【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました 作:ちびっこ
優が去った後、すぐに昼休みのチャイムが鳴る。しかし、誰も弁当に手をつけようとしない。この後の恐怖を考えるとほとんどの者が食欲が失せてしまい動けないでいるのだ。
ツナもその中の1人。事情を知っていて、この中で唯一優を止めれる可能性があったツナは雲雀に咬み殺される確率が高すぎた。
「……ヒバリに伝えた方が、やっぱりいいよな?」
確認するように山本が呟いた。クラスのムードメーカでもある彼の表情も優れない。いくら天然であったとしても、雲雀がキレた時は手が付けれなくなると彼は理解していた。それでも持ち前の安心感からなのか、徐々に彼の周りにクラスメイトが集まってきている。
逆に、誰も寄せ付けない人物もいた。机の上を指でトントンと鳴らし、いかにもイライラしているとわかるので誰も近づこうとしないのだ。ただ心配からくるイライラなことを考えると、自身の行動でかなり損をしているタイプである。
そんな中、教室の一角で異様な盛り上がりを見せているところがあった。ほとんどの者が恐怖で食欲を失せてる中、彼らは興奮のしすぎで食事をすっかり忘れ語り合っていた。
「オレは今まで風早さんは並盛に現れた天使だと思っていたんだ……」
「魔王を止めれるのは神の使いぐらいじゃなきゃ無理だもんな」
わかるとしみじみと頷きあう男達。恐ろしいことに強ち間違いではない。
「それが、まさか……姫だったなんて……!」
「並盛の姫か……。いい!!」
「いーや、天使だ!」
「天使より姫の方が守ってあげたくなる感じがしないか?」
「姫より天使の方があの笑顔にはピッタリ当てはまるぞ」
もめているようにも見えるが、彼らは笑顔だ。なぜなら新たなる派閥が増えたことに対しては誰も文句はない。そんなことは彼らの中では些細なことだ。なぜならどっちが似合うかと言い合ってるだけで、根本は同じである。そして自分の中ではもう答えが決まってる。ただ語り合いたいだけだった。
「ねぇ、姫って何?」
「いやさ、さっきの時間に王子と名乗る男が風早さんを連れて行っ……」
他のクラスからの質問だと思い、軽い調子で教えようと振り返って固まる男。
熱弁していた男が急に静かになると、不思議と注目される。すると、波が引くかのように静まっていく。
「……最期に何かある?」
「風早さんは姫ではなく、天使だと思い……がっ!?」
男は散った。ちなみに雲雀の方が相応しいと言っているようにもとれるが、彼は何も考えていない。ただのバカだった。
「君達、わかっているよね?」
彼の声は響いた。バカな男達とは無関係だと装っている人物達に突き刺さる言葉だ。雲雀は誰も逃がすつもりはなかった。
バタバタと倒れていくが、雲雀の機嫌は一向に良くならない。むしろ悪化し威力と速度が増していく。それでもツナを前にした時、動きが止まる。
「あ、あの……」
恐怖で青ざめながらもツナは何か話そうとしているが、上手く言葉にできない。そんなツナを雲雀が何秒も待てるわけがない。……否、初めから待っていたわけではなかった。ツナが飛ばされた距離から察するに威力を溜めていたようだ。
ツナが飛ばされたことにより獄寺がキレるが、男の怒りを抑えることが出来ずになす術もなくやられる。そして山本も獄寺と同じような目にあった。
数秒後、教室で立っているものはもう女子しか居ない。これは女子だから見逃されたというわけでなく、ただ単に目に入るのが体格の良い方だったという理由である。機嫌の悪さが頂点に達している雲雀は女でも容赦しない。
その雲雀がある女子の前で、振り下ろそうとしたトンファーがピタリと止まる。彼のどこかの記憶に引っかかったのだ。
ボクシング部の部長の顔が出てきたが、すぐさま違うと結論に至る。彼にとって動きを止めるほどの理由ではない。かといって、他の理由はすぐに浮かばない。
