Blood&Guilty   作:メラニン

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例によって連投です!

では、どうぞ!


罪王の左腕編XII

「と、言うわけで!ピクニックを決行します!」

 

 

葬儀社の元メンバーが多く集まる喫茶店『coffee’n』のスタッフルームにて、少女の明るい声が響いた。集まっているメンバーは集を始めとした馴染みのあるメンツである。その中の1人である颯太が手を挙げる。

 

 

「はい、何でしょうか、魂館議員!」

 

 

「いや、議員って……何が『と、言うわけで』なのか分かんないし、ピクニックってのも急な事で追いつかねえよ!!」

 

 

「細かい事は気にしない!ハゲるよ?」

 

 

「ハゲねえよ!……たぶん」

 

 

「いや、颯太はなんかハゲそうな気がするな…」

 

 

「おい、谷尋!?マジなトーンで不吉な未来予測すんのやめてくんない!?終いにゃ泣くぞ!?」

 

 

「はぁ…」

 

 

ツグミの提案から遥かに逸れ始めた話題に、綾瀬はつい溜息を吐く。見兼ねたアルゴが1つ柏手を打ち、注目させる。

 

 

「おい、そこまでにしとけ。で、急な提案だが、どうしたってそんな事言い出したんだ、ツグミ?」

 

 

「え?だって、集はどちらにせよ明後日には帰っちゃうんでしょ?」

 

 

「おい、ツグミ――」

 

 

アルゴは口を荒げる。その理由はこの場に春夏も居るからである。おそらく1番思い悩んでいるであろう彼女の前で放たれた言葉を看過できなかったのだ。だが、春夏は首を横に振る。

 

 

「いいのよ、アルゴ君。事前に聞いていたから。それに、どうせ出掛けるなら大勢の方が私も嬉しいわ」

 

 

その言葉を聞いてアルゴは続きかけた言葉を呑み込む。

 

 

「はい、じゃあ決議を取りまーす。反対の人〜?」

 

 

緩い感じの声をツグミが出し、それに対して異を唱える人物は居なかった――かに見えた。

 

 

「え、え〜〜………しぶっち、マジ?」

 

 

そう、挙手をしたのは参謀役である四分儀であった。ツグミの嫌そうな声に対して、四分儀は少し嫌そうな顔をするが、表情をすぐに元へと戻す。

 

 

「はぁ……そんな嫌そうな顔をしないで下さい、ツグミ。なにも反対するわけではありません。ただ、幾つかの条件を出したいのです」

 

 

四分儀はメガネのブリッジを上げた後、口にした条件の内容を明かす。要点だけ掻い摘んで仕舞えば勝手な行動をせず護衛の目の届く範囲内から出ないように、という内容である。これに関しては全員が首肯して答える。

 

 

現在、この世界における集の重要性、危険性に関しては誰よりも彼らが分かっている。それを考えれば妥当な内容である。

 

 

「じゃあ、しぶっちの言う通り護衛は付ける方向で。けど、遠くからにしてよ?すぐ側の護衛はアルゴを付けるんだからさ」

 

 

「えぇ、それで構いません。では私は部下と明日について話してきますので、それでは」

 

 

四分儀はそう言うと足早に部屋を後にする。それを見送ったところで女性陣が筆頭となり、明日の計画について話し合うこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陽もドップリと沈み時計の針が深夜の時間を指す頃、集はその年齢の読み物としては不似合いなものに目を通していた。祭の父親である空吾に勧められた絵本である。集はベッドの上に腰掛けて器用に左手だけでページを捲る。

 

 

内容としてはヨーロッパにある昔の童話をインスパイアしたような物、という感覚が強い作品である。それを子供でも馴染みやすいように解りやすく意訳も交えて絵本にしたものが現在集が目を通しているものだ。そしてその物語の概要は次のようになる。

 

 

昔とある国にいた優しい王様は、貧しい人にはお金を、病気の人には薬を、土地がなく家を持てない人には土地を、物が無い人には自身の持ち物を分け与えていった。そして遂には国が無くなるまで人に分け与えていき、何も無くなってしまった王様は家来の大臣達に怒られてしまう、といった結末で物語は締めくくられている。

