イッセーが大泣きして部室を出て行った。
まあ、しょうがないよね。出来るかと思ったら出来ず、しかもステータスの一つが子供以下って……。
うん? ちょっと待った。僕もこれから契約取りに行くんだよね? ってことは―――あ。
「あら? ヒビキ、どこへ行くの?」
僕が部室の入り口へ歩き出すのを見て、部長は尋ねる。
どこってそりゃ……
「僕……人間ですよ? 魔力とか、そもそも無いんじゃ……」
「心配しなくていいわよ。人間にも、ちゃんと魔力はあるんだから」
え、そうなんですか?
てっきり悪魔とかにしかないかと思ったのに。
「ただその前に、あなたの魔力量を測らせてもらうわ。イッセーみたいなことになるかわからないもの」
「……了解です」
いい例です。今さっき無様な姿を見ましたからね。
僕はあんなのはゴメンです。
出来ると期待して出来ないというのは誰だろうとショックのはずですから。
そして朱乃先輩がなにやら……血圧計らしき物を持ってきた。
「はいヒビキ君。これを腕につけてください」
差し出されたのはチューブにつながれた帯。それをいわれた通り、上腕に巻きつける。
……これ、使い方が完全に血圧計なんですけど。
え、こんなので魔力測れるんですか?
朱乃先輩がチューブの先にある装置をカチャカチャと動かすと……
ピーッ
装置から音が鳴る。……使い方がまんま一緒じゃないですか!
「部長。問題ありません」
「そう。じゃあヒビキ。魔方陣の準備をするわ」
「……了解です」
もう測定器については諦める。
朱乃先輩は装置を片付けると、さっきと同じように魔方陣の中央に。
え、でも僕って眷属ではなんだよね?
「ヒビキ、手を出してちょうだい」
「はぁ……」
言われるがままに片手を出すと、部長は僕の手になにやら描く。
すると、僕の手に魔方陣? が浮かぶ。
な、なぜ?
「今刻んだこれは『仮』で眷属をやる者に与えるための刻印よ。あなたは正式な眷属ではないから、これを使って」
「りょ……了解………」
なんか仮で扱ってきた。まあ、確かにこれが妥当かもね。
いつでもやめられると思うし………ていうか、そうであると願いたい。
「さて、イッセーには小猫の方に向かってもらってるから、あなたは祐斗の方へ行ってもらうわ。仕事については以前渡したアレで判るわね?」
「……はい」
チラシ配りのとき、ナビの機能がある悪魔専用のケータイを貰っていたからそれのことだと思う。
この前、弄っているときに『契約の相手の名は?』とか、『何を願っていますか?』とか、『対価計』とか………いろんな機能? らしきものを見つけたから間違いないはず。
「部長。準備できましたわ」
「ええ。さあ、ヒビキ」
「……はい」
僕はイッセーと同じように魔方陣の中央へ。
すると、
「問題ないわね。じゃあ、行って来なさい!」
「……あいさー」
部長に敬礼しながら、僕は光に呑まれていった。
にしても祐斗君の方か………どんな人だろ?
◇ ◇ ◇
「誰!?」
目を開けて早々、僕の前にいは狼狽している女性がいた。
成功したみたいだね。よかったよかった。
「えーっと……こんばんは、グレモリーに仕えてる『悪魔』です。祐斗君の代行としてこちらへ来ました……」
とりあえず挨拶する。何事も挨拶から始まるからね。
それと僕が人間だって言ったら、なんか言われそうな気がするし。
「わ、私は祐斗君を呼んだのよ! あなたみたいな『気持ち悪そう』なのじゃなくて!」
……ちょっと待った。いくらなんでも気持ち悪いはないと思う。
せめて普通といってほしい。傷跡と髪はなくなったんだし………ってあれ?
なんか左頬がスースーする。触ってみると、以前にも似たような感触が………
「まさか……………すいません、鏡ありますか?」
「なんであんたに!? ……まあいいわ。はい」
差し出された鏡で自分の顔を覗く。
そこには―――――
「あれ?……………黒じゃ………ない……………」
ちょっと前と同じ、僕がいた。
◇ ◇ ◇
「すいません………」
「まあいいわよ。それと、さっきはゴメンね」
元に戻った僕を見て数分後。
あまりのショックで床に手を着いてしまい、号泣していました。
そこを依頼者―――荒井さんに同情されてしまったんです。
ぅぅ、いきなり失態しちゃったよ……。
でも今は戻った髪や傷跡より、仕事が優先。
「では改めまして………グレモリーのヒビキと申します。……今回はどのようなご用件で?」
前置きっぽいのはさっきまでので十分だと思う。
もともと、この人は何かお願いがあって読んできたんだし……。
「ああ、じつはね―――――」
聞いたところ、荒井さんはOLの仕事をしていたんだけど、次々と同僚の人が結婚したり、彼氏が出来たりと言うことで、出会いがほしかったみたいです。
そこで祐斗君と会ったとのこと。
なるほど………。
「要するに彼氏が欲しいと……」
「そうよ。何とかならないかしら?」
「……ちょっと待ってください」
困った時はケータイを使う。僕のじゃなくて、悪魔専用のね。
それで彼氏が欲しいとということを入力すると………これはひどい。
「あー………はっきり言います……寿命五十年削れば……出会いが来るそうです……」
「ご、五十年!?」
人間の寿命って確か80歳ちょっとだったよね?
