剣がすべてを斬り裂くのは間違っているだろうか   作:REDOX

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忍び寄る悪意

 ベル達四人は朝早くからダンジョンへと出掛けた。アルベラ商会からの冒険者依頼(クエスト)は14階層で石英(クォーツ)を採掘してくるもの。難易度の割に報酬金額が多く、怪しくもあったが、春姫さんの身請けのための資金集めに躍起になっているベルと命は皆を説得して冒険者依頼を受けることになった。

 【暴風化(ニンブス)】制御の訓練のダメージが抜けきれていないリューさんは本拠(ホーム)で留守番兼療養、残った面々の内唯一料理のできる鈴音は夕食の材料を買い出しに出掛け、ヘスティア様はやる気満々でバイトに行った。

 そして、私は曰く付きの指輪を買い取ってくれそうな唯一の知り合い、ヘルメス様に会いに【ヘルメス・ファミリア】に訪れていた。

 

 対面に座るヘルメス様は溜め息を吐きながら虹霓石(イリス・ラピス)の指輪を手にとって光にかざした。一度として同じ色を見せないと言われている石は光を受けて様々な色を映し出す。

 ヘルメス様の座っている長椅子の後ろに控えているアスフィさんが表情を引きつらせていた。

 

「にしても、君も良い性格をしている」

「ただ単に宝石類に興味がないだけですよ」

 

 皮肉を言うヘルメス様に私は素直に答える。売ったら許さないとは言われていないので特に問題はないだろう。寒気がするほど整いすぎた女神の表情を曇らせることは、若干の罪悪感があるが、そこが美の女神(フレイヤ)の質の悪いところだ。

 美しいものとは、無意識に愛でてしまいたくなるものだ。醜いものに大多数の者が嫌悪感を抱くように、美しいものとはただそれだけで受け入れてしまいたくなる。

 

「いや、そうじゃなくてね。これを売って身請けの資金にするんだろう?」

「ええ、そのつもりですけど……ああ、そういうことですか」

「【イシュタル・ファミリア】の一員を、フレイヤから貰った品を換金したヴァリスで買うというのは、なかなかの意趣返しなんじゃないかな?」

 

 女神イシュタルは、同じ美神であるフレイヤをこれでもかと言うほど敵対視している。その事実を知っていれば、確かに「良い性格」と言えるかもしれない。

 

「イシュタル様には知る由もないことでしょう」

「そういう事実が発覚した時ほど腹立たしいことはないと、俺は思うけどね」

 

 イシュタルを怒らせると面倒だぞ、とヘルメス様は忠告してきた。どうやら私がイシュタル様を怒らせたことはもう知っているらしい。

 

「まあ――」

 

 ひとしきり指輪を眺めたヘルメス様は、それを私に投げ返した。

 

「――流石の俺も、それを買い取るほどの度胸はないよ。フレイヤは、イシュタル以上に怒らせちゃいけない神だからね」

「そうですか、残念です」

「そんなこと、思ってもいないくせに」

 

 ただの思いつき、駄目で元々で来ていたのだ、大して感じるところはない。

 ヘルメス様も私が気にしていないことを察し、指摘してきた。だが彼は私の関心の無さを叱るでもなく、呆れるでもなく、楽しそうに笑っていた。それでこそ、そう言っているかのようだ。

 

「それはそうと、ヘルメス様。先日はベルが歓楽街でお世話になったようで」

「ああ、まさかの俺もあそこでベル君に会うとは思ってなかった。彼も年頃の男だったということだね」

「その上、身請けのことも教えて貰ったとか」

「悩める子供達を導くのも俺達神の仕事の一つさ」

 

 じっと、男神の目を見る。橙黄色の瞳には底知れない深みが映し出されていた。相手が何を考えているかなど読み取れるはずもない。相手は神で、私は人で、そもそも読心術めいたものなど習得していない。

 だが、私には目の前の神がろくでもないことを企んでいると本能が告げていた。

 

「ああ、分かるとも、分かっているとも。君は、俺を疑っている。何かしでかすんじゃないかと感じている。君は勘のいい子だからね」

 

