ダンジョンで暴れたいと思うのは間違っているのだろうか   作:冬月雪乃

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プロローグ

——昂らない。

今しがた、五体の黒いミノタウルスを瞬殺した。

その前は階層主であるゴライアスに挑んで倒した。

つまらないなぁ。

いくらモンスターに囲まれても、幾度となく怪物進呈(パス・パレード)を受けても。

それをあっという間に殺戮し尽くしてしまえる。

所詮は戦い慣れて余裕を持てる中層だからといえば聞こえはいいし、とても稼ぎになると考えれば心は癒されるが、だけども俺の渇きは満たされない。

 

「そろそろ上がらないと我が主神様が心配するかな」

 

出し抜けに言って見れば、まぁそうだろうなとしか返せない。

見た目も動きも子供っぽいあの神様の事だ。

いつもより帰りが遅くなればすぐさま心配して俺をベッドに座らせ、後ろから抱きついて囁くだろう。

 

「今日は……どこいってたの?」

 

……実に恐ろしい。

可愛いところでもあるんだが、やっぱり怖いものは怖いよね。

そんな事を考えながら五層を歩いていると、背後から凄まじい勢いで駆け抜ける駆け出し冒険者が来た。

こんな詳細までわかるのだから、発展アビリティ【察知】は助かる。

駆け出し冒険者君はすれ違いざまに俺にふんだんにクッサイ血をつけていく。

あぁ、わざとではなく、不可抗力で。

何に追われているのかと見れば、ロキ・ファミリアの皆さんが居た。

見つかるとヤンキー犬が絡んできて面倒なのでさっさと退散する事とする。

ギルドに換金のために寄ると、懐かしい顔を見つけた。

 

「……ベル?」

 

俺が17まで一緒に遊んだりしたベル・クラネル。白髪に赤目と、雪兎カラーの可愛い男の子だ。

記憶にあるのは10歳くらいのベルが泣きながら行かないでと引き止める顔。

ちょっと嗜虐心をくすぐられた思い出である。

 

「えっ………………ユウキ姉!?」

 

うんうん、変声期かぁ……。声も低くなって……。

女顔だから仕方ない。確かに14辺りまで女物の服とか着てたしな。

あまりに似合ってたのと、母親と父親がそれしか買ってこなかったからだが。

だがそれとこれとは別である。

 

「兄だ馬鹿者」

 

ゲンコツを落とした。

そっかー覚えてたかー、可愛いなぁー。

しっかし、やっぱり冒険者になったか、ベル。

どうやら、ヘスティア・ファミリアに入団したらしい。

そういえばツクヨミが言ってたな。ヘスティアがロリ巨乳枠で、私が和装ロリ枠だったんだとかなんとか。

ロキ無乳とかおまいうな事も言ってたなぁ。

 

「そっかぁ……おまえかぁ……俺に牛の血をべったりつけてくれた冒険者君は……」

「へ……? うわ、わわわわ!? ごめん! ごめんなさいユウキね……兄!」

「……なんてな。冗談だよ。そだ、これをやろう」

 

一応兄で先輩な俺だ。

ベルのボロボロのナイフを見て、今朝方買ったばかりのナイフを渡す。

駆け出しだし、いきなり高いものを渡してもすぐダメにするだろうという配慮から、安物を渡すことにした。

最初は遠慮していたが、先輩からのプレゼントだと言えば割と素直に受け取ってくれた。

愛い奴よのぅ。

 

#

 

別れてホームに帰る。

背中にのしかかる和装少女……。

 

「ねー、ユー君。私を置いて、男の子とデートしてたんだって……?」

 

月を意匠化したアクセサリーや刺繍を使って自分を飾り付ける極東の月の神、ツクヨミ。

今は比較的軽装な和装ドレスを着ておかっぱを揺らし、ハイライトが消滅したよく見ると三日月が浮いているような瞳を俺に向けている。

伝わるものは、俺以外に対する敵意である。

 

「待てツクヨミ。俺は男だぞ……? あとそれは幼馴染みで……! ヘスティア・ファミリアの構成員だ!」

「……ふぅん……。なら、いいけどさ……。私のユー君。私を置いてかないでよ……?」

 

愛が重い……!

