剣がすべてを斬り裂くのは間違っているだろうか   作:REDOX

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この話からオリキャラが出ます。オリキャラやオリ展開はやる度に反応にビクビクしてしまう。


刀鍛冶の少女

「あ、あの」

 

 それは、私がダンジョンに行くため高くそびえるバベルへと向かって歩いていた時だった。バベルの足元は昔塔が崩壊した関係で大きな円形の広場となっている。なんでも、最初に地上に降りてきた神が降りてくる際に塔に激突して壊したらしい。

 

「私ですか?」

 

 そんなことはどうでも良く、その広場で荷物の確認をしていた私に話しかけてきた少女がいたことが本題だ。

 私より頭ひとつ程低い背丈に肩口ほどまで伸びた黒い髪。長い前髪からは自信なさ気な紫水晶のタレ目が覗く。顔は整っていて、街を歩けば多くの男が振り向くだろう。

 着ている服は極東の人達が好んでいている着物という物で、淡い青色を基調にし赤い花が描かれたものだ。

 

「は、はい」

「何か御用でしょうか?」

「え、えと」

 

 辺りをキョロキョロ見たり俯いたりして、何を考えているのか分からないが時間がかかっている。私は今一刻も早くダンジョンへと行きモンスターを狩って熟練度を上げたいのだが。

 

「私はそれなりに急いでいるので。できれば早く言ってください」

「ひゃい、あぅ」

 

 そして急かしてみると舌を噛んで更に時間がかかってしまう始末。なんでしょう、私を足止めする誰かの陰謀なのでしょうか。流石の私もいたいけな少女の話を無視してダンジョンに行くことはできない、かもしれない。あまりしたいことではないのは確かだ。

 

「わ、私を」

「貴方を?」

 

 そうして彼女は意を決して頭を下げながら高らかと私に言った。

 

「私をダンジョンに連れて行ってくだしゃい!」

 

 目の前には舌を噛んで痛がる少女が一人。頭を下げられた私は周りから不審者を見るような目で見られ、居心地が悪かったのでとりあえず少女をダンジョンに連れて行くことにした。

 まさか狙ってないですよね、とは聞けなかった。

 

 

■■■■

 

 

 お互い自己紹介をし、少女の名前は忍穂鈴音(オシホスズネ)と分かった。ヘファイストス・ファミリアの一員で専門は刀、所謂刀鍛冶だと教えてくれた。

 

「あ、あの」

「ん?」

 

 その彼女は今私の横で鞄を背負って歩いている。それは、彼女の荷物ではなく私の荷物だ。普通に見れば、私が少女に自分の荷物を持たせている鬼畜最低野郎にしか見えないが、ダンジョンであれば、それほど珍しいという光景でもない。

 

「どこまで行くんですか?」

 

 彼女は現在刀鍛冶を休業しているらしい。事情は聞かなかった。

 しかし、それでは生きていけないのでどうにかして金を稼ぐ必要がある。必要に迫られ、彼女はサポーターとして冒険者の荷物を運んだり、モンスターの死骸から魔石を抜くなどの作業をすることにした。

 彼女自身には戦闘能力は皆無だ。【ステイタス】のおかげで重い荷物が持てる程度しか鍛冶以外にダンジョンで役に立つものがなかったらしい。私からしたら街でアルバイトでもしたほうが良いように思えたが、どうにも少女は人間関係の構築が苦手のようだ。

 なら、何故私に話しかけたと思ったが、まあ気まぐれということもあるので気にしないことにした。

 

「とりあえず15階層辺りですね」

「え」

「サポート、頼みますよ?」

「えぇぇ!」

 

 私の軽装さを見て駆け出し冒険者だと思ったのだろう。間違いではないが、駆け出しだからと言って中層に行かないわけではない。むしろ私は積極的に行く。まあ、そんなトチ狂ったことをするのは私くらいだとヘスティア様に言われたが。

 

「も、もっと浅い層にしましょうッ。ねっ、ねっ」

「それじゃ物足りないから態々中層に行くんじゃないですか」

「だ、だって。一人だし」

「鈴音さんがいるので二人です」

「わ、私戦わないです」

「知ってますよ」

 

 私の服を引っ張りながらやめるように私を説得しようとする鈴音さん。これが普通の反応なのだろうか。今までずっと一人で探索をしていたので分からなかったが、そうなのかもしれない。

 

「別に嫌なら付いてこなくていいですよ」

「そんなぁぁ……」

「はぁ……安全は私が保証しましょう。私のそばにいる限り守ってあげましょう」

「ほ、本当に?」

 

 上目遣いに涙目という最早狙っているのではないかと思ってしまうほどの事をする鈴音さん。狙ってないですよね? まさか貴方もシルさんと同類とかではないですよね?