 

 

パタリと集は本を閉じ、空吾の言っていた言葉を思い出す。祭が気に入っていたという本であり、そうなって欲しかっただろうという人物像を集は改めてよく考えてみる。

 

 

物語の中の彼は自分の全てを分け与えていた。自分はどうだろうか、と自問自答する。皮肉にも集の在り方――力は、その真逆である。

 

 

そこで思案していたところ部屋のノック音が聞こえ、考察を中断する。

 

 

「集、いい?」

 

 

「あぁ、大丈夫だよ。どうぞ」

 

 

おずおずと入ってきたのは綾瀬であった。この日、少しでも集と居られた方が良いだろうというツグミの計らいがあり、綾瀬は『coffee’n』の上階に泊まっていた。急遽決まった宿泊のため、服は春夏のものを借り受けている。

 

 

風呂上がりの為か明るい色のパジャマにやや湿った髪が掛かり、少し艶やかな雰囲気を醸し出しており集は少しだけ心臓が跳ね上がるような感覚を覚えた。

 

 

集は頭を振り、心を落ち着けようとする。どこぞの発情吸血鬼ではないのだ。彼のように集には何人も女性を侍らせるつもりなどない。いのりと同居しているだけでも心臓に悪い場面が多いというのに増やしてどうする、という事だ。そもそも、集にとって、いのり以外の相手というのは想像ができなくなっていた。大概、彼も重症である。

 

 

「あー……どうしたの、綾瀬?」

 

 

「ちょっと気になることがあって――って、絵本?」

 

 

「ん、あぁ、これ?今日祭の墓参りに行ったら、空吾さんに会ってさ」

 

 

「そっか…で、勧められたって訳?」

 

 

「まぁ、そんなとこ」

 

 

未だに扉の側で所在無さげな綾瀬に、集は部屋に入るよう促す。どこかギコチナク綾瀬はその通りに勧められるまま、室内に車椅子を進める。

 

 

「その、さ……空吾さんとは何を話したか聞いてもいい?」

 

 

「あぁ、いいよ。と言ってもあまり面白い話でもないと思うけど」

 

 

「私が気になってるだけだから、そんなに気を遣わないでいいわよ」

 

 

「そう?じゃあ――」

 

 

集は今日、祭の墓前での出来事を語った。主に祭の父親である空吾との一連の会話についてである。それを集は一通り話し終えて、綾瀬の反応を待つ。

 

 

「…そっか。空吾さんに言いたい事取られちゃったわね」

 

 

「はは……正直、すごいなぁって思った」

 

 

「空吾さんが?」

 

 

「うん。僕はまだ高校生だから、空吾さんの――親の子供を喪う気持ちって分からない。凄く辛いんだろうな、っていうのは予想はできる。けどそれがどんなものかは分からない。もし僕に子供が居て、その側に子供を助けられる力を持った存在が居て、もし助けてもらえなかったら僕はその人を責めるかもしれない。だから、それをしなかった空吾さんの事を凄いと思った。けど、同時に心が痛んだよ」

 

 

綾瀬は集の言葉を聞いてキュっと口を噤む。もしかしたら、思う部分や共感できる部分があるのだろう。

 

 

「僕は怖かったんだ。コッチに戻って来て、救えなかった人達、犠牲を強いてきた人達に責められるのが……実際、向こうの世界に渡って、いのりと暮らしてて僕はどこかホッとしてた。もちろん、いのりと一緒に過ごせてたって言うのも大きい。けど、もっと別の部分で安心してたんじゃないかと思う。向こうの世界では、コッチの世界の事は何処か遠い思い出みたいに思っていられた。口では何て言ったって、『罪』から逃げられていたから、安心していたんじゃないかって…」

 

 

集がそこまで言って、パンッと乾いた音が響いた。突然の事に集は呆然とし、ジンジンと痛む頬へ手をやりながら目の前のそれを行った少女に目を向けるが、ハッとする。そこには、口をキツく結び、目に涙を溜めた綾瀬が集を睨みつけていた。

