明日、派遣社員として、三年間働いた、会社を期間満了の為、正社員に登用されずに、退職となってしまう。
結婚を決めた、彼女との生活を考えると、正社員として、働きたいと思っていたが、正社員に登用されることは、ならなかった。
家に帰ると、同棲をしていて、結婚予定の婚約者が、帰宅していて、夕飯の用意をしていた。
「お帰りなさい」と婚約者の
「ただいま」と男が言った。
「もうすぐ、夕御飯出来るから、着替えて待ってて」と祐樹が言った。
「ああ」と男が言った。
「ねえ。
「ああ。明日で、派遣期間が、終わりだよ」と夏樹が言った。
「もし、正社員のあてがなければ、私が、養ってあげるから、主夫になってもらってもいいよ」と祐樹が言った。
祐樹の稼ぎは、派遣社員をしていた、俺よりも良いのだ。
「ねえ。明日、貴方の慰労会で、外食しない?大事な話もしたいしね」と祐樹が言った。
「そうだな。たまには、外食もいいか。それより、大事な話ってなんだよ」と夏樹が言った。
「それは、明日のお楽しみ。じゃあ。決まりね。貴方の仕事が終わる時間に貴方の会社に行くから」と祐樹が言った。
「ああ。わかった」と夏樹が言った。
この事が、俺達の運命を変えることになるとは、この時、知る由もなかった。
翌日の19時に会社の入り口前で、夏樹が待っていると、祐樹が来た。
「ごめん。待った?」と祐樹が言った。
「いや。そんなに待ってないよ。どこに食べに行く?」と夏樹が言った。
「この近くに、食べると自分の願い通りになるという噂のラーメン屋があるらしいの。行ってみない?」と祐樹が言った。
「食べると願いが叶うラーメン屋?眉唾物だが、それが本当なら、行ってみたいな」と夏樹が言った。
夏樹の願いは、祐樹の様に派遣社員ではなく、正社員になりたい。
祐樹の願いは、仕事を定年まで続けたい。出来れば、夏樹には、結婚後は、主夫になってほしい。
祐樹は、一軒のラーメン屋の前に、到着し、「ここよ」と言った。
「本当に、願いが叶うのかね?」と夏樹が言った。
「とにかく、入ってみましょ」と祐樹が言った
「いらっしゃい。好きな席へどうぞ」と店主が言った。
「何になさいますか?」と水の入ったコップを二つ持って、二人の元へやって来た。
「醤油ラーメンの餃子セットを一つと塩ラーメンを一つと中瓶のビールを一本」と夏樹が言った。
「醤油の餃子セットと塩ラーメンとビールですね。少々お待ちください」と店主が言ってカウンターに入っていった。
しばらくして、ビールとコップを先に持ってきた。
祐樹は、ビールを取り、コップに注ぎ、夏樹に渡して、自分の分も注いだ。
注がれた、コップを受け取り、「ありがとう」と夏樹が言った。
「仕事お疲れさま。夏樹の前途と私達の未来を祈って。乾杯!」と祐樹が言った。
「乾杯!」と言って夏樹は、コップを合わせた。
しばらくして、醤油餃子セットと塩ラーメンが来た。
二人は、食べ始め、体が変化し始めた。
祐樹は、男性に、夏樹は、女性に変化したのだった。
「ああ。旨かった」と夏樹だった女性が、ラーメンを食べ終わって、顔をあげて、「え?」と驚いた表情を見せた。
「餃子貰っていい?」と祐樹だった男性が餃子ののった皿に箸を伸ばして、聞いた。
「お前。祐樹か?」と夏樹だった女性が聞いた。
「そうよ」と言って、顔をあげる男性も驚いた表情を見せて、「あなた、夏樹?」と聞いた。
「そうだよ」と夏樹だった女性が言った。
「あなた、女の子になってるわよ」と祐樹だった男性が言った。
「お前だって、男になってるよ」と夏樹だった女性が言った。
「え?」と言って、自分の体を見て、二人とも悲鳴をあげた。
「何で、女になってるんだ?」と夏樹だった女性が言った。
「夏樹は、何て願ったの?」と祐樹だった男性が言った。
「俺は、『祐樹のように正社員になりたい』だけど。お前は?」と夏樹だった女性が言った。
「私は、『定年まで仕事を続けたい』だよ」と祐樹だった男性が言った。
「祐樹は、たぶん、定年までということは、産休などしないでってことで、男になったのかも」と夏樹だった女性が言った。
「じゃあ、夏樹は? あ」と何かを思い付いたように、祐樹だった男性が言った。
「何だよ」と夏樹だった女性が言った。
「もしかしたら、赤ちゃんが、夏樹を女の子にしたのかも」と祐樹だった男性が言った。
「あ、赤ちゃん?」と夏樹だった女性が驚いて言った。
「うん。実はね。昨日、お昼を食べ終わったあとに、気持ち悪くなって、一緒にお昼を食べてた同僚に、『妊娠したんじゃない?』と言われて、調べたら、陽性だったの。 で。今日の昼に産婦人科に行ったら、3ヶ月だって。今日、話すと言ったのは、その報告だったの。男同士だと子供は、生まれないでしょ。だから、そう思ったの」と祐樹だった男性が言った。
「そうか。赤ちゃんが出来たのか?」と無意識にお腹に手を当てて夏樹だった女性が言った。
お腹に手を当てている夏樹だった女性に気づいた祐樹だった男性は、「ええ。もしかしたら、夏樹のお腹の中に新しい命がいるかもね」と言った。
「そうか。妊娠している可能性があるのか」と少し嬉しそうに夏樹だった女性が言った。
夏樹は、困惑していた。
妊娠と聞いて、戸惑いよりも嬉しさが勝っていることに。
夏樹は、精神も女性に変化しつつあるのかと感じた。
夏樹だった女性が、祐樹だった男性の方を見ると食べ終わるところだった。
「なつき。餃子食べちゃえよ」と祐樹だった男性が言った。
「私、お腹一杯だから、
「じゃあ、頂くよ」と言って、祐樹だった男性が餃子ののった皿と醤油皿を自分の方に寄せて、食べ始めた。
食べ終わった祐樹だった男性は、「帰って、懐妊祝いに呑みなおすか?」と言って、伝票を持って、席を立った。
「いいわね」と言って、夏樹だった女性が立ち上がった。
祐樹だった男性が会計を済ませ、二人で仲良く店を出た。
店主が、「ありがとうございました」と言った。
その後、夏樹だった女性は、祐樹だった男性と同じ会社の事務員の正社員として、出産や子育てのために、寿退社するまで働き、女の子と男の子の双子を産んで、専業主婦として、子育てに奮闘したのだった。
夏樹の願いは、短い期間だったが、正社員になりたいという願いが叶ったのだ。