ダンジョンで暴れたいと思うのは間違っているのだろうか   作:冬月雪乃

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罰ゲームは蜜の味

——俺は今、我が主神ツクヨミに対し、正座をし、両手を床につけ、頭を下げるポージング……いわゆる土下座をしていた。

対するツクヨミは、普段着である和服を動きやすく改造した服に身を包み、厳かな雰囲気を——もっと言うなら怒りを露わにしていた。

 

「ユー君。分かってるのかな……?」

「申し訳ありません」

「……うん。私が欲しい言葉はそうじゃないし、ユー君の帰りが遅かった理由もキチンと十全に把握したよ」

「……うぐ……」

 

ほら、頭を上げて、と優しく言われ、ゆっくりと頭をあげる。

そこには有無を言わさぬ迫力の笑顔を貼り付けたツクヨミ。

当然の話ではあるが、神としての威容は少女のような容姿でも遺憾無く発揮される。

 

「でも、それと私が心配した分は別だよね?」

 

ツクヨミは外見不相応な艶やかな笑顔で言葉を紡いだ。

徹夜していたらしく、目の下のクマが迫力を増長させていた。ちょっと心が痛い。

 

「罰ゲームだよ。ユー君っ」

 

それはもう楽しげに。嬉しげに。

あぁ、もう、なにをされるかなんて大体分かってる。

最近マイブームらしいおんぶで都市内を歩き回る事——つまりはおんぶデートだろう。

 

これを拒否したら酷い目に遭うのはヘスティア様とベルだし、最近二人で出かける事があまり無かったのもあって思わず頷いたわけだが……。

早まったかもしれない。

早速背中によじ登ってさぁ行こうと外に出た訳だが、これはやばい。

なんか恥ずかしい。

屋台のおばちゃんとかの視線が居心地悪い。

いや別に嫌な視線という訳じゃないし、どちらかといえば生暖かい感じの視線なんだが、それが嫌。

 

「ユー君。朝ごはんにジャガ丸君食べたい」

「味は?」

「んー、塩」

 

ツインテ看板神娘さんに塩味のジャガ丸君を頼み、今まで下を向いて作業していた彼女が上を向いて俺たちに視線を合わせた。

視線はまず俺に。続いて背中にしがみつくツクヨミに。

 

「ぶふっ!?」

「はろーヘスティア」

 

この看板娘さんがヘスティア様らしい。

神様がバイトとか涙ぐましい。

 

「な、な、な、なな、君たちは白昼の往来で何をやっているんだ!」

「何って……デート」

「デデっデート!? そんな状態でかい!?」

「手を繋ぐより密着出来る」

「……ご、合理的? なのだろうか……。というか、君はそれで良いのかい?」

 

矛先がこちらにむいた。

 

「ベルにやってもらえばいいんじゃないですかね」

 

沸騰するみたいに元々赤かったヘスティアの顔がさらに赤く染まる。

面白い。罰当たりかもしれないが。

 

「そそそそっ! そんな事できる訳……出来るわけあるかー! はれんちだー!」

 

さすがは三大処女神。

持ち場からは逃げ出さないものの、俺たちにジャガ丸君を押し付けるように渡して追い出された。

 

「……ユー君。私以外の女と口聞いちゃ、嫌……」

「……難しいような……」

「……なら、結婚しよ」

 

なにその交換条件。

え、神様と結婚出来るの? 子供は作れないけど。

……あとでギルドで聞いてこようかな。

 

#

 

夕方。

俺たちは新しく出来たカレー専門店に来ていた。

俺は食べたことはないが、前世では普通に食べていた。あちらの世界ではスパイスは流通に普通に乗るレベルだったが、こちらでは高級品だ。

メニューを見れば、やっぱり高い。

対面に座っているツクヨミがメニューを開いてそわそわしだした。ちょっと気が引けてきたらしい。

俺が頼んだのはミノカレー。まさかミノさんをカレーにぶちこんだわけじゃないだろうとは思うが、名前が迷宮都市らしくていいな。

ツクヨミが頼んだのはスープカレー。

あまり人がいないためか、すぐにカレーが届いた。

 

「……からい……」

 

しかし高級品だ。もったいないとツクヨミは涙目になりながらも食べ進めていく。

 

「の、喉に残るぅ……」

 

先に完食。非常においしかった。

あとは悪戦苦闘するツクヨミを眺めることにする。

水が凄い勢いで消費されていく。

額に汗を出し、一生懸命食べる様は本当に可愛い。

なんとか食べ終わって会計を済ませた俺たちは帰路につくことにした。

ツクヨミがカレーにノックアウトされたのもある。

背中に乗った小さくて大切な重みに思わず苦笑する。

 

「ぅう……も、だめ……」

 