 疑心の満ちた目で眺めていたのだ、ヘルメス様には私の考えなどお見通しだった。

 

「そうですね。流石に、出来事が歓楽街に集中しすぎています。そして、その多くに貴方が関わっている。貴方は何かを企んでいる、でもそれが何なのか私には見当も付きません」

「買い被りだよ。()()特に何も企んでなんていないさ」

 

 嗤っていた。ヘルメス様は肩を竦めながら嗤った。それは誰を嘲った笑みだったのか、少なくとも目の前の私やベルに対するものではないように感じた。ヘルメス様に限って、目の前の私にそう簡単に感情を晒すとは思えない。

 この男神は、企みの外にいる。盤上にいるのではなく、外からそれを眺めている。言うなれば、駒ではなく指し手。確かに、ヘルメス様は何も企んではいないのかもしれない。

 

「でも、そうだな、君になら良いか。今夜は満月――――」

 

 羽根付き帽子のつばを摘んで目が隠れるほど深く被り、笑みだけを見せながら楽しそうに言葉を紡いだ。

 

「――――とても楽しい、血の滾る夜になるだろう。願わくば、君の望みが叶うことを」

 

 それは、未来の予言だったのか、犯行の予告だったのか。ただ一つ分かったことは、目の前の存在がただの傍観者ではないということだけだった。

 

 

■■■■

 

 

「【剣鬼(クリュサオル)】に教えて、良かったんですか?」

 

 来客用に出していたティーカップを下げながらアスフィは己の主神に問うた。彼女とてヘルメスが何を考えているのか、聞いてはいない。だが、ヘルメスの起こす厄介事に毎度巻き込まれている彼女の本能は警鐘を鳴らしている。

 すなわち、何かとんでもないことが起こる。そして、自分の主神はそれに一枚噛んでいる。

 

「殆ど何も教えちゃいないさ」

「明確に今晩何か起こると伝えていましたが」

「そんなこと知っていてもいなくても変わりはしないくらいの情報さ。それに、どう転んだって面白くなる」

 

 アスフィは呆れを通り越して諦めの溜め息を吐いた。ヘルメスはいつだって自由奔放で周りの迷惑などお構いなし、無邪気にその好奇心を満たしていく。それは一度走り始めたら止まることのない自然現象のようなものだと、長年の経験でアスフィは知っている。

 

「それに、アゼル君は誰にも言わないし、何か対策を取ることもないだろう」

「……どうしてそう断言できるのですか? 彼とて【ファミリア】の一員、仲間に危険が及ぶと知れば、何か行動を起こすかもしれません」

「ないね」

 

 間髪入れずにヘルメスは再度断定した。アスフィを横目に、何を言っているのかと呆れているかのような小馬鹿にするような笑みを作る。

 

「それはない。君だって、そう思っているんじゃないのかい?」

「それは……」

「彼は目的のためなら危険を許容できるし、悪事を見過ごすこともできる、そういう人間だ。でも、それは彼が常識を逸した狂人だからじゃない。彼は常人の感性も持ち合わせながらも、目的のためなら狂人のような行動がとれる、とれてしまう」

 

 だから、たとえヘルメスの曖昧な言葉から真実に辿り着いたとしても、それを誰かに告げることはない。たとえ【ファミリア】に危険が迫っているとしても、己が引き起こしたものでなければ積極的には手を出しはしない。

 そんなアゼルがヘルメスにとっては限りなく都合が良かった。

 

「彼は己の血も他者の血も流しながら歩み続けることができる、醜くくも美しい人の子だ」

 

 だから、気に入っている。

 それでこそ、と思っている。

 脇目も振らずただ走り続けろ、そう期待している。人の域から飛び立ち、様々な柵を引き千切り、その翼で未だ誰もが至ったことのない空へと至れと、夢を膨らませている。

 

「嗚呼、待ち遠しい。早く、早く、俺に君達の輝きを見せてくれ」

 

 待ち望むは、新しく綴られる二つの物語の続き。

 英雄譚の次なる一遍、欲望蠢く不夜城攻略。そして、一振りの刃金が神を斬り裂く神話の創造――――神殺しの剣。

 