 

「ええ」

「な、なら、行く」

 

 私の言葉のどこに信用できる要素があったか、言った自分ですら分からないが彼女は私の提案を受け入れた。人を信じやすい性格なのかもしれない。いつか絶対騙されるタイプですね。

 

「では、急ぎますよ」

「はいっ」

 

 

 

 

 

『キキィッ!!』

『ガウッガウッ!!』

 

 道中13階層。目の前にはアルミラージとヘルハウンドの集団が待ち受けていた。

 

「そこにいてくださいね」

「は、はいっ」

 

 ショートソードを抜き、モンスター達の前で構える。

 普段であれば敵が攻撃する前に速攻で倒す私だが、今日は守らなければいけない存在がいるので闇雲に相手に突っ込んでいくわけにはいかない。つまり、相手が来るのを待つ必要ができてしまう。

 モンスターが大抵攻撃してきてくれるので問題はあまりないのだが、慣れていない戦法であることに変わりはない。

 

『キィッ!!』

 

 アルミラージ三体が走りだし、それぞれが石の斧を振り上げながら攻撃を試みてくる。大きく横に飛ぶことでそのすべてを避けながら剣を振りぬき一体の首を刎ねる。

 私との距離が空いたことで、一体が鈴音さんを狙おうと顔を逸らしたので急いで間に入り注意を再び私に向けさせる。

 

「貴方の相手は私ですよ」

『キッキィッ!』

 

 私の声に反応したのか、アルミラージは飛び上がり斧を振り上げた。しかし、空中というのは不便なもので回避行動が取れなくなる。視界に映る斧の軌跡を避けながら、着地した瞬間に首を斬り飛ばす。

 やはり、人型のモンスターはある程度動きが読めるので相手がしやすい。

 

 次の瞬間、未来が赤く染まった。

 私が飛び退いたのと、炎が眼前を飲み込んだのはほぼ同時だった。ヘルハウンドの炎のブレスだ。実際に見るのは初めてだった。

 炎の中からアルミラージが燃えながら突貫してくる。どうやらモンスターも関係なく炎によるダメージを受けるらしい。モンスター皆仲間というわけではないようだ。

 

 飛び退きながら鈴音さんの所に戻り、彼女を抱えてまた飛び退く。

 

「ひゃあ」

 

 何体かのヘルハウンドが同時にブレスを吐いているのか、炎の勢いは留まらずかなり広範囲に広がってしまった。

 

『グギィッ!!』

 

 そして、炎の中から一匹のアルミラージが飛び出してくる。

 鈴音さんを抱えていて剣が振れないので仕方なくショートソードを投擲し牽制する。剣士としての腕は老師が認めるほどだったが、投擲術はからっきしだった。投げて当たればいいか、くらいだ。

 アルミラージはそのまま炎の中で燃え死んだ。

 

「ちょっとお借りしますね」

「え?」

 

 鈴音さんの着物に差してる短い刃物を許可無く抜く。緊急事態なので文句があるとしても後で聞きましょう。

 それは、30C(セルチ)ほどの短い刀だった。少し短いが、素手よりはリーチがある。

 

『ガウッ!』

 

 炎の向こうからヘルハウンドが襲い掛かってくる。己の火で傷つかないように毛皮に火耐性でもあるのだろう、まったく焦げること無く炎を突破していた。

 炎を突っ切ることの出来ない私にとっては好都合だ。

 

 刀を逆手に持ち、拳を振りぬくようにして刃でヘルハウンドの喉を斬り裂く。

 時間経過によって晴れてきた炎の先に、三体のヘルハウンドが待ち受けていた。それ以外のモンスターは見えないので急いで倒してここを離れるとしよう。一人守りながら戦うにはヘルハウンドのブレスが厄介極まりない。

 

「鈴音さん、もっと近付いてください。産まれる可能性もあります」

「はいぃ」

 

 離れすぎるといきなり背後から産まれたモンスターなどの対処ができなくなってしまうので、とりあえず近付くように言っておく。

 

『ギャウッ!』

「伏せてなさいッ!」

 

