魔法少女隊R-TYPEs   作:SanDMooN

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魔法少女隊。バイドとの戦いを生き延びた歴戦の勇士達。いずれ劣らぬ英雄達。
そんな彼女らに差し向けられた刺客。それもまた、英雄たる資格持つ者。

対峙する英雄達。その顛末は。


―Epilogue of Admiral Kujo―

「奴らの追撃に失敗し、あまつさえ木星圏の突破を許すとは、貴様は一体何をやっているのだっ!!」

怒気を孕んだ男の声が、その部屋を揺るがした。そこは艦内の会議室。並び立つ立体映像に囲まれて、一人の男が憮然とした表情で立っていた。

「この失態、一体どう説明してくれるのかね、ナインライブス中佐」

また別の男が、どこか嫌味っぽい口調で問い詰める。思わず溜息が零れ出そうになるのを堪えて、彼――カズマ・ナインライブスあるいは九条は口を開いた。

「確かに、木星を抜けられたことに関しては私のミスでもあるでしょう。ですが、たとえそうでなくともこんな急造の部隊で、奴らの相手ができるわけがない」

そう、魔法少女隊の追撃を行った部隊の司令官、それこそがこの九条提督であったのである。

かつての戦友であるはずの魔法少女隊と戦わねばならない。その心情はいかなるものなのだろうか。そんな葛藤も迷いもさほど見せることはなく、九条は努めて冷静な軍人然として任務を遂行していた。

 

けれどその結果は余人の知るとおり。追撃に出た無人兵器部隊は甚大なる被害を被り、更には木星の守りを手薄にしたことにより、魔法少女隊と所属不明部隊の連合軍は、容易く木星を突破しえたのである。

木星を突破されてしまえば、その先はもはや地球連合軍の支配の及ぶ領域ではなく、彼女達のゲイルロズへの帰還を阻むことは困難であると予測されていた。

そんな失態を受け、木星圏に駐留している追撃艦隊に直接地球連合軍司令部からのお叱りがあったというわけである。

 

「確かに部隊は急造かも知れん、だが貴官に預けたのは無人兵器のみの部隊だ。兵の錬度や士気が影響することはなかったと思うのだが?」

また一つ、今度はどこか冷たい印象も受ける女の声。彼女は無人兵器の開発、配備を推進する派閥の者であり、部隊としての錬度や士気によらず、安定した戦力を展開することが可能な無人兵器のアドバンテージを、ひたすら声高に強調していたのである。

だからこそ彼女には、その失態の原因を追究する必要があった。

「いかに無人兵器が優秀でも、僅か数日で扱えるようになれというのは、流石に酷なものでしょう?そして個の能力が数を圧倒することもある。魔法少女隊は、貴方方が思っているほど容易い相手ではありませんよ」

そんな疑問にも、努めて冷静に九条は答えるのだった。

そう、九条がこの追撃艦隊の指揮を取り、魔法少女隊への追撃を行うようになったのはほんの数日前のことなのだ。というのも、ルナベース6襲撃事件が起こるまでの間、九条は火星に投獄されていたのだから。

 

話は第二次バイド討伐艦隊の帰還へと遡る。

跳躍空間において、オージザプトム、ファインモーションの二大A級バイドとの激戦を乗り越えた第二次バイド討伐艦隊ではあったが、その被害は甚大だった。艦隊の二割が大破、残りの艦隊も大なり小なりの損傷を負い、戦闘に耐えうるものは半数程度しか残っていなかった。

仕方なく九条は、負傷艦を後方に下げ、大破した艦や航行不能な艦の乗員もすべてそこに押し込んだ。負傷艦にはそのまま地球へと戻ってもらい、残る戦力でバイド中枢への突入を再度敢行しようと目論んでいた。

だが、その矢先である。バイドの残党が再び討伐艦隊へと攻撃を仕掛けてきた。応戦し、さらに激しく跳躍空間を戦火に染め上げている最中、唐突にバイド群はその動きを止めたのである。

それがいかなる事実を示しているか、それはもはや疑うべくもなく。英雄がバイドの中枢を撃破したのだということを示していた。結局のところ、バイド中枢の撃破において、第二次バイド討伐艦隊はその本懐を果たすことはなかったのである。

 

