【改稿版】リボーンの世界に呼ばれてしまいました 作:ちびっこ
修行をはじめてから3日たち、優は雲雀に「もういいよね」と声をかけられた。
「何がですか?」
「いつまで向こうに行くつもり?」
よくわからない優はジッと雲雀を見つめる。
「優の実力ならスケボーはもう使いこなしてるはずだよ」
雲雀の協力もあり、3日間のほとんどの時間を修行にあて、類なる才能を持っている優が本気を出したのだ。コツさえわかってしまえば、すぐに修行は軌道に乗り、雲雀の推測通りスケボーは乗りこなせている。素直に優は頷いた。
「修行が終わったんだ。もう行く必要ないよね?」
「え?」
ツナ達の元へ向かうのが当たり前のような反応する優を見て、雲雀の機嫌が悪くなっていく。体格が大きくなったため、その迫力も増していた。僅かに怯えた反応をした優を見て、怒りを沈めるかのように深く息を吐き、雲雀は口を開いた。
「向こうに行かず、僕の手伝いをしてほしい」
「そ、そうですよね。すみません、甘えっぱなしで……」
「それは違う。僕が優を甘やかしたくてしていたんだ」
本当は迷惑じゃなかったのか、それとも言葉通り受け取っていいのか、判断できなかった優はとりあえず微笑んだ。それを見た雲雀はそっと頬に手をあて、視線を合わせる。
「僕のこと、信用できない?」
優は必死に首を横に振る。恐怖からではなく、恥ずかしさからきた必死な姿に満足した雲雀は手を離した。
「あの、でも私は何をすれば……」
誤解していたのはわかったが、今の優では手伝おうと思っても何をすればわからない。結局足手まといにしかならないのではないかと優は思ったのだ。
「優の手料理を食べたい。後は掃除とか、かな」
「はい! 頑張ります!」
家事全般なら物の配置がわからないだけで、やることは過去の時代でもしていたことだ。これならすぐに雲雀の力になれると優は気合を入れる。
「でも……修行はまだ終わってないので、向こうへは通いたいです」
「……どういうこと」
先程の不機嫌とはまた違う重い空気に優は困惑しながらも、恐る恐る説明した。雲雀は優のトレーニングルームの構造を知っていたので話が通じ、説明はすぐに終わった。が、雲雀が発した言葉は優が想像していた内容ではなかった。
「やらなくていい」
「えっ? でもお師匠様からの課題なんですけど……」
「優には必要のないことだ」
雲雀の態度は頑なで、キョロキョロと優の視線が泳ぐ。雲雀にダメだと言われても神からの課題はこなさなければならない。だが、雲雀の様子からして説得出来そうにない。
「それはこの時代の優も出来ないことだよ」
「そうなのですか?」
「だからしなくいいよ」
ここまで言っても、未だ判断に迷ってそうな優を見て、雲雀は僅かに眉間を寄せる。雲雀の知る限り、優が師匠と呼ぶ人物は優には無害だった。だが、今回だけは優のためを思っての内容とは思えない。感情を抑えさせるような修行なのだから。
雲雀が修行に専念させたのは、さっさと終わらせて自分の側に居させようとしただけだ。決してそんな修行をさせるためではない。
縛り付けてでも行かせないようにしようかな、と雲雀が物騒なことを思い始めている頃、優は神と会話をしていた。
『急ぐ必要はないぞ』
(そうなの?)