 

 

「集……あんた……っ」

 

 

溢れてきた涙を綾瀬は着ている服の袖で拭うが、それでも涙を堪えられず、ポロポロと止めどなく涙は溢れてくる。

 

 

「…ごめん、綾瀬。言い過ぎたよ」

 

 

綾瀬は乱暴に涙を拭うと、先ほどとは打って変わってキッと集を睨みつける。

 

 

「……もし、アンタの言う別の世界に行っても、いのりの前で絶対に今の話はしないって約束しなさい。それと、当然春夏さんにも…」

 

 

「……ごめん」

 

 

それだけを聴くと綾瀬はまだ何か言いたそうにしたが、口を強く引き結ぶと背を向けて部屋を後にする。やや強めに閉じられた扉から、集はしばらく目を離せないでいたが上体をそのまま後ろに倒して天井を見上げる。

 

 

「……ごめん」

 

 

その言葉が一体誰に向けられてのものなのか、それは集自身にも分からなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四分儀は今日何度目か分からない溜息を吐く。場所は『cofee’n』が入っているビルの上階――即ち、集達が寝泊まりしている場所である。と言っても階は異なるのだが…

 

 

先ほどまで翌日の護衛や向かう場所に関する事前の情報収集、集に関する調査がどこまで進んでいるのかの調査などなど。元参謀は久しく味わっていなかった、ひりつく様な忙しさに身を支配されていた。当然それを表に出す事はなく、精々いつもの様に溜息を吐くだけである。

 

 

しかしそれも一段落というところであり、こうして休むために自室へと戻ろうとしているのだ。そして廊下を歩いていると、前方から見覚えのある人物が歩いてきているのに気付き立ち止まる。

 

 

「おや?桜満博士、どうしました?」

 

 

「あら四分儀さんこそ――って、聞くまでもないですね。集のために遅くまでありがとうございます」

 

 

春夏の言葉に四分儀はメガネのブリッジを上げる仕草をして、小さく息を吐く。

 

 

「えぇ、こんなに忙しいのは久しぶりです。まったく集といい涯といい、私を忙しくしてくれます。まぁ、暇な戦場で鈍っていた感覚を取り戻すのに良い機会ですが」

 

 

「あら、戦場の方がお暇だったのかしら?」

 

 

「えぇ。戦車や戦闘機を相手にしている方が幾分か楽です」

 

 

その言葉に春夏はクスリと笑う。自分の息子が戦車や戦闘機よりも厄介だと暗に言われている筈なのだが、なぜか笑いがこみ上げてきたのだ。それに対して四分儀は少し不思議そうにしていた。

 

 

「…?どうかしましたか?」

 

 

「いえ……桜満博士はもう平気なのですか?」

 

 

「……集がまた居なくなるかもしれないっていう事に対して、ですか?」

 

 

「えぇ…」

 

 

「……正直まだあまり」

 

 

藪蛇だったと四分儀は少し後悔する。彼自身、子供が居た事などないので、春夏の気持ちは分からないのだ。それでも、他者の気持ちが全く分からないという訳ではない。それ故の後悔であったが、春夏は四分儀をしっかりと見据えたままである。

 

 

「……すみません」

 

 

「いいえ、いいんです。集が自分で選んでくれて、真っ直ぐ進んでくれるなら。それに、男の子ですから……どちらにせよ私からは離れて行っていたでしょうし。死んでいたかもしれないって諦め掛けていたけど、生きていてくれた。2度と抱き締めてあげられないって思ったのに少しだけでも戻って来てくれて、私のことを母親と呼んでくれた。なら、もうそれだけで充分……です。そう、思わないと」

 

 

「……そう、ですか」

 

 

明らかに無理をして取り繕う様に笑う春夏を見て、四分儀はその言葉しか出てこなかった。と、そこで四分儀の後方からエレベーターの駆動音がし、見覚えのある人物が降りてくるのが見えた。

 

 