重みが呻き声を上げた。

今日一日を軽く思い出してみる。

ずっと背中にツクヨミを積載していた。それだけしか記憶にない気がしてきたので考えるのをやめた。

アトラクションをやるときですら離さないとは中々頑固なところがある。

通りすがったジュース店でジュースを買い与え、口の中のスパイスが消えるとようやくツクヨミは完全復活を遂げる。

 

「どうせならちゅーでなんとかして欲しかった」

「……俺が食べてたのはもっと辛いやつですが」

「……ユー君がいじわるする……」

 

ツクヨミが目に見えて落ち込んだ。

セクハラ返ししてやろうかと思ったが、やったら多分ツクヨミがスイッチオンして大変なことになる。

夜の神(意味深)してしまう。

 

「我が神ツクヨミ」

「……つっきー」

「……ツクヨミさま?」

「つっきー」

「……えっと……」

「——つっきー」

 

呼べとのことらしい。

 

「……つっきー?」

「なぁに? ユー君」

「楽しかったですか?」

「うん!」

 

花が咲くような笑顔。どうやら機嫌は治ったらしい。

 

「ユー君はこの後ダンジョンに向かうの?」

「一応、そのつもりだけど……」

「…………ふぅん。なら今日は早く帰ってくるんだよ」

「大丈夫、今日こそ早く帰宅します」

 

するするとツクヨミが背中から降りる。

密着していたからか、汗で風が冷たく感じた。

 

「いってらっしゃい」

「……その前に防具付けないと」

「……あ」

 

急いで戻って防具を着込んでダンジョンに走り抜ける。

途中、でかい箱を運搬する集団を見かけた。

ガネーシャ・ファミリアか。

 

「怪物祭……もうそんな時期か」

 

前のはツクヨミに連れまわされたなぁなどと苦笑と共に一瞬だけ思い出に浸かる。

今はそんな暇はない。

 

「【浮遊】……さぁ。いくか!」

 

進行先にいる全てを粉砕して突き進もう。

今日の稼ぎがなければ直ちにどうなるというわけではないが、最近ツクヨミが欲しいものがあるらしい。

天界に戻る前に、お土産はたくさんもたせたい。持たせられるか分からないが。

……結局、いつなのだろうか。ロキとの話し合いで決まってはいるらしいのだが、教えてくれなかった。

冒険者たちを退かし、進路にあるモンスターを蹴散らして階層を降りていく。

今日はゴライアス行こうか。

瞬く間に中層にまで足を踏み入れ、トロールやらうさぎやらを魔石にしていく。

 

「ハッ!」

 

右の大剣で勝ちあげるようにミノさんの斧を粉砕。

続いて襲い掛かってきた二体目のミノさんの眉間から股間までを左の刀四本で縦に突き刺す。

二体目のミノさんを踏み台にして上から襲い掛かってきた三体目のミノさんを右の刀四本で同じように磔にする。

四体目のミノさんが背後から来たので直剣で細切れにし、真上から生まれたミノさんを左の大剣で真っ二つに切り捨てる。

ここで一体目のミノさんが戦線復帰して唸る拳を振り抜いてきたので小指を狙って蹴り飛ばす。

湿った枝が折れるような音を立て、小指があらぬ方に向いてしまった。呼応するようにミノさんは痛みを叫ぶ。

その隙に跳躍して両手の直剣で首を切り落とす。

 

「うわやば」

 

膝から崩れ落ちて俺を押しつぶそうとしてきたので蹴っ飛ばして回避する。

 

「ミノさん三十体目……と。何今日。牛祭りなの? なんなのもう」

 

体力はまだまだ余裕はあるが、第一級冒険者ですらドン引きするような無茶な行軍ができるのも武装全てに付与された『不壊属性』のおかげである。

そして十八階層。

……今回はゴライアス出会えるだろうか。

僅かな期待を胸に部屋に入ると、あっけなく次の階層に繋がる階段にまでついてしまった。

どうやら、ガネーシャ・ファミリアかロキ・ファミリアのどちらかが討伐してしまったようだ。

それでも、まぁまぁの稼ぎにはなっただろう。

ミノさんとか凄いいっぱい来たし。

深層は……うん、やめよ。

やる気が出ない。

あ、でもちょっとだけ行ってみようかな。ちょっとだけ。

帰りも無双しながら魔石とドロップアイテムを回収していく。

本当に【浮遊】は便利な魔法である。

 

本日の稼ぎ300800ヴァリス。

ちょっとだけとか言いつつ深層をちょっとさまよってしまった。 

おかげで稼ぎが倍になったので良かったとしよう。




私は取材(笑)で行ってきた某カレー専門店の一辛でツクヨミの気持ちがわかりました。
相方は四辛でスパイス追加してました。イミワカンナイ。
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