【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました 作:ちびっこ
ケイタイの着信音に優はモゾモゾと動く。目覚ましの音ではないので、まだ布団から出る気はないのだ。それでもケイタイを見るのはツナからと思っているから。未だ優のケイタイに登録しているのはツナだけなのだ。
「……なんだ、ツナ君じゃないや」
見知らぬ番号からだったので、容赦なく電話を切る。そして、再び眠り落ちる。
しかしすぐに着信音が鳴る。チラッと確認し、ツナからではないとわかれば、今度は放置だ。しばらく鳴っていたが留守番サービスに繋がったのだろう、電話が切れる。
数秒後、またも鳴り始めたケイタイ。さすがに優は手を伸ばし、電話に出る。
「もしもひ」
寝ぼけすぎで噛んだ。これは酷い。
『やっと起きたみたいだね』
「え? は、はい! ……ひゃあああ!?」
聞こえた声で一気に目が覚めたのはいいが、慌てて起き上がったのが悪かったのか、ベッドから落ちる。
『……大丈夫かい?』
「な、なんとか……」
フワフワと浮きながら優は返事をする。身体を打ち付ける寸前に、風が間に合ったのだ。
「えーと、雲雀先輩ですよね……?」
『そうだよ』
あれから目が会った時に何度か目で屋上に来いと言われ膝枕はしていたが、ケイタイ番号を教えた記憶はない。
(風紀委員怖っ!! マジで怖っ!!)
「あの……なんで番号を知ってるんですか?」
無駄な質問な気もしたが、知ってて当然というのも変な話なので優は聞いてみる。
『僕だからね』
(答えになってない!)
「……そうですか。それで用件は何です?」
ゴッソリと気力を使った気がした優は、早く話を終わらせることにした。
『鮭でお願いね』
「はい?」
『頼んだよ』
次に耳から聞こえたのは機械音。つまりもう繋がっていないことを意味する。
「えーーー!? 切られたし! 意味わかんないし! ってか、鮭って何!?」
ツッコミの嵐である。しかし声に出したことで、少し気の済んだ優は雲雀の言葉を考えはじめる。
「……もしかして、今日のおにぎり実習?」
雲雀ならば、授業内容を把握してる可能性がある。さらに雲雀は「鮭で」と言った。他の選択は許さないとも取れる。
「うん。いくら雲雀先輩でも鮭を丸ごと持ってこいとは言わないよね」
自分の考えは間違ってないと頷く。答えがわかりスッキリである。
「……なんでやねん!」
優のツッコミレベルがあがった。
優はトボトボと歩く。慌てて冷凍庫にあった鮭の切り身を解凍して、朝っぱらから焼くことになり、いろいろと疲れているのだ。
「優、おはよ」
「……ツナ君、おはよ」
「どうしたの? なにかあった?」
優はこのタイミングでツナと雲雀が出会ってるのかわからないので、口ごもる。
「……ツナ君、ごめん!!」
「え!? どうしたの、優」
「あのね、今日のおにぎり実習、ツナ君にあげるつもりだったのに、無理になっちゃったんだ……」
優は肩を落とす。予定ではビアンキが去ってから、こっそり渡そうと思っていたのだ。
「え!? 気にしなくて大丈夫だよ!!」
京子からは無理かもしれないが、優からは絶対に貰えると思っていたツナはショックを受けていたが、優の落ち込みを見れば態度に出すことは出来なかった。
「……こんなことになるなら、弁当の準備しておけば良かった」
「オレは気にしてないから」
「うぅ……ツナ君、ごめん。それに、ありがとう」
少し元気の出た優に、ツナは安心する。そのため心の余裕が出来、周りの様子に気づいてしまった。いったい誰に渡すつもりなのか聞けと視線が飛んでいることに。
「ち、ちなみになんだけど……誰に渡すの?」
「……風紀委員の人」
サッと目を逸らしたクラスメイトを見て、ツナは納得したと勘違いし、深く聞くのを止めたのだった。
ワイワイと楽しい雰囲気の中、優は1人溜息を吐きながら、おにぎりを握る。
「ちょっとは元気を出しなさいよ」
「……花」
「まっ気持ちはわからなくはないけどね」
「聞いていたんだ」
ツナとの会話が聞こえていたと優は思ったが、実際は違う。噂になり、嘆いてる男子が数多く居たから知っているだけなのだ。向かっていく勇気も無い男子のために、わざわざ教えるつもりはないので、黒川はそのまま流す。
「沢田に頼んでみたら? 一緒に行って付き合ってるとか言えば、諦めるかもしれないわよ」
黒川の提案に必死に首を振る。ツナにそんなことをさせるわけにはいかない。
「……もし付き合うように言われ時はどうするのよ」
「ないないない! 群れるのダメだし!」
「それもそうね。雲雀恭弥が許すわけないか。持っていくときは気をつけなさいよ?」
(その雲雀恭弥に持っていくんだけど……。どうやって気をつければいいの?)