「おや、綾――」

 

 

「ごめん、四分儀、春夏さん」

 

 

降りて来たのは綾瀬である。彼女は顔を伏せたまま車椅子の車輪を強く回し、そそくさと貸し与えられている自室へと入っていく。

 

 

その様子を見て今度は大きな溜息を吐いてしまう。四分儀はチラリと春夏を見ると、春夏も同様の考えだったのか小さく頷くと綾瀬の部屋へと踵を返す。十中八九、原因は集だろう。そうなってくると、どうしても厳しい言葉がつい出てしまうだろう四分儀では綾瀬への対応は不適格である。それにこういった場合、同性であった方が何かと良いだろう。

 

 

四分儀としてはまた頭を悩ませる案件が増えたと、頭を抱えたくなる気分である。

 

 

「まったく、本当に忙しくしてくれます」

 

 

そう言う四分儀の口元には小さく笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾瀬は暗い部屋の中で、車椅子に座ったまま俯いていた。膝の上に両手を乗せて、服裾を掴んでその身を震わせていた。だが泣いている訳ではない。出そうになる涙を必死に堪えているのだ。

 

 

もし今、ちょっとした拍子に彼女は心を揺さぶられたら、我慢して溜め込んでいるものを全てブチまけてしまうだろう。そんな状態の中、閉めたはずのドアが開く音がした。彼女は鍵を掛けておかなかった自らの不注意さを呪った。

 

だがそれでも、気丈に振る舞おうと綾瀬は意を決してドアを開けて入ってきた闖入者の方へ振り返る。そこには、自らが今身に付けている服を貸してくれた張本人が立っていた。

 

 

「あ……春夏さん」

 

 

綾瀬の呼び掛けに春夏はニコリと微笑むと、綾瀬の側まで歩み寄り椅子に腰掛けて目線を合わせる。

 

 

「あ、と…その、さっきのはスミマセン」

 

 

「いいのよ、気にしないで。原因は分かってるしね」

 

 

春夏の言葉に綾瀬は少し気まずそうに目を逸らす。その指摘はまさに図星だからだ。春夏もそう言ったのは少し悪いと思ったのか、2人して気まずそうな顔になる。

 

 

「はぁ、ホントに、ね。何でこうなっちゃったのかしらね?」

 

 

「……春夏さん?」

 

 

「ねぇ、綾瀬ちゃん。これから言おうと思ってるのは、私のすごく身勝手な願望。すごく情けなく聞こえるかもしれないし、嫌な気分にさせるかもしれない。それでも聞いてくれるかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間にしてしまえば10分もない時間であった。春夏の言う『身勝手な願望』を聞いて、綾瀬の心は大きく揺らぐ結果となった。

 

 

 

そして綾瀬へ言葉を投げかけ、春夏は綾瀬の部屋を出て行った。それを見送った綾瀬は少し呆けていたが、少しすると与えられたベッドの方へ車椅子を進める。だが、そのままベッドに飛び込む気にはなれず、視線を落としてジッと自らの手を見つめる。

 

 

そして、春夏の言葉を思い出し、自分の中で反芻させる。

 

 

「私、は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






はい、気になる春夏の言った『身勝手な願望』の内容に関しては後日に乞うご期待でお願いします!(語りの部分はできてるんですが、如何せんほかの部分がその…)


さて、前話や今回の話を描くために、ホント色んな『親と子』関連の話やアニメやらを閲覧しまくりました。その度に涙腺が緩んだり、崩壊したりしてましたがw
(2018/03/04現在公開してる「さよならの朝に~」もほんの少しだけ参考にしてたりします。面白かったです、あの映画。ちょっとグッときて、涙出かけました)


まぁ、『親と子』なんて決してプラスだけの関係じゃない話なので、今回の章は見る方によっては大分不快になったりする部分もあるかと思いますが、それでもこの作品ではプラス感情なものをなるべく描いていくつもりです。


それと、遅ればせながら待ってくださっていた読者の方々ありがとうございます!次回更新はなるべく一か月以内を目指します!!

ではでは!

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