なんとなく釈然としなくもあったが、バイドの脅威が去ったことに艦隊は狂喜し、歓声が沸き立った。

そんな浮かれ騒ぎを何とか御して、第二次バイド討伐艦隊は太陽系への帰路を辿ったのである。負傷艦を牽引し、行きの優に数倍もの、おおよそ二ヶ月ほどの時を経て。

第二次バイド討伐艦隊は、無事に太陽系へと帰還したのだった。

だが、呆れ帰るほどの死闘と苦難の果てに帰還を果たした九条に待ち受けていた運命は

不当なほどに過酷なものであった。

太陽系の各惑星において、歓声を受けながら凱旋を果たした第二次バイド討伐艦隊は、火星へと到達した時点で解散され、それぞれの軍務へと戻ることとなった。そして九条は一人、副官さえも伴わず地球へと戻ったのである。

 

そこで、彼は謂れなき誹謗を受け、余りにも不当な罪で投獄されることとなる。曰く、バイドとの交戦において多くの人員、資材を失わせたことに対する罪なのだという。

かくして、英雄は一夜にして獄中の人となったのである。

その全ては人知れず行われた。そのようなことを平然と行えるほどに、当時の地球連合軍はイカれていたのだ。もちろんその当時には既に、地球至上主義は地球連合軍内へと蔓延していた。

旧体制の行いの全てを批判しようとする新政府の所業は、九条にも等しく降り注いでいたのである。

そして数ヶ月の時が流れ、その全てを九条は獄中にて過ごした。

英雄となった九条を、新政府の扱いかねていたのだろうか。その時点で既に起こっていた第一次太陽系戦争への対応に追われていたこともあったのだろう。とにかくそれらの出来事が太陽系を揺るがしていたその頃でさえ、九条は獄中にいたのである。

 

けれど、状況は変わった。

神出鬼没にして大胆不敵な魔法少女隊。この強敵を前にして、地球連合軍は優れた司令官を必要とした。旧体制に付き従う軍人のほとんどを処断してしまっていた地球連合軍には、魔法少女隊の追撃を任せられる人物はもはや、九条しか残っていなかったのである。

九条とて曲がりなりにも英雄である。

彼を投獄することを決めた彼らでさえ、その実力にはひとかどの評価を向けていた。だからこそ獄中の九条を引きずり出し、恩赦と軍への復帰を引き換えに魔法少女隊の追撃の任を任せたのであった。

彼らは、九条がかつてグリトニルにて魔法少女隊を率いていた事実を知らなかった。だからこそそれを任せえたのだろう。そして、九条をそれに応じた。

 

だが、それは失敗した。そう、失敗したのである。

 

 

「無人兵器を信用しないわけではありませんが、連中の相手には役不足。もし本当に連中をどうにかしたいと思うのなら、同じく熟練の戦士が必要となるでしょう」

批難するように九条を睨みつける、無数の立体映像の視線。それを相変わらずどこか憮然とした表情で受け止め、九条は言葉を続けた。

「そうすれば、連中を始末できると?」

「私に部隊の裁量権を、そして一月の時間をいただければ、確実にやってのけますよ」

訝しげに尋ねる声にも、やけに自信げに九条は答えたのである。

「馬鹿を言うな、一月もすればもう、奴らはとっくにゲイルロズに到着しているではないかっ!」

「だから、そのゲイルロズごと陥落せしめて見せる。と言っているのですよ。何、大したことはありませんよ。いかにグランゼーラ革命軍と合流したとは言え、奴らにさほどの実戦経験はありません。魔法少女隊以外の兵の質では確実にこちらが勝る。そしてこちらにはフォースというアドバンテージもある。もっとも、無人兵器で運用できるものではありませんがね」

淡々と九条は言葉を続ける。

無人兵器の優秀さはその数と無人機ゆえの機動性に所以する。けれどもそこには欠点も存在した。フォースという、地球連合軍がグランゼーラ革命軍に対して持ちうる最大の優位の証明たるその兵器は、未だ持って暴走の危険性もあり、無人兵器に搭載することはできずにいた。

その原料となるバイドも、遠からず枯渇するであろうと考えられていたこともその一因ではあったのだが。

 

恙無く自らの主張を終え、九条はどこか胸を張って地球連合軍司令部からの返答を待っていた。その返答はしばしもたらされることはなく、どうやら相当に議論は紛糾していたことが見て取れた。