『未来に居る間にクリアする可能性が見えていれば上出来っていうレベルだからな』
(……やっぱり難易度高かったんだ)
『ああ。それに急いだところで出来る課題でもないしな』
それもそうだと優は納得する。優が焦れば焦るほどあの地面は動くだろう。神との会話を終えた優は雲雀の顔をジッと見た後、口を開いた。
「雲雀先輩の言うとおりにします」
ニコリと微笑む優。だが、今までの経験上、それでは安心出来ない。そのため雲雀は再びこの言葉を使った。
「あっちには行かない?」
「えーっと、せめてツナ君達にしばらく顔を出さないと伝えに行くぐらいは……」
「それはいいよ」
雲雀の許可を得れて優はホッと息を吐く。流石にいきなり行かなくなるとツナ達が心配するだろう。修行にいっぱいいっぱいであろうツナ達にこれ以上余計な心労は与えたくはない。
「じゃ、ちょっと行ってきますね」
軽い足取りで向かった優を見て、上手く防ぐことが出来たと思った雲雀。だが、残念なことに修行を後回しにしただけで全く解決はしていなかった。
この時間なら朝食を食べているだろうと判断した優は、真っ直ぐ食堂に向かう。そして予想通りツナ達は食堂に居た。
顔を出せば、おはようと声をかかるので優はいつものように返事をかえす。もう京子達は怪しい服装をしたヴェントを見ても驚かない。慣れたのだろう。
「今日は早いね」
“しばらく顔を出さないからそれを伝えにきたんだ”
「え!? 何かあったの!?」
心配し始めたツナに優は否定するように軽く手を振る。
“雲雀恭弥の手伝いだ”
「あいつ、何やってんだよ。全然こっちに顔を出さねーし」
守護者の自覚が……と小さな声で呟き、獄寺がイライラし始めたので、優は溜息を吐きながら教えた。
“彼は本当に忙しいんだ。彼はこっちのアジトの面倒も見ているんだぞ?”
「ヒバリさんが!?」
“考えればわかるだろ。日本支部はこの時代の僕達でまわしていたんだ。それが抜けてみろ、今地上で起きてる問題以外にも支障をきたしていたはずだ。それをカバーできるのは入れ替わってない彼以外誰が居るんだ”
「へ、へぇ。ちょっとはやるじゃねぇか」
“まぁ君達というよりも、彼がしないと並盛の風紀がこれ以上悪くなるからだけどな”
「そっちかよ!?」
「ハハ。やっぱ、ヒバリはそうだよな」
フォローしたようでしていないような優の微妙な教えによって、辛うじて雲雀が顔を出さないことを責められることは防いだ。
“まぁ本部があるイタリアにはちょうど笹川了平が居るし、僕達が幼くなったことは同盟のディーノも知っている。そろそろ落ち着く頃合いだろう”
もっとも落ち着くの意味の中には、被害状況がわかり始めるからというのも含まれているが。流石にそれは京子達が居る前では言えない。優が言葉を選び、会社の話と勘違いするように話しているのだから。
“本部との兼ね合いは笹川了平に、日本のことは雲雀恭弥に任せて、君達はやるべことに専念すればいい。そして僕は最低限のラインは超えたから、雲雀恭弥のフォローに入ると言いに来たってことだ”
「アレはいいのか?」
アレというのは最終課題のことだろう。優は軽く頷いた。
“雲雀恭弥の話では、この時代の僕でも出来なかったことらしい。だから焦る必要はないと判断した”
リボーンは雲雀も自身と同じような考えに至り、優に止めさせようとしているのだろうと察した。もっとも、雲雀が優を側に置いておきたいという欲求も含まれているだろうが。
“そういうわけだから、心配する必要ないから。じゃぁな”
ヒラヒラと手を振り、去ろうとしたところで「待って!」と呼び止められる。声の主に優は僅かに動揺したが、誰にも悟られずにすんだ。ゆっくりと振り返った優は相手の目を見て口を開く。
“なんだ?”