 

■■■■

 

 

 鈴音は軽やかな足取りで街を歩いていた。体調はすこぶる良く、心は未だ嘗てないほどに晴れやかだった。その理由は、気を失いアゼルに背負ってもらって帰還することとなった探索にあった。

 昨日の夕方帰ってきた時こそ身体の節々が痛みを訴え思い通り動くことができずにいたが、一晩経ってみれば嘘だったかのように身体は回復していた。そして、極めつけは今朝の朝稽古だった。

 

 鈴音は今朝、木刀を持ったアゼルに互角の勝負をした。たとえ、アゼルが鈴音の実力に合わせて加減していたとは言え、数日前の鈴音はやっとのこと追い縋ることしかできていなかったのだ。

 身体の動かし方、剣戟の先読み、間合いの取り方、剣士としての練度が急激に成長していた。

 

 アゼルはそれが【加護(エウロギア)】の影響であると確信した。

 ダンジョンでの戦闘では身体能力や《魔法》、果には剣技などの戦闘能力の驚異的な向上が見られた。言うなれば、【加護】は力ある存在への接続手段。鈴音という少女は【加護】を通じてアゼルに、アゼルの中の人非ざるホトトギス(怪異)に接続し力を得ていた。

 予想外だったのが、身体能力や《魔法》の強化とは違い、剣技が鈴音に定着している点だった。考えてみれば、剣技やそれに伴う足運びなどは身体操作の範疇、知識と経験によって培われるものだ。

 鈴音は鍛錬を積むという過程を飛ばし、その産物である技術だけを身に着けた。

 

 それは、成長でもなければ飛躍でもすらない――――変貌だ。

 英雄譚に登場する【加護】はその元が善なる存在であり、自らの意志でもって【加護】を与えた精霊だ。ホトトギスは炎の如く宿主を侵し、毒の如く蝕む外法の力。アゼルはその力を揺るぎない意志でもって御しているに過ぎない。

 アゼルの下を離れてしまえば、怪異は解き放たれたも同然の状態になる。

 

 それが危険な状態であると、鈴音も直感では分かっている。自分が自分でなくなる、知っているはずのない動きを知っているだけでなく自身で再現できるという違和感。

 だが、そんなことは数日前まで遊ばれていると言っても過言ではなかったアゼルとまともに打ち合える喜びに比べたら些細なものだった。

 

 そんなこともあり、街を歩く鈴音は誰から見ても上機嫌に買い物をしていた。今晩の料理担当は成り行きで鈴音になった。刀剣類をこよなく愛する鈴音だが、鈴音も一人の少女である。好きな男性に手料理を振る舞うという一大イベント、やる気が出ないわけがない。

 様々な食材が入った紙袋を抱えて歩く彼女は恋する乙女そのもの。

 

 後は本拠(ホーム)に戻って調理を始めるだけ、という時だった。彼女の脳裏を、何かが掠めた。それは、笑い声のようにも、叫び声のようにも、歌声のようにも感じられた。だが、音ではない。その証拠に鈴音以外の存在は立ち止まりもしない。

 鈴音は立ち止まり、辺りを見渡す。その視線が捉えたのは一つの路地だった。

 

――こっちへ

 

 声でしかなかった感覚が、言葉へと変化した。誘うように、路地の奥からその感覚が鈴音を引っ張る。

 

――同胞よ

 

 一歩一歩、引き摺られるように鈴音は路地へと足を踏み入れた。

 まだ日は照っているというのに、その路地は薄暗く、ひんやりと涼しく、現し世から切り離された幽世のようだった。人を寄せ付けない雰囲気、生物であれば無意識の内に忌避してしまう死の気配が漂う。

 

――力を

 

 聞き覚えのある声に、ふと鈴音は我に返った。だが、遅すぎた。

 真紅の影が路地の奥から襲いかかり、抵抗する間もなく壁に押さえつけられてしまう。圧倒的な死の気配、ひんやりとした肌、そして何よりもその肌の下を流れる血に宿る熱。

 覚えがある、なんてものではない。それは、自分が成り果てかけたものであり――そして、この世でただ一人だけに許された力だ。

 

