「水族館、ですか」
「そうなんだ! 最近オープンした所で、箒がさ、来週の日曜日に一緒に行かないかって」
流れるように出てきたクラスメートの名前に、セシリアは心の中でため息を付いた。
この殿方はいつもこうだ。何かにつけて箒、鈴、シャル、ラウラ。他の女性と自分をセットにしたがるものだから、中々二人きりになれない。
「……ねぇ、一夏さん?」
「なんだ?」
「箒さんは、その、人数については何か言ってませんでしたか?」
「いや、何も。だからさ、どうせ遊びに行くなら人数多いほうがいいかなって」
その善意は完璧に空回りしていますわ。と言いかけて、セシリアは口を噤んだ。ライバルのミスに、態々フォローしてやることもない。二人きりにして状況を大きく進展させるより、揃ってやいのやいのと馬鹿騒ぎしていた方が点数を稼げる。
「ええ、では私も、来週は空いておりますし」
一瞬で来週のスケジュールを組み立て直した後、セシリアは想い人に告げた。
「楽しみましょう、一緒に」
「おう! こうして遊べるのは学生の間だけだし、いっぱい楽しまないとな!」
軽い足取りで離れていく一夏。その背を暫く見た後振り返った、セシリアの顔は僅かに固く、重苦しい。
今の会話が、とてつもなく苛立たしかったのだ。やれ点数稼ぎだの、他人のミスに漬け込むだの。そういう卑怯な手段を使ってまで、一夏と一緒にいようとする自分が腹立たしかった。
第一、何とも迂遠な話ではないか。
セシリアは毎日、一夏を巡って他の女性と争っている。昼食の席を共にするのも、ISの授業でペアになるのも放課後の帰り道も。少し油断しているだけですぐに奪われてしまう。
それだけならまだいい。何の障害も無いよりやりがいがあるとも言える。
だが問題は、何度も何度も小競り合いを繰り返した所で、当の一夏が誰に対しても振り向いてくれないことだ。
(くだらない、時間の浪費ですわね。本当に)
恋の鞘当てをそう切り捨てたセシリアは、ならばどうすればいいかという答えも同時に持っていた。
簡単な事だ。オルコット家の財力と勢力を思う存分使えばいい。そうすれば、一夏をちょっとイギリスへ連れてきて、一ヶ月ほど共に過ごすことだって出来る。
篠ノ之箒はIS開発者の姉だが、だからといって一財産を有してはいない。凰鈴音は代表候補生だが、一般家庭の出。シャルロット・デュノアの苗字は油断ならないが、聞けば彼女は既に実家と半ば縁を切っているらしい。ラウラ・ボーデヴィッヒの特殊部隊も脅威だが、まさか国家の承認なしに部隊を動かすことは出来ないだろう。
(えぇ、そう。社会的な立場、躊躇い、迷い。それを捨てれば、私の勝ちですわ)
そう。何もかもを賭けて一夏を奪い合う純粋なパワーゲームに持ち込めば、セシリア・オルコットが五人の中で最も先んじている。
大げさかつ馬鹿馬鹿しい空想だが、好きならば、是が非にでも奪い取りたい。
それほどまでに、セシリアは一夏に入れ込んでいた。
だが、踏み込めない。後一歩、彼を自分のものにすることに、踏み込めない。
そうしてまた、一つの場所を五人で奪いあう、椅子取りゲームの始まりだ。
飽きもせずに繰り返されるそれが、一夏の心を動かせるだろうか。
(……でも、例え振り向いてもらえなくても、近くにいたい)
そんなはずがない、と分析しながら、懲りないセシリアは一夏の背中をこっそりと追いかけた。