魔法少女隊R-TYPEs   作:SanDMooN

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エバーグリーン攻略戦、最終局面。コロニー最奥に潜む、形無き悪夢が少女達に襲い来る。
絶体絶命の危機の中、彼女達は何を願うのか。


第7話 ―METALLIC DAWN Ⅱ―

「ほむら、何をしているんだい?」

さやかを送り出し、ティー・パーティーは近隣の宇宙港に寄航していた。機体の修理には専門の修理班が必要とのことで、今のところどうにも身動きがとれずにいたのだ。

そんな中で、ほむらは静かに動き出す。絶望に打ちひしがれた心を奮い立たせて歩き出す。向かった先は、さやかの部屋の前。

そんなほむらに、キュゥべえが声をかけた。

「……ちょうどよかったわ、キュゥべえ。部屋のロックを開けてくれないかしら」

何かを考え込むように佇んでいたほむらの前に、半透明のキュゥべえの姿が現れる。それを一瞥して、すぐにほむらは言葉を告げた。

 

「どうしてそんなことを?何か欲しいものでもあるのかい」

「ええ、とても必要なものよ。……さやかは何も持たずに出て行ったから。多分まだ、この部屋においてあるんじゃないかしら」

胸の奥には罪悪感。こんな空き巣まがいなことをしてしまっている。それを堪えて、今はやらなければならないことをやるしかないのだから。

「……やれやれ、一体何をするつもりなんだろうね。もしこれでキミがさやかと何かあっても、ボクは責任は取れないよ」

「構わないわ。……開けてちょうだい」

 

扉が開かれる。部屋の間取り自体はほむらの部屋と変わらない。壁のパネルに触れようとして、気付く。明かりの差さない暗い部屋の中。その部屋を仄かに照らす光があった。

それは机の上にそっと置かれていた、琥珀色の輝きを放つマミのソウルジェムだった。

「それは……マミのソウルジェムかい。……回収していたとはね。なるほど」

それを見つめて軽く目を見開いて、納得したようにキュゥべえが頷く。

「……マミの体を出しなさい」

「言うと思ったよ。安置室のロックを開けてある。……上手くいくといいけどね」

「試す価値は、あるわ」

そしてマミのソウルジェムを手に、ほむらは部屋を後にする。

 

 

 

居住ブロックの影から飛び出て、二機のR戦闘機が空を往く。立ち塞がるのは散発的に現れるストロバルトやメルトクラフト程度なもので、道を阻むものは何もない。

「却って不気味だね。本当に全部外に追い出されっちまったのかねぇ」

杏子はそう呟いて、不気味な沈黙を切って飛んでいく。

コロニー最深部、バイドの中枢がいると思しき場所までは、もうそれほど距離もない。

「この調子なら、このままあたしらで敵の親玉やっつけちゃったりしてねー」

「だといいがね。……っ!?奥から高エネルギー反応、こいつはっ!?」

「え……っ?」

奥から湧き出てきたのは、巨大な光の柱。それは膨大なエネルギーと、絶大な破壊を伴って全てを薙ぎ払っていく。そしてそれは、容易くレオを飲み込んだ。

 

「さや、か?」

 

何が起こったのか、一瞬信じられなかった。次の瞬間杏子が見たものは、火花を散らしながら墜落していくレオの姿。

そして着水、キャノピー部分を深く水に沈めて微動だにしない。

「さ……や、か?」

もう一度、恐る恐る呼びかけてみた。返事は、ない。

「何だ今の攻撃はっ!美樹くん、佐倉くんっ!コロニー内部より大出力のレーザー攻撃を受けた。そちらの状況はどうなっている?無事なのか、二人ともっ!」

焦りの混じる九条の声。何ということか、レオを打ち落としたあの閃光は、あまつさえコロニーの外に届いていた。そして、外周を取り囲む艦隊に損害を与えていたのである。

 

「さやかが……やられた。今のを喰らっちまった」

「何、それは本当かね!?それは……気の毒に……。とにかく、こんな攻撃があるようならこちらも行動を考え直さないといけない。すぐに突入するのは厳しい。佐倉くん、何とか脱出できるかい?」

「脱出……か」

出来ないことではないかも知れない。今は敵の守りも薄い。一人だけ、逃げ延びるだけならば、何とかなるかもしれなかった。さやかを見捨てて、一人で。

「……できるわけ、ねぇだろーが」

「佐倉くん?」

「できるわけねーよ。そんなこと。あいつはさやかをやりやがった。……相棒だって、仲間だって言ってたのに、あいつがやりやがったんだ」

ぎち、と力を込めて操縦桿を握り締める。頭の中がぐつぐつと煮えたぎる。また奪うのか。人生を、家族を。そしてまた今仲間を。バイドはどこまでも奪っていくというのか。

許せない、許せるわけがない。

 

「佐倉くん、落ち着くんだ。奥にはまだ大型バイドの反応がある。このまま一人で先走ってもやられるだけだ。引き返すんだ」

わかっている、それが道理だ。二人がかりでこのザマだ。一人で、それもさっきまで死にたがっていた奴が。一人で、一体どれだけ戦えるというのか。

「はは……死にたがりが生き残って、生きろって言ったあんたが死ぬのか。笑っちまうよな。……そんな道理があるかよ。なあ、さやか」

「落ち着くんだ。ここは引くも勇気だよ。一度戻って体勢を……」

その通信を途中で打ち切って、杏子は操縦桿を握り締め。

「ああ、知るかよそんな道理。道理を破ってくれやがったのは向こうだ。だったらあたしが……こんな道理に乗ってたまるかよ」

目を見開いて、向かう先を睨み付ける。

コロニー最奥まではあと少し、再び奥には大出力のエネルギー反応。わかっていれば、避けられるかもしれない。

 

