ダンジョンで暴れたいと思うのは間違っているのだろうか 作:冬月雪乃
「ねぇ、ユー君」
思い出したかの様にツクヨミが俺に問いかける。
朝日は窓から俺たちを照らし、小鳥たちの声が聞こえてきて、凄く平和な雰囲気がこの一室を包み込んでいた。
「サポーターってどう思うかなあ?」
「サポーター? いやまぁ、効率化の上では重要な役割があるかと思うけど……」
「……私でも出来るかな?」
「……その、細腕とステイタスも無く……?」
余談だが、ツクヨミは箱に詰まった本を運ぶ事ができない。
そんなツクヨミがダンジョンでサポーターやりたいとか言い出す。
「無理だろ……そもそも、ダンジョンに神は入ったらダメなんだぜ?」
「……ぶー。私はいつでもユー君と居たいだけだもん! 邪魔するなら神威の解放も辞さないよ!」
「辞してくれお願いだから。あー、ツクヨミ。今日は夕飯には帰るからさ、なんか作ってくれ」
「……私の料理の腕前知ってるくせにそーいうこという……」
「ツクヨミの作った料理が食べたいんだよ」
あぅう、などと言いながら顔を赤く染め上げるツクヨミ。
可愛いものである。
「ユー君はズルいよ! もう! 早く行った行った! 私は夕食考えるから! いいもん、ミアさんに教えてもらうついでに昼食も豊穣の女主人で食べるもん!」
「はいはい。じゃあ、行ってくるよ」
ズイズイと背中を押され、部屋から追い出される。
チョロいなとか考えたら明日はベッドに縛り付けられそうな悪寒がしたので頭を振ってその発想を消し飛ばす。
それにしてもサポーターか。
「どこでそんな言葉を覚えたのやら……。ん? あれはベルと……なんだあのおばけリュック」
迷宮に向かうと、噴水近くでエメラルドの籠手を装備したベルと、緑の巨大リュックから足が生えた謎のモンスターが対峙していた。
——新種か。
「ん? わ、わぁ! ユウキ兄! 剣しまって! 剣! なんで出してるの!」
「へ? きゃあぁ!?」
剣を飛ばそうと二本刀を浮かばせて狙いを定めると、いち早くそれに気づいたベルがリュックを掴んで移動させた。
火事場の馬鹿力か? すげえことしたぞ今。
「新種のリュックモンスターが居たからな」
「リュックモンスターじゃなくてリリ! 僕のサポーターだよ」
「サポーター……?」
「し、死ぬかと思いましたよ冒険者様……!?」
リュックが……というかリュックを背負っていた女の子が話しかけてきた。
ツクヨミは見てないよな? よし。
「すまん。背後からみたらリュックに足が生えたように見えたんでな」
「……ユウキ兄、確認してからにしないと……」
「ベルが襲われてるかと思ってな」
しれっと言うと、ベルは引きつった笑顔で溜息を吐いた。
「しっかし、すまんな、俺はユウキ・スサ。ベルの幼なじみ。【ツクヨミ・ファミリア】唯一の団員だ」
「ツクヨミ・ファミリア……あー、あの、バカップ……おしどり夫婦ファミリアと名高い!」
「おい今なんて言いかけた」
そもそもツクヨミとは結婚してません。
したら今でもロリコンロリコンうるさいそこらのファミリアに、さらに燃料を与える事になる。
そうなったら戦争遊戯は避けられない。
よろしい、ならば戦争だ。
にや、と笑いながら神々に対して戦争を仕掛けるツクヨミがしっかり見えた。
——ユー君が勝ったら……私が身籠る魔道具を作る事。
……あかんやつやこれ。
「……で、どうして急にサポーターを導入したんだ?」
「そっそれは私がベル様にお願いしたからです!」
「なるほど。ま、いいや。ベル。リリはどうやら十層が安全マージンとして限界に見える。それ以上はおまえも辛いし、そもそも二人で来るエリアじゃない。戦闘員がおまえだけっていうのもあるから……ほとんどソロだ。気を付けろよ」
「大丈夫。無理はしないよ」
はい、無理するフラグ頂きましたー!
