剣がすべてを斬り裂くのは間違っているだろうか   作:REDOX

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ぶつかるのは誰と誰の正義なのか。


さあ、聖戦を始めよう

「君って奴は! 君って奴はっ!!」

「痛い、痛いですってヘスティア様」

 

 私がホームに帰ると昼時ということもありいつも通りヘスティア様はバイトでいなかったが、驚くことにベルはいた。ベル程のダンジョン大好きっ子なら毎日ダンジョンに行くものだと思っていたので思わず体調が悪いのかどうか聞いてしまった。体調が優れないのは自分だと言うのに。

 

 夕方になりヘスティア様が帰ってきて私の傷を見た途端怒りだした。

 

「ヘスティア様、一応言いますが怪我をするほうが普通なんですよ」

 

 ベルに同意を求めると頷いてくれた。

 

「それはそうかもしれないけど! でも、今まで一度も目立つ怪我をしていなかったというのも事実だ!」

「それは、まあ……あ、【ステイタス】の更新してくれません?」

「その前に何をして怪我をしたのか言うんだ」

「その説明は更新の後がいいと思います」

 

 たぶん説明したらまた怒るだろう。怒ったら【ステイタス】の更新をしてくれないかもしれない。

 

「……なんだかすごく嫌な予感がするよ、僕は」

「まあ、そう言わずに。あ、背中に乗る時は体重かけないでくださいね」

「それくらい分かっているさ、まったく」

 

 頬を膨らますヘスティア様をベッドの脇まで連れて行き、自分は腹に巻いてある包帯を解く。ベッドにタオルを敷きその上に腹部を乗せて仰向けになる。

 

「はあ、今度は何をしてくれたんだい?」

「それは更新してのお楽しみということで」

 

 ジト目で私を見下ろすヘスティア様は針で自分の指を刺し、血を一滴私の背中へと垂らした。

 

「ッ!」

 

 そしてその表情は驚愕に染まった。私の上で固まったヘスティア様を不審に思ったのかベルがベッドの傍に来ようとする。

 

「ベル君!」

「ひゃい!?」

 

 ヘスティア様はそんなベルに大声で反応した。

 

「ちょっとジャガ丸くんを買ってきてくれないかなあ? 僕無性に食べたくなってきたんだ」

「えっと、神様はお昼もジャガ丸くんだったって……」

「食べたいんだ、全種類、揚げたてのを頼むよ」

 

 ヘスティア様の必死の声と表情に気圧されベルは小さく「はい」と答えて地下室から出て行った。

 

「…………」

「……アゼル君、これはどういうことだい?」

「これ、とは?」

「とぼけるな! 背中の神聖文字(ヒエログリフ)が光っている。ランクアップ出来る証拠だ!」

「やはり」

「やはり、だって」

 

 ヘスティア様が力なく私の上に座った。

 

「君は……君はまた僕の忠告を無視したのかい?」

「私は前言ったはずです。私は歩みを止めないと」

「だからって……だからってこんなこと」

「とりあえず、更新しましょう。あまり時間を掛け過ぎるとベルが帰ってきてしまいますよ」

 

 ヘスティア様も私の言葉を聞き漸く動き出した。手で私の背中に触れ、私の経験を反映させていく。淡い熱が背中からじわじわと流れ込んできた。まるで、涙を流していない女神の悲しみがそのまま流れてきているかのようだった。

 

「ほら」

 

 数分で【ステイタス】の更新は終わった。ヘスティア様はその内容を紙に記し私に渡した。

 

アゼル・バーナム

Lv.1

力:G 233 → D 546

耐久:H 179 → E 438

器用:E 402 → B 784

敏捷:F 353 → C 611

魔力:G 201 → D 506

《魔法》

未来視(フトゥルム)

《スキル》

(スパーダ)

地這空眺(ヴィデーレ・カエルム)

 

 これがレベル1最後の【ステイタス】だった。そしてもう一枚の紙には。

 

アゼル・バーナム

Lv.2

力:I 0

耐久:I 0

器用:I 0

敏捷:I 0

魔力:I 0

剣士:I

《魔法》

未来視(フトゥルム)

《スキル》

(スパーダ)

地這空眺(ヴィデーレ・カエルム)

 

 すべての基礎アビリティがリセットされた【ステイタス】だ。

 

「派生アビリティはそれだけだったから、勝手にそれにしておいたよ」

「ありがとうございます」

 

 そしてふと気付く。【魔法】が増えていない。

 

「あの、魔法増えてませんでしたか?」

「増えてないよ」

 