「……本当に、できるのかね?」

やがて、静かに尋ねるような声が一つ、放たれた。

「任せていただけるなら、必ず」

僅かな沈黙、そして。

 

「改めて貴官に一個艦隊を預ける。人員の選別は貴官に一任する。速やかに火星に戻り、そこで部隊を編成した後ゲイルロズに向かえ。以上だ」

その指令は、九条の元へと伝えられた。

「……謹んで、拝命いたします」

その重々しい声に、九条は変わらず淡々とした口調で答えるのだった。そして、それを最後に無数の立体映像は次々に掻き消えていった。全ての立体映像が消え通信が途切れ、会議室は暗闇に閉ざされた。

だから、それを見るものは誰もいなかったのだ。その目を爛々と輝かせ、静かにその牙を剥き笑う、九条の姿を。

 

「どうでした、お偉いさんの様子は?」

会議室を出たところで、まるで待ち伏せしていたかのようにガザロフが呼びかけた。九条が復帰の際に降格を食らい、彼女自身は変わらなかったこともあり、二人の階級は随分と近いものとなっていた。

そんな彼女だけは、九条のたっての頼みによって今回の追撃艦隊にも召集されていた。そして、相変わらず彼の隣に副官として立っていたのである。その姿は、余人をしてまるで長年連れ添った夫婦のようだ、とも言われていることを知らない二人ではなかった。

「火星で部隊を再編した後、ゲイルロズへ向かえ……だそうだ。ようやくこれで、私も随分自由に動けるようになったよ」

そして九条は自信げに、彼女にそう答えるのだった。

「早速仕事だ、ガザロフ少佐。第二次バイド討伐艦隊のメンバーと繋ぎをつけてくれ。できれば私達が火星に到着するまでに、可能な限り人員を集めておきたい」

敵はかつての魔法少女隊。

知らぬ中ではない相手、それでも命じられれば戦うのが軍人なのかもしれないが、どこか嬉々として艦隊再編の準備を進める九条の姿は、彼女にはどうにも不思議に見えた。

まさか、ととある予感めいた考えたが彼女の脳裏によぎる。だとすれば、そうでないにしても、優秀な人材はいくらだって欲しいものだ。

 

「了解しました、提督!」

ガザロフはそう一声答えると、通信室へと駆けていくのだった。けれどその途中で振り向いて、一言叫んだ。

「提督っ!私は……どこまでも提督について行きますからっ!」

そして今度こそ急いで、まるで逃げるかのように通信室へと駆け込んでいくのだった。そんな様子に九条は思わず目を丸くして、それから小さく微笑むのだった。

 

 

「久しぶりだな、諸君」

そして九条は、並び立つ艦隊へ向けて感慨深げにそう呼びかけた。それに答える者達も、懐かしげに。そして感慨深げに口々に言葉を返した。

 

ゲイルロズ攻略艦隊。

表向きの名目はともかく、その目的からすればそのように呼ぶのが相応しかろう艦隊である。一個艦隊とは言うがその戦力は非常に強大であり、現時点での地球連合軍の全戦力の約二割が投入されていた。

そしてそれらの艦隊の艦載機は全てR戦闘機。すなわち有人機であり、現時点で地球連合軍が保有している全R戦闘機の約四割が、この艦隊に動員されていた。

軍の主力が無人兵器へと移り変わる中、恐らくこれがR戦闘機を用いた最後の大規模戦闘となるだろうと、この艦隊の実情を知る者達は口々にそう漏らすのだった。

攻略艦隊の旗艦であり、かつての九条の乗艦でもあったテュール級五番艦、スキタリス。そのブリッジに今、九条“大佐”は艦隊司令官として立っていた。

けれど、その隣にはガザロフ少佐の姿はない。そこにいたのは、細面にモノクルをつけた、どこか慇懃無礼な印象を受ける男の姿。

 

「では、早速我々は木星を経由しゲイルロズへ向かう。これは太陽系を真に解放するための戦いであるからして、諸君らのより一層の奮戦に期待するものである」

その男は、九条を差し置いて言葉を放つ。その言葉もやはり、どうにも慇懃無礼な印象を与えるものだった。

彼の名はアイズ・イジマール。階級は中佐。ゲイルロズ攻略艦隊の副官として、そして地球連合軍からの監視役として、九条に随行するよう命じられていた。

ガザロフ少佐は前線に展開している艦隊を取りまとめる任務が与えられており、今や直接九条に関わることはできなくなっていた。

結局、肝心なところは思うようにしたがるのが彼らのやり口であるらしい。このゲイルロズ攻略艦隊に集められた人員のほとんどは、第二次バイド討伐艦隊に参加した者達でありその中でも特に実戦経験の多い、グリトニル防衛部隊の生き残りが多く召集されていた。

