【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました 作:ちびっこ
空を飛んでいた優は、京子と黒川の姿を見つけた途端、急降下する。その際にヒバードが服の中から飛び出していたが、優は気にする素振りは見せなかった。このまま上空を旋回するのだろうと思ったのだ。
当初の予定ではヴェントの服装が怪しいこともあり、出来るだけ2人を脅かさないように合流したかったが、そうも言ってられない。2人は気付いてないが、近くにミルフィオーレが居るのだ。敵は2人。もう京子達は見つかっているようで、1人は警戒し、1人は資料と照らし合わせているようだ。
急降下することで、操れる風に余裕が出来た優は木を揺らした。もちろん、京子と黒川から正反対の位置にある木を。
木を揺らしたことで、敵は意識が向いたところで優の重力を活かした一撃が頭上から入り、1人が倒れる。
「な、なんだ!?」
残った敵の驚く声を聞きながらも、優は風をつかって普通ならばありえないような方向転換を空中で行う。そのまま風で勢いをつけ、顔面に蹴りを入れる。
そのまま何事もなかったように、優は地面に降り立った。
“リングに頼りすぎだ”
呆れたように優は呟いた。この時代ではリングの力で戦いが決まる。それは間違いない。間違いはないのだが、使いこなす相手が弱ければ一流の相手には何の意味もない。もちろん奇襲を仕掛けたというのもあるが、相手が強ければ優の攻撃は簡単に防がれていただろう。奇襲の対応は地力の差が出るのだ。実際、以前にスクアーロは優が屋上から急降下している途中で気付き反応した。もし相手が途中で反応していたなら、優は躊躇うこともなくリングを使っていた。今回は必要がないと判断したのである。
手応えから急所に入っていたので、優はゆっくりと振り返った。そこには真っ青な京子と黒川の姿があった。2人の動体視力では何が起きたのかわかっていない。わかっていないからこそ、目の前に立っている人物に恐怖を抱くのだ。
沈黙が続く。京子と黒川は逃げるという行為が無意味だと肌で感じていた。一方、優は下手に声をかければ、怯えさせてしまうと判断し声を出せなかったのだ。
その重い空気をぶち壊すかのように、ヒバードが優の頭に乗った。
「……あんたが、ヴェント……?」
“ああ”
「花!?」
腰が抜けたように黒川が座り込む。比較的冷静なタイプの黒川は逃げきる手をずっと考えていたのだ。光を見出せなかった中で、目の前にいる人物が敵ではないと知れば、脱力してしまうのも仕方が無いことだった。
“すまなかっ……”
謝罪の途中で口を閉じ、優は京子と黒川の隣に立つ。一瞬の出来事に目を見開いた2人だが、驚く声をあげる間も無く、少し離れた場所から爆発音が響き渡る。
「な、なに!?」
“いいから離れるぞ”
質問は後だという口調に黒川は口を閉ざし、立ち上がろうとする。が、一度抜けた腰がそう簡単に戻るわけもない。想定内だった優は黒川を抱き上げる。神に腕力はおさえてと頼んでいたが、長時間は無理でも抱き上げるぐらいは出来る。そもそも風をつかえば、軽減するのは簡単だ。
「ちょ、ちょっと!?」
“君は歩けるか?”
「うん」
黒川の言葉は無視し、優と京子は話を進める。爆発音は獄寺かもしれないが、この場から今すぐ離れた方がいい。先程の音で敵がよってくるだろう。当初の予定では、獄寺達に2人を預けるつもりだった。しかし、残念ながら先に獄寺達が敵と出会ってしまった。そして合流しようにも黒川の様子からして一般人である2人にはこれ以上は荷が重すぎる。
“こっちだ”
迷う素振りもなく、優は歩き始める。どこか目指しているわけではない。ただ人が居ない方へと進んでいるだけ。優の目的はただの時間稼ぎで、狙いは雲雀との合流だ。京子の歩調では無理は出来ない。
“……この時代は君達が想像しているよりも危険だ”
優の言葉に2人は下をむく。
“僕は……実力はあるし、ある程度の勝算があると思って動いてる。それでも、心配をかけているんだ。君達にもそういう人がいないのか?”