「元々死にたがり一人だ。教えてやる、見せてやる!人間が何処までやれるのかってのをさ……待ってろよ、バイドっ!!」

波動の炎を巻き上げて、アサノガワが速度を上げる。この距離では奥からの攻撃に巻き込まれるからだろうか、その行く手を妨げる敵はもういない。

放たれる、閃光。眼が眩みそうになるそれを見据えて、機体を急旋回させる。回避成功。光は遥か向こうへと消えていく。外の艦隊にも被害は出ているのだろう。

ならばなおのこと、すぐにでも倒さなければならない。

 

「見えてきた。あれが……バイドの親玉かっ!!」

コロニーの最奥に押し込められたようにとどまる液体金属の塊。一体あの何処から、あれだけの高出力レーザーが発射されるというのか。理解できない。もとより、バイドのことなど理解する必要もない。

一気に機体をめぐらせて、フルチャージのパイルバンカーを叩き込む。それで終わりだ。終わらせるだけの威力はあると、そう確信していた。

 

直後、液体金属の塊が瘤のように隆起する。

変化は立て続けに生じる。さらに全周囲を覆うように液体金属は広がって行き、まるで枝や根が張るように、機体の周囲を包み込んでいく。

「動き出しやがったか!こりゃあ……まるで檻だな。逃がさない、とでも言うつもりかい?へっ、誰が逃げるかっての!」

変化自体はめまぐるしい。だがそれは攻撃と呼ぶにはあまりにも緩慢で。故に杏子は機体を巡らせ、用意にそのその中枢と思しき瘤の前へとアサノガワを運ばせた。

「挨拶代わりだ。早速だけど、こいつで終わりだよっ!」

超硬度を誇る金属杭が、波動エネルギーによって恐るべき速度を持って射出される。その圧倒的な射速で放たれたその杭は、周囲の物質と衝突し電気を発生させる。それを纏って放たれる一撃必殺の一撃、パイルバンカー帯電式。

ゲインズの装甲を撃ち抜き、ギロニカの甲殻を砕いたその一撃は。

 

 

――その瘤を僅かにへこませていた、ただそれだけだった。

 

「な……っ」

それはXelf-16と呼ばれる、無数の極小バイド体によって構成されたバイド生命体。

その特性はまさに液体金属のそれに等しく、自由自在に姿を変える。さらには与えられた衝撃に対して、それを分散して無効化する。パイルバンカーによる攻撃も、その特性の前には無力であった。

そして、周囲を取り囲む檻が脈動を始める。ところどころに突き出した突起が蠢いて、杏子めがけて伸びてくる。

一本、二本。続けてまた二本。R戦闘機の機動性であれば労せずかわせる攻撃ではあるが、狭い檻の中では動ける範囲も限られる。

 

「く……っそ、邪魔だ、退けろぉぉっ!!」

パイルバンカーのチャージをキャンセル、レーザーで焼き払おうとするも。それすらも、衝撃や熱を分散する液体金属の前には無力。

「これも駄目かっ!……負ける、かよっ!!」

逃げるという選択肢もあった。この檻はまだ退路までは塞いでいない。だが逃げられるものか。ここまで来たのだ。たとえ刺し違えてでも、倒す。

次々に繰り出される液体金属の枝を掻い潜り、それでもどうにか中枢と思しき瘤へと迫る。しかし、さらにその道を阻む敵がいる。枝からこぼれた銀の雫、それがすぐさま姿を変えた。

ここまでの道中、いやと言うほどに撃墜してきたあの機体、メルトクラフトであった。

 

「こいつがあれを生み出してやがったのか。野郎……これ以上、これ以上やらせるかぁッ!」

フォースを叩きつけ、レーザーで焼き払い。群がるメルトクラフトたちを撃ち払っていく。しかし、突如としてその攻勢が止んだ。群がる機体は外へと逃げ出し、迫る枝はなりを潜める。

それと同時に、アサノガワに警告が走る。先ほどと同じ高エネルギー反応。あのレーザーが撃たれれば、この密閉空間である。逃げる場所などありはしない。

 

「……ここまで、かな」

操縦桿を握るその手から力が抜けた。

思えば、初撃で仕留め切れなかった時点で勝負は付いていたのかもしれない。有効な攻撃手段は一切ない。出来ることといえば逃げ回ることばかり。そしてもはや、それすらも出来ない。

諦念が杏子の体を支配し始める。

 

「元々惰性で生きてたんだ。今終わったって……っ」

手が震えた。なぜか涙がこぼれた。死ぬのが恐いのか?負けるのが悔しいのか?……いいや、違う。

 

――なら、一緒に来る?一人じゃ色々煮詰まっちゃうでしょ――

 

           ――あたしは別に……自分の生き方くらい、自分で……っ――         

 

――じゃあやっぱり、尚のこと一緒に来なよ――

 

        ――行くだけだからな。ちょっとだけ見て、すぐ帰るからな――

 

――よし、決まりっ!よろしくね、相棒――

 

 

 

「はは……なんだ、なんだよ。あたしはさ……」

走馬灯のようによみがえる記憶。震えて掠れる声。理解した。けれどももう遅すぎた。

「あたしは、悲しいんだな。……あいつと、一緒に行けないってことが」

もうちょっと生きてみたら、一緒に行ってみたら。もしかしたら今までよりももっと楽しい人生が待っていたかもしれないのに。新しい仲間を見つけることが出来たかもしれないのに。

