【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました 作:ちびっこ
朝早くから雲雀に起こされ、優はあくびをしながらバイクの後ろに乗っていた。
「ついたよ」
声をかけたのに、一向におりる気配がない。仕方なくもう1度声をかける。
「……おやすみなさい」
この状態のまま寝ようとする優に雲雀は溜息を吐いた。雲雀の腰に手をまわして寝ようとするのは優ぐらいだ。……そもそも優以外は許さないが。
「後で眠ってもいいから、今はおりて」
「はぁい」
素直に返事をし優はおりた。眠いが、本気で寝る気は無かった。
「ん? お花見ですか?」
目をこすりながら、周りの景色をみて雲雀に問いかける。
「そうだよ。せっかくだからこのあたりの桜並木一帯を貸切にしたんだ」
(もう、そんな時期か……)
立ち止まっていた優の手をとり、雲雀は進んでいった。
桜の木にもたれながら、優は膝の上で眠っている雲雀をみていた。
(この花見で雲雀先輩は桜クラ病にかかるんだっけ……。そのせいでボロボロになるんだよね? でも雲雀先輩が倒されないとツナ君が強くならないし……)
「……どうして泣いてるの?」
「へ?」
言われてポタポタと雲雀に涙がかかってると気付き、慌てて服のスソで顔をふく。
「す、すみません。あまりにも綺麗で感動しちゃってー」
ムクリと起き上がり、雲雀は優の手をとった。
手をとられたことで、ポロポロとまた涙が落ちる。
「あれ? なんで?」
ポタポタと落ち続ける涙に優は不思議そうに首をひねった。そして、涙を流しながら笑った。いつもと変わらない笑顔で。
「ごめんなさい。止まらないみたいです」
我慢できず雲雀は優を引き寄せていた。泣きそうな顔を見たことがあるが、泣いてる姿を見るのははじめてだった。
泣くほど我慢ができなかった時に、そんな顔をするなんて知らなかった。
「雲雀先輩、どうしたんですか?」
なぜか抱きしめられてるので優は雲雀に問いかけた。普通の状況ならば、優は恥ずかしがっていただろう。だが、今は泣いていた。だから慰めようとしてくれてるのはわかり、恥ずかしい気持ちにはならなかった。
しかし、優はこのような慰め方をしてもらった覚えがない。不思議でしかなかった。
「雲雀先輩?」
優の頭に手をまわし、雲雀は優の顔を肩に押し付けた。
「汚れちゃいますよ?」
「いい」
「でも制服ですよ?」
「いい」
肩に広がる冷たさから涙が止まっていないことがわかる。
「甘えていいよ、君なら良い」
「大丈夫ですよ」
「甘えなよ」
「えっと……じゃぁどうするんですか?」
不思議そうな声から冗談ではないとわかる。かくいう雲雀も甘えたことがないので優の質問に困った。少し悩んだ末、今の優が雲雀にすれば安心することを言った。
「……僕の背に手をまわせばいい」
恐る恐るだが、伸ばされていく手に雲雀はホッと息を吐く。
「僕は君が泣いても怒らないから」
「……はぃ」
「肩ぐらいなら、いつでも貸すよ」
「……ありがとう」
背にまわしている手が服を掴んでることに雲雀は気付いた。
「だから、無理に笑わなくていい」
ハッとしたように、優は背にまわした手を離し、雲雀の肩を押し距離をとった。
「ありがとうございます、雲雀先輩。もう大丈夫です」
「……どこが?」
辛うじてそれだけは言えた。選択を間違えたと気付いたからだ。
「大丈夫ですよー」
未だ涙が止まっていないのに。
「僕にウソつくの?」
「……私、ウソつきなんです。今まで雲雀先輩にいっぱいウソをついてますよ」
これで嫌われちゃったなぁと笑う優の目からは涙が零れ落ちている。
「うそつきでもいい。それにさっきの言葉は僕が……」
「雲雀先輩!!!」
雲雀の言葉を遮るように優は叫んだ。悲鳴に近い声だった。
「明日……明日はいつもみたいに笑っています! だから、今日はこれで勘弁してください」
一瞬だけ見せた歪んだ顔。それが、今の優を精一杯だった。
「……わかった。送るよ」
「1人で大丈夫ですよ」
袖で涙を拭って、優は笑った。目から涙はもう流れていない。
「ごめんなさい、雲雀先輩」
走っていく姿を雲雀は黙って見送るしかなかった。
優が去った後、気付けば雲雀は素手で桜の木を殴っていた。
「っ」
謝ってほしかったわけじゃない。笑ってほしかっただけだ。……無理にではなく。
「……誰? うん、誰でもいいや」
騒がしい声に反応し、雲雀は動き出した。誰でもいいから、咬み殺したかった。
そこで出会うDrシャマルに「かー、花見に来て機嫌が悪い男がいるとか嫌になるぜ。女にでも振られたのか?」と言われ、咬み殺すまで後少し。
雲雀と別れた優は、泣きながら走っていた。あのまま優と別れた雲雀が誰かに八つ当たりする可能性が高いとわかっていた。桜クラ病を発症させるために置いていったのだ。
「ごめんなさい、雲雀先輩」
背に回した手の感触が今も残っている。あんなに温かい慰め方を知らない。
「ごめんなさい。ごめん、なさい」
笑い方もわからなくなった。どうすればいいのかもわからない。ただ、涙が流れる。
「誰か、助けて……」