「ごめんなさい……」
「……私達が間違っていたわ」
“帰ったら真っ先に沢田綱吉達に伝えればいい。沢田綱吉に怒られれば、くるものがあるからなぁ”
まるで経験をしたような言葉に、京子はジッとヴェントを見る。
「ツナ君と仲良しなんだね」
京子の言葉に優はフッと表情を緩める。それを感じ取ったのか、黒川と京子は目を合わせる。フードで顔を隠しているが、怖い人ではないと確かめ合うように。
“……悪い、おろすぞ”
ピタッと足を止め、丁寧に優は黒川をおろした。そのことにほんの少しドキドキしながらも、黒川は歩けそうかを確認しながらヴェントに声をかけた。
「もう大丈夫よ。それでどうかしたの?」
“……心配しなくていい。君達は守るよ”
出来るだけ、出来るだけ優は安心させるように言った。それでも内容が内容だ。2人の顔が強張る。
もちろん優は手を打っていた。風で気配を読みながらも、素人である2人の気配を出来るだけ消した。が、気付かれてしまった。戦闘回避はもう不可能だ。気付かれたということは、相手は手練れなのだから。迷わず優はリングを嵌めた。
バチバチという音と共に、空から1人の男がやってくる。
「これはまた……珍しい奴が居たな」
ほんの一瞬言葉を失ったγの態度に優は眉をひそめる。が、すぐに気にしなくなった。γの視線が優の後ろにいる2人に向いている。
「お前の女か?」
“可愛い子達だろ?”
あえて優はγの軽口に乗った。優と一緒にいるところを見られた時点で、否定しても一緒だ。だったら、会話して少しでも時間を稼ぐ。そうすれば、味方が来る。4人の気配が近づいていることに優は気づいていたのだ。風で声を拾ったのでツナ達に間違いはない。
「まずは本物か確かめさせてもらう」
匣に炎を注入し、γの周りにビリヤードの球が現れる。そして躊躇なくヴェントではなく、京子達に向かって球をついた。
すぐさま2人を抱え、ジャンプする。危険なものには近付かないというのが優の考えだ。しかし空中に浮くことを待っていたかのように、γは残っていたビリヤードの球をついた。
真っ直ぐと優に向かうその球は避けることが出来ない一撃。両手は塞がっていて、匣を開けることは不可能だ。炎でガードしようにも、2人を抱えた状態では困難。
γはジッと見ていた。このまま殺れれば、手間をとったと思うだけ。だが、もしこれを避けることが出来れば、本物だ。ヴェントは誰よりも速い。捕まえることが出来ない存在というのは、ウソや噂ではなくなる。
バキバキと倒れていく木を見た後、何事もなかったように地面に降りたヴェントを見て、γは短く息を吐いた。
“すまない、手荒なマネをして”
どこが、だ。思わずγは心の中でツッコミした。ヴェントをしっかりと見ていたからこそ、γは気付いていた。ただの石ころに軌道をそらされたことを。
優がやったことは単純だ。京子達を抱えてることから、前に手を出してリングの炎で防御することはできない。仮に負担をかけてやったとしても、雷の性質は硬化。さらにバチバチと音が聞こえることから、触れれば感電するかもしれない。そうなってしまえば、2人は耐えれない。同じ理由で避けるのも困難。それなら、逸らしてしまえばいい。優は近くにあった石を風で浮かせ、迫ってくるビリヤードに勢いよく当てた。もちろん、その途中でリングの炎を浴びせるのは忘れずに。
風の性質は加速。風の力がで勢い良く飛んでいた石が、加速によって更なるスピードがあがり、等しく威力もあがった。その威力はビリヤードの起動をそらすだけでなく、元凶となる球まで壊すものだった。そしてそれだけでは飽き足らず、木々まで倒して行った。
結局、優はただ2人を脇にかかえて、ジャンプしかしていない。最低限の負担で済ませたのだ。
「流石、最強と呼ばれたアルコバレーノと、言ったところか……」
アルコバレーノと言ったところで、ユニの顔を思い浮かべたが、γはすぐに消した。他のことを考えながら勝てる相手ではない。
“恐れをなして、逃げてもいいぞ?”