それこそ彼らは九条にとっては馴染み深い戦友である。だが、このスキタリスのブリッジやその後方の艦隊の乗組員達は、地球連合軍が直接指名し選んだものであった。

恐らくそれは、九条の反逆を恐れてのことだったのだろう。もしそんなことが起これば、すぐさま周りの者達が九条を処断し、イジマールが代わって指揮を執る。

そういう手はずが既に整っているような雰囲気を、周りの乗組員達は感じさせていた。

 

「首輪を付けられ、遥かな敵地へどんぶらこ……か」

艦長席につき、頬杖の一つもつきながら嘲笑気味に愚痴る九条に

「言動にはお気をつけください、貴方の行動は監視されていますので」

副官席についていたイジマールが、やはり慇懃無礼に言うのだった。

「言われなくともやることはやるさ。君も協力してくれるのだろう、イジマール中佐?」

「ええ、副官の立場を逸脱しない程度には、ですがね」

面倒な旅になりそうだ、と。九条は唇をへの字にして内心で嘆いていた。ある意味ではバイドよりも厄介なのだ。強大な敵が目の前にいることよりも、身内に敵がいることのほうが恐ろしい。

この旅路は、いろんな意味で困難な行程となるだろうという、確信めいた思いが九条の脳裏に浮かんで消えた。

「……まあ、とにかく行こうか」

静かに九条は呟き、そしてゲイルロズ攻略艦隊は粛々とその航路を辿り始めるのだった。

 

 

ゲイルロズ攻略艦隊は恙無くその航海を続けていた。

途中、幾つかの革命軍の拠点を侵攻する予定であったが、攻略艦隊がそこに到着したときには既に革命軍は撤退しており、もぬけの空の拠点だけがいくつも残されているだけだった。

流石にそれを不信に思う者はいたものの、破棄された拠点には物資がそのままの形で残されており、革命軍は相当に急いで拠点を破棄したことが伺えた。

恐らくゲイルロズに戦力を集中させ、決戦に備えているのだろうという推測が立てられ、これ以上の戦力の結集を妨げるため、攻略艦隊は予定を前倒しにしてゲイルロズへと急ぐこととなる。

 

「さて、なんだかあっという間についてしまった気がするな」

「連戦連勝、と言うまでもありませんね。そもそも一度の戦闘もなかったのですから」

ゲイルロズを遠巻きに囲み、スキタリスのブリッジで九条が呟く。副官姿は一向に板に付かず、相変わらずの慇懃無礼さでイジマールが言葉を続けた。

「おかげでこちらは戦力を温存できた。それは向こうも同じだろうがね。……さて、どう攻めるか」

ゲイルロズは実に堅牢な要塞である。その外壁は陽電子砲の直撃にも耐え、大量の食糧生産プラントは篭城を容易に可能とさせていた。

まさしく堅牢不落の要塞であり、これを陥落せしめたのはバイド戦役終戦間近に押し寄せたバイドの群れと、一部の人間を除いて知ることのない、かつての英雄の所業だけであった。

それほどまでに、ゲイルロズは堅牢を誇っていたのである。

流石の九条も、これを陥落せしめることは容易ではないと思われた。その時である、前線に艦隊を展開していたガザロフからの通信が飛び込んできた。

 

「提督、ゲイルロズよりこちらの艦に通信が入りました」

「通信?ふむ、それで連中はなんと?」

問いかけた九条の言葉を遮って、イジマールが文字通り口を挟んだ。

「ガザロフ少佐、事前に厳命していたはずだ。本艦への直接の通信は控え、本艦の通信手を必ず通すようとな!これは重大な軍規違反だぞ!」

そこまでして全ての情報を抱え込みたいのだろうか。全くもって辟易とした気分を抱えながら、九条は彼女の言葉に答えた。

「まあ、とにかく聞こうじゃないか。そうまでして伝えたいということは重要なことなのだろう?」

「はい、とっても重要なことなんですっ!革命軍は和睦のための交渉を始める意図があると言っています。条件によってはゲイルロズを明け渡すとも」

それは、随分と意外な申し出だった。確かに革命軍の戦力は各コロニー軍、魔法少女隊を吸収したとは言え地球連合軍のそれには及ばない。だとしても、この堅牢たるゲイルロズと多くの戦力を抱え、かくも容易く白旗を揚げるのだろうか。

