宇宙から降ってきたニュータイプ。
宇宙という環境に適応した新人類。
宇宙を目指す私にとって、いつか出逢いたいと思っていた存在。
もちろんニュータイプ論なんて唱えたらISを発表した時以上にバカにされると思う。なにしろニュータイプは二次元の空想なのだから。
でも世の中にはニュータイプのように広い視野を持っていたり、ひどく勘の良い人間は居る。
だったらニュータイプが居ないだなんて誰が言い切れると言うのだろうか。
そんな私の前に現れたニュータイプの彼は、私の目指す宇宙を見せてくれた。
蒼くて綺麗な宇宙だった。星の光に溢れていて、そのひとつひとつが希望の光に見えた。
それをもっと感じたいから私はニュータイプになりたいと心から思った。
だけどニュータイプになる為にはどうすれば良いのかわからない。彼も戦いの中でニュータイプに目覚めたと言っていた。
だから彼に組み手なりISの模擬戦なり、MSのシミュレータなりで勝負しているけれど、まさかこの束さんが今のところ惨敗だなんて思わなかった。
これでも彼が来るまでは世界から隠れ住んでいたし、たまーに見つかってもISを使って修羅場を潜ってきたつもりだけど、全部赤子の手を捻るように意図も容易く負け続け。ホントにニュータイプってズルい!!
どうズルいのかって?
こっちの行動が全部先読まれちゃうんだよ? そんなのどうもしようもないじゃないか!!
だから絶対にニュータイプになって彼に「ギャフン!」って言わせてやる!
だからそれまでは私の代わりにニュータイプとして頑張ってくれたまえ。
「ユ~ゥ~キ~ィ~、宇宙行こうよぉ~」
「またか? 今週もう3回目だぞ」
「別にやることないから良いじゃんか」
彼は私が宇宙に行きたいと言うと、ガンダムに乗って宇宙に連れていってくれる。
ISでなくMSを使うのは極単純。サイコフレームの量がISとは違うからだ。サイコフレームが多い方がニュータイプ能力を増幅してくれるから、私もより強く宇宙を感じられる。
そんなニュータイプの彼に私は仕事を依頼する。ニュータイプのもう一面。純粋な戦闘能力をみたいから。
だから苦労してサイコフレームを核としたISコアと、ISサザビーを造った。
どうして量産型νガンダムに乗っていた彼にサザビーを造ったのか。それはやっぱり、赤い彗星ってインパクトがあって面白そうじゃないか。
そして彼は私の頼みを完遂してくれた。
ISサザビーはMSサザビーを完璧に再現している。そこにシャアに匹敵するニュータイプが乗っているのだから、そう易々と負けるハズがない。
ガンダム神話も良いだろうけど、シャアの再現というのも悪くない。彼に知られたら怒るかもしれないけどね。
「今戻った」
「やぁ、お疲れさま。どうだった? サザビーの方は」
「申し分ない。だが――」
ISスーツ代わりに作ってみたパイロットスーツのヘルメットを取って襟を開けると言葉を続けた。
「個人的にはやっぱり速いMSが良いな」
スイッチが切り替わったように雰囲気が軟化した彼にタオルとボトルを渡す。
「と言うより大事にしたいのはわかるけど、却ってシャアの持ち味を潰すんだよなぁ。サザビーって」
シャアが得意とする機動戦がサザビーのような重い機体には向かないのだとか。ISとMSの違いはあるとはいえ、同じく機動戦を得意としている自分がサザビーと、80%の性能とはいえνガンダムを乗り比べたからわかるのだとか。
生の経験からくる話しに私は釘付けになって耳を傾けた。
確かにサザビーは高性能のMSだけれども、仮にシナンジュのような高機動型MSに乗っていたら勝敗も或いは変わっていたのだろうか。
そういう意味ではフル・フロンタルはシャアの理想の戦い方が出来ていたということなのだろうか。
それでも問題なく乗り回している辺り、以前にも重MSに乗っていたのか訊いてみると、答えはYESだった。
「一年戦争の後半はリック・ドムⅡに乗ってたから」
「え? 君ってジオン側だったの!?」
「あれ? 言ってなかったか?」
「うん。初耳だよ。ねぇねぇ、またお話し聞かせてよ」
「あまり戦争の話を聞いたって面白くもないだろう」
「そんなことないよ。生で経験した話って、結構聞きたくなるんだよ。それが本物の宇宙世紀ならなおさらさ」
戦争の話をワクワクして喜んで聞く私を、彼がどう思っているのかはわからない。でも、彼を知る為には彼の背景や軌跡を知らなければならない。
私はニュータイプじゃないから、彼のことを知るには言葉にして貰わなければならないから。
◇◇◇◇◇
宇宙に咲く光の花々。その輝きのひとつひとつが、人の生が散る光であることを感じていた。
「くそっ、数ばかりで来たってさ!!」
紺色に塗装されたリック・ドムⅡを駆り、ビームバズーカでサラミスを1隻沈める。
(あのリック・ドム、動きが違うぞ!)
