【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました 作:ちびっこ
優の悪いところと言えば、精神的な弱さが真っ先にあがるだろう。間違ってはいないが、それは正確ではない。弱いというより、優はまだ子どもなのだ。理想ばかり追い求めている。
誰も傷つけたくないとは聞こえはいいが、現実的には不可能だ。それに真剣勝負をしている相手からすれば、優の考えは侮辱しているといっていい。戦いが嫌だと思いながらもツナが拳を振るうのは相手のことを本当に考えているからだ。相手と向き合い戦おうとしない優は本来なら戦う資格さえないだろう。しかし不釣合いな力があるせいで、戦いに参加できた。
そして、ほんの少し。ほんの少しだけ雲雀と一緒に居ることで、止めてはいけない戦いがあることを理解し始めた。雷戦に手を出さなかったのはそれが理由だ。
それでも優はまだ理想を追い求めた。その結果、敵に塩を送り掴んでいたワイヤーが斬られた。
ツナ達が叫んでいるが、これで死んでしまっても優が悪い。これは戦いなのだから。今まで敵に塩を送っても問題なかったのは、自分に余裕があったからだ。
「浮いた!?」
この戦いで制限をとくことになった原因は全て優にある。理想を求め、敵を助けるにはそれ相当の余裕がいるのは必然なのだから。
「赤ん坊じゃないのに……?」
おしゃぶりから輝きだす光を見て、ツナは疑問の声をあげた。今まで会ったことがあるアルコバレーノは赤ん坊だったからだ。そしてリボーンは共鳴し光りだした自身のおしゃぶりを見て全て悟った。
驚いている人物達を尻目に、優は仕方がないという風に息を吐いていた。チェルベッロの言動で袋をとるはめになる可能性があるとわかっていたのだから。しかし本当は優の理想の中で1番優先度が低いものだったからに過ぎない。あらゆるものを天秤にかけた結果が、制限をといただけだった。
“……悪かった”
ポツリと呟いた言葉はいったい誰に対して。優の視線は対戦相手にもツナ達にも向けられていない。
“ずっと僕の力になりたいと思っていたんだな”
無意識に雲雀の手に力が入る。優は風と話をしていると気付いたからだ。距離が縮まったはずなのに、その姿はどこか神秘的でまだまだ遠いと思わせるのだ。
雲雀の気持ちに気付かず、優の言葉に反応したように肌を撫でるような風を感じ、優は笑みをこぼしていた。強すぎる力を怖がり、優は今まで一度もおしゃぶりの袋を外したことがなかった。そのため風が優の力になりたいと思っていることを知らなかったのだ。
いつまでも風と過ごしていたいが、生憎時間はあまり残されていない。優は対戦相手に目を向ける。対戦相手の刀の性能より優の力の方が上だ。一向に刀に風が集まらない。焦っているように刀を振るっている相手に優は声をかけた。
“風は僕の味方だ。僕を傷つけようとはしない”
制限をといた場合だけど……と心の中で続ける。実は先程の突風を受けて、優は気になることがあったのだ。この場で堂々と弱点を晒すつもりはないので黙っているが。
“君にはあのリングは使いこなせない。風を操れる僕だから使いこなせるんだ”
風を操れると証明するかのように、優は手のひらの上で竜巻を作り出した。そして唖然としている相手の武器を風で奪い、竜巻の中に放り込む。綺麗に折ったわけではないのでバキっという鈍い音が響いた。
優は自分達の都合とはいえ、悪いことをしたなと思ったが、風にも意思があると知った優は無理矢理集めるような武器は自分が壊すべきだと思った。
武器を壊された相手にもう出来ることはない。そもそも優が助けなければ、突風の影響で死んでいるのだから。早く終わらせるべきだろうと優はリングを奪うことにした。
カチリと音がし、リングが1つになる。あっさりすぎる勝利である。
しかしこれは必然でもあった。風は見えないのである。いつの間にかリングを奪われ、見えているリングに手を伸ばしても風に阻まれ触れることさえも出来ないのだから。
「モスカ、やれ」
予想していたことなので、軽く溜息を吐くだけで優は対戦相手への攻撃を風を操り軌道をそらす。
“どうしてもやりたいのなら、僕が相手になろうか?”
シンっと静まるのは驚きより恐怖なのだろう。自然の力を使っているというのはランボとレヴィも同じだ。だが、決定的な違いがある。2人とも触媒とするものがある。優の場合は全くないのだ。つまり災害レベルの技を自由に生み出せることができることを意味する。アルコバレーノというだけでは説明できない。アルコバレーノの中でも異質なほどの強さなのだ。
静まる中、フォローしようとするディーノよりも先に口を開いたのはXANXUSだった。もっとも笑い声だったが。優の力を気に入ったのだろう。
「チェルベッロ! もう勝負はついたはずだ!」
ディーノの声にチェルベッロは互いに頷き、ヴェントの勝利を宣言する。
「風のリング争奪戦はヴェントの勝利です」
ふわりと浮かびながら、優は組み立てられていた鉄筋を突風で破壊した。もちろん外で見ていたツナ達に被害がないように鉄筋は風で全て隅の方へと運ぶ。
対戦相手も一緒にトンッと地面につく。問答無用で連れてきたのだ。
“君はどうする? 彼らところに戻るか? それとも保護してほしいか?”
優は対戦相手のことを思い、声をかけたのだが腰を抜かしてしまった。対峙していたからこそ、何も出来ないと理解しているのだ。
“……ディーノ、彼の保護頼めるか?”