全力で叫びたかった。

 

「さて、今日はヘスティアと夕食食べ行く約束してるからね。ユー君は豊穣の女主人でゆっくり食べに行きなよ」

 

ヘスティア逃げて、超逃げて。

目が据わってます。多分『警告』とやらをする気なんだろうなぁ。

とりあえずツクヨミを姫抱きにすれば、ツクヨミはすこし機嫌を直した。

時間まで抱きしめてればそれなりに機嫌は良くなるだろうと判断しての事だ。

 

そして、夕食。

ベルがいたので隣に座る事にした。

途中に入ってきたロキ・ファミリア主力集合パーティのアイズに視線が釘付けになっていたあたり、こいつも男なんだなと成長を感じる。

 

「お?」

「——さて、そろそろあの話をしてやろうぜアイズ!」

 

ヤンキーが騒ぎ出した。

酔っ払ったベート君は実に残念だ。

曰くミノさんにおったてられた初心者をアイズが助けたら偶然血まみれになってしまい、声をかけたら逃げられたというものだ。

はい。ベルです。

顔、真っ赤だし。

ベート君はそこで終わらなかった。

さりげなくアイズをメチャクチャにしたいとかなんとか言い出して、逃げ出した冒険者を雑魚だの冒険者になんざなるなだの好き放題言い出した。

そこはロキ・ファミリアの真面目エルフ氏に止められたが、ベート君はヒートアップ。

なんだか楽しいことをやり始めたので便乗する事にした。

 

「【浮遊(レビテーション)】」

「ア?」

 

先ずは吊られてるベート君の取り皿に入ってたパスタをお口にシューゥウウウ!!! 超! エキサイティン!!

むぐむぐしてるベート君を無視してみんなに挨拶をしよう。

片手を上げて笑顔で!

笑顔大事!

 

「やぁロキ・ファミリア諸君」

「げぇ『飛翔剣』!?」

 

糸目の無乳神がギョッとしたような顔で見てきた。

分かってたくせにやりおるやりおる。

 

「神ロキ、そのような表情はやめていただきたいのですが。さて、ベート君? 宴会のようだけど食べてるかい? 飲んでるかい? 死後に快楽はないよ? ん? 飲み足りない? 仕方ないな。ミアさん! ベート君に酒一つ! 一番強いやつ! もちろんジョッキで!」

 

ドコン、とジョッキで透明な酒が来た。

 

「酒神をも酔わせると噂の酒だよ。うちの店で一番強い奴さ」

 

顔面を蒼白にするベート君に苦笑が隠せない。

おごりだよ、安心したまえベート君。

 

「さて。俺はね。その雑魚君と幼馴染みなわけだよ、ベート君。君の持論はまあ、別にいい。何か言われてヘタれるやつとか、モンスターに常に及び腰になるような冒険者に上はないからね。けれどベート君。これだけは——……あ。死んだ」

 

酒を流し込みながらだったから、途中からぐったりし始めたベート君。

アイズがオロオロしながら止めようとして、ロキは笑いながらそれを見てる。あ、あとでなんか請求される気がする。

 

「ベート!?」

「何してくれてるんだ!?」

「ベート君が死んだ! このひとでなし!」

「はいここまでテンプレ。付き合ってくれるロキ・ファミリア諸君が大好きです」

 

他のファミリアだったらロキ・ファミリアに潰されてるかもしれないが、うちに限ってはそれはない。

 

「あ。ツクヨミはいつ帰るん? 早くユウキ君欲しいわぁ」

 

ロキの言う通り、ツクヨミは近いうちに天界に帰ることが決定している。

なにやら裏で色々やらかしたらしい。聞けば聞くほどツクヨミは巻き込まれただけに聞こえるんだが。

まぁ、組織的にハメられたのもあるし、色々体面的にあるのも分かる。理解はしてる。納得は意地でもしない。

だがフレイヤだけは許さない。絶対にだ。

おかげでツクヨミに貞操を奪われた。

ともあれ。

本来なら即座に送還だったツクヨミも、ロキのおかげで送還は決定したが、未定となった。

その後の俺の改宗先がロキ・ファミリアというわけだ。

 

