やはりおれのダンジョン探索はまちがっている。   作:しろゆき

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自分のメンタルの弱さに凹みつつも更新します。
キャラ崩壊激しいですが、よろしくお願いします。


第7話

今回の決闘に関してだが、まず大前提として俺が真剣に付き合う必要はない。いざとなれば逃げたっていいし、やる気だって有りはしない。

あの銀髪や金髪がどう思っているかは知らないが、俺が真面目にこんな茶番に付き合う必要はないのだ。周りの人間だって勝ち負けなんぞに興味はない。さぞかし彼らは有名なファミリアなのだろう、そのメンバーが決闘をする、そのこと自体に興味があるのだ。

そもそもこの決闘自体無理がある、俺は初心者だ。そんな俺が冒険者のトップカーストの人間と決闘なんてどう間違っても起こり得てはいけない。もしかすればこの決闘自体が彼らの評判を貶める可能性だってあるだろう。そもそも決闘をするメリットが彼らにはないのだ。

それにも関わらず、彼らのリーダーである少年自身が決闘を申し込んできた。あの金髪が何を企んでこんな場を設けたのかはわからないが、俺はこんなショーを決して盛り上げようだなんて思わない。

いつものように斜め下に、空気を壊すように、茶番には茶番を持ってして、この下らない決闘を終わらせよう。

 

シルの言っていた道をのんびりと歩いていると、道の奥に人集りが見えてくる。恐らくここが広場で、ここにいるのは酒場にいた人間と野次馬たちだろう、随分と暇な人達がいるもんで。

 

 

「おっせぇぞ‼︎」

 

突如怒声が轟く。どうやら俺よりも早くに銀髪は来ていたようで痺れを切らしているようだ。まあ大分遅刻しちゃったしな、そりゃ怒るか。

銀髪の立っている舞台に近づいたところで先程の酒場にいた金髪の少年が声を掛けてくる。

 

「やあ、ようやく来たね。随分と遅かったじゃないか」

 

「道に迷ったんだよ、ここら辺の地理には疎いんでね」

 

当然口から出まかせだ。時間通りに来ようと思えば来ることは出来た。だが俺の作戦を実行するにはこの場に時間通り、もしくは時間より早く来る訳にはいかないのだ。

 

「ハッ!逃げ出したんならそれでもよかったがな!今から逃げてもいいんだぜ!」

 

舞台の上から銀髪が歪んだ笑みを浮かべて言う。

その表情から俺が負ける訳がないという強者の余裕がありありと読み取れる。きっと銀髪にとってこの決闘は勝負にすら入らぬ児戯にも等しいのだろう。

だからこそ、俺の予想通り銀髪には油断と隙が生まれる。もう銀髪の思考は止まっている、何故ならこの戦いは銀髪の勝利が揺るぎないものだから。観客も銀髪本人もそれを疑うことはないだろう。当然の驕り、それが致命的な付け入る隙になる。

 

「じゃあそろそろ決闘を始めようか比企谷くん」

 

「安心しろよ。ブルっちまって遅刻しちまうお前の為に一瞬でケリつけてやるからよ‼︎早く舞台に上がって来やがれ‼︎」

 

正に舞台は最高潮と言ったところだろう。銀髪の雄叫びのような挑発にドッと歓声が湧き上がる。もはやこれは喜劇だ、決闘なんて大仰なものでは決してない。観客が観たいのは俺の勝利でも敗北でもない。ダンジョン以外ではお目にかかれない銀髪の勇姿だ。つまりはこの勝負の内容にも結果にも誰も興味がないのだ。

だが俺はそんな期待に応えるつもりは一切なければ、あの銀髪の勇姿なんて微塵も見せる気はない。この舞台は俺の独壇場だ。悪いが今回の主役は譲って貰う、もちろん俺がなれるのはヒーローなんてカッコいいもんじゃない。

泥にまみれた格好悪いやられ役、俺の配役なんてそれで充分過ぎる。

 

 

 

俺は舞台の目の前で歩みを止める。当然銀髪は怪訝な顔を浮かべるが俺の知ったことではない。痺れを切らして銀髪が苛立ちを隠さずに俺に言う。

 

「どうしたよ。やっぱり怖くなっちまったか⁈」

 

はい、めっちゃ怖いです。帰っていいですか?

 

「…まずルールの確認だ。ルールはさっき俺の提示した通り、この舞台に上がって、先に舞台から出たほうの負けでいいんだな?」

 

「チッ、何でも構わねーよ、とっとと始めようぜ。むしろ雑魚を相手するのにふさわしいハンデくれてやろーか⁉︎」

 

余裕を露わにして笑い声を上げて声高々に言う。ハンデなんかに興味はないが言質は取れた。余裕綽々なところ悪いがもう茶番はおしまいだ。幕引きといくとしよう。

 

「ハンデなんかいらねーよ。だがこの舞台に上がるつもりはない」

 

「は?」

 

銀髪が何を言ってやがると言わんばかりの表情を浮かべる。銀髪だけではない、この場にいる観客全員が俺の発言を理解出来ずにいるだろう。

だが別に俺は納得も理解も求めちゃいない。他人のことを知る事なんて出来ない、出来るのは知ったつもりになることだけだ。だから俺のことも知る事なんて出来ないし、出来なくていい。

 

 

「ルールはこの舞台の上に上がって、先に降りた相手の負け。勝負としてここまで単純なルールはない。イカサマもインチキも裏をかくことも難しいフェアプレー精神に溢れるルールだ。もっともルール通りに闘いが行われるんだったらだけどな」