「あんた、雲雀恭弥と親しいのなら、優……風早優のことも知ってるわよね?」
黒川の言葉にツナ達はハッとする。ツナ達の動揺を他所に、優は平然と頷いた。声をかけられた時点で内容は予想できていたからだ。
「何度も連絡しているけど、返事がないのよ……。あの子もこの時代に来ているはずよ。優は今どこに居るの!? あの子は本当に無事なの!?」
黒川はこの時代の自身が使っていたケイタイを持っている。当然、その中に優の連絡先が入っていた。さらに京子達は10年バズーカに飛ばされる直前まで、消えた優を探していたのだ。同じようにこの時代に飛ばされたと予想が出来る。
“彼女は無事だ”
「だったら、どうして連絡がとれないのよ!」
「花、落ち着いて。ヴェント君、優ちゃんと話をしたいの。お願い」
「ハルからもお願いします!」
京子のためにヴェントは了平の居場所を探し連絡を取った。子ども達のためにお菓子の用意を雲雀に頼んだ。それらの行動から、京子達は怪しい格好をしているがヴェントはいい人と認識している。今回も頼めば、何とかしてくれるという気持ちがあったのだろう。だが、返事は無情である。
“断る”
3人の顔色は悪い。ヴェントが面倒と思って断ったという考えは浮かんでいないのだろう。そのため優に何かあったと思ったのだろう。
「ヴェント!」
たとえツナの頼みでも出来ない。優は首を振った。確かに雲雀のアジトから電話をして声を聞かせれば京子達を安心させることは簡単だ。しかしそれは出来なかった。
「どうして、なの……?」
潤んだ目をしながらも質問する京子の姿を見て、優はフードの上から頭をかきながら答えた。
“……彼女が、風早優がしたくないと望んでいる。事実、君達との連絡を彼女は絶っている”
ツナ達から視線を感じ、優は目を閉じた。軽く息を吐き、目を開けたときにはヴェントだった。
“彼女は君達より何倍も状況が悪い。ちょうどいいじゃないか、今のうちに縁を切ってたほうが君達のためになると僕は思うぞ”
まるで他人事のように提案する姿にツナ達は息を呑む。
「なにふざけたこと言ってるのよ!」
黒川の手が空を切る。頬を引っ叩くつもりだったようだが、素人の攻撃がヴェントに当たるわけがない。……風早優の時ならば、甘んじて受け止めていただろうが。
“気を悪くしたなら謝る。だが、恐らく彼女はそれを視野に入れている”
「あんたねぇ!!」
「花!!」
「花ちゃん!」
再びヴェントに突っかかろうとした黒川を京子とハルが抱きとめる。
「ヴェ、ヴェントもさ。ちょっと落ち着こうよ、ね?」
“言っておくが、君達にも通ずる選択だぞ”
「バカなこと言ってんじゃねぇ!!」
“感情でどうにかなる話ではないんだ。彼女の平穏な時間はいつ終わるかわからない。君はよくわかっているだろ”
グッと言葉に詰まる獄寺。真っ先にケンカを売った獄寺が黙ってしまうほどのことがおきていると、京子達は気付いた。
「優ちゃんに、何が起てるの……?」
「沢田達は知ってるのね? 教えなさいよ!」
「ツナさん!!」
マフィアのことさえ黙っているのだから、優のことをツナ達は話せるわけがなかった。
“彼女は爆弾だ。外で起きている問題の一端は彼女にもある。だから、この問題を解決して平和な過去の世界に戻っても彼女が居る限り、似たようなことが起きる可能性がある。雲雀恭弥はそれを理解しながらも、彼女を自分の庇護下においた”
もっとも、雲雀の力で及ばないことも多くディーノの力を借りている現状である。さらに過去の世界から来る雲雀はこの状況を知らない。どのような判断を下すかは優にはわからない。……そう思っているのは優だけだが。
雲雀からすれば許容範囲でも、京子達からすれば寝耳に水だろう。言葉を失ってしまった京子達を見て、優は部屋から出て行った。
食堂からある程度離れたところで、優は声をかけた。
「アルコバレーノがマフィアに入ってる意味が今頃わかったよ」
「都合が良いからな」
「そうだねー」
優はクスクスと笑う。それほど都合が良いというリボーンの言葉は的を得ていた。
「……ごめんね、余計なこと言って」
「遅かれ早かれ起きたことだぞ」
「それでもだよ」
自分が居なければ……と優は思う。
「早まるんじゃねぇぞ」
「それはないから大丈夫だよ」
優は笑って否定した。こんな思いをするのは自分だけで十分だ。
「でもまぁちょっとだけ取り繕うのはきついかな」
「……わかったぞ」
足を止めたリボーンに優は感謝を込めて手を振った。リボーンと別れ、角を曲がった時には優の顔は泣きそうだった。