「……しかし、幼馴染みでしたか。不快な思いをさせましたね」

「あぁ、いや、現実を知るにいい機会ですよ。隊長殿。それにあいつは伸びる」

「身内びいきぃ? めっずらし」

 

褐色バーサーカー双子がなんか言い出した。

いつも思うけど、中々エロいカッコしてるよなぁ……。

 

「勘だよ勘。ティオネだっけ?」

「ティ! オ! ナァッ!! いい加減覚えてよ!」

「ははっ、さて、そろそろベート君も起きるだろうし、俺は行くよ」

 

多分ベルはダンジョンに向かっただろう。

あれはあれで無茶大好きな奴だったからな。まだその性格が健在ならば止めなきゃダメだろ。

 

#

 

さて、俺の戦闘スタイルは両手に四角い直剣を持って、【浮遊】によって八本の刀と二本の超巨大な大剣を浮かばせて操り遠距離から近距離まで一人でこなすオールラウンダーだ。

二つ名の『飛翔剣』はここからきてる。

全部『不壊属性(デュランダル)』付きの金がかかった装備である。

 

「うはぁー。すっげーなおい」

 

ダンジョンで久しぶりに十本浮かばせてウロついていたところ、回収しきれなかったらしき魔石がゴロゴロ。

とりあえず全部拾いながらこの情景を作り出したであろうベルを探す。

 

「無茶してるよなあ、コレ」

 

下手するとぶっ倒れてる可能性すらある。

 

「……とと」

 

生まれた魔物を素早く壁に磔にする。

飛ぶ刀。正しく飛翔剣の面目躍如だ。

 

「しっかし、結構歩いてるのに見当たらないなぁ」

 

あの兎の影も形もない。

となれば、潜ったりしているのだろうが……。

 

「無茶するよなぁ、ベールくーん」

 

一瞬、『城』の召喚魔法で床をぶち抜いてやろうかと思ったが、一気に中層まで穴が空きそうなので止めた。

【軍神招来】——ツクヨミに封印するようにキツく言われている氷、城、龍、水の大軍神をランダムに呼び出す召喚魔法。

軍神といっても神ではなく、ダンジョンで使っても異常は起こらなかった。被害はすごかったが。

あぁ、いや、あれは水の大軍神だからダメだったんだと思うが。

まぁ、もし死んでても速攻蘇生魔法【Murmur chant pray invoke】があるから平気といえば平気なんだが。運悪いと灰になるけど。そこからさらに失敗で消滅である。

 

「見つからないなぁ……どこ行ったんだ?」

 

なんだかんだ言いながら五階層——ベルの限界ギリギリの階層である。

ここで焦りが生まれる。

ベルは農作業なんかで体力はある程度ある。

が、それは戦闘などによる精神面の磨耗がない状態での話だ。

このまま潜らせると、実に危ないことになるだろう。

 

「ち、雑魚が」

 

壁のようなモンスターを大剣の一振りで魔石に変え、焦りもあってついに俺は走って探すことにした。

ダンジョンで倒れるなんかシャレにならない。

 

「ベルッ! 返事をしろ!」.

 

返事は無い。

悪態を一つ床に叩きつけて現れたコボルトの首をはねる。

一つ交差路を右に。

一つ三角路を左に。直進。

直角の曲がり角を過ぎれば、少し広い小部屋に出た。

 

「——ベルッ!」

 

その中心。返り血や自身の血にまみれながらもモンスターと戦う少年が——ベルが居た。

助けようと剣を援護に出そうとしたが、寸前。ベルの目を見てそれをやめた。

そこにあったのは自棄でも絶望でもない。

ただ憧憬と、強さへの願い。

思わず笑みがこぼれる。

 

「強くなったなぁ」

 