さやかはもういない。そして自分も、もうすぐいなくなる。嫌だと思う。こんなところで終わりたくない。まだ終わりにしたくない。

 

「……死にたく、ないよ」

放たれた極太の閃光が、その空間のすべてを焼き払っていった。プラズマ混じりの熱風が大気を揺らし、迸り、駆け抜ける。

その後にはもう、何も残ってはいなかった。

 

「子供が戦いそして死ぬ、だなんて。……まったく、これだから戦争ってのは嫌なんだ」

さやかと杏子からの通信が途絶えた。手で目を覆って小さく首を振って。九条はなんとも忌々しげに呟いた。

エバーグリーンを取り囲む艦隊は、コロニーからのレーザーを避けるためコロニー側面へと移動している。そうすると必然的にコロニーの正面が空くことになる。そこを狙ってメルトクラフトが突破を仕掛けてくる。

R戦闘機がそれを阻むも、戦艦からの援護射撃は受けられない。必然的に乱戦となっていく。そしてその乱戦の最中を、敵も味方もお構いなしにレーザーがその空域を貫いていく。

 

「状況は非常にまずい。このままだと、数で勝る向こうにいつかは突破される可能性が高い」

「これ以上この状態が続けば、一時間以内に彼我の戦力比が逆転する恐れがあります。それももちろん、バイドの増殖がいまのままのペースで居てくれれば、ですが」

副官として並び立つガザロフの声も、やはりトーンはやや低い。ショックがないわけがない。それでもここは戦場で、自分の判断に多くの人の命が懸かっている。

それに打ちひしがれている余裕などありはしない。死を想い、死者を悼む時間なら、生き延びてからいくらでも作ればいいのだから。

「……二人のお陰で、バイドの中枢がコロニー最奥部に存在していることはほぼ確定しました。それならば、コロニー底部に対しての飽和射撃で、コロニーごとバイドを破壊することは可能かもしれません」

「こうなってはもう、そうするより他に術はない……か」

 

飽和攻撃。コロニーごとバイドの巣窟を破壊しようという、ひどく乱暴な作戦である。あまりにもスマートとは言えないやり方。周囲への汚染の拡散も懸念される。

「とはいえ、この方法にも問題があります。ほとんどの戦艦をコロニー背後に回らせるとそれだけ正面の守りは薄くなってしまいます。突破される危険も増加すると思います」

包囲網を突破されるということは、すなわちバイドの被害が周辺地域に拡大するということで。どちらをとっても、地球にとっては少なからず傷を残すことになる。

たとえこのバイドを倒すことができたとしても、しばらく忙しい日々が続くのだろう。そのことを考えると、九条は気が重くなるのを感じた。

「……提督、指示を……お願いします」

「バイド中枢の殲滅を優先しよう。もしかしたらそれで、他のバイドの動きも鈍るかもしれない。各艦に通達。本艦はこのままこの場に留まり、敵バイドの突破を阻止する」

厳しい戦いになりそうだ。九条は思考を絞り込んでいく。大局から一点へ。ただ、敵の突破を阻止することにその思考を注ぎ込む。頭の中で何かが目まぐるしく動き始めるのを感じながら、九条は作戦の開始を号令する。

その直前に、それは訪れた。

 

 

生きる。生きるということ。それは、もがきあがくことで勝ち取るもの。生と死を分かつその線を、無理を抱えて貫き通す。その為の力。それはかつて彼女が失ったもの。そして今、彼女が取り戻したものだった。

「はは……なんだ。案外、なんとかなるもんじゃないか」

液体金属の檻の中、その壁ぎりぎりの場所に。アサノガワが浮いていた。

「生きてるぞ。あたしはまだ……死んじゃいねぇ」

極大レーザーが貫く直前。杏子は壁とレーザーとの間の、わずかな隙間に活路を見出していた。生きようと強く願わなければ、生きるためにもがかなければ、見つけることさえ叶わなかった活路であった。

それでも、その代償は安くはない。

 

「機体温度が限界を超えてる。表面が融解してやがんのかよ……道理で暑いわけだ」

直撃は避けたとは言え、レーザーに擦過したことにより機体は異常加熱を引き起こしていた。表面は赤く焼け爛れ、その熱は耐熱加工を施されたパイロットブロックにも容赦なく襲い来る。

瞬く間に目の前の大気が歪む、特殊素材でできたはずのパイロットシートが溶け始めている。パイロットスーツも焦げはじめ、焦げ臭い嫌な臭いが充満していた。

「このままじゃ蒸し焼きだ。……冷却機構が生きててくれただけでも儲けものだけどさ」

それでも、重要な機関部にはなんら支障はない。まだ動ける。まだ戦える。希望は、ある。自然と口元が吊りあがる。

 

「……お陰で見えたぜ、本体っ!」

いかな強固な液体金属生命体と言えど、これだけの大出力のレーザーには耐えられないのか。その照射の瞬間だけはその防御を解かざるを得ない。

あの瘤の中に隠されたレーザーの発射装置も、その時だけは露出する。つまり、そこを狙うことができれば。

「あのバイドの親玉に、一発ブチかましてやれる……今度こそだ!」

機体の中で渦巻く熱は、容赦なく体力と水分を奪う。視界が歪んでいるのは、大気が熱せられているからなのか、それとも自分の身体が限界なのか。どちらにしてももう長くは戦えない。次の一撃に、すべてを賭けるしかない。