「なん――」

「アハッ、貴方はとっても美味しそうねッ!」

 

――よこせ

 

 何故、そう口から漏れた言葉が終わる前に鈴音の意識は途絶えた。彼女が最後に感じたのは、鋭利な歯が首筋を突き破った痛みだった。

 

 

■■■■

 

 

 【ヘスティア・ファミリア】の本拠、竈火の館で主神であるヘスティアはそわそわしながらリビングを右往左往していた。その様子を眺めていたリューはヘスティアに落ち着くように言う。

 

「神ヘスティア、貴方がそうそわそわしていると私まで落ち着きません」

「し、仕方ないだろう! 心配するなって方が無理な話だ! ()()()()()()帰ってきてないんだぞ!」

 

 始まりは買い出しに出掛けたはずの鈴音が帰ってこないというものだった。その時はまだヘスティアも今ほど心配はしていなかった。鈴音には鈴音の交友関係があり、何か引き止められているのだろうと、思っていたのだ。

 だが、余りにも遅いということでヘスティアはアゼルに探してくるようにと行かせた。

 

「アゼル君が帰ってこないなんて……」

「それこそ、心配することはないと思いますが」

「何を言っているんだい君は! あのアゼル君が帰ってこないんだぞ!? 絶対に何か厄介事に巻き込まれているに決ってる!」

 

 ヘスティアのなんとも言えない断定をリューも完全に否定することはできなかった。戦闘においてアゼルは無類の強さを誇るが、そもそも事ある毎に戦いに巻き込まれている、もしくは巻き込まれに行っているアゼルが異常なのだ。

 

「こうしちゃいられない。ボク達も探しに行こう」

 

 今までアゼルが遭遇してきた厄介事には大抵後手に回っていたヘスティアは、今回こそ事後報告ではなく自らが解決へと乗り出そうとした。ソファから立ち上がり出掛けるために玄関へと向かった。

 

「ついでにヘファイストスのところにも寄って、何人か団員を借りれないか聞いてこよう。リュー君は入れ違ったら厄介だから留守番を――」

 

 リューへの指示を言い渡そうと振り向いた矢先、荒々しく玄関が開かれ、中へと誰かが転がり込んでくる。

 

「ヘスティア様!!」

「サ、サポーター君!? それにヴェルフ君まで!!」

 

 それは今朝方ダンジョンへと探索に出掛けたはずのリリとヴェルフだった。二人だけしかいないことへの疑問がヘスティアの頭に浮かんだが、そんなことよりも先に二人がボロボロであることに気が付く。リリのバックパックは破れ中身がこぼれ、ヴェルフの太刀は罅割れ、身体は擦り傷や切り傷だらけ。

 リューは一瞬驚きで固まるが、直ぐ様綺麗な布やお湯、包帯を取りに部屋から出ていった。ヘスティアは動き出したリューにつられて我に返り二人に駆け寄る。

 

「ベル様と命様がッ!!」

「すまねえヘスティア様……」

 

 傷と疲労を癒やす時間も惜しんで遁走してきた二人は立ち上がることができず膝立ちのまま、リリは駆け寄ってきたヘスティアに縋り、ヴェルフは俯きながら悲痛な表情を浮かべた。

 

「な、何があったんだい? こんなに傷付いて。それにベル君と命君は……」

「ベルと命は、攫われちまった……」

「攫われたぁ!?」

 

 ダンジョンだからモンスター絡みの問題かと思っていたヘスティアは驚愕する。攫われたということは、冒険者相手のトラブルということになる。

 誰に、という質問をヘスティアが投げかける前にリリがその正体を明かす。

 

「突発的なものではありません。恐らくアルベラ商会からの依頼も仕組まれたもの。そして、襲撃者は全員戦闘娼婦(バーベラ)でした。彼女達は――【イシュタル・ファミリア】はベル様を狙っていたんです。命様はそれに巻き込まれて」

 