コボルトに追い立てられて泣いてた少年が嘘のようだ。

とはいえ、やはりそこは駆け出しの冒険者。

背後から忍び寄るコボルトに気付いていない。

あれだけは片付けてやるか。

ナイフを取り出し、【浮遊】で飛ばしてコボルトの背中から引き裂く。流石ヘファイストス・ファミリアの作品。素晴らしい出来栄えだ。

 

「ベル」

「ユ、ユユ、ユウキ兄!? どうしてここに……!?」

「迎えにきた。神様も心配してるぞ。多分」

「多分って……」

「俺はヘスティア様とは話したことないからな」

 

神柄も知らずに判断出来まい。

 

「あ、ホレ。忘れ物」

「はぇ? ……うわっ!?」

 

魔石とドロップアイテムが入ったアイテム袋をベルに【浮遊】で投げ渡す。

予想外に重かったらしく、取り落としそうになって慌てて抱える姿に昔を重ねた。

——あぁ、こんな風に野菜抱えてた子供が……。

何を偉そうに言うのか。とどこか冷めた自分が脳内で嗤う。

この時ようやく気付いたのだ。俺は、ベルに嫉妬してる。

俺はこんなに早く五階層まで来れなかった。一ヶ月はかけた。

醜い感情に蓋をするように頭を振り、湧き出すモンスター達を瞬殺していく。

 

「……ユウキ兄はレベル幾つ?」

「五だ。お前が憧憬を寄せるアイズと同じく、な」

「へぇ……やっぱりすごいよユウキ兄!」

 

手放しの称賛が心に痛かった。

 

「帰りは俺が引率する。疲れたろ?」

「え、でもそれじゃあユウキ兄は……」

「レベル五ナメんな。片手間だ片手間。なんなら刀減らしてでも余裕だぜ?」

 

実に楽である。所詮は上層だ。

 

「ユウキ兄は何階まで行ってるの?」

「一応、最高は五十二階だな。あのクソ火トカゲが居なければもっといける」

「火トカゲ……?」

「あぁ。五十八階にいるクソでな。そこから俺を捕捉して床ごと狙撃してきやがる」

「う、うわぁ……」

 

発展アビリティ【察知】がなければ即死だったと思う。即座に撤退した。

 

「基本は中層で狩りしてるから、最近は深層まで行かないがな」

「へぇ……ユウキ兄はやっぱりすごいなぁ」

「さっきからそればっかだなお前」

「あはは」

「……さて、さっきは悪かったな。俺の友達なんだよ、あの駄犬」

「駄犬って……」

「だが、あいつの言うことも一理あるんだ。何かを成したいと挑み、誰かに謗られ笑われて、その程度で諦めるなら最初から挑むなど俺は言いたい」

「でも……それは……強い人の言葉だよ」

「だろうな。俺は強い。強いから弱いやつの気持ちを図ることは出来ても理解することはできない。だが、ベル。お前は違った。最初は自棄だったかもしれないが、だけど立ち上がり、強くなろうとした。並大抵じゃないぞ。誇っていい」

「……かな」

 

俺だったら投げてたな。

 

「なりたいなら、足掻くしかない。前を向くしかない。いつだって最後は戦った者しか何も掴めないからな」

 

灰色の生活。

ここじゃない世界。俺じゃない自分。

代わり映えしない日常。焼き増しのように流れていく時間。

起き、食べ、働き、謝り、帰り、寝て。そんな繰り返しの記憶が俺にはある。

結局そのまま倒れ、死んでしまうのだが、彼は足掻かなかった。諦めた。

敗北を主義として掲げ、隷属を誓い、死んだ。

だからこそ俺はそんな記憶から学び、前を向いているのだ。

 

「……ベル。頑張れ。超頑張れ。俺は応援してるぜ」

 

ダンジョンから出て、もはや朝になっているのに気づき、俺の顔面が蒼白になるまで後三十秒。




良い反響があれば続くかもしれません。

絵心があればツクヨミもユウキも描くのにぃいぃいいい!!
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