危うく喉から出そうになった言葉を優は飲み込んだ。言ってしまえば、黒川がどんな反応をするのかわからない。
「雲雀さん?」
「あれ? 京子ちゃんって、知ってたんだ」
雲雀の名に反応した京子に優は声をかける。優の記憶の中ではあまり関わってるイメージがなかった。
「うん。お兄ちゃんがよく話してるよ」
「へぇ……」
(守護者になる前から、雲雀先輩と京子ちゃんのお兄ちゃんは仲が良かった?みたいだねー)
「京子にはお兄さんがいて、2年生でボクシングの主将をするぐらい強いのよ」
「うーん、京子ちゃんからはあんまりイメージ出来ないね」
もちろん、本音である。
「後でケイタイでとった写真見せるね」
「……そうよ! あんた、ケイタイ番号教えなさいよ!」
「じゃ後で交換しよっか」
作り終わるころには2人の笑顔に優は癒されていたのだった。
家庭科教室の前で優は京子と黒川を見送り、とりあえず教室から離れるように歩き出す。
(どこに持っていけばいいのかな。屋上? それとも応接室? でも私は応接室が風紀委員の部屋って知らないことになってるよね?)
しばらく悩んでいるとポケットから震えを感じ、ケイタイを開く。
(雲雀先輩からだし。……エスパー?)
授業内容を知ってると予想しているが、半分本気でそう思いながら通話に出る。
「もしもし?」
『応接室に持ってきて』
再び機械音。言うだけ言って、切られたのだ。
(……行きますよ。行けばいいんでしょ……)
若干、恨みながら優は応接室に向かう。
無事に応接室の前まで来たのはいいが、優はノックをすることを躊躇する。
(果たし状をたたきつける道場破りの気分だ……)
深呼吸を繰り返し、気合をいれ扉を叩く。
「どうぞ」
雲雀の声ではなかったので、草壁なのだろう。2人っきりじゃないだけ、ましだと優は判断し、そーっと扉をあける。
「失礼します……」
優の姿を見た草壁は驚いた顔をする。「どうぞ」という言葉から誰か来るのは知っていたが、優だとは思っていなかったらしい。
「やぁ。来たね」
「……はい。これどうぞ」
「そっちのは?」
もう1つのおにぎりセットを見ながら雲雀は言ったので、優は守るようにおにぎりと水筒を隠す。昼ごはん抜きは避けたい。
「これは私のです。では、私はこれで」
雲雀が座ってる机の上におにぎりを置けば、優はすぐさま扉の方へ向かう。早く出て行きたいのだ。
「待ちなよ」
(まだ何かあるの!?)
恐る恐る振り返る。もう取り繕う余裕もない。
「ここで食べなよ」
(……はぁーーーー!?)
絶叫の嵐である。優は助けを求めるように草壁を見るが、「ソファーをおつかいください」と勧められる。味方がいない。
「……失礼します」
拒否できない優は、観念したようにソファーに腰をかける。
(こうなったらやけだ! 食べてやる!)
「いただきます!」
パンッと手を叩き、優はおにぎりに手を伸ばした。
モグモグとおにぎりを食べていると、やはり喉が渇く。優は水筒に手を伸ばし飲もうとしたところで、視線を感じ手を止める。
「…………」
ジッと雲雀が優の水筒を見ていた。
「……あの、コップありますか?」
「はい」
(ちくしょう! あるのかよ!)
草壁に助けを求めれば、すぐに湯飲みが用意される。受け取ってしまった優は、お茶を注ぎ、雲雀の元へ持っていく。
「雲雀先輩、どうぞ」
疲れた優は、先程よりペースをあげて食べる。一刻も早く食べ終わりたい。だが、雲雀のお茶がなくなると再び視線を感じ、お茶を注ぎにいく羽目になる。さらに優の食べるスピードより雲雀の方が早く、結果優だけが食べている時間が出来る。気まずい。
「……ごちそうさまでした。では、失礼しますね」
返事を待たずに優は動き始める。が、そう上手く行くわけもなく、雲雀に「待ちなよ」と声をかけられる。
「草壁、僕は屋上にいるからね」
「……わかりました」
まさか……と優は冷や汗を流す。今は昼休みでここから一緒に屋上へ向かえば必ず人目に付く。草壁も優と同じことを思ったようだが、雲雀を止めることは出来ない。
「行くよ」
声をかけられたが、歩き出さそうとしない優をみて、雲雀は腕を取る。
(のぉぉぉぉ!!)
雲雀にズルズルと引きずられ、泣きそうな顔をしている優の姿を見たという嘘か本当かわからない噂が流れた。