やはりおれのダンジョン探索はまちがっている。   作:しろゆき

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第3話です。
この話は少し短めのうえ、独自解釈強めです。
二次創作だしなっていう軽い気持ちで読んで下さい。


第3話

昨日は色々なことがあった。俺の人生の中でもこれだけの出来事があった1日は中々ないのではないのだろうか。まあ俺の毎日は基本何もない1日が多いんですけどね。

 

だが昨日はそれでも異例中の異例だろう。

眼が覚めるとダンジョンにいて、ミノタウロスに追いかけられ、金髪女剣士に助けられ、神様と出会い、そして神、ヘスティアの眷属となった。

昨日ヘスティア・ファミリアに加入することを決めてからも忙しなく活動をしなければならなかった。まずはファミリア入団の儀式、背中に神の恩恵を刻む事によって俺は正式にヘスティアの子、ヘスティアのファミリアの一員となったのだ。

 

その後ダンジョンをベル・クラネルと共に運営管理するギルドへと向かい、ダンジョンに潜る為に手続きを行う。身分証明書等は必要なかったのでスラスラと手続きは完了した。結構管理甘くないか?

その際俺のダンジョン攻略アドバイザーも決まったのだが、ベル・クラネルと同じアドバイザーらしく、ベル・クラネルと仲睦まじく話していた。おーい、俺のアドバイザーですよねー?ボクのこと見えてますかー?

ベル・クラネルとの会話を聞いている限り大分お節介な性格のようで、危険を省みずに五層まで行ったことを注意したり、俺たちを助けた金髪女剣士の情報を教えてくれたりと、どうやらベル・クラネルのことはお気に入りのようだ。いやだから俺のアドバイザーでもありますよね?

 

その後ギルドから借金をする形を取り装備品を買いに行くことになった。

どんな装備品が良いかと言われて真っ先に刀と答える。だって格好いいじゃん刀、日本刀とかあれば超嬉しい。だが現実は厳しく、格好いい武器はどうしても予算をオーバーしてしまい、仕方なく刃渡50cm程の細身の両刃直剣を購入する。少し重たい気もするがいずれ慣れるだろう。

その後は防具の購入。ベル・クラネルのように胸当てだけでは心許ないので安物ではあるが盾を購入する。胸当てと盾、そして剣を装備するともう冒険者の出で立ちな気がしてくる。やだ、俺格好いい気がする!

 

装備品の購入も終わったところでヘスティア・ファミリアのホームである協会跡地へと戻る。その日の内にダンジョンに潜る事も出来たが、準備をきちんとする為にもダンジョン初挑戦は翌日にすることとなった。

 

そして今日がその翌日である。まさかの朝五時にベル・クラネルに起こされて、準備を整えて街へ出る。ああ、起こされるなら小町に起こされたい。だいたい朝五時起きってなんだよ、あと七時間は寝かせてくれよ。むしろ起こさないで欲しい。

睡眠不足で頭がクラクラする、正直に言えばダンジョンに対する不安と元の世界に戻る方法が気掛かりで余り寝付けなかった。来た方法があるなら戻る方法だってあるはずと楽観視そるのは簡単だが、しかしそれでは思考停止だ。何も解決しない。俺が元の世界に戻る為には常に考え続けるしかない、些細な情報も、見逃しそうな違和感も全て広い集めるぐらいの気概でなければ事態が好転したりはしないだろう。

 

 

ダンジョンに向かう為、ベル・クラネルと共に街のメインストリートを歩く。朝早いお陰で人混みも喧騒もない。街にいる人間は開店準備をしている人ぐらいしか居ないので実に静かだ、気分がいい。この良い気分のまま帰りたい。

働きたくない気持ちが強くなる一方で、ダンジョン探索に対する不安が少しずつ広がっていく。やべー死んだらどうしよう。超怖い。

恐怖心を紛らす為、ベル・クラネルに話を振ることにする。

 

「なあベル・クラネル。ダンジョンってのはやっぱり危険なんだよな。怖いから帰っていい?」

 

「ベルでいいよ。危険だけど恩恵を受けてるし、それに二人での探索だから早々危険な目には合わないんじゃないかな?一緒に頑張ろうよ!」

 

ベル・クラネルは爽やかスマイルを浮かべて俺にエールを送る。うわー、コイツリア充タイプだよ、しかも俺の帰ろうって提案を自然に潰してきた。案外強かなのか?

 

「…恩恵を受けても俺は素人だからな。期待すんなよ」

 

「僕もまだまだ初心者だよ。でも仲間がいると思うと心強いよ!」

 

凄く嬉しそうにベル・クラネルは言う。仲間になったつもりは毛頭無いんだが、まあ今から一緒にダンジョンに行くんだ。嫌われてダンジョンに一人置いてけぼりにされたら堪ったものじゃない。余計な茶々は入れないでおこう。

 

 

そんな会話をしているときに、違和感は起こった。

 

 

視られている。誰からかはわからない。だが確実に、何者かに視られている。

ねっとりした、それでいて異常に冷たく、そして削りとるような視線。

気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!