それを阻むかのように襲い来る金属の枝、そしてメルトクラフトの群れ。パイルバンカーのチャージを始めれば、後はフォースシュートによる迎撃しか行えない。とはいえそうしてしまえば、敵弾から身を守る術が無くなってしまう。

 

「ったく、数だけは無駄に多いなぁ、ヤロウっ!!」

迫る枝をかわし、メルトクラフトをフォースで焼き払う。チャージは順調に進んではいるが、如何せん数が多い。枝に敵弾、メルトクラフトはとにかく数で空間を押し潰し、段々と逃げ場を奪っていく。

逃げるだけでは勝てはしない。どうにか前に出なくては。わかっているのに、ただただ圧倒的な物量が前に進むことを許さない。

 

「負けるか、負けられるか……死ねるか、こんなところでぇっ!あたしは……さやかと一緒に、帰るんだぁぁぁっ!!」

さやかはもういない。それでもせめて、一緒に帰ることが出来れば咆哮、敵機の隙間に僅かに空いた空間。抜けるならばここしかない。

そこを抜けてもまだ敵はいる。それでも今行かなければ。これ以上は下がれない。機体を赤熱させながら駆け抜けるアサノガワ。その背後から、二筋の光が迫っていた。

 

 

その閃光は煌く軌跡を描いて飛び交い、メルトクラフトを打ち払う。ひとしきり敵を薙ぎ払い、戻って行ったその先には。

「ヒロインは……遅れてやってくるっ!……なーんてねっ」

機体背部から黒煙を上げながら、熱で溶けたキャノピーを晒しながら、それでも宙を舞いサイ・ビットを放った、レオの姿だった。

 

それは、九条の艦へと伝えられた通信だった。

「あー……こちらレオ。ちょっと一発いいのをもらって気を失ってたみたい」

艦へと入ってきたその言葉に、九条も流石に驚いて。

「美樹くん……かい?やられたと聞いていたが、無事だったのか」

「機体はかなりめちゃくちゃ。でもまだ動けるしあたしは大丈夫。でも状況が全然わからないんだ。計器の類がかなり派手にやられてる。杏子はどうしたの?脱出したならいいんだけど」

「……佐倉くんは、恐らく君が死んだと思って逆上したのだろう。単独で敵中枢に乗り込んで行ったよ。先程から通信も届かない」

「んなっ!?……あんのバカ、何やってんのよっ」

言葉を遮り、さやかの頭上を迸る極大レーザー。

 

「っ……レーザーがそっち行った!そっちは無事!?」

しばし間を置いて、雑音交じりの通信が帰ってくる。

 

「艦隊は既にコロニー――に移動している。問――ない。それよりも佐倉奪取奪取が心配だ。向かってくれ――」

「あったりまえだっての!あのバカ。勝手に死んだら承知しないんだから!」

かくして、レオは杏子の危機に駆けつけた。

通常のパイロットであれば死んでいた。今更ながらに、魔法少女の体に感謝する。この体も捨てたものないじゃないか、と。

体の動きは鈍いが、それでも気分はそれほど悪くない。

 

「さやかっ!あんた、あんた……っ、どうして!?」

「普通の体じゃないんだよ。普通のことじゃ死なないっての。……それはそうと、やっと言ってくれたね。一緒に帰るってさ」

きっと顔が見えていたなら、その表情はずいぶんとにやついていただろう。そう思えるほどに、さやかの声は弾んでいた。

「お前っ!?あれ、聞いてた……あ、あれは別にそういう意味で言ったわけじゃ……」

「はいはい、そういうツンデレ行動は後で聞いてあげるからさ。今はあいつを……でしょ?」

「うぐ……わかったよ、ったくよぉ!あいつにゃ攻撃は全然通らない。 多分攻撃が通るのは、あのレーザーを撃つ直前だ、その時だけ本体が露出する。あたしはそこを狙う。露払い。任せるよっ!!」

 

三度突撃アサノガワ。さやかが生きていた。それがわかったそれだけで心の曇りが晴れていく。今なら負ける気がしない。何だって出来そうな気がする。

そこまで考えて、一度大きく深呼吸。舞い上がった心を落ち着ける。敵は途方もない憎悪と悪意を振りまくバイド。油断も慢心もしてはいけない。

臨むならば万全に、心を機体に静かに熱く。燃える闘志の内側に、凍てつく殲滅の意思を込めて。今こそ――。

 

「任されたっ!!さあ行くよレオ。最後の大盤振る舞いだっ!」

サイ・ビット。波動砲、レーザーにレールガン。ありとあらゆるレオの武装が、群がる敵を打ち砕き、焼き尽くし、そして薙ぎ払う。

道は開けた。今にも放たれようとする高出力のレーザー砲。液体金属の瘤の中から顔を出したその砲身に。

「随分短い付き合いだったね。……クタバレ、バケモノっ!!」

衝突、炸裂。そして轟音。その衝撃は砲身を砕き、枝の一つ一つにまで浸透していく。そして、小さな光の粒子になって消えていく。

統率するものを失って、極小の液体金属郡は形を失い散っていく。

もう油断も慢心もしない。その反応が完全に停止するまでは、殲滅の意思を絶やさない。いつでも撃てる。そういう体制で待ち構える二機の眼前で。とうとう全ての液体金属が崩れて消えた。

 