 

「和睦?和睦だとっ!?ふざけるな、我々は奴らを打ち滅ぼしに来たのだ。地球に仇なす害虫を、宇宙のゴミ虫どもを一匹たりとも生かしておけるかっ!何が和睦だ何が交渉だ。奴らを皆殺しにしろ、今すぐ攻撃を開始するんだッ!!」

何がそこまで気に入らなかったのか、イジマールは青白い顔を赤らめ。更には青筋までもを浮かべて叫んでいた。このままでは本当に激情に任せて攻撃を開始しかねない。

「落ち着きたまえ、中佐。とにかく向こうの事情を聞こう。向こうに交渉の意図があるというのなら、話くらいは聞いてもいいはずだ」

「提督、貴方は我々の任務をお忘れか?」

「忘れてはいない。だが、無用な戦いが回避できるならそれに越したことはないだろう?」

どうやら、九条の言葉は更なる憤怒の引き金を引き絞ってしまったらしい。今にも切れてしまいそうなほどに青筋を浮かび上がらせて、イジマールは九条に迫った。

「無用?無用だと?ふざけるな、これは聖戦だぞ!我等地球人が下賎な宇宙人どもの上に永遠に君臨し続けるということを全太陽系に知らしめる。そのための聖戦を、圧倒的勝利を収めなければならないこの戦いを、貴様は無用だというつもりか!?」

地球至上主義も徹底的に拗らせれば、ここまで人格が歪んでしまうのか。最早階級の上下さえも知ったことかと語気を荒げるイジマールを、呆れたように九条は眺めていた。だが、そうして燃え上がった怒りはイジマールを随分と短絡的な行動へと駆り立てた。

 

九条の額に、黒光りする銃口が突きつけられた。

 

「やはり貴様などには任せておけん。私が艦隊を指揮してやる!私が、私こそがこの聖戦を勝利に導き、青きあの地球に永遠の英雄としてその名を刻み――」

その瞳に映るのは純然たる狂気。そして狂喜。艦内がざわついた。正気ならぬ様子に、流石に止めようとするものもいたが、そんな者達が動き出すよりも早く、その引き金は引かれる事となるだろう。

その銃口を逸らしたのは、スキタリスに接近する機体の反応だった。

「高速で本艦に接近する機体があります。これは……革命軍ですっ!」

艦のオペレーターが敵機の接近を告げた。その報告に、一瞬イジマールの注意が九条から逸れた。その一瞬の隙を突き、九条はイジマールの手から銃を弾き飛ばし、更にはその手を捻り上げる。

 

「がああっ!離せ、お、折れるぅ……」

「攻撃開始だ、敵を近づけさせるな!……それと、誰かこいつを取り押さえろ。まさか諸君だって、この状態の彼に指揮権を預けたくはあるまい?」

たとえ地球連合軍の息がかかった者達だとしても、流石にこの状況では九条の言葉に従わざるを得ない。全艦を迎撃体勢に移行させると同時に、艦の警護班がイジマールを連行していった。

「離せ、貴様らっ!私を、私を誰だと思っているっ!」

「はぁ……君が誰であれ、今は私が上官だ。指揮権の譲渡だとか私の弾劾だとかは、とりあえずこの戦いが終わってからにしてくれよ」

溜息交じりにイジマールを送り出し、九条はようやく戦場へと意識を向けた。迎撃が遅れたためか、既に敵機は前線を突破していた。

単機での突攻である。正気とは思えないが、それでも前線を突破したのだからその腕は確かなのだろう。

更にその敵機は、スキタリスの護衛艦が次々に放つ迎撃用のレーザーを掻い潜りR戦闘機の発進準備が整うより早く、スキタリスへと肉薄していた。

 