奇異の視線に晒されることは今までもあった。敵意にも嫌悪にも慣れている。周りの目なんぞ鼻笑って無視出来る自信がある。だがこんな感覚は初めてだ。思わず吐き気が込み上げる。なんだ、誰だ、誰だ!

周りをぐるりと見渡すが不審な人物は見当たらない。だが確かに、確かに今視られていた。

ふとベル・クラネルも周りを見渡しているのに気づいた。もしかするとコイツも今の視線を感じたのだろうか?

こんな気色の悪い視線がこの世に存在するものなのだろうか。警戒心を張り巡らせ、緊張感を高める。

 

「あの…」

 

「!」

 

背後からの声に咄嗟に飛び退き、剣に手を掛ける。自分でも過剰な反応だとは思うが、異世界なんてイレギュラーで命の危険まである場所で正常な反応をしろと言う方が無理なのだ。俺は悪くない。

声をかけてきたのは薄鈍色の髪色をした少女だった。エプロンを着けているのを見る限り、何処かのお店の従業員のように見える。だだ、まだ見えるだけだ。先程受けたばかりの視線を考えれば油断は出来ない。警戒心は緩められない。俺の睨むような目を見て少女は少し怯えた様子を見せる。それは睨まれたのが怖いのかい?俺の目が腐っているのが怖いのかい?

 

「ご、ごめんなさい!ちょっとびっくりしちゃって…!」

 

ベル・クラネルが慌てて少女に駆け寄って謝る。少女を驚かせてしまったことに負い目を感じているようだ。もうベル・クラネルは警戒を解いているようだが、俺は少女が話しかけてきたタイミングがどうしても引っかかる。都合のいい展開や偶然の出会いというのは人為的な側面がある。

彼女が話しかけてきたのは本当に偶然か?先程の視線は、この少女とは無関係なのか?嫌な想像ばかり働く中、ベル・クラネルと少女の会話が進んでいく。

どうやらベル・クラネルが落とした物を拾ったらしい。あれは昨日ヘスティアから説明を受けた魔石だろうか?

どうしても言葉や行動の裏を考えてしまう。本当にベル・クラネルが魔石を落としたのか?彼女に嵌められてはいないだろうか?我ながらネガティヴだとは思う。だが命が関わる可能性がある以上、普段以上に感覚を鋭敏に、言葉の意味を読み取る。

 

更に話が進み、ベル・クラネルのお腹の音を聞き少女は自分の朝食であるパンとチーズを渡す。これは俺の自論だが、親切で優しい女子なんて存在しない。女子は基本的に強かだ。友達付き合いでさえ自分の利益を考える、彼氏だって自分のステータスを上げる為の装飾品だ。

女子が見知らぬ他人に親切を働く?優しくする?そんなものはフィクションの世界だ。作り物で、偽物だ。こんな皆が憧れる優しくて可愛い良い子を演じれるコイツには間違いなく裏がある。

 

話は続き、パンをくれる代わりに自分の働いている酒場に食事に来て欲しいと条件を出してくる。いや条件なんていう聞いて不快感を覚えるものではなく、お願いという拘束力のないものだ。だがしかし、女子特有の優しさや魅力、断り辛さを十二分に活用した、そして、それが本命であると錯覚させるための言葉巧みな交渉術。

背筋がゾッとする。なんだこの作り物みたいな会話は。まるで台本が用意された物語を覗かされているような気持ち悪さ。

不気味の谷という言葉がある。人間に近づき過ぎたロボットはあるラインを越えると強い不快感や恐怖を覚えることである。今の状況はそれに近い気がする。…俺の目の前にいる少女は、一体何だ?

 

「それじゃあ今日の夜に…」

 

「遠慮しておく」

 

ベル・クラネルの言葉を遮るように口を挟む。思わず声を大きくしてしまったことで場がしんと静まり返る。我に返り羞恥を感じるが、それ以上に俺はこの少女から離れたいという気持ちが強い。

 

「えっと…私何かしちゃいましたか?」

 

困ったように笑顔を浮かべながら少女は言う。その笑顔には困惑は浮かんでいるが、怯えや不快感は感じられない。だが、それがまた俺に違和感を与える。普通初対面の男に大声で否定をされたら誰だって怒りや悲しみを覚える筈だ。ましてや俺に誘いを拒否なんかされた女子は次の日には俺の悪口をクラス中に言いふらすレベルで怒りだす。ソースは俺。

だが、それでも彼女はこの俺相手に嫌な顔一つしない。彼女は熟知しているのだ。男性がどういう反応をするば喜び、感謝し、幻滅するのかを。そして彼女は望まれた姿を演じきっている。それは何よりも異常で、何よりも異形だ。

 

「比企谷君、急にどうしたの?」

 

「や、ほらあれだ。酒場の料理の値段も知らずに行く約束なんてしてぼったくりだったらどうする。今日は俺の戦闘経験を積む為のダンジョン探索だろ?収入も普段より少ないだろうしやめといたほうがいいって」