「やったね、杏子」

誇るようにさやかが呼びかける。それに答えようとして、視界が揺らぐ。ぐらりと、機体も揺らいで。

「杏子……杏子?杏子っ!!ちょっと、返事しなさいよ、杏子っ!」

(わかってるよ。大丈夫だからさ。あたしは……無事だから)

答えようとしても声が出ない。

(参ったな。これじゃあまるで死んだみたいじゃないか)

 

「美樹くん、佐倉くん、無事かい?バイド反応が消失したようだ。恐らく上手く行ったのではないかと思うのだが」

少し興奮気味の声で、九条が通信を入れてくる。

「杏子が!杏子が返事をしてないっ!生命反応があるかどうかはわかんないし。九条さんっ!早く収容して、杏子が、杏子がっ!!」

「何だって!?それは本当かい?わかった、医療スタッフを乗せた艦をすぐ向かわせよう」

「お願い、急いで。このままじゃ杏子が……杏子が、死んじゃうっ!!」

中枢を討たれたことで、外のバイドの動きも鈍る。増援もない。そうなればもう掃討は容易であった。そうして空いた隙間を縫って、九条の艦がコロニーの内部へと突入した。

 

かくして、エバーグリーン攻略戦は終局を迎えた。

しかしこの事件は、長らくバイドの脅威を忘れていた人々に、再びその脅威を思い出させるものであった。それでも危機は去った。地球を脅かしていたバイドは滅びたのだ。

 

 

「それで、本当に戻ってもいいのかね?直接元居た艦に届けることも出来るのだよ?」

宇宙。艦を進めつつ九条がさやかに尋ねる。もうじきTEAM R-TYPEの男の艦との合流地点である。

レオは損傷は激しいが、それでも動けないわけではなく。ここから先はレオ単独で戻ることとなったのである。

「大丈夫、後はあたしがなんとかします。色々、ありがとうございました。九条提督、また会えるかどうかはわかりませんけど、その時にはまた、一緒に戦いましょう!」

その身を案じる九条の声に対して、さやかの声はあくまで明るい。

この艦はいい艦だった。九条提督は明らかに普通の体ではない自分に、何も聞かずにいてくれた。副官の女性、仁美によく似た声のその人は、どうやら自分のことを案じてくれているようだった。

それがなんだか嬉しくて。守れてよかったと思う。

 

「じゃあ、行きます。レオ、出るよっ」

片方のエンジンがいかれている、出力が安定しない。それでもどうにか進むことは出来るだろう。ふらつきながらも飛んでいく。

さほど飛ばない内に、岩塊の陰に黒い艦影が現れた。

 

「随分ぼろぼろだが、なんとか戻ってきたようじゃないか。美樹さやか」

相変わらずの、低い嫌な感じの声。

「ええ、えぇ。戻ってきましたとも。何回も死にそうになったけどね」

死線を潜り抜けた後では、この艦に、その中身に感じていた恐怖も幾分か和らいでいた。というか感覚が麻痺してしまったのかもしれない。

「あまり傷つけてくれるな、とはいったが……まあ機体の限界性能を示すという意味でもレオの戦闘データ取りとしても申し分ない。随分いい働きをしてくれたね、君は」

「そりゃどーも、それじゃこの機体を返して、さっさとあたしは帰るとするよ」

「……帰る?何を言っているんだね、君は」

また一段と、男の声が低くなる。

 

「帰る。そう言ったんだよ。あたしは戦うための機体を借りるのにこっちに来たんだ。用事が済んだらティー・パーティーに帰る。何か文句ある?」

応じるさやかの声は相変わらず強い。先ほどまで相手をしていた敵が敵である、今更こんなものが恐いものか。

「君は、当にそれでいいのかね?君は優秀なR戦闘機乗りだ。我々ならば、君に最強の機体を用意することができる。バイドを殲滅するのが君の望みなのだろう? ならば、あそこにいるよりも我々と共に来るべきだとは思わないかね?」

「そりゃあ、確かに思わないわけじゃないよ。このレオだって凄い機体だ。あたしが生き延びられたのは、間違いなくレオのおかげだよ」

それは間違いない。レオの攻撃性能は今までの機体とは比較にならないほどに高い。これよりももっと強い機体。そんなものが手に入るとするならば。それはいいのかもしれない。バイドと戦うためならば、それが最善なのかもしれない。だけど、約束したのだ。一緒に戦う、と。

 

「それでも、あたしは仲間と一緒に戦いたい。それがあたしの答えだよ。だからあたしは戻る。絶対に戻らせてもらうよ!」

しばし、男は押し黙る。それでもやがて口を開いて。

「そんなにあのインキュベーターの元が気に入ったのか、利用されているとも知らないで」

忌々しそうに、そう呟いた。インキュベーター。聞きなれない名前だった。

「インキュベーター?何それ?外人?歌?」

「一体なんだと思っているのだね、君は。……あの宇宙人のことだよ。確か、君たちの前ではキュゥべえ。とか名乗っているようだがね」

「はぁ?キュゥべえが、宇宙人?……まあ、確かにアレが人間って言われても困るんだけどさ」

「気になるのなら自分で聞いてみろ。私はこれでも忙しいんだ。ああ、それと向こうに戻ったら、織莉子とキリカを返すように伝えろ。……あの二人だけでも持って帰れなければ、帰るに帰れん」

 

「……わかったよ。一応話してみる」

「迎えを用意させる。さっさと帰るといい」

後はもう、今更語ることもない。ふらつきながらもレオは無事に着艦し。随分久しぶりな気がする本当の体。

その感覚に少し戸惑いながらも、迎えの船で再び宇宙へ。

行きはあれだけ不安だったというのに、今はこんなに落ち着いている。不安なことはないわけではない。杏子は果たして無事なのか。ほむらはどうしているのだろうか。キュゥべえは何者なのか。