「いや、楽しくなってきたところだ」
“どこが楽しんだか……”
はぁと溜息を吐きながらも、匣から刀を出した。戦闘嫌いという噂は本当だったかとγはヴェントに目を向ける。もうスキが見当たらない。刀に手をそえ、完全に戦闘態勢に入っている。迂闊に近寄れば、斬られる。
「それほど後ろか大事か」
スキが出来れば、儲け物だった。だが、余裕がなくなったのγの方だった。後ろから首元にナイフをつきつけられている感覚がする。まるで背後に死神が迫っているかのように。息が、詰まる。
「っ……!」
γはその場から飛び退き、深呼吸を繰り返す。どっと汗が流れた。
“……気づいたか”
仕方なそうに刀にそえていた手を離し、新たに匣からスケボーを取り出したヴェントを見て、どこから仕組まれていたとγは考えを巡らせる。そして、ある疑問を抱く。本当に後ろの2人は大事だったのか、と。
息がしにくくなり、ハッとしたように再びγはその場から飛び退く。
“……はぁ、めんどくさい”
そういって、ヴェントは刀を抜いた。先ほどまでは近寄れば斬られるなら、遠距離攻撃をすればいい。あの2人をずっとかばってはいられない。そう思っていた。その結果、息が出来なくなった。
空気がなくなったから。
嫌な汗がγの背をつたう。風は幻術と違って、当たり前に存在するものだ。どこに罠を仕掛けているのか、全くわからない。γ自身、常に動いてなければ、先程のように息ができなくなる。迂闊に近付けば、殺られるかもしれない、見えない風による攻撃によって。遠距離攻撃の意味はもうほぼなくなっている。そもそも、どの攻撃も悪手に思えてくる。
ヴェントが後ろの2人を大事と判断したからこそ、勝機はあった。誰よりも速いと言われているヴェントが動けないのだから。
“……今も楽しいか?”
ゾクリと悪寒が走った。……楽しいわけがない。戦いにすら、なっていないのだから。
このまま死んでたまるかと、悪あがきを仕掛けようとしたところで、γの頭上からダイナマイトが降ってくる。何の変哲もない攻撃なので、γはヴェントから目を離さず避ける。
「ヴェント!? 京子ちゃん、黒川!!」
そこに現れたのは、4人。そのうち3人は幼いが、γの記憶ではボンゴレ10代目とその守護者で間違いない。そしてホッとしたようなヴェントの様子に思わず呟いた。
「……やられたな」
全部ただのハッタリだった。そう簡単に空気を無くすことは出来ない、またはリスクがあったのだろう。恐らく2度目はほんの少しだけ空気が減っただけだ。そしてヴェントはあの2人から離れることはできなかったのだ。
息が上がったことで、思いのほか考えを鈍らされていたらしい。
「ぐっ」
スケボーによるヴェントの急接近に、γは受身を取るしかなかった。3人を見て、ヴェントも幼くなっていると思い始めたところに一撃である。刀にきっちりと炎を纏っていることで、またわからなくなった。
“彼女達を連れて行くんだ。こっちは僕が何とかする”
「で、でも……」
「オレ達に任せろってな」
「10代目、オレがやります。任せてください! オレ1人で大丈夫です!」
ツナが迷いを見せ、ラルが一喝しようとしたその時……。
“優先順位は誰だ!”
ハッとしたようにツナは京子と黒川の顔色を見る。
「ヴェント、無茶だけはしないで!」
コクリと頷いたのを見て、ツナは京子と黒川を連れて駆け出した。
「てめぇらも10代目と一緒に行け。オレ1人で十分だ」
「共闘とか初めてだな!」
「ふざけたことを言ってる場合か! 気をぬくな!」
1人で突っ走りそうな獄寺と能天気そうな山本の言葉にラルは一喝する。全員でかかっても勝ち目があるか……勝ち目があるとすれば……とラルはヴェントの背中を見る。
“君達も行け。……君達を守りながら勝つほどの余裕はない”
一瞬、獄寺が文句を飲み込んでしまうほどの、優の気迫。残ったとしても足手まといと自覚するしかなかった。それでも、獄寺と山本にとって優は守るべき存在だ。優を置いて逃げるなんて出来るわけがない。
動かない2人を見て、優はフードの中で苦い顔をした。獄寺達の気持ちもわかるが、本当に勝ち目が少ない。刀に炎を纏うぐらいは出来るが、先程使った感覚では才能がある優でさえ、すぐにスケボーを乗りこなせるイメージが出来なかった。ただ真っ直ぐにしか進めないだろう。それでも上手く誤魔化せば2回は使える手だった。その手を捨てて、優は逃げろと言ったのである。獄寺達が動いてくれなければ、ただ自分で自分の首を絞めただけだ。
場数を踏んでいるγは当然先程の発言を聞き逃すわけがなかった。迷わずγの匣兵器である狐のコンビ、エレットロ・ヴォールビを出し、ツナ達をしとめるようにと指示を出した。