「敵機、本艦に接近……こ、これは」

オペレーターが絶句する。そう、最早逐一状況を報告される必要も無いのだ。スキタリスのブリッジの目の前に、その敵機の姿があったのだから。

機体内部には高エネルギー反応。恐らく波動砲だろう。放たれれば逃れる術は無い。

完全に詰みである。まさかまさかの強襲であり、その成果は文句なしだった。

「……単独でこれほどのことをやってのける技量、只者ではないようだ。しかし、交渉を持ちかけておいてその矢先に奇襲か、向こうも向こうで随分と腹の黒いことをする」

敵の手並みには素直に感服はするものの、それとは逆にこちらの手際の悪さにも辟易とさせれる。身内同士で腹の探りあいなどしている場合ではないのだというのに。

もし副官や護衛艦がまともであれば、よもやここまでの肉薄などは許すはずはなかっただろうに。

やはり優秀な人材というものは実に得がたいものだと、今更ながらに九条は天を仰いで嘆いた。

 

この一撃が放たれてしまえば、まず間違いなくスキタリスはその機能を停止することになる。九条自身も助かりはすまい。戦いも止まりはすまい。

自分亡き後一体誰が指揮を執るのかと考え、せめてガザロフ少佐が奮戦してくれればいいが、と九条は考え。

「……彼女には生き延びて貰いたいところだ。こんなところで死んで欲しくはない」

そんな言葉がぽつりと零れて、九条は思わず苦笑した。果たしてそれは彼女の能力が信頼できないということなのだろうか、いやいやそうではあるまい。

純粋に彼女の身を案じる理由。それが何かと思い至ればなんともおかしくなってしまって。九条は、零れ出そうになる笑みを堪えるのに随分と苦労した。

 

 

そして、それだけの時間を経ても波動砲が放たれることはなく。代わりに飛び込んできたのは、どこか聞き覚えのある少女の声だった。

「最初に言っておくわ。こちらには確かに交渉のテーブルに付く用意がある。けれど貴方達がどうしてもそれを拒んで戦闘を行うというのなら、まずは貴方達の指揮官に死んでもらうことになる」

「……銃口を突きつけて交渉のテーブルに付け、とは。随分とまだるっこしくも乱暴なことをするね。私が死んだところで、それで総崩れになるほど我々は甘くはないのだが」

いち早く九条はその言葉に答え、そして実に複雑な表情で言葉を続けるのだった。

「そうだな。確かに君が生きているのなら、魔法少女隊に加わっていても不思議はないだろう。かつての英雄が今は地球の敵対者……か、懐かしいな、スゥ=スラスター。いや、本当の名前は違うんだったかな?」

通信の向こうで、静かに息を飲む音が聞こえた。

九条の言葉は、その少女にとっても意外だったのだろう。

 

「……答えを、聞かせなさい」

それでもどこか冷たい声で、その少女――暁美ほむらは、なんだかんだで実は面識のなかった九条に向けて、決断を迫るのだった。

 

 

そしてその日、ゲイルロズ周辺宙域において地球連合軍・ゲイルロズ攻略艦隊と、グランゼーラ革命軍及び太陽系同盟軍との和睦交渉が開かれることとなる。

そしてその日より太陽系内部の状況は激変する。当然のごとくそれは、新たなる戦いを呼び起こす。

 

「やあ、どうやら落ち着いたようだね、イジマール中佐」

交渉のため、ゲイルロズに付属するコロニーへと赴いていた九条から、スキタリスへと通信が入った。スキタリス及び地球連合軍から差し向けられた護衛艦隊は、ゲイルロズに接近することを拒み後方へと下がっていた。そしてガザロフ少佐率いる部隊のみが、九条の護衛についていたのである。

戦力が分断されてしまった以上、革命軍との戦力差は最早圧倒的であり、これ幸いと革命軍が牙を剥けば、容易く攻略艦隊は総崩れとなってしまうだろう。

そんな状況だからこそ、その通信が誰にも妨げられることなく届いたことは、些か不思議なことではあった。時がその激昂を鎮め、ようやく冷静な思考を取り戻したイジマールにとっても、それは不思議なことであった。

 

「九条……まだ生きていたのか」

そして例え激昂が収まったとは言え、一度突きつけた矛先を下ろすことは用意ではない。それが狂信者の矛であれば尚更で、イジマールの口調は敵意と殺意の混じったものとなっていた。