 

本心を隠し、それらしい理由をでっち上げる。こういった場面で必要なのは嘘をつかないことだ。嘘ではなく、本音だけで理由を作り上げることで、”なら仕方ないね”と自然に諦めのつかせれる体裁を生み出せる。断って欲しいならいちいち誘ってくんなよ、毎回違う理由考えるの大変なんだぞ斎藤。

確かにとベル・クラネルは思案する。それでいい。お前がきっぱり断ればこの話は終わりだ。これ以上この場に居続けたくないから早くしてくれ。

だが俺の考えとは裏腹に、ベル・クラネルは予想斜め上の回答を弾き出す。

 

 

「でも、折角だし行ってみない?比企谷君の、八幡君の歓迎会としてさ!」

 

 

最悪だ。

ベル・クラネルが打ってきた一手は今の攻勢を一気に覆す最悪の一手だ。本音に本音を被せる。しかも俺がやめとこうと言った理由は要約するとお金がないということだ。それをベル・クラネルは歓迎会という今回だけという真正面からの理由付けで潰してきた。

 

「いや、俺の歓迎会なんて必要ないだろ?それより今後のことを考えればお金はとって置いたほうが…」

 

「僕、仲間が出来るの初めてだから、嬉しいんだ。だからお祝いしたいんだ。ダメかな?」

 

無邪気だ。疑うことを知らず、素直に自分の気持ちを吐き出せる。そんなベル・クラネルは何よりも純粋で、純粋が故に危うさを孕んでいる。ベル・クラネルはまだ人としては未完成だ。人は社会に身を置き、人を知ることで成長をする。ベル・クラネルはまだ人を知らなすぎる、知らなすぎるからこそ人を無条件で信頼する。美徳と呼べるのかもしれないが、それはガラス細工のように少しのことで砕け散る可能性を持つ。ヘスティアが心配するのはベル・クラネルのこういうところか。

そしてベル・クラネルが言っているのは理屈ではなく感情論だ。だから例えどんなに否定してもまた別の意見を提示してくるだろう。それが理屈が通っていなくてもだ。言わば子供の我儘だ。だからこそ論破も否定も意味がない、時間の無駄だ。

ここでの問題が収集が不可なのであれば、別の手を打つしかないな。

 

「…今回だけだ。歓迎会とか騒がしいのは俺は苦手なんだ。それと初探索でヘトヘトになるだろうから早めに切り上げる。それでいいなら構わん」

 

一度だけ。早急に切り上げる。俺が取り付けたい本命の約束を自然に入れ込む。これでこの少女との関係は今回だけに出来るし、なるべく関わらないでいられる。そしてベル・クラネルも満足する。完璧だ、自分の手腕に惚れ惚れするぜ。

ベル・クラネルも納得したようで、ありがとうと俺に感謝の言葉を告げる。言葉とか要らないから夜にここに寄らないとかしてくれると八幡的に超ポイント高い。

 

「ふふっ。では歓迎会ということで、とびきりの料理と飲み物を用意しておきますね!」

 

彼女は見る人を恋に落としそうな程の素敵な笑顔でそう言った。

やべぇ、俺が訓練されたぼっちじゃなかったら好きになって告白して振られてるとこだったわー。振られんのかよ。

といつものように脳内シュミレートをするが、恐らく彼女はそんな簡単な相手ではない。人を虜にする魅力の化物、ここまで人心を熟知し、完璧にこなせる人物を俺は知らない。雪ノ下さん以上の傑物だ。

 

「あ、僕ベル・クラネルって言います。貴方のお名前は?」

 

「シル・フローヴァです。ベルさん。あとえっと…」

 

2人で自己紹介をした後、シルと名乗った少女が俺を見る。これって自己紹介しなきゃいけない流れなの?出来ればこれ以降関わり合いになりたくないんですけど…

 

「…名乗る程の物じゃございません。好きに呼んで下さい」

 

「わかりました!では八幡さんとお呼びします!」

 

名乗ってないのに下の名前で呼ばれた。なにエスパーなの?

よくよく考えるとベル・クラネルが俺のフルネームを口にしていたのを思い出す。碌なことしねーなコイツ。まぁいい、どうせ今日だけだ。それ以上関わるつもりはない。この少女も明日には、あの目の腐った人の名前なんだっけ?となるに決まっている。

それと俺を八幡と呼んでいいのは戸塚だけだ。材なんとか?そんな奴知らん。あぁ戸塚を思い出したら無性に会いたくなる。とっととこんな世界から抜け出そう、戸塚の為に!

 

「では、冒険者さん。頑張って下さいね!」

 

少女は笑顔で手を振り俺たちを送り出す。

照れて笑顔を浮かべるベル・クラネルとは対照的に、俺の心は全く晴れず、憂鬱な気分のままダンジョンへと向かう。幸先の悪い冒険になりそうだ。

 




今回の更新はここまでです。
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