 不機嫌そうに私の問に答えるヘスティア様は嘘を吐いているようには見えなかった。

 しかし、あの時確実に私の剣技は超常の現象を起こした。魔法としか思えない斬撃を繰り出した。てっきり魔法を得るものとばかり思っていた。

 

「で、何をしたらこんなことになるんだい?」

「ヘスティア様は17階層の事をどれくらい知ってます?」

「まあ、主な事は知ってる。君のことを調べた時に一緒に調べたよ、危険度とかね」

「階層主という存在は?」

「……まさか」

「まあ、そのまさかでうっ!」

 

 背中を殴られ傷が痛んだ。しかし、苦悶の声をあげてもヘスティア様はやめてくれなかった。

 

「危険な事はするなって、言ったのに」

 

 背中に額を押し付けるように倒れこみ、彼女は小さく私に言った。声は震えていた。

 

「……私は、謝りません」

 

 その覚悟を決めた。それで恨まれようとも、泣かれようとも、罵られようとも構わない。それは私が受けるべくして受ける罰なのだ。

 

「馬鹿野郎、誰が謝ってほしいもんか!」

 

 頭は背中にくっつけたまま彼女は大声でいった。背中に温かい何かが滴る。

 

「怪我をするな、なんて言わない。でももっと、もっと自分を大切にするんだ。僕のことはどうでもいい。僕はここで君たちの心配をすることしかできない、そういう存在だ。でもね、君が死んでしまったら心配することもできない。愛してあげることもできない。そんなのは、そんなのは嫌なんだ」

「……」

 

 私は答えなかった。分かったとも、次からはそうしますとも言えなかった。だってそれは嘘になる。真摯に私にぶつかってくる女神に、私は嘘など吐けなかった。

 

「いいんだ、答えなくても。分かりきっていたことだ。ぐすっ」

 

 私の背中から頭を上げ、彼女は涙を拭った。

 

「それでも僕は、君を僕の家族だと言い続ける。どれだけ僕が傷付いても、君の居場所であり続ける」

 

 もう涙など流していなかった。目の前にいる神は微笑んでいた。

 

「だって、僕は君の神様だ」

 

 身は軋み、心は叫ぶ。腹部の傷など比べようがない程の激痛が身体中を襲った。それでも、耐えてみせなければならない。こんなところで折れてしまってはいけない。

 

「ぐぅっ」

 

 息が吐けなかった。ごめんなさいという言葉を口から出さないように喉が塞がったかのようだ。

 

「ごめんよアゼル君。君が苦しむのを分かって言っている」

 

 それはお互い様だろう。そう、彼女に言ってあげたかった。でも、そうじゃない。そんなこと彼女は分かっているのだから。

 

「僕は、非道い女神(おんな)だろう?」

「はっ、どこが、ですか」

 

 やっと謝罪の言葉を飲み下し、弱々しい声を出す。こんなに優しい女神が他のどこにいるというのだろう。

 

「根比べだよアゼル君。君が折れるか、僕が諦めるか。まあ、僕は負けるつもりはないけど」

「望む、ところで、す」

 

 神との戦い、か。聖戦とでも言うべきか。でもこれは神聖なものなんかじゃない。ただ自分の望みを相手に押し付け、自分のわがままを通そうとする子供の喧嘩のようなものだ。

 

「言っておくけど、僕達(神々)の愛は重いぞ?」

「それぐらいが、相手としては丁度いいですよ」

 

 呼吸も落ち着いてきて、息苦しさもなくなってきた。ヘスティア様は私の背中を降りベッドの縁に座った。

 

「で、今回の顛末聞いていいかい?」

「ええ、始まりは三日前鈴音さんから新しい刀を受け取った事です」

 

 そうして私は17階層での情報にない能力を有していたゴライアスとの戦闘を語った。その事をヘスティア様も不思議に思ったようだが、取り敢えずその後の事を聞いてきた。

 

「18階層でロキ・ファミリアに所属するフィンさん達に出会い少々、いえ、すごくお世話になってしまいました」

「……またかい」

「ええ、だから、その」

「気付いているだろうね【勇者(ブレイバー)】なら」

「確実に」

「はあぁ……君はなんでそう厄介事にばっかり」

 

 眉間を押さえながらヘスティア様は盛大な溜息を吐いた。

 

「ロキにも知られただろうなあ、こりゃ」

「恐らくは」

「もう、本当に君がこんなことをしてくれなければこんなに心配事を抱えることもなかったんだけどなあ」

「うっ」

 