「ああ、ぴんぴんしているとも。色々と君に伝えなければならないことがある。恐らくこうして通信を送るのもこれが最後だ、よく聞いて欲しい」

変わらぬ調子の九条の言葉、けれどその言葉の意味するところは果たして何か。恐らくそれが、彼の最後の言葉となるのだろう。すぐにそれを理解し、イジマールは唇の端を吊り上げて笑った。

 

「そういうことなら聞きましょうとも。敵の口車に乗せられて死ぬこととなった哀れで愚かな男の最後の言葉だ。しっかりと最後まで聞き届けましょうとも。九条提督?」

「……いや、まあいいか。とりあえず攻略艦隊の指揮権を君に譲渡する。引き続きグリトニルの攻略を頑張ってくれ」

やはり本格的にこの男とは話が合わない。相手が狂信者であるのなら尚のことである。九条は内心辟易としながらも言葉を続けた。

「もっとも、そう容易くはやれないだろうがな」

躊躇いもあるが、それでもどこかなにやらスカッとしたような表情で、九条は言い放った。

 

「全艦旋回!攻撃態勢に移れっ!!」

その言葉と同時に、九条に着き従っていた艦隊が動き出す。旋回し、その砲塔が向けられたのは同じく地球連合軍の艦隊に対してであった。かつてのグリトニル防衛部隊のみで構成された艦隊は、九条の指示に躊躇することなく従い、地球連合軍に対して牙を剥く。

「貴様、反逆するつもりかっ!?」

「仮にも英雄として帰ってきた身、投獄される謂れも飼い殺しにされる謂れもない。そうでもなければ、わざわざこんなところまで来るつもりなどあるものかっ!……それに言うだろう。反逆は英雄の特権だ、とね」

言ってやった、これ以上なくすっとした気持ちで九条は通信を打ち切った。錯乱したように何事かをがなりたてるイジマールの言葉など、これ以上は欠片も聞く必要は無かった。

 

死地より戻り投獄されたその時より、九条は既に地球連合軍という組織に対して見切りをつけていた。そして、常軌を逸した狂信に取り付かれたこの組織の暴走をどうにかして止めねばならぬと、そう思っていた。

だからこそ九条は、ガザロフを始めとした一部の信頼の置ける部下に頼み、革命軍への亡命の準備を進めていたのだった。拠点を放棄するという不可解な革命軍の行動も、互いの戦力を損なわないようにするためであったのだ。

かくして、多少の想定外の出来事はあれど、九条はついに革命軍への亡命を遂げた。そして九条は、自らに付き従う無数の戦友たちに向けて高らかに宣言したのである。

 

「私は確信した。最早、今の地球連合軍に正義はない。ならば私は、私が信じるものの為に戦おう。君達は私と共に、あの死闘を生き抜いた戦友たちだ。私は君達を信じる。そして私は、同じく戦友である魔法少女隊の少女達を信じたい、そして救いたいと思っている」

ずっと九条の胸中に渦巻いていた不信。それは悪夢の兵器たるフォースを扱うことや、非人道的な機体を開発することへも向けられていた。そして彼は魔法少女隊の実情を知る。その裏で犠牲となった、何千人もの少女達のことを知った。

されど敵がバイドであれば、戦わねばならないと自らを納得させることもできた。

だが、この有様はなんだ。バイドとの戦いを終えたかと思えば、今度は人間同士の争いである。そして新たな政府は、バイド戦役における数多くの非人道的行為を改めようともしていない。

最早これ以上、地球連合軍という組織に忠義立てる謂れなど、どこにも存在していなかった。

 

「現時刻をもって我々は、魔法少女隊の指揮下に入るっ!!」

大きく息を吸い込んで、雄雄しく九条は叫ぶ。そしてその声につられるように、コロニーから無数の光が飛び出した。それは、魔法少女隊が駆るR戦闘機の光であった。

かくして、九条提督及びかつてのグリトニル防衛部隊を取り込んだ魔法少女隊はゲイルロズ攻略艦隊へ向けて攻撃を開始したのだった。

 

 

そして戦いは、ますます持ってその激しさを増していく。

バイド戦役当時こそ、英雄と呼ばれながらもその戦争の終結に何ら関与し得なかった九条であったが、此度の戦いにおいては、まさしく英雄の名に恥じぬ多くの活躍を見せ、多くの勇名を馳せたといわれている。

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