(なんて速さだ、一瞬で5機のジムをやりやがった!)
(間違いない……、鷹だ…、ジオンの蒼き鷹だ!! 逃げろぉぉぉ!!)
「うるさい!!」
頭のなかに直接響く声。その煩い声を打ち払うようにジムやボールを撃ち落としていく。
(あ、あぁ、い、イヤだ……、母さん!!)
(おのれジオンめ……)
(連邦万歳……!)
(来るな! 来るな来るな、来るなあああ!!)
「纏わり、つくなあああああ!!!!」
それがニュータイプであることを知り、この力がおれを生かし、しかしながら少しずつ殺していった。
(すげぇぜ! さすがは蒼き鷹だ)
(まだあんなに若いのにな。大したもんだ)
(おいおい、あんな坊っちゃんに負けてるヒマはないぜ? おれたちも前に出るんだよ!)
一度戦場に出れば、戦場のすべてがわかってしまうこの力を憎々しく感じながらも、数々の激戦の戦禍を生き抜いてこれたのも、この力があってこそだった。
「ララァ」
「あら、ユキ。もう出撃よ?」
「わかってるよ。わかってはいるけど、心配だから一言くらいかけに来てはいけない?」
「うふふふふ。心配ないわ。大佐が守ってくださるもの」
「でも、次の戦闘は厳しいものになるし、どうしようもなく不安で、イヤな感じがするんだ。上手く言葉に出来なくてわかりにくいと思うけど」
「あなたの気持ちは嬉しいわ。でも私は、私を救ってくれた人の為に戦いたいの。あなたにもわかるでしょう?」
「そうだけど、わかるけど」
ララァ・スン――。
シャアに紹介されて出逢ったひとりの少女。
出逢って3秒で涙が溢れて止まらなくなった。ようやく出逢えた仲間に、荒んだ心を洗われた安心感が、心に貯めていたものを堰を切れさせた。
ニュータイプ同士という共通点から、おれと彼女は友人となった。今にして思えば、淡い恋心すら抱いていただろう。たとえ彼女がシャアを好いていても、それはそれで良かった。ララァとの時間が戦いで荒んだ心に安らぎをくれたのだから。
互いにニュータイプだてらに多くを語らずともわかってしまうから、彼女を止められないことくらいわかってしまう。それにニュータイプ専用MAエルメスの戦力の強力さは目にしているから、今さら彼女を出撃させないという選択肢はないのだ。
「シャア、本当に彼女を使うのか?」
「ああ。エルメスの力は強力だ。彼女の力があれば、この戦場もすぐ終わる」
「そうか。でもとてつもなくイヤな予感がする。十二分に気をつけてあげてくれよ」
「わかっているさ。私とて、彼女を失うわけにはいかんのだからな」
だが悲劇は必然のように訪れた。
「シャア! 間合いを開けろ!!」
「ユキか!?」
ガンダムと戦っていたシャアのゲルググを援護する為にビームバズーカを向ける。
「中れよおおお!!」
「なにぃ!?」
放たれたビームバズーカはガンダムのシールドを直撃して吹き飛ばすが、反撃で撃たれたビームライフルがバズーカの先端を食い破っていった。
「ええいっ! ソロモンからそんなに経っていないのにまた強くなってくれて!!」
ジオン宇宙攻撃軍所属だったおれは雪辱のソロモン戦にてガンダムと対峙していた。結果は愛機である高機動型ザクを失う惨敗を期したが、その時と比べてもガンダムの動きが数段洗礼されていた。
使い物にならないビームバズーカを捨て、腰にマウントしていたMMP-80 90mmマシンガンを握ってガンダムを撃つ。だが横合いから来たビームにガンダムから注意を離さざるえなくなる。