そして彼が動きを止めたことによって、その女子を庇うように前に出た女子にもトンファーを振ることが出来ない。本能的にそれはまずいと感じているのだ。しかし理由がわからない。
ジッと観察していると、着信音が響く。ほんの少し気が削がれたことで、雲雀はポケットにあるケイタイへと手を伸ばす。
「今取り込み中だよ」
それでも不機嫌な声である。当然だ。雲雀の恋人が連れて行かれたのだ。
『す、すみません! また後でかけなおします……』
ツーツーと続く機械音。先程の声は連れて行かれたはずの恋人のものだった。
「…………」
気を取り直すかのように、一度トンファーをしまう。そして電話をかけた。
『もしもし? もう大丈夫なんですか?』
「……優、今どこにいるの?」
『あ。誰かから聞いたんですね。えっと、飛行場です。もうすぐ出発で……』
時間が無いと伝えたいのだろう。だが、雲雀が納得できるはずがない。
「ダメだよ」
『でもちゃんと説明しないと何度も来ると思うんですよね。それなら早く済ませてしまおうかと』
嫌々ながらも飲みこむしかない。今回のように常に雲雀が側にいるとは限らない。こういう時のための地下アジトはまだ完成してはいないのだから。
『……ダメですか?』
ここでダメと言い張ることが出来ればどれだけ楽なのだろうか。雲雀の手の届く範囲から離れた今、下手なことを言えばもう帰っては来ない。
「……わかったよ。僕は待ってるから」
『はい! すぐに用を済ませて帰ってきますね!』
仕方がないように雲雀は息を吐く。雲雀が待つと言えば声が弾んだのだから。
『あ、あの……雲雀先輩』
「なに?」
『ベルさんが私のことを姫って呼んだから変な噂がたつかもしれないけど。わ……私は雲雀先輩が好きですっ……!』
以前と違い、恥ずかしそうなのは自然に出たものではなく、どうしても雲雀に伝えたかったからなのだろう。その顔を見れないのが非常に、非常に残念だが雲雀の機嫌が戻っていく。
「知ってるよ」
『はいっ! あ、そうだ。お弁当食べてくださいね。私の分は草壁さんがよければどうぞ、と』
「……わかった」
草壁ならば、転がっている人物と比べることもなく、優の手料理を食べてもいいと雲雀は思えた。……渋々だったが。
『では、行ってきますね?』
「待ってるから」
『はい! 必ず戻ってきます!』
通話を終えた雲雀は優の荷物を探す。
「優のなら、そこよ」
「そう」
優のカバンなどを持った後、雲雀はチラリと声をかけた人物をみる。先程、了平の妹をかばった女子だった。
「……君、名前は?」
「く、黒川花よ」
名を聞いて納得したように雲雀は頷いた。優の口から何度か聞いたことがある。恐らく一緒に歩いているところを見て記憶の片隅に残っていたのだろう。だから動きが止まった。ツナならまだしも、この女子達に手を出せば優は許さないだろうと。
納得した雲雀はこれ以上興味がない。優の荷物を持って、教室から去っていった。
その後、事件の全容を見た女子が優の温情で助かったとしっかりと理解したため、優は更なる人気を築くことになる。
言うまでもないが、当然この事件について誰も口にしなくなる。雲雀の耳に入ればどうなるかはわからない。手を回すこともなく、緘口令を敷いたのだった。
……余談になるが、妙なファンクラブは、風早さんは天使という結論で落ち着いた。もちろん雲雀が恐ろしかったからである。
並盛から約十数時間後。雲雀が暴れたことや渋々許可したことを察しないまま、優はイタリアに到着していた。
んー!っと優は身体を伸ばす。プライベートジェットのため、気楽に過ごすことは出来たがイタリアまではやはり遠い。身体がなまった気がする。
そして飛行機から降りたら降りたで、高級車が待ち構えている。といっても、ヴァリアーのアジトまではもうすぐなのだが。
「姫、しんどくねぇ?」
「大丈夫です。変装する必要がないぐらい気をつかってくれてましたし」