 目の前から飛びかかってくるヘルハウンドに向かって脚を大きく振り上げ、顔面にかかと落としを喰らわせ地面に伏せさせる。間髪入れず刀を脳天に突き刺し殺す。

 残る一匹は疾走しながらその牙で私を噛もうと突撃してきたが、それを避け横から頭に刀を差し込み脳を破壊し、戦いは終わった。

 

「あ、魔石」

「魔石はいいですから、戻りますよ」

「え、でも」

「人を守りながら戦うというのが初めてなので、少し上の階層で慣らします」

「わ、分かりました」

 

 私は投げたショートソードを回収し、上層へと戻ることにした。

 

 

 

 それから数時間経ち、私と鈴音さんは地上へと戻ってきていた。

 

「こ、こんなに貰っていいんですか?」

「いいですよ、別に」

 

 そう言って私はヴァリスの入った袋を彼女に手渡した。

 鈴音さんという非戦闘員が一人いると思い通りに戦闘が進まないので泣く泣く10階層でオークとインプを相手にした。

 稼ぎは私一人で探索するより断然良かった。当たり前だが、戦いながら持てる荷物などたかが知れている。荷物持ちとしてサポーターがいるだけで持って帰ることのできる魔石の量は格段に上がるのだ。

 しかし、問題は。

 

「私は別にお金が欲しくてダンジョンに潜っているわけではないので」

「そ、そうなんですか?」

「ええ」

 

 もちろん、私がダンジョンに行く理由は強くなるためでしかない。オッタルと私の差、それはただの地力の差ではない。レベルという、その個人の器とでも言うべき物の差なのだ。それを埋めるためには、私が器を昇華させていくしかない。ダンジョンでモンスターを倒し、熟練度を上げランクアップしていくしかないのだ。

 

 結局、私は鈴音さんとそこで別れた。私としてはサポーターという存在があまり必要とは思えなかったからだ。彼女としても、中層で危険に遭うのは本意ではないだろう。

 どうか少女に幸あらん事を、と願いながら私はホームへと戻った。

 

 

■■■■

 

 

「いらっしゃいませ」

「こんばんはリューさん」

「お一人ですか?」

「ええ」

 

 一度ホームに戻り、私は常連となったこの店へと夕食を食べに来ていた。時々ベルとも来るが、ベルはホームでヘスティア様と夕飯を食べるほうが好みらしい。じゃが丸君だけじゃなければ、私も一緒に食べるのだが。

 

「今日はお酌を出来るほど暇ではありませんので、絡まないでください」

「暇になるまでいますよ」

 

 出迎えてくれたリューさんと話しながら、定位置となったカウンター席へと案内される。何度も私の接客をしているせいか、リューさんは私という存在に慣れ始めていた。以前であれば若干厳しい目つきだったが、今は普通に話してくれている。

 

「ご注文は?」

「もっと話しません?」

「営業中です」

「私と話すことは」

「仕事に含まれていません」

「ですよね」

 

 仕方ないので料理と酒を頼むとリューさんはカウンターの奥へと歩いて行ってしまった。周りを見渡すと、いつもの様に賑わっている酒場の客達はほとんどが冒険者だ。眺めて強いか強くないか、どのような装備をしているのか観察をしていく。

 巨大なハンマーや大剣を始め、弓やボウガンと言った遠距離武器、杖などの魔法の補助具と冒険者が扱う武器は多岐にわたる。多岐にわたり過ぎて、そもそもそれが何なのか分からない武器まであるくらいだ。

 

「そういえば」

 

 手を見ながら、ダンジョンで握った短い刀を思い出す。あの時は緊急事態ということで深く考えずに借りたが、刀に準ずる物を振るったのはあの時が初めてであった。

 そういえばフィンさんは斬ることに特化した剣だと言っていた。まるで自分のようだな、と謎の共感を持ちながら柄を握った感覚をイメージする。

 剣とは最早私の身体の一部だ。柄を持った感覚からその先に付いた刃の形、触り心地、空気を斬った感触、肉を裂いた感触を自分の中から引っ張りだす。

 

 少し反った刃は美しく、滑らかな断面は指に吸い付くような触り心地だった。空気を斬る感触は、今まで使っていたショートソードとは比べるまでもなく鋭く、肉を裂いた瞬間そもそもショートソードとはまったくの別物だと気付いた。

 斬るということに特化した刀剣、その通りであった。

 

