだ。織莉子はどうするんだい?やっぱり人間相手は……」

織莉子の戦う理由は、正義のため。世のため人のため。だとすれば、その力を同じく人に向けるのは恐らく大いに躊躇うべきことだろう。

キリカの言葉も、今一つ歯切れが悪い。

「戦うわ。ここまで死にそうになったり生かされたりしていたのでは、身の休まる暇もないもの。だから、そろそろそんな最悪な運命の後ろ髪を、思い切り引き抜いてあげてもいい頃だと思うのよ。もう二度と私達にそんな運命を与えられなくなるくらい、徹底的に叩き潰してあげましょう」

そして織莉子は不敵に、力強く、どこか邪悪さすら感じるような笑みを浮かべた。

 

かくしてその日、魔法少女隊に美国織莉子・呉キリカの両名が復帰することとなった。二人のその後の活躍は目覚しく、後の戦乱の最中にも多くの戦果を挙げたといわれている。

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