この有様ではヴァリアーのところへ戻っても、用済みと思われると判断したのである。
「まかせろ」
ディーノが部下に指示を出した後、優に向き合った。
「お前はもう休め」
“……助かる”
家に帰る時間がないと判断した優は、ディーノの言葉に甘えることにした。途中で倒れる方が問題だからだ。アルコバレーノのおしゃぶりを袋に入れた途端、優は膝から崩れ落ちる。
驚いてるツナ達を尻目にディーノは優の身体を支えた。
“思ったより、これは辛そうだ”
「わかったから無理して話すな。ロマーリオ!」
息が上がってる優に、ディーノは諭すように言った。そして、優を見ててくれとロマーリオに声をかけた。なぜ任せたのかというと、優がフラついたことでベルとモスカがやってきたからだ。
「何がどうなってるのー!?」
ムチを取り出し臨戦態勢に入ったディーノを見て、ツナは声をあげた。
「簡単なことだぞ。ヴァリアーがヴェントを狙ってるんだ」
ツナはハッとした。試合に勝ったことでヴェントはもう決定している。
「同盟の件で勝負に手は出せねぇが、こいつに手を出すなら話は別だぜ。こいつはオレのファミリーの一員だ」
ピクリと反応したのはXANXUSだった。ボンゴレと同盟を組んでいながらも、次期ボス候補であるXANXUSの意向に真っ向から反抗したのだ。同盟の中心にいるボンゴレは何にしても優先される。元々、XANXUSがボスになればツナに肩入れしていたキャバッローネの立場は危ういものだった。にもかかわらず、XANXUSがボスになった場合、敵対するとこの場で宣言したのだ。宣言したディーノがこの意味をわからないはずがない。
「違う。僕の獲物だ」
「おまえなぁ……」
とても重要なことを宣言したにも関わらず、雲雀にはどうでもいいという反応をされディーノは肩を落とした。もちろん今からヴェントをめぐって戦闘が始まる可能性があるので警戒をとくことはなかったが。
「いってぇ!」
リボーンに背を蹴られ、ツナは情けない声をあげながら振り返った。
「何するんだよ、リボーン!!」
「ツナ、お前も行け!」
「え? でも、ディーノさんとヒバリさんがいるし……」
2人が居れば、問題ないとツナは思ったのだ。
「本当に行かなくていいのか? 一生後悔するぞ」
ツナはジッとリボーンの顔を見た。本気だと気付いたからだ。
「わ、わかった」
ツナは慌ててディーノ達と並ぶように前に出たのだった。
優を庇うように立ったツナを見て、優は泣きそうになった。2人と違い、ツナは何も知らない。それに……と優は視線を向ける。死ぬ気のツナではなく、普段のツナが立っているのだ。リボーンに発破をかけられたとしても、普段のツナが前に立つことは滅多にあることではない。
「お待ちください。ここで戦えばリング争奪戦の意味がありません」
チェルベッロの声に優は我に返る。泣きそうになってる場合ではない。
“……チェルベッロ、まだ決まってないんだ。ここは……僕の意思を尊重してくれ”
頷いたチェルベッロを見て、優は言葉を続けた。
“僕は、沢田綱吉側にいる”
「わかりました。ヴェントをめぐり戦えば、ヴァリアー側の失格となります」
げっ!っとベルは声をあげた。優は大事なところでは流されない。頭がいいこともあり、ルールの隙をついてくる。
「ボス、こいつ強いの?」
ベルの純粋な質問だった。モスカの実力を知らないベルは、雲戦の勝負にかけるしかないのだ。
「雲の対決でモスカが負けるようなことがあれば、全てあいつらにくれてやる」
「それってヒバリさんが……」
「ししし」
XANXUSの強気な発言にベルは嬉しそうに笑い、優に手を振りながら下がりXANXUSと共に去っていった。
ムカついた雲雀は、トンファーをしまって歩き出す。
「邪魔」
「いでっ」
優の前に立っていたツナを軽く突き飛ばし、優を支えているロマーリオをにらみつけた。ロマーリオはひるむことなく年寄り臭く、若いなぁと苦笑いした。
「おんぶと横抱き、どっちがいい?」
“以前の僕の発言に対する嫌味か?”
自力で立つことも出来ない優は、力なく笑うしかない。優の言葉に返事をすることもなく、雲雀はロマーリオから奪いとった。
“……僕は君を横抱きにしなかったはずだぞ”
「力が残ってない君が悪い」
グッと言葉に詰まる。ロマーリオが補助してくれなければ、力のない優を背負うことは難しいだろう。そして雲雀がロマーリオの補助を受けるはずがない。
はぁと軽く溜息を吐き、優は雲雀に任せた。動けない自分が悪い。
雲雀が歩き出すと、誰も近づきはしない。物珍しいことに驚いているのか、優の力が怖いからなのか。後者と判断した優は下を向いた。
「……ちょっと待ってください! ヒバリさん!」
ツナの声にピタリと足を止めたが、振り向くことはなかった。慌ててツナが雲雀の前に立つ。
「1位の……じゃなくて、ヴェント。ありがとう」
真っ直ぐな好意を受け取り、優は見えない位置で雲雀の服を掴みながらもツナに向かって言った。
“君は、僕が怖くないのか?”
「オレさ、思ったんだ。ヴェントなら怖くないって。ヴェントだから怖くないんだ」
“……ほんと、君は”
途中で止めた言葉にツナは不思議そうな顔をしているだけで、本当に何もわかっていない。
“お手上げだ。僕は君には勝てそうにない”
ツナが理解していないとわかっていたが、雲雀はもう十分だろうと判断し歩き出す。
「ヒバリさん、ヴェントのことお願いします!」
言われるまでもないが、ツナを咬み殺すこともなく雲雀は学校を後にした。