それでも星の海の向こうに、懐かしい気さえもするティー・パーティーの姿が見えると。

「……帰って来られたんだな。本当に」

さやかはただ、嬉しそうに呟いた。そして着艦、帰投。降り立ってまず見えたのは、ほむらとキュゥべえの姿。

 

「へへ……ただいま。ほむら。キュゥべえ」

「お帰りなさい、さやか」

「お帰り、さやか」

声を掛け合い、そのまま寄り合って。キュゥべえには色々聞きたいことはあるけど、今は大分疲れた。少し休んで、というか丸一日くらい眠って過ごして。それから聞けばいいだろう。

「あたしがいない間、どうだった?寂しくて泣いたりしてなかった」

「っ!?……そ、そんなわけないでしょう。バカ言わないで」

冗談のつもりが、思わぬ反応が返ってきて困惑。妙に顔まで赤くして、目元を押さえて俯いている。

 

「とにかく、さやか。貴女に見せたいものがあるの。……ついてきて」

そう言うと、有無を言わさずその手を取って引っ張っていく。格納庫を出て、通路を渡って。今まで入ったことのない部屋へ。

「ちょ、ちょっとちょっと!?いきなり何なのほむらっ!?」

開かれた扉。そこにはまるで棺のように横たわったコクピットブロック。映し出されたバイタルは、そこに入っている人物がまだ生きていることを示していた。胸に琥珀色のソウルジェムを乗せたまま、静かに延命装置の中で眠っているのは。

 

「……マミ、さん」

――巴マミの姿だった。

 

「どういうこと、なの。……ほむら。何で、マミさんが」

震える手で、マミの眠る装置に触れるさやか。その中でマミは昏々と眠っている。装置の明かりと、ソウルジェムの灯りに照らされて。

「マミもまた、ソウルジェムだけを機体に接続して戦っていた。彼女の肉体は保存されていたのよ。仮死状態のまま。……だから、もしかしたらと思って」

「じゃあ……どういうこと?マミさんは、まだ……生きてる?」

すとん、と足から力が抜けた。張り詰めていたものが緩んでしまったように。そのままその場に膝を突いて、マミが眠る装置にすがるように身を預ける。

 

「……ええ、生きてはいるわ。少なくとも肉体は」

「どういうことよ、ほむら」

「マミの意識が戻らない、ということさ」

部屋の中へとキュゥべえが現れた。恐らくは何かしらの事情は知っているはずだ。マミは本当に生きているのか、何故意識が戻らないのか。

「少なくともマミの肉体も魂も無事だ。だが意識は戻らない。バイドの精神汚染を受けている可能性もある。……専門の医療機関で調べないことには、今のところボクにはなんとも言えないけどね」

「じゃあ、すぐにでもそうしなくちゃ。マミさんが助かるかも知れないんだ!キュゥべえ。艦を向かわせてよっ!」

萎え掛けた足に力を篭めて立ち上がる。そのままキュゥべえに詰め寄って、一気呵成に言いつけた。

 

「そのつもりだよ。準備を済ませればすぐにでもマミを搬送するよ」

その言葉で、とうとう張り詰めていたものが全て解けてしまったのだろう。さやかから、魔法少女の、戦士としての表情は消えた。

後に残っているのは、ただの一人の女の子。

 

「よかった……マミさん。生きてたんだよね。本当に、よかった」

そしてまた、すがるように装置に身を預けて。

「よかっ……た。っぐ、ぅぁ。っ……ひぐ、ぅぁぁ」

そのままキャノピーに額を預けるようにして、静かに嗚咽を漏らす。本当によかった。生きていてくれてよかった。そして思っていた。これで今度は、マミと一緒に戦えるのかもしれない、と。

それが身勝手な願いだということはわかっていた。そもそも助かるのかさえわからない。マミがまた戦おうなんて思うかどうかもわからない。ただ今は、とにかく助かってくれてよかったと思う。

そう思うことで、いろんな後ろ暗さからも逃れられた。ただただ溢れる感情を嗚咽に変えて、声を堪えることも出来ずに、さやかは泣き続けていた。

 

「……さやか」

そんなさやかの姿を見ると、彼女がまだ少女なのだということを改めて思い知らされる。

ほむらは思う。これで少しは救われたのだろうか、と。さやかが、そして自分自身が。マミを失った、失わせてしまったという重責から。

その肩に触れようとして、思いとどまる。何かを伝えたいと思う。けれども、何を伝えればいいのだろうかと思う。

そんな風に逡巡している内に、さやかがそっと振り向いて。

「ねえ、ほむら。……やっぱり、辛いね。悲しいね。戦うのってさ」

「……そうね」

思い出しそうになる。辛く長い戦いの記憶。ほむらは軽く目を伏せて、そのまま伏し目がちにさやかを見つめて。

 

「マミさんが死んじゃったと思って、それが辛くて、悔しくてあたしは戦ってきた。マミさんに負けないようにって、頑張った。……でもさ、これからはそうじゃないんだよね。あたしが守りたいもののために、戦っていかなくちゃいけないんだよね」

わかりやすい理由があれば、それが動機になってくれる。ただ、さやかにとって一番大きな戦う理由。バイドへの復讐と、マミに対する負い目。

それはもしかしたら、このまま消えてしまうのかもしれない。そうなれば後はもう、戦う理由は自分で見つけていくしかない。それが少しだけ不安だった。

 