迷わず優は唯一持ってある武器である逆刃刀を炎を纏わせて投げた。属性の加速によって、一匹に迫る勢いだったが、アニマルタイプなこともあり、寸前で交わされる。だが、それでも十分だ。元々、ツナ達の位置がわかるように風をある程度だが、纏わせていた。その集めていた風をつかって動きを止める。いつまでも止めれるものではないが、その時間があれば、少し離れた位置にいた獄寺の攻撃が間に合う。
その結果、炎が消し飛び匣へと戻る。
風がなければ嵐は起きないという意味もあるのか、獄寺とベルは武器の性質上、風を操れる優に一撃を入れるのは困難である。だが、優が味方でサポートにまわれば、恐ろしいほど化ける。1人で突っ走る嵐の獄寺を素直に止めれることが出来るのは大空であるツナを除けば優しかいないであろう。それほど風と嵐は相性がいい。……事実、誰かと組むのを嫌がっていたはずの獄寺が優の行動を読んで、誰よりも早く反応し動き出していた。
獄寺が素直に組んだこともあり、元々全員でかかるつもりだったラルと山本はそれを合図に動き出す。
初手はラルがムカデの匣兵器であるスコロペンドラ・ディ・ヌーヴォラを出し、γへと仕掛ける。ツナが捕まったように炎を放出してもらえれば楽だが、相手はこの時代の戦い方を知っているγである。基本、匣兵器を近寄せる前に手を打ち、ビリヤードの球で弾く。
そのスキに山本が近づき刀で斬りかかる。だが、山本の刀は炎を纏っていない。決定打にもならないし、γと武器を交えることさえ危険だ。山本の刀は空を斬る。γが避けたり防御したわけでも、まして山本が距離感を見誤ったわけでもない。優が風を使って勝手に下がらせたのだ。自分の意思ではないことで、驚きもしたものの、山本の体格に隠れるように移動していた優が前に飛び出たことにより、すぐに何が起きたのかを理解した。
優が前に出たタイミングで、獄寺が先程と同じように炎を消し去ろうとする。優が警戒した相手ということもあり、もう特性はバレているとわかっていた。そのため獄寺は同時にダイナマイトも投げていた。このまま優と対峙できるように、逃げ道をふさいだのだ。風を操れる優ならば、獄寺の攻撃は当たらない。信頼しての攻撃だ。
投げた刀は風で回収したようで、しっかりと優の手に握られていて、山本と違って炎を纏っていた。
「いいのか、放っておいて」
ポツリと呟いたγの声に、優は目を見開いた。いつの間にか、山本達の周りにビリヤードの球がある。
カコンという音と共に、球同士が弾き始める。山本に隠れて移動していたが、風でしっかりと様子を探っていた。γがビリヤードの球を打ったのはラルの攻撃を防いだ時しかなかった。
つまり、1度打っていたことを意味する。
優はこの技に心当たりがある。原作の10年後の雲雀でさえ、全て避け切れなかった技だ。一つ一つが離れていることもあり、原作の技よりも圧倒的に難易度は低い。ラルならば、対処できるであろう。だが、この時代に来たばかりの獄寺と山本には対処は不可能なレベルだ。
たとえ優であっても、離れている2人を同時に助けることは容易ではない。属性の性質、リングのランクのことを考えれば、ラルは自分の身を守ることで精一杯である。
ここで下がってしまえば、γに逃げ道が出来る。それだけではなく、優へと向かってくるだろう。だが、下がれば、後ろにいる山本を力任せに放り投げて、この危険地帯から抜け出せることは出来る。そして、風を使えば獄寺も抜け出すことが出来る。
自分の身と獄寺と山本の身。2つを天秤にかけた優の決断は早かった。
「あばよ。楽しかったぜ」
γの一撃が優に迫る。
少しでも、と。優は山本を放り投げてすぐにリングの炎で自身の身を守る。僅かな時間で防御に回ることが出来る身体能力の高さにγは思う。自分の判断が正しかった、と。
獄寺の武器の性能を知りながらも、あえて残していた充電用の炎をこのタイミングにつかって……。
迫る炎の大きさに、優は死ななかったとしても戦闘不能になると悟った。
(ごめん……)
優の目が閉じかけた時に、それはやってきた。
“……ハリ、ネズミ”
目の前の光景に魅入られそうになったが、長くは持たないと気付き、その場から離れた。
「キュウゥ……」
優が離れた途端、力負けしたハリネズミが弾き飛ばされて弱った声をあげる。
「ねぇ」
次に聞こえてきた声に、思わずハリネズミに手を伸ばそうとした優の動きが止まる。
「誰の許可を得て、僕の獲物に手を出してるの?」
優だけではなく、声の主を知る獄寺と山本もピタリと思いが一致した瞬間だった。
……これは、やばい。
私が書ける精一杯の戦闘描写でした。