錦と美秦   作:黒枝 芳乃

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中学、卒業

 

 

圭太「錦、今年こそ泣くなよな」

 

錦「は? 泣いてないだろうが・・・・・・」

 

圭太「誰だっけ、小学校の卒業式で校歌を歌いながら大号泣して式が終わったあともみんなに笑われていたのは・・・・・・」

 

錦「あーそんなこともあったかなー、あーあー聞こえないー」

 

圭太「現実逃避のいい見本だねぇ。でも、今年は泣くかもね、錦」

 

錦「はあっ!? 何で」

 

圭太「明日の公立高校の合格発表、もしも落ちていたら、美秦さんとは離れ離れ、滑り止めで受けた私立高校でひとり寂しく・・・・・・」

 

錦「い、言うなって・・・・・・あー腹痛い」

 

圭太「何が心配で腹痛いんだか」

 

錦「・・・・・・いや、普通に腹下し気味なんだよ、今朝から・・・・・・うう」

 

圭太「ええ、本当かよ・・・・・・。錦、そういうのは先に言っとけって。式の途中で立っても良いように、端のほうに席変えてもらおうか?」

 

錦「いや、端っていえば、プチヤンキーの盛岡とプチヤンキーの若原の隣だろ・・・・・・。無理だって。俺、小動物みたいに震え上がるって」

 

圭太「あっははは・・・・・・長谷川というだけでそのそばにいつもいる羽目にあっている俺の前で、言えるのかい?出席番号順でどれだけこれまで辛い思いをしたことか・・・・・・。しかもあいつら、タチが悪いことに林田小のころからほぼ同じクラスとか・・・・・・クラス替え直後は必ず名前順だっていうのも、ちょっとあれだよな・・・・・・」

 

錦「わわわ、圭太が暗い暗いっ!! 帰ってこいよ、圭太ー!」

 

圭太「なんのことだい? それより、本当に式の最中、乗り越えられそうか?」

 

錦「ぜ、ぜひとも頑張らせていただきます」

 

圭太「無理はするなよ」

 

 

 

ゆり「なんで公立高校の合格発表より前に卒業しなきゃいけないのかしら。そんなに急ぐことなの?」

 

美秦「逆。行くところによってはもしかしたら早く準備しないと引っ越しが間に合わない人が出てくるかもしれないから」

 

ゆり「うん・・・・・・そうだけど、でも、穏やかな気持ちで式が迎えられないじゃない」

 

美秦「大丈夫、ゆりは絶対に合格する」

 

ゆり「美秦・・・・・・。ありがとう。一緒にまた、同じ学校でいようね。そのためにも、この学校とはおさらばね」

 

美秦「卒業、したらもう来なくなっちゃうのかな」

 

ゆり「そうね・・・・・・。仲の良かった先生に会いに来たり、同窓会したりとかではお世話になるんじゃない? ま、とりわけ親しくさせてもらった先生は、いなかったけれど。プチヤンキーがいたから、毎年ガラッと先生を変えて対処しようとしてたからね」

 

美秦「プチヤンキー・・・・・・。いたの?」

 

ゆり「・・・・・・3年間、ずっと同じクラスだったじゃない。盛岡くんと若原くんよ」

 

美秦「クラスの人、よく覚えてないから・・・・・・。男の子とかは、特に」

 

ゆり「・・・・・・そうね、そうだったね。まあ、あんな子たちの名前、美秦は知らなくても別にいいんだけれど。でもね、美秦。『俺は確かに、ここにいた』と、誰かが知っていてくれただけで、お互いに救われる時ももしかしたら出てくるかもしれないから、『この人は』と思ったらしっかり胸に刻むのよ」

 

美秦「? う、うん・・・・・・わかった」

 

ゆり「あ、花が曲がってる。直してあげるね」

 

美秦「ありがとう。いつも、そばにいてくれて」

 

ゆり「なに、急に。私は、ここにいたいから、美秦のそばにいるだけよ」

 

 

 

圭太「錦と腹の話していたら、その隣でお姫様たちは仲睦まじい、なんともくすぐったい話をしていたみたいだね」

 

錦「言うなよ。俺、いますごく恥ずかしいんだよ」

 

圭太「大丈夫。俺たちの会話は、普段通り。むしろ、式の前だけれどリラックス出来ているんだ、と捉えててもいいくらいだよ。・・・・・・あ、洸太、圭花」

 

圭花「お兄ちゃん! ごそつぎょうおめでとう!」

 

洸太「母さんたち、もう中でビデオのスタンバイしてるよ。映ってきなよ。錦さん、本日は、おめでとうございます」

 

錦「ありがとう。洸太、ほんと圭太に似てないよな。超ドライ少年だな」

 

洸太「こんなの、一家に1人いたらもういいでしょ」

 

圭太「思春期だからねえ、洸太は。ツンってしたくなる頃だもんね」

 

錦「圭花ちゃんは、この春4年生だっけ?」

 

圭花「そうだよー! 10歳になるよっ! あのね、圭花ね、のぼりぼうができるようになったんだけどね、この春休みにのぼりぼうなくしちゃうんだって」

 

錦「まじで! え、じゃあその前に登り収めて来ないとな!」

 

圭太「小学生と一緒にならなくていいんだよ、錦」

 

錦「だってよ、あの登り棒に俺は鍛えられたんだって。お礼参りをしないとだめだろ?」

 

圭太「何ルールだよ。あー、それじゃあ、式が終わったら母さんに頼んで寄ってもらおうよ。洸太は、来る?」

 

洸太「なんで休んだのに行かなきゃならないんだよ」

 

圭太「だよね。んじゃ、車で先に家帰っててね。にしても、懐かしいね。あの登り棒で楽しそうに遊んでた錦はそんなに前の記憶だったなんて」

 

錦「やめろって。年寄りみたいなこと言うなよ。これから前に進むべき若者だろ」

 

圭太「お、かっこいいこと言ったね」

 

錦「う、うるさい! ・・・・・・ほら、行くぞ」

 

圭太「そうだね。洸太も圭花も、母さんたちのところへお戻り」

 

圭花「はーい」

 

 




卒業を、別れととるか出会いの準備だと捉えるかは人それぞれだと思います。あと、圭太の兄弟たちを出してみたかったんです。それだけなんです。
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