「戦う理由なんて、どんなものでもいいと思うわ。……さやか。私はあなたを死なせたくない。あなたと一緒に戦いたい。今はそれが、私の戦う理由よ」

きっとそれは、さやかのような少女が背負い込むには重過ぎる悩みで。それを思い悩むさやかの姿は、いつもよりも小さく見えたから。

思わずその肩に手を乗せていた。先ほどまでの逡巡も頭のどこかに消えていて。

「ほむら……うん、ありがと。そうだね、あたしには仲間がいるんだ。それに、もしかしたらもう一人仲間が増えるかもしれないんだよね。仲間と一緒に戦いたい。そんなのが理由でいいのかな、もしかしたら」

「仲間が……増える?」

誰か新しい魔法少女がいるのだろうか。それはそれで、まだこんな戦う運命を課せられた少女がいるのか。

そう思うと、ほむらは少しだけ気が重くなった。

 

「エバーグリーンで戦ってる時にさ、一緒に戦ったやつがいるんだよ。なんかほっとけない奴でさ。……多分、一緒に来てくれると思うんだよね」

「それは、魔法少女が増えるということかい?それならボクは歓迎だけどね」

今まで沈黙を保っていたキュゥべえは、こんなときばかり口を突っ込んでくる。ぴょん、と装置の上に飛び乗ってさやかと目線を合わせて問いかけた。

 

「って、キュゥべえっ!そこはマミさんが寝てるんだから、足乗せるんじゃないわよっ。ああ、そうだった。そのこともキュゥべえに頼もうと思ってたんだ。もしかしたらだけどさ。佐倉杏子、ってのがあたしらの仲間に加わるかもしれない。魔法少女じゃないけどね」

「佐倉……杏子?ああ、そうか、そういうことか」

「知ってるの?キュゥべえ」

キュゥべえの声はどこか意外そうで、それでも僅かに楽しげで。そんな言葉がとても意外で、驚いたようにさやかも声を上げる。

「ああ、彼女も魔法少女としての素質を持っていたからね。前に誘ったことがあるようだ。……随分前のことだし、そのときには断られたようだけどね」

 

「じゃあ、杏子は……」

「もし彼女が望むなら、ボクはすぐにでも受け入れるつもりだよ。マミが戻ってきてくれれば、これでいよいよ魔法少女が4人。これは楽しくなりそうだね」

気分は少し複雑だった。

杏子が仲間になってくれるのは嬉しい。だがそれでも、魔法少女という運命に、人ではない体にしてしまうのは少し気が引ける。

「……だが、それはもう少し先になるだろうね」

少し残念そうに、キュゥべえが言葉を続けた。

「何か問題でもあったの、キュゥべえ?」

「問題は山積みよ、魔法少女が増えたとしても、乗る機体がないんだもの」

「あ、そっか」

 

ほむらに言われて今更気付く。今この艦にあるR戦闘機はほむらのカロンとさやかのフォルセティのみ。予備の機体なんてありもしない。そしてどちらも大破している。

新調するにしても修理をするにしても、どちらも魔法少女仕様の特注品。すぐに直せるものでもない。少なくとも今しばらくは、身動きが取れないことは明らかだった。

「まあ、今後の事はこれから考えるとするよ。さやか、君は特に戦い詰めで疲れただろう。今日はもう休むといい。大丈夫、マミのことはボクに任せておいて」

「いや、微妙に不安なんだけど。……しょうがないか、任せたよ。キュゥべえ」

ひらひら、と軽く手を振って。もう一度だけ眠るマミを見つめて。

「マミさん。あなたとはもっとたくさん話がしたかったんだ。……だから、さ。お願いだよ。戻ってきて、マミさん。……じゃあ、あたしは部屋に戻るよ。お休み、ほむら、キュゥべえ」

今度こそ、さやかは部屋を出て行った。

 

「お休み、さやか。……後は任せるわ。キュゥべえ」

ほむらもそれに続いて部屋を出る。長い一日だったな、と思う。それでも今度こそ終わりだ。これ以上何かあってたまるものか、と。

 

 

「ボクと契約して魔法少女になってよ!」

「あぁ?んなもんするわけねーだろ」

すぐ翌日のことである。杏子がティー・パーティーへとやってきたのは。どうやら症状は脱水や熱中症、後は軽い火傷程度でしかなかったらしい。

 

「まあ、約束しちまったしな。一緒に戦おうぜ」

なんて言って、少し照れくさそうに杏子は笑っていた。さやかは抱きつくように飛びついて、嬉しそうに話しかけ。ほむらは少しだけ引いた場所から、簡単に自己紹介をした。

「だーからっ!これからあたしらは一緒に戦う仲間、なんだから!もっと仲良くしなくちゃダメでしょっ!ほむらも、こっち来るっ!」

なんて言って、一緒にほむらまで引き込んで抱きしめた。

「ちょ、ちょっとさやか」

「おい、さやかっ!?……ま、まあ。よろしくたのむぜ、ほむら」

「……ええ、一緒に戦いましょう。杏子」

まるで円陣でも組むかのように、手を取り合って輪になって。触れ合う手や肩の暖かさが、一緒に戦えることが嬉しくて、頼もしくて。

きっとこれなら、どれだけだって戦える。そう信じられた。

 

そんな和やかな雰囲気に割って入ったのがキュゥべえであった。最初は驚いていたようだが、杏子もすぐにそれにも慣れて。

そしていよいよキュゥべえが杏子に告げた魔法少女への勧誘。それを受けての杏子の言葉が、これである。

 