 またしても美神かとヘスティアは苦虫を噛み潰したような顔をする。ベルとアゼルは共にフレイヤという美神にちょっかいを出され、今回はベルがイシュタルに攫われる始末。アゼルがイシュタルに喧嘩を売ったことをヘスティアはまだ知らない。

 

「【イシュタル・ファミリア】ってことは、ベル君の居場所は――」

「歓楽街にある【イシュタル・ファミリア】のホーム、女主の神娼殿(ペーレト・バビリ)でしょう」

 

 救急用具を持って戻ってきたリューがベルがいるであろう場所を言う。手慣れた様子でリリとヴェルフの傷を診て、適切な処置をしていくリューを手伝いながらヘスティアは何をするべきか考えていく。

 だが、予想外の情報に冷静さを失うことになる。

 

「恐らくですが、アゼルもそこにいるかと」

「……はい?」

「数日前に神イシュタルに会い、彼女と何かしらいざこさがあったことを示唆していました」

「……」

 

 何をしてくれているんだと、ヘスティアは心中で嘆いた。だが、何かがおかしい、違和感が残っている。タイミングが良すぎる、アゼルのいざこざとベルの誘拐、関係がありそうで関係がないような、すっきりしない感覚。

 繋がっていないわけではないはずなのだ。だが、どこで何が繋がっているのかが分からない。そもそも最近【イシュタル・ファミリア】関連の出来事が起きすぎている。アゼルがイシュタルに会いに行った理由も、ベルが狙われる理由も思いつかない。

 

「リュー君、悪いけどタケミカヅチとヘファイストスのところまで行ってくれるかい?」

「承りました」

「その後は、君はアゼル君を頼むよ」

「しかし」

「こっちはボク達でどうにかするから。むしろアゼル君の方が何かやらかしかねない」

「……ありがとうございます」

 

 感謝を述べてからリューは治療をヘスティアに任せ、出掛ける準備をするために自室へと走り去っていった。

 ヘスティアの指示に、リリもヴェルフも文句は言わなかった。だが、本音を言ってしまえばリューにもベルの捜索を手伝ってほしかった。アゼルのことを心配していないわけではない。だが、ベルを捜索するメンバーでは戦力的に不安が残る。リューは正に一騎当千の冒険者、実力だけでなく色々な場面での判断力も備えた戦士だ。

 それを承知でヘスティアはリューをアゼルの下へと送り出した。縛り付けてはいけないと、もしアゼルに救いの手を差し伸べる存在がいるとするならそれはリューしかいないのだと信じているから。

 リューが開け放ったままの扉を見ながら、ヘスティアは自分の祈りをリューに託した。

 

 

■■■■

 

 

『今宵、地獄の底、彼岸の花園で死合ましょう』

 

 地面に散乱した食材、そして壁に血で残されたメッセージ。乾ききっていない血液が重力に引かれ地面へと垂れている。具体的な時間と場所の指定もない招待状。受取人である私ですら分からないのだ、見る人が見れば、なんてこともない。

 だが、それでも問題はない。

 

「聞こえていますよ、ハナ」

 

 頭の中に直接響くような歌声、聞こえるはずのない距離で紡がれている歌が相手の居場所を示す。その歌を聞いた途端、殺意が身体を巡り疼きが止まらなくなる。

 何故、なんて問は浮かびもしない。ハナが何者なのかすら把握していないのに、相手が存在していることすら許せない。

 

「決着を付けようじゃないですか。今度こそ、貴方を殺してみせよう」

 

 空は黄昏から宵闇へと変わっていく。漲る力を開放して一思いに路地から飛び上がり建物の屋根へと登る。歌声の響く先はオラリオ南西、迷宮区とも呼ばれ地上のダンジョンと称される区画――ダイダロス通り。

 欠け一つない月が夜を照らす中、私は駆け出した。




閲覧ありがとうございます。
感想や指摘等ありましたら気軽に言ってください。

 戦闘員、各員がアップを始めたもよう。
 この次の話で今回の連続更新は最後となります。毎度毎度良いところで止まるので、今回はなるべく早く更新できればいいなあ、と思っています。

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