 泣き止んだヘスティア様は意地悪そうな顔で私にそう言った。私もどう答えていいのか、謝ることはできないので悩んだ。

 

「ふふ、ごめんよ。少し意地悪だったね」

「まあ、迷惑をかけている自覚はありますからいいんですけど」

「でも、君は心配しなくていい。心配するのは僕の仕事だからね。ロキも自分の眷属でもない君のことを他人に言いふらすような事はしないだろう」

「そうだといいんですけど」

 

 目の周りはまだ少し赤いが、ヘスティア様は確かに笑ってくれていた。それだけで何か救われたような気がした。

 

「それで、君が言った魔法のような斬撃についてだけど」

「……」

「魔法の欄には何も増えていなかったことから、それは魔法ではないことが分かる。でも、確かに飛ぶ斬撃なんて魔法でしか起こりえない現象だ」

「ですよね」

「そのことを踏まえて考えると、結論は一つしかない。信じられないことだけど、君は僕達神々が授ける【恩恵(ファルナ)】に頼らずに魔法という奇跡を起こしたってことになる」

「そんなこと可能なんですか?」

「分からない。でも、君のお腹の傷。気付いたらあったと言っていたけど、きっとそれは君が斬った傷だよ」

「私が?」

 

 そっと包帯の上から傷に触れる。もう殆ど塞がり、そっと触れれば痒い程度の痛みしか感じなくなっている切り傷。

 

「人の身で奇跡を起こすなんて本来は不可能なはずだ。だって君たちはそんな器じゃない。でも、もしそれを可能とする方法があって、本当にそれを実行したとしたら」

 

 ヘスティア様は私を見上げた。

 

「その神秘に耐えられず器は傷付く。下手をすれば粉々に砕けてもおかしくない。斬撃という属性が君の身体に馴染んでいたからこれだけで済んだのかもしれない。とにかくすごく危険なことだ」

「……器が足りないということは」

「そうだね、君が考えていることはたぶん当たっている」

 

 そう、器が足りないというのなら大きくすればいい。その方法を、手段を私はしっている。器の昇華、それこそがランクアップなのだから。

 

「でも、どれだけ器を昇華させたって君は僕達神にはなれない。絶対に何かを犠牲にしなければならない」

「そうですか……」

 

 今回は運良く倒れた時に冒険者が回収してくれたからいいものの、次あんな状況に陥った時も幸運が続くとは限らない。

 そもそも使い方が未だ分からないが、使えるようになったとしても極力使わないほうがいいだろう。諸刃の剣とは正にこれのことだ。

 

「で、その原因だけど」

「分かるんですか?」

「分かるも何も、その前に起きた変化なんて一つしかないだろう?」

「……まさか」

「君の新しい刀。鞘に入っていても禍々しい感じが伝わってくるよ。曰くつきとかじゃないだろうね?」

「…………」

「アゼルくーん?」

 

 思いっきり曰くつきである。話しかけてくる思念まで憑いている。しかも長い年月を掛けて血を啜ってきた刀だ。それだけで奇跡を起こすだけの影響を私に与えるかは分からないが、確かにゴライアスと戦う前後の違いと言えばホトトギスを使っているかどうかくらいだ。

 

「あ、あの」

「取り上げたりなんてしないさ」

「よかったあ」

「はあ、君って奴は。あ、ランクアップしたことは不用意に誰かに言うんじゃないぞ。確かギルドには報告しないといけないんだよな」

「そうらしいですね」

「はあ……たぶんランクアップの経緯も聞かれるんだろうね」

「だと思います」

 

 そう言って二人で深い息を吐いた。その直後にベルが帰ってきた。

 

「ただいま戻りました神様! ジャガ丸くん全種買ってきました! 揚げたてですよ!」

「ありがとうベル君ッ!!」

 

 そしてヘスティア様はいつもの様に入ってきたベルに飛びつくように抱きついた。あわあわと狼狽えているベルからジャガ丸くんの袋を受け取りヘスティア様を支援する。

 

 赤くなる親友。破顔しながら抱きつく主神。それを見ている私。そこには日常があった。

 

 ヘスティア様が真正面からぶつかってくれたおかげだろうか。罪悪感は薄れていた。

 

 所要期間、約一ヶ月。

 モンスター撃破記録、二三〇九体。

 Lv.2到達記録を無視するかのような早さでランクアップをし、前代未聞のレベル1で階層主単独撃破をした冒険者が誕生した。

 

 

■■■■

 