「物騒なのでやめてください」

「何がですか?」

 

 頼んだ料理を運んできたリューさんがおかしな事を言うので思わず聞き返してしまった。

 

「殺気が漏れていました」

「それは失敬。つい」

「つい、で酒場で殺気を振り撒くのはやめて頂きたい。ここの店員はそういった物には敏感だ」

「いや、本当にわざとじゃないんですよ? 信じてくださいよ」

「……普段の貴方の殺気はもっと鋭い。今回は信じましょう」

 

 変な信頼のされ方をされてしまったが、信じてもらえたのでよしとする。

 

「あ、そういえばリューさん」

「仕事に戻ります」

「少しだけでいいので、少しだけ」

「後にしてください」

「後なら聞いてくれるんですね?」

「……ええ」

 

 言ってしまったことは取り返せないと思ったのか、リューさんは肯定して仕事に戻っていった。リューさんの仕事が落ち着くまで何時間かかることか。その間することといえばミアさんと話すか、客の観察くらいしかない。それでも、それなりに楽しめるからここは止められない。

 

 

 

「それで、話とは?」

「今度手合わせを」

「明日の仕込みが」

「リューさん料理できないでしょう」

「ぐっ」

 

 以前ミアさんに聞いた話だがリューさんの料理の腕は壊滅的らしく、厨房での仕事は野菜の皮剥きか皿洗いくらいしかないらしい。まあ、恐らくこの店での一番の役目は荒事なんだろうと思っている。

 

「いえね、今日少し刀を振るったんですが。いや、短いからなんて呼ぶのかは知らないんですが。まあ、なかなか手に馴染んだので試しに握ってみようかと思いまして。扱い方を教えてもらえないかな、と」

「それで何故私に?」

「以前、小太刀を持っていましたよね? あれも刀の一種かと思いまして」

 

 少女を庇うベルを助けるときに抜いた小太刀はまだ記憶に新しい。なにせそれを向けられたのは襲おうとしていた男性冒険者だけでなく、私自身もだったからだ。

 その時の事を後悔してか、リューさんはため息を吐いた。

 

「ダンジョンに行けば刀の使い手くらいいるでしょう。見て、盗めばいい。貴方ならそれで事足りるはずだ」

 

 そして出された結論は拒否であった。受け入れて貰えるとは微塵も思っていなかったので

それほど落胆はしなかった。なら何故誘うのか? 万が一、いや億が一ということもあり得るからだ。

 もう話は終わりと言わんばかりにリューさんは立ち去っていった。

 

「あ、リューさん」

「なんですか?」

「料理、追加でお願いします」

 

 了承したリューさんはそれをミアさんに報告し、店の奥へと姿を消した。いつもながら歩く姿も隙がなくて美しい。

 

「つれないなあ。せっかくお近づきになれると思ったのに」

 

 腕につけたプロテクターから熱を感じる。私に突き進め、登り詰めろ、斬り刻めと語りかける。ああ、刀は私を貴方にどれほど近づけてくれるだろうか。ただ、それだけを思い続ける。

 刀を持った自分を思い浮かべるが、やはり振り方がいまいち分からない。ショートソードのように振るうのを想像してみるが違和感が残るばかりだった。そういえば今日も適当に振るってしまった。

 

「あ」

 

 そもそもあれは鈴音さんの物で、彼女は刀鍛冶だ。

 

「これはいい考えだ」

 

 今朝出会った時の鈴音さんを思い浮かべる。唐突な出会いに、若干迷惑だった非戦闘員という不確定要素。正直、もう会いたくないと思っているほどだったが、なかなかどうして。

 

 運命的な出会いだったのかもしれない。

 ジョッキに残っていた酒を飲み干し、勢い良く立ち上がり、座り直す。料理を頼んだばかりであった。周りから若干変人を見る目で見られたが、そんなこと既に気にしていなかった。

 ああ、早く明日になれ。今すぐ彼女に会いたいという衝動を抑えながら、料理が来るのを待つ私は落ち着きのない子供のようだったとミアさんに言われた。

 




閲覧ありがとうございます。
感想や指摘があれば気軽に言ってください。

オリキャラ出すと大抵女性キャラになってしまうというね。無駄に女性キャラ増やすのって良くないんですけど……今回は理由があるのでいいか、と思いつつ、ああいつもの癖が、とか思ってました。

※2015/09/14 7:11 加筆修正

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