 

今から俺が語る策は誰が聞いても屁理屈だ。

言うなれば子供がジャンケンをした際に指で銃の形を作り、これは無敵だから俺の勝ちと言うような。或いは鬼ごっこの際にタッチをされたのにも関わらず、バリア中だから効かないと宣うようなただの戯言だ。

普通ならこんな発想はしないのだろう。こんな事を言えば皆からバッシングを受けるのは眼に見えている。例えルール上は俺の勝ちだと宣ったとしても誰も認めはしない、いつものように爪弾きにされるだけだろう。

そう、いつもと変わりはしないのだ。例え異世界に来ようが、冒険者になろうが俺は変わらない。そんなことでは人は変わらない、変わってはいけない。

だから変わらず俺は最低と罵られる道を平然と歩くことにしよう。チクリと胸を刺すような痛みを感じた気がしたが、きっと気のせいだろう。

 

 

 

「なら、俺がこのまま舞台に上がらなかったら、お前は誰と闘うんだ?」

 

 

 

自分の発言で空気が凍りつく体験は何度目であっても気持ちのいいものではないが、俺にとってこんなのは日常茶飯事だ。空気を凍てつかせることに関してはプロフェッショナルと言ってもいい、報酬を要求するレベルまである。やだ、俺働いちゃってる⁈

 

「……は?」

 

呆気に取られた銀髪が一言溢す。

周囲にも困惑が拡がり先程迄とは違うざわつきが広場を包む。

 

「何言ってんだお前!とっとと闘えよ‼︎」

 

一人の観客が野次を飛ばすと周りも同調し、一気に広場はけたたましいブーイングが拡がっていく。侮蔑に嘲笑、そして怒気を孕んだ視線が俺に集まる。

彼らの言い分ももっともだ。横紙破りにも程がある、これのどこが決闘だと言うのか。例え俺が提示したルールを則っていたとしても大衆は認めはしない。

随分と人気者になってしまったものだ、注目の的になるなんて柄じゃなくて背中がむず痒くなる。

 

「…どういうつもりだ、トマト野郎ォ…⁉︎」

 

犬歯を剥き出しにし、睨みを効かせて銀髪が言う。

 

「どういうつもりも何も、言った通りだよ。お前は舞台から降りたら負け、俺は舞台に上がらないから負けない、ルールに則っただけさ」

 

さもあっけらかんと、そして自分は間違ってないということわざとらしくアピールしながら言う。

きっと周りからは俺の姿は勇敢とはかけ離れた臆病者に見えることだろう、ルールに身を隠した狡猾な卑怯者。

そんな人間が銀髪の相手をすることは誰一人望んではいない。望まれたのは、弱くても、愚かでも、負けるのがわかってても勇敢に立ち向かう人間。もしくは勇敢に立ち向かわなくとも、このショーを盛り上げられる道化だろう。

そんなのは俺の柄じゃない。らしくないことはしないほうが自分の為なのだ。だから俺はいつも通りにやれることをやるだけだ。

 

 

「ふざっけんじゃねぇぞ‼︎トマト野郎ォ‼︎」

 

 

破裂したかのような怒号が聞こえると同時に、俺の目に広がる世界が歪み回り始める。

何度地面を回転したかもわからない程地面を転がり回り、全身の痛みと抉られたかのように錯覚する程の頬の痛みに、ようやく自分が銀髪に殴られたということを理解する。

 

 

「が、あぁあああぁ…っ!」

 

 

声にならない呻き声が喉から漏れ出る。

かつての事故の記憶が思わず蘇るが、気を失うことの出来たあの時の方がまだマシだ。

ヘスティアの子になった俺の身体は多少だが強化されている。その弊害で銀髪の途轍もない拳を受けても気を失うことすら出来ないでいる。なんだよコレ、強くなったほうが辛いなんて聞いてねぇぞ。

口の中を広がる鉄の匂いと味、全身の焼き切れるような痛みが吐気を込み上がらせる。手にも足にも力が入らず、這い蹲ることしか出来ない俺に、銀髪が怒りを露わにさせ歩み寄る。

ふと頭にあることがよぎる。いやむしろこの世界に来た時から、頭の中ではずっと考えていた。ずっと考えていて、考えないようにしていた。

だが全身を駆け巡る痛みが、そして目の前の圧倒的な力に対する恐怖心が、避けようとしていた現実を否が応でも直視させる。

一歩ずつ、ゆっくり銀髪が歩みを進める。足音が聞こえる度、心臓の音が周りにも聞こえるのではないかと思う程大きく跳ね上がる。

 

 

「そこまでだ」

 

 

その声にブラックアウトしてしまいそうだった意識が呼び戻される。

顔を上げると俺と銀髪の間に割って入るように金髪の少年が立っている。

 

「…どけよ」

 

「ベート、勝負はもう着いた。これ以上やるのは団長として認める訳にはいかない。拳を納めるんだ」

 

「………ちっ」

 

律するように金髪は言う。

銀髪は到底納得などしている様子はないが、それでも金髪の言葉に従い踵を返す。

 

 

「……終わった…のか」

 

 

銀髪が背を向けるのを見届けると同時に思わずそう呟く。

言葉にした途端、緊張の糸が切れるように全身を虚脱感が襲い、全身の力が完全に抜け、地面に倒れ伏す。

 

 

助かったという安堵感からか、恐怖から解放されたからなのか、或いは痛みのせいなのかはわからない。

 

だが今度こそ俺は、眠るように意識を失った。


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