「え?キミはここで一緒に戦うんだろう?なら魔法少女にならなくちゃいけない。ここは魔法少女のための船、なんだよ?」

一瞬呆気に取られたようで。すぐにいつもの調子を取り戻してキュゥべえが詰め寄る。それに対して、杏子は不敵に微笑んで。

「それでも嫌だ。魂をこんなわけのわからないものに変えられるなんて、あたしは御免だ。でもさ、別に魔法少女じゃなくてもバイドとは戦えるだろ?少なくともあたしはそうだ」

理由はともかく、とにかく嫌だった。面倒だから、理由は今はあまり考えるのはやめておいた。

「あたしはさやかに誘われてここに来たんだ。さやかと一緒に戦いたい。パイロットの仕事はしっかりやってやる。どんな機体だって乗りこなしてやる。……あんたにとっても、悪い話じゃあないだろう?」

どうする、と挑発的な目つきでキュゥべえを見つめる。

断られたって行くところなんてありはしない。最悪さやかを抱きこんで立て籠もるかな。なんてちょっと物騒なことまで考えていたようで。

 

「……やれやれ、キミは随分とイイ性格に育ったようだね、佐倉杏子。わかったよ、確かに通常のR戦闘機と組んでの運用試験もできれば申し分ない。ついでに他所から試験機を回してもらうことも出来そうだしね」

やがて、観念したかのようにキュゥべえがため息を吐き出して。そして小さく首をかしげて、杏子を見つめて目を細め。

「いいだろう。佐倉杏子。キミを受け入れよう。魔法少女ではないけどね、キミも今日から、このティー・パーティーの一員だ」

その言葉を聞くや否や、再びさやかが飛びついた。

「やったね杏子っ!これであたしたち、本当に仲間だっ!」

「っとと、おい、さやかっ!あんまりべたべたひっつくなっての……ん、まあ、よろしくな」

 

 

「さて、それじゃあ早速キミたち三人の次の予定を伝えるよ」

ひとしきり歓迎ムードも落ち着いたところでキュゥべえが切り出した。その言葉に、途端に三人の顔も固くなる。

 

「休暇だ」

「「「は?」」」

緊張した様子から一変、どうも気の抜けたような声が三つ続いて。さやかなんかはずっこけかけている。

「どういうことだよ、やってきていきなり休暇ってのはさ」

流石に杏子もくってかかる。対するキュゥべえはさも当然、といった顔で。

「仕方ないだろう。新しい機体を用意するにも機体の修理を行うにも時間がかかる。それにボクにも何かと用事があるからね、しばらくはまともに行動できなくなるんだ。この艦自体も色々手を加えるからね、ざっと見積もって半月くらいは何もすることがないんだよ」

キュゥべえの言葉を聴くにつれ、さやかの表情が活き活きとしはじめた。休暇、長いお休み。そんな言葉がだんだんと現実味を帯びてきたようで。

「ってことはなになに?この後半月くらいはずっとお休み、ってこと!?」

「その通りさ、休暇だよ。とはいえここにはいられないからね。どこかで過ごしてもらうことになる。場所さえ決めてくれれば、宿泊先くらいはボクの方で手配を済ませておくよ」

言い切るかどうかの内に、さやかがキュゥべえに詰め寄った。

 

「ねえねえキュゥべえ。ってことは、地球に戻ってもいいってこと!?うわー、楽しみだなっ!最近ずっと訓練とか戦闘ばっかりだったし、休暇さまさま、さいっこーじゃないのっ!」

「って言われても、あたしは行くとこなんかねーっての」

「私も……どうしようかしら」

対して、ちょっと渋い様子の二人である。肩透かし、といった様子の杏子。内心すでにいくつかあてを探し始めていた。

問題は完全に困惑しているほむらである。地球に知り合いがいるでもなし。いたとして、今の姿でわかってもらえるはずもなく。どうやって時間を潰したものかと考えていたが。

 

「ありゃりゃ、二人とも行く所ないわけ?……あ」

それを見かねてさやかが割って入った途端である。なにやら思いついたようで、にんまりとその頬を緩めて。

「じゃあさ、こうしようよ――」

 

 

 

空は何処までも青かった。久々に吸い込む街の空気を、肺一杯に吸い込んで。遠くに見える町並みを手で透かして眺めて、変わってないなと安堵する。

そして。

 

「ただいま、見滝原――」

 

一人にとっては故郷、一人にとっては異郷、一人にとっては新たな住処であった場所。

見滝原の街外れに、二人の魔法少女と一人の少女が立っていた。

 

 

魔法少女隊R-TYPEs 第7話

      『METALLIC DAWN Ⅱ』

          ―終―




【次回予告】
「やっぱりまどかはあたしの嫁だねーっ!」
「さやかちゃんってば……ふふっ」
兎にも角にも休暇は休暇、キボウも今回ばかりはお休みで
少女たちは、ひと時の安らぎを謳歌する。

「あなたは……さやかのそばにいてあげて」
「何バカ言ってんだよ。……あんたも、一緒に来るんだよ」
懐かしい友との出会い、新たな友との出会い。
楽しくもおかしな出来事、短い休みは楽しさで満ちていた。




―――多分。
「ひぃっ!?」
「うへぇっ!?」
「な、なんじゃこりゃーっ!?」
「……卑猥」

次回、魔法少女隊R-TYPEs 第8話
           『HAPPY DAYS』
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