【苦悩】
圭太「俺は、勉強もスポーツも人間関係でもなんでも、まんべんなくうまくやってきてるんだよね」
錦「嫌味か」
圭太「んんん、最初はそういうつもりで言おうとしたんだけれど、錦の顔見てたら、ちょっとこぼしたくなったってところかな」
錦「お、ということは、ついにお兄さんキャラともおさらばかな」
圭太「え、なんでそんな言い方するんだよ。お兄さんなのはキャラじゃなくて本当のことだし」
錦「でも圭太はいつも俺やクラスの人とかにも、『僕はみんなのお兄さんだよー』みたいなこと言ってんじゃん」
圭太「確かにいつもそう言ってるけれど、それを錦が言うと違和感がすごいね。俺も、一人の悩める男子高校生だからね」
錦「俺でわかる話だったら、相談に乗るよ」
圭太「どうかなー。錦にこの、繊細な心のゆらぎを理解してもらえるのかな」
錦「・・・・・・腹は立つが、言い返せない自分が悲しい」
圭太「でもこのごろは、錦頑張っていろいろ考えるようになったから、大丈夫かな。聞いてもらおうかな」
錦「覚悟はできた! 話を聞こうじゃないか!」
圭太「他人からしてみれば、贅沢な悩みなんだと思う。器用貧乏とか言われたりね。でも、なんでもバランスよくある程度できるっていうのは、自分に自信を持ってこれだってアピールできるものがわからないってことでもあると、俺は思うんだよね」
錦「うん・・・・・・」
圭太「そんな重たい話でもないよ。錦を見てると、ひたすらになれる目的ができて、そのためなら頑張り抜くことができて。その熱をもつことさえ、俺には眩しくて羨ましくなるんだよ」
錦「俺、褒められてるの?それとも嫌味を言われているの?」
圭太「錦のことは弟のように、大切に思っているし、その行方を見守ってやりたいと思っているよ」
錦「心の距離が近すぎる気が」
圭太「みんなのお兄さんを長年やってきたからじゃないかな」
錦「プロか。プロゆえなのか」
圭太「兄プロ」
錦「そんな略称のアニメがありそうで笑えるな」
圭太「もしそうなら、お偉いところから怒られそうだね。でも、その兄プロの弊害で、俺のことを後回しにする癖がついちゃった気がするんだよね。だから、さっき言ったことと合わさって、俺ってなんだろうとか考えちゃったりとか」
錦「圭太、それ、本気で言ってるんだよな」
圭太「殴っちゃう?」
錦「本気で考えてるんだったら、俺も本気で答え、返してやりたいから」
圭太「大人になっていくね、錦は」
錦「圭太は、いつでもなんでもできてかっこいいと思う。みんなの、俺の面倒を見てくれるし、その上で自分のこともきちんとやってるだろ。それって、大事なことがなんなのかを、その場その場で考えて判断することができてないと、無理だと思うんだよ。言葉が足りなかったらごめん。でも、俺みたいにちょっと頭があれだったり、何でもかんでも大事だって軽く言ってる博愛主義? 八方美人? とかいう奴らだと、絶対にそのすべてをうまくこなすことってできないと思うんだよ。だから」
圭太「分かった。分かったよ、錦。ありがとう」
錦「本当に、伝わったか?」
圭太「錦の言葉は真っ直ぐだから、言葉でがつんと殴られたみたいだったよ。そうだね、僕は、なんだかんだいいつつ、大事なものの中でも特に大事なものをちゃんと決めてた。そして、それを守るためにどうすべきかもちゃんと分かってたんだ。
・・・・・・ちゃんと、やれてたんだ」
錦「圭太は、1人じゃない。全部を圭太1人で背負うこともない。馬鹿な俺にでも、井上さんにでも、その少しでも一緒に背負わせろよ」
圭太「なんでそこで、井上さんの名前がでてくるのかな」
錦「だって、圭太は井上さんのことs」
圭太「ち、ちがう」
錦「違うのか」
圭太「違うよ、まだ」
錦「まだって、どういうことなんだ。感情を抱くことにまだとかもうとかあるのか」
圭太「あ、ほら下校時間だ。帰るよ錦」
錦「おい圭太ーっ」