あんま覚えてないけど………。
でも人生の半分以上を犠牲にして、『出会いが来る』じゃあ悲しすぎるよ。
相手が変態の可能性だって無くもないって事だしさ……。
「ぅぅ~ならどうすればいいのよぅ……」
涙浮かべながら落ち込み始める荒井さん。
………う~ん、僕に出来ることは何か―――あ、そうだ。
「荒井さん……台所お借りしても………よろしいですか……?」
「え?」
「あと………冷蔵庫とかの食材………使わせてもらいますね………」
「え、ええ」
僕は台所へ案内され、冷蔵庫の中身を見る。
………うん、これなら。
「ちょっと………夜食作りますね………」
「え、あなた料理できるの?」
「………よくやるので」
僕は昔からおなか減りやすいし、両親が出張でいないことがよくあるから自分で用意することがある。
小学2年生の頃から始めてきたから、そこそこ自信もあるし。
僕は冷蔵庫から卵、カニカマ、冷ご飯、調味料なんかを並べる。
台所にあった包丁とまな板を出して、材料を切る。
それをフライパンで軽く炒めて、あらかじめ溶いた卵に入れて調味料と一緒に混ぜる。
油を引いたフライパンにそれを入れて強火で焼く。
ここでは丸く伸ばした形にするように、すばやくやるのがポイント。
そして、いい具合になったところで皿に盛ったご飯にそれを被せる。
最後に調味料を合わせて中華あんを作って掛ければ……。
「カニカマ天津飯………お待ちどうさまでーす」
「………」
よし、五分で出来た。
スプーンと一緒に荒井さんに渡す。
けど……当の本人はポカンとしちゃってる。
「………どうか……しましたか……?」
「い、いや。い、いただきます」
スプーンを持ち、パクリと一口食べる荒井さん。
「!!!」
「………いかがですか……?」
僕が味を尋ねてみたが、荒井さんはそれに答えず……
ガシッ
僕の肩に掴みかかった。
え、な、なに?
「私に料理を教えて!!」
元々、料理の出来る女になれば男にモテるかもしれないと考えてもいたけど、仕事が忙しくて教えてくれる人が居なかったそうです。本で試してもダメだったとかで……。
で、僕の料理を食べて師事を受けたいと思ったそうです。
確かに、こんな夜中に料理教室を開いてくれるところなんて少ない……というより、無いかもしれませんからね……。
ということで、僕は洋食、和食、中華、オリジナル問わずいろいろな料理について教えることを条件に契約を取ることにしました。
『材料をあらかじめ言っておいて、次に来る時教える』という形の条件も付け加えてです。
対価としては一回教える度に二千円ということにしています。
料理教室って十回で四万円とか掛かるって聞いたことがあるんですが、僕はこの値段で十分すぎるので。
◇ ◇ ◇
「………」
「も……戻っちゃったんですが………」
僕は自分の髪と頬を弄りながら部長に告げる。
用を終えた部長と朱乃先輩、契約をしてきた祐斗君と小猫さん。
つまりイッセー以外の皆が部室に集まってた。
そして部長は完全に困った顔になっています。
「一体どういうことよ。それは間違いないのかしら?」
「は………はい………」
僕は過去のこと含めて、元に戻ったこの二つについて話した。
といっても、依頼先については行ったら戻っていたと言うことだけなんですが……。
「あなたのことについては、こちらで調べてみるわ。あなたの声の力についても含めてね」
「………了解です」
「ハァ、今は戻ったときにこちらで何度でも戻してあげるわ。もしかしたらまた戻るかもしれないけど、今はそれで我慢してちょうだい」
仕方ないと思う………というか、手の打ちようがないと思う。
部長たちは願いを叶えたと思ったけど、原因不明でそれは無効になったのだから。
契約についてはよしと言うことで、僕はその日帰宅した。
完全に余談ですが、二週間後。
荒井さんが僕の教えた料理で彼氏が出来たようです。
と言うわけで、ヒビキには家事スキルありにしました。