「なんだ!? 戦闘機が邪魔をする!?」
戦闘機――コア・ブースターに向けてマシンガンを撃つが、まるで狙いを読まれているように回避していった。
「このドムを墜とせば…!」
「ちょこまかとして!」
「ダメです! セイラさんさがって!!」
「ユキ!」
シャアの声が聞こえた時にはガンダムのビームライフルから放たれたビームが、機体の右脚を貫いた後だった。
「うわああああああ!!!!」
貫かれた右足のエンジンが誘爆しなかったことは不幸中の幸いだったが、推力の下がった機体で、彼らの動きに追随する腕が、おれにはなかった。
「ユキ…! おのれガンダム!!」
シャアのゲルググがガンダムのビームライフルをビームナギナタで切り裂いた。だがガンダムは即座にビームサーベルを抜きシャアと切り結び始めた。
その間にもララァのエルメスはコア・ブースターと撃ち合い、その光景をおれは見ているしか出来なかった。
ビームナギナタを持つ赤いゲルググの右腕を、ガンダムのビームサーベルが切り裂き、止めを討つと言わんばかりにガンダムはゲルググに肉薄した。
「くうううううっ!!」
回避も間に合わない致命的な間合いだった。
「大佐!!」
だが。ゲルググを突き飛ばしたエルメスのコックスピットへ、吸い込まれようにガンダムのビームサーベルが突き立てられた。
「ラ、ラァ……」
目の前の現実が信じられなくて、間抜けな声しか出せなかった。
エルメスから光が広がっていって、星々の銀河の流れる幻想の中に居た。
人の思惟が極限にまで達した世界には、もう敵も味方もなにもなかった。ただこの
(人は……変わっていくわ。私たちと同じように)
「そうだな……ララァの言う通りだ……」
(アムロは……本当に信じて…?)
「信じるさ…。君ともこうしてわかり合えたんだ。人はいつか、時間だって支配できるさ……」
(ああ……アムロ、刻が見える……)
永遠のように長く、一瞬のように短い刻の中での語らい。それが過ぎ去ったあとにはエルメスは光の中に消え、すべてが失われてしまったことを嫌でも叩きつけられた。
「うそ、でしょ……。ねぇ、うそなんだろ? ウソだって言ってよ、ララァ!!」
胸が引き裂かれそうな痛みに、涙が溢れてくる。
(優しい子。私の為に泣いてくれるのね……)
「ぅぅっ、ラ、ラァ……。ララァ……、ララアアアアアアア!!!!」
魂の奥底からの慟哭。大切な物を喪った悲しみ。決して癒せない心の傷だけが残った。
◇◇◇◇◇
「アカリ……? 泣いてるの?」
リック・ドムⅡの戦歴から通じて、ニュータイプ、ララァ・スンの死を語った彼は止まることのない涙を流していた。
「……ごめん。今日はもう寝かせて」
背中を向ける彼に、私は掛ける言葉がなくて、一瞬迷いはしたけど、その小さな背中を抱き締めた。
「博士……」
「……今日は、一緒に寝てあげる」
「……同情なんて」
「同情なんかじゃない。でも、今の君をこのまま行かせられないよ」
彼の身体の前に回した腕の手の甲にぽたぽたと落ちる涙。それが、刻の涙を見るということだったのだろう。
17年経っても癒えない彼の傷痕。
ニュータイプでない私には、温もりというものでしか彼を癒してあげられない。
だからもっと温もりを感じられるように腕に力を込めて抱き締めた。
今日は、ニュータイプというものの深い悲しみを知った。
to be continued…