優は笑って問題ないと手を振る。並中から飛行場に移動するまでの間に、並盛に隠してある変装道具に着替えたが、ヴェントのフリをする必要があまりなかった。白昼堂々とベルはやってきたが、機密なので並中以外のところでは手をまわしていたのだ。
「でも眠ってなかったじゃん」
何度か瞬きを繰り返す。ベルは気持ちよく眠っていたように見えたが、優の動きは感じていたらしい。さすが暗殺部隊の一員である。
「実は普段は何か抱かないと眠れないんですよねー」
「へぇ。姫って不器用なんだ」
「んー、どうなんでしょう。切り替えれば、寝れますよ? でもピリピリすることになるので、あまり好きじゃないんです」
照れたように優は笑った。出来なくはないがする必要を感じず、更にかなり疲れてしまえば何かを抱かなくても普通に眠れる。もっと言えば、ヴァリアーのアジトはホテル並みの部屋なので、枕が2つ置いてある。つまり飛行機の中で無理して眠るのではなく、優はアジトで枕を抱いてゆっくりと眠るほうを選んだのだ。
「寄り道しようぜ」
「へ?」
いきなりなぜ?と首を僅かに傾げている間に、ベルは運転手に指示を出していた。ヴァリアーの者なので、優の命令を聞くとは思えない。そのため優はベルの顔色を伺う。
「問題ねーって。すぐ終わるしー」
XANXUSに怒られるほど寄り道する気はないようなので、優はベルに任せることにした。
10分ほどすると目的地についたのか、フラッとベルは車を降りた。優はフードをかぶり、見るからに怪しいので車の中で待機である。
程なくして、ベルは片手にそこそこ大きな袋を持って帰ってきた。
「買い物だったんですか?」
ベルは笑いながら袋を優の膝に置いたので、荷物もちとして落とさないようにしっかりと持つ。
「思ったより軽いですね。何が入ってるんです? あ、言いたくなければ言わなくていいですよ!」
「ん? それ、姫の」
「ええ!? お、お金……!」
「いらねーって」
慌ててサイフを出そうとする優を動きを止めるために、ベルは袋から取り出す。
ひょこんと目の前に現れたウサギの人形に優は釘つげになる。そして、サイフから手を離し恐る恐る人形へと手を伸ばし抱きしめた。
「か、可愛いです!!」
嬉しそうにぎゅうぎゅうと抱きしめてる優の姿に、ベルは笑う。
優が我に返った時にはもうヴァリアーのアジトにつく直前だった。いつもならばすぐに復活するのだが、ベルも優に声をかけることはなかったので1人で楽しんでる時のようになってしまったのだ。
ベルの視線を感じ、優はカーッと頬が真っ赤に染まる。いくらなんでも子どもすぎる反応だ。雲雀にならまだしも、ベルに見せるつもりはなかった。
「……なかったことにしてもらえませんか?」
「ん? なんで?」
「怒られるから……」
「誰に?」
あれ?と優は何度も瞬きを繰り返す。この世界では怒る人を思い浮かべることが出来ない。優は子どもっぽい一面を見せたとしても、雲雀は呆れるかもしれないが怒ることはない。ツナが怒る姿は想像できない。ディーノにいたっては、微笑ましく見ていそうだ。
この世界では誰も優から無理矢理取り上げたりはしない。
「つーか、姫はまだ小さいじゃん」
ベルと優では2歳しか変わらないが、ベルが年上ということには変わらない。さらに自由人のベルが言ったからこそ、優は子どもでもいいんだと素直に頷くことが出来た。同じ年上でもディーノが言ってもこれほど効果はなかっただろう。
そしてこれは雲雀には出来なかったことでもあった。雲雀は誰よりも優に早く大人になってほしいと願っているからだ。もちろん歪な形で成長していたことに気付いている。だが、ゆっくりと待つことは出来ない。いつまでも我慢できないことは雲雀自身が1番分かっている。そのため雲雀に甘えさせることで補おうとしたり、ツナ達を利用しているのだ。
努力も空しく、ベルの一言で遠ざかったが。
「……ベルさん、ありがとう」
優が嬉しそうに人形を抱きしめた姿に満足したのかベルが笑いながら車から降りる。優は軽い足取りでその後姿を追いかけた。
雲雀さん、ドンマイw