 

 次の日、私は鈴音さんに会いに行くことにした。流石のヘスティア様も私がこの体調でダンジョンに行くとは思っていなかったようで外に出る時何も言われなかった。行こうと思えば行けるが、流石に私も万全じゃない状態でダンジョンに行って死ぬなんて嫌なので行かないでおいた。

 

 そして会いに行くために大通りを歩いていると豊饒の女主人を通り過ぎる。それはいつものことなのだが、ランクアップしたからか更に鋭敏になった感覚があの女神の匂いを感じ取った。

 不審に思いながらも店の中へと入った。もしあの女神の眷属がいるなら確認したいこともある。

 

「いらっしゃいませ! アゼルさんじゃないですか」

「こんにちはシルさん」

「お席までご案内しますね」

「いえ」

 

 店内を見渡し、見つける。一番強い匂いを発している存在がそこにいた。カウンターの上に不自然に置いてある違和感ばりばりの本、ではなく、本から少し離れた二人がけのテーブルに座っている猫人(キャットピープル)の青年だ。

 

「連れがいますから」

「お連れ様ですか? えっと、どなたでしょう?」

「あそこに座っている猫人の人です」

「え、アレンさんですか?」

「ええ」

 

 そう言って私は彼に近付いた。路地裏で戦った時とは違い、今の彼には敵意など感じなかった。敢えて言うなら少し居心地が悪そうな感じだったが。

 

「こんにちは」

「あぁ? ……てめえは」

「お久しぶりですね」

「あっち行け」

 

 彼の言葉を無視して対面に座る。そうしたら思いっきり睨まれた。猫のようなツリ目は殺気とまでは行かないが威圧感があった。

 

「あ、名前はアレンさんでいいんですよね?」

「……何の用だアゼル・バーナム? 言っておくが、俺はお前が大っ嫌いだから、ふざけたこと言ったら殴るぞ」

「私何かしました?」

「……」

 

 アレンさんは何も答えなかったが、私を睨んできた。

 

「あ、シルさん。何か怪我に効きそうな飲み物とかあります?」

「怪我に効く……青汁とかでしょうか?」

「それは嫌ですね。まあ、じゃあ果樹酒をお願いします」

「お酒は身体に悪いと思いますよ?」

 

 そう言いながらシルさんは注文を承りカウンターへ飲み物を取りに行った。

 

「アレンさんは飲まないんですか?」

 

 アレンさんの目の前にはカップが一つ置いてあり、湯気を立てている。たぶん温かいミルクか何かだろう、猫人だし。

 しかし彼は一向にそれに口をつける様子がない。まるで何かを待っているような。

 

「なるほど」

「おい、待て。何がなるほどだ」

「いやあ、種族的な問題なので気にしない方がいいんじゃないでしょうか?」

「な、何のことだ?」

「アレンさんが猫じ」

 

 その瞬間、アレンさんの右腕が動いた。猫人としての爪を活かした刺突だ。しかし、手加減したのだろう。私にも見える速さだった。

 狙いは私の蟀谷くらいの高さ、頭にぎりぎり掠らない程度だ。だから、私は避けなかった。

 

「何か言ったか?」

「いえ、アレンさんが猫じゃらし好きそうだなんて言ってません」

「死ね」

 

 鋭く悪態を吐いたアレンさんは諦めて飲み物に息を吹きかけた。

 

「どうぞアゼルさん。って何かありました?」

「何もありませんよ。ありがとうございますシルさん」

 

 果樹酒を受け取り一口飲む。目の前の猫人はいつの間にか目を細めて私をじっと見ていた。

 

「どうかしました? 誰にも言ったりしませんよ?」

「お前、何をした?」

「質問の意味が分かりませんね」

 

 コップをテーブルに置いて向き合う。

 

「さっきの一撃、以前のお前なら絶対反応できない速さだったはずだ」

「そうだったんですか?」

「はっ、その反応を見ると普通に見えてたみたいだな」

「……」

 

 そしてアレンさんは口角を釣り上げた。

 

「とんだ化物だぜ、お前は。ま、俺としては報告することができてよかったがな」

「私からも一つ聞いていいですか?」

「あ? いいわけねえだろ」

「あの女神は」

「様を付けろ雑魚が」

 

 即座に反応したアレンさんの反応に忠誠心が表れた。殺気も先ほど私が猫舌と言いかけた時より出ていた。

 