「……そーかい」
いやまぁ、戦えない女の子を背中に置いてるわけだし、そうそう無理もしないか。
……それより気になるのは、あのリリとかいう女の子の眼光だ。
間違いなく俺の武器を見てたよなぁ……。
小人族による窃盗がどうたらと聞いたし、もしかしたら関係あるかもしれん。警戒するに越した事はないな。
まぁ、【浮遊】してる武器を盗めるなら盗んでみろって感じだが。
さて、上層のモンスターは無視で行こうか。
駆け抜けるぞ……!
といっても、上層のモンスターは近寄るとガチ逃げされるから駆け抜ける必要もないわけだが。
今日はツクヨミの手料理だ……! 色々覚悟を決める必要があるだろう……! 量的な意味で!
だから……たくさん動いて腹を空かせなければならないのだ……!
「うぉおぉ!! 【浮遊】ンンンン!!!」
中層に着くや否や、向かいくるモンスター達を引き裂き切り裂き、恐れ慄き逃げ出すモンスター達は追って狩る。
「そいそいそいっ!」
バーベキューの串のようにモンスターが刀に刺さる。小型ゆえの悲しみである。
「イィヤフゥゥ!!!」
テンションをあげればもっと腹が減るだろう。
前にツクヨミに夕食を頼んだ時は重箱だった。
今回は何で来るのか。わからない。分からないがいっぱい作ってくる気がする。やばい。
向かいくるミノやトロールを切り捨て、インファイトドラゴンを切り刻む。
「はぁ……はぁ……やべぇ、調子乗りすぎたわ……」
周りを見れば、モンスターがいっぱい。
囲まれた、か。
「問題ないな!」
今日は暴れdayだ。遠慮はいらない。
「パリィナァイッ!」
余談だが。
この時俺がすれ違った何人かの冒険者達に『怪物狂戦士』とか呼ばれるようになる。
誰がだ。まったく。
#
げっそりして帰った俺は、当然のように帰路に着いていた。
今日の稼ぎは605409ヴァリス。
中層としては破格だろう。たぶん。
超暴れた。まだ暴れ足りない。
「ただいま」
「おかえりユ……ダーリン」
「……ツ、ツクヨミ……?」
玄関を開くと、駆け寄ってくる顔を朱に染めてもじもじしてるエプロン装備の我が主神様。
何か耳がおかしくなった気がした。
「……えっと、フレイヤがこういえば男性は喜ぶって……」
「……なんで因縁の宿敵とそんな会話してるのさ……」
だがグッジョブ。たまにはいい事するじゃないかあのビッチ。
「おかえりなさい、ユー君。ご飯は作ってあるし、お風呂も沸いてるよ。どっちがいい?」
一瞬身構えた。三つ目のお約束は言われなかった。
そこは教えとけよフレイヤァアアア!!
「じゃ、ご飯にしようかな」
「うん。いっぱい作ったからいっぱい食べてね!」
案内された部屋には、これからパーティでもするのかという程の料理の数々。
「久しぶりだから、張り切っちゃった」
あぁ、やっぱり……。
暴れてきて良かった。
ちなみに、皿は魔道具であり、乗った料理が冷めなくなる効果を持つ。
つまり、常に出来たての温度でお召し上がりいただけるわけだ。
とりあえずツクヨミが引いて待ってくれてる椅子に着席。隣にツクヨミも座った。
さて、とりあえず目の前のエビチリらしき料理を一口。
「うん。やっぱり美味い」
ツクヨミはたまに豊穣の女主人でバイトをしている。
その関係もあり、とても料理の腕は高いのだ。
「えへへ。ユー君のためだけにいっぱい作ったからね。あ、自信作はこれだよ!」
喜色満面のツクヨミがわざわざ持ってきたのは竜肉のステーキ。
ソースをこだわってみて、自画自賛だが大成功だという話だ。
「おぉ、焼き加減もバッチリ……」
「ユー君の好き嫌いはちゃんと把握してるよ!」
「……おぉ、このソース美味いな。拘ったのは伊達じゃないな!」
「でしょ! 製法は内緒だけど……えへっ」
なんでそこでハイライトが消えるんでしょうねぇ……。
ふと見れば、指先に絆創膏が貼ってあった。
「ん? ツクヨミ、怪我したのか?」
「あ、うん。竜肉って硬いから、滑っちゃって」
どじっちゃった、と笑うツクヨミが可愛いので思わず撫で回した。
料理は……二人できちんと完食しました。
明日は動けませんねこれは…………!
一瞬ランキング入りしたようで、ありがとうございます。