手を伸ばしたところで、誰かいるわけでもない。みんなあの場所にいる。だが、言わずにはいられなかった。このままでは折れてしまう。
「大丈夫?」
声をかけられたことに驚き、顔を見ようとしたが涙で見えない。女の人ということしかわからない。ヒクッと喉を鳴らし、袖で手を拭きながら首を振る。
「つらいことがあったのね」
「笑い、方が、わから、なくて。つらくて、も、今まで、笑えたのに」
「私も辛いときは笑って、独りの時によく袖を濡らすわ」
優自身なぜ見知らぬ人に話してるのか、わからなかった。誰かに聞いてほしかっただけなのかもしれない。
「でも、む、りに、笑わなくて、いいって」
「誰かに言われたの?」
「う、ん。うれし、かった、の。いつでも、肩、かして、くれる、って」
「あなたを大切に思ってくれる人がいるのね」
さらに涙が出る。その雲雀を置いていった。
「大丈夫よ。その人はあなたを許してくれるわ」
「でも……!」
「大丈夫」
勢いよく涙を拭う。声をかけてくれた人の顔をちゃんと見たいと思ったから。
「あなたに渡したいものがあるの」
そういって優の手に箱を握らせた。カチリと音が鳴り、箱が勝手に開く。
「やっぱり、あなただったのね……」
「い、いらない! こんな指輪いらない!」
優は必死に拒否した。雲雀を傷つけ帰ってる途中で、なりたいと思っていないマフィアの証である指輪を渡されたのだ。皮肉でしかない。
「本当は、あなたを連れて行こうと思っていたの」
その言葉に、優はユニを成長させたような人の顔を見た。
「でも、私はあなたの未来がはっきりと見えない。私ではたいした力になれないの。だから、あなたを大切に思ってくれる人の側にいた方がいいわ」
「……いいの?」
「ええ。その代わり肌身離さず持ってて」
優は指輪……マーレリングを受け取った。
「このリングが少しは役に立てばいいのだけど……ごめんなさい、わからないわ」
「……もうあなたからいっぱいもらったから大丈夫」
渡されたリングが役に立たなかったり、面倒なことに巻き込まれても、優は恨まない。それどころか良い思い出として覚えているだろう。
「……そう。じゃぁ気をつけてね」
「あ、あの! 困ったとき、言ってください」
慌てて優はケイタイを取り出す。連絡先を交換しなければ、助けることも出来ない。
「ダメよ。それをすればあなたを連れて行くのと一緒になるわ」
「で、でも!!」
「大丈夫」
優はケイタイを持っていた手をおろした。いくら優が言っても交換しないと気付いたから。
「……ごめんなさい」
「そういう時はね、ありがとうって言うのよ」
そういって優の背中を押した。
「ありがとう! 本当にありがとう!」
1度振りかえり手を振れば、手を振ってくれた。
優は走った。雲雀のことを思えば、また涙が出たが、どこを走ってるのかはわかった。
家に帰り顔を洗ってソファーに座ると景色が変わる。
真っ白で何も無い場所。いつもここで優は修行する。初めて神と出会った場所とは違うらしいが、優には違いがわからない。死んだ記憶がないので、いつも修行する場所だと判断した。
「神様?」
『おう』
優から少し離れた場所に神はいた。
「今からするの……?」
毎日の積み重ねは大事だとわかっているが、今日はやりたくない。
『今なら、届くと思ってな』
ドカッと神は腰をおろした。修行ではないらしい。
『俺はお前についてる神様だ』
「うん?」
『何が起きても俺はお前の……優の味方だ。この世界が壊れても、だ』
「でも1回で終わらせたいって言ったよね?」
この世界を元に戻すのを優で終わらせたいと言ったのではないのだろうか。
『それとこれは話が別だ。だが、それは話せない』
「……わかった」
『話せないことは多い。俺の思惑で動いてることもある。その内容も言えない。だけど、これだけは言える。俺は優のために動いてる。俺は優に幸せになってほしいんだ』
「私が幸せに?」
『ああ』
神は1度も優から目を逸らさなかった。だから優は言った。
「ありがとう、神様」
『まだそのセリフは早いと思うが……まぁいいか。今すぐ寝ろ。それが今日の修行だ』
ガシガシと頭をかきながら神は言った。ぶっきらぼうだが、心配してくれてるのは伝わった。
「ありがとう、神様」
景色がまたかわる。自分の家だ。
何もかも後回しにし、優はベッドに潜る。
恐竜の人形に抱きつき、涙を流す。いつの間にか、優は眠りに落ちていた。
優の涙を拭おうとして手を伸ばす。だが、寸前のところで手を引く。
「情けねぇ……」
そう呟いた後、再び優に手を伸ばす。そして、頭を撫でた。少しでも起きた時に元気になることを願って。
しばらくすると玄関が開く音が聞こえ、時間切れと悟る。
「もう、か……。はえぇんだよ」
文句をいいながら、消えていった。
カチリと扉が開く。扉を開けたのは雲雀だった。
優の寝室だが、雲雀は気にすることなく入っていく。ベッドの上に腰をおろし、顔を覗く。
「…………僕はもう君を手放す気はないんだ」
そっと涙を拭う。これ以上、泣かないように瞼に唇を落とす。
優が目覚める直前まで、雲雀は優の側から離れることはなかった。