「あの女神様は、私の刀に何かしました?」

「知るかよんなこと」

「そうですか……まあ、何か分かったらいいんですけど。ありがとう、とだけ伝えておいてください」

「はあ?」

「貴方のおかげでまた一つ己を知ることができた、と」

「……お前がやったことを報告するのが俺の仕事だ」

「ありがとうございます」

 

 その後、程良い殺気にあてられながら果樹酒を飲み干すのに十分程かかった。店を出て行く時リューさんに、何をしているんですか、と小言を貰った。

 

 それにしてもあの本、存在感が浮いていた。存在感があるのではなく、なさすぎた。特に匂いがまったくしなかった。近くまで寄って嗅いでみたが、古そうなのに古い紙の匂いもしない程匂いがしなかった。不思議だ。

 

 

 

 豊饒の女主人に行くという寄り道をしたが、私は予定通り鈴音さんの部屋へとやってきた。ドアを叩き鈴音さんを呼び出す。

 

「鈴音さん、いますか?」

「あ、アゼル?」

「はい、遅れましたがホトトギスの感想をと思いまして」

 

 そう言うとドアが勢いよく開いた。内開きだからよかったが、もし外開きだったら私に激突していただろう。

 

「ど、どうぞ」

「お邪魔しますね」

 

 そう言って部屋の中へと入り、備え付けの椅子に座る。そこまで広い部屋ではないので鈴音さんはベッドに座った。

 

「で、その、どうだった?」

「何と言えばいいのか」

 

 そう、感想を言いに来たのだが正直感想に困る。すばらしい刀だということはもう言ってあるし、今もその感想は変わらない。

 

「えぇと、すみませんが鈴音さん花椿という名前に聞き覚えはありませんか?」

「え? あ、あるけど」

「何なんです?」

「昔話に出てくる妖怪、えぇと、モンスターみたいなの」

「なるほど」

 

 それがただの作り話ではないということを私は知っているわけだが。

 

「そ、それがどうかしたの?」

「いえ、少し小耳に挟んで、なかなか特徴的な名前だなと思っただけです」

「そうだね。妖怪にしては綺麗な名前だよ」

「そうなんですか。それはいい事を聞きました」

「で、その、感想は?」

 

 もじもじしながら鈴音さんは聞いてきた。

 

「なんとお礼すればいいのか分からないくらい良い刀でした」

「お、お礼なんて別にいいよ。その、私の好きでやったことだし」

「流石に私もこれだけの一振りを無償で貰うわけにはいきません」

「じゃ、じゃあ。あのね」

「はい、何でも言ってください」

 

 上目遣いで私を見つめる鈴音さん。やっぱり狙ってやっているとしか思えない。

 

「いつかでいいから。ホトトギスを振るってる姿が見たい。強い敵相手に」

「それは、まあ不可能ではないですけど難しいですね」

「だ、だからいつかでいいの」

 

 なにせ私は一人で探索をしているので鈴音さんを連れて行くと必然的に一人守りながら戦わなければならない。今なら中層くらいはそれで行ける気がするが、中層の敵は私にとって強敵ではない。

 

「もっと無いんですか? お金とか。ホトトギスのためなら私は幾らでも稼いできますよ」

「お金は別にいいかな」

「いえ、お金も受け取ってください」

「う、うん」

「それでも足りないくらい良い物ですよ、これは。お金を出したからと言って手に入る刀ではないですから」

「そ、そう?」

 

 鈴音さんは首を傾げた。彼女は自分がどれだけの物を打ったのか分かっていないようだ。刀としても一級品、付加された能力も一級品の刀は本来何千万ヴァリスという値段で取引されるべき代物なのだ。

 それに加え、ホトトギスは特別な刀だ。鈴音さんという特殊な鍛冶師がいて、私のために刀を打つと想ってくれて初めて完成した一振りなのだから。

 

「じゃあね、今度でいいから」

「はい」

「一緒に出かけて欲しいです。あ、後名前も呼び捨てがいい、かな」

「分かりました鈴音」

 

 結局彼女が要求したのはそれだけだった。それ以降どれだけ、他にないのか聞いても、ないとしか答えなかった。




閲覧ありがとうございます。
感想や指摘などがあれば気軽に言ってください。

アゼルとヘスティア様の立ち位置を明確にする話でした。
最近書いても書いても話が進まないという悩みが。

一応アゼルは戦闘大好き人間ですが、人間はできている(つもり)。

何か幕間で書いて欲しいシーンがあれば活動報告にそれっぽいのを置いたので、そちらにに書いてくれると助かります。何もなければベルの過去回想あたりを書こうかと思ってます。

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